SWEET SENSATION
フリースタイル全盛期を駆け抜けたガール・グループ

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 80年代〜90年代初頭のフリースタイル全盛期を築きあげ、あっという間に駆け抜けていってしまったグループである。リード・ボーカルを担当したBetty Deeのソフトで力強い歌声、Steve Peck、Ted CurrierらPlatinum Vibe Productionの面々による凝ったサウンド・プロダクションと優れたソング・ライティングのセンス、低予算で製作される楽曲の多かったフリースタイルというジャンルの中でも、その作品のクオリティの高さは群を抜いていたと言っても過言ではないだろう。
 もともとヒップ・ホップ畑出身のSteve Peck、Ted Currierらの作り出す硬質でヘヴィーな打ち込み、エフェクトやサンプリングを使いまくった派手で実験的な音作りは非常にユニークで、いわゆるニューヨーク系のサウンドともマイアミ系のサウンドとも違った独特のフリースタイル・サウンドを確立したと言える。また、通常この手のガール・グループは、リード・ボーカルを前面に押し出す代わりにバック・ボーカルはトラックと一緒にミックスしてしまう事が多いが、彼女たちの場合はバックのMargieとMari(もしくはSheila)のコーラスを埋もれさせず、それぞれの声が聞き分けられるように立体的なミキシング処理を施していた。それだけに、メンバーそれぞれのボーカリストとしての実力が十分に生かされており、そういった点でも他のガール・グループとは一味違った個性を持ったグループだった。

 スウィート・センセーションのオリジナル・メンバーは、Betty Dee、Margie、Mariの3人。全員ニューヨークはサウス・ブロンクスの生まれで、Betty DeeとMargieはもともと友達だった。Betty Deeの歌の才能を買っていたMargieは、友達を介して当時Boogie Boysというヒップホップ・グループのメンバーだったラッパー、Romeo J.D.を紹介してもらい自分たちを売り込む。そうして出来上がった楽曲が“Hooked On You”であり、そのデモ・テープを聴いたNext Plateau Recordsのディレクターが一発で気に入り、即座にレコード・デビューが決まる。そして、デビューに際してトリオで売るべきだという判断から、Margieの妹であるMariがメンバーに加わった。
 ちなみに、もともとのグループ名はSweet Temptationだった。が、デビュー・シングル発売の直前になってレコード会社の判断でグループ名が変更されたという。

 1986年にリリースされたデビュー曲“Hooked On You”は、ラテン風のキャッチーなフックを織り交ぜながらもヒップホップ色を前面に押し出したヘヴィーでキレのあるダンス・ナンバーで、過激なサウンド・エフェクトやボーカル・サンプリングが非常に斬新な作品。殆どプロモーション活動は行わなかったものの、折からのフリースタイル人気に後押しされる形で全米ポップ・チャートで23位をマーク。新人としてはまずまずのヒットとなった。さらに、メジャー・レーベルAtlanticの子会社であるAtcoに移籍し、88年にリリースされた4枚目のシングル“Never Let You Go”がビルボードのダンス・チャートで1位を記録。ファースト・アルバム“Take It While It's Hot”もリリースされた。
 しかし、その直後にショー・ビジネスの世界に馴染めなかったMariが脱退。代わりにSheilaが加入する。新生スウィート・センセーションとしての初のシングル“Sincerely Yours”は全米ポップ・チャート16位まで駆け上がり、彼女たちにとって初の全米トップ20ヒットとなった。
 その勢いに乗ってリリースされたセカンド・アルバム“Love Child”。ファースト・シングルとなった“Love Child”は全米13位を記録。シュープリームスの往年の大ヒット曲のカバーだが、全編にラテン・ギターを大胆にフューチャーし、見事にダンサンブルなラテン・ナンバーとして甦らせた。
 そして、彼女たちの最大のヒットとなったのがセカンド・シングル“If Wishes Came True”。個人的には全く好みではない平凡なバラードだが、なんと全米1位に輝いてしまった。さらに、当時全米で大ブームを巻き起こしていた男性アイドル・グループNew Kids On The Blockの全米ツアーに前座として参加。その人気は頂点を極めた。


 ところが、その後“Time To Jam”というリミックス・アルバムをリリースしたのを最後に、スウィート・センセーションは前触れもなくシーンから忽然と姿を消してしまう。頂点を極めた矢先に跡形もなく消えてしまうなんて、一体彼女たちはどこへ行ってしまったのか?というのは、多くのファンにとって長い間の大きな疑問だった。Betty Deeが病気になってしまった、メンバーの不和が原因で解散した、など様々な憶測が飛び交ってきたが、その真相はいかにもショービジネス的な不運の結果だった。
 セカンド・アルバムの大成功、全米ツアー、さらには様々なプロモーション活動やテレビ出演による過密スケジュールで精神的にも体力的にも限界に達したMargieとSheilaがショー・ビジネス界からの引退を決意。“Time to Jam”リリースの時点で、実はMargieもSheilaも既にグループを脱退していたのだった。そこで、BelleとJenaeという女性二人を新たにメンバーに加えて次のアルバムの準備をしていたところ、所属していたレコード会社Atcoが倒産してしまう。大半の所属アーティストは親会社のAtlanticに拾われて行ったが、大幅なメンバー・チェンジによって商品価値の下がってしまったスウィート・センセーションは、残念ながらそのまま見捨てられてしまったのだった。
 その後、ドサ回りのライブ活動を地味に行っていたスウィート・センセーションだったが、Betty Deeも家庭を優先させるために引退。全米ナンバー・ワン・ヒットを放った人気ガール・グループは、こうして寂しくそのキャリアの幕を下ろしたのだった。
 しかし、2004年に突如としてBetty Deeがカムバックを果たす。アンダーグランド・ハウス系のクリエイター集団Dynamixのプロデュースで、Sweet Sensation featuring Betty Deeとしてシングル“My Body Tu Cuerpo”をリリース。実質的にはBetty Dee個人のソロ・プロジェクトで、ライブでは往年のヒット曲も歌うらしい。

 

VICTIM_OF_LOVE.JPG TAKE_IT_WHILE.JPG NEVER_LET_YOU.JPG SINCERELY_YOURS.JPG

(Goodbye Baby) Victim Of Love (1987)

Take It While It's Hot (1988)

Never Let You Go(1988)

Sincerely Yours (1988)

(P)1987 Next Plateau (USA) (P)1988 Next Plateau (USA) (P)1988 Atco Records (USA) (P)1988 Atco Records (USA)
Side A
1,Long Version 4:51
2,Radio Version 3:46
Side B
1,Drum Vocal Version 3:35
2,Oh,Oh Dub 5:38 ビデオ

produced by Ted Currier & David Sanchez
Side A
1,Long Vocal 5:49
2,Charlie Dee 'Hot' Dub 8:02
Side B
1,Only Omar's Dub 7:00 ビデオ
2,Percapella Mix 4:54

produced by Ted Currier
Mixed by Steve Peck
Side A
1,Extended Remix 6:42
2,Charlie Dee Never Say Never Dubb 7:14
Side B
1,Edited Version 3:57
2,Oh Oh Omar Dub 7:42 ビデオ
3,Percappella Mix 3:32

produced by Ted Currier
Mixed by Steve Peck
Side A
1,Extended Club Version 6:25
2,Charlie Dee Basement Beat Version 4:30
Side B
1,Extended Radio Version-Remix 6:17
2,Percappella Dub 5:09

produced & mixed by Steve Peck
 セカンド・シングルの12インチ。ゴリゴリのベース・ライン、派手なボーカル・サンプリングがインパクト強いファンキーなナンバーで、バキバキに硬質な打ち込みが乱れ飛ぶブレイク・ビーツも迫力があってカッコいい。ポップ・チャート向けとしては楽曲的に弱いものの、ダンス・フロアには映える1曲。  それまで比較的ヒップホップ色の強かった彼女たちが、初めて本格的にラテン・サウンドを前面に押し出したシングル。ドライブ感のあるダンサンブルなリズムに派手なホーン・セクション、そして情熱的でキャッチーなコーラス。ダンス・ポップの醍醐味を凝縮した素晴らしいナンバー。  前作の路線を引き継いだラテン色豊かなダンス・ナンバーで、彼女たちにとって唯一のダンス・チャート・ナンバー・ワンとなった大ヒット曲。派手なエフェクト、タイトなリズム・セクション、ゴージャスでキャッチーなシンセ・リフと聴きどころ満載で、ダンス・フロアが盛り上がること間違いナシのハイ・テンションなキラー・トラック。  Sheila加入後初のシングルであり、彼女たちにとって初の全米トップ20ヒットとなった作品。これまでになくキャッチーでポップなラテン・ダンス・ナンバーに仕上がっており、Cover Girlsの“Show Me”を彷彿とさせるメロディは、まさにポップ・チャート向けのもの。ちなみに、プロデュース&ミックスを手掛けているSteve Peckは後に大黒摩季の「別れましょう私から消えましょうあなたから」などのリミックスを手掛けている。ん〜、どこかで聴いた音だと思ったら、彼の名前がクレジットされていたので妙に納得したもんだった。

FIRST.JPG LOVE_CHILD.JPG WISHES_CAME_TRUE.JPG TIME_TO_JAM.JPG

Take It While It's Hot (1988)

Love Child (1990)

If Wishes Came True (1990)

Time To Jam! (Remix Album)

(P)1989 Atco Records (USA) (P)1990 Atco Records (USA) (P)1990 Atco/Atlantic (Germany) (P)1991 Atco Records (USA)
1,Never Let You Go 6:08 ビデオ
2,Sincerely Yours 4:50 ビデオ
3,Love Games 4:17
4,Let Me Be The One 5:10
5,Heartbreak 4:37
6,Take It While It's Hot 4:59 ビデオ
7,Victim of Love 5:45 ビデオ
8,Hooked On You 5:06 ビデオ

produced by Ted Currier,Steve Peck,David Sanchez
1,One Good Man 5:14 ビデオ
2,Each and Every Time 4:05
3,Bring It Back 4:05 ビデオ
4,If Wishes Came True 5:12
5,I Surrender 4:15
6,Destiny 4:41
7,Love Child 4:10 ビデオ
8,Pleasure and Pain 4:52
9,He'll Never Know 4:25

produced by Steve Peck, Ted Currier
1,If Wishes Came True 5:12
2,Love Child (Original) 4:10
3,Love Child (Rock The House) 6:43 #

produced by Steve Peck
# additional production by Carlos Berrios
1,Bring It Back (Bring The House Down Mix) 5:52
2,Child Of Love (Special Version) 5:27
3,Each And Every Time (In The Mood Mix) 5:52
4,Never Let You Go (Never Say Never Dub) 4:57
5,I Surrender (Unconditional Mix) 7:03
6,Hooked On You (Version #2)
7,Take It While It's Hot (Latin Fever Mix) 5:00
8,Love Child (Long Version) 5:25
9,Sincerely Yours (Special Delivery Mix) 6:24
  記念すべきファースト・アルバム。全8曲中5曲がシングルとしてヒットしており、実質的にはベスト盤とも言えるような内容だ。ただし、#7はアルバム用にリミックスされたバージョンで、12インチ・バージョンよりも長い。殆どの曲のミックスをSteve Peckが手掛けており、随所で遊び感覚溢れた実験を試みながらも、ポップスとしてのツボを抑えたミックス・センスはお見事。シングル曲以外では、エフェクトとサンプリングで遊びまくったキャッチーなエレクトロ・ファンク#3と#5がユニークで面白い。フリー・スタイル・ファンでなくても楽しめる優れたアルバムだと思う。  より強くポップ・チャートを意識したせいか、全体的に前作よりもパワー・ダウンした感は否めないセカンド・アルバム。一番の聴きものは、やはり#7だろう。シュープリームスの名曲を見事なラテン・ダンス・ナンバーとして甦らせた作品で、90年代のフリースタイルを代表する傑作。当時台頭しつつあったハウス・ミュージックにも通ずる分厚い打ち込みもカッコいい。ハウスといえば、シカゴ・ハウス的なアンダーグランドなサウンドで、来るべきハウス全盛期を予感させる仕上がりの#3も面白い。が、それ以外は中途半端な楽曲が多く、総じてダンス・ミュージックとしての面白味に欠けるアルバム。  全米ナンバー・ワンを記録したメガ・ヒット・バラード。フリー・スタイル系のバラードは、どう聴いてもハード・ロックとしか思えないアレンジとわびさびのないメロディのものが多くて好きになれないのだが、本作もその例に漏れず。目玉は“Love Child”のリミックス・バージョン#3。後にLisette Melendezの“Together Forever”のプロデューサーとして名を上げるCarlos Berriosが手掛けているのだが、ディープなノリのアンダーグランド・ハウスに仕上がっており、ほとんどダブ・バージョンと呼んでいいような作品。オリジナル・バージョンが好きな人はちょっと受け付けないかもしれない。  実質的にスウィート・センセーション最後のアルバムとなってしまったリミックス集。過去に12インチ・シングルとして発表したバージョンと、アルバム収録曲を特別にリミックスしたものを混在させた企画もの。#7は別バージョンのように見せかけていて実は12インチのLong Vocalを短くエディットしただけだし、#9なんかもミックス名は違うものの実際は12インチに収録されていたExtended Club Versionをそのまま使用している。急ごしらえで作られた感は否めない。これだったら、純粋に12インチ・バージョンをコンパイルした方が良かったんじゃないかと思うのだが・・・。

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My Body Tu Cuerpo (2004)

(P)2004 Casa Soul/Kult (USA)
1,Dynamix Radio 4:38 ビデオ
2,Johan Brunkvist Freestyle House Radio 3:56
3,Dynamix NYC Club 8:21
4,Johan Brunkvist Freestyle House Vocal Mix 6:07
5,Nocturnal Agent Dub 11:03
6,Gionfriddo Brothers Dark Dub Mix 6:47
7,Under Dog Dub Mix 6:55
8,Johan Brunkvist Freestyle House Instrumental Mix 6:07
9,Gionfriddo Brothers Light Dub Mix 7:13
10,Nocturnal Agent Instrumental Mix 11:03
11,Under Dog Break Beat Remix 6:31
12,Under Dog Break Beat Chop-Vox Acapella 1:03

produced by Eddie Cumana & Beppe Savoni for Dynamix & Kult Records.
 Betty Deeのカムバック・シングル。10年近くのブランクを全く感じさせないソウルフルでスケールの大きなボーカルを聴かせてくれる。12バージョンも収録するという力作。Michael Zager Bandのディスコ・ヒット“Let's All Chant”のMy Body Your Body〜というコーラス部分をパクってサビに使用したディープ・ハウスで、かつてのスウィート・センセーションとは全く別ものとして聴いた方がいいかもしれない。これはこれでキャッチーで悪くはない出来。しかし、何故にジャケットが男性のセミ・ヌードなのか・・・!?ゲイ・マーケットでも狙ってるのでしょーか!?

 

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