ティナ・B Tina B
フリースタイル史上初のディーバ

 

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 ボクが初めてフリースタイルというジャンルを知ったのが、このティナ・Bのシングル“Honey To A Bee”だった。もちろん、当時はフリースタイルなどという名称は存在しなかったし、ラテン・ヒップホップという言葉すら知らなかった。まだ高校1年生だったボクが、レコード屋さんの輸入盤コーナーでふと手にした12インチ・シングル。そのティナ・Bという名前が何故だかアンテナに引っかかった。しかもタイトルは“Honey To A Bee”。いかにもケバケバしいダンス・ポップを匂わすような胡散臭さ。これは絶対に好みなハズ、という直感というか、動物本能みたいなものが働いて、迷わずレジに持っていったのを今でもハッキリと憶えている。
 自分の欲求を満たしてくれる音楽に飢えまくり、僅かな小遣いを手にレコードとのにらめっこを繰り返していた高校時代。1枚のレコードを買うこと自体がとてつもない真剣勝負だった。決心を固めるまで何度も同じレコード屋に通ったりしたもんだった。そのおかげでか、大量のレコードの山の中から自分好みの1枚を探し出す臭覚みたいなものが研ぎ澄まされていったように思う。ティナ・Bの“Honey To A Bee”は、まさにめぐり合うべくしてめぐり合ったレコードだったのだろう。ちょっと遅れてShannonの“Let The Music Play”ともめぐり合い、ボクは知らず知らずのうちにフリースタイルにのめりこんでいく事になる。

 というわけで、個人的にも思い出深いティナ・B。しかし、彼女に関する情報は実は非常に少なく、あのアーサー・ベイカーの奥様であるという事実以外はあまり知られていない。夫がプロデュースを手掛けたFreeezの“I.O.U.”やNaked Eyesの“In The Name Of Love”などでバック・コーラスを担当。また、同じくベイカーがプロデュースし、ピーター・ガブリエルやホール&オーツ、ジェームズ・ブラウン、アフリカ・バンバータら錚々たるアーティストが参加した反アパルトヘイトのチャリティー盤“Sun City”にも参加。映画「グーニーズ」の挿入歌として大ヒットしたGoon Squadの“Eight Arms To Hold You”のコーラスにも参加していた。
 そんな彼女が、夫アーサー・ベイカーと盟友ジョン・ロビーのプロデュースのもとでリリースしたソロ・デビュー・シングルが“Honey To A Bee”だった。セクシーなベビー・ボイスといかにもニューヨーク風のダンサンブルなサウンドから、当時注目されつつあったマドンナのフォロワー的に見られがちだったようだが、キャッチーでポップなラテン風のシンセ・リフやパーカッション、ヒップ・ホップに影響を受けた打ち込みなど、今聴くと明らかにフリースタイルの原型と言える。
 この“Honey To A Bee”がビルボードのダンス・チャートで12位に駆け上がり、同時リリースされたアルバム“Tina B”も好調なセールスを記録した。さらに、映画“Beat Street 2”のサントラにも収録された“Nothing's Gonna Come Easy”もダンス・チャートで18位を記録。とはいえ、いずれもマイナー・ヒットの域を出るものではなく、今と違ってダンス・チャートがあまり重視されていなかった事もあり、残念ながらエレクトラ・レコードとの契約は切れてしまう。
 その後、夫ベイカーのプロジェクトでソングライター兼バック・ボーカリストとして活動を続けていたが、87年に夫の経営するクリミナル・レコードからシングル“January, February”をリリース。まさに王道とも言うべきニューヨーク系フリースタイルで、ダンス・チャートで16位を記録。続いて、当時まだアンダーグランドだったハウス・ミュージックの要素を盛り込んだ“Miracles Explode”を発表。ミックスにはラテン・ラスカルズ(トニー・モラン&アルバート・カブレラ)とジュニア・ヴァスケスを起用。当時、フリー・スタイル系の人気アーティストだったラテン・ラスカルズの起用は当然としても、90年代以降のクラブ・シーンを席巻することになるヴァスケスの起用は先見の明だったと言えるだろう。彼女にとっても唯一のダンス・チャート・トップ10入り(7位)を果たすヒットとなった。
 さらに、88年には後にC&Cファクトリーとして全米チャートを揺るがすことになるデヴィッド・コールを共同プロデューサーに迎え、ヴァスケスにミックスを担当させたシングル“Boduguard”をリリース。これが彼女にとって実質上最後のシングルとなってしまった。
 その後も、アーサー・ベイカーの良きパートナーとして彼のプロジェクトにソングライターやボーカリストとして参加しているティナ・B。現在では、よほどマニアックな音楽ファンでない限り名前も知らないような存在となってしまったが、こんな日本の片隅で今でも愛してやまないファンがいる事を知って欲しいものである・・・。

 

HONEY_TO_A_BEE_1.JPG FIRST_ALBUM.JPG HONEY_TO_A_BEE_2.JPG JANUARY_FEBRUARY.JPG

Honey To A Bee (1984)

Tina B (1984)

Honey To A Bee (1986)

January February (1987)

(P)1984 Elektra Records (USA) (P)1984 Elektra Records (USA) (P)1986 Vinylmania Records (USA) (P)1987 Criminal Records (USA)
A Side
1,Honey To A Bee (Vocal/Extended Version) 7:39
B Side
1,Honey To A Bee (Vocal/Edit Version) 3:53
2,Honey To A Bee (Dub Version) 7:19

produced by Arthur Baker & John Robie.
mixed by Arthur Baker & John Robie
Side 1
1,Honey To A Bee
2,Ooh Baby
3,Why Did You Do It
4,Gotta Make This Love Last
5,Queen Beat
Side 2
1,Nothing's Gonna Come Easy
2,Perception
3,Fool And His Money
4,I Always Wanted To Be Free

produced by Arthur Baker & John Robie
Side A
1,Honey To A Bee
  (Vocal/Extended Version) 7:39 ビデオ
Side B
1,Honey To A Bee (Eighty-Six Mix) 6:00 *
2,Honey To A Bee (Dub Version) 7:19

produced by Arthur Baker & John Robie
* mixed by The Latin Rascals
Side A
1,January February (Club Vocal) 6:52 ビデオ
2,January February (January Dub) 4:49
Side B
1,January February (February Dub) 7:40
2,January February (Beating Heart Apella) 5:12

produced by Andy Panda Tripoli & The Latin Rascals
mixed by The Latin Rascals
 フリースタイル草創期を代表する名曲。とにかくキャッチーで流れるようなシンセ・リフが大好きでした。フリースタイルがヒップ・ホップを起源としながらも、当初からあくまでも純粋なポップ・ミュージックだったたという事を証明する1曲でもあります。ワーナー系のエレクトラ・レコードからのリリースというのは、当時のニューヨークのダンス・シーンでは破格の待遇でした。その点については、当時ヒップ・ホップの鬼才として名を馳せていた夫アーサー・ベイカーのネーム・バリューのおかげだったのかもしれません。  ティナ・Bにとって唯一のソロ・アルバムであり、80年代中期のダンス・ポップの魅力を余すことなく伝える佳作です。バック・ボーカルにホール&オーツが参加している他、フレッド・ザーやゲイリー・ヘンリー、ロビー・キルゴア、オードリー・ウィーラーなどスタジオ・ミュージシャンの顔ぶれも豪華。シングル・カットされたSide 1の#1やSide 2の#1の他、当時の60'sサウンド・リバイバルを反映してか、60年代風のポップでキュートな作品が多いのも特徴。個人的には、いかにもアーサー・ベイカーらしいハードなラップ・ナンバー(Side 1の#5)もオススメです。  80年代後期のニューヨーク・ハウス・シーンを代表するレーベルとして人気を博したVinylmania。その発足当初にリリースされたのが、このリミックス盤。よりヒップ・ホップ色を強めたヘヴィーな打ち込みと派手なパーカッションが特徴で、原曲のイメージを保ちつつアップデートさせたThe Latin Rasocalsの手堅い職人技が光る1枚。オリジナル・バージョンよりも1分半以上短いものの、そんな事を全く感じさせないくらいお腹いっぱいになる、充実の仕上がりです。  夫アーサー・ベイカーが設立したインディペンデント・レーベル、Criminal Recordsよりリリースされたシングル。当時The Cover Girlsで注目されていたアンディ・パンダ・トリポリとラテン・ラスカルズのプロデュースによるニューヨーク系の王道フリースタイル。サウンド・エフェクトや打ち込みなんか、殆ど“Show Me”そのまんまですね。都会的な哀愁路線のキャッチーな作品ですが、肝心のサビのインパクトが弱く、個人的には及第点的な作品でした。アレンジ的にも、もう少し華が必要だったかもしれません。

MIRACLES_EXPLODE.JPG BODYGUARD.JPG THE_BEST_OF.JPG

Miracles Explode (1987)

Bodyguard (1988)

The Best of Tina B

(P)1987 Criminal Records (USA) (P)1988 Vendetta Records (USA) (P)1995 Hot Productions (USA)
Side A
1,Miracles Explode (Hip Hop Vocal) 7:30 *
2,Miracles Explode (Hip Hop Dub) 9:10 *
3,Miracles Explode (A.B.'s Radio Edit) 3:55
Side B
1,Miracles Explode (House Vocal) 8:05 + ビデオ
2,Miracles Explode (House Dub) 7:33 +

produced by Arthur Baker
* remixed by The Latin Rascals
+ remixed by Junior Vasquez
Side A
1,Boduguard (Club Mix) 7:26
2,Bodyguard (Dub) 5:58
Side B
1,Bodyguard (Vocal Hip Hop Mix) 6:06
2,Bodyguard (Hip Body Beats) 6:10
3,Bodyguard (Hip Hop 7") 3:52

produced by Arthur Baker & David Cole
mixed by Junior Vasquez & Arthur Baker
1,Honey To A Bee 7:43
2,January February 6:05
3,Miracles Explode 3:55
4,Something's Gotta Give 5:46
5,Bodyguard 3:48
6,Give It All For Love '87 4:43
7,Give It All For Love '90 4:38
8,Testimonial 5:18
9,Every Time I Look At You
10,Fools And Angels 4:16
11,How Can A Heart 4:50
12,Each Time You Go 4:04
13,Hang On Baby (Wild Wild World) 4:47
14,Count My Blessings 4:28
15,Don't Tell A Soul 4:20
16,Nothing's Gonna Come Easy 4:10
 注目すべきは、まだ駆け出しの頃のジュニア・ヴァスケスがリミックスを手掛けたB面。90年代後半のハード・ハウスにも通じるアンダーグラウンドでトライバルなサウンドと、ラテン&オリエンタル風のエキゾチックでキャッチーな味付けが見事で、ヴァスケス・ファン必聴の力作に仕上がっています。ラテン・ラスカルズのミックスもフリースタイルの王道という感じで悪くはないものの、残念ながらヴァスケスのミックスを聴いてしまうと霞んでしまいますね・・・。  これはC&Cミュージック・ファクトリーのサウンドの原型といっても過言ではないでしょう。C&Cの片割れであるデヴィッド・コールとアーサー・ベイカーが共同でプロデュースしているものの、ダイナミックな打ち込みといい、派手なアレンジといい、音的には殆ど“Gonna Make You Sweat”。特にB面のミックスは90年代の音を完全に先取りしており、むちゃくちゃカッコいいです。当時はダンス・チャートにも入りませんでしたが、時期が早すぎたのでしょう。80年代の隠れた傑作です。  これは微妙なベスト盤ですね。一応、シングル・ヒットは全て網羅しているものの、#3や#5はベストなバージョンとは言えないし、#16にしても出来れば12インチ・バージョンで収録して欲しかった。その他の作品に関して言えば、未発表のままお蔵入りしていた楽曲を、この際だからと詰め込んでしまったという感じで、お世辞にも出来が良いとは言えないものばかり。こんな中途半端な内容でリリースするのであれば、ファースト・アルバムをそのままCD化した方が良かったのでは・・・。

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