ディスコ・アーティスト列伝<2>
スヌーピー Snoopy

 今の若い人には想像もつかないと思うが、1970年代後半のヨーロッパ音楽界はとにかくディスコ一色だった。それこそ、シャンソン歌手からカンツォーネ歌手、イージー・リスニング系オーケストラに至るまで、とにかくディスコ、ディスコ、ディスコ。ディスコ・ミュージックが何たるかさえ知らない人々までもが、KC&ザ・サンシャイン・バンドやドナ・サマーの音を真似てみて、ディスコ風のポップ・ミュージックを大量生産したものだった。
 ヨーロピアン・ディスコのメッカと言えば、ドイツ、イタリア、フランスの3カ国だが、意外に忘れられているのがオランダの存在である。日本でも人気を得たエミリー・スター・エクスプロージョンに始まり、同じく日本でキャンディ・ポップ・グループとして人気を得たドリー・ドッツ、ベイブ、シャンペーン、さらには80年代のマイ・タイやフリッスル・シッズル、90年代のヴェンガボーイズと、オランダにはディスコ・ポップ、ダンス・ポップの伝統が脈々と受け継がれている。オランダは知られざるディスコ大国だったりするのである。そして、そのオランダから生まれたディスコ・アーティストの中の一つが、この女性デュオ、スヌーピーである。

 一体何故、彼女らを取り上げたのかというと、まあ理由は単純で、彼女たちの代表的ヒット“No Time For A Tango”が、当時小学生だったボクのお気に入りソングだったというだけの事なのだが、今ではよっぽどのユーロ・ディスコ・マニアでない限り名前も知らない、完全に忘れ去られてしまった彼女たちの事を、僅かな情報を手がかりに紹介しておきたいと思ったのである。
 スヌーピーは、スリナム(旧オランダ領ギアナ)出身のEthel MezasとMaureen Seeforfという女性二人で構成され、ゴールデン・イアリングやアース&ファイアーといった国際的なロック・グループを生み出したオランダの大物プロデューサー、Jaap Eggermontのもとで結成された。デビュー曲は1978年にリリースされた“No Time For A Tango”。明らかにドイツのボニー・Mの影響を受けたトロピカル・ディスコ・サウンドに、これ以上ないというくらいにキャッチーでお気楽なメロディ、そして舌足らずでキュートなベビー・ボイスが強いインパクトを残す、おバカさんディスコ・ポップの大傑作。地元のヒット・チャートで7位を記録し、ドイツやフランスでもヒット。ボクはうちの父親が持っていた当時の最新ヒットばかりを集めたドイツ盤のコンピレーション・カセットに収録されていたこの曲を聴いて、いっぺんでハマってしまったのだった。一度聴いたら耳から離れないサビのメロディは強烈そのもの。しかも、タンゴとは全く関係ないし!!
 続くセカンド・シングル“Honolulu”(「ホノルル天国」として日本でもリリース)もまた凄い楽曲だった。ボニーMの“Hooray!Hooray! It's A Holi-Holiday”を彷彿とさせるトロピカル・リズムにお遊戯タイムでも始まりそうなキャッチーで能天気なメロディー、そして“ホノルル良いとこ、みんなもおいで!”みたいな脳みそが溶けてしまいそうな意味のない歌詞。これぞ究極のハッピー・ディスコ。抱腹絶倒、愛さずにはいられないポップ・ナンバーに仕上がっている。
 が、この凄まじいばかりのおバカさんパワーも、この2枚のシングルでエネルギー不足に陥ったようで、次の“It's All in the Bible”は平凡なポップ・ディスコ。それでも、メンバー・チェンジを経て80年までシングルを出し続け、アルバムも1枚残しているというのだから、まさにディスコ・ブームさまさまである。
 その後、Maureenは82年にソロ・デビューしたものの不発に終わり、Snoopyはディスコ・ブームの終焉と共に、その他大勢のにわかディスコ・アーティストたちと共に忘れ去られていってしまう。
 CDの初期には“No Time For A Tango”を収録したコンピレーション・アルバムもポツポツとはあったが、所詮はディスコ・ブームの生んだあだ花。忘れられてしまっても仕方はないのだが、少なくとも最初の2枚のシングルはディスコ・ポップとして以上に、70年代のヨーロピアン・ポップの中でも特に異彩を放つ名曲として後世に語り継がれてもいいように思う。
 一度聴いてしまったら最後、一生耳にこびりつくこと請け合いである。あああ、こんなことを書いていたら、またあのメロディがグルグルと頭を巡ってきた・・・。バカっ♡

ドーナツ盤

NO_TIME_TANGO.JPG HONOLULU.JPG ALL_IN_BIBLE.JPG

No Time For A Tango

Honolulu

It's All in the Bible

(P)1978 CNR (Germany) (P)1979 Philips (Japan) (P)1979 CNR (Germany)
A
No Time For A Tango
B
Snoopy Reggae

produced by Jaap Eggermont
A
Honolulu
B
Down the Bayou

produced by Jaap Eggermont
A
It's All in the bible
B
Mammy Said Yes, Daddy Said No

produced by Jaap Eggermont
 記念すべきスヌーピーのデビュー曲にして、70年代ユーロ・ディスコの中でも突出したオバかさんぶりを堪能できる究極のディスコ・ポップス。B面の“Snoopy Reggae”は、単なるインスト・バージョンです。  前作に輪をかけておバカさん&キュートなトロピカル・ディスコの大傑作。もう、悩殺ならぬ脳殺もののキラー・チューンです。思わず輪になってフォーク・ダンスでも踊ってしまいたくなる、そんなハッピー度満点!  基本的には前2作の路線を引き継ぎながらも、ネタ切れになってしまった感は否めない普通のディスコ・ポップ。

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