シモーニ Simone
バイーアの生んだ唯一無二の歌姫
一度聴いたら忘れられない歌声の持ち主である。思わず男性と聞き間違えてしまいそうな渋い低音、感情を抑えた穏やかな歌唱法。包み込むような暖かさと共に滲み出るような哀愁感が耳をとらえて離さない。低音が魅力の女性シンガーそのものは決して少なくないが、彼女ほど低音にずっしりとした貫禄のある女性シンガーは世界広しと言えど他にいないだろう。しかも、これみよがしなテクニックなどを一切使わず、その歌声は不器用なまでに率直で飾り気がない。
楽曲的にはサンバやボサノバをベースにしつつも、ジャズやフュージョン、ソウルを前面に押し出したクールで落ち着いたサウンドが特徴で、そのスタイルはデビュー当時から一貫している。ブラジル音楽という枠を超えた、非常にグローバルな音楽性の持ち主と言えるだろう。Milton
NascimentoやIvan Lins、Tom Jobin、Carlinhos
Brownなど、ブラジルを代表する優れたソングライター陣にも恵まれ、洗練された大人のためのクロスオーバー・ミュージックを生み出してきた。
そのスタイリッシュでメロディアスな音楽性はAORに通じるところもあり、80年代から90年代にかけて日本でも絶大な人気を誇っていた。当時はそのスノッブなもてはやされ方が気に入らなかったし、楽曲的にも20代のボクにはちょっと渋すぎたこともあってあえて避けていた。が、ここ最近になって何故だか無性に聴きたくなり、コツコツとCDを集めたりしている。少しは大人になった証拠・・・ですかね(苦笑)?
1949年12月25日、シモーニはバイーア州サルバドールに生まれる。バイーアと言えば、かつてのブラジルの首都。そして、何よりもブラジル音楽発祥の地として世界的にも名高い場所だ。サンバやボサノバはここで産声をあげ、カエターノ・ヴェローソ、ジルベルト・ジル、ガル・コスタ、マリア・ベターニャの“バイーア4人組”を生み出した。シモーニは、そのマリア・ベターニャに多大な影響を受けた歌手と言っていいだろう。
父親がオペラ歌手、母親がピアニストという音楽一家に育ったシモーニは、16歳の時にサン・パウロに移った。レコード会社Odeonのオーディションに合格し、1972年にレコード・デビュー。77年に“Jura
Secreta”と“Face a Face”がヒットして注目を集めた。さらに79年にリリースされた“Comecar de
Novo”が爆発的な大ヒットとなり、一躍国民的な大スターとなったのである。
81年にはCBSに移籍し、ブラジルのみならずスペイン語圏やフランスでも絶大な人気を集めている。90年代にはスペイン語アルバムも数枚リリースしているし、Placido
Domingoとのデュエットも話題になった。ここ数年はライブ活動が中心でレコーディング活動の方は非常にマイ・ペースだが、2004年に古巣のEMI(旧Odeon)に移籍してリリースしたアルバム“Baiana
de Gema”は批評家にも絶賛され、ゴールド・ディスクに輝くヒットとなった。
Quatro Paredes
(1974) Gotas d'Agua
(1975) Face a Face
(1977) Cigarra
(1978)
(P) EMI Music Brasil
(Brasil)
(P) EMI Music Brasil
(Brasil)
(P) EMI Music Brasil
(Brasil)
(P) EMI Music Brasil
(Brasil)
1,De frente pro crime
2,Nosso
amor nao deu em nada
3,Fantasia
4,Salamargo
5,Balao do
coracao
6,Chuva, suor e cerveja
7,Quatro
paredes
8,Desgosto
9,A saudade mata a gente
10,Bodas de
prata
11,Proposta
12,Qui nem jilo
musical direction Maestro
Gaya1,Gota
d'agua
2,Disfarce
3,Matriz ou filial
4,Nosotros
5,Sistema
nervoso
6,Latin Lover
7,Samba pro Joao
Gilberto
8,Outubro
9,Idolatrada
10,O trem ta feio
11,Eu nem
ligo
aritistic direction Milton Miranda1,Face a Face
2,Primeiro de
maio
3,Reis e rainhas do maracatu
4,O que sera
5,Ceu de
brasilia
6,Paixao e fe
7,Jura secreta
8,Valsa rancho
9,Canoa,
canoa
10,Comecaria tudo outra vez
artistic direction Milton
Miranda1,Cigarra
2,Coisas de
balada
3,Petunia reseda
4,Entao vale a pena
5,A sede do
peixe
6,Medo de amar no.2
7,Diga la coracao
8,As curvas da
estrada de santos
9,Ela disse-me assim
10,Sangue e
pundis
artistic direction Milton Miranda
Roberto
Ribeiroとのコラボ・アルバムなどを経て、74年にリリースされた実質的なセカンド・アルバム。とても当時25歳とは思えない落ち着いた渋い低音で、ジャジーでメランコリックなボサやサンバをしっとりと歌い上げている。叙情感溢れるストリングスと哀しげなアコーディオンの音色が美しいゴージャスなボサ#3、ソフトなギターと哀切感に満ちたフルートが印象的な悲しい愛の歌#5、カエターノ・ヴェローソによる軽やかでメロディアスなボサ#6など、ロマンチックで耳障りの良い美しい楽曲が並ぶ。非常に完成度の高いアルバム。
前作を凌ぐ完成度のサード・アルバム。ミルトン・ナシメントをゲストに迎えたシコ・ブアルキ作曲の哀愁系ボサ#1のドラマチックで幻想的なアレンジは秀逸で、静かに歌い上げるシモーニのボーカルにも鬼気迫るものがある。ダニロ・カイミとジョイスのペンによる#4の儚げな叙情感も素晴らしいし、なだらかでソフトなジャズ・ボサ#7、ミルトン・ナシメントによるクールなレア・グルーヴ#9、スインギーなジャズ・ファンク#11なんかも都会的でモダンなシモーニの一面を楽しませてくれる。女にしておくのがもったいないくらいにダンディです。
本作以降、長年に渡るコラボレーションを組む事になる作曲家スエリ・コスタによるメランコリックなバラード#1で幕を開ける2年ぶりのアルバム。再びミルトン・ナシメントが作曲・アレンジで深く関わっている。中でも#7はシモーニにとって最初のメジャー・ヒットとなり、彼女の代表作の一つとして愛され続けている名曲。涼しげでダンサンブルなサンバ#3や映画のテーマ曲にもなったドラマチックなバラード#4、ラウンジ色豊かなラテン・ジャズ・バラード#10など、選曲もバラエティ豊かになってきた。
全体的にロック色を強めた躍動感のある5枚目のアルバム。その分、ロマンティックな叙情感は抑え気味だが、彼女にとっては初のベスト・セラーとなった作品。しかし、音楽的アプローチは変われど、シモーニはシモーニ。わが道を行くようなマイペースの歌いっぷりで、既に大物の貫禄を感じさせる。#6では十八番の甘くてジャジーなバラードを聴かせてくれるものの、個人的にはそれほど魅力を感じないアルバムかもしれない・・・。まあ、それもこれも趣味の問題で、客観的には完成度の高いアルバムだとは思う。
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Pedacos (1979) |
Vicio (1987) |
Las 30 Mejores Canciones |
Seda Pura (2001) | |
(P) EMI Music Brasil (Brasil) | (P)1987 Columbia (USA) | (P)1997 Sony Latin (USA) | (P) Universal Music (Brasil) | |
1,Comecar de novo 2,Sob medida 3,Povo da raca Brasil 4,Condenados 5,Cordilheira 6,Outra ves 7,Vento nordeste 8,Saindo de mim 9,To voltando 10,Itamarandiba 11,Pedaco de mim |
1,Eu sei que vou te amar 2,Voce e linda 3,Simples carinho 4,Seu corpo 5,Petala 6,Me chama 7,Doce presenca 8,Coracao ateu 9,Trocando em miudos 10,Cais produced by Mazzola conception by Simone |
Disc 1 1,Besame Mucho 2,Me moriria sin ti 3,La distancia 4,Yolanda 5,La barca 6,Procuro olvidarte 7,Candilejas 8,Se fue 9,Ata-me 10,Cuando tu illegues 11,El amor mas amor 12,Quiero amanecer con alguien 13,Eu sei que vou te amar 14,El que no llora no ama 15,Perfidia |
Disc 2 1,Cuando vuelva a tu lado 2,Esquinas 3,Petala 4,Meu bem querer 5,Mia 6,Voy a apagar la luz 7,Contigo aprendi 8,Adoro/Solamente una vez/Sabor a mi 9,Dos enamoradas 10,Pecado 11,Todo por amor 12,Alfonsina y el mar 13,Apaixonou 14,Alma 15,Liberdade, liberdade/O amanha |
1,Seda pura 2,Cofre de seda 3,Garoa 4,Caso encerrado 5,www.sem 6,Fuga No.1 7,Muito estranho 8,Antes de acordar 9,Hawaii e you 10,Falando serio diredtion Guto Garaca Mello conception Simone |
シモーニにとってはOdeon時代最後のアルバムであり、そのキャリアのターニング・ポイントともなった大ヒットアルバム。イヴァン・リンスによる叙情的なAOR風バラード#1は彼女にとって最大のヒット曲となった。また、シコ・ブアルキによるボレロ風のメロウ・バラード#2も映画のテーマ曲としてヒット。ファンキーでクールなサンバ#9も彼女の代表作の一つとして人気が高い。そして、最後を飾るシコ・ブアルキ作のバラード#11。オルガンをバックにした賛美歌のような作品で、シモーニの飾り気のない低音の歌声が静かに響き渡る佳作。 | 彼女にとって80年代を代表するアルバムと言っても過言ではない作品。ドン・グルージンやトム・リーバーマンといったジャズ・フュージョン系のアーティストを迎え、これ以上ないくらいにロマンティックで甘いAOR風ブラジリアン・ポップスを聴かせてくれる。アントニオ・カルロス・ジョビンのピアノをバックに静かに淡々と歌い上げる#1、ミルトン・ナシメントとのデュエットを聴かせる#2、スエリ・コスタによるセンチメンタルなバラード#8など、真夏のリゾートの夕暮れを思わせる叙情感溢れる楽曲が並ぶ。 | 1982年〜1996年までのポルトガル語及びスペイン語でのヒット曲で構成された究極の2枚組ベスト。この時期の代表作の殆どを網羅している。Disc 1では往年のラテン・スタンダードを見事にシモーニ色に染めた濃厚なボレロ#1、ベブ・シルヴェッティの華麗で切ないストリングスが冴え渡る絶品バラード#3、往年のシャンソンを思わせるドラマチックなバラード#6、ダニエラ・ロモのカバー#12、Disc 2では都会的でメロウなバラード#7、タニア・リベルタの歌唱でも有名な永遠の名曲#12、CBS移籍後最大のヒットとなった#14が特にオススメ。シモーニ初心者は是非ここから。 |
コンテンポラリーなポップ・ロック路線を盛り込んで新境地を開いたアルバム。古くからのファンには多少違和感を感じる部分もあるかもしれないが、メロディを大切にした緻密で重厚感のあるアレンジは見事だと思う。メロウなムード溢れる美しいブルース・ナンバー#3、シンプルかつダンサンブルなロック風サンバ#5、ノスタルジックなアコーディオンの音色が切ないメロウ・ロック#6、シモーニの低音ボーカルが凄みさえ感じさせる渋いブルース・ロック#8、ギターとバイオリンの静かな音色に素朴なシモーニのボーカルが切なく絡む#10など、聴くたびに味の出る名曲ばかり。 |