シェイラ Sheila
イエイエ・ガールからポップ・アイコンへ
60年代のイエ・イエ・ブームが生んだトップ・アイドルだった。イエ・イエとは、すなわちフランス版ロックン・ロール。主にアメリカン・ポップスのフランス語カバーというのが定番で、フレッシュな若手新人スターが次から次へとヒット曲を放った。フランス・ギャルやシルヴィー・ヴァルタンなんかもイエ・イエから登場したスターだったのはご存知の通り。ただ、この時代に登場した女性スターの多くが隣の女の子的な平凡さを売りにしていて、殆どが1〜2曲のヒットで消えていってしまった。シェイラにしても、特に美人でもなく歌も上手くないという点で、典型的なイエ・イエ系ポップ・スターだったと言えるだろう。
セルジュ・ゲンズブールという稀代の芸術家に育てられたフランス・ギャルや、類稀な美貌と圧倒的な歌唱力に恵まれたシルヴィー・ヴァルタンが早くからアーティストとしての自我に目覚めたのに対し、シェイラは良くも悪くもクロード・カレールという商売人の庇護の下で商品化された操り人形だった。それゆえに、ギャルやヴァルタンが批評家からも熱烈な支持を得、フランス国外にも熱狂的なファンを数多く生んだのに対し、シェイラはアーティストとして真っ当に評価されることは殆どなかった。
それでもなお、シェイラがトップ・スターの一人として芸能界を生き残ることができたのは、やはりクロード・カレールの商才のおかげだろう。後に自らの名を冠したレコード会社カレールを設立してメジャー・レーベルに育て上げたクロード・カレールは、アメリカン・ポップスのカバーが主流だったイエ・イエ・ブームの中にあって、同世代の女の子が共感できるようなオリジナル作品を積極的にシェイラに歌わせた。映画「8人の女たち」('02)の中で、最年少のリュディヴィーヌ・サニエがカバーした“パパは流行遅れ”などはその最たるもの。ロックン・ロールのリズムを取り入れつつ、いかにもフレンチ・ポップスらしいキュートで愛らしい楽曲だった。60年代のフレンチ・ポップスを代表する名曲である。
さらに、カレールはパブリシティの重要性を熟知していて、彼女のファッションからヘアスタイル、さらには恋愛などの私生活に至るまでありとあらゆる情報をメディアに提供して行った。トレンドの変化にも敏感に対応し、70年代のディスコ・ブームの際には黒人バック・ダンサーを従えて英語マーケットにも進出。シックのナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズをプロデュースに迎えた“スペイサー”はダンス・クラシックの名曲として未だに根強い人気を誇っている。
しかし、当然のことながらいつまでもアイドルをやっているわけにはいかない。30歳を過ぎても本格的なアーティストとして開眼するチャンスに恵まれなかったシェイラは、次第にトレンドにもついていく事ができなくなり、80年代半ばにはすっかり忘れ去られてしまった。だが、彼女は転んでもただでは起きなかった。デビューして20年以上もコンサートを行わなかったシェイラは果敢にも単独ライブに挑み、1989年の10月にオランピア劇場で行われた引退コンサートは大盛況のうちに幕を閉じた。ここでようやく、彼女はアーティストとしての自我に目覚めたのだった。
1946年8月16日、パリ郊外に生まれたシェイラ。本名をアニー・シャンセルという。両親は地元の市場でケーキを売って生計を立てていた。学校を卒業して家業の手伝いをしていたシェイラは、その傍らで“Les
Guitares”というバンドのボーカリストを務めていた。そんな彼女を発掘したのがクロード・カレール。1962年にシングル“Avec
toi”でレコード・デビューを果たし、翌年のセカンド・シングル“L'ecole est
finie(学校は終わった)”が150万枚を売り上げるメガ・ヒットを記録した。その後も、“Le sifflet des
copains(口笛で恋しよう)”や“Le Folklore
americain(夢見るアメリカン)”などのキャッチーなアイドル・ポップスで次々とヒットを放ち、70年代に入っても“Adam et
Eve(アダムとイヴ)”のようなソフト・ロック風の爽やかなポップ・ナンバーをヒットさせた。
1976年には折からの世界的なディスコ・ブームに乗り、黒人男性3人で編成されたバック・ダンサー“B・デヴォーション”(BとはBlackのBらしい)を従えたシングル“Singin'
In The
Rain(雨に唄えば)”をシェイラ&B・デヴォーション名義でリリース。ジーン・ケリーも歌った往年の名曲のディスコ・カバーで、何と全英チャートで11位を記録するヒットになった。ちなみに、イギリスではシェイラ・B・デヴォーション、アメリカではS・B・デヴォーションとクレジットされていた。英語圏では無名に等しい存在だったとはいえ、ちょっと可哀想な扱われ方だったかもしれない。さらに、1980年にはナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズの手掛けたシングル“Spacer(スペイサー)”が再び全英18位をマークするヒットに。哀愁を帯びたメロディ・ラインが印象的な洗練されたダンス・ナンバーで、ロジャース&エドワーズ・コンビの作品の中でもベストに入る素晴らしい出来映えだった。
しかし、ディスコ・ブームも終焉を迎え、時代はニューウェーヴ・ロックやシンセ・ポップ全盛に。フランス音楽界も世代交代が著しくなり、30代後半のシェイラも次第に居場所がなくなっていった。レコードも全く売れなくなってしまい、大手レコード会社社長として多忙を極めるクロード・カレールももはやシェイラの後ろ盾になってはくれなかった。意を決した彼女は1985年の2月、7000人を収容する巨大ホールでの初コンサートに挑んだ。それまでカレールの意向で一切のライブを行った事がなかったシェイラにとって、これはキャリアの全てを賭けた一大チャレンジだった。しかし、既に過去の人になっていた彼女に巨大ホールを埋めるだけの集客力はなく、1ヶ月の予定だったコンサートは打ち切りになってしまった。
その後も全くヒットに恵まれなかったシェイラは、遂にレコード契約を失ってしまう。恩師カレールからも見放されてしまったシェイラは、心労のため体重が45キロにまで減ってしまったという。1988年にレコード会社を移籍して4年ぶりのアルバム“Tendances”をリリースしたシェイラは、1989年遂に引退を決意する。引退記念コンサートの会場として彼女が選んだのは、フランス音楽界の殿堂オランピア劇場。彼女の最後の晴れ舞台を見届けようと詰めかけたファンで、会場は連日満員の大盛況。音楽人生の集大成となったコンサートは、涙のうちに幕を閉じた。
その後、仏教や東洋思想に傾倒したシェイラは文筆家として第2の人生を歩み始める。処女作がベストセラーを記録し、次々と著書を発表。さらに、90年代半ばに彼女のベスト盤が次々とリリースされ、“スペイサー”のリミックス盤がクラブを中心に大ヒットを記録するなど、徐々にシェイラのリバイバル・ブームが盛り上がっていった。そうした変化を受けて、彼女は1998年9月オランピア劇場にてカムバック・コンサートを行う。これが大好評で、そのまま全国ツアーを敢行。99年にはアルバム“Dense”でレコーディング・アーティストとしても本格的な復活を遂げた。このアルバム自体はセールス的に伸びなかったが、ライブは相変わらず人気が高く、今やオランピア劇場の常連アーティストである。また、ゲイの間でも大変な人気で、パリの有名なゲイ・ディスコでライブを行ったこともある。昨年から今年にかけては過去のアルバムがCDで次々とリイシューされており、18枚組のCDボックス・セットまで発売されている。かつてのイエ・イエ・ガールは、今やフランスを代表するポップ・アイコンとなったのだ。
“Le sifflet des copains”のテレビ映像 ココ で見れます!(超イェイェ!)
“Ne
fais pas tanguer le bateau”のテレビ映像 ココ で見れます!(名曲!)
“Spacer”のプロモ・クリップ ココ で見れます!
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Sheila (1963) |
Ne fais pas tanguer le bateau (1975) |
Love Me Baby (1977) |
King Of The World (1980) |
(P)2006 Warner Music (France) | (P)2006 Warner Music (France) | (P)2006 Warner Music (France) | (P)2006 Warner Music (France) |
1,Le
sifflet des copains 2,Ouki Kouki (Kookie OOkie) 3,Cette annee-la 4,Chante chante chante (sing) 5,Papa t'es plus dans le coup 6,Viens danse le Hully Gully 7,Sheila 8,L'ecole est finie 9,Pendant les vacances (A I Have To Do Is Dream) 10,Ne raccroche pas (Don't Hang Up) 11,Premiere surprise-partie 12,Le ranch de mes reves (Hotel Happiness) 13,La vie est belle (Killer Joe) 14,Le sifflet des copains (version stereo) 15,Ouki Kouki (version stereo) 16,Cette annee-la (version stereo) 17,Chante chante chante (version stereo) 18,Papa t'es plus dans le coup (version stereo) 19,Viens danser le Hully Gully (version stereo) 20,Sheila (version stereo) 21,L'ecole est fine (version stereo) 22,Pendant les vacances (version stereo) 23,Ne raccroche pas (version stereo) 24,Premiere surprise-partie (version stereo) 25,La ranch de mes reves (version stereo) 26,La vie est belle (version stereo) 27,Viens danser le Hully Gully (version 45trs) 28,Ouki Kouki (version 45trs) 29,Cette annee-la (version du film) |
1,Ne fais
pas tanguer le bateau 2,Les rois mages 3,Le mari de mama 4,Le couple 5,Coeur blesse 6,Melancolie 7,Poupee de porcelaine 8,Oncle Jo 9,Samson et Dalida 10,Le kilt 11,Les gondoles a Venise 12,Adam et Eve 13,Dalila 14,L'Olympia 15,Quand une fille aime un garcon 16,Blancs jaunes rouges noirs 17,Une femme 18,Arlequin 19,Trinidad 20,Oh! Marie Maria |
1,Singin'
In The Rain 2,Shake Me 3,Kiss Me Sweetie 4,I Don't Need A Doctor 5,Love Me Baby 6,Instrumental S.B. 7,Move It |
1,Spacer 2,Mayday 3,Charge Plates & Credit Cards 4,Misery 5,King Of The World 6,Cover Girls 7,Your Love Is Good 8,Don't Go 9,Your Love Is Good (Original US 12" Promo) 10,Spacer (Lost In Space Mix) 11,Spacer (Lost In Space Dub Mix) 12,Spacer (Down To Earth Mix) 13,Spacer (Remix Radio Edit) 14,Spacer (DMC Remix) produced by Nile Rodgers & Bernard Edwards. #10-14 remixed by Dimitri from Paris |
シェイラの記念すべきファースト・アルバム。アメリカン・ポップスのカバーを織り交ぜつつも、キャッチーで愛らしいオリジナル・ナンバーが盛りだくさん。個人的には#8が特にお気に入り。聴いてるだけで何だかウキウキとしてくる、ハッピーで爽やかなフレンチ・ポップの大傑作です。ガールズ・ポップス・ファンなら絶対にゲットすべし。このCDは、ボーナス・トラックとしてステレオ・バージョンやシングル・バージョンを大量収録してます。 | 1975年にリリースされたベスト盤のCD化。67年〜74年までのヒット曲を一通り網羅した内容になってます。この頃にはイエ・イエからすっかり脱却し、ソフト・ロック色の濃厚な正統派フレンチ・ポップスを存分に聴かせてくれます。シルヴィー・ヴァルタンの「あなたのとりこ」辺りが好きな人だったら一発でノックアウトされること必至。#1のキラキラ感や#4のメロウ感、#6のアフロなグルーヴ感、そして#12の爽快感など、どれも最高。大好きな1枚です。 | 全曲英語による、シェイラ初のディスコ・アルバム。大ヒットしたシングル#1は7分以上にも及ぶ大作。とはいえ、個人的にはちょっと軽すぎるんですよね〜。良い意味でも悪い意味でも典型的なユーロ・ディスコ。セカンド・シングルとなった#5も同じく。ダンサンブルではあってもグルーヴ感に乏しいんですよ。唯一、サード・シングルとなった#3がソウルフルでファンキーな仕上がり。全体的には及第点なアルバムです。 | シックのナイル・ロジャース&バーナード・エドワーズと組んだ作品。シングル・カットされた#1は、彼らの最高傑作の一つと呼んでも過言ではない素晴らしい出来映え。メロウでスタイリッシュなファンキー・ディスコの傑作です。デヴィッド・ボウイは、この曲を聴いてロジャーズ&エドワーズと組んで“レッツ・ダンス”をレコーディングしたそう。ただ、その他の作品は可もなく不可もなく。この再発CDには、98年のリミックス・バージョンがオマケで収録されてます。 |
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Spacer (1979) |
Tendance (1988) |
Dense (1999) |
(P)1979 Carrere (UK) | (P)2006 Warner Music (France) | (P)1999 EMI Music (France) |
Side
One Spacer (Full Length Disco Version) Side Two Don't Go produced by Nile Rodgers & Bernard Edwards |
1,Le
tam-tam du vent 2,Pour te retrouver 3,Fragile 4,Le dieu de Murphy 5,Okinawa 6,Partir 7,Donnant donnant 8,Mr Vincent 9,Mexico 10,Le vieil homme et la mer 11,Le tam-tam du vent (Version single) 12,Le tam-tam du vent (Version maxi) produced by Yvet Martin |
1,Dense 2,Se laisser danser 3,Le tour de la terre 4,L'amour en hiver 5,Self Control (version francaise) 6,Pop Art 7,Love Will Keep Us Together 8,Sur un fil 9,Tu sais 10,Confidences 11,Dans le regard des gens 12,Self Control (version anglaise) produced by Yvet Martin |
こちらが、その“スペイサー”のUK盤オリジナル12インチ・シングル。といっても、中身はアルバム・バージョンと同じなんですけどね。それでも6分近くあります。ただ、ブレイクビーツが殆どない上に、フェイド・アウトで終わってしまうので、DJ的には使いづらそう。 | クロード・カレールの元を離れて制作されたアルバム。シングル・カットされた#1はディディエ・バルベリヴィエンが作曲を手掛けています。これを最後に引退宣言をしたわけですが、全体的に地味な印象のポップ・アルバムです。この時期のフレンチ・ポップス自体が、あまり魅力的ではなかったんですけどね。#5では沖縄を歌っていますが、日本文化と琉球文化の区別がついていない様子。まあ、仕方ないか。 | こちらはカムバック・アルバム。若い世代へのアピールを狙ってか、ハウスやヒップ・ホップ、レゲエの要素を盛り込んだダンサンブルな作品に仕上がっています。とはいえ、ローラ・ブラニガンの「セルフ・コントロール」をカバーしたりする辺りのセンスは非常に微妙。#3は完全にエイス・オブ・ベイスを意識してますね。予想外に売れなかったようですが、それも無理はないでしょう。中途半端なダンス・ポップ・アルバムです。 |
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Sheila | |
(P)2001 Warner Music (France) | |
CD
1 1,Sheila 2,L'ecole est fine 3,Premiere surprise-partie 4,Le sifflet des copains 5,Ecoute ce disque 6,Vous les copains 7,Le folklore americain 8,Bang Bang 9,L'heure de la sortie 10,La famille 11,Adios Amor 12,Petite fille de Francais moyen 13,Reviens je t'aime 14,Les Rois Mages 15,Samson et Dalida 16,Poupee de porcelaine 17,Adam et Eve 18,Le couple 19,Tu es le soleil 20,Ne fais pas tanguer le bataeu 21,C'est le coeur 22,Aimer avant de mourir 23,Quel temperament de feu 24,Un prince en exil |
CD
2 1,Patrick mon cheri 2,L'arche de Noe 3,Love Me Baby 4,Singin' In The Rain 5,You Light My Fire 6,Kennedy Airport 7,Seven Lonely Days 8,Spacer 9,Pilote sur les ondes 10,Little Darlin' 11,La tendresse d'un homme 12,Glori Gloria 13,Tangue au 14,Emmenez-moi 15,Film a l'envers 16,Je suis comme toi 17,Comme aujourd'hui 18,Pour te retrouver 19,Le Tam Tam du vent 20,Dense |
シェイラの代表作の殆どが手に入る究極の2枚組ベスト。1枚目はデビュー当時から70年代半ばまでのシングルを全て網羅しています。楽曲の充実度という点では、この時期が最高でしょう。本当、これぞフレンチ・ポップス!といった感じの名曲が目白押し。ノスタルジックで甘酸っぱくてポップな作品ばかりです。全曲オススメ!ちなみに、#21はキャロル・ダグラスの「恋の診断書」のカバーです。これがまたキュート! | こちらは76年以降のシングルを全て網羅した2枚目。いわゆるディスコ時代をメインにした選曲です。異色なのはゲンズブール&バーキンの「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」をパクった#1。よりドリーミーで乙女チックな仕上がりがグッドです。#7はエイミー・スチュワートの「ノック・オン・ウッド」の明らかなパクり。ブロンディの「コール・ミー」にもソックリなのが興味深いですね。 |