ステイシー・Q Stacey Q
ディスコ・アーティスト列伝<7>
80年代のディスコ・シーンを代表する一発屋だ。彼女の大ヒット曲“Two Of
Hearts”は80年代のダンス・ミュージックを語る上で欠かせない傑作だった。また、全米ポップ・チャートを賑わせた純アメリカ産ユーロビート作品としても、非常に貴重な存在だったと言える。それまでにも、ボビー・Oがプロデュースを手掛けたザ・フラーツやオー・ロメオなど、アメリカ人によるユーロビート作品というのは決して珍しくはなかった。しかし、ヨーロッパで大ヒットすることはあっても、アメリカではせいぜいダンス・チャートでのヒットが関の山だった。
そうした中で、“Two
Of
Hearts”はビルボードのポップ・チャートで最高3位をマーク。独特のセクシーなベビー・ボイス、“ア、アアアアア、ア、アアアア、アイ・ニード・ユー”というフレーズの強烈なインパクト、ヨーロッパ的なサウンド・プロダクションの煌びやかさ。当時のアメリカのダンス・シーンはラテン・ヒップ・ホップの全盛期であり、ステイシー・QのTwo
Of
Hearts”は全く異色の存在だった。
ちなみに、実は彼女もともとはパンク畑の出身。LAのパンク・シーンでカルト的な人気を誇ったバンド、SSQのリード・ボーカリストだったのだ。そのリーダーだったジョン・セイント・ジェームスがプロデュースを手掛けたのが“Two
of
Hearts”。もともとSSQ時代からシンセ・ポップ的なアプローチを試みていたセイント・ジェームスにとって、ユーロビートというのはごく自然な流れだったのかもしれない。
1959年11月30日、カリフォルニア州フラートンに生まれたステイシーは、本名をステイシー・リン・スウェインという。フラートンは西海岸のパンク・シーンの中心地的な街で、グウェン・ステファニーが所属したノー・ダウトやオフスプリングなどの人気バンドを生み出した場所。またカリフォルニアで最も豊かな地区オレンジ・カウンティの北部に位置する街でもある。幼い頃からバレエを学んだステイシーは、10歳の時にオレンジ・カウンティ・ダンス劇団の最年少メンバーとなり、バレエとフラメンコを学んだ。高校を卒業したステイシーは、世界的に有名なリングリング・サーカスのダンサーとなる。
その後、音楽業界に身を転じたステイシーは、1981年にジョン・セイント・ジェームスのレコーディング・アシスタントとなった。当時“QQ”というバンドを率いていたセイント・ジェームスは、“Sushi”という楽曲をレコーディング中にステイシーをボーカリストとして起用。これをきっかけに、1982年ステイシーをリード・ボーカリストとする新しいバンド“SSQ”が結成された。日本でもSSQは映画「バタリアン」のサントラで一部に熱狂的なファンを生み出している。
実質的にステイシーを全面に押し出していたSSQの人気に目をつけたアトランティック・レコードは、1986年ステイシーとソロ契約を結ぶ。シングル“Two
Of Hearts”はミリオン・セラーを記録し、ファースト・アルバム“Better Than
Heaven”もゴールド・ディスクを獲得する大ヒットとなった。さらに、このアルバムからは“We Connect”、“Insecurity”、“Music Out
Of Bounds”がシングル・カットされている。
さらに彼女は、当時の人気ファミリー・ドラマ“Facts Of
Life”に歌手シナモン役としてゲスト出演。“Facts Of
Life”は当時視聴率低迷に苦しんでいたが、ステイシーが出演した2本のエピソードはシーズン最高の視聴率をマークし、番組のプロデューサーはシナモンを主人公にしたスピン・オフ・シリーズや彼女をモデルにしたバービー・ドールの発売なども計画していたという。しかし、音楽活動に専念させたいというレコード会社の意向から、これらの計画は実現することがなかった。
1988年にはセカンド・アルバム“Hard
Machine”とシングル“Shy Girl”が発売されたが、どちらもセールス的には大惨敗。1989年のサード・アルバム“Nights Like
This”もチャート・インすら出来ず、シングル“Give You All My
Love”はダンス・チャートでヒットしただけだった。
その後、チベットへ渡ったステイシーは仏教に開眼。修行を積んだ後帰国し、1997年にカムバック・アルバム“Boomerang”をリリースした。これはフォーク色の強いアコースティック・アルバムで、批評家やファンの間では大絶賛されたものの、セールス的には惨敗。唯一、シングル“Tenderness”がジャマイカのヒット・チャートで5位にランクされるというヒットとなった。以降、ゲイ・ムービー“Citizens
of Perpetual
Indulgence”('00)に出演したり、ゲイ・ポルノにカメオ出演したりとアンダーグランド・シーンで活動を続けているステイシー。現在は新しいアルバムのレコーディングに向けて準備を進めているという。
Better Than Heaven (1986) Nights Like This (1989) Give You All My Love (1989) Boomerang (1997) 1,Give You All My
Love
(P)1986 Atlantic (USA)
(P)1989 Atlantic (USA)
(P)1989 Atlantic (USA)
(P)1997 ENo Records (USA)
1,Two Of Hearts 7:13
2,We Connect 4:14
3,Insecurity
3:31
4,Better Than Heaven 3:33
5,Don't Let Me Down 3:53
6,Music
Out Of Bounds 4:24
7,Love Or Desire 3:46
8,Don't Break My Heart
3:33
9,He Doesn't Understand 5:07
10,Dancing Nowhere
3:46
produced by John St. James
2,Nights Like This
3,Heartbeat
4,Incognito
5,Take That
Holiday
6,You Wrote The Book
7,Love Philosophy
8,Goin'
Out
9,Too Good To Me
10,The Edge Of Love
produced
by Robert Clivilles & David Cole,Robert
Gordon,Bruce Gaitsch,Jon St.JamesA
Side
1,Crossover House Mix 5:47
2,Crossover Club Mix 4:33
B
Side
1,Underground Mix 4:41
2,Radio Edit 3:37
produced by
mixed by Robert Clivilles & David Cole1,Boomerang
2,Tenderness
3,Holding On To The Earth
4,I
Doubt If It Does To You
5,Love On
6,Tara
7,Never Stop
8,My
Sweet Lord
9,All I Ever Wanted
10,Something About You
11,I Don't
Know How To Say Goodbye To You
12,Clear Light
produced by
Michael Eckart & Dain Noel
80年代を代表するディスコ・ヒット#1を含むファースト・ソロ・アルバム。ステイシーのセクシーなウィスパー・ボイスを生かした、ヨーロピアンな雰囲気のダンス・ポップ・アルバムに仕上がっています。ソフトでドリーミーな#4や#5など、ポップスとしても非常にクオリティの高い楽曲が多く、単なるダンス・ミュージックと侮ることの出来ない佳作。ジョン・セント・ジェームズの優れたポップ・センスはもっと評価されるべきでしょう。
全く売れなかったサード・アルバムですが、後にC&C・ミュージック・ファクトリーとして大ブレイクするロバート・クリヴィリスとデヴィッド・コールをプロデュースに迎えたシングル#1は超ポップでキャッチーなダンス・ナンバー。むちゃくちゃ大好きでした。ただ、全体的には地味な印象のアルバムで、変にアンダーグランド色が強いのがマイナス要因。ジョン・セント・ジェームズの手掛けたハイエナジー・ディスコ#4はアレンジ次第ではシングルでもイケたと思います。
これはカッコいい!ポップでキャッチーなメロディに派手でアップリフティングなサウンド・プロダクション。スウィート・センセーションの“Love
Child”を彷彿とさせるポップ・ハウスの傑作です。どのミックスも尺的に短いものの、そのタイトで無駄のないエディットは、さすがC&Cと唸ってしまうこと必至。ちなみに、バック・ボーカルにはジョセリン・ブラウンとマーサ・ウォッシュが参加しております。
ステイシーのカム・バック・アルバム。フォーク・ロック色の強いアコースティックな作品ですが、これが意外なくらいに素晴らしい出来映え。ソフトで優しいステイシーのウィスパー・ボイスも魅力的で、リンジー・デ・ポールやポリー・ブラウン辺りの70年代のソフト・ロックが好きな人にもオススメです。中でもジョージ・ハリソンのカバー#8が出色の出来。また、#3と#11ではサム・フィリップスのカバーにも挑んでいます。隠れた名作。オススメです。