The Skeptic (2009)

 

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(P)2009 IFC Films/MPI Media(USA)
画質★★★★★ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/5.1chサラウンド/音声:英語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/89分/製作:アメリカ

特典映像
オリジナル劇場予告編
監督:テニソン・バードウェル
製作:メアリー・ベス・テイラー
   テニソン・バードウェル
   アイセン・ロビンス
   エイミー・ショーフ
脚本:テニソン・バードウェル
撮影:クラウディオ・ロシャ
音楽:ブレット・ローゼンバーグ
出演:ティム・デイリー
   トム・アーノルド
   ゾーイ・サルダナ
   エドワード・ハーマン
   アンドレア・ロス
   ロバート・プロスキー
   ブルース・アルトマン
   L・J・フォーリー

 

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救援要請を受けて駆けつけた保安官補

ディーヴァー夫人の遺体を発見する

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ヴィクトリア様式の荘厳な豪邸

夫人の甥ブライアン(T・デイリー)が屋敷を相続した

 マイケル・ムーア監督の『華氏911』(04)やスティーブン・ソダーバーグ監督の『チェ』二部作(08)など、優れたインディペンデント映画の配給で知られるIFCフィルムズが全米配給を手掛けたホラー映画。古い屋敷で起きる怪奇現象をきっかけに、一人の男性の封印されていた過去の忌まわしい記憶が甦っていくという、非常にサイコロジカルな視点で描かれたゴースト・ストーリーだ。
 タイトルの意味は“懐疑論者”。本作の主人公である弁護士ブライアンのことだ。彼は目に見えるものや論理的に説明のつくことしか信じず、想像力や感受性といったものが著しく欠如した男性。弁護士としては優秀だが、人間的には尊大で面白味のない人物だ。それゆえに、近頃は妻との仲も険悪。そんな彼が、巷で幽霊屋敷と噂される叔母の豪邸を相続することとなる。
 しばらく妻との距離を置くため、豪邸へと独りで移り住んだブライアン。ところが、屋敷内では不可解な現象が相次いで起きる。仕事の疲れや寝不足による錯覚だと気にも留めていなかったブライアンだが、事態は徐々に悪化の一途をたどっていく。それでもなお、彼は超常現象の存在を頑なに認めようとしない。
 だが、やがてブライアンはそれらの現象が自分自身の封印された過去と奇妙にリンクしていることに気付く。実は、彼は5歳の時に母親を転落事故で失っており、それ以前の記憶がほとんどなかった。そして、この屋敷に隠されている秘密は、その母親の死と深く関係していたのである。
 30年以上前に、この屋敷で起きたある惨劇。実は、ブライアンもその場に居合わせていた。果たして、この屋敷で起きている現象は本当に幽霊の仕業なのか、それとも甦り始めたブライアンの記憶に起因する心理的作用なのか。そのどちらの可能性も否定していない、というのが本作の重要なポイントだ。
 監督と脚本を手掛けたテニソン・バードウェルは、処女作“Dorian Blues”(04)でレイク・プラシッド映画祭など数多くのインディペンデント系映画祭で賞を獲得した新進気鋭の映像作家。CMディレクターとしても売れっ子で、これが劇場用映画の監督2作目に当たる。
 “人間の信条に対するロールシャッハ・テストのような映画を作りたかった”と語るバードウェル監督。ロールシャッハ・テストとは、提示したインクの染みから何を連想するのか問う心理分析法だ。つまり、観客の一人一人がそれぞれに違った解釈の出来る作品を目指したのである。
 加えて、記憶を遮断することで忌まわしい過去を封印した“懐疑論者”を主人公とすることにより、逆説的ながら感受性というものがいかに人間の重要な根幹を成しているものなのかということを描こうとしているようにも感じられる。いわゆる第6感というものこそが、実は人を人たらしめる大切な要素なのではないかと。
 まず、人それぞれに様々な解釈が出来る、という点では成功している作品だと言えよう。ただ、その“ロールシャッハ・テスト”的な心理分析描写に重点を置きすぎているがために、肝心の問題提起や疑問の投げかけが極めて表層的なものに終始してしまったという印象は否めない。つまり、物語に奥行きがないのだ。
 ストーリー展開のテンポも遅いし、なによりも起伏に欠けている。ゆえに、ちっとも怖くない。全編を通してとても平坦な印象を受ける作品と言えよう。試みとして面白いことは確かだし、心理描写の積み重ねも非常に丁寧でロジカル。ゴシック・スタイルの映像美や計算し尽くされたカメラ・ワークも完成度が高いと思う。
 それだけに、どうも全体的に物足りなさが残るのは惜しまれるところだ。クライマックスも漠然としすぎているし、女性霊媒師や神父などのユニークなサブ・キャラクターも十分に生かしきれているとは言えないだろう。
 決して出来の悪い作品ではない。ただ、ディテール描写よりもホラー映画としての全体像により目を向けていれば、恐らく『呪われたジェシカ』や『悪い種子』のようなカルト映画ともなり得たのではないだろうか。やはりバランスは大事である。

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扉に十字架のかけられたクローゼットを発見する

叔母は超常現象の研究所に資金提供していた

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クローゼットの中には怪しげな切抜きが多数貼られていた

ブライアンは廊下で人の囁き声を耳にする

 秋も深まりつつある晩、電話で救援要請を受けた保安官補がディーヴァー夫人の邸宅へ駆けつける。真っ暗に静まり返ったヴィクトリア様式の豪邸の中へ、恐る恐る懐中電灯を手にしながら入っていく保安官補。奇妙な物音と共に風が吹き抜けた次の瞬間、彼はディーヴァー夫人の硬直した死体を発見する。
 夫人の死因は心臓発作だった。唯一の肉親である甥ブライアン・ベケット(ティム・デイリー)は叔母の死を知らされ、“これで屋敷が手に入る”と表情も変えずにつぶやく。妻ロビン(アンドレア・ロス)は不謹慎だとたしなめるが、叔母とは長いこと疎遠だったブライアンに悲しむ理由などなかった。
 叔母の葬儀が行われた当日、ブライアンは弁護士事務所の共同経営者サリー(トム・アーノルド)と共に屋敷を初めて訪れる。叔母は彼のことをずっと避けていたが、その理由は結局分らないまま。
 だが、もはやブライアンにとってそんなことはどうでもいい。屋敷は立派だし、家具や調度品も一級品ばかり。競売に出せば一財産稼げるはずだ。そんな話をしている最中、サリーが糖尿病の発作を起こした。急いで糖分補給をさせるブライアン。その時、サリーが“扉に十字架のかかったクローゼットの中に何かが潜んでいる”と不可解な言葉を口走る。だが、ブライアンは発作による症状の一つだと気にも留めなかったし、サリー自身にも自覚がなかった。
 ブライアンは妻ロビンとギクシャクした関係が続いていた。原因は彼の無感情。しばらく離れて暮らしたほうがいいと考えていたブライアンは、遺品の整理をするためと称して叔母の家で寝泊りすることにした。屋敷内を探索していた彼は、3階の一室に十字架のかけられたクローゼットを発見する。
 そこへサリーがやって来た。なんと、叔母は遺言で屋敷をコーヴェン博士(ブルース・アルトマン)という人物に相続していたというのだ。コーヴェン博士は睡眠障害の研究をする傍ら、超常現象を科学的に解明するプロジェクトを主宰していた。どうやら叔母は生前、そのプロジェクトに寄付をしていたらしい。
 というのも、彼女は屋敷が何かに取り憑かれていると考えていたのだ。そもそも、この邸宅は巷で幽霊屋敷との評判がたっていた。信心深い叔父はそれを本気にし、挙句の果てに狂死してしまった。長いこと叔母は幽霊など信じていなかったが、恐らく年を取った不安から妄想を抱くようになったのだろう。ブライアンはコーヴェン博士を詐欺師だと断じ、徹底抗戦する構えだった。
 屋敷へ戻ったブライアンは、例のクローゼットの中へ入ってみた。そこには無数の宗教画や新聞の切抜きが貼られていた。その晩、彼は寝室の外の廊下で誰かがヒソヒソと話している声を聞く。何者かが“古いトランクの中を見ろ”とつぶやいていた。廊下には誰もいなかったが、彼は確かに声を聞いていた。
 この否定しようもない事実に戸惑った彼は、不本意ながらコーヴェン博士のもとを再訪する。それが聴覚のトリックであると説明を受けたブライアンは安堵するが、今度は地下室で古いトランクを発見する。さらに、屋敷の中でいるはずのない女性の姿を目撃してしまった。
 再びコーヴェン博士に説明を求めたブライアンだが、逆に精神病を疑われて憤慨する。そんな彼が頼ったのは、幼い頃のかかりつけだった精神科医シェパード(エドワード・ハーマン)。実は、彼は少年時代に記憶障害を患ったことがあったのだ。
 それは母親の死が原因だった。彼の母はボストン郊外の自宅で階段から転倒し、頭を強打して死んでしまった。当時まだ5歳だったブライアンはその現場を目撃してしまい、ショックからそれ以前の記憶を失ってしまったのだ。シェパード医師は“君ほど論理的な人間はいない”と彼を安心させる。
 妻ロビンが息子マイケル(ポール・ティージェン)を連れて屋敷を訪れた。マイケルが父親に会いたがったのだ。ロビンは夫婦の不仲がブライアンのせいだと責める。そして、その原因が死んだ母親にあると。激しく否定する彼に、ロビンはこれまで隠していた秘密を打ち明ける。
 夜中にたびたびブライアンは母親の名前を口走り、何かに怯えるような発作を起こしていたというのだ。だが、ブライアンには全く自覚がなかった。その時、マイケルの悲鳴が屋敷内に響き渡る。夫婦が駆けつけると、マイケルは例のクローゼットの前で怯えていた。その中に誰かがいる・・・と。
 その晩、コーヴェン博士のラボで面識のあった女性霊媒師キャシー(ソーイ・サルダナ)が屋敷に上がりこんできた。迷惑がるブライアンに、彼女はこう提案する。もし超常現象が本当に起きているのなら、私にだって見えるはず。それが本物なのかただの幻覚なのか、証明するチャンスよ、と。
 彼女の申し出は理に叶っていた。ブライアンは超常現象などないことを証明したかった。だが、キャシーは彼が見た女性の姿や目撃した場所などを次々と言い当てる。さらに、彼の母親が転落死した自宅がボストン郊外などではなく、この屋敷なのだと告げた。ここの階段で母親は死んだのだ。
 にわかに信じられなかったブライアンだったが、突如として自分の幼い頃の部屋を思い出した。それは、例のクローゼットがある部屋だった。なぜ周りの大人たちはその事実を隠し続けていたのか?
 何か手がかりがあるのでは、と地下室の古いトランクを開けた二人。その中にある少女の人形を見て、ブライアンは恐怖に顔を引きつらせてパニックを起こす。なぜなのか理由は全く分らないが、彼はその人形が恐ろしくて仕方なかった。
 その翌朝、ブライアンはワイモンド神父(ロバート・プロスキー)のもとを訪ねる。神の存在など全く信じないブライアンだったが、ワイモンド神父は彼の一族の古くからの友人だった。ブライアンの記憶が甦りつつあると知った神父は、ようやく重い口を開く。君が幽霊を見たのはこれが初めてではないんだよ・・・と。
 やがて明らかとなる衝撃的な事実の数々。それまでブライアンの信じてきた世界が、まるで音を立てるように崩れていくのだった・・・。

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親友サリー(T・アーノルド)はブライアンの変化を心配していた

次々と起きる怪現象に戸惑うブライアン

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コーヴェン博士(B・アルトマン)はブライアンの正気を疑う

ブライアンの主治医だった精神科医シェパード(E・ハーマン)

 実は、バードウェル監督が本作の脚本を書いた時期は1980年代にまで遡るのだという。恐らく、長いこと温め続けたのだろう。04年の処女作“Dorian Blues”が成功したことを受けて、05年に映画化されることとなった。主演のティム・デイリーを筆頭に、出演者もハリウッドで実績のあるベテラン名優ばかり。ニューヨーク州のサラトガスプリング市周辺がロケ地として選ばれ、合計約8週間で撮影が終了したのだそうだ。ちなみに、主な舞台となる豪邸だが、普段はホテルとして営業しているという。
 しかし、その後の資金繰りが難航したせいだろうか、少なくとも06年初旬には撮影が全て完了していたにも関わらず、実際に作品が完成したのは08年のこと。ポスト・プロダクションに約2年が費やされているのだ。
 そして、08年5月のカンヌ映画祭でフィルム・マーケットに出品され、先述したIFCフィルムズが配給権を入手。まず翌年4月にビデオ・オン・デマンドとして放送され、その後ニューヨークやロサンゼルスの映画館で限定上映された。
 製作を担当したのは、メアリー・ランバート監督のホラー映画『アティック』(08)を手掛けたエイミー・ショーフとアイセン・ロビンズ、そしてバードウェル監督自身と妻メアリー・ベス・テイラーの4人。さらに、バードウェル監督の父親ポール・バードウェルが製作総指揮として資金提供している。
 さらに、撮影監督には『ピクチャー・ブライド』(94)や『草の上の月』(96)などで知られるクラウディオ・ロシャ、美術デザインには『ウェルカム・ドールハウス』(95)や『記憶の旅人』(99)のスーザン・ブロックといったインディペンデント映画界のベテランが参加。
 また、デミ・ムーア主演の『ゴースト・ライト』(06)などを手掛けたオーストラリア出身のクレイグ・ローゼンバーグ作品の常連、ブレット・ローゼンバーグが音楽を手掛けており、非常に幻想的で美しいスコアを聴かせてくれる。

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息子マイケルはクローゼットの中に誰かがいると言う

女性霊媒師キャシー(Z・サルダナ)が屋敷に上がりこむ

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キャシーは封印されていた屋敷の過去を察知する

徐々に幼い頃の記憶を甦らせるブライアン

 主人公ブライアン役を演じるのは、バリー・レヴィンソン監督の『ダイナー』(82)やカルト・コメディ『イヤー・オブ・ザ・コメット』(92)などに主演したティム・デイリー。テレビ『刑事キャグニー&レイシー』や映画『ダーティハリー3』で有名な女優タイン・デイリーの弟だ。
 映画界ではいまひとつ伸び悩んだものの、ドラマ『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』でエミー賞にノミネートされるなど、最近はテレビでの活躍が目立つ。確かに演技は上手いしハンサムだが、映画スター向きの役者ではないかもしれない。しかし、本作の撮影当時は49歳。ビックリするくらい若く見える。
 その親友で弁護士事務所の共同経営者サリー役には、80〜90年代に一世を風靡したテレビ・ドラマ『ロザンヌ』で有名なトム・アーノルド。出番そのものは少ないが、スタンダップ・コメディ出身の役者らしいアクの強い演技でインパクトを残す。
 しかし、なんといっても本作の白眉は女性霊媒師キャシー役を演じているゾーイ・サルダナであろう。ジェームズ・キャメロン監督のメガヒット『アバター』(09)のネイティリ役と『スター・トレック』(09)のウフーラ役で一躍脚光を浴びた彼女。どうも人間離れした神秘的な役をオファーされることが多いようだが、本作でもその個性を十二分に発揮しており、ミステリアスかつエキセントリックな演技を披露している。
 さらに、『アニー』(82)や『カイロの紫のバラ』(85)などが懐かしいエドワード・ハーマン、『ラスト・アクション・ヒーロー』(93)のお爺ちゃん役が有名なロバート・プロスキーが登場。二人ともすっかり年を取っており、まさに光陰矢のごとしを実感させられる。プロスキーは本作の完成直後に亡くなっており、これが遺作となってしまったようだ。
 そのほか、人気ドラマ『レスキュー・ミー』の主人公の妻役で知られるアンドレア・ロス、『マッチスティック・メン』(03)の精神科医役や『ワイルド・バレット』(06)のシリアル・キラー役を演じていたブルース・アルトマンが顔を見せている。

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ワイドモンド神父(R・プロスキー)が重い口を開く

神父の語る真実を受け入れることが出来ないブライアンだったが・・・

 

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