Stonehearst Asylum (2014)

 

STONEHEARST_ASYLUM.JPG
(P)2014 Millenium Entertainment (USA)
画質★★★★★ 音質★★★★☆
ブルーレイ仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン/画面比: 2.35:1/HD規格:1080p/音声: 5.1ch Dolby True HD/言語:英語/字幕:英語・スペイン語/地域コード: A/112分/制作国:アメリカ

<特典>
・メイキング・ドキュメンタリー「Stonehearst Asylum: The Story of Eliza Graves」
・プレビュー集
監督:ブラッド・アンダーソン
製作:ブルース・デイヴィー
   マーク・アミン
   メル・ギブソン
原作:エドガー・アラン・ポー
脚本:ジョセフ・ガンジェミ
撮影:トーマス・ヤツコ
音楽:ジョン・デブニー
出演:ケイト・ベッキンセール
   ジム・スタージェス
   ベン・キングスレイ
   マイケル・ケイン
   ブレンダン・グリーソン
   デヴィッド・シューリス
   シンニード・キューザック
   ジェイソン・フレミング

 

<Preview>
 これだけの豪華キャストが揃っている上に、あのエドガー・アラン・ポー原作のゴシック・ミステリーというセールスポイントがありながら、なぜか日本では未だにDVDリリースすらされていない未公開作品。しかも、製作は『エクスペンダブル』シリーズなどのヒット作を連発する、インディペンデント系エンタメ映画の雄ミレニアム・フィルムズ。プロデューサー陣にはメル・ギブソンまで名を連ねている。
 原作となったのはポー後期の名作「タール博士とフェザー教授の療法」。メキシコの名匠フアン・ロペス・モクテズマ監督の『ター博士の拷問地下牢』('73)をはじめ、過去に世界中で映画化されたことのある作品だ。ロック・バンド、アラン・パーソンズ・プロジェクトの楽曲にもなっていることでご存知の方も少なくないかもしれない。
 まず原作のあらすじを説明しておくと、とある旅行者がたまたまフランスの片田舎で古い精神病院を訪れる。そこでは当時の多くの精神病院と違って、患者を乱暴に拘束したりショック療法を用いたりなどせず、医者や看護師が見守りつつも患者を自由に動き回らせ、音楽やダンス、ゲームなどのレクリエーションを用いた治療法を行っている。その先進的な医療体制に感心する主人公だが、やがて実は院長以下のスタッフ全員が精神病患者で、本物の医者や看護師たちは地下牢に囚われていることが発覚。19世紀半ば当時の精神病院の非人間的な治療に批判の目を向けつつ、狂気と正気の曖昧な境界線を描いたシュールな風刺譚となっている。
 で、その映画化である本作は主人公エドワード(ジム・スタージェス)を若き精神科ドクターと設定。舞台も19世紀末のイギリスに変更されている。ロンドンから田舎のストーンハースト病院へと赴任したエドワードは、院長ラム(ベン・キングスレイ)の行っている人道的な治療法に強く感銘を受け、患者の一人である美しき令嬢イライザ(ケイト・ベッキンセール)に強く惹かれていく。
 その一方で、不遜で横柄な態度の守衛ミッキー(デヴィッド・シューリス)とその部下たちに妙な違和感を覚えるエドワード。病院スタッフの様子もどことなく奇妙だった。“ここにいてはダメ。今すぐ逃げるのよ”と強く警告するイライザの言葉を無視して病院内を調べ始めた彼は、地下の秘密牢に囚われた人々を発見する。彼らこそが本当の医者や看護師たちで、上に居る人々はみんな実は患者だったのだ。
 大量殺人を犯したラムは危険な患者だと警告する本物の院長ソルト(マイケル・ケイン)。一方で、看護婦長パイク(シンニード・キューザック)は、患者たちは決して悪くないと弁護する。やがて明らかになっていくソルトの行っていた暴力的で残酷な治療法、理不尽な社会システムによって狂気へと追いやられていったラムやイライザたちの悲しい過去。それでも囚われた人々を助けようとするエドワードだったが、正体に気づかれたことを知ったラムやミッキー一味に捕らわれてしまう。
 実はエドワード自身にも大きな秘密があって…という捻りを効かせた解釈がなかなか興味深い本作。人間は誰でも心の中に狂気を秘めている、だとすれば正常と異常の境界線とは何なのだろうか?という、ポー原作の精神を受け継いたストーリーは悪くない。ヴィクトリア王朝風の重厚な美術デザインや衣装、ゴシック・ムード溢れる幻想的なビジュアルも魅力的。ただ、どうしてもセリフに比重を置いた舞台劇的な作りになっているため、映画としての面白みには著しく乏しいかもしれない。その辺が、日本へ輸入されない理由なのだろうか…?

<Information>
 監督はクリスチャン・ベール主演の『マシニスト』('04)やハル・ベリー主演の『ザ・コール[緊急通報司令室]』('13)など、小粒ながらもパンチの効いたサスペンスやスリラーに定評のあるブラッド・アンダーソン。彼の作品として必ずしもベストな部類には入らないかもしれないが、少なくとも手堅い仕事はしているように思う。
 脚本を手がけたのは、自身もミステリー作家でもあるジョセフ・ガンジェミ。彼の小説「Inamorata」はジョニー・デップが映画化権を購入したことでも話題になった。撮影はアンダーソン監督と『ザ・コール[緊急通報司令室]』でも組んだトーマス・ヤツコ。主に『CSI:マイアミ』や『FRINGE/フリンジ』などのテレビシリーズで活躍するカメラマンだ。
 さらに、音楽スコアは本作の製作を手がけるメル・ギブソンの『パッション』('04)でアカデミー賞候補となったジョン・デブニー。そのほか、『ブランカニエベス』('12)でスペインのゴヤ賞を獲得したアラン・バイネが美術デザインを、『千年医師物語〜ペルシアの彼方へ〜』('13)でドイツ版オスカーにノミネートされたトーマス・オラーが衣装デザインを、ウォシャウスキー姉妹の『クラウド・アトラス』('12)などを手がけたリナス・リンドバルクが特殊視覚効果のスーパーバーザーを担当している。

 絶大な権力を持つ裕福な夫のDVから逃れるために精神病院へ入った令嬢イライザを演じているのは、映画『アンダーワールド』シリーズでもお馴染みの人気女優ケイト・ベッキンセール。本作では不幸かつ理不尽な境遇に耐え忍ぶ、芯の強いヒロイン像ということで、これまでとは一味違ったクラシカルな魅力を醸し出している。恐らく10年前だったらニコール・キッドマンが好んで演じていたであろう役柄だ。
 とある重大な秘密と目的を隠した若き精神科医エドワードには、『アクロス・ザ・ユニバース』('07)や『ラスベガスをぶっつぶせ』('08)で注目されたジム・スタージェス。どちらかというと地味なタイプの役者だが、ナイーブで繊細な個性は理想主義的なエドワード役にピッタリだと言えよう。
 従軍医師として戦場の悲惨さを目の当たりにしたために壊れてしまったラムを演じているのは、ご存知『ガンジー』('82)でアカデミー賞に輝いた名優ベン・キングスレイ。さらに、己の非人道的な治療方法の効果を盲目的に信じて疑わない院長ソルト役に、これまた泣く子も黙る大物スターにしてオスカー俳優のマイケル・ケイン。このまるで対照的な人物を演じるベテラン名優たちの演技対決も見どころだ。
 そのほか、ディカプリオと共演した『太陽と月に背いて』('95)のヴェルレーヌ役や、最近だと『ハリー・ポッター』シリーズのリーマス・J・ルービン役でお馴染みのデヴィッド・シューリス、同じく『ハリー・ポッター』シリーズのマッドアイ・ムーディ役で知られるブレンダン・グリーソン、ジェレミー・アイアンズの奥様で映画よりも舞台女優として名高いシンニード・キューザック、ガイ・リッチー監督の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』('99)や『スナッチ』('00)で注目されたジェイソン・フレミングなどが脇を固めている。

 

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