ティナ・チャールズ Tina Charles
ディスコ・アーティスト列伝<13>
70年代のUKを代表するディスコ・ナンバー“I Love
To Love”と“Dance Little Lady
Dance”の世界的な大ヒットで知られる女性シンガー。日本でも資生堂のCMソングとして使われた『OH!クッキー・フェイス』が有名だろう。そう、あの夏目雅子が出ていたヤツである。
まず、彼女の成功はプロデューサー兼ソングライターだったビドゥの存在を抜きには語れない。ビドゥはインド系イギリス人のミュージシャンで、74年にカール・ダグラスのディスコ・ヒット“Kung
Fu
Fighting(燃えよカンフー)”の作曲・プロデュースを手掛けて有名になった人物。自らもビドゥ・オーケストラを率いて、『おもいでの夏のテーマ』など数多くのインストゥルメンタル・ディスコ・ナンバーをヒットさせ、後に『ザ・スタッド』(78年)などの映画スコアも手掛けるようになった。
ビドゥの作り出す楽曲の特徴は、キャッチーで美しいメロディ・ラインとファンキーでソウルフルなサウンド。要は、白人音楽的なメロディと黒人音楽的なリズムを見事に融合させ、ポップスとしてもディスコとしても非常に完成度の高いナンバーを次々と生み出したのである。
『サタデー・ナイト・フィーバー』以前のミュージック・シーンにおいて、このビドゥの卓越した音楽センスというのは、白人であるティナ・チャールズがディスコという黒人音楽で成功するための重要な鍵だったと言えるだろう。
もちろん、ティナのボーカリストとしての実力も十分に評価すべきものがある。そのパワフルでソウルフルな歌声は、ちょっと聴いただけでは白人と思えないほどの迫力だ。ブルー・アイド・ソウル系の白人シンガーというのは、基本的にハスキーな低音で黒人ぽさを出す人が圧倒的に多い。しかし、彼女の場合は突き抜けるようなハイトーン・ボイスで、見事に黒人顔負けの歌声を聴かせてくれる。特に、高音の伸びの良さと圧倒的なテンションの高さは折り紙つきだ。
当時のディスコ・シンガーの常として、決して人気が長続きしたわけではないが、現在でもコンスタントに新作を発表しているのは立派だろう。ただ、80年代に大病を患ったことから、かつてのような声量は失われてしまった。さらに、年齢による喉の衰えもあって、今ではかつてのようなハイ・トーン・ボイスを聴くことができないのは残念である。
1954年3月10日、ティナはロンドンのホワイトチャペル地区に生まれた(ほかにも諸説あり)。音楽学校在学中に知人からCBSレコード関係者に紹介され、69年にシングル“Good
To Be
Alive”でソロ・デビュー。バック・ボーカルには当時無名だったエルトン・ジョンが参加していた。
しかし、このシングルは全く売れず、その後ティナはナイト・クラブのステージを経て、セッション・シンガーとして数多くの仕事をこなしていくことになる。当時の仲間には、後にシンガー・ソングライターとして成功する黒人歌手リンダ・ルイスもいた。
そんな彼女がビドゥと出会ったのは1975年。当時ビドゥは“Kung
Fu Fighting”を大ヒットさせたばかりだったこともあり、かつてティナも在籍した大手レーベルCBSがシングル“You Set My Heart On
Fire”のディストリビュート権を獲得した。ただ、周囲の期待とは裏腹に、イギリスではチャート・インすることすら出来なかったようだ。
ところが、思わぬ形でティナはスターへの階段を上ることになる。まず、“You
Set My Heart On
Fire”がアメリカで輸入盤として大きな反響を呼び、全米リリースが実現した。しかも、ビルボードのディスコ・チャートでトップ10に入るヒットを記録してしまう。
さらに、ビドゥと出会う前にレコーディングしていたシングル“I'm
On Fire”が全英チャート4位の大ヒットに。ただし、この曲は彼女のソロではなく、5000 Voltsというロック・バンドの作品だった。というのも、5000
Voltsはルアン・ピータースというモデル出身の女優をリード・シンガーに据えていたのだが、彼女は歌手としては素人も同然だったらしい。つまり、ただのお飾りだったわけである。そこで、代わりに歌を吹き込んだのがティナだった。もちろん、この事実は当時一般的に知られているわけではなかったのだけれど。
その翌年、ティナはシングル“I
Love To
Love”をリリース。ポップで乙女チックなメロディと軽やかなリズム、そしてティナのパワフルなハイトーン・ボイスが魅力のキャッチーな作品で、UKチャートで見事ナンバー・ワンを獲得。アメリカでもディスコ・チャート2位をマークし、フランスや西ドイツなど世界各国でトップ10入りを果たした。
ここから、ティナの快進撃が始まる。続くシングル“Love
Me Like A Lover”は全英31位と奮わなかったが、その次の“Dance Lady
Dance”は全英6位をマークし、アメリカのディスコ・チャートでもヒットした。さらに、ジャクソン5を意識したポップなR&Bナンバー“Dr.
Love”が全英4位の大ヒットを記録。まさに1976年は彼女にとって最高潮の一年だったわけだ。
ただ、その後は徐々に人気も下降線を辿り、チャート・ヒットも少なくなっていく。それでも、ヨーロッパ各国では根強い人気があったようだ。また、日本でも彼女のレコードは好評を博し、77年には先述したCMソング『OH!クッキー・フェイス』を日本のみで発売。78年にはヤマハ世界歌謡祭に出場するため来日を果たしている。
そして、80年代に入るとレコーディング契約そのものが打ち切られてしまった。さらに、彼女は髄膜炎を発症して闘病生活を余儀なくされる。86年には当時発足したばかりのDMCレコードが、第一弾シングルとして“I
Love To
Love”のリミックス・バージョンをリリース。これが全英67位をマークし、ヨーロッパ各国でのトータル・セールスが60万枚という小ヒットとなった。
これをきっかけに、ティナは歌手としての活動を本格的に再開。インディペンデント系のレーベルを渡り歩き、過去のヒット曲のリメイクを中心に新譜をリリースしている。また、“I
Love To
Love”のリミックスをきっかけに親しくなったDJのサニー・Xと共にクラブ・イベントでもライブを行い、ディスコ系の懐メロコンサートでも引っ張りだこだ。
2006年にはプロモ・オンリーでリリースしたシングル“Higher”がビルボードのダンス・チャートで最高5位をマークしている。また、昨年は後輩のディスコ・クィーン、ケリー・マリーとのデュエット・シングルも何枚かリリース。ただ、いずれもビドゥと組んだ往年のヒット曲と比べると、正直なところパッとしない出来栄えなのだが。
Tina Charles Best
Hits I Love To Love I Love To Love Dance Little Lady
Dance
(P)1993 Teichiku Records
(JP)
(P)1995 Mastertone Multimedia
(UK)
(P)1994 Unidisc Music
(Canada)
(P)1991 ZYX Music
(Germany)
1,Dance Little Lady Dance ビデオ
2,Disco
Fever
3,You Set My Heart On Fire ビデオ
4,Dr. Love ビデオ
5,I Love To
Love ビデオ
6,Disco
Love
7,Love Rock
8,Hold Me
9,I'll Go Where The Music Takes Me ビデオ
10,Rendezous
11,Halfway
To Paradise
12,Take All Of Me1,I Love To Love
2,You Set My
Heart On Fire
3,Disco Fever
4,Love Me Like A Lover
5,Disco
Love
6,It's Time For A Change Of Heart
7,Dr.Love
8,Fallin' In
Love With A Boy Like You
9,Dance Little Lady Dance
10,Amazing
Grace
11,Halfway To Paradise
12,Medley : Love Bug/Sweets For My
Sweets
13,I'll Go Where The Music Takes Me
14,When You Got
Love
15,Take All Of Me
16,Boogiethon1,I Love To Love (Love In London 12"
Mix) 5:16
2,You Set My Heart On Fire (Inferno 12" Mix) 6:48
3,Dance
Little Lady Dance
(Nothern Lights 12" Mix) 5:40
4,I'll Go
Where The Music Takes Me 5:28
5,Love Bug 3:42
6,World Of Emotions
3:40
7,This Is The Moment 3:37
8,Foundation Of Love 4:03 ビデオ
9,Change Of
Heart
10,Dr. Love
11,Dance Little Lady Dance
(Weekend 12"
Mix) 5:01
12,You Set Me Heart On Fire
(Inferno Radio Mix)
4:36
13,I Love To Love (Deep Love 12" Mix) 5:05
14,Tina's Medley
5:00
produced by Biddu1,Dance Little Lady Dance
3:08
2,I Love To Love 3:04
3,I Love To Dance '91 (Remix)
6:20
produced by Biddu
except #3 produced by Sanny
X.
日本で唯一発売されたティナのベスト盤CDです。来日時にインタビューもしたことがあるという吉岡正晴さんのライナー・ノーツがとにかく素晴らしい!もちろん、内容も素晴らしいですよ。曲数こそ少なめではあるものの、重要な代表作は一通り収められています。ただ、著作権の関係で『OH!クッキー・フェイス
』が収録されなかったのは残念ですけど。大ヒットした#1や#4、#5も大好きですが、メロウ・ソウルの傑作#9やアフター・アワーズにも最適な#3も最高。ユーロ・ディスコにありがちなB級感が全くないので、アメリカでも受けたのは十分に理解できますね。70年代の良質なディスコ・グルーヴを存分に堪能! こちらはイギリスで一番最初にリリースされたベスト盤CD。日本盤よりも収録曲が多いのは勿論のこと、#8と#14
、#16はここでしかCD化されていない貴重な音源です。スタンダード・ナンバーとして有名な#10は泥臭いリズム&ブルース風の仕上がりで、彼女の本格的なソウル・ミュージック志向を窺わせるところですね。また、ドライブ感のあるハードなファンク・ナンバー#16もかなりカッコいい出来栄え。ただし、この曲は基本的にインストもので、ティナはコーラス・パートに参加しているだけ。もしかしたら、もともとはビドゥ・オーケストラ用に制作された作品だったのかもしれませんね。 カナダのユニディスクが制作したリミックス・ベスト。当時のボーカル・トラックを使用したものと、新たに録り直ししたものとが混在しています。特筆すべきなのは、オリジナルを手掛けたビドゥがプロデュースを担当していること。なので、どのナンバーも原曲の魅力をきっちりと踏襲した上で、当時流行のクラブ・サウンドで蘇らせた、とても良質なリメイクに仕上がっています。ただし、#2と#12は録り直したボーカルを使用。明らかにボーカル・レンジが狭くなっており、かなり痛々しく感じられるのが複雑なところですね。声に往時の張りも感じられないし。また、#6と#8は93年にリリースされた新曲です。
ティナの2大ヒットをカップリングしたマキシ・シングル。目玉は91年リリースのリミックス・バージョン#3なわけですが、これは微妙な出来栄えです。グランドビート風に仕上げたバック・トラックは決して悪くないのですが、明らかに衰えてしまったティナのボーカルは聴くに忍びない。ちなみに、どちらの曲も実はオリジナルの12インチ・バージョンというのが存在します。当時アメリカでのみ発売されており、10年位前にマイアミのHot
Productionsからリリースされたオムニバス盤にも収録されていました。ただし、アナログ盤からのコピーらしく、音質は悪かったんですけどね。正規盤(?)でのCD化を望むとこです。
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I Love To Love Remix (1986) |
Dance Little Lady Dance '87 (1987) |
You Set Me Heart On Fire (Hot Mix) (1988) |
I Love To Love '91 (1991) |
(P)1986 DMC Records/Arista (UK) | (P)1987 Global Records (Germany) | (P)1988 Global Satellite (Germany) | (P)1991 Mighty Quinn (Italy) |
Side 1 1,I Love To Love (12" Teenage Mix) 5:56 Side 2 1,I Love To Love (7" Instrumental Version) 3:31 2,Biddu Orchestra Sunburn (12" Mix) 5:42 # produced by Biddu remixed by Sanny-X *except # remixed by Les Adams |
Side A 1,Dance Little Lady Dance (Remix) 5:08 Side B 1,I'll Go Where The Music Takes Me (Remix) 6:32 produced by Biddu remixed by Sanny-X |
Side A 1,You Set My Heart On Fire (Hot Mix) 6:26 Side B I Need You (Miami Mix) 6:07 produced by Sanny X |
this side 1,I Love To Love (Extended Version) 6:20 that side 1,I Love To Love (Radio Version) 3:47 2,A Kiss In The Hot Summernight 3:58 produced by Sanny-X |
ティナ復活のきっかけを作ったリミックス盤12インチ。ボーカル・トラックは全盛期のオリジナルを使用しています。リミックスのアレンジですが、これは上記ユニディスク盤のLove
In London 12"
Mi |
ジャケットはオバサンになったティナですが、中身はオリジナルのボーカルトラックを使用したリミックス・バージョン 。ビドゥ自身が再びプロデュースを手掛けているということで、原曲のファンも安心して聴くことの出来る良質な出来栄えです。ただし、B面は録り直し。それにしても、当時としてはディスコでプレイするのが難しかったんじゃないかな〜とは思いますよね。楽器が打ち込みになっただけで、音のスタイルとしては往年のディスコそのまんまですから。 |
ティナの本格的デビュー・ヒットをリメイクした12インチ。もともとはメロウ&グルーヴィーなディスコ・ナンバーだったわけですが、ここではマイアミ風フリースタイルに衣替え。まるでエクスポゼかカンパニーBかといった感じの仕上がりです。ボーカルは録り直しですが、この頃はまだそれなりに高音も出ていたんですね。ただし、一部加工してあるような気はしますが。これはこれで個人的には納得の1枚。悪くないです。ちなみに、B面は新曲。こちらはまさにフリースタイルそのものといった感じです。 |
上記のマキシ・シングルにも収録されていたリメイク・バージョン。バック・トラックはシスター・スレッジの“Thinking Of You”をグランドビート風にアレンジしたような仕上がりで、雰囲気は決して悪くないんですよ。ただ、上でも述べたように、張りも艶も失ったティナのボーカルが何とも言えず・・・。しかも、無理して高音を出そうと頑張っちゃってるがために、余計に痛々しく感じられるんですよね。ホント、残酷なもんです。 |
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I'll Go Where The Music Takes Me (Remix '93) (1993) |
Is It Love You're After (1998) |
I Love To Love 2000 (2000) |
I Love To Love 2004 (2004) |
(P)1993 Blue Velvet (Germany) | (P)1998 President Records (UK) | (P)2000 Academy Street (UK) | (P)2004) Dance Street (Germany) |
1,I'll Go Where The Music Takes
Me (Remix '93) 3:35 2,I Love To Love (Medley 93) 3:25 3,I Love To Love (Remix 93) 3:10 ビデオ produced by Biddu |
1,Is It Love You're After (Radio
Edit) 3:38 2,Is It Love You're After (Doctor Love Mix) 4:10 3,Is It Love You're After (Extended Vocal Mix) 4:59 4,Is It Love You're After (Over 18 Mix) 4:02 produced by Hazell Dean & Pete Ware. |
1,Radio Mix 2,12" Mix 3,Tina Latino Radio Mix 4,Tina Latino 12" Mix produced by Paul Tams & Nick C. |
1,I Love To Love 2004
3:46 2,Sweet Little Secret 3:08 3,Lalala (Vamos) 3:10 produced by Peter Columbus & Andreas Cremer |
こちらはオリジナルのボーカル・トラックを使用したリミックス・バージョン。なので、安心して聴くことが出来ます。プロデュースもビドゥだしね。いずれも、どうやらユニディスク盤に収録されていたリミックスのエディット・バージョンらしき様子。よって、ユニディスク盤を持っている人は必要ないかもしれませんね。あくまでも、マニアックなコレクター向けといったところ。 | 代表作のリミックスやリメイクばかりが続いたティナが久々にリリースした新曲。とはいっても、ローズ・ロイスのカバーなんですけどね。しかも、プロデュースはヘイゼル・ディーンとピート・ウェア。ということで、バリバリのハイエナジーに仕上がっています。ティナのボーカルもノリノリで、出来映えとしてはまずまずといった印象。ただ、どのミックスも尺が短いんですよね、なぜか。 | オールマイティ・レコードに続けとばかりに登場したものの、結局は短命に終わってしまったUKのハイエナジー専門レーベル、アカデミー・ストリートからリリースされたリメイク・バージョン。なんだか、ウィッグフィールドみたいな感じのユーロ・ハウスに仕上がっています。それ自体は悪くないのですが、ティナのボーカルがちょっと・・・(笑)あまりにも声が出てなくて、聴くに耐えません。 | スペイン出身の女性トリオ、ブルー・チップスとのデュエットによるリメイク。っていうか、オリジナル盤のティナのボーカルにブルー・チップスのコーラスを絡めただけ。バック・トラックはサンバ・ハウスといった感じで、全体的な出来としては十分に合格点です。ブルー・チップスによるカップリング曲#2がまたアンニュイでキュートなラテン・ポップスで、かなりお気に入り。お薦めです。 |