Sparkle (1976)
もうひとつの「ドリームガールズ」

 

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(P)2007 Warner Bros (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
カラー/ワイドスクリーン/モノラル/音声:英語/字幕:英語/地域コード:1/98分/制作:アメリカ

特典
オリジナル劇場予告編
サウンドトラックCD
監督:サム・オスティーン
製作:ハワード・ローゼンマン
脚本:ジョエル・シュマッカー
撮影:ブルース・サーティーズ
音楽:カーティス・メイフィールド
出演:フィリップ・マイケル・トーマス
    アイリーン・キャラ
    ロネット・マッキー
    ドーン・スミス
    メアリー・アリス
    ドリアン・ヘアウッド
    トニー・キング
    ビアトリス・ワインド

 

 60年代の人気ガールズ・グループ、シュープリームスをモデルに、3人組の黒人女性グループのサクセス・ストーリーを描いたビヨンセ主演のミュージカル映画「ドリームガールズ」('06)。独立心旺盛なエフィー役を演じたジェニファー・ハドソンがアカデミー助演女優賞を受賞するなど話題になり、日本でも大ヒットを記録した。もともと、1981年にブロードウェイで初演されてロングラン・ヒットとなったミュージカルの映画化なのだが、その舞台版の「ドリームガールズ」が生まれる以前にも同じような題材を扱った映画が作られていた。それが、この“Sparkle”である。
 舞台は1950年代末のニューヨークはハーレム。主人公は仲の良い黒人3人姉妹、シスター(ロネット・マッキー)、ドロレス(ドーン・スミス)、そしてスパークル(アイリーン・キャラ)だ。姉妹の母エフィー(メアリー・アリス)は、金持ちの白人家庭でメイドとして働きながら苦労して娘たちを育てているシングル・マザー。末っ子スパークルの恋人スティックス(フィリップ・マイケル・トーマス)は、レコード店で働く傍らで友人とR&Bのコーラス・グループを組んで活動している。ハーレムで暮らす貧しい若者が成功を目指すには、音楽業界が最も現実的な道だったのだ。しかし、そう簡単には芽が出ない。3人姉妹が歌えることを知ったスティックスは、親友のレヴィ(ドリアン・ヘアウッド)も含めた男女グループとして地元クラブのタレント・コンテストに出場して好評を得る。

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貧しくも賑やかな家族

スター街道を歩み始める3人姉妹


 コンテストでの勝因が3人姉妹の華やかなタレント性である事に気付いたスティックスは、自ら裏方に回って姉妹をコーラス・グループとして売り出す事にする。結果は大正解。中でもリード・ボーカルを担当する美人で野心的な長女シスターは、グループ最大のセールス・ポイントだった。しかし、そんな姉妹に近づいてきたのは、ハーレムを牛耳る麻薬組織のボス、サテン(トニー・キング)。ハーレムで活動するには、彼のお墨付きが絶対に必要だった。
 貧しい生活に嫌気の差していたシスターは、富と権力を持つサテンに魅了されて彼の愛人となる。だが、女を飾り物としか考えないサテンは、毎日のようにシスターに暴力を振るい、麻薬漬けにしてしまう。顔の痣をメイクで隠し、麻薬でボロボロになった体を引きずってステージに立つシスターの姿に心を痛める末っ子スパークル。
 一方、次女のドロレスはサテンの子分に近づき、麻薬取り引きの情報を聞き出して警察に密告する。シスターからサテンを遠ざけるために。しかし、その取り引き現場で逮捕されたのは、他でもない大切な友人レヴィだった。やはり貧困から抜け出したい一心のレヴィは、音楽に見切りをつけてサテンの部下として犯罪の世界に足を踏み入れていたのだった。全てに失望したドロレスは、ハーレムを去ることを決意する。麻薬や暴力から抜け出すことの出来ないハーレムの生活、貧しさから抜け出す事の出来ない黒人の現実。“白人のメイドをして一生を終えるなんてまっぴら御免よ!”と母エフィに向かって叫ぶドロレスは、公民権運動が芽生え始めた外の世界へと旅立っていく。新しい社会でチャンスを見つけるのだ、と。
 それはスティックスも同じだった。親友レヴィの一件で怒りに燃えた彼は、諸悪の根源とも言えるサテンを素手で殴り倒す。虫の息のサテンに向かってスティックスは、“二度と俺たちに近づくな”と言い放った。そして、やはりハーレムの現実に大きく失望した彼は、他の土地へと去っていってしまう。
 残されたのはシスターとスパークル。すっかり麻薬中毒となってしまったシスターは、場末のジャズ・クラブで細々と歌っていたが、遂に帰らぬ人となってしまう。亡き姉シスターの苦しみや母エフィの苦労を知り尽くしていたスパークルは、彼女らの哀しみを一身に受け止めて独り苦悩していた。そんな彼女の前に戻ってきたスティックス。もう一度音楽をやろう、という彼に今まで我慢していた怒りをぶつけるスパークル。しかし、“みんなのためにも夢を追いなさい”という母の言葉で、再び歌手を目指すことを決意する。
 だが、スティックスとスパークルにとって大きな問題は、レコーディングをするための資金だった。その問題を解決してくれたのが、母エフィの雇い主である富豪ダニエルズ氏。レコードの売り上げから利子を付けて返す事を条件に、資金を提供してくれたのだった。初めてのレコーディングに緊張してなかなか実力を出せないスパークル。そんな彼女をスティックスは優しく包み込み、本来持っている才能を引き出していくのだった。
 こうして完成にこぎ着けたスパークルのデビュー・シングルは評判を呼び、スティックスはダニエルズ氏に借金を返済する。しかし、スパークルの成功をいい金づると考えたダニエルズ氏は、マフィアを使ってスティックスを脅迫しようとする・・・。

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麻薬に溺れていく長女シスター(L・マッキー)

ハーレムを去る次女ドロレス(D・スミス)

 キレイごとばかりではないショー・ビジネス界の裏側や黒人の置かれた困難な状況というのは「ドリームガールズ」でも描かれていたが、あくまでもメインは夢のようなサクセス・ストーリーだった。それに比べてこの“Sparkle”は、「ドリームガールズ」のようなシュガーコーティングが一切されていない。それどころか、華やかなサクセス・ストーリーとはかけ離れた物語と言っていいだろう。主人公たちの結成したグループは成功への道を歩みながらも、ハーレムの残酷な現実の前にあえなく離散してしまう。ただ一人残されたヒロイン、スパークルが何とか成功への切符を手に入れるが、そんな彼女の前にも暗雲が立ち込める。
 この作品の本質を語る上で忘れてならないのは、製作当時のアメリカ社会と映画界の状況だろう。60年代末からの公民権運動の高まりを受け、70年代に入ると“ブラクスプロイテーション”と呼ばれる黒人映画が一大ブームを巻き起こした。「黒いジャガー」('71)や「スーパー・フライ」('72)、「ブラック・シーザー」('73)といった黒人を主人公にしたアクション映画群である。貧困や暴力、ドラッグにまみれた黒人社会の問題を描いた作品も少なくなかったが、その一方で黒人のヒーローが白人の悪者をやっつけるという安直なものも多かった。要は、未だに貧困から抜け出せない黒人層をターゲットにした現実逃避的エンターテインメントだったのある。そのブラクスプロイテーション映画のブームが終焉を迎えようという時期に、この“Sparkle”という作品が登場したのには大きな意味があったように思う。
 同胞である黒人からも支配層である白人からも搾取されようとする主人公たち。それぞれが目の前の現実に傷つき、バラバラとなっていく中で、スティックスは麻薬組織のボスである黒人サテンにも、そして富豪の白人ダニエルズ氏に対しても毅然とした態度で“ノー”を表明する。自分たちの置かれた状況の本質が何なのかという事を直視し、勇気を持ってそれに立ち向かう。そうやって問題を克服してこそ初めて成功への道が切り開かれていく。安易に犯罪の道に走ったり圧力に屈したりせず、自信と誇りを持って前に進む事の大切さが力強く描かれているのが、この“Sparkle”という作品の大きな魅力だ。アクション映画の体裁を取りながらも、黒人が黒人を搾取して堕落させていくというハーレムの哀しい現実への怒りを込めた名作「コフィー」('73)とも相通ずる精神が感じられるように思う。

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哀しみを乗り越え夢を追うスパークル(I・キャラ)

スティックスを演じるフィリップ・M・トーマス

 いわゆるブラクスプロイテーション映画とは全くかけ離れていたため、公開当時はあまり話題にならなかったようだが、黒人コミュニティーの間では隠れた名作として語り継がれてきたカルト映画だった。ゆえに、舞台版「ドリームガールズ」への影響というのも少なくないように思う。アメリカでは映画「ドリームガールズ」のヒットに便乗してDVD化されたが、発売元のワーナーに対しては意外にも批判の声が強い。今まで一度もソフト化してくれなかったクセに、金儲けのためだけに映像特典も無いようなDVDを安易に出すな!というワケだ。逆にいうと、それだけ熱心なファンが多い作品だとも言える。
 監督はサム・オスティーン。もともと編集マンとして有名な人物で、「卒業」('67)や「ローズマリーの赤ちゃん」('68)、「チャイナタウン」('74)、「シルクウッド」('83)、「ワーキング・ガール」('88)など数多くの名作を手掛けている。70年代に入ってテレビ映画の演出も担当するようになったが、劇場用映画の監督は残念ながらこの“Sparkle”一作のみ。
 脚本を担当したのはジョエル・シュマッカー。そう、「セントエルモズ・ファイヤー」('85)や「フラットライナーズ」('90)、「バットマン・フォーエバー」('95)、「8MM」('99)、「オペラ座の怪人」('04)などを手掛けてきたハリウッドのトップ・ディレクターだ。当時は脚本家として活躍しており、「カー・ウォッシュ」('76)や「ウィズ」('78)のような黒人映画の脚本も手掛けていた。また、撮影を担当したブルース・サーティーズも、「ダーティハリー」('71)や「荒野のストレンジャー」('73)、「ペイルライダー」('85)などクリント・イーストウッド映画の撮影監督として非常に有名だった人物。さらに、音楽を担当するのがファンク・ソウルの帝王カーティス・メイフィールド。「スーパー・フライ」のサントラを手掛けたことでも有名だが、本作ではモータウン・サウンド風のキャッチーな楽曲を披露している。
 また、この作品はキャスティングも興味深い。まずヒロインのスパークル役を演じるのはアイリーン・キャラ。あの「フェーム」がデビュー作だと思っている人も多いだろう。歌手としても「フェーム」や「フラッシュダンス」の主題歌で一世を風靡した人だが、ここでは意外なくらいにソウルフルで迫力のあるボーカルを聴かせてくれる。本来は非常に“黒い”タイプのボーカリストだったのだ。恐らく後のヒット曲ではより幅広いリスナー層にアピールするため、あえてボーカル・スタイルを“白く”したのだろう。また、シスター役を演じるロネット・マッキーも、エモーショナルで素晴らしいボーカルを披露している。後にスパイク・リー監督の「ジャングル・フィーバー」('91)や「マルコムX」('92)で有名になる美人女優で、麻薬と暴力の犠牲となるシスターの壮絶な姿を気迫で演じ切っている。彼女にしてもアイリーン・キャラにしても、本作での熱演を見ていると、いかに女優として過小評価されてきたかがよく分かる。ちなみに、映画本編では彼女たち自身が挿入歌を歌っているが、サントラ盤では何故かアレサ・フランクリンのボーカルに差し替えられている。
 そして、スティックス役を演じるのがフィリップ・マイケル・トーマス。そう、あの大ヒット・ドラマ「マイアミ・バイス」のイケメン刑事タブス役で日本でもお馴染みのスターだ。彼もタブス役のイメージが強すぎて、映画俳優としては残念ながら大成しなかったが、本作では一時期のデンゼル・ワシントンを彷彿とさせるような実直で頼もしい魅力を発揮している。

 さて、日本では未だに未公開のままの“Sparkle”。6月には「ドリームガールズ」のDVDも発売されるようだが、便乗でも構わないので衛星放送なりDVD化なりで是非日本にも紹介して欲しい小品佳作である。

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