新作DVDソフト紹介!

 

ザ・クレイジーズ 特別版
The Crazies (1973)

CRAZIES_JACKET.JPG
発売元:株式会社スティングレイ
DVD仕様(2枚組)
カラー/ワイドスクリーン(ビスタ・サイズ)/モノラル/音声:英語・日本語/字幕:日本語・吹替え用/地域コード:2/103分+映像特典/製作:アメリカ

映像特典
撮影時フルフレーム・フォーマット(スタンダード・サイズ)本編
※特典ディスクに収録

TV放送版日本語吹替え
監督による音声解説
フィーチャレット『カルトフィルム
・レガシー/リン・ローリーの世界』
オリジナル劇場予告編(2編)
TVスポット(2編)

封入特典
特製リーフレット
監督:ジョージ・A・ロメロ
製作:アルヴィン・C・クロフト
製作総指揮:リー・ヘッセル
脚本:ジョージ・A・ロメロ
   ポール・マッカロー
撮影:S・ウィリアム・ハインツマン
音楽:ブルース・ロバーツ
出演:ウィル・マクミラン
   レイン・キャロル
   ハロルド・ウェイン・ジョーンズ
   リチャード・リバティー
   ロイド・ホーラー
   リン・ローリー
   リチャード・フランス
   ハリー・スピルマン

2009年12月21日通販限定発売
購入はこちらのサイト


 今年の10月に開催された2009年スクリーム・アワードにおいて、ジャンル映画の大御所に贈られる功労賞とも言うべきMastermind Awardを受賞したジョージ・A・ロメロ監督。熱烈なファンだというタランティーノ監督の紹介でステージの奥から現われた彼は、会場を埋め尽くした観客によるスタンディング・オーベーションで迎えられた。
 日本では“知る人ぞ知るホラー映画界の巨匠”とも言うべきロメロ監督。しかし、その場の観客の熱狂的な歓迎ぶりは尋常ではなく、会場に居合わせた筆者は改めて彼の存在の大きさというものを肌で実感させられた。もちろん、ジャンル映画のお祭りという会場の雰囲気であったり、芸達者で饒舌なタランティーノ監督による煽りの効果といったものもあったろうとは思うのだが。

 そのジョージ・A・ロメロ監督。往々にして“ゾンビ映画の巨匠”といった呼ばれ方をする事が多いのだが、決してゾンビ映画だけの映像作家ではない。確かに、彼の代表作『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(69)はゾンビ映画の金字塔であり、その後のホラー映画の歴史を変えてしまった傑作であることは事実だろう。
 続編に当たる大ヒット映画『ゾンビ』(78)も、“ゾンビ映画”というジャンルを一躍メジャーなものとした名作。3部作の完結篇となった『死霊のえじき』(85)は賛否両論あったし、その後のキャリアはパッとしない時期が続いたものの、半ば忘れかけられた彼の名前に再びスポットライトを当てたのも、4作目となるゾンビ映画『ランド・オブ・ザ・デッド』(05)だった。
 このように振り返ってみると、ロメロ監督のキャリアを語る上でターニング・ポイントとなった作品は、全てゾンビ映画だったと言えるかもしれない。批評的な面だけでなく、興行的な面においても高い注目を集めた作品というものを列挙してみても、やはりゾンビ映画ばかりだ。
 しかし、その一方で彼はそうしたゾンビ映画の合間を縫うように、野心的でユニークな“非ゾンビ映画”も少なからず残している。残念ながらその多くが興行的には惨敗を喫しており、一般的には殆んど陽の目を見ることなく終ってしまったが、専門家からは高い評価を受けている作品も多い。この『ザ・クレイジーズ』という映画も、その中の一つである。

 舞台となるのは、アメリカの平和な田舎町。突如として人々が狂い始め、防護服に身を包んだ兵士たちが町を封鎖してしまう。わけも分からないまま軍隊に追い立てられ、パニックに陥る町の人々。いったい何が起きているのか?
 実は、細菌兵器を積んだ軍用機が町の近郊に墜落し、住民が次々と感染してしまったのだ。事態を収拾するために送り込まれた軍の特殊部隊。パニックを沈静化し、感染していない住民を避難させようと迅速に行動する兵士たち。
 だが、細菌に侵されて気の狂った人々が武器を手にして次々と襲い掛かり、やがて血みどろの戦闘が繰り広げられていく。治療薬を開発するために科学者も送り込まれたが、一朝一夕で解決する問題ではない。その間にも、双方の犠牲者はどんどん膨れ上がっていく。しかも、軍の上層部が特殊部隊を送り込んだ本当の目的は、決して人命救助などではなかった。
 一方、消防士のデヴィッド(ウィル・マクミラン)は、身重の妻ジュディ(レイン・キャロル)と同僚フランク(ハロルド・ウェイン・ジョーンズ)を連れて、秘かに町からの脱出を試みる。妻とお腹の中の子供の無事を一番に考えるに彼とって、一刻も早く安全な場所へ逃げることが最優先だった。
 アーティ(リチャード・リバティー)とキャシー(リン・ローリー)のボルマン親子も加わり、危険な逃避行を続けるデヴィッドたち。彼らの行く手に立ちはだかるのは、なにも気の狂った感染者ばかりではない。死の恐怖と隣り合わせの異常事態の中で、次第に理性を失いつつある兵士たちも、彼らにとっては危険な存在なのだ。
 やがてボルマン親子も細菌に感染。父親は娘を犯して自殺をとげ、娘は兵士たちに取り囲まれて銃殺される。一方、ようやく治療薬を開発することに成功した科学者は指揮官ベッケム大佐(ロイド・ホーラー)へ報告に向かうが、規則だらけの軍隊に行く手を阻まれ、狂った群衆に呑み込まれてしまう。
 そしてその頃、軍の失態と機密情報の漏洩を恐れた幹部や政治家たちは、非情な決断を下そうとしていた。果たして、ベッケム大佐は最悪の事態を回避することが出来るのか?そして、デヴィッドたちは無事に町を脱出することが出来るのか?

 ある日突然、のどかな田舎町が戦場へと変わってしまう不条理。罪なき人々を問答無用で追い立て隔離する軍隊の理不尽。そして、人命よりも国家の威厳と体面を保つことしか考えない権力の身勝手。危機的な状況の中で前後の見境を失っていく兵士たちの心理も恐ろしいが、そんな彼らを捨て駒のようにしか考えていない冷酷な権力者たちはさらに罪深いと言えよう。
 これは、当時泥沼化の一途を辿っていたベトナム戦争を痛烈に批判した作品と見ていいだろう。ロメロ監督はドキュメンタリー・タッチの乾いた演出を貫いている。インディペンデントの低予算映画ゆえに派手な見せ場こそ少ないものの、大勢のエキストラを動員したダイナミックな映像には彼の並々ならぬ力量と情熱を感じることが出来るだろう。
 ピッツバーグという地方都市で、ハリウッドの映画界とは距離を置きながら地道な活動を続ける一介の独立系映像作家が、このようにスケールの大きな作品にチャレンジしたこと自体が驚くべきことであり、それを見事にものにしたロメロ監督の才能は当時もっと評価されてしかるべきだったろう。
 ただ、そのインディペンデントであるがゆえに十分な宣伝がなされず、そもそも全米の配給網に乗せることすら困難だった。それゆえ、当時は一部の映画館でしか上映されず、リアルタイムで見た人は少なかったようだ。
 いずれにせよ、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』でゾンビの襲来という物語の中に現代アメリカ社会の暗部を風刺したロメロ監督は、本作で権力の偽善と戦場の狂気をホラー・パニックという形で皮肉った。この2本の映画が、その後の傑作『ゾンビ』へと結実したと見ていいだろう。つまり、これはロメロ監督のフィルモグラフィーを語る上で、決して外すことのできない重要な作品なのだ。

 ちなみに、日本では当時劇場未公開だったものの、その後同じような細菌パニックと軍部の陰謀を描いたイタリア映画『カサンドラ・クロス』(75)が大ヒットしたことから、『第2のカサンドラ・クロス/細菌兵器に襲われた街』というタイトルでテレビ放送されている。
 さらに、ビデオの普及によって世界各国のホラー映画ファンから再評価され、現在はカルト映画として高い人気を誇っている本作。2010年2月には『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』(05)のブレット・アイズナー監督によるリメイク版の全米公開も控えている。
 そんな絶好のタイミングで、映像特典満載の特別版DVDが発売されることになった。以前にも日本盤DVDは発売されていたものの、決して画質が良いとは言えないような代物だったし、映像特典も予告編だけという粗末な仕様だった。それゆえに、コアなホラー映画ファンは画質良好で映像特典も満載のアメリカ盤DVDに走っていたわけだが、今回の特別版では高画質のデジタル・ニューマスターを使用。アメリカ盤にも収録されていた映像特典に加え、『ゴールデン洋画劇場』で放送された当時の日本語吹替えまで収録されている。
 しかも、アメリカ劇場公開時のビスタサイズ版と共に、マスキング処理を施す前の撮影時フルフレーム・フォーマット版まで特典ディスクに丸まる収録というオマケ付き。恐らく、世界で一番豪華で手の込んだソフト化と言えるだろう。

 なお、最後にトリビア・ネタなどを幾つか紹介しておこう。まず、エンド・クレジットで流れるテーマ・ソングについて。なんとこれ、グラミー賞歌手メリッサ・マンチェスターと盟友キャロル・ベイヤー・セイガーのゴールデン・コンビが作曲を手掛けているのだ。後に“Midnight Blue”や“Come In From The Rain”などの名曲を次々と生み出すことになる二人だが、当時はまだほぼ無名に等しい存在。この“Heaven Help Us”というナンバーはメリッサ自身のレコーディングも残されていないので、かなり貴重なトラックと言えるだろう。
 また、ボルマン親子の父親アーティ役を演じているリチャード・リバティーは、後にロメロの『死霊のえじき』でゾンビの調教実験をするドクター・ローガン役を演じることとなる俳優。その娘役のリン・ローリーは、狂犬病でヒッピーや町の住民が狂って殺し合いをするというカルト・ホラー『処刑軍団ザップ』(70)でも知られる有名なカルト女優だ。

 

戻る