深海ホラー&ファンタジー・コレクション

 

ピラニア
Piranha (1978)
日本では1978年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済
※米国盤DVDと日本盤DVDは映像特典を含めて別仕様

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(P)2010 Shout Factory (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/93分/制作:アメリカ

特典映像
公開当時のメイキング映像
最新メイキング・ドキュメンタリー(出演:ロジャー・コーマン、ジョー・ダンテ、マーク・ゴールドブラット、フィル・ティペット、クリス・ウェイラス、ロバート・ショート、ディック・ミラー、ベリンダ・バラスキー、メロディ・トーマスなど)
ジョー・ダンテ&ジョン・デヴィッドソンによる音声解説
NGシーン&未使用シーン集
全米テレビ放送版の追加シーン集
オリジナル劇場予告編(ジョン・デヴィッドソンによる音声解説付き)
ポスター&スチル・ギャラリー
メイキング・フォト・ギャラリー(フィル・ティペットの個人所蔵)
ラジオ&テレビ・スポット集
ニューワールド映画予告編集
監督:ジョー・ダンテ
製作:ジョン・デイヴィソン
共同製作:チャコ・ヴァン・リューウェン
製作総指揮:ロジャー・コーマン
脚本:ジョン・セイルズ
撮影:ジェイミー・アンダーソン
音楽:ピノ・ドナッジョ
出演:ブラッドフォード・ディルマン
   ヘザー・メンジーズ
   ケヴィン・マッカーシー
   キーナン・ウィン
   バーバラ・スティール
   ディック・ミラー
   ポール・バーテル
   ブルース・ゴードン
   ベリンダ・バラスキー
   メロディ・トーマス
   バリー・ブラウン

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山奥の施設に迷い込んだ男女カップル

プールの中に潜む“何か”によって襲撃される

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そそっかしい女性調査員マギー(H・メンジーズ)

飲んだくれの案内員ポール(B・ディルマン)を雇う

 深海ホラー&ファンタジーと銘打っておきながら、いきなり川もので申し訳ない(笑)。こちらは『ジョーズ』ブームの真っただ中に作られた純然たる亜流映画でありながら、ただの“柳の下のドジョウ”では片づけることのできない勢いとパワーを持った快作。本家の巨大な人食いザメに対して、こちらは凶暴なピラニアの大群で応酬だ。
 しかも、正義やら家族愛やら男の美学やらといった本家の蛇足的なヒューマニズムを一切排し、自己チューで軽率で浅はかな人々の巻き起こす負の連鎖が大惨事へと至っていく過程を、悪乗り気味のブラック・ユーモアを交えながら軽快なタッチで描いていく点がなんとも面白い。どうせ低予算のパチもの映画なんだし、とことん遊びまくって楽しんじゃおうぜ!というロジャー・コーマン門下生たちの心意気(?)が伝わって来る愉快なB級ホラー・エンターテインメントである。
 舞台はテキサスの山間部。行方不明の若い男女を探しに来た女性調査員マギーと飲んだくれの案内人ポールは、山奥にひっそりとたたずむ軍施設へとたどり着く。で、2人はプールの底を確認するため、科学者の止めるのも聞かずに放水バルブをオープン。ところが、このプールにはベトナム戦争の生物兵器として開発された新種のピラニアが大量に棲息していたもんだから、さあ大変。獲物を求めて川を下っていくピラニアの群れ、それをなんとか食い止めようと奔走するマギーとポール。折しも、下流の町は高級リゾート施設のオープン・セレモニーや子供たちのサマー・キャンプで賑わっていた。しかし、駆け付けた軍隊や地元開発業者らの利害や思惑などが絡み、事態はどんどん悪化の一途をたどっていく…。
 とりあえず、軍施設に迷い込んだ若い男女がプールでピラニアに襲われる冒頭シーンでそれっぽいクリーチャー・ホラー的雰囲気を醸し出しつつ、ちょっとピントのはずれたマギーといまいち頼りにならないポールが登場する辺りから物語は徐々に脱線。で、ハリーハウゼンもどきのミニチュア・モンスターがウロチョロしている軍施設のラボ・シーンへと至ったところで、ようやく観客はこの作品の素性を理解することになる。あ、これはパロディなんだな、と(笑)。
 実際、本作はキャスティングを含めて古き良き時代のB級ホラー&ファンタジー映画へ対するオマージュがあちこちに散りばめられており、マニアによるマニアのためのお遊びムービー的な側面を併せ持っていると言えよう。かといって、単なるマニアの内輪受けネタに終始しているわけじゃないというのはさすが。その後『ハウリング』('81)や『グレムリン』('84)、『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』('93)などといった、一般受けするオタク映画でヒットを連発していくジョー・ダンテ監督の見事なバランス感覚はもちろんのこと、『ベイビー・イッツ・ユー』('83)や『ブラザー・フロム・アナザー・プラネット』('84)で米インディペンデント界を席巻することになるジョン・セイルズによる遊び心たっぷりな脚本の魅力も大きい。作り手側が存分に楽しんでいるという雰囲気が作品全体を通して伝わって来る点も好印象だ。
 なお、本作は『ジョーズ』亜流映画として異例の成功を収めたばかりではなく、ロジャー・コーマン率いるニューワールド・ピクチャーズにとっても会社創設以来最大の興行収入を稼ぎ出すメガヒットとなった。'81年にはジェームズ・キャメロン監督による続編『殺人魚フライング・キラー』もヒットし、'95年にはオリジナル版のフィルムを流用したリメイク『ザ・ピラニア/殺戮生命体』も登場。さらに、昨年はフレンチ・バイオレンスの鬼才アレクサンドル・アジャ監督による3Dリメイク『ピラニア3D』('10)も大ヒット。そのエログロ炸裂の悪ノリ加減は'78年版を遥かに凌ぐものがあった。

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山奥の施設はもともと軍の実験場だった

施設のラボには奇妙な生物が…

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放水バルブの開放を止めようとするホーク博士(K・マッカーシー)

のどかに釣りを楽しむ老人ジャック(K・ウィン)だったが…

 真夜中に森をさ迷うバックパッカーの若い男女デヴィッド(ロジャー・リッチマン)とバーバラ(ジェイニー・スクワイア)。彼らは地図に載っていない怪しげな施設へと紛れ込む。何も疑うことなく裸になってプールへ飛び込む2人。ところが、断末魔の悲鳴を上げながらデヴィッドが水中へと引きずり込まれ、続いてバーバラも血みどろになって息絶える。
 お調子者でそそっかしい女性調査員マギー(へザー・メンジーズ)は、失踪したデヴィッドとバーバラを探すため、山間の小さな町ロスト・リバー・レイクへとやって来る。飲んだくれで気の短い森林ガイドのポール(ブラッドフォード・ディルマン)を雇った彼女は、山奥にある巨大な施設へと向かった。ここはかつて軍の実験施設だったのだが、ベトナム戦争が終結したことから数年前に閉鎖されたのだという。もしかすると、森で道に迷ったデヴィッドとバーバラがここに避難しているかもしれないというわけだ。
 嫌がるポールを無理やり連れて施設へと不法侵入したマギー。2人はそこでデヴィッドとバーバラの荷物を発見する。プールの底を確認せねばと考えたマギーが放水バルブを開こうとしたところ、物音を聞きつけた科学者ホーク博士(ケヴィン・マッカーシー)が止めに入る。だが、博士を狂人と勘違いしたマギーとポールは彼を殴り倒し、プールの水を外へと流してしまった。
 プールの底で発見されたのはデヴィッドとバーバラらしき人骨。いったいこの施設は何なのか?すると、意識を取り戻したホーク博士がマギーの車を奪って逃走。そのまま運転を誤って車ごと横転してしまった。怪我を負った博士を救出した2人は、ポールの自宅へと彼を運び込んで看病する。
 翌朝、車を失ったマギーとポールは、筏を使って川を下り博士を町へ連れて行くことにする。その途中で2人は、ポールの唯一の友達である老人ジャック(キーナン・ウィン)の死体を発見。その両足は動物か何かに食い尽くされていた。ホーク博士によると、施設のプールには大量のピラニアが棲息していたのだという。しかも、それはベトナム戦争の生物兵器として開発された新種で、淡水でも海水でも生存が可能。博士は施設の閉鎖に伴って殺処分しようとしたのだが、それでもなお生きながらえながら繁殖を続けた最強の肉食魚だちだった。それが今や大自然へと解き放たれてしまったのである。
 折しも、下流の町では大規模なリゾート施設のオープニング・セレモニーを控え、多くの観光客が集まっていた。しかも、その付近はサマー・スクールのキャンプ地となっていて、大勢の子供たちが川遊びを楽しんでいる。その中には、ポールの愛娘スージー(シャノン・コリンズ)の姿もあった。急いで町の人々に危険を伝えなくてはいけない。川下りを急ぐ一行だったが、その途中で転覆したカヌーに取り残された少年を救おうとして、ホーク博士がピラニアの餌食となってしまった。頼みの綱である博士を失い、どうやってピラニアの大群を退治すればいいのかと途方に暮れるマギーとポール。しかも、博士の血の臭いを嗅ぎつけたピラニアたちが筏へと群がって来る。
 なんとか間一髪で岸へとたどり着いたポールたちは、貯水ダムの放水をギリギリでストップさせ、軍隊に助けを求めることにする。ほどなくして、ワックスマン大佐(ブルース・ゴードン)とメンジャーズ博士(バーバラ・スティール)の率いる特殊部隊が到着。しかし、彼らはダムに流れ着いたピラニアたちを毒薬で殺処分しただけ。支流をつたって別ルートで川を下って行ったピラニアのいる可能性や、そもそも毒薬の効き目がない可能性などを訴えるポールたちの言葉を完全に無視し、これにて一件落着を決め込もうとする。それでもなお食い下がらないポールとマギーを大佐は監禁。事件を闇に葬り去ろうとする。
 そこで、ポールたちは軍のジープを奪って逃走。一刻も早く町へたどり着かねばならない。だが、その途中で2人は保安官(バリー・ブラウン)に交通違反で捕えられてしまう。必死で事情を説明するポールだったが、飲んだくれのトラブルメーカーとして有名な彼の言葉に保安官が耳を傾けてくれるはずもなく、問答無用で留置所へ入れられてしまった。
 翌朝、保安官から留置所の鍵を奪って脱走したポールとマギーは急いで町へと向かう。だが時すでに遅く、水遊びをしていたサマー・キャンプの子供たちがピラニアの大群に襲われ、心優しい指導員ベッツィー(ベリンダ・バラスキー)ら多くの命が犠牲になってしまった。なんとか娘スージーの無事を確認したポール。一方、マギーはリゾート施設のオーナー、ガードナー氏(ディック・ミラー)に電話で危険を伝えるものの、あえなく無視されてしまった。
 そのリゾート施設のオープニング・セレモニーにはワックスマン大佐やメンジャーズ博士も参加。実は彼らもリゾートに多額の資金を投資しており、ピラニア騒動なんぞで出ばなをくじかれるわけにはいかなかったのである。ピラニアの大群が迫っているとも知らずに水遊びを楽しむ大勢の観光客たち。やがて、のどかな川辺を舞台に阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されることとなる…。

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プールに棲息していたのは生物兵器のピラニアだった

少年を助けようとしてピラニアの餌食になるホーク博士

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イカダに襲いかかるピラニアの大群

軍隊がピラニアの退治に当たるのだったが…


 とにかくまあ、登場人物たちが揃いも揃ってバカなこと(笑)!欲の皮のつっぱったワックスマン大佐やメンジャーズ博士、ガードナー氏ら悪人はもちろんのこと、すぐにカッとなって人の言うことに耳を貸さなくなるポール、思いつきの行動で間違った選択ばかりしながら反省の色も示さない超前向き(?)なマギー、独善的で無計画かつ無責任なホーク博士といった主人公たちのハタ迷惑なことといったら。当然、本人たちは自分らが事態を悪化させているという自覚など一切ナシ。しかも、たどり着いた解決策は明らかに環境破壊ときたもんだ。思慮分別に欠ける善意は悪意よりもタチが悪いってなわけで、その辺りの逆説的な皮肉を効かせた語り口というか、単細胞なヒロイズムを茶化したストーリー展開が実に小気味良い。とどのつまり、善人だろうと悪人だろうとバカは百害あって一利ナシなのである(笑)。
 で、重要な見せ場であるピラニアの襲撃シーンはというと、低予算ゆえのチープでチャチな印象は拭えないものの、それでも様々なアイディアを凝らしつつ賑やかに仕上げているところは立派。終盤の群衆パニックもなかなかのスケールと迫力だし、子供だからといって容赦することなくバンバン食い散らかしていくのも痛快だ。ただし、ピラニアを動かすための棒を隠さねばならないためにクロースアップ・ショットが多いし、なおかつデザインの粗を誤魔化すためにやたらと編集が細かいので目がチカチカしてしまうのは玉にキズ。また、スプラッター描写がワリと控え目なところも、今の観客には少々物足りなく感じられるかもしれない。血のりの量だけはハンパないのだけど。
 もともとニューワールド・ピクチャーズが単独で製作に着手した本作。実は、オープニング・シーンを撮り終えた段階で資金不足を理由に一度は製作が中止されたのだという。ダンテ監督も製作のジョン・デイヴィソンも、撮影した分はストック・フッテージとして別の作品で流用するつもりだったらしい。ところが、この決定に不服だったのが共同製作者チャコ・ヴァン・リューウェン(元日活女優の筑波久子)。ロジャー・コーマンのオフィスに乗り込んでいった彼女は、それはものすごい剣幕で撮影中止の決定に抗議したのだそうだ。で、恐れをなした(?)コーマンがユナイテッド・アーティスツからの資金提供を取り付けたところ、製作費の予算はもとの倍以上に。めでたく撮影が再開されることとなったのだった。
 主なロケ地はテキサスのサン・マルコス。ただし、森林シーンの一部はロサンゼルスのグリフィス・パークにて撮影されており、また軍施設のプールも同じくロス市内のサマー・スクール施設が利用されている。さらに、水中シーンの撮影は全てホリデイ・インのプールを活用。川底のどんよりとした雰囲気を出すため、プールの水に牛乳を混ぜて撮影したのだという。リゾート施設のパニック・シーンではロケ地の地元住民をエキストラとして起用。当然のことながら組合に入っていない素人ばかりなので、報酬は1日5ドルの現金とランチだけで済んだそうだ。

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地域住民への警告を渋るワックスマン大佐(B・ゴードン)

人の命を屁とも思わない冷酷なメンジャーズ博士(B・スティール)

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軍のジープを奪って逃走したポールとマギー

事情を知らない保安官(B・ブラウン)に捕えられてしまう

 ロジャー・コーマンのもとで編集者として下積みを経験してきたジョー・ダンテ監督にとって、アラン・アーカッシュと共同で演出を手掛けた『ハリウッド・ブルバード』('76)に続いてこれが劇場用長編映画2作目。学生時代からの親友であるジョン・デイヴィソン(後に『ロボコップ』シリーズなどを製作)が製作を手掛け、日活のプログラム・ピクチャーで活躍した日本の女優・筑波久子がチャコ・ヴァン・リューウェンの名前で共同製作に名を連ねている。
 そして、'80年代の米インディペンデント映画界を代表する名匠ジョン・セイルズが原案と脚本を担当し、監禁されたポールとマギーを見張る兵士役としてカメオ出演。原案にはカルト映画『巨大グモ軍団の襲撃』('77)のリチャード・ロビンソンも参加している。
 さらに、撮影監督には『スモール・ソルジャーズ』('98)や『ギフト』('00)のジェイミー・アンダーソン、編集には『ターミネーター2』('91)でオスカー候補になったマーク・ゴールドブラット、特殊メイクには『トータル・リコール』('90)でオスカーを受賞したロブ・ボッティン、特殊効果スタッフとして『ザ・フライ』('86)でオスカーを受賞したクリス・ウェイラスや『ビートルジュース』('88)でオスカーを受賞したロバート・ショート、クリーチャー・デザインには『スターウォーズ/ジェダイの復讐』('83)と『ジュラシック・パーク』('93)でオスカーを受賞したフィル・ティペットが参加するなど、後にハリウッドの大御所となる錚々たる才能たちが結集。みんなロジャー・コーマンの門下生だったわけだから凄いとしか言いようがない。
 また、ブライアン・デ・パルマ監督とのコラボレーションでも有名なイタリアの作曲家ピノ・ドナッジョが音楽スコアを担当。ダンテ監督との直接的なやり取りは一切なかったらしく、アメリカから送られた映像資料をもとにローマでレコーディングが行われたという。そのギャラはオーケストラの人件費やスタジオ代など全てを含めて1万ドル。ハリウッドで制作するよりも遥かに安上がりだったそうだ。
 ちなみに、キャスティングを担当したスーザン・アーノルドは『大アマゾンの半魚人』('54)などで有名な映画監督ジャック・アーノルドの娘。もともとは女優として本作のオーディションを受けたものの、緊張のあまり椅子からズッコケてしまい不合格に。ただ、その人柄がスタッフから気に入られたおかげでキャスティング担当として採用され、本作をきっかけにキャスティング・ディレクターとして活躍するようになった。さらに、大物作曲家ジェリー・ゴールドスミスの息子で、自らも作曲家としてTVドラマ『スターゲイト』シリーズなどを手掛けているジョエル・ゴールドスミスがロケ現場の録音係を担当。ところが、セリフのあるシーンでなぜだか川の波の音を拾ってしまったりと失態の連続。ダンテ監督曰く“作曲家としての才能はあるのかもしれないが、録音係としては本当に
最低だった”とのことだ。
 なお、ポスター・デザインやプロットなどに『ジョーズ』との類似点が多いことから、一時はユニバーサル映画から著作権の侵害で訴えられそうになったことがあるという。しかし、本編を見たスピルバーグ監督がいたく気に入ったらしく、その意向を受けてユニバーサルも告訴を取りやめたのだそうだ。その後、ダンテ監督は『トワイライト・ゾーン/超次元の体験』('83)でスピルバーグと一緒に仕事をし、さらに彼の製作のもとで『グレムリン』や『インナースペース』('87)を監督することになるのは、みなさんご存知の通り。

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下流のリゾート施設には大勢の人が集まっていた

サマーキャンプの子供たちがピラニアに襲撃される

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リゾート施設に警告の連絡を入れるマギーだったが…

オーナーのガードナー氏(D・ミラー)はガン無視する

 主人公の飲んだくれ親父ポールを演じているのは、『大襲来!吸血こうもり』('74)や『燃える昆虫軍団』('75)、『スウォーム』('78)などの動物パニック・ホラーでお馴染みのカルト俳優ブラッドフォード・ディルマン。もともとは、黒髪のハンサムな二枚目俳優として20世紀フォックスから売り出された人である。デビュー作『ある微笑』('58)では大女優ジョーン・フォンテインらを向こうに回して堂々の主演を張り、ゴールデン・グローブの新人賞も獲得するなどスター候補として有望視されていたが、カリスマ性に乏しいこともあって伸び悩んだ。『燃える昆虫軍団』でも次第に頭がおかしくなっていく生物学者を大熱演していたが、こういう社会不適合者のアウトローを演じさせるとなかなか上手い。
 一方、過剰に前向きな正義感で周囲に混乱を招く最強の天然娘マギー役を演じているのが、同じく動物系カルト・ホラー『怪奇!吸血人間スネーク』('73)のヒロイン役で知られる女優ヘザー・メンジーズ。『サウンド・オブ・ミュージック』('64)の次女ルイーザ役で記憶している映画ファンも多いかもしれない。当時の彼女は人気TVドラマ『未知への逃亡者/ローガンズ・ラン』('77〜78)に主演しており、“低予算映画にはギャラは安いけど知名度の高いテレビスターが必要不可欠”というコーマンの法則に従って起用されたのだそうだ。
 さらに、新種のピラニアを開発した科学者ホーク博士役には、SFホラーの金字塔『ボディスナッチャー/恐怖の街』('56)で有名な名優ケヴィン・マッカーシー。同時期にカメオ出演した『SF/ボディ・スナッチャー』('78)を彷彿とさせるクレイジーな演技でファンを楽しませてくれる。また、ポールの唯一の友人である隠居老人ジャック役には、『アニーよ銃をとれ』('50)や『キス・ミー・ケイト』('53)、『博士の異常な愛情』('64)など数多くの名作で強烈な個性を発揮した名脇役キーナン・ウィンが登場。『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』('60)などロジャー・コーマン作品の常連として有名なディック・ミラーが、リゾート施設の強欲なオーナー役で顔を出している。
 そのほか、マリオ・バーヴァ監督の『血ぬられた墓標』('60)を皮切りにイタリアン・ホラーの女王となったバーバラ・スティール、人気ドラマ『アンタッチャブル』('59〜63)のフランク・ニッティ役でお馴染みのブルース・ゴードン、ロバート・ベントン監督の『夕陽の群盗』('72)などアメリカン・ニューシネマのスターとして注目されたバリー・ブラウン(本作の撮影終了直後に自殺)、『デスレース2000年』('75)などカルト映画の監督として有名なポール・バーテルらが出演。ちなみに、ベリンダ・バラスキー演じるベッツィーがキャンプファイアの周りで子供たちに話して聞かせる怪談話は、『血ぬられた墓標』のストーリーがベースになっている。

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ピラニアに食い散らかされる観光客たち

賑やかな川辺は一転して大パニックに

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食欲旺盛なピラニアの大群

ポールとマギーのたどり着いた解決策とは…?

 なお、ケヴィン・マッカーシーとディック・ミラー、ベリンダ・バラスキーの3人は、本作をきっかけにジョー・ダンテ作品の常連組として数多くの作品へ出演することに。当時まだ端役ばかりだったバラスキーは、ベッツィーがピラニア軍団に食い殺されるシーンの撮り直しを引き受ける際、交換条件としてオープニング・クレジットに自分の名前を載せるようコーマンと交渉したのだそうだ。
 そのベッツィーの同僚ローラ役を演じているメロディ・トーマスは、その後美容整形でイメージを変えてゴージャスな昼メロ女優として成功。また、水上スキーヤーとしてチラリと顔を出しているイケメン、ダイヤモンド・ファーンズワースは『グレイフォックス』('83)や『ストレイト・ストーリー』('99)で有名な元スタントマンの名優リチャード・ファーンズワースの息子で、現在は自らもスタントマンとして数多くのハリウッド大作に携わっている。

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兵士役でカメオ出演している脚本のジョン・セイルズ

カルト映画監督としても有名なポール・バーテル

 

 

ジュラシック・ジョーズ
Up From The Depth (1979)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本発売済
※米国盤DVDと日本盤DVDは映像特典や画面サイズなど別仕様

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(P)2010 Shout Factory (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/85分/製作:フィリピン・アメリカ
※「彼女がトカゲに喰われたら」同時収録

特典映像
TV&ラジオ・スポット集
オリジナル劇場予告編
メイキング・ドキュメンタリー(ロジャー・コーマン、クリス・ウェイラス、ロバート・ショート出演)
監督:チャールズ・B・グリフィス
製作:シリオ・H・サンチャゴ
製作総指揮:ロジャー・コーマン
脚本:アルフレッド・M・スウィーニー
   アン・ダイヤー
撮影:リカルド・レミアス
音楽:ジェームズ・ホーナー
出演:サム・ボトムズ
   スザンヌ・リード
   ヴァージル・フライ
   ケドリック・ウォルフ
   チャールズ・ハワートン
   デニーズ・ヘイズ

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調査のためダイビングをしていた女性が未確認生物に襲われる

助手を失って茫然自失のホワイティング博士(C・ハワートン)

 ロジャー・コーマン率いるニューワールド・ピクチャーズが、フィリピン産C級映画の帝王シリオ・H・サンチャゴとタッグを組んだパチもの深海ホラーである。一応『ジョーズ』の亜流映画ということになるのだろうが、サメというよりもミュータントと呼ぶべき古代魚クリーチャーといい、バカで間抜けな登場人物たちによる自業自得な大惨事といい、明らかに『ピラニア』の二番煎じを狙った作品。ただし、こちらはどうも作り手までバカと間抜けが揃っていたようなのだが…(笑)。
 舞台は常夏の島ハワイ。海底地震の影響によって巨大で凶暴な古代魚が蘇えり、観光客やダイバーたちが一人また一人と餌食になっていく。しかし、リゾート・ホテルの関係者も観光客たちも危機感ゼロ。とりあえず漁船の船長グレッグと恋人のレイチェル、そして海洋生物学者ホワイティングの3人だけがモンスターの存在に気付くものの時すでに遅く、観光客で賑わう砂浜は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わり果てる…。
 と、ここまでは亜流『ジョーズ』映画の定番的なストーリー。しかし、この後が本作のある意味でオリジナルな流れになっていく。というのも、このままではホテルが潰れてしまう!と焦ったマネージャーが、懸賞金を出して宿泊客にモンスター狩りをけしかけるのだ。欲に駆られた人々がおのおの槍やら刀やらを手にして出陣するものの、もちろんみんな素人なので現場はシッチャカメッチャカ。そんなバカ者たちの失態ぶりがユル〜いタッチで展開していく…と思ったら、いつの間にかモンスターがめでたく退治されてジ・エンドと相成るわけだ。
 そう、とにかく全篇を通してユルい。こいつを楽天的だとか能天気だとか決して呼んではなるまい。明らかに、作ってる奴らの手抜き。お前ら絶対にやる気ないだろう、といった感じなのだ。編集も適当だし、役者の演技も学芸会並みだし、テンポは遅いし、ギャグは寒いし、モンスターはしょぼいし。すっ呆けた観光客たちのトンチンカンな人間模様を延々と見せられるのもイラつく。そもそも、これだけ緊迫感のないパニック・シーンというのも珍しいだろう。エキストラの数だってそこそこ揃えているのに。しかも、映画的カタルシスの微塵もないクライマックスときたら!
 とりあえず一番印象に残っているのは、日本刀を片手に褌一丁でモンスター狩りに出かけようとする日本人のスキさん。スキヤキのスキだそうです(笑)。真っ黒に日焼けした濃い顔といい、チンプンカンプンな片言の日本語といい、明らかに日本人じゃないんだけど、なんだか妙に微笑ましい。あとは、この手のC級映画には美人過ぎるヒロイン役のスザンヌ・リードくらいかな。それ以外はもう、いかにもサンチャゴ印な安っぽさ。ひとまずフィリピーノ・エクスプロイテーションのマニア(そんなのがいればの話だけど…)ならば一見の価値ありといったところだろうか。

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自由気ままな漁船船長グレッグ(S・ボトムズ)

恋人レイチェル(S・リード)は海の異変に不安を感じていた

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海底で女性の手首が発見される

独善的なホテル・マネージャー、フォーブス(K・ウォルフ)

 ハワイのマウイ島で海洋生物の調査を行っていたホワイティング博士(チャールズ・ハワートン)と助手の学生サンディ(ドロシー・バーハム)。若いサンディが水中に潜り、博士はボートの上で待機していた。ところが、その最中に海底で地震が発生し、サンディは正体不明の巨大生物に襲われて絶命する。水面に浮かんできたサンディの潜水具と、辺り一面に広がった赤い血の色を目にしたホワイティング博士は途方に暮れる。
 その頃、リゾートホテル近辺の海岸では無残に食い散らかされたサメの死体が発見され、広報責任者のレイチェル(スザンヌ・リード)は嫌な胸騒ぎを覚える。恋人の漁船船長グレッグ(サム・ボトムズ)に事情を伝えるレイチェルだったが、何事にも楽観的で自由気ままな彼は考え過ぎだと言うばかり。一方、地元住民が海底でサンディのものらしき女性の手首を発見するが、その報告を受けたホテルのマネージャー、フォーブス(ケドリック・ウォルフ)は知らぬふりを決め込む。ホテルの領海で見つかったわけではないし、そもそもそんな物騒な話が広まったらホテルの客足に響くからだ。
 グレッグと叔父のアール(ヴァージル・フライ)は、ホテルの観光客を連れて海底の宝探しに出かけた。ところが、そこでグレッグの助手が巨大生物に襲われてしまう。あれは明らかにサメじゃない。ようやく近海での異変に気付いたグレッグは、レイチェルを連れて調査に出かけた。しかし、グラビア写真の撮影に来た人気女優アイリス・リー(デニーズ・ヘイズ)をはじめ、海のバカンスを楽しむ観光客たちが次々と巨大生物の餌食となっていく。
 そして、グレッグとレイチェルの乗ったボートも巨大生物に襲撃されて沈没。だが、そこへホワイティング博士のボートが駆けつけ、間一髪で2人を救助する。漁民から集めたサンプルを調査していた博士は、例の巨大生物が絶滅したはずの古代魚ではないかと考えていた。恐らく、この間の海底地震によって蘇ったのであろう。
 警察のパトロール船で武器を調達したグレッグたちは、観光客で賑わうリゾートホテルのビーチへと急いで向かった。凶暴な古代魚が近づいていることを知らせねばならないからだ。しかし到着するのが一歩遅く、ビーチは大パニックに陥っていた。迫りくる古代魚に弾丸の嵐を浴びせたグレッグだったが、残念ながら取り逃がしてしまう。
 翌日、ホテルのロビーは家路を急ぐ宿泊客でごった返していた。古代魚襲来のニュースを取材するマスコミも大挙して押し寄せている。このままではホテルが潰れてしまうと頭を抱えるフォーブスだったが、ふとある名案がひらめく。モンスター退治に懸賞金を出そうというのだ。なにしろ話題性があるし、懸賞金狙いの観光客も留まるはずだ。
 案の定、多くの観光客が1000ドルの懸賞金欲しさにホテルへ残ることを決め、おのおの武器を手に取って古代魚狩りへと出かけて行った。一方、グレッグとレイチェル、アールの3人も武器や爆薬を積みこんだボートを用意して、古代魚を仕留めるために大海原へと乗り出していく…。

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グレッグの仲間も巨大生物の餌食になった

近海の調査に出かけるグレッグとレイチェル

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ついにその姿を現した凶暴な古代魚

リゾート・ホテルの浜辺は大パニックに

 監督はロジャー・コーマン組の脚本家として『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』('60)や『デスレース2000年』('75)などを手掛けたチャールズ・B・グリフィス。ロン・ハワード主演のカーレース映画『レーシング・ブル』('76)やオリバー・リード主演のブラック・コメディ『Dr.ヘキルとMr.ハイプ』('80)などの監督作も残している人だ。正直なところ演出家としては決して才能に恵まれているとは言えないものの、かのタランティーノも尊敬する映画人として彼の名前を挙げており、一部にコアなファンを持つカルトな映画監督である。
 製作を務めるシリオ・H・サンチャゴは、'70年代から'80年代にかけて数えきれないほどの超低予算アクション映画を手掛けたフィリピンの映画監督。『TNTジャクソン』('75)を筆頭にロジャー・コーマンと組んだ作品も少なくない。質よりも量という姿勢があまりにもあからさまなので、個人的にあまり好感をもってはいないのだが…。
 脚本を手掛けたアルフレッド・M・スウィーニーとアン・ダイヤーについては詳細不明だが、ダイヤーの方はもともとコーマンのアシスタントだった女性らしく、同じくコーマンが製作を手掛けた『宇宙の7人』('80)の脚本でもリライトに参加している。撮影監督はサンチャゴ組のカメラマン、リカルド・レアミス。特殊効果はロバート・ショートとクリス・ウェイラスが担当しており、フィリピンの撮影現場にも参加。水恐怖症だったウェイラスは、本作の仕事でそれを克服したのだそうだ。また、『タイタニック』('97)でオスカーを受賞した大御所ジェームズ・ホーナーがノークレジットで音楽スコアを担当したようだが、これもアメリカ公開版のために追加されたスコアだと推察される。
 なお、ハワイが舞台となっているこの作品。実際の撮影はフィリピンで行われている。また、'87年には深海モンスターを爬虫類系ミュータントへと変更し、シリオ・H・サンチャゴ自身が演出を手掛けたリメイク作『彼女がトカゲに喰われたら』('87)という作品が作られているものの、こちらはうっかり真面目にモンスター・ホラーを志しちゃったおかげで、なんの面白みもない凡庸なクズ映画となってしまった。そう考えると、どれも寒いギャグばかりとはいえ、出来の悪さをユーモアで誤魔化そうとした本作は間違っていなかったのかもしれない。

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グレッグたちは古代魚に銃弾を浴びせるのだったが…

遠のく客足を食い止めようと古代魚狩りに懸賞金を出すフォーブス

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日本人のスキさんらが次々に狩りへと出陣する

グレッグ、レイチェル、ホワイティング博士らも海へ乗り出していく

 自由気ままな一匹狼の主人公グレッグ役を演じているのは、『地獄の黙示録』('79)のサーファー兵士役で知られる俳優サム・ボトムズ。ティモシー、ジョセフらボトムズ兄弟の3男としても有名かもしれない。アメリカン・ニューシネマの時代に脚光を浴びた兄たちに比べると地味な人だったが、こういうボヘミアン気質の明朗快活な若者役は彼の個性にあっている。
 その恋人であるレイチェル役を演じているスザンヌ・リードについては詳細不明だが、どうやらテレビ・ドラマを中心に活動していた女優さんで、映画への出演はほんの僅かだった様子。また、海洋生物学者というワリにはあまり役に立っていないホワイティング博士役のチャールズ・ハワートンは、最近でも映画やテレビでよく軍人役などを演じているのを見かける。
 そのほか、『ニンジャU・修羅ノ章』('83)で刑事役を演じていた元ボクサーのヴァージル・フライ、チャールズ・B・グリフィス監督作品の常連組ケドリック・ウォルフなどが脇を固めている。

 

 

バミューダの謎/魔の三角水域に棲む巨大モンスター!
The Bermuda Depths (1978)
日本では劇場未公開・テレビムービー
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2010 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤DVD-R)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/97分/製作:アメリカ・日本

※DVD DownloadによるMOV盤のため、PCドライブでは再生できない可能性あり

特典映像
なし
監督:トム・コタニ
製作:アーサー・ランキンJr.
   ジュールス・バス
脚本:ウィリアム・オーヴァーガード
撮影:ジェリ・ソパネン
音楽:モーリー・ローズ
出演:リー・マクロスキー
   カール・ウェザース
   コニー・セレッカ
   バール・アイヴス
   ジュリー・ウッドソン
   ルース・アッタウェイ

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砂浜で眠る若者に近づく謎めいた美女

少年マグナスと初恋の少女ジェニー

マグナスの父親は謎の死を遂げる

成長して島へ戻ったマグナス(L・マクロスキー)

 アメリカではカルト映画として根強い支持を得ている伝説的なテレビ・ムービー。“魔の三角地帯”とも呼ばれるバミューダ海域を舞台に、少年時代の思い出を追い求めてこの地へ舞い戻って来た若者と謎めいた初恋の女性との恋愛ロマンスを軸としながら、地元に古くから語り継がれてきた精霊伝説と海底に潜む巨大な亀の謎が描かれていく。
 とりあえず、ストーリーそのものは極めて平凡だし、日本の円谷プロが手掛けた特撮も特筆すべきものではない。しかしながら、同時にえも言われぬような独特の雰囲気を持った作品でもある。幻想的かつミステリアス、さらにどこか甘酸っぱいセンチメンタリズムとノスタルジックな美しさが全編に漂う。ジャン・ローラン監督の耽美ホラー『血に濡れた肉唇』('75)とも相通ずるような魅力を備えた作品であり、一度見たら忘れられないホラー・ファンタジーの佳作だ。
 舞台はカリブ海に浮かぶ小さな島。幼い頃にここで暮らしていた若者マグナスは、科学者だった父親の死の真相を確かめるために戻ってくる。そんな彼は、ある晩に海辺でジェニーという美しい女性と出会う。それは記憶の彼方に忘れかけていた、幼い頃の初恋の相手だった。しかし、誰もそんな女性など見たことがないばかりか、地元の老女によるとジェニーは古くから語り継がれてきた海の精霊なのだという。
 一方、海洋生物の調査をしていたマグナスの幼なじみエリックと、父親の友人でもあった生物学者ポールス教授は、付近の深海に潜む巨大な亀の存在を知る。教授の反対を押し切って亀の捕獲を試みるエリックとマグナス。ところが、彼らの乗ったボートは“魔の三角地帯”で立ち往生してしまった。そこへどこからともなく現れたジェニーは、捕えられた亀を逃がすようマグナスを説得する。果たして、ジェニーと巨大な亀にはどのような因果関係があるのか…。
 どことなく日本の“浦島太郎”を彷彿とさせるストーリーではあるが、全体的に思わせぶりなだけで極めて漠然としており、結局なんのことなのかさっぱり分からないような内容となっている。低予算のテレビ・ムービーゆえに特撮もチープな仕上がりで、そもそも娯楽映画としてのスリリングな見せ場らしいものはほとんど見当たらない。にも関わらず、ありきたりなB級ファンタジー映画に終わっていないのが本作の注目すべき点だ。
 冒頭から目を奪われるカリブ海の美しい大自然。同時代のヨーロッパ映画を思わせるメランコリックで流麗な音楽スコア。幻想的かつ繊細なタッチで描かれる水中撮影シーン。そして登場人物のイメージにしっくりとハマる絶妙なキャスティング。それらの要素が一見すると平坦なストーリーに絡むことで奇跡的な化学反応を起こし、なんとも不思議な味わいをたたえた抒情的なファンタジー・ロマンへと昇華されているのだ。中でも、寂しげなメロディと爽やかなサウンドが印象的なテーマ曲の醸し出す切ないまでの哀愁感、透き通るような青い瞳が際立つジェニー役のコニー・セレッカのミステリアスで気品溢れる美貌は絶品。このキャスト、このロケーション、この音楽が揃わなければ決して作り出すことの出来ない“ムード”こそが、本作の最大の見所であり魅力であると言えるだろう。

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マグナスとの再会を喜ぶ親友エリック(C・ウェザース)

父親の友人でもあったポールス教授(B・アイヴス)

真夜中に泳ぐ人魚のごとき美女

その後を追ったマグナスは溺れかけてしまう

 バミューダ海域に面したカリブ海の小さな島。砂浜で居眠りをする若者マグナス(リー・マクロスキー)のもとへ、海から出てきた美しい女性がそっと近寄る。その寝顔と首飾りを目にした彼女は、懐かしそうな表情を浮かべて微笑むのだった。それは今から10年以上前のこと。マグヌスは科学者の父親と共にこの島で暮らしていた。幼くして母親と死に別れた彼は親しい友達もいない孤独な少年だったが、海辺で知り合ったジェニーという少女が唯一の遊び相手であった。
 砂浜で見つけた亀の子供を大切に育て、ジェニーと戯れながら幸福な時間を過ごすマグナス。だがそれも長くは続かず、ある日突然ジェニーは亀と一緒に海へ潜ったまま姿を消してしまった。それからしばらく経ったある嵐の晩、自宅地下の洞窟で研究をしていた父親が“何か”に襲われて死亡。屋敷も崩壊してしまい、マグナスはアメリカ本土の親戚のもとを転々としながら育ったのである。
 そして今、マグナスは父親の死の真相を確かめるため、幼なじみのエリック(カール・ウェザース)を頼って島へと戻ってきた。彼は海洋生物学の修士号を得るため、マグヌスの父親の友人でもあったポールス教授(バール・アイヴス)のもとでバミューダ海域に棲息する生物を研究している。中でも2人が興味を持っているのは、このところ世界各地の海で発見されている様々な巨大生物の謎についてであった。
 マグナスとの再会を心から喜ぶエリックだったが、その妻ドシャン(ジュリー・ウッドソン)は過去のトラウマを抱えた彼の存在が周囲に不幸を招くような気がしてならない。どこか暗い影を背負っているところが気がかりだった。一方、気分転換のために夜の海へと出たマグナスは、暗闇の中を泳ぐ女性の姿を目撃し、まるで誘われるようにしてその後を追う。だが、まるで人魚のように素早く泳いでいく女性に追いつくことが出来ず、途中で力尽きて溺れかけてしまった。
 気が付くと、マグナスは砂浜に横たわっていた。目の前には青い瞳に黒髪の美しい女性が。彼女はジェニー・ハニヴァー(コニー・セレッカ)と名乗り、そのまま海の中へと消えていく。教授の家へと戻ったマグナスは、彼女のことを教授に話したものの、悪い冗談だと笑い飛ばされてしまった。というのも、ジェニー・ハニヴァーというのは海の男たちの間で語り伝えられている魔物の名前だったのだ。
 さらに、教授の召使をしている老女デライア(ルース・アッタウェイ)がジェニーの伝説について語って聞かせる。今から200年ほど前、この島にジェニー・ハニヴァーという裕福な入植者の娘がいた。その類稀な美貌で男性たちを虜にした彼女だったが、ある時本土へ渡る船の上で嵐に巻き込まれてしまう。己の若さと美貌に執着の強かった彼女は死ぬことを恐れ、永遠の命と引き換えにバミューダの悪魔に身を捧げるという契約を交わしてしまった。以来、この近辺では精霊となったジェニーに出会ったという男性が後を絶たないのだという。その姿は目撃した人によって幼い少女だったり大人の女性だったりするのだが、共通しているのはジェニーと遭遇した男性は必ずその直後に海で溺れ死ぬことだった。マグナスはバカバカしい迷信だとして、デライアの話を信じようとはしなかった。自分の知っているジェニーは生身の人間だと。
 その翌朝、謎の巨大生物が砂浜を徘徊した跡が発見される。さらに、ポールス教授とエリックの船が未確認物体によって襲われ、捕獲用の網が破壊されてしまう。それは途方もなく巨大な生物と推測された。ポールス教授はそれが何らかの理由で巨大化した亀ではないかと考える。実は、かつてマグナスの父親も海洋生物の巨大化について研究を重ねていたのだが、何か重大な発見をした直後に謎の死を遂げていた。その遺体は動物によって食い散らかされていたという。
 一方、少年時代の記憶が徐々に蘇ってきたマグナスは、ジェニーが幼い頃に海辺で知り合った初恋の少女と同一人物であることに気付いた。2人は逢瀬を重ねながらお互いへの想いを深めていく。ただ、どこからともなく現れては消えていくジェニーの謎めいた行動や、明らかに時代錯誤な言動を目の当たりにし、マグナスは彼女の存在そのものに漠然とした疑問を抱かずにはいられなかった。もしかすると、デライアの話は本当なのではないだろうかと。
 そんなある日、巨大生物を捕獲しようと考えるエリックと環境保護の観点からもそのままにすべきだというポールス教授が激しく対立し、2人は袂を分かつこととなってしまう。マグナスは親友エリックと行動を共にすることを決意し、巨大な亀の行方を追うべくボートへ乗り込むこととなる。最新鋭のモリを使って亀を捕獲することに成功した2人。ところが、魔の三角地帯にさしかかったとこでボートのエンジンがダウンし、全ての計器が狂ってしまった。
 途方に暮れるマグナスの前に、どこからともなくジェニーが現れる。“お願いだから、今すぐ亀を放してあげて”と懇願するジェニー。その頃、ボートが消息を絶ったことを知ったポールス教授とエリックの妻ドシャンが捜索を始めるのだったが…。

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美女の正体は初恋の人ジェニー(C・セレッカ)だった

ジェニーは海の精霊だと語るデライア(R・アッタウェイ)

逢瀬を重ねながら想いを深めあうマグナスとジェニー

深海に潜む巨大な亀の存在を知る教授たち

 製作を手掛けたのは『ルドルフ 赤鼻のトナカイ』('64)や『サンタが街にやって来る』('70)など、ファミリー向けのパペット・アニメーションで今もアメリカ人に愛され続けているプロデューサー・コンビ、アーサー・ランキン・Jr.とジュールス・バス。これは『極底探検船ポーラポーラ』('76)に続いて彼らが日本の円谷プロと共同製作した特撮映画であり、基本的には他のコンビ作と同様にファミリー向け…というよりも子供向けの作品と言っていいだろう。
 で、その『極底探検船ポーラポーラ』にも参加した日本人監督・小谷承靖が、トム・コタニ名義にて演出を担当。情緒豊かで繊細な語り口はハリウッド産娯楽映画として明らかに異色であり、特撮技術やスケール感などにおける低予算ゆえの弱点やとりとめのない脚本の稚拙さを上手い具合に補っている。日本人ならではの細やかな感性が功を奏したといったところだろうか。それは、ランキン・Jr&バス作品特有のセンチメンタルな抒情性とも見事にマッチしていると言えよう。
 脚本のウィリアム・オーヴァーガードは西部劇コミック“Steve Roper and Mike Nomad”などを手掛けたコミック・アーティストであり、小説家としても活躍した人物。『極底探検船ポーラポーラ』で初めて映画の脚本を手掛け、以来ランキンJr&バス作品の常連シナリオライターとなった。
 撮影監督のジェリ・ソパネンは、主にテレビのドキュメンタリー番組で鳴らしたカメラマン。また、水中撮影を担当したスタン・ウォーターマンも海洋ドキュメンタリーの出身だったらしい。異国情緒あふれるカリブの美しい大自然をあますところなく捉えた映像は、ドキュメンタリーの分野で実績を積んだ彼らならではの仕事なのだろう。特にジェニーとマグナスの水中遊泳シーンはため息の出るほどの美しさだ。
 さらに、『ファイヤーマン』や『宇宙からのメッセージ』の中野稔がオプチカル効果を、『ゴジラ対メカゴジラ』や『惑星大戦争』の薩谷和夫が美術監督を担当。また、『アンデルセン物語』('66)以降のランキンJr.&バス作品を数多く手掛けているモーリー・ローズが音楽を担当しており、切なくも甘酸っぱい主題歌はもちろんのこと、メロウなボサノバや爽やかなフォークサウンドを駆使した素晴らしいスコアを堪能させてくれる。まるでイタリアのステルヴィオ・チプリアーニを彷彿とさせる甘いメロディは日本人の琴線に触れまくること間違いなしだ。
 なお、本作は当時アメリカで放送された完全版と日本で放送された短縮版の2バージョンが存在しており、過去にアメリカで発売されたVHSは後者の短縮版を収録していた。上記のアメリカ盤DVDでは完全版を見ることが出来る。

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エリックは教授の反対を押し切って亀の捕獲に向かう

いよいよその姿を現した巨大な亀

特殊なモリを使って亀を仕留めるエリック

ジェニーは亀を解放するよう懇願する

 主人公のマグナス役を演じているのは、日本ではダリオ・アルジェント監督の名作『インフェルノ』('80)の主演で知られる俳優リー・マクロスキー。当時アメリカで話題になったミニ・シリーズ『リッチマン・プアマン/青春の炎』('76)とその続編で注目され、テレビの若手2枚目スターとしてかなり強力に売り出された人だったものの、どうやらその尊大な性格が災いして大成することが出来なかったようだ。演技の面でも感情表現に乏しく、どちらかというと整った顔立ちだけが取り柄という大根役者だったが、本作の場合は暗い過去を背負った内向的な若者という役柄の設定にしっくりとハマっており、意外にも好印象を残す。
 また、マグナスの親友で頼りになる男エリック役にカール・ウェザースがキャスティングされ、『ロッキー』('76)のアポロとは一味違った明朗快活な好青年を伸び伸びと演じている。その恩師ポールス教授役を演じているフォークミュージック界の重鎮にして西部劇の名脇役バール・アイヴスも好演。スクリーンに顔を出すだけで独特のオーラを放つ重厚な存在感はさすがだ。
 しかし、なんといっても本作の最大の要はジェニー役のコニー・セレッカであろう。大人気ドラマ『アメリカン・ヒーロー』('80〜'83)のヒロイン、パム役で知られる女優さん。日本人好みのエキゾチックな顔立ちが印象的な人だが、中でもその美貌を余すことなく生かしたのが本作だったと言って間違いないだろう。彼女の存在がなければ、作品そのものの印象もだいぶ違ったものになっていたはずだ。
 そのほか、70年代当時としては珍しい黒人のプレイメイトとして鳴らしたセクシー女優ジュリー・ウッドソン、ブロードウェイのミュージカル女優として知られるルース・アッタウェイが脇を固めている。

 

 

モンスター・パニック
Humanoids from the Deep (1980)
日本では1980年10月劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済
※アメリカ盤DVDと日本盤DVDは特典映像の内容を含めて別仕様

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(P)2010 Shout Factory (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/82分/製作:アメリカ

特典映像
未公開シーン集
オリジナル劇場予告編集
テレビ&ラジオスポット集
ポスター&スチル・ギャラリー
ロジャー・コーマン インタビュー
最新メイキング・ドキュメンタリー(第2班監督ジェームズ・スバデラティ、ロジャー・コーマン、クリス・ウェイラス、編集者マーク・ゴールドブラット、作曲家ジェームズ・ホーナー、女優シンディ・ウェイントローブ、リンダ・シェインら出演)
監督:バーバラ・ピータース
製作:マーティン・B・コーエン
製作総指揮:ロジャー・コーマン
原案:フランク・アーノルド
   マーティン・B・コーエン
脚本:フレデリック・ジェームス
撮影:ダニエル・ラカンブル
音楽:ジェームズ・ホーナー
出演:ダグ・マクルーア
   アン・ターケル
   ヴィック・モロー
   シンディ・ウェイントローブ
   アンソニー・ペーニャ
   デニーズ・ギャリック
   リン・シール
   ミーガン・キング
   ブレック・コスティン
   リンダ・シェイン

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漁船の爆発を目撃したジム(D・マクルーア)と弟トミー

ジムと妻キャロル(C・ワイントローブ)は愛犬の死骸を発見する

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モンスターに襲われ海中に引きずり込まれるジェリー(M・キング)

ペギー(L・シール)はモンスターにレイプされてしまう

 その昔、日本のテレビでもロードショー番組の定番として繰り返し放送されたクリーチャー・ホラー。『大アマゾンの半魚人』('54)に始まる古典的な深海モンスターものの伝統を受け継ぎつつ、当時流行していた『エイリアン』('79)や一連のスプラッター映画の影響を受けた刺激の強いエログロ描写が人気の秘密だった。いかにも'80年代らしいゲテモノ感は、今なお捨てがたい魅力がある。
 舞台は片田舎の平凡な漁村。この豊かな自然に恵まれた土地では、缶詰工場の進出を巡って地元住民が反対派と賛成派に分かれて対立していた。そこへ漁船の爆発事故や家畜の惨殺事件などが相次いで起こったことから、それまであまり表面化していなかった両者の対立は深まり、まさに一触即発の事態へと陥ってしまう。ところが、これらの事件の背後にはミュータント化した海洋生物の存在があったのだ。
 その目撃証言をもとに調査を始めたのは、人望の厚い中立派ジムと友人の反対派ジョニー、そして缶詰工場の顧問を務める生物学者スーザン。彼らは工場で秘密裏に進められていた遺伝子操作による新種のサーモンが流出し、それを食べた大型の海洋生物がミュータント化したことを突き止める。しかも、このモンスターたちは種族の進化のために人間の女性を次々とレイプしていた。折しも、地元では恒例行事の祭りが開催されている。人々へ危険を知らせるために会場へ駆けつけたジムたちだったが、そこへ海洋モンスター軍団が襲来。賑やかで楽しい祭りの景色は、たちまち阿鼻叫喚の地獄絵図へと様変わりする…。
 缶詰工場の進出を巡る村の対立の背景に環境破壊や人種差別などの問題を絡ませ、ストーリーに一定の緊張感を持たせたのはなかなか上手い。だからといって別にこれが社会派ホラーだなどと言うつもりはサラサラないのだが、ともすれば単にモンスターが人間を襲うだけの身も蓋もないような話になりかねないところを、伏線として様々なサスペンスを盛り込ませることに成功していると言えるだろう。B級映画の脚本として非常に手堅い作りだ。
 加えて、『エイリアン』の影響をモロに受けたような生々しいクリーチャー・デザイン、水着美女が次々とモンスターに襲われて裸にされた上にレイプされるという臆面のないエロ描写、逃げ惑う村人たちが片っ端から血祭りにあげられるという容赦ないスプラッター描写など、えげつなさに一切の躊躇がないのは立派。男は殺しまくり、女は犯しまくる、という基本コンセプトに忠実なのが成功の鍵と言えるかもしれない。
 また、ダグ・マクルーアやヴィック・モロー、アン・ターケルといったB級映画ファンにはお馴染みのスターを配した豪華(?)なキャストも映画マニアには嬉しいところ。中でも自己中心的で強欲な差別主義者ハンクを演じたヴィック・モローの、いかにもヤンキーな中年ホワイト・トラッシュぶりはインパクト強烈。あのチリチリのアフロヘアも白人にしてはかなりいかしてる(笑)。

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缶詰工場の進出を指示する差別主義者ハンク(V・モロー)

トミーとバーベキューを楽しむジョニー(A・ペーニャ)

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モンスターに襲われたトミーが瀕死の重傷を負ってしまう

村へ向かったリンダ(D・ギャリック)もまたモンスターの犠牲に

 カリフォルニア州北部の海沿いにある小さな漁村ノヨ。豊かな自然に囲まれたのどかな場所なのだが、その水面下では住民同士の対立が徐々に頭をもたげつつあった。というのも、数年前から大手食品会社がこの地域に缶詰工場の建設を計画しており、その是非を巡って賛成派と反対派との小競り合いが続いていたのである。
 賛成派の急先鋒は欲の深い乱暴者ハンク(ヴィック・モロー)。一方の反対派は地域の自然保護を訴えるネイティブ・アメリカンの若者ジョニー(アンソニー・ペーニャ)だった。人種差別主義者のハンクは、ただでさえ目障りなジョニーの存在を疎ましく感じている。顔を合わせるたびにいがみ合う2人だったが、ジョニーの友人で地域住民からも信頼の厚いジム(ダグ・マクルーア)の仲裁でなんとか衝突は避けられていた。
 そんなある日、沖で漁をしていた漁船の網に正体不明の巨大生物がひっかかり、その挙句に漁船が爆発するという痛ましい事故が起きる。さらにその翌朝、ジムと妻キャロル(シンディ・ワイントローブ)の愛犬ベンを含む地域住民の家畜が大量に殺傷されているのが発見された。ネイティブ・アメリカンの家畜だけが無事であることを知ったハンクはジョニーの嫌がらせだと受け止め、報復のために彼の飼い犬をズタズタにして殺してしまう。
 折しも、村では今年で75回目を迎えるサーモン祭りの準備が進められており、そのスポンサーである食品会社の主催で記念パーティが開かれた。その会場でハンクとその手下たちが抗議に現れたジョニーを半殺しの目に遭わせるのだが、ジムと弟トミー(ブレック・コスティン)の加勢で逆にハンク一味が叩きのめされてしまう。この一件で復讐心に駆られたハンクらは、襲撃の機会を狙ってジョニーたちの周辺を嗅ぎまわるようになった。
 だが、彼らの気付かぬうちに村の周辺では更なる事件が続発していく。砂浜でデートをしていた若いカップル、ジェリー(ミーガン・キング)とペギー(リン・シール)の2人が奇怪な巨大生物に襲われ、ジェリーは海に引きずり込まれた挙句に惨殺され、ペギーは水着をはぎ取られてレイプされてしまったのだ。さらに、別のカップルも浜辺でキャンプ中にモンスターたちの襲撃を受け、やはり女性が犯されてしまう。
 一方、ジョニーはトミーとその恋人リンダ(デニーズ・ギャリック)を連れて自宅でバーベキューを楽しんでいた。しかし、物影に隠れていたハンク一味がそこへ火炎瓶を投げ付け、ジョニーの家は木端微塵に吹き飛んでしまう。辛うじて爆破に巻き込まれず済んだ3人。ジョニーとトミーが消火に当たる一方、リンダは助けを求めるために村へ車を走らせる。
 ところが、付近の水辺から姿を現したモンスターがトミーを襲撃。なんとかジョニーの反撃でモンスターを撃退することは出来たものの、トミーは瀕死の重傷を負ってしまう。さらに、村へ向けて車を運転していたリンダもモンスターに襲われ、橋から車ごと落下して絶命してしまう。
 トミーの怪我を知って駆け付けたジムとキャロル。ジョニーの証言から地域一体で未確認生物が徘徊していることに確信を持ったジムは、缶詰工場の顧問として付近の自然環境を調査している女性生物学者スーザン(アン・ターケル)の協力で捜索に乗り出すことを決意いし、ジョニーも彼らに同行することとなる。自分たちの仕業をモンスターのせいにしたハンクらは、内心ほっと胸をなでおろすのだった。
 巨大生物の痕跡を追って海沿いの洞窟近くへとたどり着いたジムとスーザン、ジョニーの3人は、そこで繁殖中のモンスターたちと遭遇。さらに、生きたまま海藻の中に埋もれていたペギーを発見した。モンスターの死体をラボへと持ち帰った一行。スーザンはそれがミュータント化した海洋生物であることを知る。
 実は、数年前から秘密裏に遺伝子操作の研究をしていた食品会社では、缶詰工場での大量生産を実現するべく成長速度の速い新種のサーモンを開発していた。ところが、ある事故でそのサーモンが海へと流出してしまい、それを食べた海洋生物がモンスターとなってしまったのだ。スーザンは以前から遺伝子操作の危険性を本社へ訴えていたが、上層部から無視され続けていたのだという。しかも、この生物はペギーをレイプしている。恐らく、種を進化させるために人間との交配を自ら進めているのだろう。今まさに村ではサーモン祭りが開かれており、モンスターたちの襲来する可能性が高い。ジムたちは急いで村へと向かうのだった。
 その頃、村では祭りが盛大に開催されており、大勢の住民が楽しいひと時を過ごしていた。そこへ警告に駆け付けたジムたち。そころがその次の瞬間、港のあちこちで醜悪なモンスターが出現し、村人たちを次々と襲いはじめる。たちまちパニックに陥る祭りの会場。モンスターたちは次々と女性に襲いかかり、男たちを血祭りに上げていく。
 凶悪なモンスター軍団を倒すために奔走するジムとスーザン、ジョニー。だが、その頃ジムの自宅では幼い息子と留守番をする妻キャロルが、モンスターたちの襲撃を受けていた…。

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海洋生物の痕跡を追って洞窟へたどり着いたジムたち

そこはモンスターたちの巣窟だった

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レイプされたペギーを発見する

モンスターの謎を解明する女性生物学者スーザン(A・ターケル)

 本作はもともと、“Beneath The Darkness”という一見してモンスター映画だとは判りにくいタイトルで撮影が進められたのだという。これには理由がちゃんとあって、いかにも古風で趣のある仮タイトルを付けることでエログロ満載のキワモノ映画だという素性を隠し、知らんぷりして知名度のある役者を出演させようという魂胆だったのだそうだ。もちろん、はじめから撮影が終了したらタイトルを変えるつもり。いかにもロジャー・コーマンらしい姑息な手段(笑)なのだが、ここで彼が目論みを誤ったのは監督の人選だった。
 監督に起用されたバーバラ・ピーターズは'70年代初頭からフェミニズム色の強いエロティック映画を撮って来たインディペンデント作家で、ニューワールド・ピクチャーズ作品にも何本か助監督などのスタッフとして参加したことがあった。“私は才能があれば女性だろうと男性だろうと関係なく仕事を任せる”と語るコーマンだが、実際のところ“この種のジャンルを女性監督が手掛けることはそれまで殆どなかった”からやらせてみた、というのが本音なのだろう。とりあえず、“男は殺しまくり、女は犯されまくり”というコンセプトをコーマン師匠から聞いたピータースは、その場で一言“了解”と言って仕事を引き受けたのだという。
 ところが、編集前のフィルムを確認したコーマンはビックリ仰天。確かに男は殺されまくっているのだが、それに比べて女の方は犯されまくっているとは言い難かったのである。どうやら、根っからのフェミニストだったらしいピーターズ監督。男を血祭りにあげるのは大歓迎だったものの、女性がモンスターにレイプされるという設定には相当抵抗感があったらしく、それとなくほのめかす程度にしか描いていなかったのだ。
 これでは全く商品にならない。編集担当のマーク・ゴールドブラットも、ニューワールドピクチャーズ作品の看板であるエログロの、グロはあってもエロが全くないので編集のしようがないと頭を抱えたそうだ。そこで、コーマンは助監督と第2班監督を兼ねていたジェームズ・スバデラティに追加撮影を指示し、エログロ・シーンを大量投入することに決定。これに腹を立てたピーターズは、テレビのトーク番組にまで出演してコーマンへの怒りをぶちまけたのだそうだ。
 こうした経緯もあったことから、完成した作品を見た出演者たちはビックリ。自分たちがオファーを受けたのは古式ゆかしいモンスター映画だと思っていたのに、実際の作品はティーンのヌードやセックス、血みどろの残酷シーンが満載のエログロ映画だったわけだから。キャロル役の女優シンディ・ワイントローブなどは、ボディダブルによるシャワーシーンが勝手に追加されていて思わず苦笑いしてしまったそうだ。
 フランク・アーノルドとマーティン・B・コーエンの原案を脚色したのは、劇映画の脚本を手掛けるのはこれが初めてのウィリアム・マーティン。本作ではフレデリック・ジェームスという偽名を使っている。ちなみに、製作も兼ねているコーエンは、京都で撮影された珍品ホラー『ゴースト・イン・京都』('82)のプロデューサーでもある。
 撮影監督を担当したのは、初期エリック・ロメール作品のカメラマンであり、『ベルベット・バンパイア』('71)や『宇宙の7人』('80)などロジャー・コーマン関連作品での仕事も多いフランス人ダニエル・ラカンブル。編集は『ピラニア』と同じく後に『ターミネーター』シリーズや『アルマゲドン』('98)、最近だと『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』('11)などを手掛けているマーク・ゴールドブラット。モンスターのデザイン及び作成を担当したのは、この直後に『ハウリング』('81)や『遊星からの物体X』('82)で一躍その名を轟かせることとなるロブ・ボッティン。特殊効果には『グレムリン』('84)や『ザ・フライ』('86)でお馴染みのクリス・ウェイラス。また、製作助手として『ターミネーター』('84)や『エイリアン2』('86)、『アビス』('89)、『アルマゲドン』などで有名な女性プロデューサー、ゲイル・アン・ハードの名前がクレジットされている。
 そして、音楽を担当したのは今やハリウッドでも大御所中の大御所である作曲家ジェームズ・ホーナー。本作は音楽スコアの予算がとても少なかったらしく、料金の安い深夜帯にレコーディング・スタジオを借りることで必要経費を抑え、さらにミュージシャンも組合に規定されている時間外ということを理由に安いギャラで雇って人件費を抑えたのだそうだ。彼曰く、“ロジャーは熱意のある若い才能を見出すのがとても上手い。やる気も才能もあるけど仕事のない人材の足元を見て、安いギャラでそれ以上の仕事をさせるんだ”とのこと。ん〜、やっぱり姑息だ(笑)。
 ちなみに、本作の撮影のために用意されたモンスター・スーツはたったの3体。巧みな編集テクニックで複数のモンスターが襲ってくるように見せているのだが、よくよく確認すると一度に3体以上が同じ画面に登場することはない。

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サーモン祭りに乱入したモンスター軍団

住民が次々と血祭りにあげられていく

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モンスターに反撃するサーモン・クィーン(L・シェイン)

ジムの妻キャロルにも危険が迫っていた

 主人公ジム役を演じているのは、日本でも人気を呼んだ西部劇ドラマ『バージニアン』('62〜71)のトランパス役で人気を呼んだダグ・マクルーア。映画では『恐竜の島』('75)や『地底王国』('76)などのSFアドベンチャー物のヒーローとして有名な俳優だ。中立の立場を守る良識的な穏健派で、いざという時は頼りになる模範的人物というのは、まさしく彼にはうってつけの役。ただ、それだけに存在感と言う意味では憎まれ役のヴィック・モローに完全に食われている。
 で、人種差別主義者の卑怯者ハンクを演じているヴィック・モロー。戦争ドラマの傑作『コンバット』('62〜67)のサンダース軍曹役として日本でも絶大な人気を誇り、日本映画『宇宙からのメッセージ』('77)にも出演したタフガイ俳優である。映画では低予算のB級映画が多かった人ではあるが、『がんばれベアーズ』('76)のコーチ役などは印象深かった。また、唯一の監督作であるマカロニ・ウェスタン『スレッジ』('69)も忘れてはならないだろう。本作から2年後の1982年、映画『トワイライト・ゾーン』('83)の撮影中にヘリコプターのプロペラに巻き込まれて死亡したのはショッキングだった。
 女性生物学者スーザン役には、『殺し屋ハリー/華麗なる挑戦』('74)や『カサンドラ・クロス』('76)のアン・ターケル。どちらも当時のダンナだった名優リチャード・ハリスの主演作ということで、七光り女優などと呼ばれたりしたものだが、確かにあまりパッとしない女優ではある。
 そのほか、カルトホラー『ローズマリー』('81)にも出ていたシンディ・ワイントローブ、アメリカでは昼メロのマッチョなイケメンスターとして知られるアンソニー・ペーニャ、同じく昼メロ女優として'80年代に活躍したデニーズ・ギャリックなどが登場。ちなみに、サーモン祭りのサーモン・クィーンとして顔を出し、トップレスの状態でモンスターを殴り倒すという美味しい役を演じているリンダ・シェインは、その後映画監督になったそうだ。

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現在のシンディ・ワイントローブ

製作総指揮のロジャー・コーマン

音楽担当のジェームズ・ホーナー

映画監督に転身したリンダ・シェイン

 

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