The Return (2006)

 

THE_RETURN-DVD.JPG
(P)2007 Universal Pictures (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★★
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/5.1chサラウンド/音声:英語・フランス語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/86分/製作:アメリカ

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー
未公開シーン集
エンディング 別バージョン
監督:アシフ・カパディア
製作:アーロン・ライダー
    ジェフリー・シルヴァー
脚本:アダム・サスマン
撮影:ロマン・オシン
音楽:ダリオ・マリアネッリ
出演:サラ・ミシェル・ゲラー
    ピーター・オブライエン
    サム・シェパード
    アダム・スコット
    ケイト・ビーハン
    J・C・マッケンジー

 「ラスト・サマー」('97)や「スクリーム2」('97)、「THE JUON/呪怨」('04)、そしてテレビ「バフィー〜恋する十字架〜」('93〜'03)など、ホラー&ファンタジー系ファンにも人気の高いトップ・アイドル女優、サラ・ミシェル・ゲラー主演によるホラー・ミステリー。全米では「呪怨 パンデミック」('06)の直後に公開されたものの、興行的には惨敗を喫してしまった作品だ。
 最大の敗因は、ホラー映画の体裁を取りながら、実はホラー映画ではない、という点だろう。ヒロインは幼い頃から幻覚に悩まされている。それは、姿の見えない男に追われるというもの。幻覚の中に出てくる場所が実在すると知ったことから、彼女は謎を突き止めようとする、というのが主だったプロットだ。
 確かに、ホラー的な要素は含んでいるものの、出来上がった作品は輪廻転生をテーマにしたスピリチュアル・サスペンスというべきもの。ヒロインの中に宿った別の魂が、愛する人との再会を願い、さらには自分を死に至らしめた者を明らかにするために彼女を導いていく。いわば、一人の女性の体の中に存在する二人の女性の、自分探しの旅を描くドラマと言えるだろう。

THE_RETURN-1.JPG THE_RETURN-2.JPG THE_RETURN-3.JPG

幼い頃から幻覚に悩まされるジョアンナ(S・M・ゲラー)

親友ミシェル(K・ビーハン)とバーでくつろぐジョアンナ

疎遠になってしまった父親エド(S・シェパード)

 ヒロインのジョアンナ(サラ・ミシェル・ゲラー)は、運送会社の営業ウーマンを務める25歳の女性。中西部各地を営業で回っており、会社でも抜群の成績を上げているやり手だ。しかし、10歳の時に交通事故で重傷を負ったことのある彼女は、それ以来何者かに追われるという幻覚に悩まされ続けていた。常に忙しく車で駆け回る今の仕事を選んだのも、そうした幻覚症状から逃れるためで、仕事そのものには全く興味がなかった。ただ、気を紛らわせていたいだけだったのだ。
 テキサスへ出張に出かけた彼女は、そこで高校時代からの親友ミシェル(ケイト・ビーハン)と再会する。ミシェルの誘いで夜遊びに繰り出したジョアンナだったが、そこで今までにないくらい強烈な幻覚に襲われた。不安を感じた彼女は、父エド(サム・シェパード)の住む実家を訪れる。
 幼い頃に母親を亡くしたジョアンナは父親に育てられたが、少女時代に強い幻覚症状を起して以来親子関係がぎくしゃくしてしまい、就職後は全く疎遠になっていた。久しぶりに再会した娘の姿を見て、戸惑いながらも嬉しそうに喜ぶ父親。ジョアンナは自室で幼い頃に描いた絵を発見する。それは当時見た幻覚を描写したもので、彼女は何か引っかかるものを感じる。会社のカタログをひっくり返して探してみたところ、テキサスのラ・サルという小さな町が幻覚の中に出てくる風景とそっくりである事に気付いた。
 ラ・サルのホテルにチェック・インしたジョアンナは、幻覚に出てきたのとソックリなバーを発見する。すると、彼女の会社の同僚であるカート(アダム・スコット)が声をかけてくる。カートはジョアンナの恋人だったが、ことあるごとに暴力を振るう彼に嫌気がさして別れていた。しかし、カートはジョアンナのことを忘れられず、執拗なストーカー行為を繰り返していたのだ。
 冷たい態度を取るジョアンナに激怒したカートは、ホテルで彼女をレイプしようとする。そこへ飛び込んできたのが、バーで彼女と目が合った中年男テリー(ピーター・オブライエン)。テリーに袋叩きにされたカートは、一目散で逃げていった。
 翌日、ホテルの女性マネージャーに聞いてテリーの自宅を訪れたジョアンナ。テリーは影があってよそよそしい男だったが、ふと垣間見える優しさにジョアンナは強く惹かれる。その次の日、テリーが働く牛の競り市を訪れたジョアンナは、テリーの妻が15年前に亡くなっている事を知る。妻のことを深く愛していたテリーは、それ以来自分の殻に閉じこもってしまっていたのだ。
 一方、ジョアンナの幻覚症状は日増しに強くなっていた。何者かに襲われて必死で逃げるジョアンナ。いつの間にか、彼女はテリーの自宅を訪れていた。そして、家の裏にある納屋が、幻覚の中に出てくる場所とソックリであることに気付いて愕然とする・・・。

THE_RETURN-4.JPG THE_RETURN-5.JPG THE_RETURN-6.JPG

日増しに幻覚が激しくなっていくジョアンナ

心に深い傷を負った寡黙な中年男テリー(P・オブライエン)

何者かに襲われるジョアンナ

 モノクロを意識した冷たい色調の映像は、恐らくJホラーを意識しているのだろう。全体のストーリーにしても、「リング」や「呪怨」から影響を受けたような印象が強い。しかし、ホラー的なエレメントは非常に希薄で、語り口としてはケン・ローチやマイケル・ウィンターボトムのような、イギリスのインディペンデント系作家の作風と似たものを感じる。要は、非常に淡々としているのだ。
 監督のアシフ・カパディアはインド・パキスタン系のイギリス人で、本国のインディペンデント業界で高く評価されてきた人物。これが、ハリウッド・メジャー第1作目に当たる。輪廻転生というアジア的な題材をテーマにしていることから起用されたのかもしれないが、そもそも彼はこの作品をホラー映画とは考えていないのではないだろうかと思う。少なくとも、観客を怖がらせることにはまったく興味を持っていないように見える。それよりも、志半ばで死んでしまった人間と、哀しみの中で生きる残された人間の強い絆を描く、サスペンス仕立てのラブ・ストーリーとして描こうとしたように感じる。
 とはいえ、アダム・サスマンの書いた脚本は非常に薄っぺらく、輪廻転生という概念の表面をなぞってみただけで、より深い人間の情念であったり絆の強さであったりを描くには至っていない。もともとはテレビのミステリー・シリーズ“Night Stalker”('05)のストーリー・ライター出身の人で、これが初の長編作品。まるで、「ミステリー・ゾーン」の1エピソードを水増ししてしまったような印象で、全てが表面的なのだ。その結果、サスペンスもなければ恐怖もなく、さらには感動すらまったくないという、お粗末な映画が出来上がってしまった。
 カパディア監督の演出そのものは非常に芸術的で、彼と長年コンビを組んできた撮影監督ロマン・オシンの捉える映像も文句なしに美しい。アメリカを舞台にしながら、まるでイギリス映画を見ているような風情だ。しかし、それらをもってしても、脚本の弱点を補うことは出来なかったように思う。

 ジョアンナを演じるサラ・ミシェル・ゲラーは、今までにないくらいに暗い役柄で、トレード・マークの甘い笑顔を殆んど見せる事がない。決して悪くはないのだが、やはり彼女の最大の魅力はあのとろけるような笑顔。本作の興行的な失敗の一因は、このミスキャストにもあるのではないだろうかと思う。
 一方、亡き妻を忘れられずに荒んだ生活を送る中年男テリーを演じるピーター・オブライエンはとても良い。オーストラリア出身の人で、本国ではテレビを中心にかなり人気の高い俳優らしいが、この作品で初めて存在を知った。40代半ばとは思えないようなセックス・アピールがあり、心に傷を負った寡黙な男を演じて存在感がある。ちょうど、本作でジョアンナの父親役を演じているサム・シェパードの若い頃と似たような魅力のある俳優だ。
 そして、そのサム・シェパード。サラ・ミシェル・ゲラーはプロデューサーから父親役に誰がいいかと訊かれて、冗談のつもりでサム・シェパードの名前を出したそうだ。俳優・脚本家・演出家としてアメリカ文化のアイコン的な存在である彼が、低予算のホラー映画に出るなど絶対にあり得ないと思っていたからだ。なので、数週間後に彼の出演が決まったと聞かされた時には、本気でビックリしたという。妻に先立たれてしまい、最愛の娘とも精神的なつながりを失ってしまった初老男性の孤独をさりげなく演じていて、小さい役ながらも強い存在感を残している。

 なお、上記のアメリカ盤DVDには別エンディングが収録されているが、これは使わなくて大正解だったろう。というよりも、何故にこのエンディングを撮影していたのか、それ自体が大きな疑問だ。これでは、ジョアンナとテリーの年齢的な辻褄が合わなくなってしまう。そこまで計算する余裕もないくらいに、短期間で撮影された作品だったのかもしれない。

 

戻る