クラシック・カートゥーン大好き!
Tom and Jerry

 

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 “トムとジェリー”と言って誰もが思い浮かべるのはネコとネズミのコンビ、ウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラの生み出したMGMの人気アニメ・シリーズのことだろう。しかし、それに先立つこと約9年ほど前、全く別の“トムとジェリー”が存在した。それが、1931年から33年にかけて製作されたヴァン・ビューレン・スタジオの“トムとジェリー”シリーズである。
 こちらの“トムとジェリー”は動物ではなくて人間。のっぽのトムとチビのジェリーという凸凹コンビだ。生みの親は、ニューヨーク在住の漫画家ジョージ・ストーリングスとジョージ・ラフル。以前“Cubby Bear”のコーナーでも解説したが、1929年に看板アニメーターのポール・テリーが去ってしまったヴァン・ビューレン・スタジオでは、残されたアニメーターのジョン・フォスターを製作責任者にして新たなスタートを切ったばかりだった。
 フォスターが一番最初に考えついたキャラクターはネズミのコンビ。だが、これはディズニーのミッキー・マウスに酷似していため、あえなく却下されてしまう。結局彼は、イソップ・フェーブルズ・スタジオ時代の短編に登場した“ネコのワッフルと犬のドン”というキャラクターを基に新たなシリーズを製作。しかし、これまたミッキー・マウスのパクリ的なイメージは否めず、1930年に5本の短編が作られたものの、すぐに製作が中止されてしまった。
 当時のアニメ界はディズニーとフライシャー兄弟の天下。ヴァン・ビューレン・スタジオのような弱小会社にとって、看板を背負って立つ人気キャラクターの存在は必要不可欠だ。社長ヴァン・ビューレンのフォスターに対するプレッシャーも相当なものだったらしい。そんな折、当時まだ入社したばかりだったストーリングスとラフルの二人によって考案されたのが、このとぼけた凹凸コンビ、トムとジェリーだったわけである。

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“Swiss Trick”(1931)より

 ヴァン・ビューレン版“トムとジェリー”シリーズの魅力は、なんといってもフライシャー・スタジオ作品を彷彿とさせるシュールでビザールな表現スタイルに尽きるだろう。今の言葉で言うならば“キモカワイイ”といったところだろうか。あまりにも自由奔放すぎて、時には理解不能なまでに気持ち悪い。もちろん、この場合の“気持ち悪い”はあくまでも褒め言葉だ。
 動物や植物ばかりでなく、家具や食器、食べ物までもが当たり前のように喋ったり歌ったり踊ったりする。縦横無尽に伸び縮みしたり、合体したり分裂したり。地球上のあらゆる法則を無視したキャラクター動作は、可愛らしさが求められる子供向けアニメーションにあるまじき不気味さだ。楽しそうに歌っていたトムとジェリーの口だけが合体結合するシーンなんて、一歩間違えたら『遊星からの物体X』。恐らく、今の子供たちが見たらドン引きしてしまうに違いない。
 それに輪をかけて、ストーリーやギャグも不条理かつ意味不明。シリーズ5作目の“Swiss Trick”(31)では、山登りをしていたトムとジェリーが羊に山頂から突き落とされ、迷い込んだ山小屋で歌とダンスに興じ、腹が減ったのでチーズをつまみ食いする。すると、彼らの体中にチーズのような穴が出来てしまい、腹をすかせたネズミの群に追いかけられる。その姿を見た人々が大笑いしてエンド・マーク。なんだかよく分らないけど、妙にクセになる面白さだ。
 さらにセクシュアルな表現においても、本シリーズは子供向けと思えないくらいに刺激的。巨乳や脚線美を強調するような女性キャラクターの造形はもとより、パンティ丸出しで一心不乱に踊るセクシーなダンサーが出てきたり、全裸の巨漢女がパンティやブラ、ガーターベルトを着けていくという逆ストリップ・シーンがあったり。当時の映画界はまだ倫理コードが施行される以前だったわけだが、それにしても大胆な性描写が目立つシリーズだったと言えよう。
 その一方で、主人公のトムとジェリーのキャラクターに関しては、その身体的特徴以外に目立ってユニークな個性というものは見られない。逆に言うと、主人公たちが平坦で没個性なキャラクターであるからこそ、ストーリーやギャグの不条理な面白さが際立つのかもしれない。

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“The Rocketeers”(1932)より

 1931年の“Wot a Night!”を皮切りに、約2年間で合計26本の短編が作られた“トムとジェリー”シリーズ。実は、ご近所さんだったフライシャー・スタジオのスタッフが製作に協力していたらしい。シュールな表現スタイルや不条理なギャグなどは、やはりフライシャー・スタジオからの影響だったのであろう。
 その人気を受けて、社長のヴァン・ビューレンは33年にフォスターを解雇。代わりに、ストーリングスを製作責任者のポジションに据えた。“トムとジェリー”シリーズの監督も、ストーリングスとラフルの二人が担当。だが、その途端にシリーズの完成度も人気も急下降し、あっという間に製作がストップされてしまった。
 以降もヴァン・ビューレン・スタジオは様々な試行錯誤を重ねるも、36年に配給元のRKOがディズニーと組んだことからスタジオは閉鎖され、37年に社長のヴァン・ビューレンが亡くなったことで会社は事実上消滅してしまった。
 その後、“Cubby Bear”や“Rainbow Parade”などと共に売却されてしまった“トムとジェリー”シリーズ。より知名度の高いMGM版との混同を避けるため、“ディックとラリー”など全く別のキャラクター名が付けられてきた。
 ちなみに、そのMGM版トムとジェリーの生みの親であるジョセフ・バーベラだが、実はこちらのヴァン・ビューレン版トムとジェリーにもアニメーター兼脚本家として関わっていた。当時のバーベラはまだ駆け出しの若者で、なんとこれが彼にとって最初の仕事だったらしい。そういった意味では、こちらのトムとジェリーはMGM版のご先祖様と言えなくもないだろう。
 ただ、このヴァン・ビューレン版以前にも、どうやら“トムとジェリー”という名前のアニメ・シリーズが存在したらしい。製作したのはサイレント時代のアニメ・スタジオ、アロウ・フィルムズ。映像自体が現存していないためにどのような作品だったのかは全く分らないが、残された資料によると人間とロバのコンビだったそうだ。果たして、トムとジェリーという名前の組み合わせは、それほどまでに語呂がいいのだろうか・・・(笑)?

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“Piano Tooner”(1932)より

 

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(P)2005 Digiview Productions (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★☆☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/ステレオ/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/65分/製作:アメリカ

特典映像
なし
 映像そのものがパブリック・ドメイン化しているため、過去に様々なメーカーからリリースされてきた“トムとジェリー”シリーズ。ただ、その殆んどが廃盤になっているため、これが現在入手可能な唯一のソフトとなっております。収録されているのは全26作品中たったの7本のみ。それでも、代表作と誉れ高い“Piano Tooner”や“Swiss Tric
k”などはちゃんと入っています。

 

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