スパニッシュ・ホラー傑作選
PART 1

 

La campana del infierno (1973)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に未発売

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(P)2005 Pathfinder (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語・スペイン語・フランス語/字幕:なし/地域コード:ALL/92分/製作:スペイン・フランス

映像特典
スペイン語タイトル・シーン
スペイン国内上映版着衣シーン
スチル・ギャラリー
作品解説
バイオグラフィー集
監督:クラウディオ・グエリン
製作:クラウディオ・グエリン
脚本:サンチャゴ・モンカーダ
撮影:マヌエル・ロハス
音楽:アドルフォ・ワイツマン
出演:ルノー・ヴェルレー
   ヴィヴェカ・リンドフォース
   アルフレド・マヨ
   マリベル・マルタン
   ヌリア・ジメノ
   クリスティン・ベッツナー
   サトゥルノ・セラ
   ニコール・ヴェスペリーニ

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精神病院を出たばかりの若者フアン(R・ヴェルレー)

立ち寄った町で屠殺場のアルバイトをする

 スペイン語で“地獄の鐘”という意味の本作。保守的で閉鎖的な古い田舎町を舞台に、その自由奔放な言動から精神異常者のレッテルを貼られた若者が、亡き母と自分を不幸に貶めた人々へ復讐を謀る。怪奇幻想的なタッチが独特のシュールなムードを醸し出す、アート系ホラー・サスペンスの佳作である。
 主人公は精神病院を出たばかりの若者フアン。故郷の町へ戻ってきた彼を、伯母のマルタと3人の従姉妹は複雑な面持ちで迎える。実は、フアンを精神病院へ無理やり送り込んだのは、他ならぬ伯母だった。フアンの亡き母の莫大な遺産を管理するため、邪魔者である彼を遠くへ追いやったのである。
 しかも、自由奔放な母を一族の恥だとして精神的に追いつめ、自殺へ追いやったのも伯母だった。母と同じように自由を愛するフアンは、遺産を手放す代わりにどこか別の土地へ行って暮らしたいと願う。だが、世間体を重んじる伯母は断固拒否し、フアンを厳しく保護監視下に置こうとする。
 そればかりか、保守的な町の人々は裏表のある偽善者ばかり。表向きは良識ある市民の顔をしながら、裏ではドロドロとした欲望を煮えたぎらせ、フアンや貧しい老人、聾唖者の少女らに偏見の眼差しを向けている。彼にとっては、まさに生き地獄だった。
 そんな伯母や従姉妹たち、町の住人たちに痛烈な復讐を試みるフアン。だが、その過程で彼には自己に対する大きな疑念が生まれていく。“人間は不思議な生き物だ。良心というものがある”と。果たして、残酷な仕返しを計画する自分は本当に正常なのか?それとも、伯母たちの言うとおり異常なのか?
 本作の重要なポイントは、当時の軍事政権下におけるスペイン社会の根深い閉塞感、理不尽な自由への抑圧を浮き彫りにしながら、そのような状況の中で善悪の感覚を失っていく人間心理の怖さを描いている点だろう。“善悪に違いなんかない、ただルールがあるだけだ”という彼の呟きが象徴的だ。
 ストーリーを追っていくとサイコロジカルなスリラーという印象だが、随所に挿入される怪奇幻想的でバイオレントな描写がホラー的ムードを嫌がおうにも高めていく。ちょうど、同じくスペインで作られたホラー・ミステリー『象牙色のアイドル』と似たような雰囲気と言えば分かってもらえるだろうか。
 中でも、復讐計画の下準備をするためにフアンが屠殺場で働くシーンが強烈な印象を残す。次々と生きたまま喉元を掻っ切られ、断末魔の悲鳴をあげながら悶絶死し、バラバラに解体されていく肉牛たち。本物の屠殺場で撮影されているため、それはそれは目を背けたくなるくらいリアルだ。己の腹を満たすために残虐な殺戮を正当化する人間たち。クラウディオ・グエリン監督のシニカルで醒めた視線が、人間の本質的な罪深さを雄弁に物語っている。
 また、寄ってたかって自由の芽を摘んでいく偽善者たち(=権力)の恐ろしさと愚かさを痛烈に知らしめつつ、その一方で秘かに受け継がれていく志というものの力強さを描いたクライマックスも、ただ単に後味の悪さを残すだけではないという点で秀逸だ。

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厳格な伯母マルタ(V・リンドフォース)

美しき従姉妹たち(M・マルタン、N・ジメノ、C・ベッツナー)

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聾唖者の少女をレイプしようとするドン・ペドロ(A・マヨ)

バイクに乗ったフアンが少女を助ける

 精神病院を退院した若者フアン(ルノー・ヴェルレー)は、故郷の町を目指してバイクの旅を続けた。途中の町に立ち寄った彼は、しばらくの間だけ屠殺場でアルバイトをする。給料を受け取って辞めていく彼に、“なぜ急いで出て行く?”と訊ねる社員。フアンは、“学びたいことは全て学んだからさ”と言い残して去っていく。
 いよいよ故郷へと戻ってきたフアン。彼は後見人である伯母マルタ(ヴィヴェカ・リンドフォース)の豪邸を訪れる。半身不随で車椅子のマルタは、フアンの亡くなった母親の姉だった。保守的で厳格なマルタは、まるで正反対の自由奔放な妹とその息子フアンを昔から見下していた。
 伯母が席を外している隙に、フアンはリビングのタンスを探る。すると、精神病院の医師への支払い証明や細工のされたフアンの診断書が出てきた。伯母は医者に多額の報酬を払って買収し、偽の診断書を作らせてフアンを病院に閉じ込めていたのだ。それは、彼が母親から相続した莫大な遺産の管理を自分が横取りするためであり、反抗的な甥っ子の人格を矯正するためでもあった。
 そこへ、マルタの娘たちが帰ってくる。長女テレサ(ヌリア・ジメノ)、次女マリア(クリスティン・ベッツナー)、三女エステル(マリベル・マルタン)、いずれ劣らぬほど美しい三姉妹だ。すっかり元気に回復したかのように見えるフアンの姿を見て喜ぶマリアとエステルだったが、母親似で気難しいテレサはいまだに彼のことを快く思っていない。
 町では教会の古い鐘の修理工事が進行していた。資金を提供するのはマルタ。現場監督を任されたのは、町の有力者の一人であるドン・ペドロ(アルフレド・マヨ)だ。高潔な人格者として評判の高いドン・ペドロだが、その素顔は屈折した暴君である。仲間を連れて狩りに出かけた彼は、町の外れに住む貧しい聾唖者の少女と遭遇した。少女を陵辱してからかう男たち。ドン・ペドロは優しく庇うふりをして近づき、おもむろにレイプしようとする。
 そこへバイクに乗ったフアンがやって来た。ドン・ペドロと仲間たちは彼を猟銃で殺そうとするが、次々とバイクにはねられていく。フアンは少女を救い出し、彼女を育てている老人のもとへ送り届けた。
 翌日、両腕にギブスをはめたフアンはカフェでカード遊びをしているドン・ペドロのもとを訪れ、昨日の出来事を町中に言いふらすと脅迫。ドン・ペドロは便所で用を足すフアンの手伝いをしながら、跪いて許しを請うた。その言葉を聞いて、笑い声を上げながらギブスを外すフアン。怪我など嘘っぱちだった。そればかりか、フアンは前日にドン・ペドロの妻を驚かせて失神させ、さも彼女がフアンとセックスをしたかのような細工をしていた。プライドをことごとく傷つけられたドン・ペドロは、怒りで顔を真っ赤に腫らす。
 さらに、フアンは伯母と従姉妹たちを自宅の食事に招く。彼が何か企んでいるのではと疑心暗鬼になりながらも、建前もあって招待を受け入れたマルタ。食事を終えて伯母を散歩に連れ出したフアンは、伯母が居眠りをはじめたのを見計らって彼女の顔に蜜のスプレーを振りまき、周囲に蜜蜂を放った。フアンの母親が自殺した原因は伯母だったからだ。
 次に、彼は従姉妹たちを次々と誘惑し、予め仕込んであった罠で彼女らを監禁する。中でも、自分にレイプされたとウソをついて、精神病院送りになるきっかけを作ったテレサへの仕打ちは手厳しかった。しかも、テレサは本心ではハンサムなフアンの肉体に惹かれていたのだ。だが、その高いプライドや凝り固まった道徳観念から素直に認めることが出来ず、妹たちと楽しそうにじゃれあう彼に嫉妬して、レイプ事件をでっち上げたのである。
 屠殺場で学んだように従姉妹たちを地下室に吊るし上げ、肉切り包丁で殺そうとするフアン。しかし、前で思いとどまって立ち去った。その隙に逃げ出した姉妹はドン・ペドロに助けを求め、フアンを捕える。
 蜂に刺されて顔面が醜くはれ上がったマルタ、屈辱的を味わされたドン・ペドロは、フアンを亡き者にしてしまおうと決心する。明日は教会の鐘のお披露目式。彼らはフアンを教会の地下に連れて行き、鐘から下ろされた縄で彼の首を縛った上で、壁の中へと生き埋めにした。つまり、鳴り響く鐘の音がフアンの死を告げるのだ。
 翌日、式典で鳴り響く鐘の音。ホッとした顔をするマルタやドン・ペドロ、テレサだったが、フアンに同情的だったエステルは憤りを禁じえず、家族と絶縁して町を出て行くことを決意する。何事もなかったような顔をして帰路につくマルタとドン・ペドロ。しかし、彼らはフアンが万が一の場合に備えた最終的な復讐計画を用意していたことに気付いてはいなかった・・・。

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フアンは伯母と従姉妹たちを自宅に招く

フアンの奇妙なランチに戸惑う伯母たち

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伯母はフアンの母親を自殺に追い込んでいた

伯母が居眠りをした隙に蜜蜂を放つフアン

 監督のクラウディオ・グエリンはオムニバス映画『挑戦』(69)でスペイン国内の各賞を受賞し、オルネラ・ムーティとルチア・ボゼ主演のサイコロジカル・ドラマ“La casa de las palomas(ハトの家)”(72)で国際的にも注目された人物。
 本作を見る限りでは、独特のスタイリッシュでシュールな映像センスと辛口の風刺センスを併せ持った監督で、それこそブニュエルやポランスキーにも匹敵する才能の持ち主といっても過言ではあるまい。マルタたちが教会の鐘を使ってフアンを抹殺するという最期は、フランコ政権のみならずカトリック教会をも含んだ権力の非道と自由への渇望を浮き彫りにして印象的。しかし、残念なことに撮影最終日に教会の鐘の塔の上から落下し、これが遺作となってしまった。
 脚本を手掛けたのは、マリオ・バーヴァ監督の幻想的なサイコ・サスペンス『クレイジー・キラー/悪魔の焼却炉』(69)やフアン・アントニオ・バルデム監督の猟奇サスペンス『真夜中の恐怖』(73)で知られるサンチャゴ・モンカーダ。撮影監督のマヌエル・ロハスはアカデミー外国語映画賞を受賞した名作“Volver a empezar(再出発)”やカルト映画『人獣戯画』(83)などを手掛けたマヌエル・ロハス。さらに、ポール・ナッシーの『悪魔の死体蘇生人』(72)や『ザ・ゾンビ 黒騎士のえじき』(72)などのフリアン・ルイスが特殊メイクを担当している。

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屠殺場のごとく従姉妹たちを吊るし上げる

肉牛のように殺そうとするフアンだったが・・・

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教会の地下の壁に埋められるフアン

鳴り響く鐘の音がフアンの死を告げる

 主人公フアン役を演じているのは、『個人教授』(68)や『さらば夏の日』(70)などで日本でも大ブレイクし、市川箟監督の『愛ふたたび』(71)にも主演した青春アイドル、ルノー・ヴェルレー。これがもし彼の人気絶頂期に公開されていたら、絶対に日本へも輸入されたのだろうにと思うとちょっと悔しい(笑)
 その厳格で偽善的な伯母マルタ役には、『ドン・ファンの冒険』(49)や『ムーンフリート』(55)で知られるスウェーデン人女優ヴィヴェカ・リンドフォース。“第2のバーグマン”として華々しくハリウッド・デビューを飾ったものの伸び悩み、個性的な脇役女優として晩年まで『クリープショー』(82)や『スターゲイト』(94)などに出演した女優だった。名匠ドン・シーゲル監督の夫人だったことでも有名。
 そのほか、マカロニ・ウェスタンからジャッロまで数多くの娯楽映画に出演した名脇役アルフレド・マヨ、『象牙色のアイドル』(69)でも清楚な美少女ぶりを発揮していたマリベル・マルタン、ジェス・フランコ監督の『バージン・ゾンビ/悪魔の死霊軍団』(71)に主演していたクリスティナ・フォン・ブランがクリスティン・ベッツナー名義で出演している。

 

 

ドーターズ・オブ・ドラキュラ/吸血淫乱姉妹
Vampyres (1974)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2003 Blue Underground (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/88分/製作:イギリス

映像特典
インターナショナル予告編
アメリカ版予告編
ポスター&スチル・ギャラリー
M・モリス&アヌルカ インタビュー
幻の未公開シーン再現
アヌルカ グラマー・ギャラリー
J・R・ララツ監督等の音声解説
J・R・ララツ監督バイオグラフィー
トリビュート・コラム(DVD-ROM)
監督:ホセ・ラモン・ララツ
製作:ブライアン・スミドリー=アストン
脚本:ダイアン・ドーブニー
撮影:ハリー・ワックスマン
音楽:ジェームズ・ケネルム・クラーク
出演:マリアンヌ・モリス
   アヌルカ
   マレー・ブラウン
   ブライアン・ディーコン
   サリー・フォークナー
   マイケル・バーン
   カール・ランチビューリー
   ベッシー・ラヴ

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二人の美女が射殺される

ビジネスマン風の中年男性テッド(M・ブラウン)

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若夫婦ジョン(B・ディーコン)とハリエット(S・フォークナー)

ヒッチハイクをする謎めいた美女フラン(M・モリス)

 はじめに断っておくと、こちらはスペイン映画ではなくイギリス映画。スパニッシュ・セクスプロイテーション映画の名物監督ホセ・ラモン・ララツが、イギリス在住時代に手掛けたバンパイア・ムービーである。
 レズビアンの女性バンパイア二人組が次々と男たちを誘っては血祭りに上げていく。そんな彼女たちの虜となった中年男と、偶然にも遭遇してしまった若いカップルの体験する恐怖を描いた作品。
 ・・・とはいっても、ストーリーは殆んどあってないようなもの。森の中にそびえ立つ古い豪邸に住む女バンパイアたちが、セックスしては血を吸って、付近の墓場や道路をさまよって・・・という姿を、幻想的なゴシック・ムードとハードなエロス、血まみれのスプラッターで描いていくというもの。
 なので、内容的には殆んどソフト・ポルノ。ホラー映画としての怖さは限りなくゼロに近いものの、濃厚で耽美的なエロスとダークなホラー・ムードを楽しみたいファンにはうってつけ。ヒロインたちが男の血をベロベロと舐めながらレズるシーンの退廃ムードなんかはなかなかよろしい。
 ホセ・ラモン・ララツ監督はバルセロナ生まれ。父親が共産主義者だったことから大学を追われ、パリでコミック・アーティストとして成功。さらにロンドンへ渡って映画監督になったという変りダネだ。
 本作はララツ監督のラテン気質丸出しなエログロ描写と、異邦人ならではの視点で捉えられた英国風景の美しさが最大の見どころ。中でも、森の奥深くにたたずむゴシック邸宅や、ロマンティシズムすら感じさせられる墓地の幻想的な情景が印象深い。ハマー・ホラーとは明らかに違うし、ピート・ウォーカーやノーマン・J・ウォーレンなどとも一味違う、独特のセクスプロイテーション映画に仕上がっている。
 どう見ても低予算の早撮り映画なのは明らかだし、主演のマリアンヌ・モリスもアヌルカも決して演技が上手いとは言えない。実際に製作費は4万ポンド、撮影期間はたったの3週間だったそうだ。とはいえ、それにしてもなかなかの小品佳作。玉石混合のララツ監督作品の中でも、かなり上出来な映画だろうと思う。
 なお、邦題では“吸血淫乱姉妹”とあるのだが、吸血も淫乱も間違ってはいないものの、決して姉妹ではないのでお間違えなく。

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森の奥深くにたたずむ豪邸

豪邸の様子を伺うジョンとハリエット

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舗道の事故現場で発見された男性の変死体

テッドを豪邸へ招き入れるフラン

 とある豪邸。ベッドの上でお互いの肉体を貪り合う二人の美しい女性。屋敷の中を徘徊する謎の影が近づき、拳銃で二人を射殺する。それから歳月が流れ、舞台は古いホテルに。テッド(マレー・ブラウン)というビジネスマンらしき中年男がチェックインをする。どこかで見覚えがあるという老従業員に、テッドは不機嫌そうな様子で“人違いだ”と言い放ち、部屋へと向かった。だが、その様子はソワソワとして怪しい。
 田舎道を一台のキャンピング・カーが走っている。乗っているのは若い夫婦ジョン(ブライアン・ディーコン)とハリエット(サリー・フォークナー)。二人は黒いマントに身を包んでヒッチハイクをしている妖艶な美女フラン(マリアンヌ・モリス)を拾う。ハリエットは、森の奥でもう一人ブロンドの美女がその様子を伺っていることに気付くが、ジョンは見間違えではないかと一笑に付した。
 森の奥深くにたたずむ一軒の豪邸へフランを送り届けたジョンとハリエットは、その近くでキャンピング・カーを泊めることにした。静まり返った真夜中の豪邸内にうごめく灯りを発見し、怪訝そうな顔をするハリエット。翌朝、彼女は近くの墓地を駆け抜けていく二人の女性の姿を見かけた。その頃、近くの舗道では転倒した車の中から血まみれとなった男性の死体が発見される。警察は事故として処理したが、このところ近辺では似たような事故が相次いでいる。
 車を走らせていたテッドはフランを拾い、彼女を豪邸へと送り届ける。誘われるがままに屋敷内へと連れて行かれ、ワインをご馳走になるテッド。彼はフランが昔の知り合いにソックリであることが気になっていた。やがてお互いの肉欲に火のついた二人は、ベッドで激しいセックスを繰り広げる。
 翌朝、誰もいないベッドで目が覚めたテッドは、腕の関節に大きな傷が付けられていることに気付いて驚く。屋敷の中ももぬけの殻。ジョンとハリエットのキャンピングカーを発見した彼は、夫婦に傷口を手当してもらう。そして、屋敷の前でフランが戻るのを待っていた。
 すっかり日も暮れたころ、フランが友人のミリアム(アヌルカ)、若い男性ルパート(カール・ランチビューリー)を連れて戻ってきた。フランは留守にしていたことをテッドに謝り、再び彼を屋敷へ招き入れる。
 ワインを楽しむフランとミリアム、テッド、ルパートの4人。ルパートとは、やはりヒッチハイクで知り合ったようだ。テッドをベッドルームへと誘い、再び激しいセックスに溺れるフラン。やがてテッドが眠りこけると、その腕の傷口から血をすする。
 さらに、彼女はミリアムのベッドルームへと行き、二人して血だらけになったルパートの全身を舐めまわして興奮状態に陥る。その後、シャワー・ルームで愛を交わすフランとミリアム。ミリアムはテッドを早く始末するよう忠告するが、フランには何か計画があるようだった。
 翌朝、再び一人で目覚めたテッド。体が明らかに衰弱している。車で舗道まで出た彼は、事故現場でルパートの死体を発見して驚く。フランとミリアムが殺したと察したテッドは、屋敷に戻って地下室を探し回る。そう、彼女たちがバンパイアではないかと直感的に疑っていたのだ。
 だが何の証拠も見つけられず、夕方になってフランとミリアムが帰って来た。今度はプレイボーイ風の男性(マイケル・バーン)を連れて。同じように彼女たちの犠牲となる男性。さらに、フランとミリアムはテッドの血を吸いながら女同士の激しいセックスを繰り広げる。
 一方、フランとミリアムの奇妙な行動を監視していたハリエットは、彼女たちが留守の昼間を狙って屋敷内へと忍び込む。地下室へと降りていった彼女は、死んだように眠るフランとミリアムの姿を発見する・・・。

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激しいセックスに溺れるテッドとフラン

テッドの腕の傷口から血をすするフラン

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ミリアム(アヌルカ)とルパートも加わる

ルパートを八つ裂きにして血を貪るフランとミリアム

 脚本を書いたダイアン・ドーブニーについての詳細は不明。ただ、ララツ監督は撮影しながら臨機応変に自分で脚本を書き変えていく人だったので、実質的には監督自身が共同で脚本も手掛けたようなものだったらしい。
 撮影を担当したハリー・ワックスマンは、『炎の女』(65)や『残酷な記念日』(68)のようなハマー・ホラーから、『カーツーム』(66)や『大強盗団』(67)のような大作アクション、『ワンダーウォール』(68)や『ウィッカーマン』(73)のようなカルト映画まで、実に幅広いジャンルの作品を数多く手掛けたイギリスの大物カメラマン。また、豪邸内の壮麗な美術デザインを手掛けたのは、『わらの犬』(71)や『ドーバー海峡殺人事件』(85)などのケン・ブリッジマンだ。
 なお、撮影に使用された豪邸はオークリー・コート。『ロッキー・ホラー・ショー』(75)のロケにも使用されたゴシック様式の建物で、ハマー・ホラーの撮影にもたびたび使われていたそうだ。

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毎朝のように墓地を駆け抜けていくフランとミリアム

屋敷の地下を探るテッド

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フラン、ミリアム、テッドによる血みどろの3P

屋敷内にこっそりと忍び込むハリエット

 妖艶でダークな美女フラン役を演じているマリアンヌ・モリスは、当時イギリスの低予算映画で脱ぎ役の多かったB級女優。そんな彼女でも、本作での過激なヌード・シーンはさすがに抵抗があったようだ。
 一方のミリアム役を演じるアヌルカは、本名をアヌルカ・ジュビンシュカというイギリスで売れっ子の広告モデルだった。女優を志して舞台へ進出。尊敬する名優ジョン・ミルズに“どんな仕事でも断るな”という助言を得た直後、出演依頼のあった作品がこれだったそうだ。しかも、同時期にソフト・ポルノ『O嬢の物語』の出演依頼もあったが、所属エージェントはそっちを断って本作を選んだのだという。蓋を開けてみれば、こっちもほとんどポルノ。本人も戸惑ったに違いない。
 そのほか、出演者は当時まだ無名の役者がほとんど。ハリエット役のサリー・フォークナーは、後にノーマン・J・ウォーレン監督のZ級ホラー『人喰いエイリアン』(78)に主演。また、プレイボーイ風の犠牲者役で登場するマイケル・バーンは、後にハリソン・フォードと共演した『ナバロンの嵐』(78)と『インディー・ジョーンズ/最後の聖戦』(89)でナチ将校役を演じ、近年も数多くのイギリス・アメリカ映画に出演している名脇役だ。
 また、本作ではサイレント時代からトーキー初期にかけてハリウッド映画のトップ女優として活躍したベッシー・ラヴが、ラスト・シーンでチラリと顔を出している。晩年の彼女はイギリスに移住して暮らしていたのだが、本作以外でも『チャタレイ夫人の恋人』(82)や『ハンガー』(83)などの作品にカメオ出演している。

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ラスト・シーンに顔を出す女優ベッシー・ラヴ(左)

 

 

Escalofrio (1978)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Mondo Macabro (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ/音声:スペイン語・英語/字幕:英語/地域コード:ALL/
82分/製作:スペイン

映像特典
悪魔崇拝ドキュメンタリー
予告編集
監督:カルロス・プエルト
製作:フアン・ピケール・シモン
脚本:カルロス・プエルト
撮影:アンドレス・ベレングェル
音楽:リブラド・パストール
出演:アンヘル・アランダ
   サンドラ・アルベルティ
   マリアナ・カール
   ホセ・マリア・ギレン
   マヌエル・ペレイロ
   ルイス・バルボー

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休日を過ごすアンドレス(J・M・ギレン)とアンナ(M・カール)

見知らぬカップルが接近してくる

 1975年11月20日、長年スペインを支配し続けた独裁者フランシス・フランコ将軍が死去。その後を継いだ国王フアン・カルロス1世が民主化路線を打ち出したことにより、スペイン映画界にもようやく表現の自由がもたらされた。それまで政治的な理由だけでなく、性描写や暴力描写などの表現方法が理由で、上映禁止や大幅カットなどの憂き目に遭っていたような作品も、次々と映画館で上映されるようになる。
 そこで、スペイン映画界は独自のレーティング・システムを導入することを決め、新たに“S”指定と呼ばれる区分を設けた。Sとは“Sex”のS。つまり、過激な性描写を含むアダルト向け作品のことを指す。このS指定を受けた作品で最初に話題を集めたのは、スタンリー・キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』だ。
 これがスペイン国内で圧倒的な大ヒットを記録したことから、国内の映画会社もこぞってS指定作品の製作に乗り出す。その第一次ブームの最初期に作られたスペイン産S指定映画の一つが、この“Escalofrio”という作品である。
 主人公は若い夫婦アンドレスとアンナ。友人を名乗る見ず知らずのカップルに別荘へと招待された二人は、次々と不可解な出来事に遭遇。なんと、そこは悪魔崇拝者たちの巣窟だったのだ。なんとか脱出を試みるアンドレスとアンナ。ところが、カップルの一人が拳銃自殺を遂げてしまい、アンドレスがその犯人に仕立て上げられてしまう。果たして、なぜアンドレスとアンナが悪魔崇拝者たちのターゲットになったのか?そして、その目的とは何なのか?
 大雑把に『ローズマリーの赤ちゃん』からヒントを得ていることは確かだろう。ちょうど当時は世界的なオカルト映画ブームの真っ只中ということもあり、それに便乗した企画であったろうことは想像に難くない。ダリオ・アルジェントやマリオ・バーヴァからの影響とおぼしき描写が散見される点も、ホラー映画ファンには興味深いところだろう。
 しかし、本作の最大の見せ場は、やはりセックス。黒ミサのめくるめく乱交シーンや、シャワールームでのセックス・シーン、レズビアンを彷彿とさせるヌード・シーンなど、70年代セクスプロイテーション映画ならではの刺激的な性描写が満載だ。同時代のイタリアやアメリカの作品と比べても、その過激度はなかなかのもの。
 低予算映画ゆえのご都合主義やチープなセット、結局は何が言いたいのかよく分からない脚本など問題点はあるものの、見せるところはちゃんと見せるという要点を押さえた演出には職人気質みたいなものを感じる・・・といったら大袈裟か(笑) いずれにせよ、セックスとバイオレンスの大好きなユーロ・トラッシュ・ファンにはおススメの一本である。

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ブルーノ(A・アランダ)はアンドレスの先輩だというが・・・

ブルーノ夫妻の別荘へ招かれたアンドレスたち

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ベルタ(S・アルベルティ)の発案でコックリさんをする4人

下男に襲われるアンナ

 とある日曜日。新居のアパートに引っ越してきた若夫婦アンドレス(ホセ・マリア・ギレン)とアンナ(マリアナ・カール)は、久々に外でデートを楽しむことにする。アンナは初めての子供を身ごもったばかりで、そのことも二人の気分を明るくしていた。
 恋人時代のように映画を見て、カフェでお茶をして。次はどこへ行こうかと車の中で考えていた二人は、隣の車に乗っている男女の視線に気付く。まるで久しぶりに会う友人のごとく笑顔で手を振るカップル。アンドレスとアンナは怪訝に思う。
 男性はブルーノ(アンヘル・アランダ)、女性は妻のベルタ(サンドラ・アルベルティ)と名乗る。ブルーノはアンドレスの学生時代の先輩らしい。共通の友人や先生の話をするうち、なんとなくそうだったかなあ・・・という気がしてくるアンドレスだったが、どうにも思い出せない。愛犬ブラッキーも落ち着かない様子だ。
 そうこうしているうち、すっかり相手のペースに巻かれたアンドレスとアンナは、ブルーノ夫妻の別荘へ招待されることとなった。当時の写真もあるから、いろいろと思い出話に花を咲かせようというブルーノ。夫妻の親しみやすさに好感を持ったアンナも同意するが、アンドレスはどうも腑に落ちなかった。
 ブルーノ夫妻に案内されて別荘へとやって来たアンドレスとアンナ。そこは周囲を森に囲まれた豪邸で、敷地内には巨漢の門番(ルイス・バルボー)など怪しげな人物がうろうろとしている。
 ディナーを済ませてくつろぎのひと時を楽しむ4人。ブルーノから学生時代の記念写真を見せられて納得するしかなかったアンドレスだが、写真の裏に自分の名前と現在の住所が書き込まれていることに気付いて不審に思う。
 やがて、ベルタの発案で彼らはコックリさんを始める。すると、近いうちにブルーノは自殺を遂げて死ぬのだという。彼は過去にも自殺未遂を起こしたことがあったらしい。さらに、コックリさんはアンナがアンドレスの兄のことを愛していると暴露。確かに、彼女はアンドレスの兄と過去に恋人関係にあった。
 気が動転して体調を崩してしまったアンナは、早く家へ帰ろうとアンドレスに懇願する。しかし、外はすっかり暗くなり、しかも嵐が近づいていた。ブルーノとベルタは、半ば強引に泊まっていくよう勧める。
 その晩、物音に気付いたアンナが屋敷内を歩いていると、暗闇で下男に襲われた。なんとか振り切って客間へ戻ったアンナは、アンドレスと共に屋敷を捜索する。すると、全裸姿のブルーノとベルタが黒ミサを行っていた。まるで魔法をかけられたかのごとく、誘われるがままに黒ミサへ加わるアンドレスとアンナ。4人は狂ったかのようにお互いの肉体を貪る。
 黒ミサを終えて高熱を出してしまったベルタを介抱するアンナ。しかし、隙を見てアンドレスを誘惑しようとする彼女を見て、アンナは激しく憤慨する。その後、眠りについたアンナは、血を流した不気味な人形が客間へ入ってくるのを目撃。さらに、全裸にネグリジェ姿のベルタが彼女に近づいて接吻をする。
 ハッと目覚めたアンナ。外は既に明るい。アンドレスを起こして家に帰ろうとするが、なんと自分たちの車がない。仕方なく家の中を探っていると、ガラクタの中からアルバムが出てきた。そこには、アンドレスとアンナの二人の写真が。自分たちは狙われていたのか?
 そこへ、二人の車に乗ったブルーノとベルタが買い物から帰ってくる。別れを告げて車に乗り込むアンドレスとアンナ。そこで二人は愛犬ブラッキーの姿が見えないことに気付く。しかも、車のエンジンがかからない。
 仕方なく屋敷に戻った二人は、キッチンの奥でブラッキーの死体を発見する。ベルタを責めるアンナ。ブルーノも妻に対する怒りを爆発させる。錯乱するアンナを連れて表へ出るアンドレス。車のエンジン故障が直ったので帰ろうとした矢先、屋敷内から銃声が聞こえる。
 驚いて駆けつけたアンドレスとアンナは、こめかみから血を流して倒れているブルーノを発見。興奮して自殺を図ったようだ。狼狽するベルタは医者を呼びに出て行った。すっかり日も暮れたころ、ベルタがドクター(マヌエル・ペレイロ)を連れて戻ってくる。既にブルーノは息を引き取っていた。おもむろに、ドクターはアンドレスに自首することを促す。なんと、ベルタは夫がアンドレスに殺されたと証言していたのだ。
 ドクターが警察を呼びに行った直後、今度はベルタが自殺を図る。このままでは犯人に仕立て上げられてしまう。アンドレスとアンナは自分たちの指紋を全て消して逃げようとするが、そこへ生ける屍として甦ったブルーノとベルタが・・・!

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ブルーノとベルタは全裸姿で黒ミサを行っていた

何かに取りつかれたかのように乱交を繰り広げる4人

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不気味な人形が客間に入ってくる

さらに黒いネグリジェ姿のベルタが・・・

 監督と脚本を兼ねるカルロス・プエルトは、本作の製作を務めるフアン・ピケール・シモン監督の愛弟子。師匠の『新・地底探検/失われた魔宮伝説』(76)では脚本を務めていた。これ以外にも何本か監督作はあるようだが、残念ながらスペイン国外では殆んど知られていない。
 撮影監督のアンドレス・ベレングェルもフアン・ピケール・シモン組のカメラマン。『大突撃』(64)や『ジャワの東』(68)などのハリウッド映画も手掛けた、スペインの大物カメラマン、マヌエル・ベレングェルの息子なのだそうだ。
 なお、本作では美術デザインと一部シーンの演出を、師匠であるシモンが手掛けているらしい。もともとはその師匠自身が監督を担当する予定だったそうなのだが、急きょ弟子のプエルトに任せることに。その理由については不明である(笑)

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自分たちの写真を発見して驚くアンドレスとアンナ

愛犬ブラッキーの死体が発見される

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ブルーノが拳銃自殺をはかる

ドクターはアンドレスをブルーノ殺しの犯人だと糾弾する

 とんだ災難に見舞われる夫婦アンドレスとアンナを演じたのは、ホセ・マリア・ギレンとマリアナ・カール。カールはアルゼンチン出身の女優で、その後移住したメキシコで人気テレビ・スターとして現在も活躍中。一方のギレンについては詳細が分からない。
 二人を地獄巡りさせることになる謎の夫婦ブルーノとベルタを演じるのは、アンヘル・アランダとサンドラ・アルベルティ。アランダはマリオ・バーヴァ監督の傑作SFホラー『バンパイアの惑星』(65)でヒーロー役を演じていた俳優。アルベルティは当時スペイン産のホラーやスリラーに何本か出ていた脇役女優だった。
 そのほか、『必殺の用心棒』(65)や『ガンクレイジー』(66)など数多くのマカロニ・ウェスタンで悪役を演じ、『世界の果ての大冒険』(71)や『アントニーとクレオパトラ』(72)といったハリウッド映画にも出演した怪優ルイス・バルボーが門番役で顔を出している。

 

 

ブラッド・ピーセス/悪魔のチェーンソー
Mil gritos tiene la noche (1982)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本発売済
(DVDは日本盤とアメリカ盤では仕様が別)

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(P)2008 Grindhouse Releasing (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/5.1chサラウンド・モノラル/音声:英語・スペイン語/字幕:英語
/地域コード:ALL/85分/製作:スペイン・アメリカ・プエルトリコ

映像特典
オリジナル劇場予告編
スペイン語版タイトル・シーン
監督インタビュー
ポール・スミス インタビュー
スチル・ギャラリー
宣材ギャラリー
ビデオ・ジャケット・ギャラリー
監督プライベート・ギャラリー
隠しコマンド
監督:フアン・ピケール・シモン
製作:ディック・ランドール
   スティーヴ・マイナシアン
脚本:ディック・ランドール
   ジョー・ダマート
撮影:フアン・マリネ
音楽:リブラド・パストール
出演:クリストファー・ジョージ
   エドマンド・パードム
   リンダ・デイ・ジョージ
   ポール・スミス
   フランク・ブラーニャ
   イアン・セラ
   ジャック・テイラー
   ジェラルド・ティシー
   メイ・へザリー
   ヒルダ・フックス
   イザベル・ルーケ

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40年代のボストンで若い母親(M・へザリー)が殺される

犯人は彼女の幼い息子だった

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大学のキャンパスに姿を現したチェーンソー殺人鬼

首を切断された女子大生の死体が発見される

 “You Don't Have To Go To Texas For a Chainsaw Massacre!(チェーンソー大虐殺のためにテキサスまで行く必要なし!)”という全米劇場公開時のキャッチ・コピーからも推察できる通り、『悪魔のいけにえ』(74)にヒントを得た(?)とおぼしき作品。そこへ『13日の金曜日』(80)やら『ハロウィン』(78)やらのパクリをバンバン詰め込み、黒づくめの殺人鬼がチェーンソー片手にセクシー美女を次々と血祭りに上げていく。当時のスラッシャー映画ブームに便乗した、血みどろのスペイン産スプラッター映画だ。
 ストーリーは至って単純。幼い頃に母親を斧でメッタ刺しにして殺した殺人鬼が、ボストンの大学キャンパスで次々と女子大生たちをチェーンソーでバラバラに殺していく。地元警察のベテラン刑事と若い男子学生がコンビを組んで捜査を進めたところ、意外な人物が犯人だった・・・というお話だ。
 脚本の展開はムチャクチャでご都合主義だし、推理もへったくれもない事件捜査は荒唐無稽そのもの。有名プロ・テニス選手が実は警察の女性囮捜査官だなんて、それこそ『アイ・スパイ』じゃないんだから(笑) それに、素人の学生を警察が連続殺人事件の捜査に協力させるなんて、どう考えたってあり得ない話だ。
 だいたい子供の頃に頭のおかしくなった犯人が、なぜ40年も経ってから人殺しを始めたのか?という基本的な動機も全く無視されている。さらには、次々と女子大生が殺されているにも関わらず、スキャンダルを恐れる大学は警察に頼んで事件を世間に公表せず。警察も事件捜査への協力を条件に大学側の要請を受け入れる。よって、学生も地元住民もマスコミも連続殺人事件の存在すら知らされないまま。警察があえて犯人を野放しにするようなことをするはずもなかろうし、なによりも複数の人間が殺されたのなら誰かが気付くだろうに。あまりにも設定に無理があり過ぎる。しかも、作り手側は一向に構う様子もなく、辻褄を合わせようとすらしていないのだから凄いというか、恐れ入るというか(笑)
 他にも、女性囮捜査官の前に突然ブルース・リーもどきの中国人が現われ、カンフー・アクションを繰り広げた挙句に“そんじゃ、さよなら”と言って去っていくという完全に意味不明なシーンも。このいい加減さをラテン気質と呼んでいいのかどうか・・・(^^;
 そんなハチャメチャなストーリーに加え、露骨な血みどろのスプラッター・シーンでも悪名高い本作。特殊メイクや特撮にかけるお金がないという理由で、撮影には本物のチェーンソーを使用。ブタの死体を人間に見立てて切り裂いたり、本物の動物の内臓をばら撒いたりと、原始的でおぞましいショック・シーンがこれでもかこれでもかと展開する。あるシーンでは、若い女優さんがチェーンソーに本当に切られそうになって失禁してしまった。しかも、その瞬間を収めた映像がそのまま本編で使用されている。とりあえず監督はリアリズムを追求したつもりらしいが、それは鬼畜並みの悪ノリというべきだろうに。
 そんなこんなで、最初から最後まで突っ込みどころ満載、エグいスプラッター満載の本作。欧米ではカルト・ホラーとして一部の絶大な支持を得ているのだが、確かにホラー・マニア同士で集まってバカ騒ぎしながら見るには打ってつけの一本かもしれない。

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捜査を担当するブラッケン警部(C・ジョージ)

事件が外部へ漏れることを恐れる学長(E・パードム)

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怪しげな庭師のウィラード(P・スミス)

大学内を徘徊する犯人の黒い影

 1942年のボストン。ヌード・パズルで遊んでいた少年が母親(メイ・へザリー)に見つかって叱咤される。逆上した少年は、手に持った斧で母親の頭をかち割った。異変に気付いたメイドが警察を呼んで家の中に入ったところ、血だらけになった少年を発見。少年は“大きな男の人がママを殺した”と泣きじゃくってみせる・・・。
 それから40年後のボストン。大学のキャンパスで女子大生が首を切られて殺される。捜査を担当するのはブラッケン警部(クリストファー・ジョージ)とホールデン刑事(フランク・ブラーニャ)。スキャンダルを恐れる学長(エドマンド・パードム)は事件を極秘にするよう求め、警察も捜査協力を条件にその要請を受け入れる。
 次に、ジェニーという女子大生がプールでバラバラにされて殺される。ジェニーはケンドール(イアン・セラ)という男子学生と落ち合う予定だった。発見者であるケンドールの通報を受けた警察は、現場に居合わせた庭師ウィラード(ポール・スミス)を逮捕。凶器はウィラードがいつも使っているチェーンソーだと判明したが、彼の犯行を裏付けるような証拠は見つからなかった。
 犯人がキャンパス内に潜んでいると睨んだブラッケン警部は、有名な女子プロ・テニス選手メアリー・リッグス(リンダ・デイ・ジョージ)をテニス部コーチとして大学に潜入させる。彼女の正体は警察の囮捜査官だったのだ。さらに、警部は学園内に詳しいケンドールを自分の右腕に起用し、メアリーの捜査のバックアップを任せる。
 だが、凶行はさらに続いた。今度はダンス部の女学生がエレベーターで殺害される。さらに、大学で何か忌まわしい事件が起きているらしいという噂を聞きつけた女性記者シルヴィア・コスタ(イザベル・ルーケ)が、キャンパスに忍び込んだところをウォーターベッドの上で殺された。
 そして、メアリーの教え子であるテニス部の学生スージーまでもが、控え室のシャワールームで胴体を切断された状態で発見される。復讐を誓ったメアリーは独自の聞き込み調査を始め、変わり者と評判のブラウン教授(ジャック・テイラー)が怪しいと睨む。彼女は、その件を相談しに学長室へと向かった。
 一方、ブラッケン警部の指示で大学関係者のファイルを調べていたケンドールとホールデン刑事は、学長の名前が偽名であることに気付いた。さらに、その出生地の警察に問い合わせてみたところ、学長の母親が40年前に殺されていることを知る・・・。

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ブラッケン警部は大学生ケンドール(I・セラ)と親しくなる

有名テニス選手メアリー(L・デイ・ジョージ)は警察の捜査官だった

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ダンス部の女学生がエレベーターで殺害される

ウォーターベッドで血祭りになる女性記者

 母親が40年前に殺されているからといって、すぐさま学長が犯人だ!と解決してしまう推理の飛躍も失笑もの。まあ、確かに彼が犯人ではあるのだが、結論にたどり着くのが早すぎるだろう(笑)
 冒頭の母親殺害シーンもかなり変。というか、どう見ても1940年代を舞台にしているとは見えない。しかも、出てくる電話はプッシュ式。少年が遊んでいるヌード・パズルのモデルも80年代風のメイクとヘアスタイルで、時代考証というものを全く考えていないのが良く分かる。
 さらに、一応アメリカのボストンを舞台にしているものの、撮影が行われたのはスペインのマドリード。なので、町の雰囲気が全然アメリカンではない。出てくる学生たちもアメリカン・カジュアルらしき服装はしているが、どう見たってアメリカ人の大学生には見えない。
 監督のフアン・ピケール・シモンは『新・地底探検/失われた魔宮伝説』(76)や『怪獣島の秘密』(80)などのB級スペクタクル・アドベンチャー映画で知られるスペインの名物職人監督。『スラッグス』(87)や『新リバイアサン/リフト』(89)などのホラー映画でも知られており、荒唐無稽でチープな娯楽映画を取らせたら天下一品(?)の人物だ。上で紹介した“Escalofrio”(78)を筆頭に、プロデューサーとして手掛けた作品も少なくない。
 製作と脚本を担当したディック・ランドールは、60年代からイタリアを拠点に数多くの低予算映画を手掛けたアメリカ人プロデューサー。『猟奇変態地獄』(77)や『猟奇!喰人鬼の島』(80)などで有名なイタリアのエログロ監督ジョー・ダマートが、ジョン・シャドーの名前で脚本に参加しているのも興味深い。
 また、『クリスマスまで開けないで/サンタクロース殺人事件』(84)や『ブラッド・エイプリル・フール』(86)といったC級スラッシャー映画を手掛けたスティーヴ・マイナシアンが、共同プロデュースにクレジットされているのも注目だ。
 なお、英語バージョンではCAMのクレジットでゴブリン風のシンセ・サウンドがBGMに使用されているが、オリジナルのスペイン語バージョンではリブラド・パストールのムーディな音楽スコアを使用。これがデ・パルマ作品におけるピノ・ドナッジョみたいな雰囲気で悪くないのだが、血みどろのスプラッター・シーンで延々と流れるのはちょっといただけない。
 ちなみに、黒づくめの殺人鬼のイメージはバーヴァの『モデル連続殺人』や一連のジャッロ映画に影響されたと言われているが、シモン監督自身の証言によるとアメリカの古典的コミック・ヒーロー、シャドウをモデルにしたものなのだそうだ。

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シャワールームで襲われるテニス部の学生

ブタの死体を使ったスプラッター・シーン

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メアリーは変わり者のブラウン教授(J・テイラー)を怪しむ

ケンドールとホールデン刑事(F・ブラーニャ)は学長の秘密を知る


 主演はブラッケン警部役のクリストファー・ジョージ。フルチの『地獄の門』(80)にも主演していたハリウッド俳優だ。とはいっても、メジャーなのは60年代の人気ドラマ『ラット・パトロール』くらいのもので、アメリカでの主演作も『グリズリー』(76)や『アニマル大戦争』(77)のようなB級路線一筋だったのだが。
 女性囮捜査官メアリー役のリンダ・デイ・ジョージは、人気ドラマ『スパイ大作戦』の後期レギュラーとして有名な女優で、クリストファー・ジョージの奥様でもある。彼女もアメリカではどちらかというとB級扱いで、テレビ映画では主演作が多かったものの、劇場用映画ではサッパリ恵まれなかった人だ。
 学長役のエドマンド・パードムは『エジプト人』(54)や『プロディガル』(55)などの歴史大作で50年代に活躍したハリウッド・スター。しかし、アメリカではいまひとつ伸び悩み、60年代以降はイタリア映画に活動の拠点を移した。
 ブラウン教授役のジャック・テイラーも、もともとはハリウッドの出身。テレビ・ドラマで活躍した後にメキシコで数多くのホラー映画に出演し、その後スペインに移住してジェス・フランコ作品のレギュラーとなった。スペインで撮影されたハリウッド映画『ナインスゲート』(99)にも重要な役で顔を出している。
 さらに、『ミッドナイト・エクスプレス』(78)の暴力看守役や『ポパイ』(80)のブルート役、『XYZマーダース』(85)の殺人鬼役でお馴染みの怪優ポール・スミスが、庭師ウィラード役で強烈なインパクトを残す。
 そのほか、マカロニ・ウェスタンの悪役で知られるフランク・ブラーニャ、フアン・ピケール・シモン監督作品の常連イアン・セラ、『戦争と友情』(78)や『地獄の謝肉祭』(80)のメイ・へザリーなどが出演。また、スペインやイタリアの娯楽映画には欠かせない老優ジェラルド・ティシーが、精神科医ジェニングス役でワン・シーンだけ顔を出している。

 

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