サスペンス&スリラー映画セレクション

 

マン・ハント
Man Hunt (1941)

日本では95年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2009 20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル・ステレオ/音声:英語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/102分/製作:アメリカ

映像特典
メキング・ドキュメンタリー
オリジナル劇場予告編
宣伝広告ギャラリー
アートワーク・ギャラリー
スチル・ギャラリー
P・マッギリガンの音声解説
フィルム修復比較
監督:フリッツ・ラング
製作:ケネス・マッゴーワン
原作:ジェフリー・ハウスホールド
脚本:ダドリー・ニコルズ
撮影:アーサー・ミラー
音楽:アルフレッド・ニューマン
出演:ウォルター・ピジョン
   ジョーン・ベネット
   ジョージ・サンダース
   ジョン・キャラダイン
   ロディ・マクドウォール
   ルドウィッグ・ストッセル
   ヘザー・サッチャー
   フレデリク・ウォーロック

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森へ狩りに出た英国人ソーンダイク(W・ピジョン)

その照準の先にはヒットラーが

親衛隊のキーヴ=スミス大佐(G・サンダース)に捕えられる

 ナチスへの協力を避けるために渡米したドイツの巨匠フリッツ・ラング監督が、ハリウッドで手掛けた反独プロパガンダ映画の傑作。ライフル名人のイギリス人男性ソーンダイクが、たまたまヒットラーに照準を向けてしまったことから暗殺未遂事件の容疑者としてゲシュタポから追われる身となる。
 命からがらロンドンへ帰り着いたものの、ナチのスパイはそこかしこに。素直で純情な娘ジェリーの協力を得て逃亡をはかろうとするが、次第に追いつめられていってしまう。もともとナチスに良い感情を持っていなかったソーンダイクだったが、逃亡の過程でその冷酷かつ残虐な本性を目の当たりにし、ますます彼らに対する憎しみと反感を強めていくのだ。
 オープニングからクライマックスまで息をつかせぬスリリングな展開。夜霧のロンドンで繰り広げられる逃亡劇の緊迫したサスペンス。どこに罠が仕掛けられている分からない絶体絶命の恐怖。単なる戦争プロパガンダに止まらない極上のエンターテインメント作品と言えよう。
 ジェフリー・ハウスホールドが39年に発表したスパイ小説の傑作『追われる男』を映画化した本作。当初はジョン・フォード監督が演出を手がける予定だったという。しかし、当時他のプロジェクトで忙しかったフォード監督がこの申し出を断ったことから、フリッツ・ラング監督に白羽の矢が立ったのである。
 母国ドイツでは並ぶ者なき巨匠として崇められていたラングだったが、渡米後は1から再出発せねばならなかった。ドイツ映画など見たことのないハリウッドのお偉方たちにとって、ラングは外国からやって来た無名の映画監督に等しかったのである。渡米1作目の『激怒』(36)やフィルム・ノワールの古典『暗黒街の弾痕』(37)といった良質の低予算映画で徐々に認められるようになった彼にとって、大ベストセラーの映画化という話題作を手掛けることはまたとないチャンスだったろう。
 さらに、彼にとって本作はナチスの恐ろしさを米国民に訴えるという意味においても重要な作品だった。当時のアメリカはまだ第2次世界大戦への参戦前。ヨーロッパの戦況に対する危機感はそれなりに高まっていたし、前年に公開されたチャップリンの『独裁者』(40)のヒットによってヒットラーやナチスに対する関心も低くはなかった。しかし、それでも平和な市民生活を享受するアメリカ国民にしてみれば、ナチスの本当の怖さというのはいまひとつ伝わってはいなかったようだ。
 実際、当時のハリウッドの検閲機関ヘイズ・オフィスのジョセフ・ブリーンは本作の脚本を読んで、“ドイツ人を残酷に描きすぎている”と厳重な注意を促している。そもそも、当時のアメリカには反共産主義を掲げるナチス・ドイツを肯定的に見る向きも多かった。要は、アメリカにとってヨーロッパにおける戦争は、まだまだ対岸の火事だったのであろう。
 自らがドイツにおけるナチスの台頭を目の当たりにし、ゲッベルスなどの幹部の素顔もよく知っていたラングにとって、本作はまさに格好の題材だったのである。そして、ラング自身がユダヤ人であったということも、ナチスの残虐性を糾弾する本作を手掛ける重要な動機となったに違いない。
 まるで迷路のようなロンドンの街を舞台に、主人公を執拗に追いつめていくナチスの刺客たち。ラングは彼らを誇大妄想に取りつかれた不気味で情け容赦のない絶対悪として描く一方、追われる側の喜怒哀楽溢れる人間ドラマを存分に盛り込むことにより、ナチス・ドイツの恐るべき非人間性を浮き彫りにしていく。
 中でも、主人公ソーンダイクと下町娘ジェリーの微笑ましくも哀しい恋愛ドラマは本作の白眉だ。ソーンダイクに想いを寄せながらも素直に口に出せず、安物の矢印型の帽子飾りを買ってもらって嬉しそうに微笑むジェリーの可愛らしさ。
 別れの接吻をしようというその瞬間に見回りの警官に邪魔をされ、なおかつこれから逃亡しようというソーンダイクの身を守るために立ちんぼ娼婦のふりをして警官の注意を逸らす。下賎な女として警官から粗末に扱われながらも、その後姿でソーンダイクに別れを告げる彼女の何ともいじらしいこと!
 扮するジョーン・ベネットの溌剌とした演技と美しさも相まって、ラング作品でも屈指のヒロインとして記憶に残る。それだけに、彼女を待ち構えている残酷な運命が見る者の胸を痛いほど締め付け、誰もが復讐に燃えるソーンダイクに強く共感することが出来るのだ。矢印型の帽子飾りが復讐の武器となり、クライマックスで戦地へ赴くソーンダイクのシンボルとなっていく象徴的な伏線の巧さも見逃せない。
 戦争プロパガンダ映画というのは、往々にしてその時代との結びつきの中でしか生き残ることが出来ないもの。しかし、本作はサスペンス・スリラーとしても、スパイ・アクションとしても、そしてメロドラマとしても、時代を超えて鑑賞に堪えうる第一級の娯楽映画に仕上がっている。

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奇跡的に脱出することに成功したソーンダイク

船乗りの少年ヴェイナー(R・マクドウォール)に救われる

ナチ諜報員ジョーンズ(J・キャラダイン)が乗船する

 物語はドイツの森を舞台に始まる。イギリス人の有名なハンター、アラン・ソーンダイク(ウォルター・ピジョン)は、森で狩をしていた。そこは偶然にもヒットラーの自宅近く。ライフルの望遠鏡でヒットラーの様子を眺めていた彼は、冗談半分で引き金を引く。もちろん、ライフルは空砲だ。
 改めて銃弾を込めたその時、彼はナチス親衛隊の兵士に発見されてしまう。格闘のはずみで銃弾が発砲され、ソーンダイクはナチスに捕まってしまった。親衛隊の指揮官キーヴ=スミス少佐(ジョージ・サンダース)は、彼がヒットラーを抹殺するために英国政府が送り込んだ暗殺者として追及する。
 ヒットラーやナチスに対する嫌悪感を隠さないソーンダイクだったが、暗殺未遂に関しては頑なに否定するのだった。キーヴ=スミス少佐自身も、彼の言葉に信憑性があることは分かっていた。しかし、それは重要なことではない。彼の目的はソーンダイクに英国政府の暗殺者であることを自白させ、事件を国際問題として利用することだった。何が何でも供述書にサインをさせるべく、少佐はソーンダイクに激しい拷問を加える。
 だが、想像以上にソーンダイクの意志は強かった。英国貴族の出身である彼を拷問にかけたとなれば、ドイツとしては国際な立場で分が悪い。当然のことながら、生きて帰すわけにはいかない。そこで、キーヴ=スミス少佐はソーンダイクを崖の上から突き落とし、事故に見せかけて始末することにする。そうすれば、拷問の傷跡だって言い訳がつくというものだ。
 ところが、崖から落ちる途中で引っかかった木の枝と下の泥が二重のクッションとなり、ソーンダイクは一命を取り留める。もうろうとする意識の中で親衛隊の追っ手から逃れた彼は、ロンドン行きの貨物船へと乗り込んだ。気を失った状態の彼を発見した少年船員ヴェイナー(ロディ・マクドウォール)は、彼が悪人ではないことを見抜いてかくまうことにする。
 船内を捜索するゲシュタポの目をかいくぐることに成功したソーンダイクとヴェイナー少年。ところが、ソーンダイクを見失ったと悟ったゲシュタポは、諜報員ジョーンズ(ジョン・キャラダイン)を乗船させてロンドンへと向かわせる。
 船長にソーンダイクを名乗ったジョーンズは、彼の写真の入ったパスポートを持っていた。いずれにせよソーンダイクはロンドンへ向かうはず。ジョーンズは現地に潜伏するスパイと合流し、パスポートの写真を見せてソーンダイクの行方を捜すつもりだったのだ。
 そうとは知らないソーンダイクはロンドンに到着するとヴェイナー少年に別れを告げ、意気揚々と港に降り立つ。だが、すぐにナチのスパイが自分を狙っていることに気付いた。夜のロンドンを幾人ものスパイに追い回され、次第に逃げ場を失っていくソーンダイク。とっさに逃げ込んだアパートに住む若い娘ジェリー(ジョーン・ベネット)のおかげで、当面の危機をまぬがれることが出来た。
 最初はソーンダイクのことを逃亡中の犯罪者かと警戒したジェリーだったが、その紳士的でチャーミングな物腰に心を許す。そればかりか、彼が何か重大な事件に巻き込まれたものと心配し、手持ちの全財産をタクシー代として差し出すのだった。
 ジェリーの付き添いで外交官の兄リスボロー卿(フレデリク・ウォーロック)のもとへ向かったソーンダイク。リスボロー卿によると、ドイツは外交筋を通じて英国政府にソーンダイクの引渡しを求めており、政治的な切り札として利用しようとしているという。
 さらに、彼の旧友だと称してリスボロー卿に接近してきたという男がキーヴ=スミス少佐だと悟ったソーンダイクは、兄とその家族に危害が及ばぬよう行方をくらますことにした。
 ひとまず、ジェリーのアパートで世話になることにしたソーンダイク。せめてものお礼にと大金を渡そうとするが、ジェリーはそれを頑なに断る。お金のために助けてあげたわけじゃない。ソーンダイクに想いを寄せているジェリーだったが、それを素直に伝えることができなかった。
 なかなか自分の気持ちに気付いてくれないソーンダイクに、ジェリーは帽子飾りをねだる。彼を助けた際にお気に入りの帽子飾りを失くしてしまったのだ。どれでも欲しいものを買ってあげるよという彼だったが、ジェリーは遠慮がちに一番安い矢印型の帽子飾りを選ぶのだった。嬉しそうに喜ぶ彼女の無邪気な笑顔を見て、ソーンダイクも次第に惹かれていく。
 だが、いつまでものんびりしている時間はなかった。管財人のもとで送金処理などの指示を終えたソーンダイクは、併せてジェリーの保護も頼んだ上で、行方をくらますことにする。だが、キーヴ=スミス少佐らは執拗に彼の後を追いかけてきた。なんとか地下鉄で彼らを撒いたと思ったソーンダイクだったが、ジョーンズに尾行されていた。逃げ込んだ地下鉄のトンネルでジョーンズと取っ組み合いになったソーンダイク。線路へ倒れこんだジョーンズは感電死してしまう。
 ジョーンズの懐にあったパスポートから、死体はソーンダイクのものとして報道された。改めてジェリーに別れを告げるソーンダイク。3週間後に指定の郵便局に手紙を出すよう彼女に指示し、ウォータールー橋の上で二人は別れた。ところが、哀しみを胸に自宅アパートへ戻ったジェリーを、キーヴ=スミスらナチの一味が待ち構えていた・・・。

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ロンドンにたどり着いたソーンダイクだったが・・・

執拗に追いかけるナチのスパイたち

ソーンダイクは見知らぬアパートの一室に逃げ込む

 ジョン・フォードが監督をする予定だったからだろうか、オスカーを受賞した『男の敵』(35)や『駅馬車』(39)などのフォード作品で知られる名脚本家ダドリー・ニコルズが脚色を手掛けている。彼はフィルム・ノワールの名作『緋色の街/スカーレット・ストリート』(45)でもラングとコンビを組んだ。
 撮影を担当したのも、オスカーを受賞した『わが谷は緑なりき』(41)や『タバコ・ロード』(41)などのジョン・フォード作品を手掛けたカメラマン、アーサー・ミラー。美術監督のリチャード・デイやセット装飾のトーマス・リトル、音楽のアルフレッド・ニューマンも、フォックスの専属としてフォード作品に何本も関わってきた職人スタッフである。
 また、編集にはサム・テイラー監督作品の常連としてメアリー・ピックフォードやハロルド・ロイドの主演作を数多く手掛けたアレン・マクニールが参加。一説によると、ラングがヘイズ・オフィスの指示に従わないのではないかと恐れた20世紀フォックスのダリル・F・ザナックは彼を編集ルームに立ち入らせないようにしたが、当時フォックスの編集マンだったジーン・フォウラー・ジュニアがラングの立会いのもと秘密裏に編集を行ったらしい。それが真実だとすれば、現存する完成版はマクニールの手によるものではないということになる。今となっては真偽の確かめようもないのだが。

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ソーンダイクを匿う下町娘ジェリー(J・ベネット)

地下鉄へ逃げたソーンダイクを尾行するジョーンズ

ジョーンズは線路で感電死する

 主人公ソーンダイクを演じているのは、ジョン・フォード監督の『わが谷は緑なりき』(41)の主演で知られる名優ウォルター・ピジョン。知的でダンディーな中年紳士が持ち味で、グリア・ガーソンとの名コンビで数多くの文芸映画や伝記映画に主演。『ミニヴァー夫人』(42)と『キュリー夫人』(43)では2年連続でアカデミー主演男優賞にノミネートされている。強靭な肉体と精神力を持ったタフガイでありながら、英国紳士的な気品とユーモアを兼ね備えたソーンダイク役にはうってつけで、まさしく当たり役と言えるだろう。
 だが、それ以上に本作でひときわ輝いているのが、ソーンダイクに想いを寄せる純情な下町娘ジェリー役を演じているジョーン・ベネットだ。姉のコンスタンス・ベネットと共にキュートな美人姉妹として売り出され、『若草物語』(33)のエイミー役で人気スターとなった女優だ。当時は大人のグラマー女優へイメチェンを図りつつも試行錯誤していた時期だったが、ジョージ・ラフトと共演した『入江の向うの家』(40)と本作の2本で女優として高い評価を得た。ラング監督とはこれをきっかけに意気投合して一緒に独立プロを立ち上げ、『飾窓の女』(44)と『緋色の街/スカーレット・ストリート』(45)では妖艶なファム・ファタールを演じている。また、ホラー映画ファンには『サスペリア』(77)の副校長役としてもお馴染みだろう。
 また、出番は少ないものの強く印象に残るのが、ソーンダイクを助ける船乗りの少年ヴェイナーを演じたロディ・マクドウォール。僕らの世代では『フライトナイト』(85)の気弱な中年バンパイア・キラー役で知られる俳優だが、子役の頃は本当に信じられないくらい可愛かった。本作の直後に出演した『わが谷は緑なりき』で脚光を浴び、たちまち売れっ子スターに。日本ではエリザベス・テイラーの出演作として知られる『家路』(43)も、実際には彼の主演作として作られている。後年はB級映画への出演が多かったものの、子役から大人の役者へ成長することの出来た数少ない人物の一人と言えよう。
 一方、悪役の顔ぶれも申し分ない。英国紳士のような立ち振る舞いを身につけた親衛隊の幹部キーヴ=スミスを演じているのは、『イヴの総て』(50)でアカデミー助演男優賞を獲得したイギリス人俳優ジョージ・サンダース。由緒正しい英国貴族の出身で、ユーモラスな紳士から冷酷な悪人まで幅広く演じることの出来る美しい役者だった。
 さらに、その手下としてソーンダイクを付け狙う諜報員ジョーンズ役には、『駅馬車』(39)などジョン・フォード作品には欠かせない名優だったジョン・キャラダイン。酒癖の悪さで身を持ち崩してしまった人だが、その強烈なマスクと存在感には観客を圧倒するものがあった。本作でも、異様な雰囲気を漂わせた登場シーンで観客の目を釘付けにする。やはり、映画は悪役が怖くないと面白くない。

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ソーンダイクの身を案じるジェリー

ウォータールー橋の上で別れる二人

ナチの一味がジェリーを待ち構えていた・・・!

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ロディ・マクドウォール

 

Across The Pacific (1942)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/96分
/製作:アメリカ

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー
ニュース映像ギャラリー
短編映画“Men of the Sky”
アニメ映画“The Draft Horse”
スタジオNGシーン集(1942年版)
監督:ジョン・ヒューストン
製作:ジェリー・ウォルド
   ジャック・セイパー
原作:ロバート・カーソン
脚本:リチャード・マコーレイ
撮影:アーサー・エディソン
音楽:アドルフ・ドイッチ
出演:ハンフリー・ボガート
   メアリー・アスター
   シドニー・グリーンストリート
   チャールズ・ハルトン
   ヴィクター・セン・ヤン
   ローランド・ゴット
   リー・タン・フー
   キー・ルーク

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軍法会議で除名処分にされたリーランド大尉(H・ボガート)

中国戦線に向かうことを決意して船を予約する

日本国籍の旅客船ジェノア丸

 『マン・ハント』が反独プロパガンダ映画であったのに対し、こちらは太平洋戦争の真っ只中に作られた反日プロパガンダ映画。前年にフィルム・ノワールの傑作『マルタの鷹』(41)で高い評価を得た巨匠ジョン・ヒューストン監督が、ほぼ同じスタッフと主演キャストを再集結させて撮ったスパイ・スリラーだ。
 舞台となるのは太平洋戦争直前のアメリカ。周囲からの信頼も厚かった歴戦の勇士リーランド大尉が、こともあろうか窃盗の容疑で軍法会議にかけられて有罪を言い渡されてしまう。屈辱的な汚名を着せられて軍隊を去らねばならなくなった彼は、居場所を求めて各地の軍隊を転々とする。
 中国行きを決意して日本国籍の船へ乗り込むリーランド。そんな彼に、日本軍のスパイの一味が接近する。祖国に裏切られた彼の心情を巧みに操り、アメリカ軍の機密情報を入手しようというのだ。ところが、全ては最初から仕組まれた囮作戦だった。
 つまり、リーランドは米軍諜報部から極秘任務を任せられた囮捜査官であり、そもそも軍法会議そのものが実は茶番劇だったのである。相手の尻尾をつかむために、わざと日本軍スパイの口車に乗せられたふりを続けるリーランド。ところが、思わぬアクシデントから絶体絶命の危機に陥ってしまう・・・。
 ということで、なによりもまず戦争プロパガンダありきといった印象の作品。誰が味方で誰が敵なのか分からないという疑心暗鬼の緊張感も、日本人=悪人という明確過ぎるプロットの中ではあまり意味をなさない。船内でリーランドの身の回りの世話をする善良そうな日本人スギという若者も登場するが、単なるコミック・リリーフ的な役柄に過ぎず、薄っぺらで頭の悪いキャラクターとしてしか描かれていない。原作が新聞に連載されたパルプ小説ということもあってか、物語は安易な少年向け冒険小説の域を出ていないと言える。
 恐らく、ヒューストン監督にとってもボギーにとっても、戦時下における国家への奉仕という意味で引き受けた仕事だったのではないだろうか。そもそもヒューストン監督も『マルタの鷹』で評価されたとはいえ、まだまだデビュー2年目の若手監督。当時は役者もスタッフも映画会社に雇われた社員であったため、作品を選ぶ自由にも制限があった。その上、戦争という国家的な大義名分のもとでは引き受けざるを得ないという事情もあったろう。
 しかも、ヒューストン監督が本作の撮影途中で徴兵されてしまったため、後半部分は女性映画で鳴らした名匠ヴィンセント・シャーマンがメガホンを取ることになった。肝心のアクション満載なクライマックスが妙に呆気なくて迫力不足なのも、この監督交代劇と人選に起因しているのかもしれない。
 また、日本人のキャラクターがロボットのように無感情な軍人か、ニヤついたド近眼の狡猾なチビか、はたまた片言の英語しか喋れない滑稽なサルとしてしか描かれていないのは戦時下ゆえに仕方ないとしても、アメリカ国籍の日系二世までをも悪人に仕立てているのはやり過ぎだろう。
 ひとまず、作品そのものの完成度はさておいて、太平洋戦争下のプロパガンダ映画としての歴史的な興味という点では、いろいろと見どころのある作品。『マルタの鷹』の主演トリオが再び顔を合わせているというキャスティングも、古いハリウッド映画ファンなら魅力に感じる向きもあることだろう。

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謎めいた美女アルバータ(M・アスター)と親しくなる

親日家のローレンズ教授(S・グリーンストリート)

船内ではリーランドを監視する日本人が

 時は1941年。空軍のベテラン将校リック・リーランド大尉(ハンフリー・ボガート)が、窃盗の容疑で軍法会議にかけられ、有罪判決を受けて除名処分となってしまう。歴戦の勇士として名を馳せた英雄だっただけに周囲に与えた衝撃は大きく、リーランドは軍隊の面汚しとして追われるように兵舎を後にする。
 職を求めてカナダの軍隊に志願したリーランドだったが、ここでも彼の不名誉な除隊は知れ渡っており、にべもなく断られれてしまう。ならば中国戦線へと考えた彼は、たまたま立ち寄った日系旅行代理店で日本国籍のジェノア丸という旅客船のチケットを予約する。ところが、予約票に書き込まれた彼の名前を見て、日本人店員の顔つきが変わった。
 ジェノア丸はニューヨークとパナマを経由して、中国へと向かうために出航する。リーランドは、独りで船に乗り込んだ美しい女性アルバータ(メアリー・アスター)と親しくなった。
 また、アメリカ人のローレンズ教授(シドニー・グリーンストリート)という社会学者も同船していた。彼は親日家として日本の社会や文化に強い関心と敬意を持っており、それゆえに現在拠点を置いているフィリピンでは大変憎まれているのだという。
 ローレンズ博士に酒を振舞われたリーランドは、すっかり打ち解けて様々な心の内を告白した。これまで命を捧げてきた国家に裏切られて汚名を着せられたこと、そのおかげですっかり悪人にされてしまったこと。恨み辛みを並べ立てた彼は、金を払ってくれるのであればどこの国にでも忠誠を誓うと断言する。そのリーランドの言葉を聞いて、ローレンズ教授は不気味に目を光らせるのだった。
 船は最初の中継地点ニューヨークへと到着した。中央駅でアルバータと別れたリーランドは、自分が何者かに尾行されていることに気付く。なんとか尾行を撒いた彼は、軍諜報部のハート大佐(ポール・スタントン)のオフィスを訪ねる。
 実は、リーランドは軍諜報部の送り込んだ囮捜査官だったのだ。軍法会議での有罪もジェノア号への乗船も、日本軍のスパイと目されているローレンズ教授と接触をはかるためのシナリオだったのである。リーランドはローレンツ教授との接触が順調に進んでいること、アルバータという女性の素性について判断しかねていることを大佐に報告。一方、大佐はニューヨークで日系二世のジョー・トツイコ(ヴィクター・セン・ヤン)という若者が乗船すること、彼が要注意人物であることを伝える。
 再び中央駅でアルバータと合流し、ジェノア丸へと戻ったリーランド。すると、フィリピン人の殺し屋がローレンズ教授を射殺しようとする現場に遭遇した。間一髪で教授を救うリーランド。船長は警察の介入で出航時間が遅れることを嫌がり、秘密裏に殺し屋を抹殺する。
 この一件で、ローレンズ教授はリーランドのことをすっかり信頼するようになった。また、ニューヨークから乗船したトツイコは一見すると物腰の柔らかい男だったが、ニヤついた笑顔とは裏腹に分厚いメガネの奥に光る目は不気味で、明らかに信用のおけない人物。リーランド教授と彼は船内で常に行動を共にしていた。
 ようやくジェノア丸は第二の中継地パナマへ到着。しかし、船はパナマを経由することを拒否されてしまい、一行は別の船を捜すため暫らく現地に滞在することとなった。リーランドにとってパナマはかつての赴任地。馴染みのホテルの中国人マネージャーで親友のサム(リー・タン・フー)は、彼が何かしらの目的があってやって来たことを見抜いていた。
 実は、日本軍スパイの目的もパナマだった。ここは太平洋における米空軍の重要な拠点。ローレンズ教授はついに本心をリーランドに切り出す。米空軍基地から出発するパトロール機のフライト・スケジュールを入手して欲しいというのだ。日付は12月6日。そう、来たる真珠湾攻撃の日である。
 リーランドは現地の諜報員スミス(チャールズ・ハルトン)と接触。急ごしらえの偽物のフライト・スケジュールではすぐにバレてしまうため、本物のスケジュール表を渡すことにした。それほど、ローレンズ教授は抜け目がないからだ。
 ところが、日本側はリーランドを全面的に信用していたわけではなかった。スケジュール表を受け取ったローレンズ教授は、その場でマツイコにリーランドを襲わせる。殴り倒されて気を失ってしまったリーランド。数時間後に目覚めると、既にローレンズ教授たちの姿はなかった。しかも、アルバータまで忽然と姿を消している。
 急いでスミスに連絡し、パトロール機のフライト・スケジュールを変更するよう警告するリーランド。しかし、日本軍スパイは米諜報部の囮作戦を見抜いており、電話の向うでスミスは殺害されてしまうのだった・・・。

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リーランドはの正体は諜報部の囮捜査官だった

怪しげな日系二世トツイコ(V・S・ヤン)

リーランドの素性を詮索するアルバータ

 原作は夕刊紙イヴニング・ポストの土曜版に連載されたパルプ小説。原作者のロバート・カーソンは、ジャネット・ゲイナー主演の『スタア誕生』(37)でアカデミー賞を受賞したこともある有名な脚本家だ。脚色を担当したリチャード・マコーレイはミュージカルから戦争ドラマまで幅広いジャンルを手掛けた脚本家で、中でもロバート・ワイズ監督と組んだフィルム・ノワール『生まれながらの殺し屋』(47)は傑作だった。
 撮影監督のアーサー・エディソンは、『西部戦線異状なし』(30)などで3度のオスカー候補に輝く名カメラマン。『マルタの鷹』や『カサブランカ』(42)でもボギーを撮っている人物だ。また、美術監督のロバート・ハースやメイクアップのパーク・ウェストモア、音楽スコアのアドルフ・ドイッチなども、『マルタの鷹』から引き続いて参加しているスタッフである。

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一行はパナマで滞在することに

ローレンズ教授が本当の目的を喋りはじめる

偵察機のスケジュールを変更するよう警告するリーランド

 そして、主演のハンフリー・ボガートとメアリー・アスター、悪役のシドニー・グリーンストリートも、『マルタの鷹』で共演した顔ぶれ。前作で淑女と悪女の二面性を使い分ける天性のファム・ファタール役を演じたアスターだが、本作でも敵か味方か分からない謎めいた女性という役どころを演じている。
 サイレント時代から活躍する美人女優で、トーキーへと無事にシフトすることが出来た数少ないスターの一人。まるで中世の美人画から抜け出てきたかのように上品でロマンティックな雰囲気を持った人で、アメリカでは大変な人気を誇る大女優だった。
 当時30代半ばを過ぎており、この頃のハリウッド女優としては決して若いとは言えなかったが、『マルタの鷹』では彼女にしか出せない独特のクラシカルなエロティシズムが魅力だった。本作でもスタジオ側はその延長線を期待したのだろうが、役柄そのものに魅力が乏しかったのでは致し方ない。この数年後には、『若草の頃』(44)や『若草物語』(49)で、すっかりアメリカの理想とする母親像を体現するようになる。
 肝心のボギーの方も本作ではいつもの渋みやカッコよさに深みが乏しく、なんとなくお仕着せで演じているという印象は否めない。トレンチコートに身を包んだ姿は『マルタの鷹』と一緒だし、役名だって『カサブランカ』と同じリックなのだが。
 一方、日本軍のスパイであるローレンズ教授を演じるシドニー・グリーンストリートは、相変わらずの巨体と絶妙な演技で不気味な存在感を発揮している。どんな役柄でもしっかりと自分の個性を残す性格俳優の強みだ。彼は続く『カサブランカ』や“Passage to Marseille”(44)でもボギーと共演している。
 そのほか、悪役の日本人を演じるのはいずれも中国系の俳優ばかり。一応日本語のセリフも喋っているのだが、どれもへんてこな発音ばかりでぶったまげる(笑)日系二世トツイコ役のヴィクター・セン・ヤンは、中国人名探偵チャーリー・チャン・シリーズの次男ジミー・チャン役で知られる俳優。同じシリーズで長男役を演じていたキー・ルーク(『グレムリン』のお爺さんとしても有名)も、ジェノア丸の船員役で顔を出している。

 

 

Plunder of the Sun (1953)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 Paramount (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆

DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語/地域コード:1/81分/製作:アメリカ

映像特典
G・フォードによるロケ地再訪
俳優S・マックローリーのドキュメンタリー
古代遺跡掠奪の歴史
オリジナル劇場予告編
バジャック予告編集
フォト・ギャラリー

監督:ジョン・ファロー
製作:ロバート・フェロウズ
原作:デヴィッド・ドッジ
脚本:ジョナサン・ラティマー
撮影:ジャック・ドレイパー
音楽:アントニオ・ディアズ・コンデ
出演:グレン・フォード
   ダイアナ・リン
   パトリシア・メディーナ
   フランシス・L ・サリヴァン
   ショーン・マックローリー
   エドゥアルド・ノリエガ
   フリオ・ヴィアレアル

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保険金の取立て屋コルビー(G・フォード)

アンナ(P・メディーナ)という美女とバーで知り合う

コルビーに運び屋を依頼するベリエン(F・L・サリヴァン)

 ジョン・ウェインの立ち上げた制作会社バジャック・プロダクションによるノワーリッシュなサスペンス・スリラー。これが、ジョン・ヒューストンの『マルタの鷹』(41)と『黄金』(48)を足して割ったような、いい具合にB級感の漂う痛快なエンターテイメント作品に仕上がっている。
 主人公は借金まみれの保険屋コルビー。とある老人から大金と引き換えに怪しげな包みをメキシコへ運ぶよう頼まれたが、その途中で依頼人が何者かに殺害されてしまう。さらに、その包みを巡って様々な人々が彼の周囲に出没。実は、包みの中には古代アステカの財宝の在り処を示す古文書が隠されていたのだ・・・!
 ということで、ストーリーはほとんど『マルタの鷹』。南米を舞台にした映像のムードや後半の宝探しは、まるっきり『黄金』の世界である。グレン・フォード演じる主人公コルビーのニヒルなくたびれ具合なんかボギーのサム・スペード丸出しだし、フランシス・L・サリヴァン扮する巨漢の老人はシドニー・グリーンストリートそっくり。クラシック映画ファンなら思わずニンマリしてしまうシーンの連続だ。
 監督を手がけたのは、ミア・ファローの父親としても知られる一流のB級娯楽映画職人ジョン・ファロー。あくまでもジョン・ヒューストン的なハードボイルドの世界を再現することに徹しているのは、逆に潔さすら感じさせられる。実際にアステカ王国の古代遺跡で撮影されたロケ・シーンのエキゾチックな魅力や、クサいぐらいにスタイリッシュでドラマチックな演出も良いアクセントになっている。皮肉の効いた粋なクライマックスもなかなか悪くない。
 ちなみに、タイトルにある“Plunder”とは“略奪者”という意味。古代遺跡に眠る財宝を求めて一攫千金を狙う略奪者たちと、それを守ろうとする人々の闘いと駆け引きを描いた娯楽映画である。低予算のプログラム・ピクチャーはかくあるべし、というお手本のような一本としておススメしたい。

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コルビーに近づくジェファーソン(S・マックローリー)

ベリエンが船の室内で殺害されていた

コルビーの様子を伺う女ジュリー(D・リン)

 物語の始まりは南米キューバのハバナ。手持ちの金が底を尽きて足止めを食らったアメリカ人の保険金取立て屋コルビー(グレン・フォード)は、立ち寄ったバーでアンナ(パトリシア・メディーナ)という妖艶な美女と遭遇する。アンナは彼を自宅へと誘うが、そこで待っていたのはベリエン(フランシス・L・サリヴァン)という怪しげな車椅子の老人だった。
 ベリエンは骨董品のコレクターで、アンナは彼の世話をしている看護婦なのだという。彼はコルビーの素性をよく調べ上げており、大金と引き換えにあと小包をメキシコに持ち込んで欲しいと頼む。
 それは闇ルートで入手したメキシコの骨董品だった。それゆえに、入国で見つかれば税関に差し押さえられてしまう。しかも、ベリエンは骨董コレクターとして顔が割れているからリスクが高い。そこで、危険な仕事には慣れていて、なおかつ骨董品とはえんもゆかりもないコルビーに白羽の矢が立てられたのである。
 ベリエンやアンナのことを怪しく思いながらも、金に目がくらんで仕事を引き受けることにしたコルビー。彼らとは他人のふりをして、同じメキシコ行きの旅客船に乗り込んだ。
 船内ではジェファーソン(ショーン・マックローリー)という金髪にサングラスをかけた怪しげな男がコルビーに近づいてくる。どうやら、彼はベリエンと顔見知りの様子で、信用できない人間だと語っていた。また、ジュリー(ダイアナ・バーンズ)という金持ちのお嬢様風の女性も、なにかと酔っ払ってコルビーに絡んでくる。彼女もまた、なにか腹に一物のある様子だった。
 コルビーは彼らが例の小包を狙っているのではないかと疑い、自分が何か途方もない陰謀に加担してしまったことに気付く。部屋の荷物も何者かによって荒らされた。詳しい事情を説明してもらおうとベリエンの部屋へ押しかけたコルビーだったが、彼は既に殺害されてしまっていた。
 メキシコへ到着したコルビーは、思い切って小包の中身を開けてみる。すると、そこには古代の遺跡らしき円盤と、アステカ文字で書かれた古文書が入っていた。ホテルで落ち合ったアンナは、実は自分はベリエンの娘だと告白し、小包を返して欲しいと訴える。しかし、もはやコルビーはアンナのことも信用できなかった。試しに小包の中身について彼女に尋ねると、大切な書類が入っているのだという。彼女が嘘をついていることは明白だった。
 ホテルには、例の女性ジュリーも宿泊しており、コルビーの様子を遠くから伺っている。さらに、ジェファーソンもコルビーの部屋へ押し入り、拳銃を突きつけて小包を手渡すように要求するのだった。
 自分の置かれている立場を理解するためには、古文書に記されている内容を知らねばならない。そう考えた彼は考古学研究所を訪れるが、解読するには時間がかかると言われて断念。代わりに研究員に勧められた古代アステカ文明の研究書を読み、その著者である考古学者ウバルド(フリオ・ヴィアレアル)とラウール(エドゥアルド・ノリエガ)を訪ねる。ところが、彼らの背後にはアンナの存在があった。
 頼れる相手のいなくなったコルビーは、ジェファーソンに協力することにした。彼によると、古文書には古代アステカの財宝の在り処が記されているという。ジェファーソンは一昼一夜かけて古文書を読み解き、二人は協力して財宝を探し当てるべく遺跡へと向かう。彼らの動きはアンナやラウール、ジュリーたちも察知していた。迷路のような遺跡の中でなんとか追っ手を撒き、ついに財宝の在り処を探し当てたコルビーとジェファーソン。ところが、その場でコルビーはジェファーソンに銃撃されてしまう・・・。

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小包の中には遺跡らしき円盤と古文書が入っていた

コルビーに執拗に付きまとうジェファーソン

アンナは実力行使に出ようとする

 原作はデヴィッド・ドッジが1949年に発表した冒険小説で、もともとはペルーの古代遺跡を巡る物語だったようだ。脚色を手掛けたのは同じくジョン・ファロー監督の『夜は千の眼を持つ』(47)や『大時計』(48)などのフィルムノワールで知られるジョナサン・ラティマー。彼自身、私立探偵ウィリアム・クレイン・シリーズなどの犯罪小説で有名な推理作家だった。
 メキシコのロケーションを存分に生かしたエキゾチックなノワール・タッチの映像を手掛けたのは、主にメキシコ映画界で活躍したアメリカ人カメラマン、ジャック・ドレイパー。音楽を担当したアントニオ・ディアズ・コンデも、メキシコの有名な映画音楽作曲家である。
 また、美術監督には『ホンドー』(53)や『アラモ』(60)などジョン・ウェイン作品で知られるアルフレド・イバラ、編集には『聖メリーの鐘』(45)た『らせん階段』(45)などのハリー・マーカーが参加している。

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アステカの財宝の在り処を探すコルビーとジェファーソン

二人はついに財宝を発見した

ジェファーソンに銃撃されるコルビー

 主人公は当時人気絶頂だったハリウッドのタフガイ・スター、グレン・フォード。『ギルダ』(46)のリタ・ヘイワースの相手役で有名になり、不良少年たちと真っ向からぶつかり合う熱血教師を演じた『暴力教室』(55)でも大変な評判になった。筆者の世代では、『スーパーマン』(78)のジョナサン・ケント役で記憶している映画ファンも少なくないだろう。親日家としても知られており、日本を舞台に京マチ子と共演した『八月十五夜の茶屋』(56)にも出演している。日本人受けするような美男子ではないものの、どことなく頼りがいのあるような人間臭さが魅力の役者だった。
 キャスト・クレジットでは3番目だが、実質的にはヒロイン的な扱いのパトリシア・メディーナは、イギリス出身の美人女優。父親がスペイン人ということもあり、エキゾチックな美貌で人気を集めた。『海賊ブラッドの逆襲』(50)などルイス・ヘイワードとのコンビで一連の剣劇映画に主演し、ハリウッド進出も果たしたものの、キャリアは意外と短かった。
 一方、アル中のお嬢様ジュリー役を演じているダイアナ・リンは、パラマウントの娘役スターとして『若草の歌』(40)や『桃色の旅行鞄』(44)などのロマンティック・コメディで売り出された女優。本作ではグロリア・グレアム・タイプの悪女役を演じているが、残念ながら線が細すぎた。まるでソックリさんによるモノマネみたいなのだ。これならば、いっそうのことグレアム本人をキャスティングした方が良かったのではなかろうか。
 コルビーに運び屋を依頼する骨董収集家ベリエン役を演じているのは、イギリス出身の脇役俳優フランシス・L・サリヴァン。だいたい、いつもチャールズ・ロートンやオーソン・ウェルズ・タイプの二番煎じ的な役をあてがわれることが多かったが、本作でもシドニー・グリーンストリートの真似をさせられているのはなんとも気の毒。また、秘宝を狙うジェファーソン役を演じたショーン・マックローリーは、バジャック・プロ制作作品には欠かせない性格俳優だった。
 そのほか、40年代にメキシコの2枚目スターとして活躍したエドゥアルド・ノリエガが、アステカの秘宝を守ろうとするラウール役で登場。また、30年代に人気を集めたブルネットの美人女優モナ・バリーが、古代遺跡を見学する観光客の中年婦人としてチラリと顔を見せる。これが遺作となったそうだ。

 

 

Night Train To Paris (1964)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)・スタンダードサイズ/ステレオ・モノラル/音声:英語/字幕:英語
・スペイン語・フランス語/地域コード:1/65分/製作:イギリス

映像特典
オリジナル劇場予告編
ポスター・ギャラリー
監督:ロバート・ダグラス
製作:ロバート・L・リッパート
   ジャック・パーソンズ
脚本:ハリー・スポールディング
撮影:アーサー・レーヴィス
音楽:ケネス・グラハム
出演:レスリー・ニールセン
   アリジア・グール
   ドリンダ・スティーヴンス
   エリック・ポールマン
   エディナ・ロネイ
   アンドレ・マランヌ
   シリル・レイモンド
   ヒュー・ラティマー
   ジェニー・ホワイト

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大晦日に独りで残業するアラン・ホリデイ(L・ニールセン)

カトリーヌ(A・グール)という美女が訪ねてくる

 “007”シリーズの大ヒットで世界的なスパイ映画ブームに沸いた60年代。本作も、そんなブームの中で登場したスパイ・サスペンス映画である。しかも、思いっきり低予算の。どれくらい低予算かというと、『007/ロシアより愛をこめて』(63)の夜行列車シーンだけで映画を丸々一本撮ってしまいました、というくらい(笑)さすがに『シベ超』並みとまでは言わないものの、あまりのスケールの小ささに思わず微笑がこぼれてしまいそうだ。
 主人公はロンドンに住む元連合軍戦略諜報局のスパイ、アラン・ホリデイ。元上官の依頼を受けた彼は、フランス政府にとって重要な秘密情報を収めたテープをパリへ運ぶことになる。同行するのはカトリーヌという美人女性諜報員。パリ行きの夜行列車に乗り込んだアランとキャサリンだったが、彼らを尾行してきた敵のスパイも同じ列車に乗り込む。さらに、他にも別のスパイが列車内に潜んでいることが判明。果たして、二人は無事にテープをパリへ届けることが出来るのか・・・!?
 という至極単純かつシンプルなストーリー。物語の大半が列車内で進行するのだが、本筋とはほとんど関係ないようなパーティー・シーンやガール・トーク、場違いなロマンスなどが満載で、スリルもサスペンスも殆んどないような出来栄えだ。
 しかも、主演がレスリー・ニールセン。当時は渋い2枚目路線で売っていたニールセンだが、本作ではジェームズ・ボンドをさらに女たらしにしたようなプレイボーイという役どころ。もともとコメディ志向が強かったにも関わらずハードボイルドな役柄ばかりさせられていたというが、ここではそのコメディアン本能(?)が疼いて仕方なかったのだろう。シリアスなサスペンス・シーンやアクション・シーンよりも、鼻メガネをかけてお茶目なダンスを披露したり、若い女の子とイチャイチャしてみせたりするコミカルなシーンの方が明らかに気合が入っている(笑)
 監督は主に剣劇映画の悪役や戦争映画の軍人役で知られるイギリスの名優ロバート・ダグラス。製作も兼ねた『ヒッチコック劇場』や『サンセット77』、『マーベリック』など数多くのテレビ・ドラマの演出を手掛けたことでも有名だが、劇場用映画の仕事は珍しい。演出スタイルは基本的にテレビ・ドラマの延長線上で、これといった個性に乏しいという印象だが、あれこれとテンポ良く見せ場を盛り込み、65分というただでさえ短い上映時間をさらに短く感じさせるノリの良さは悪くない。
 よくよく考えたら実に荒唐無稽でアホらしい内容ではあるものの、スパイ映画にあるまじき能天気さはなかなか捨てがたい。これはこれでキッチュな魅力に溢れた古き良き低予算プログラム・ピクチャーといったところだろう。

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かつての上司レモワーヌ(H・ラティマー)と再会するアラン

レモワーヌは重要な極秘任務をアランに依頼する

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敵国のスパイ、クロッフ(E・ポールマン)

レモワーヌがクロッフに殺害されてしまった

 それはとある大晦日のこと。会社で独り残業をしていたアラン・ホリデイ(レスリー・ニールセン)のもとに、カトリーヌ・カレル(アリジア・グール)というエキゾチックなフランス美女が訪れる。彼女はジュールス・レモワーヌ(ヒュ−・ラティマー)の指示でやって来たのだという。
 アランは戦時中に連合軍の諜報員として働いた過去があり、レモワーヌはその時の上司だった。何か重要な用件があると察したアランは、カトリーヌとアランを自宅アパートへ招く。それは、フランス政府にとって重大な機密情報を収めたテープを夜行列車でパリに運ぶという仕事の依頼だった。レモワーヌは、この重要な任務を頼める相手はアランしかいないと考えていた。
 そこで、アランは旧友のフランス人カメラマン、ルイ・ヴァーネイ(アンドレ・マランヌ)に協力してもらい、彼のアシスタントのふりをして列車に乗り込むことにする。カトリーヌもモデルの一人として同行することになった。
 ところが、準備をするためにスタジオへ戻ったルイが何者かによって殺害される。さらに、アランが目を離している隙にレモワーヌまで殺されてしまった。犯人は敵国スパイのクロッフ(エリック・ポールマン)。ポールマンはアランをその場で殴り倒し、彼を犯人に仕立てて逃走した。
 しばらくして目を覚ましたアラン。クロッフの匿名通報を受けた警察官が到着し、アランは急いでアパートを飛び出す。その様子を目撃したクロッフも、彼の後を追跡した。
 出発時間ギリギリでパリ行きの夜行列車に飛び乗ったアラン。ルイが殺されてしまったことを知らない彼は、手引きをしてくれた着ぐるみの男をルイだと思い込んでいる。一方、アランを追跡したクロッフも列車に乗り込んでいた。
 カトリーヌと列車内で合流したアランは、二人の素性を知らないモデル、オリーヴ(ドリンダ・スティーヴンス)とジュリー(エディナ・ロネイ)に紹介される。大晦日であることから、車内は年末年始を祝う乗客たちがドンちゃん騒ぎを繰り広げていた。
 クロッフがうろついていることに気付いたアランだったが、パーティの喧騒を隠れ蓑にして車内を逃げ回るのだった。そんな彼の様子をオリーヴとジュリーは怪訝に感じていたが、単なる変わり者程度にしか考えなかった。
 その頃、レモワーヌ殺害事件の捜査を始めたスコットランド・ヤードのフレミング警部(シリル・レイモンド)は、アランを容疑者と見てその足取りを追っていた。警察は彼がパリ行きの夜行列車のチケットを持っていたことを知り、途中の停車駅で警官を車内に送り込む。アランは敵国スパイと警察の両方から身を隠さねばならなくなった。
 さらに、写真家ルイの他殺体を発見した警察は、第一発見者の女性に事情を聞いていた。彼女はオリーヴ・デイヴィスという名前のモデル。今夜のパリ行き夜行列車に同乗するはずで、待ち合わせ場所のスタジオにやって来たところ、ルイの死体を発見したというのだ。そう、列車に乗っているオリーヴは偽者だったのだ。
 実は、偽物のオリーヴは万が一に備えてレモワーヌが送り込んだ味方の諜報員だった。こちら側の情報が筒抜けであることから、内部に二重スパイがいると考えたのだ。その勘は当たっていた。他でもないカトリーヌこそが二重スパイだったのである。
 カトリーヌの正体を暴いたオリーヴ。だが、その頃アランは列車がパリ近郊に近づいたことから、追っ手を出し抜くために列車を飛び降りていた。それも、着ぐるみの男と共に・・・。

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間一髪で夜行列車に乗り込むことが出来たアラン

しかし、クロッフも秘かに乗り込んでいた

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アランとカトリーヌの素性を知らないオリーヴ(D・スティーヴンス)

列車に乗り込んできた警察がアランの捜索を始める

 本作の製作を手がけたのはロバート・L・リッパート。『燃える大陸』(51)や『蝿男の恐怖』(58)、『地球最後の男』(64)などを世に送り出し、イギリスやイタリア、フィリピンなど世界各国を股にかけて活躍した、B級映画界の知る人ぞ知る名物プロデューサーである。新人だったサミュエル・フラー監督に『地獄への挑戦』(49)などの戦争映画を撮らせたのも彼。超低予算でもそれなりに見栄えのする娯楽映画を大量生産しまくった人物だった。
 脚本を手掛けたのは、リッパートのもとで数多くのB級ホラーやSF映画に携わったハリー・スポールディング。本作ではヘンリー・クロスという変名を使用している。また、撮影監督のアーサー・レーヴィスも、リッパート作品の常連だったカメラマンだ。

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ドンちゃん騒ぎを隠れ蓑にして逃げるアラン

本物のオリーヴ(J・ホワイト)の存在が発覚する

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着ぐるみの男をルイだと思い込んでいるアランだったが・・・

カトリーヌは裏切り者の二重スパイだった

 主演のレスリー・ニールセンについては、改めて説明する必要もあるまい。当時は渋い2枚目俳優として映画にテレビにと活躍していたが、『フライング・ハイ』(80)をきっかけにコメディへ転向。カルト的な人気を集めたテレビ・シリーズ『フライング・コップ』を経て、『裸の銃を持つ男』(88)で時ならぬ大ブレイクをすることとなる。本作では、後のコメディアンとしての片鱗が随所に垣間見えて面白い。
 そのニールセンの相手役を演じているアリジア・グールは、元ミス・イスラエルというエキゾチックなクール・ビューティ。ただ、お世辞にも演技力があるとは言えず、女優としては大成しなかった。『007/ロシアより愛をこめて』でキャットファイトを演じる女性の片割れ、といえばピンと来る人もいるだろうか・・・?
 一方、偽者オリーヴ役で登場するドリンダ・スティーヴンスは、カルト・ホラーの名作『黒死館の恐怖』(59)の冒頭で双眼鏡に仕掛けられた針で眼を突き刺される女性役が印象的だったイギリスのB級女優。ジュリー役のエディナ・ロネイは、当時イギリスのテレビで人気者だったキュートな女優で、後にファッション・デザイナーとして成功している。
 敵国スパイのクロッフ役で登場するのは、オーストリア出身の有名な舞台俳優エリック・ポールマン。『第三の男』(49)や『赤い風車』(53)などの映画にも多数出演した名優だ。
 また、スコットランド・ヤードのフレミング警部を演じているシリル・レイモンドは、デヴィッド・リーンの名作『逢びき』(45)でヒロインの夫役を演じていた俳優。
写真家のルイ役には、ピーター・セラーズ主演の“ピンク・パンサー”シリーズのシュヴァリエ刑事役で知られるアンドレ・マランヌが扮している。
 ちなみに、本物のオリーヴ役で顔を出している女優ジェニー・ホワイトは、現在はイギリスの有名なカントリー・クラブのオーナーだそうだ。

 

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