セブンデイズ
Seven Days
(2007)
2009年7月11日よりロードショー
『シュリ』(99)で北朝鮮から来た女スパイの悲哀を熱演して高く評価され、アメリカの人気ドラマ『LOST』(04〜)の韓国人女性サン役で世界的な知名度を高めた女優キム・ユンジン。彼女が『LOST』シーズン3の撮影終了直後に韓国で主演し、第45回大鐘賞最優秀主演女優賞を獲得した作品が、この『セブンデイズ』である。
主人公は女性弁護士ユ・ジヨン。勝率100%を誇り、どんな依頼人でも必ず無罪を勝ち取るという辣腕弁護士だ。そんな彼女の8歳になる娘が何者かによって誘拐される。解放の条件は、ある殺人事件で起訴されている容疑者の無罪を勝ち取ること。しかし、次の第二審まで残された時間はごく僅かだ。
独自に事件の洗い直しを始めたジヨンだが、調べれば調べるほど被告人の容疑は深まっていく。また、殺された女性にも他人には言えないような裏の顔があり、捜査を進めることによってジヨンは彼女の名誉を傷つけねばならなくなる。
それゆえに、被害者の母親と対峙したジヨンは、同じ母親として複雑な思いを禁じえない。果たして容疑者は本当に無罪なのか?そもそも娘を誘拐した犯人の目的とは?そして、ジヨンは最愛の娘を無事に救い出すことが出来るのか・・・?
一方、ジヨンの幼馴染みであるはみ出し者の刑事キム・ソンヨルが捜査に協力し、誘拐犯の足どりを追う。しかし、犯人は神出鬼没で抜け目がない。さらに、殺人事件に関わる第2の容疑者が浮上。ここから、事態は検事局の政治的な陰謀が絡むこととなり、ジヨンは部長検事や暴力団をも敵に回して闘わねばならなくなる。
幾重にもレイヤーを重ねたプロット、謎が謎を呼ぶスリリングな展開、スピーディでテンポの早い演出と、とにかくサスペンスとしては十分に合格点の内容。ジャンプカットやスナップズームなどを多用した映像処理がゴチャゴチャする嫌いはあるし、登場人物が多いので油断していると混乱してしまう恐れはあるものの、これだけ入り組んだストーリーを破綻することなく最後まで見せきってしまう演出の手腕と脚本の妙技は見事だ。
また、ヒロインが決してスーパーウーマンなどではなく、自分の手に負えない巨大な壁と弁護士としての倫理観を目前に突きつけられ、娘の命を諦めなくてはならない状況へ追い込まれるという展開にも説得力がある。これがハリウッド映画ならば、アンジェリーナ・ジョリーがピストル片手にカンフー技で悪人を蹴散らし、派手なアクションで事件を丸く治めてしまうところだろう。
そして、最後に明かされる誘拐犯の素顔と目的。その思わぬ落とし穴に、誰もがなるほど!と納得させられるはずだ。既にハリウッドでのリメイクも決まっているらしいが、確かにこれだけ巧みに計算された脚本は滅多にお目にかかれないだろう。
ただ、話の展開があまりにも早いので、最後までドキドキハラハラさせられる割には、意外とアッサリした印象が残るということも事実。ひとまず母性愛と倫理観という二つのテーマが主軸として貫かれているものの、サブプロットとして描かれる権力の陰謀や汚職、現代社会の腐敗したモラルといった要素を膨らましきれなかったのはちょっと残念だ。サスペンスに謎解きの面白さ以上のものを求めてしまうのは、やはり贅沢といういうべきなのだろうか。
いずれにせよ、2時間5分という上映時間を存分に楽しませてくれる映画であることは間違いない。サスペンスというのは安易に量産されやすいジャンルであり、既にネタの出尽くした感があることは否めないが、この『セブンデイズ』は作り手のアイディアと工夫次第でまだまだ開拓の余地が残されているということを再認識させてくれる作品だ。
木曜日。有能な女性弁護士ユ・ジヨン(キム・ユンジン)は、悪名高い暴力団の親分ヤン・チャング(オ・グァンノク)の弁護で無罪を勝ち取り、マスコミからの注目を集めている。これまで勝率100%を誇る彼女は、韓国法曹界の花形弁護士として名を知られた存在だ。
そんな彼女も私生活では一児の母。シングル・マザーとして8歳になる一人娘ウニョン(イ・ラヘ)を育てている。仕事が忙しいことから普段は滅多に娘を構ってあげることができないジヨンは、裁判がひと段落したことから、たまには母親らしいことをしようと学校の運動会に参加した。ところが、その最中にウニョンが姿を消してしまう。ウニョンは何者かによって誘拐されたのだ。
金曜日。警察に通報したジヨンは犯人からの連絡を待つ。身代金目的の誘拐かと思われたが、電話で接触してきた犯人からの要求は意外なものだった。“身代金を渡すふりをして警察の車をまけ”というのだ。
犯人の指示通りに身代金を用意し、指定された場所へと向うジヨン。当然、警察は彼女の車を尾行する。しかし、その途中でジヨンは車を暴走させ、警察の尾行を振り切ろうとした。だが、スピード違反を取り締まろうとした交通警察に邪魔をされてしまう。
それでも、なんとか警察の追跡を振り払ったジヨンだったが、犯人から携帯電話にかかってきたメッセージは“取引終了”という冷淡なものだった。娘を救出する手がかりを失ったジヨンは途方に暮れる。
土曜日。犯人から“最後のチャンスをやろう”という連絡が入る。その要求は、次の水曜日に第二審が開かれる殺人事件の裁判で、被告人の無罪を勝ち取るというもの。警察に知らせたら今度こそ娘の命はない。そこで、ジヨンは幼馴染みの刑事キム・ソンヨル(パク・ヒスン)に協力を求めた。彼は汚職疑惑から警察内部で孤立している一匹狼で、組織のルールに囚われない型破りな男だ。
その一方で、ジヨンは田舎の実家で娘が発見されたと虚偽報告をし、警察の目をごまかそうとする。しかし、ウニョン救出の確認が取れない刑事たちはその言葉を鵜呑みには出来ず、ジヨンの近辺の監視を続ける。警察の存在を誘拐犯に気付かれたくないジヨンは、内心穏やかではない。
日曜日。ジヨンは殺人事件の被告チョン・チョルチン(チェ・ミョンス)と接見する。彼は過去に婦女暴行などで有罪判決を受けており、誰の目から見ても真犯人である可能性が濃厚だ。今度有罪になったら死刑は逃れられないと知っているチョルチンは、弁護士を変える事に真っ向から反対する。
月曜日。ジヨンが辣腕弁護士であることを知ったチョルチンが、弁護人の変更に同意した。ソンヨルと共に事件の洗い直しを始めたジヨンは、殺人が顔見知りによる犯行であることに気付く。被害者はヘジンという若い女学生。チョルチンは物取り目的でヘジンの部屋に侵入しており、彼女とは面識がなかった。しかも、彼が侵入した時点でヘジンは既に殺されていたというのだ。
さらに、事件当時ヘジンが麻薬を吸引していたこと、殺人の凶器が発見されていないことなどが明るみになる。ジヨンとソンヨルは偽名を使い、ヘジンの母親ハン・スッキ(キム・ミスク)と接触した。最愛の一人娘を失ったシングル・マザーというスッキの境遇にジヨンは現在の自分を重ね合わせ、真犯人かもしれない男を無罪にしようと奔走する自分の行動に疑問と戸惑いを感じる。
火曜日。殺人事件の現場に居合わせた可能性のある人物が浮上する。カン・ジウォン(ヤン・ジヌ)というアメリカ帰りの若者で、ヘジンのボーイフレンドの一人だった。しかも、薬物中毒で入院しており、その言動は凶暴性が高い。一方、誘拐犯からウニョンがアレルギーの発作を起こしたとの連絡が入り、ジヨンは指定された場所へ薬を届ける。娘の安否を気遣うジヨンは、精神的にギリギリまで追いつめられていた。
水曜日。裁判の第二審が開廷した。被害者へジンの他人には知られたくない裏の顔を暴き、顔見知りの犯行であることを強調するジヨン。娘を救うためとはいえ、ヘジンの母スッキを目の前にして彼女の心は揺れていた。ところが、チョルチンとヘジンが顔見知りだったことが検察側証人の証言で明らかとなり、ジヨンの弁護方針はあっさりと覆されてしまう。
タイムリミットを目前にして焦るジヨン。しかも、彼女が事件の真相を知る鍵と睨んだジウォンは、実は検事局の部長検事カン・サンマン(チョン・ドンファン)の一人息子だった。政界進出を狙っているサンマンにとって、身内のスキャンダルは絶対にあってはならない。そこで、彼は息子ジウォンの関与をもみ消し、真相究明をはかるジヨンを抹殺するよう暴力団の親分ヤン・チャングに命じる・・・。
監督・脚色は日本でも公開された韓流ホラー『鬘 かつら』(05)で知られるウォン・シニョン。もともとスタントマンだったという異色の経歴の持ち主だ。近年の韓国のホラーやサスペンスというのはハリウッド映画『セブン』から多大な影響を受けているように感じるが、本作におけるウォン・シニョン監督の演出もデヴィッド・フィンチャーをかなり意識していると見受けられる。スピーディーで複雑な編集にはトニー・スコット作品を彷彿とさせるものもあり、やはりハリウッドへの対抗意識というのは根底に根強くあるのだろう。
主人公ユ・ジヨンを演じるキム・ユンジンは見事なはまり役。表向きは才色兼備の敏腕弁護士だが、その反面母親としては及第点。弁護士としての倫理観よりも結果を重視するなど、人間としては欠陥だらけという“平凡”な女性を嫌味なく演じて上手い。そんな彼女が極限状態に置かれることにより、社会正義と母性愛に目覚めていく過程は誰もが強く共感できるはずだ。
一方、型破りなはみ出し者刑事ソンヨル役のパク・ヒスンもユニーク。清廉潔白とはほど遠いような熱血刑事を生々しく演じており、いつの間にかその人間的魅力にグイグイと引き込まれていく。また、物静かで清楚なヘジンの母ハン・スッキを演じるベテラン女優キム・ミスクの存在感も、作品全体の重要なポイントとなっていく。
その他、日本でも人気の高いイケメン俳優ヤン・ジヌが麻薬中毒のジウォン役を、日本の映画やドラマへの出演経験もあるベテラン俳優チョン・ドンファンがカン・サンマン部長検事を、日本でも話題になった映画『王の男』(06)で王の忠実な側近チョソン役を演じていた老優チャン・ハンソンが弁護士事務所の所長役を演じている。
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