シャーリー・テンプル・ショー
The Shirley Temple Show

 

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※お詫び:読者の方からのご指摘で、「シャーリー・テンプル・ショー」が過去に日本放送されていることが判明いたしました。1961年と1963年にNHKで『おとぎの国』シリーズとして、1964年にフジテレビで『シャーリー・テンプル・ショー』として放送されております。謹んでお詫び申し上げるとともに、ここに訂正させて頂きます。

 ハリウッドの名子役として名高いシャーリー・テンプルが、1958年から1961年にかけて主演したテレビ・シリーズ“The Shirley Temple Show”。毎回「眠れる森の美女」や「長くつ下のピッピ」、「人魚姫」、「はだかの王様」などの有名な童話・お伽噺を、シャーリー・テンプルと豪華な脇役ゲストによってドラマ化していくというシリーズだ。日本では残念ながら放送されなかったようだが、アメリカでは全41エピソードが放送されて大好評だったという。
 シャーリー・テンプルと言えば、1930年代から40年代にかけてハリウッドで絶大な人気を誇った子役スター。10歳にしてギャラは大人顔負けの100万ドル、8歳の誕生日には13万個というバースデー・プレゼントが届けられたという。日本でも「可愛いマーカちゃん」('34)や「私のテンプル」('35)、「天晴れテムプル」('39)、「テンプルちゃんの小公女」('39)など、次々と主演作が劇場公開されて大変な人気だった。ただ、子役から青春スターへの脱皮を図ったものの、残念ながらいま一つ成功しなかった。

 その後、一時期芸能界から遠ざかっていた彼女が、活躍の場をテレビに移してカムバックを果たしたのがこの番組だった。当時は既に30歳。マーガレット・オブライエンにしろ、マコーレー・カルキンにしろ、子役スターが大人になるとそのイメージのギャップにガッカリさせられる事が多いが、意外にもシャーリー・テンプルは例外だった。とても上品でエレガント。その意思の強そうな表情からは、後年の選挙活動や外交活動に熱意を傾けるタカ派政治家シャーリー・テンプルの姿を垣間見る事も出来る。
 正直言うと、個人的には子役スターというのが苦手だ。最近でこそ自然な演技の出来る子役が増えてきたが、往年のハリウッドの子役というのは、どうも大人に媚を売るような作られた可愛さが鼻についてしまって気味が悪い。シャーリー・テンプルなんてのはその代表格みたいなもので、子供の姿をした狡猾な老人にしか見えず、ちっとも可愛いとは思えなかった。なので、この“The Shirley Temple Show”の彼女はちょっとした嬉しい驚きと言えるかもしれない。子役時代のような押し付けがましいオーバー・アクトは影を潜め、共演のアグネス・ムーアヘッドやキャスリーン・ネスビットといった名女優に引けをとらない堂々とした大人の演技を見せてくれる。少女時代よりも遥かに魅力的な女優に成長していると言えるだろう。

 さて、その“The Shirley Temple Show”。当初は“The Shirley Temple's Storybook”というタイトルで放送されていた。シャーリー自身がホスト役を務め、毎回オープニングとエンディングで物語の解説をする。これは1950年代から60年代にかけて流行ったアンソロジー・ドラマの形式で、「ヒッチコック劇場」や「ミステリー・ゾーン」なんかがその代表格と言えるだろう。中でも、この番組は「ロレッタ・ヤング・ショー」から強い影響を受けているものと思われる。
 日本でも評判だった「ロレッタ・ヤング・ショー」は、往年のハリウッド女優ロレッタ・ヤングがホスト役を務めた番組で、視聴者から手紙で寄せられた実話をロレッタ主演でドラマ化するというもの。本当に実話だったのかどうか定かではないが、主にロレッタと同世代の母親を主人公にしたエピソードが選ばれていた。毎回オープニングとエンディングでロレッタ自身がコメント解説するのだが、その際に彼女が着用するエレガントな最新モード・ファッションが当時のアメリカの主婦には大評判だったという。その「ロレッタ・ヤング・ショー」を子供向けにアレンジしたのが、この“The Shirley Temple Show”だったと言えるだろう。

 放送時間は基本的に1時間の1話完結。CMの時間を除くと、実質的には1話当たり55分の計算になる。いくら児童文学やお伽噺とはいえ、1時間未満で1つの物語をまとめてしまうというのも無理があるように思えるが、本作の場合は逆に無駄をなくした分りやすいドラマに仕上がっている。
 低予算で作られているので、セットや特殊効果はまるで舞台劇みたいだし、スタジオ内を移動するスタッフの足音まで聞こえてしまうような有様だが、それも手作りの温もりみたいなものを醸し出すのに一役買っているように思う。セットや小道具の美術デザインもノスタルジックで美しく、昔懐かしい絵本を見ているような楽しさが非常に魅力的だ。
 ただ、何故かアメリカでも殆んど再放送されておらず、過去にモノクロ版がVHSで発売されたことあるだけだった。この番組はもともとカラーで撮影されていたのだが、当時はアメリカでもまだカラーテレビが一般的ではなく、ネットワーク局でも地方によってはモノクロ放送しかされていなかった。
 カラー版のオリジナル・マスター・テープはシャーリー・テンプル自身が所持していたらしく、2005年になって初めてアメリカでDVDソフト化されている。ビデオ・テープでの撮影だったために保存状態は決して良くないが、アメリカにおけるテレビ・ドラマの黄金時代をリアルなカラーで楽しめるのはなかなか貴重なこと。古いアメリカン・ドラマのファンには是非ともお薦めしたい番組だと思う。

現在アメリカでDVD発売されているのは全部で15話。その中からお薦めのエピソードを3つ紹介しておこう。

 

The Land Of Oz

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オズの国を統治するオズマ姫(S・テンプル)
The Land of Oz より

魔女モンビ(A・ムーアヘッド)とニキディク卿
The Land of Oz より

オズマ姫が変身した少年ティップとカボチャのジャック
The Land of Oz より

 L・フランク・ボームの代表作「オズ」シリーズは、日本ではジュディ・ガーランド主演で映画化された「オズの魔法使い」が有名だが、実は全部で14冊も書かれたシリーズだった。その第2作目に当たる「オズの虹の国」(The Marvelous Land of Oz)をドラマ化したのが、このエピソード。第2シーズンの第1話として放送されている。
 シャーリーが演じるのはオズの国を統治する美しいオズマ姫。腹黒いニキディク卿(ジョナサン・ウィンタース)と悪い魔女モンビ(アグネス・ムーアヘッド)の2人は、オズマ姫を銅像に変えてオズの国を奪ってしまおうとする。しかし、ちょうど手伝いが欲しかった魔女モンビは、オズマ姫を魔女ではなくて小間使いの少年ティップに変えてしまう。お姫様としての記憶の一切を失ったティップは、モンビにこき使われる毎日を過ごしていた。
 ある日、ティップの作ったカボチャ頭の案山子を見つけた魔女モンビは、酔っ払った勢いで案山子に魔法の粉を振りかける。すると不思議なことに、案山子は生きているかのように動き出したのだ。このカボチャ頭のジャック(スターリング・ホロウェイ)は、ティップを自分の生みの親として慕うようになった。だが、新しい小間使いが出来た魔女モンビは、ついにティップを銅像にしてしまおうとする。
 ジャックの助けで逃げ出したティップは、こっそり盗み出した魔法の粉で木馬に生命を与え、オズの国へと向う。ニキディク卿と魔女モンビの陰謀をカカシ男(ベン・ブルー)に伝えたところ、ブリキ男(ギル・ラム)まで加勢に駆けつけてくれる。しかし、魔女モンビの魔法には太刀打ちできず、ティップたちはお手製の飛行船に魔法の粉を振りかけて空高く逃げることにする。モンビの魔法で飛行船を焼かれそうになったティップたちを、間一髪のところで救ったのは良い魔女グリンダ(フランシス・バーゲン)だった。悪行の罰として魔力を奪ってしまうというグリンダの脅かしに屈したマンビは、ティップをもとのオズマ姫に戻す。しかし、どさくさに紛れてマンビはオズマ姫を誘拐してしまうのだった・・・。

 ジュディ・ガーランド版「オズの魔法使い」を意識した美術セットやカカシ男、ブリキ男の特殊メイクなど、カラフルでファンタジックな世界がとても楽しい一本。ティップ少年を演じるシャーリー・テンプルはさすがに無理があるものの、コミカルな演技の上手さは絶妙だ。ビデオ合成で作られた特殊効果は非常に原始的で、合成部分がチラチラ見えてしまうのが難ありだが、それもまた味わいの一つとして楽しみたいところ。いずれにせよ、古き良き時代の子供向けドラマの雰囲気を十二分に伝えてくれる作品に仕上がっている。
 ゲストの中では、やはり悪い魔女マンビを演じるアグネス・ムーアヘッドが絶品だ。日本では「奥様は魔女」のエンドラ役でお馴染みの女優だが、アメリカではオーソン・ウェルズの「市民ケーン」など数多くの名作に出演してきた名女優として尊敬されている人。「オズの魔法使い」のマーガレット・ハミルトンはいかにも不気味で憎々しげな魔女だったが、こちらはコミカルでとてもチャーミング。どこか憎めなかったりするところは、さすがエンドラ様といったところ。
 また、良い魔女グリンダを演じるフランシス・バーゲンも魅力的。彼女は大女優キャンディス・バーゲンの母親としても知られている人だが、昔のハリウッド女優特有の貴族的なエレガンスを持ち合わせており、「オズの魔法使い」のビリー・バークよりも遥かに美しい。
 ニキディク卿を演じたジョナサン・ウィンタースは日本では知られていないが、当時アメリカでは有名なスタンダップ・コメディアンだった。子供向番組の仕事も多数こなしており、80歳を過ぎた今も現役で映画や舞台に出演している。
 また、注目しておきたいのはカボチャ頭のジャックを演じているスターリング・ホロウェイ。1930年代から活躍する脇役俳優だが、後にディズニー・アニメの声優としても知られるようになり、中でも「くまのプーさん」のプーさんが最大の当たり役となった。

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ブリキ男(G・ラム)とカカシ男(B・ブルー)
The Land of Oz より

飛行船に乗って逃げるティップたち
The Land of Oz より

良い魔女グリンダ(F・バーゲン)
The Land of Oz より

 

The House of the Seven Gables

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ピンチョン家を訪れたフィービー(S・テンプル)
The House of Seven Gables より

どこか陰のある青年ホルグレイヴ(R・カルプ)
The House of Seven Gables より

屋敷の秘密を守るヘプツィバー(A・ムーアヘッド)
The House of Seven Gables より

 本来は子供向けとして製作された“The Shirley Temple Show”だったが、中には大人向けに作られた質の高い文芸作品も含まれていた。その代表的なエピソードが、この“The House of Seven Gables”だろう。原作は19世紀アメリカの文豪ナサニエル・ホーソーンのゴシック・ロマン小説「七破風の屋敷(呪いの館)」。日本では「緋文字」くらいしか知られていないホーソーンだが、ヨーロッパ的なロマン主義と現代文学との狭間に位置する異色の作家として文学史の上でも重要な人物だ。
 ホーソーンの作品はどれも宗教的な色合いが濃く、とりわけ偽善的な伝統やしきたり、人間の罪や弱さ、魂の救済などを描く物語が多い。その背景には、生まれ育ったニューイングランドの土地柄や彼自身の家系の歴史が暗い影を投げ落としていた。ニューイングランドはイギリスのピューリタンが入植したアメリカで最も歴史のある地域で、古くから魔女伝説などの陰惨な都市伝説が残されている場所でもある。また、ホーソーンの先祖はクエーカー教徒の迫害やセイラムの魔女裁判に深く関わっており、まさに罪深く忌まわしい過去を持つ家系の出身だった。彼自身、罪のない人々を死に追いやった先祖の恐ろしい過ちに対して、深い罪悪感を持っていたようだ。
 こうした複雑な背景に由来する彼の作品群の中でも、特にその個性が強く現れているのが傑作「緋文字」であり、この「七破風の屋敷」であると言えるだろう。

 主人公はシャーリー演じるフィービー・ピンチョン。彼女は従姉妹であるヘプツィバー・ピンチョン(アグネス・ムーアヘッド)を訪ねて、ニューイングランドの古い屋敷へとやって来た。かつて栄華を誇ったピンチョン家も今は没落し、すっかり朽ち果ててしまった豪邸も“呪われた屋敷”として周囲の住民から忌み嫌われていた。
 もともとこの土地はマシュー・モールという人物のものだったが、彼はフィービーたちの先祖であるピンチョン大佐によって魔法使いの嫌疑をかけられ処刑され、以来ピンチョン家が住居を構えてきた。つまり、マシュー・モールから不当に奪った土地だったのだ。以来、ピンチョン家はマシュー・モールの呪いを受け、代々の当主は恐ろしい死を遂げてきた。
 ヘプツィバーの父親もまた殺され、彼女の弟クリフォード(マーティン・ランドー)が無実の罪で逮捕されたのだった。精神病院で長い間治療を受けてきたクリフォードは、すっかり廃人となって屋敷に戻ってきていた。このように忌まわしい歴史を持つピンチョン家だったが、フィービーがやって来たことによって、次第に明るさを取り戻してくる。
 だが、そんなピンチョン家の屋敷を詮索する人間がいた。ヘプツィバーたちの従兄弟であるジェフリー・ピンチョン判事(ジョナサン・ハリス)だ。彼はこの屋敷にピンチョン家の財産が隠されており、自分がそれを継承する権利を持っていると主張するのだった。
 一方、ピンチョン家の歴史を調べているという謎めいた若者ホルグレイヴ(ロバート・カルプ)は、屋敷からすぐにでも出て行くようフィービーに警告するが、ヘプツィバーやクリフォードを気遣う彼女は耳を貸さない。また、屋敷の周囲を徘徊するヴェナー叔父さん(ジョン・アボット)と名乗る老人の存在も気がかりだった。
 そんなある晩、屋敷に忍び込んだ判事に脅迫されたフィービーは、ピンチョン家にまつわる真相を突き止めるため、実家の母親のもとへ行くことを決意する。そして、フィービーが留守にしている間に、ピンチョン家では再び恐ろしい惨劇が起きた。クリフォードに財産の在り処を問い詰めようとした判事が、屋敷の広間で無残な死体となって発見されたのだ。

 長編小説である原作を1時間以内にまとめるため、設定やストーリーに大幅な変更がなされているものの、本筋的なプロットはしっかりと生かされている。ニューイングランドの陰鬱なムード、おどろおどろしいゴシック風の屋敷など、全てスタジオに組み立てられたセットで撮影されているが、原作の持つ雰囲気はとても上手く表現されていると思う。
 演出を手掛けたのはアーサー・ヒラー。そう、「ある愛の詩」('70)や「ラ・マンチャの男」('72)で一世を風靡したハリウッドの名匠だ。当時はまだテレビ・ディレクターとして活躍していた時期だが、限られた予算や環境の中で非常に丁寧なストーリー・テリングを披露してくれている。
 そして、何といっても本作の最大の強みは、見事なアンサンブル・キャストによる力強い演技にあるだろう。中でも、やはりアグネス・ムーアヘッドの存在感と演技力は群を抜いている。オーソン・ウェルズと共に伝説的なマーキューリー劇団を立ち上げた人物であり、ブロードウェイの名女優として名を馳せたムーアヘッドだが、本作のヘプツィバー役などはまさに彼女の独壇場といったところ。先祖の罪を背負って生きる老貴婦人の誇りと哀しみを力強く演じており、その迫真の演技は圧巻だ。
 一方のフィービー役を演じるシャーリー・テンプルも、ムーアヘッドと並んでも遜色ないくらいの熱演ぶりを見せる。大人の女優として大成しなかったのが残念に思えるほど上手い。また、ピンチョン家の罪悪を象徴するような判事ジェフリー役を演じるジョナサン・ハリスの存在感も凄い。日本では「宇宙家族ロビンソン」のザカリー・スミス博士役でお馴染みの俳優だが、もともとはやはりブロードウェイ出身の人。財産の隠し場所をクリフォードに問いただそうとする判事と、精神的に深く傷ついた弟を必死に守ろうとするハプツィバーが激しいやり取りを交わすシーンは、本作の最大の見せ場と言えるだろう。
 そのクリフォード役を演じる名優マーティン・ランドーの鬼気迫る廃人ぶりも凄まじい。撮影当時まだ30歳だったランドーだが、30年近くも精神病院に幽閉され魂を失ってしまった老人クリフォードの狂気と苦悩、そして人間性の目覚めを見事に演じ切っている。まだ「スパイ大作戦」でブレイクする以前なわけだが、その凄みのある演技は圧巻と言うしかないだろう。
 こうした実力派の名優たちに比べると、やはりホルグレイヴ役のロバート・カルプは分が悪い。60年代を代表する人気テレビ・シリーズ「アイ・スパイ」で有名なスターだが、彼の持ち味はその軽妙洒脱なスタイルにあるわけで、本作のようなシリアス・ドラマではいま一つその魅力が生かされていない。
 いずれにせよ、1時間にも満たないテレビ・ドラマとは思えないような重量感のある作品に仕上がっており、当時のアメリカのテレビ界の底力みたいなものを強く感じさせられる。

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ヘプツィバーと最愛の弟クリフォード(M・ランドー)
The House of Seven Gables より

屋敷を嗅ぎ回る判事ジェフリー(J・ハリス)
The House of Seven Gables より

周囲を徘徊する老人ヴェナー叔父さん(J・アボット)
The House of Seven Gables より

 

The Terrible Clockman

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ザカリアス親方の一人娘ジェランデ(S・テンプル)
The Terrible Clockman より

ザカリアス親方(S・ジャッフェ)とジェランデ
The Terrible Clickman より

親方たちの前に現れた不気味な男の正体とは
The Terrible Clockman より

 ジュール・ヴェルヌの短編小説「ザカリウス親方」を元にした作品。ヴェルヌといえば科学小説や冒険小説というイメージが強いが、この短編は科学の力を過信する時計職人の悲劇が描かれたゴシック・ムード溢れる怪奇幻想小説。ヴェルヌの作品群の中でも、とりわけ異色のものとして知られている。
 舞台はスイスの小さな町。地元の時計職人であるザカリアス親方(サム・ジャッフェ)は近隣にも名の知れた人物で、彼の作る時計は正確に時を刻むという事で評判が高かった。最愛の一人娘ジェランデ(シャーリー・テンプル)、その婚約者でもある愛弟子オーベール(デヴィッド・フランクリン)と共に暮らしていた親方だったが、そんな彼らの前にヴァン・デル・グラフ(エリック・ポートマン)と名乗る怪しげな人物が現れる。
 廃墟となっている城に住み着いた彼の正体は、実は黒魔術を操る錬金術師だった。娘のジェランデを花嫁によこさなければ、時間の流れを狂わせてやる、というヴァン・デル・グラフの脅しを一蹴するザカリアス親方。しかし、その予告どおりに町中の時計が突然狂い始め、真夏だというのに雪が降るという異常現象が起きるようになった。
 恐怖と不安でパニックに陥った町の人々は、ザカリアス親方の仕業に違いないと信じて暴動を起す。時計などという不思議なものを作り出すような人物は、きっと悪魔に魂を売っているのに違いないというわけだ。
 ザカリアス親方を捕えた町の人々は、親方の大親友でもある市長(ジャック・オーブション)のもとへ陳情に訪れる。たまたま、市長の邸宅には王様(ジョン・ウェングラフ)がお忍びでやって来ていた。親方とは先代王の時代から親しいということもあり、王様は彼がそんな罪を犯す人物ではないと住民を諌める。
 その頃、町では大変な事が起きていた。市長の依頼で親方が作った人間型の巨大時計がロボットのように動き出し、次々と町の住民を襲っては殺していたのだ。この時計人間を操っているのもヴァン・デル・グラフだった。彼は時計人間にジェランデを誘拐させ、城へと連れて来させる。
 ジェランデが誘拐された事を知らされた親方たちは、すぐに王様の軍隊を率いて城へと向う。一方、ジェランデの婚約者であるオーベールも、愛する恋人を救うために城へと乗り込んでいた・・・。

 というわけで、自らの才能と科学の力を過信した傲慢な男ザカリウス親方が、神の怒りに触れて天罰を受けるという原作とは全く別の物語になってしまった本作。ヴェルヌ作品のファンにとっては原作への冒涜とも言えるような内容かもしれないが、小説にインスパイアされたオリジナル作品として見ればなかなか面白い仕上がりだと思う。
 特に、60年代にロジャー・コーマンがAIPで製作した「アッシャー家の惨劇」や「忍者と悪女」、「恐怖の振子」といったホラー映画にも通じる魅力があり、クラシックなホラー映画ファンにはとても興味深い作品になっている。
 また、どこか間抜けで微笑ましい時計人間のデザインも個性的でユニーク。当時のテレビ・ドラマは今のようにスタッフの詳しいクレジットがないため、誰がデザインをしているのか分らないのが残念だ。
 本作の監督を務めたのはアレン・レイスナー。「アンタッチャブル」から「ルート66」、「ベン・ケイシー」、「ガン・スモーク」、「グリーン・ホーネット」、「ハワイ5−0」、「ジェシカおばさんの事件簿」など、40年近くにも渡って数多くの名作ドラマを手掛けた大御所ディレクターだった。
 ザカリアス親方を演じるのは「ベン・ケイシー」でドクター・ゾルバを演じていたサム・ジャッフェ。「アスファルト・ジャングル」でベネチア国際映画祭の男優賞を受賞し、アカデミー賞にもノミネートされた名優である。対するヴァン・デル・グラフを演じるエリック・ポートマンは有名なシェイクスピア俳優で、40年代にはイギリスで最もギャラを稼ぐ映画スターだった人物。この渋い顔合わせも、本作の大きな魅力の一つと言えるだろう。特に、エリック・ポートマンの大仰なくらいに貴族的な不気味さは、ロジャー・コーマン作品におけるヴィンセント・プライスを彷彿とさせるものがあって面白い。

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黒魔術を使うヴァン・デル・グラフ(E・ポートマン)
The Terrible Clockman より

ユニークな姿をした時計人間
The Terrible Clockman より

事態を収拾しようとする親方と市長、王様の3人
The Terrible Clockman より

 

 

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(P)2005 Genius Entertainment (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤3枚組)
カラー/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL
/275分/製作:アメリカ

収録作品
The Terrible Clockman
The House of the Seven Gables
The Land of Oz
The Reluctant Drago
The Little Mermaid
 シャーリー・テンプルが個人所有していたカラー版のビデオ・マスターを使用したDVDコレクション。これ以外にもばら売りでリリースされており、全部でシリーズは8巻まで出ています。ビデオで撮影されているので、テープの劣化によるノイズや退色は修復不可能。今のようにデジタル・ビデオ・カメラのない時代ですから、こればっかりはもう仕方ないでしょう。フィルムみたいにレストアできないのが最大の弱点です。なので、画質は決して良くありません。

 

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