スラッシャー映画ヒストリー PART U

 

プロムナイト
Prom Night (1980)
日本では1981年劇場公開
ビデオ・DVD日本発売済
(ただし、日本盤DVDはスタンダード・サイズ)

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(P)2007 Echo Bridge (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆

DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/ステレオ/音声:英語/字幕:なし/
地域コード:ALL/89分/製作:カナダ

映像特典
なし

監督:ポール・リンチ
製作:ピーター・シンプソン
脚本:ウィリアム・グレイ
撮影:ロバート・ニュー
音楽:ポール・ザザ
    カール・ジットラー
出演:レスリー・ニールセン
    ジェイミー・リー・カーティス
    ケイシー・スティーヴンス
    エディー・ベントン
    アントワネット・ボウアー
    マイケル・タフ
    ロバート・シルバーマン

 1980年といえば、あの「13日の金曜日」が劇場公開された年。いよいよ、本格的に80年代のスラッシャー映画ブームが訪れるわけだが、その「13日の金曜日」の2ヵ月後に全米で劇場公開されて大ヒットしたのが、この「プロム・ナイト」である。作品的には明らかに「ハロウィン」の影響を受けており、そのことは主演にジェイミー・リー・カーティスを迎えている事でも良く分かる。
 製作したのはカナダの映画会社。比較的あっさりとした内容で、はっきり言ってあまり怖くはないのだが、カナダ映画としては異例とも言えるほどのヒットとなった。劇場公開のタイミングが良かったというのは言うまでもないが、青春映画風の軽いタッチはホラーが苦手な人にも受け入れられやすかったのかもしれない。残酷シーンもあまり過激ではないので、心臓の弱い人でも安心して楽しめる作品ではある。

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子供たちは悪戯のつもりだったのだが・・・
「プロム・ナイト」より

高校生になったキム(J・L・カーティス)とアレックス(M・タフ)
「プロム・ナイト」より

プロムを控えた学園内の青春模様
「プロム・ナイト」より

 廃墟となった修道院で4人の子供たちがかくれんぼをして遊んでいた。そこへ通りかかった少女ロビンは、かくれんぼに混ぜてもらおうとする。そんなロビンをからかうつもりで脅かす4人だったが、怯えたロビンは追い詰められて窓から転落死してしまう。警察や親に知られることを恐れた4人は、このことを誰にも口外しない事を約束して、その場を立ち去った。しかし、物陰から一部始終を見ていた人間がいたのを彼らは知らなかった・・・。

 あの忌まわしい事件から6年。現場の近くにいた男が犯人として逮捕され、残された家族以外の人々は事件のことをすっかり忘れていた。死んだロビンの姉キム(ジェイミー・リー・カーティス)と弟アレックス(マイケル・タフ)の二人も成長し、父親レイモンド(レスリー・ニールセン)が校長を務めるハミルトン高校に通っている。
 学校ではプロム・ナイトが間近となり、生徒たちはその準備に忙しかった。そんな折、かつてロビンを事故死させた4人の高校生、ケリー(メアリーベス・ルーベンス)、ジュード(ジョイ・トンプソン)、ウェンディ(エディ・ベントン)、ニック(ケイシー・スティーヴンス)のもとに、謎めいた電話がかかってくるようになる。
 同じ頃、あの事件の犯人として逮捕された男が精神病院から脱走。今も残されている修道院の廃墟で、その犠牲者と思われる他殺体が発見される。マクブリッジ警部(ジョージ・トウリアトス)ら警察は男の足取りを懸命に追うが、手がかりは掴めないままだった。
 一方、学校ではプロムの相手を巡って様々な人間模様が繰り広げられていた。キムはニックと付き合っており、どちらも学園の人気者であることから、プロムのキングとクィーンの座は確実と目されてる。しかし、ニックの元カノであるウェンディはキムに強いライバル心を燃やしており、ニックと寄りを戻そうと躍起になっている。一方、札つきのワルで自信家のルー(デヴィッド・ムッチ)も、プロム・キングの座を狙ってキムを自分のものにしようと強引なアプローチを重ねていた。
 それでもキムとニックの絆は強く、業を煮やしたウェンディとルーはプロム・ナイトを制するために手を結ぶことにする。そうしている間にも、学校内では洗面所の鏡が何者かによって割られるなど、不審な出来事が次々と起きていた。
 やがて迎えたプロム・ナイト。賑わう会場の外で、恋人と甘いひと時を過ごすケリー、ジュードが次々とマスクを被った殺人者に殺され、プロム・クィーンを狙うウェンディも血祭りに上げられてしまう・・・。

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キムとアレックスの父であるハミルトン校長(L・ニールセン)
「プロム・ナイト」より

やがて惨劇の幕が開く・・・
「プロム・ナイト」

ステージ上に生首が転がり、会場は大パニックに
「プロム・ナイト」より

 冒頭で述べたように「ハロウィン」の影響を大きく受けた作品だが、プロム・ナイトを巡るドラマでは「キャリー」をヒントにしている部分も見受けられる。いずれにせよ、極めてオリジナリティの低い作品だと言えるだろう。犯人にまつわる謎解きもかなり大雑把で、とりあえず辻褄が合えばいいだろうという安易さが露骨に見える。
 覆面姿の殺人鬼もインパクトが薄く、他のスラッシャー映画に出てくる殺人鬼のような存在感に欠けるのはちょっと痛い。だいたい、この手のスラッシャー映画の殺人鬼は、神出鬼没で怪力の持ち主、というのが定番なのだが、本作の殺人鬼はやけに弱い上に、勝手に感電して失神してしまうような間抜けだったりする。
 一方のドラマ部分は、ちょうど「グリース」と「サタデー・ナイト・フィーバー」を足したような雰囲気で、70年代の青春映画の雰囲気を引きずっているのが興味深い。プロムでのディスコ大会なんかは、まさしく「サタデー・ナイト・フィーバー」だし。その他、プロム・クィーンを巡るキムとウェンディの対立だったり、セックスに興味津々の若者たちの生態だったりと、当時の青春映画の明るい雰囲気はなかなか捨てがたいものがある。
 ということで、ホラー映画としては及第点。当時を知っている人にはそこそこ楽しめる、そんなノスタルジックな青春スラッシャー映画といったところだろうか。

 監督のポール・リンチは、この翌年に「猟獣人ヒューモンガス」('81)というモンスター・ホラーを撮った後、テレビ界に転身した人。「こちらブルムーン探偵社」や「美女と野獣」、「ロボ・コップ」、「スター・トレック'88/新・宇宙大作戦」などのヒット・シリーズを手掛けている。脚本のウィリアム・グレイは、テレビ版「ロボ・コップ」シリーズでリンチ監督と再び組んでいた。
 音楽を手掛けたのは「暗闇にベルが鳴る」のカール・ジットラーと、「血のバレンタイン」のポール・ザザ。ジットラーはボブ・クラーク監督と「死体と遊ぶな子供たち」以来の名コンビだったわけだが、“Christmas Story”('83)を最後にコンビを解消している。で、その後を受け継いでクラーク作品の音楽を手掛けるようになったのがザザだったのだ。その二人が本作で組んでいるというのも、ちょっと因縁めいていて興味深いところではある。
 で、主役はキム役のジェイミー・リー・カーティスなわけだが、キャスト・クレジット上はレスリー・ニールセンが主演。今でこそ「裸の銃を持つ男」シリーズですっかりコメディアンのイメージが付いてしまったニールセンだが、当時はまだシリアスな渋い名優。本作では6年前に死んだ娘の事が忘れられないでいる父親という設定もあって、容疑者の一人と目されるわけだが、あまり活躍する場もなく終わってしまう。
 一方、主役のはずのジェイミー・リー・カーティスもストーリーの設定上、犯人に追われるようなことが一切ないので、これまた大して活躍もしないままクライマックスを迎える。犯人が狙うのは、6年前にロビンを転落死させた子供たちなのだから。この4人がまた能天気な学生ばかりで、殺されようが何されようが見ている側はちっとも気にならない。そう、追われる側に感情移入できる人間がいない、というのも本作の大きな欠点と言えるだろう。

 なお、本作は7年後に続編「プロム・ナイト2」('87)が製作されているが、ストーリーは全く関係がない。プロム・クィーンになり損ねた女子高生が悪霊となって復活し、次々と学生たちを殺していくというオカルトものに大変身。これが予想外に受けてしまい、パート4まで作られる人気シリーズとなってしまった。ただし、日本で「プロムナイト5」('93)として公開された作品は、シリーズそのものとは全く無関係の作品なのでご注意を。
 さらに、本作の人気は根強いものがあるらしく、来年にはリメイク版の劇場公開も決定している。主演は「ヘアスプレー」('07)でヒロインのライバルを演じたブリタニー・スノウと、「グレイスランド」('98)のジョナサン・シェック。現時点で公表されているプロットを読む限りでは、プロム・ナイトが舞台となる以外はオリジナルと全く違うストーリーになる模様。ならば別にリメイクする必要もなかろうに・・・とは思うのだが(笑)。

 最後に、上記のDVDに関する解説を少し。アメリカでは、以前に同じエコー・ブリッジというメーカーからDVD発売されていたものの、スタンダード・サイズにトリミングされたもので、画質もあまり良くなかった。ちなみに、日本盤もそれと全く同じ仕様。で、ようやく今年になって再発されたのが、上記のワイドスクリーン版というわけだ。スククィーズ収録で、画質も概ね良好。映像特典が全く収録されていないのは不満の残るところなのだが。

 

 

他人の眼
Eyes of a Stranger (1981)
日本では81年劇場公開
ビデオ日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2007 Warner Bros. (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語・フランス語・スペイン語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/90分/製作:アメリカ

映像特典
なし
監督:ケン・ヴィーダーホン
製作:ロナルド・ゼラ
脚本:マーク・ジャクソン
    エリック・L・ブルーム
撮影:ミニ・ローハス
特殊メイク:トム・サヴィーニ
音楽:リチャード・アインホーン
出演:ローレン・トゥウィーズ
    ジェニファー・ジェイソン・リー
    ジョン・ディサンティ
    ピーター・デュプレ
    グウェン・ルイス
    キティ・ラン
    ティモシー・ホーキンス

 スラッシャー映画ブームに乗って作られた作品群の中でも、特に異色なのがこの「他人の眼」だろう。「13日の金曜日」と同じジョージタウン・プロダクションズが製作した作品だが、単なるボディ・カウント映画ではなく、ヒッチコック・スタイルのミステリー・サスペンス的要素が非常に強い。その一方で、しっかりとスプラッター・シーンも描かれていて、独特の雰囲気を持ったホラー映画に仕上がっている。

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テレビ局の女性アンカー、ジェーン(L・トゥウィーズ)
「他人の眼」より

目の不自由な妹トレイシー(J・J・リー)
「他人の眼」より

狙いを定めた女性に匿名電話をかける連続レイプ魔
「他人の眼」より

 ヒロインはマイアミのローカル・テレビ局でニュース番組のアンカーを務める女性ジェーン(ローレン・トゥウィーズ)。マイアミでは近頃女性ばかりを狙った連続殺人事件が発生していた。犯人は被害者の女性をレイプした上に、残虐な方法で殺していたのだ。最愛の妹トレイシー(ジェニファー・ジェイソン・リー)が幼い頃にレイプ被害に遭っていたジェーンは、犯人の卑劣な手口に怒りを隠せない。
 トレイシーはレイプ事件のショックで、それ以来目と耳が不自由になっていた。そんな妹の世話と仕事に明け暮れ、恋人デヴィッド(ピーター・デュプレ)との時間もなかなか作れないでいるジェーン。ある日、彼女はマンションの地下駐車場で、車を止めて着替えをしている怪しげな男を見かける。ちょうどその直前に近隣でレイプ殺人があった事を知ったジェーンは、その男が事件に関与しているのではないかと疑いを強めた。
 さらに、郊外の空き地で起きた殺人事件のニュースを聞いたジェーンは、すぐに駐車場に止めてある例の男の車をチェックする。すると、タイヤに大量の泥が付着していた。しかし、彼女の話を頭から信用しないデヴィッドを連れて再び駐車場に戻ると、車の泥はきれいに拭い去られていた。
 マンションの管理人に車の持ち主の名前と部屋番号を聞き出したジェーンは、管理人室からこっそり鍵を拝借し、その男スタンリー・ハーバート(ジョン・ディサンティ)の部屋に忍び込む。そこで、クローゼットに隠された靴に泥が付着しているのを発見し、より疑惑を強めるジェーン。
 その一方で、相変わらず多発する残酷なレイプ殺人。やはり犯人はスタンリーだった。彼の反応を確かめようと、挑発するような匿名電話をかけるジェーン。自分の正体がバレたと思ったスタンリーも焦り始める。やがて、ニュース番組を見ていた彼は、テレビに映るジェーンの言葉と声から、彼女が例の匿名電話の主である事に気付いてしまう。
 自分の身元が相手にバレてしまった知らないジェーンは、留守になったスタンリー宅に再び忍び込む。しかし、その頃スタンリーは逆にジェーン宅へ侵入し、妹トレイシーを毒牙にかけようとしていた。

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水槽に沈んだ犠牲者の生首
「他人の眼」より

たまたま現場に居合わせたカップルまでも犠牲に
「他人の眼」より

犯人スタンリー(J・ディサンティ)
「他人の眼」より

 隣人が連続殺人鬼だったというアイディアや、主人公の一人が身体的にハンデがあるという設定は、ヒッチコックが「下宿人」や「裏窓」などで散々やり尽くしてきた手なだけに、新鮮味には欠ける。しかし、途中で犯人の正体を明かしてからの緊迫感溢れる展開は面白く、フェミニズム的な要素を盛り込んだセリフなども説得力がある。
 監督はケン・ヴィーダーホン。海洋ナチ・ゾンビ映画の怪作「ゲシュタポ卍(ナチ)死霊軍団/カリブゾンビ」('76)や「バタリアン2」('87)などで知られる人物だが、本作では意外なくらいに正攻法のサスペンス演出を見せる。執拗なまでのレイプ・シーンの描写もサディスティックで、なかなかいい感じだ。ただ、トレイシーがスタンリーに襲われる肝心のクライマックスは、被写体とカメラとの距離感があり過ぎて、いまひとつ迫力に欠けてしまったのが残念。
 そして、本作のセールス・ポイントであるスプラッター・シーンの特殊メイクを手掛けたのは大御所トム・サヴィーニ。切断した頭部を水槽に沈めたり、喉にナイフをぶっ刺したりと、リアルなゴア描写をたっぷりと披露してくれる。しかし、それでも映画会社がX指定を恐れたために、かなりの残酷シーンが削除されてしまったらしい。いわゆる完全版で上映されたのはヨーロッパの一部の国だけ。あと、オーストラリアでも過去に完全版のVHSが発売されているという。
 また、リチャード・エインホーンの手掛けた音楽もスリリングで風格がある。バーナード・ハーマンを意識したような雰囲気はマニア心をくすぐる感じだ。

 主演のローレン・トゥウィーズは、日本では馴染みの薄い女優だが、アメリカでは70年代に大ヒットしたTVシリーズ「ラブ・ボート」の主演で有名な女優さん。特に美人というわけではないが、聡明で清潔感のある雰囲気が好感持てる。で、その妹を演じるのがジェニファー・ジェイソン・リー。「ブルックリン最終出口」や「ルームメイト」でトップ・スターになった女優さんだが、本作が実質的なデビュー作に当たる。反逆児的な雰囲気のある個性的な人だが、ここでも一種独特の雰囲気を醸しだしていて、既に一人前のスターとしての存在感を放っているのは立派。それでも、やはりまだ初々しいところもあって、なかなかの美少女ぶりを見せてくれている。
 犯人スタンリー役のジョン・ディサンティは、「ニューヨーク東8番街の奇跡」でアパートの住人の一人を演じていた人らしいが、残念ながら全く記憶にない。地味で目立たないタイプの役者で、普通に日常生活を送る偏執的なレイプ魔という役にはピッタリだったと言えるだろう。

 なお、上記の米国盤DVDは劇場公開版と同じカット・バージョン。せっかくDVDで出すからには、映像特典として未公開シーンなどを収録して欲しかったところだが、劇場予告編すら収録されていないという体たらく。画質は十分満足できるものの、DVD商品としては中途半端な印象が拭えない。

 

バーニング
The Burning (1981)
日本では81年劇場公開
ビデオ日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2007 MGM/FOX (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/
91分/製作:アメリカ

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー
監督と批評家による音声解説
監督:トニー・メイラム
製作:ハーヴェイ・ウェインスタイン
脚本:ピーター・ローレンス
    ボブ・ウェインスタイン
撮影:ハーヴェイ・ハリソン
特殊メイク:トム・サヴィーニ
音楽:リック・ウェイクマン
出演:ブライアン・マシューズ
    リア・エイヤーズ
    ルー・デイヴィッド
    ブライアン・バッカー
    ラリー・ジョシュア
    ジェイソン・アレクサンダー
    ネッド・アイゼンバーグ
    シェリー・ブルース
    フィッシャー・スティーヴンス
    ホリー・ハンター

 明らかに「13日の金曜日」の2番煎じを狙った作品だが、殺人鬼の一種異様なキャラクターとショッキングなスプラッター・シーンで、ホラー・マニアの間では「13金」以上に熱狂的なファンを獲得しているカルト映画だ。中でも、“殺されるのはセックスの事しか頭にないバカ学生ども”というスラッシャー映画の常識を覆し、ごく平凡な愛すべき少年少女が無慈悲にもバッサバッサと殺されていくのが衝撃的だった。
 ホラー映画として優れているかどうかという点では大いに疑問だが、少なくとも見終わった後に強烈なインパクトを残す映画ではある。個人的にも、80年代のスラッシャー映画の中で最も好きな作品の一つだ。

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火だるまとなるクロプシー(L・デイヴィッド)
「バーニング」より

サマー・キャンプを楽しむ子供たち
「バーニング」より

子供たちを引率するトッドとミシェル
「バーニング」より

 舞台はブラックフット・キャンプ場。サマー・キャンプに参加している少年たちは、飲んだくれの管理人クロプシー(ルー・デイヴィッド)に悪戯を仕掛けようと相談しあっていた。ベッドで寝ているクロプシーの足元に、蝋燭を灯した骸骨を置いておく少年たち。しかし、目覚めたクロプシーが驚いた拍子に蝋燭の火がベッドに引火、彼は火だるまとなってしまう。川に飛び込んで一命を取り止めたクロプシーだったが、全身が焼けただれて醜く変形してしまった。
 それから数年後。病院を退院したクロプシーは街角で娼婦を買うが、彼の素顔を見て騒ぎ出したために殺害。凶器に使った大型の枝切りバサミを手に、彼は夜の街へと姿を消していく。
 かつて悲劇が起きたブラックフット・キャンプ場では、今年も夏休みを過ごすために様々な年代の子供たちが大勢集まってきていた。彼らを引率するトッド(ブライアン・マシューズ)とミシェル(リア・エイヤーズ)は恋人同士。それでも、子供たちの世話や管理については、たびたび意見が衝突し合っていた。
 一方、賑やかなキャンプの中でも、ひときわ目立つのは兄貴肌で冗談好きのデイヴ(ジェイソン・アレクサンダー)、反抗的だが根は優しいエディ(ネッド・エイゼンバーグ)、やせっぽちで悪戯好きのウッドストック(フィッシャー・スティーブンス)、そしてちょっと根暗で気弱なアルフレッド(ブライアン・バッカー)の仲良し4人組だ。女好きでプレイボーイの不良グレイザー(ラリー・ジョシュア)は彼らを快く思っておらず、特にアルフレッドを目の敵にしている。
 トッドとミシェルは元気いっぱいの子供たちに手を焼くものの、概ね楽しいサマー・キャンプ生活が送られていた。そうした中、もの蔭から少年少女を付け狙う怪しい影が・・・。アルフレッドがその存在に気付くが、誰も彼の言う事を信用してくれない。
 やがて、皆が楽しみにしているカヌーでの川下りの日がやってくる。キャンプ場を離れ、森の中でテントを張り、キャンプ・ファイアーを囲んで怖い話に花を咲かせる子供たち。そうした中、川のほとりでエディとデートをしていたカレン(キャロリン・フーリハン)がクロプシーに殺害される。翌朝、みんなが目覚めるとカヌーが消えてなくなっており、カレンも行方不明に。子供たちを引率してきたミシェルは、デイヴたちに手伝ってもらいイカダを作る事にする。エディやウッドストックらがイカダに乗り込み、キャンプ場へ戻って救援を頼むことになるのだったが・・・。

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日本ではポスターや広告にも使われたショット
「バーニング」より

指を切り落とされるウッドストック(F・スティーブンス)
「バーニング」より

掻っ捌かれた額から血が流れ落ちる
「バーニング」より

 この「バーニング」は、ハーヴェイ・ウェインスタインとボブ・ウェインスタインの兄弟が設立したミラマックス・ピクチャーズの第1回作品に当たる。そう、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズや「シカゴ」、「スクリーム」シリーズ、「恋に落ちたシェイクスピア」などを世に送り出し、アメリカで最大のインディペンデント系スタジオとなった会社だ。もともと、彼らはニューヨークを基盤とする音楽プロモーターだったが、ポール・マッカートニーのドキュメンタリー映画を製作するなど映画界への進出にも野望を燃やしていた。
 一方のトニー・メイラム監督はイギリスの出身で、もともとドキュメンタリー映画の監督だった。リック・ウェイクマンが音楽を担当したスキー・ドキュメンタリー「ホワイト・ロック」('77)や、ロック・バンド、ジェネシスのコンサートを記録した“Genesis : a Band in Concert”('77)を手掛けており、彼もロック畑に詳しい人物だったようだ。
 ロンドンで「ホワイト・ロック」と“Genesis : a Band in Concert”を見て気に入ったウェインスタイン兄弟。彼らがメイラム監督にコンタクトを取ってきたのが、そもそもの始まりだったという。優れたビジネスマンであるウェインスタイン兄弟は、当時トレンドとなりつつあったホラー映画の製作を持ちかけた。そうして出来上がったのが、「バーニング」だったというわけだ。
 ちなみに、もともとのタイトルは“Cropsy Maniac”といい、キャンプ場で語り伝えられている伝説の殺人鬼クロプシーが若者を血祭りにあげるというストーリーだった。

 特殊メイクを担当したのは大御所トム・サヴィーニ。当時彼は「13日の金曜日パート2」のオファーを受けていたが、そちらを蹴って「バーニング」に参加したという。醜く変形したクロプシーの特殊メイクも強烈だったが、中でもイカダに乗った子供たちがクロプシーに襲われる殺戮シーンは衝撃的だ。切り落とされたウッドストックの指から血飛沫が飛び散るショットをはじめ、喉元にハサミをぶち込まれるエディ、額を掻っ捌かれる少女など、とにかくこれでもかと情け容赦がない。殺されるのが善良で明るい少年少女なだけに、観客のショックは余計に大きいだろう。
 このシーンは世界各国で問題となり、アメリカでも部分的にカットされて公開された。また、検閲の厳しい事で知られるイギリスでは、特にカット部分が多かったようだ。しかし、残酷シーンに寛容な日本では、劇場公開版もビデオ版も全くのノー・カット。それゆえに、一時期は日本版ビデオがアメリカでプレミア扱いされていた。

 一方、キャストは当時無名の若者ばかりだったが、後に有名になった俳優も多数出演している。まず、デイヴ役のジェイソン・アレクサンダーは、全米で爆発的なブームになったテレビ・シリーズ「となりのサインフェルド」で国民的スターとなったコメディアン。独特の味のあるハゲ頭がトレードマークの俳優だが、当時はまだフサフサ頭だった。
 ウッドストック役を演じているフィッシャー・スティーブンスは映画「ショート・サーキット」シリーズでブレイクした俳優で、ミシェル・ファイファーのダンナさんだった事でも有名。エディ役のネッド・エイゼンバーグも名脇役となり、「エア・アメリカ」や「ラストマン・スタンディング」、「ミリオン・ダラー・ベイビー」などに出演している。また、アルフレッド役のブライアン・バッカーは、「初体験リッジモンド・ハイ」でもいじめられっ子を演じた事で知られている。
 そして、本作で一番の驚きは「ピアノ・レッスン」でアカデミー主演女優賞を獲得した大女優ホリー・ハンターの出演だろう。女の子グループの一人で、いつもはしゃぎ回っているだけの小さな役。まさかこの子が後にオスカー女優になろうとは、当時の誰もが想像しなかったに違いない。

 冒頭でも述べたように、ホラー映画としては決して質の高い作品とは言えない。あくまでも、当時のスラッシャー映画ブームに当て込んだB級ホラーであり、芸術性が云々と問題にする類の映画ではないだろう。とはいえ、観客が見たいものをどう見せるのかということをちゃんと心得た演出は手堅いものがあり、そういった意味ではエンターテインメントとして完成された作品だと言える。
 興行的にも世界各地で大ヒットを記録し、ウェインスタイン兄弟に莫大な利益をもたらした。この作品の成功がなければ、もしかしたら彼らは映画界から手を引いていたかもしれない。いわば、ミラマックス・ピクチャーズの基盤を作ったのが、この「バーニング」という作品だったわけだ。

 なお、本作のDVDは過去にイギリスとドイツ、デンマークで発売されていたが、いずれも画質はあまり良くなく、しかもスタンダード・サイズにトリミングされていた。ようやく高画質のワイドスクリーン収録で発売されたのが、上記のアメリカ盤。しかも、HDテレシネによるリマスター版だ。もちろん、本編はノー・カット。映像特典のドキュメンタリーではトム・サヴィーニがナビゲーター役を務め、当時彼がスタッフに頼んでビデオ録画していた特殊メイクの舞台裏映像まで収録されている。

 

ローズマリー
The Prowler (1981)
日本では83年劇場公開
ビデオは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2002 Blue Underground (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆

DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/89分/製作:アメリカ

映像特典
J・ジトー&T・サヴィーニの音声解説
T・サヴィーニの特殊メイク舞台裏映像
オリジナル劇場予告編
ポスター&スチル・ギャラリー

監督:ジョセフ・ジトー
製作:ジョセフ・ジトー
    デヴィッド・ストレイト
脚本:グレン・レオポルド
    ニール・F・バーベラ
撮影:ラウル・ロマス
    ホアオ・フェルナンデス
特殊メイク:トム・サヴィーニ
音楽:リチャード・エインホーン
出演:ファーリー・グレンジャー
    ヴィッキー・ドーソン
    クリストファー・ガウトマン
    シンディー・ウェイントローブ
    ローレンス・ティアニー
    リサ・ダンスヒース
    デヴィッド・セダーホルム

 「バーニング」と並んで個人的に最も好きなスラッシャー映画が、この「ローズマリー」という作品。こちらも強烈なビジュアル・イメージが満載で、カルト映画として世界中に根強いファンを持っている。
 35年前のプロムナイトで陰惨な殺人事件が起きた町を舞台に、プロムナイトが復活したことから残虐な連続殺人が繰り広げられる。・・・というと、そのものズバリの「プロムナイト」という映画があったわけだが、その過激さは「ローズマリー」の方が遥かに上だろう。それだけでなく、軍服を着てマスクを被った殺人鬼のインパクトや、緊張感溢れる鋭いサスペンス演出、怪奇ムード溢れる独特のダークなタッチなど、純粋なホラー映画としても非常に良く出来た作品だった。

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プロムを仕切るパム(V・ドーソン)と恋人マーク(C・ガウトマン)
「ローズマリー」より

ノンキでお人よしな保安官フレイザー(F・グレンジャー)
「ローズマリー」より

女子寮に現れた謎の殺人鬼
「ローズマリー」より

 第2次世界大戦が終結した1945年。小さな町アヴァロン・ベイのハイスクールでは、卒業を記念したプロム・ナイトが盛大に行われていた。卒業生であるローズマリー(ジョイ・グラッカム)には従軍したフィアンセがいたが、彼のいない間に新しい恋人を作っていた。パーティを抜け出して恋人とのひと時を楽しむローズマリー。そこへ忍び寄る軍服姿の男。巨大なピッチフォークが抱き合う二人の体を貫通する。
 時は移って1980年。35年前の殺人事件以来、アヴァロン・ベイの高校ではローズマリーの父親チャサム少佐(ローレンス・ティアニー)の強い意向で、長いことプロム・ナイトが中止されていた。しかし、少佐が病で車椅子生活を送るようになったことから、プロム・ナイトの再開が実現することになったのだった。
 パーティを仕切るのは優等生のパム(ヴィッキー・ドーソン)。保安官補のマーク(クリストファー・ガウトマン)は彼女の恋人だ。フレイザー保安官(ファーリー・グレンジャー)が旅行で留守にすることから、プロムの当日はマークが保安官代理を務めることになった。
 そして、いよいよパーティの夜。パムはルーム・メイトのシェリー(リサ・ダンスヒース)を部屋に残し、先に女子寮を後にした。シャワーを浴びているシェリーを訪ねる恋人のカール(デヴィッド・セダーホルム)。ベッドルームでシェリーを待つカールは、軍服姿の殺人鬼に脳天からサバイバル・ナイフを突き刺されて殺される。さらに、シャワールームのシェリーもピッチフォークで串刺しになった。
 一方、パーティ会場ではライバルのリサ(シンディ・ウェイントロープ)がマークに色目を使っていて、パムはかなり苛立ち気味だ。リサの悪ふざけでドレスを汚されてしまったパムは、怒り心頭でパーティ会場を出る。彼女は着替えのために女子寮へ戻るが、軍服姿にマスクを被った謎の男に遭遇してしまう。命からがら寮を脱出したパムはマークに助けを求めるが、中は既にもぬけの殻だった。
 しかし、やがて一人また一人と、若者たちが殺人鬼の餌食となっていく・・・。

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最もインパクト強烈な脳天突き刺しシーン
「ローズマリー」より

プールで殺されるリサ(C・ウェイントロープ)
「ローズマリー」より

チャサム大佐の家で殺人鬼と遭遇するパム
「ローズマリー」より

 監督を務めるのはジョセフ・ジトー。本作が大ヒットしたことから「13日の金曜日・完結篇」('84)の演出を任され、さらにチャック・ノリス主演の「地獄のヒーロー」('84)や「地獄のコマンド」('85)、ドルフ・ラングレン主演の「レッド・スコルピオン」('88)などの戦争アクションを手掛けた職人監督だ。ダイナミックなカメラワークや大胆なジャンプ・カットを得意とする人で、本作もアクション映画のようなキレの良さが冴える。と同時に、古典ホラー的な雰囲気もしっかりと出していて、とても見応えのある作品に仕上がった。
 しかし、やはり特筆すべきは大御所トム・サヴィーニによる特殊メイクの素晴らしさだろう。「バーニング」でも迫力あるゴア・シーンを生み出したサヴィーニだったが、本作ではさらにクオリティの高い仕事を見せてくれている。
 最も強烈だったのは、女子寮での脳天突き刺しシーンだろう。頭のてっぺんから刺し込まれたサバイバル・ナイフが、あごの下からズボッと突き出るのにもビックリしたが、もがき苦しむ若者の目が真っ白になってしまう姿は悪夢のようなインパクトだった。シャワールームでの串刺しシーンも良く出来ている。全裸女性の腹に突き刺さったピッチナイフの傷口からドクドクと血が溢れ出すのがリアルだ。また、プールで喉仏を切り裂かれた女性が水中に沈むと、傷口から大量の血液と共に気泡が漏れるというのも非常に芸が細かい。この作品が彼のベスト・ワークだと本人も公言しているが、確かにその通りだろうと思う。
 なお、脚本に参加しているニール・F・バーベラは、あのハンナ・バーベラ(「チキチキ・マシーン猛レース」)の片割れジョセフ・バーベラの息子だそうだ。

 主演のヴィッキー・ドーソンとクリストファー・ガウトマンは共に当時無名で、その後も俳優としては成功しなかった。しかし、ガウトマンの方は監督兼プロデューサーとしてテレビの昼メロ・ドラマを手掛けるようになり、これまでに4回もエミー賞を受賞している。また、メガネ小僧のベンを演じたトム・ブレイも、後にテレビのドラマ・シリーズで幾つも主演を務める売れっ子スターとなったようだ。
 その他、無名の若者が脇を固める一方で、ホラー映画には定番のベテラン名優も顔を出している。まずは保安官役のファーリー・グレンジャー。ヒッチコックの「ロープ」や「見知らぬ乗客」、ヴィスコンティの「夏の嵐」などに主演した往年の美形スターだ。本作の出資者の妻がグレンジャーの友人で、その関係で出演することになったという。
 一方、死んだローズマリーの父親役として、車椅子姿で不気味な存在感を残すローレンス・ティアニーは、50年代のフィルム・ノワールや犯罪アクションで大活躍したタフガイ・スター。タランティーノの「レザボア・ドッグス」でも強烈な印象を残していた名優だ。
 さらに、35年前のプロム・ナイトで司会進行役を務めるカールトン・カーペンターは、1940年代に活躍した有名な作曲家兼歌手。当時の流行をよく知る人物として、パーティ・シーンの衣装やセット装飾などのデザインにも協力したという。

 なお、本作は「バーニング」と同じくサヴィーニのリアルな特殊メイクが各国で問題となり、アメリカでもイギリスでも残酷シーンの一部がカットされて上映された。もちろん、日本ではノー・プロブレム。上記の米国盤DVDが、アメリカで初めて公開されるノー・カット・バージョンとなった。発売元はアンカー・ベイから独立したブルー・アンダーグランド。さすが、アンカー・ベイの流れを汲むメーカーなだけに、画質・音質共に安心して見れるクオリティ。映像特典ではトム・サヴィーニが当時ビデオ撮影していた特殊メイクの舞台裏映像が収録されており、こちらも非常に興味深い。

 

血のバレンタイン
My Bloody Valentine (1981)
日本では81年劇場公開
ビデオは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2006 Paramount (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語・フランス語/
字幕:英語/地域コード:1/90分/製作:カナダ

映像特典
なし
監督:ジョージ・ミハルカ
製作:ジョン・ダニング
    アンドレ・リンク
    スティーブン・ミラー
脚本:ジョン・ベアード
撮影:ロドニー・ギボンズ
特殊メイク:トム・バーマン
音楽:ポール・ザザ
出演:ポール・ケルマン
    ロリ・ハリアー
    ニール・アフレック
    キース・ナイト
    アルフ・ハンフリーズ
    シンシア・デイル
    ヘレーヌ・ウディ
    ロブ・ステイン
    パトリシア・ハミルトン
    ドン・フランクス
    ラリー・レイノルズ

 「プロム・ナイト」と同じく、カナダで製作されたスラッシャー映画。クリスマス、ハロウィン、13日の金曜日ときて、バレンタイン・デイというわけだ。本作のユニークな点は、残虐なボディ・カウントよりもサスペンス的な要素に重点が置かれているところだろうか。特に、炭鉱内に入った男女が次々と殺されていく後半は、この中の誰が犯人なのかという謎解きのスリルも味わえる。とはいえ、犯人の動機なんかはかなり無理があり、逆に謎解きは必要なかったのではないかとも思う。また、前置きのドラマ部分がダラダラとしていて、全体的に冗長に感じられるのが「プロム・ナイト」と似ているかもしれない。

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バレインタインの準備をする市長とメイベル
「血のバレンタイン」より

別れた後もお互いを忘れられないサラとTJ
「血のバレンタイン」より

乾燥機の中から発見されたメイベルの死体
「血のバレンタイン」より

 カナダの小さな炭鉱町ハニガーでは、住民が20年ぶりにバレンタイン・デイを祝おうとしていた。人々は通りや建物の飾り付けに余念がない。そんな折、市長(ラリー・レイノルズ)のもとに、差出人不明のハート型キャンディ・ボックスが届けられる。それを開けてみると、中には血だらけの心臓が入っていた。動揺を隠せない市長は、警察署長ニュービー(ドン・フランクス)と共に心臓を病院のラボに持ち込む。検査の結果、心臓は人間のものと判明。“やはりバレンタイン・デイなど祝うべきではない・・・”と呟く市長。
 さらに、翌日クリーニング店の女性店主メイベル(パトリシア・ハミルトン)が、乾燥機の中でミイラ化した状態で発見された。この事件を受けて、ハニガーのバレンタイン・パーティは中止される事になった。
 酒場に集まった地元の若者たちは、その知らせに肩を落とす。そんな彼らに、バーテンダーの老人が過去に起きた忌まわしい事件を語って聞かせた。20年前のバレンタイン・デイに、炭鉱内でガス爆発事故が起きた。原因は、現場の見張り役を担当するはずの炭鉱夫二人が、パーティに参加していたため。唯一の生存者ハリー(ピーター・カウパー)は、死んだ仲間の肉を食べて6週間生き延びた。1年後、精神病院を脱走したハリーは、パーティーでうつつをぬかしていた炭鉱夫二人を次々と殺害し、その心臓をハート型のキャンディ・ボックスに入れて姿を消す。“二度とバレンタインを祝うな”というメッセージを残して。
 それ以来、ハニガーではバレンタインを祝うと人が殺されるという伝説が言い伝えられるようになったのだ。しかし、そんな話など頭から信じていない若者たちは、大人たちに内緒でバレンタイン・パーティを計画する。
 こうして迎えたバレンタイン・デイ。若者たちが羽目を外してパーティを楽しむ中で、一匹狼の青年TJ(ポール・ケルマン)は、元恋人サラ(ロリ・ハリアー)を巡って友人アクセル(ニール・アフレック)と激しく争う。TJとサラは別れてもお互いを忘れられず、サラに想いを寄せるアクセルはそれが腹立たしかったのだ。居たたまれなくなったサラは、親友パティ(シンシア・デイル)ら数人の男女と共に、炭鉱見物へと出かける。
 しかし、キッチンで若者の他殺体が発見された事から、会場は一転してパニックに。炭鉱見物に行ったサラたちの身にも危険が迫っていると感じたTJとアクセルは、自らも炭鉱内へと降りて行く。やがて、外界から遮断された炭鉱内で次々と若者が殺され、彼らは自分たちの中に犯人がいるのではないかと疑いを強めるのだった・・・。

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バレインタインの中止を決めるニュービー署長と市長
「血のバレンタイン」より

炭鉱服を着てガス・マスクを被った殺人鬼
「血のバレンタイン」より

殺人鬼の存在に怯えるパティとサラ
「血のバレンタイン」より

 監督のジョージ・ミハルカはハンガリーからの亡命者。サスペンスからアクション、ロマンティック・コメディまで幅広く手掛ける人物で、これが監督2作目に当たる。ドラマ部分にどうしても比重を置いてしまうのは、やはりジャンル系専門の監督ではないからなのかもしれない。暗い炭鉱内のロケーションを上手く使った後半部分の演出はなかなか上手いが、全体的にホラー映画としての恐怖感は薄めだ。
 で、肝心の特殊メイクを担当したのはトム・バーマン、ケン・ディアス、トム・フーバーの3人。中でも、当時最もキャリアがあったのはトム・バーマンなので、彼が中心となって作業をしたであろうことは想像に難くない。「ドクター・モローの島」('77)や「SFボディ・スナッチャー」('78)、「キャット・ピープル」('82)、「3人のゴースト」('88)、「ラスト・アクション・ヒーロー」('93)など数多くの大作映画を手掛け、最近では生々しい整形手術シーンが話題になったテレビ・ドラマ「NIP/TUCK マイアミ整形外科医」の特殊メイクも担当している人物だ。
 トム・フーパーは「キャット・ピープル」でもバーマンと一緒に仕事をしているが、手掛けた作品はあまり多くない。一方、ケン・ディアスは「遊星からの物体X」('82)や「フライト・ナイト」('85)、「カジノ」('95)、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズなどに参加している人物。全体的にスプラッター・シーンはオーソドックスで、乾燥機から発見された老女メイベルのミイラ化死体だけが強烈なインパクトを残す。

 出演している若者はいずれも無名の俳優ばかりだが、唯一パティ役のシンシア・デイルだけがフラッシュ・ダンス系のエアロビ映画「ヘブンリー・ボディーズ」('84)に主演した事で知られている。一方、ベテラン俳優陣にはカナダの名優が名を連ねている。まず警察署長ニュービーを演じるのは、日本でも大ヒットしたテレビ・シリーズ「ニキータ」の武器担当者ウォルター役で有名な渋い役者。また、無残にも殺されてしまう老女メイベルを演じるパトリシア・ハミルトンは、ケヴィン・サリヴァン監督・製作による「赤毛のアン」と「アヴォンリーへの道」のリンデ夫人役で、日本人にもお馴染みの名女優。市長役のラリー・レイノルズは、角川映画「復活の日」('80)にも出ていた。

 なお、スプラッター・シーンがオーソドックスだと述べたが、やはりこの作品もR指定を受けるために残酷描写がだいぶカットされているらしい。日本では劇場公開時のみノーカット・バージョンが上映されたが、ビデオ発売の際にはカット・バージョンに差し替えられてしまっている。アメリカでは2002年にレターボックス版が、2006年にスクィーズ版がDVD発売されているが、いずれも本編はカット・バージョン。目玉が飛び出したりとか、首を切り落としたりとか、本来はかなり過激なゴア・シーンが満載だったらしい。僕自身も日本公開時は子供だった上に、そもそも日本に住んでいなかったので、残念ながらノーカット・バージョンは一度も見たことがない。近い将来、その封印が解かれることを切に願うばかりだ。

 

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