ソニア・ローザ Sonia Rosa

 

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 スウィートで愛らしいベビー・ボイスと卓越したグルーヴ感。パッと聴いたところの印象は、クロディーヌ・ロンジェを思わせるウィスパー系ロリータ。しかし、巧みなスキャットを交えた自由奔放な歌唱と天性のリズム感には、聴く者の誰もが耳を奪われるはずだ。その人の名前はソニア・ローザ。今から時代を遡ること40年前の1969年にブラジルから日本を訪れ、わが国に本格的なボサノバの魅力を伝えてくれた女性アーティストである。
 1968年生まれで外国育ちの僕は、残念ながら当時の彼女を全く知らない。大人になってから折々で名前を聞くようになり、中古アナログ盤が恐ろしいほどの高値で取り引きされているということも知ったが、不幸にもその音楽に触れる機会にはなかなか恵まれなかった。それだけに、10年前にCD盤で復刻された彼女のアルバム“Sensitive Sound of Sonia Rosa”を初めて聴いたときは、少なからぬ衝撃と驚きを覚えたものだった。
 ソニアが日本へやって来たのは、彼女がまだ20歳の頃。もともとブラジルでレコード・デビューしていた彼女は、当時サンパウロ在住だった日本人・小野敏郎氏(小野リサの父親)が経営する店“クラブ一番”に出演したことから、半年の滞在という契約で来日。テレビの音楽番組やライブ・ハウスで活躍するうち、そのまま日本に定住することとなったのだった。
 70年3月には東芝から日本でのデビュー・シングルに当たる「青いベッド」をリリース。その2ヵ月後には、来日当初から親交の深かった渡辺貞夫との共演でアルバムを発表した。それが、上記の“Sensitive Sound of Sonia Rosa”というわけである。
 当時は日本でもアメリカ経由で入ってきたボサノバが注目を集めていた時期なだけに、本場ブラジルからやって来たソニア・ローザを受け入れる土壌も出来ていたのだろう。もちろん、そんな彼女を強力にサポートした渡辺貞夫や鈴木邦彦のモダンなアレンジ・センスにも脱帽する。異文化をすばやく理解・吸収して自分のものにするというのは日本人古来の才能だが、ソニア・ローザという本場直輸入の素材を得たことで、日本ならではの本格的なボサノバ・サウンドが生まれたのだ。
 さらに、ライブでの共演を通じて意気投合した大野雄二と組んでテレビの主題歌やCMソングなどを手掛け、オリジナル・アルバムもリリースしたソニア。中でも、74年に発表した“Spiced with Brazil”は、和製MPBの大傑作として名高い作品。ソニーのステレオ購入者向けプレゼントとして企画された非売品だったということもあり、00年にCD化されるまでは半ば伝説と化していたアルバムだった。大野雄二の卓越したジャズ・グルーヴとソニア・ローザのブラジル的感性が見事に融合した、まさに奇跡のような一枚。90年代半ば以降の名盤復刻ブームには、まさに感謝の一言である。
 2006年には27年ぶりとなるオリジナル・アルバム“DEPOIS DO NOSSO TEMPO”を発表し、音楽シーンに本格復帰。日本人は世界でも稀に見るほどボサノバが大好きな民族だが、ソニアの存在によって初めてその魅力を知ったという人も多いと聞く。そう考えると、彼女も日本のボサノバ・シーン草創期における重要な立役者の一人と言って間違いないのかもしれない。

 

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A Bossa Rose De Sonia (1967)

Sensitive Sound of Sonia Rosa (1970)

Spiced With Brazil (1974)

(P)2002 Warner Music (Brasil) (P)1999 Toshiba-EMI/Vivid Sound Corp. (JP) (P)Sony Music Entertainment (JP)
1,Olhe Meu Bem
2,Marambala
3,Voltar Pra Ficar
4,Quem Te Viu, Quem Te Ve
5,Parquinho Do Meu Bairro
6,Lata D'Agua
7,Adeus Guacyra
8,Mas Nao Da
9,Cheiro De Saudade
10,...E Fim
11,Caminhemos
12,Ressalva

produced by Alfredo Borba

1,The Girl From Ipanema
2,Fly Me To The Moon
3,Desafinado
4,The Look Of Love
5,Meditation
6,Corcovado
7,I'll Never Fall In Love Again
8,The Shadow Of Your Smile
9,La Chanson d'Orphee
10,Alfie
11,Secret Love
12,Tristeza

1Garota de Ipanema ビデオ
2,Here's That Rainy Day
3,Don't Let Me Be Lonely Tonight
4,Secret Love
5,Corcovado
6,Casa Forte
7,Atras de Porta
8,You Make Me Feel Brand New
9,Chove La Fora

produced & directed by Kaoru Kawabata
arranged & conducted by Yuji Ohno
 当時まだ19歳だったソニアが母国ブラジルで発表したデビュー・アルバム。全12曲中6曲が彼女自身のペンによるものです。キュートなボーカルはもちろんのこと、ソフトでエレガントなボサノバ・サウンドは日本人好みというほかないでしょう。その一方で、楽曲的に“これは!”という決定打に欠けるような気もします。アルバム全体を通して、ボーカルや演奏は大変に魅力的なのですが、楽曲単位ではいまひとつインパクトに残らないんですよ。それでも、なぜか繰り返し聴きたくなってしまうのは、やはりソニアのボーカルの持つ力なのかもしれません。  そして、日本におけるデビュー作となったのが、このアルバム。選曲、アレンジ、演奏、歌唱、どれを取ってもパーフェクトとしか言いようのない、素晴らしい作品です。ボサノバの定番からポップス、ジャズ・スタンダードに至るまで、誰もが知っているナンバーを、実にセンス良くエレガントにカバー。まるでA&Mサウンドやヨーロピアン・ポップスのような感受性を秘めつつ、しっかりとブラジリアン・テイストに仕上がっています。中でも個人的に大・大・大好きなのは、馬飼野俊二さんがアレンジを手掛けたバカラックの名曲#7。フワフワしたソニアの歌声とドリーミーなサウンドが最高!  大野雄二のモダンでスタイリッシュなジャズ・センスとソニアのブラジリアン・スピリットの幸福な結晶と言うべき大傑作。弾けるようなラテン・ジャズのリズムに、ソニアの生き生きとしたボーカルが自由奔放にスキャットしながら駆け回る#1なんかぶっ飛びますよ。こんな『イパネマの娘』、他では聴いたことありませんもん。“Sensitive Sound ・・・”でも取り上げていた#4なんか、まるで全く違う作品を聴いているような印象。ソニアのグルーヴィーなスキャットにスリリングなパーカッション、アップリフティングなピアノ。圧巻のサンバ・ファンクです。死ぬほどオススメ!

 

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