連続活劇映画セレクション
PART 1

 

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 連続活劇映画とはその名の通り、連続ドラマ形式で上映される活劇映画のこと。英語ではSerial(シリアル)という。サイレント映画の時代に誕生し、主に1930〜40年代に黄金時代を迎えたジャンルだ。1タイトルにつき12〜15話で構成されており、1話の上映時間はだいたい17〜20分くらい。映画館では1日1話を繰り返し上映し、1週間で次のエピソードへと進む。つまり、現在の連続テレビ・ドラマのご先祖様みたいなものだったと言えるだろう。中にはサタデー・マチネーと称し、毎週土曜日の昼間に通常の劇映画2本と短編アニメーション1本に加え、連続活劇映画の1話をセットで上映する映画館もあったようだ。
 最初の連続活劇映画はエディソン社の製作したサイレント映画“What Happened to Mary”(12)だと言われている。しかし、やはり連続活劇映画の元祖と言うべきは、パール・ホワイト嬢主演による『ポーリンの危機』(14)であろう。お転婆な富豪令嬢ポーリンの冒険活劇を描いたこの作品は当時大人気を博し、パール・ホワイトは一躍“連続活劇の女王”に。続く『エレーヌ物語』(15)も大変な評判となった。
 その後、トーキーの時代を迎えると連続活劇映画の人気も一層高まっていく。そのきっかけとなったのは、人気SFコミックをユニバーサルが実写映画化した『フラッシュ・ゴードン スペース・ソルジャーズ』(36)。これは連続活劇映画として初めてブロードウェイの一流映画館で上映され、驚異的な大ヒットを記録した。
 また、当時発足したばかりのリパブリック映画が“Dick Tracy”(37)や“Zorro Rides Again”(37)、“Drums of Fu Manchi”(40)、“Adventures of Captain Marvel”(41)などのヒット作を連発。コロムビア映画も“The Green Archer”(40)や“The Shadow”(40)などでブームに参戦し、この3社が市場をほぼ独占する状態となった。
 しかし、50年代に入ってテレビが一般家庭に普及し、連続テレビ・ドラマが人気を集めるようになると、当然のことながら連続活劇映画は映画館から姿を消してしまう。

 連続活劇映画の基本的なフォーマットは、オーソドックスな勧善懲悪のヒーロー・アクション。各エピソードの最後では主人公が絶体絶命の危機に陥り、果たしてその運命やいかに!?ってな調子で次のエピソードへ繋がるというクリフハンガー形式がお約束だった。
 ジャンルは西部劇を中心にSF物や探偵物、冒険物、スパイ物、歴史物など多岐に渡るが、いずれもドキドキワクワクするようなアクションやスペクタクルが見どころ。必ず主人公の相手役として美人のヒロインが登場するものの、恋愛描写などは総じて希薄だ。単純で分かりやすいストーリーも含めて、主なターゲットが子供や若年層であったことがその理由として挙げられよう。
 それゆえに荒唐無稽でご都合主義な内容のものが圧倒的に多く、今見るとかなり滑稽に感じられる作品も少なくない。どれもギリギリの低予算で作られていたことから、セットや特殊効果などは概ねチープ。無名の若手俳優や地味な脇役俳優を使うことが多いため、役者の演技も決して上出来とは言いがたい。
 とはいえ、古き良き時代の素朴なスリルとアクションには、現代の複雑で洗練されたアクション映画にはない独特の魅力と面白さがあると言えよう。ちょうど、誰もが少年時代に読んだことのある子供向け冒険小説のような味わいだ。
 スピルバーグは『インディ・ジョーンズ』シリーズで連続活劇映画の要素をふんだんに盛り込んでいるが、恐らく多くのアメリカ人にとっては郷愁を誘うようなジャンルなのだろう。悪と戦うヒーローの活躍に胸をときめかせていた60年以上前の少年たちに思いを馳せながら鑑賞するのも、また一興だ。

 

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ハリケーン・エキスプレス
The Hurricane Express (1932)

日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2004 TreeLine Films (USA)
画質★☆☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/227分/製作:アメリカ

映像特典
なし
監督:アーマンド・シェイファー
   J・P・マッゴーワン
製作:ナット・レヴィン
原案:コルバート・クラーク
   バーニー・サレッキー
   ウィンダム・ギテンス
脚色:ウィンダム・ギテンス
   コルバート・クラーク
   バーニー・サレッキー
   ハロルド・ターシス
   ジョージ・モーガン
   J・P・マッゴーワン
撮影:アーネスト・ミラー
   カール・ウェスター
出演:ジョン・ウェイン
   シャーリー・グレイ
   タリー・マーシャル
   コンウェイ・タール
   J・ファレル・マクドナルド
   マシュー・ベッツ
   ロイド・ホイットロック
   エドマンド・ブリース
   グレン・ストレンジ
第1話“The Wrecker”
第2話“Flying Pirates”
第3話“The Masked Menace”
第4話“Buried Alive”
第5話“Danger Lights”
第6話“The Airport Mystery”
第7話“Sealed Lips”
第8話“Outside the Law”
第9話“The Invisible Enemy”
第10話“The Wrecker's Secret”
第11話“Wings of Death”
第12話“Unmasked”

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ラリー(J・ウェイン)と父親ジム(J・F・マクドナルド)

世間の注目を集める特急ハリケーン・エクスプレス

衝突目前の列車をグロリア(S・グレイ)が発見する

 こちらは、まだ黄金期を迎える以前に製作された連続活劇映画。当時は世界的な大恐慌の真っ只中で、サイレント時代から連続活劇映画を作ってきた中小の制作会社は軒並み倒産してしまった。つまり、連続活劇映画にとってはどん底の時代だったわけである。
 そうした中で、唯一気を吐いていたのが、本作を製作したマスコット映画。サイレント末期から数多くの連続活劇映画を世に送り出してきたインディペンデント・スタジオだ。史上初のトーキー連続活劇(正確にはパート・トーキー)“The King of the Kongo”(29)で大当たりを取り、当時はまだ無名だったジョン・ウェインやジーン・オートリーを積極的に売り出した。連続活劇のみならず低予算のB級西部劇も数多く製作し、いわゆる“歌うカウボーイ”と呼ばれる西部劇ミュージカルのジャンルを生み出したのもマスコット映画だったらしい。
 本作はそんなマスコット映画の、“金はないけどやる気とアイディアは人一倍”という姿勢を十二分に感じさせてくれる意欲作。脚本は正直なところ子供だましだが、手に汗を握る大掛かりなスタントや特撮シーンはスリル満点だ。特に、ジョン・ウェインが自らスタントマンなしで演じる命がけのアクション・シーンは必見。走行中の車から機関車に飛び乗るなど、ジャッキー・チェンばりの大活躍を繰り広げてくれる。
 ストーリーは至って単純。特急機関車“ハリケーン・エキスプレス”の運ぶ金塊を巡って、“レッカー(略奪者)”と名乗る悪党が暗躍。レッカーに父親を殺された若きパイロット、ラリー(ジョン・ウェイン)が、恋人のグロリアらの協力を得ながら、レッカー一味を一網打尽にしていくというわけだ。
 面白いのは、このレッカーなる首謀者が神出鬼没の変装名人ということ。ラリーを含めた様々な登場人物たちに変装してなりすまし、その陰謀を食い止めようと奔走する人々を撹乱していく。毎回、現場に変装マスクを脱ぎ捨てていき、主人公たちは騙されたことに気付くのである。
 各エピソードのクリフハンガーもバラエティ豊かで迫力十分。ただ、そりゃないだろう!?という騙まし討ち的などんでん返しが少なくないのは、この種の低予算映画にありがちなご都合主義とも言える。いずれにせよ、細かい理屈など気にせずに楽しみたい作品だ。
 ちなみに、マスコット映画はこの3年後に他の中小スタジオと経営統合し、新たにリパブリック映画として再出発。連続活劇映画の黄金期を華やかに彩っていくこととなる。

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父を助けようと分岐器を操作するラリーだったが

父ジムは衝突事故で死んでしまう

前社長ストラットン(E・ブリース)はグロリアの父だった

 鉄道会社L&Rは特急機関車ハリケーン・エキスプレスを開発導入し、世間の大きな注目を集めていた。若き航空パイロット、ラリー・ベイカー(ジョン・ウェイン)の父ジム(J・ファレル・マクドナルド)は、そのハリケーン・エキスプレスの機関士に任命されて鼻高々だ。
 そんなある日、ラリーの操縦するプロペラ機に搭乗した恋人グロリア・マーティン(シャーリー・グレイ)は、ハリケーン・エキスプレスと通常の蒸気機関車が今にも衝突しそうであることを上空から見ていて気付く。何者かが蒸気機関車の機関士を襲って気絶させ、進行方向を変えてしまったのだ。
 ラリーは管制塔にいる上司グレイ(ロイド・ホイットロック)の警告を無視して荒野に強行着陸し、父を助けるべくレールの分岐器を操作しようとするが、あと一歩のところで間に合わなかった。父ジムは無残にも死亡。相手の機関車が何者かによってジャックされていたことを知ったラリーは、父の仇をとるべく復讐を誓う。
 しかし、グレイの警告を無視したことからラリーは航空会社をクビに。鉄道会社の重役エドワーズ(タリー・マーシャル)と弁護士スティーヴンス(コンウェイ・タール)は、そのグレイを含む数人の容疑者を割り出していた。実は、このところL&Rでは不可解な事故が相次いでおり、レッカーと名乗る正体不明の犯罪者がその影で暗躍していた。エドワーズは、中でもかつて横領の容疑で逮捕され、つい先ごろ刑務所から脱獄した前社長ストラットン(エドマンド・ブリース)が怪しいと睨む。
 今度のハリケーン・エキスプレスは会社の財産である金塊を運ぶ。レッカーに狙われる可能性が高いと考えたエドワーズは、内部の調査員を密かに潜入させることにした。一方、鉄道の周辺を調べていたラリーは、駅のオペレーターが何者かによって縛り上げられているのを発見。その証言から、レッカーの手下たちがハリケーン・エキスプレスに潜り込んでいることを知る。
 急いで車を走らせ、走行中のハリケーン・エキスプレスに飛び乗ったラリー。車内では車掌に変装したレッカーとその手下たちが、エキスプレスをジャックすべく動き出していた。その企みを阻止しようと一味を追いつめるラリーだったが、変装道具を脱ぎ捨てたレッカーは接近してきたプロペラ機に飛び乗って逃げてしまう。
 この騒動でハリケーン・エキスプレスは一時停車。すると、何者かが車両の連結部分を外し、先頭車両だけが走り出してしまった。急いで飛び乗るラリー。先頭車両を運転していたのはストラットンだった。彼は自らの無実を証明するために、レッカーから金塊を守ろうとしていたのだ。しかも、驚くべきことにグロリアはストラットンの娘だった。
 ラリーはストラットンとグロリアと共に、金塊を安全な場所に隠そうとする。しかし、レッカー一味のプロペラ機が車両を空から襲う。間一髪で逃げ出した3人は、レッカー一味がプロペラ機に金塊を運び込んだのを確認し、そのままプロペラ機をジャック。ラリーの運転で大空へ逃げ延びたまでは良かったが、レッカー一味の機関銃によって機体が損傷し、プロペラ機は山腹へと激突してしまう。
 直前にパラシュートで脱出した3人は、金塊を安全な場所に隠すために奔走。一方、その金塊を狙うレッカーはグレイやエドワーズなど様々な人物に変装し、あの手この手を使って警察やエドワーズの追っ手を巻いて、ラリーたちを追いつめようとする。果たして、レッカーの正体とは何者なのか・・・!?

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レッカー一味がエキスプレスに乗り込んだと知ったラリー

ラリーは走行中の自動車から列車へ飛び乗る

変装道具を残して逃げ去る悪党レッカー

 監督はマスコット映画の連続活劇を数多く手掛けたアーマンド・シェイファーとJ・P・マッゴーワン。中でもマッゴーワンは全119話という壮大なスケールのサイレント連続活劇“The Hazards of Helen”(14)の監督として有名な人物で、しかも鉄道を題材にした作品を幾つも手掛けていた。約28年の映画人生で131本の作品を監督し、俳優としても180本以上の作品に出演したという根っからの映画屋だったようだ。
 コルバート・クラーク以下、原案と脚本を手掛けた面々は、いずれも当時マスコット映画で数多くの連続活劇を書いていた脚本家たち。クラークは後にコロムビア映画のプロデューサーとなり、数多くのB級西部劇を世に送り出した。
 撮影監督のアーネスト・ミラーは、マッジ・エヴァンス主演のロマンティック・コメディ“Army Girl”(38)でオスカーにノミネートされたカメラマン。サミュエル・フラー監督の『地獄の挑戦』(49)などB級西部劇も数多く手掛け、晩年はテレビの人気西部劇ドラマ『ガンスモーク』にも参加していた。もう一人の撮影監督カール・ウェスターは、当時マスコット映画やRKO映画でカメラ・オペレーターを務めていた人物だったようだ。
 なお、本作はハリウッド西部劇のロケ場所としてお馴染みのブロンソン・キャニオンとサン・フェルナンド・ヴァレーで撮影されている。

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金塊を載せたプロペラ機をジャックしたラリーたち

レッカー一味の銃弾がプロペラ機に命中する

山腹へと墜落したプロペラ機

 主人公ラリーを演じているのは、当時まだ25歳だったジョン・ウェイン。大作『ビッグ・トレイル』(30)の主演で売り出されるも全く芽が出ず、低予算のB級西部劇で何とか食いつないでいた時代だった。マスコット映画での連続活劇は、『鷲の影の秘密』(32)に続いてこれが2作目。自ら命がけのスタントまでこなし、不器用ではあるが若さ溢れる快活な演技を見せてくれる。
 その恋人グロリア役を演じているシャーリー・グレイは、当時MGMの短編部門専属だった美人女優。コロムビアやRKOなど各社に貸し出され、主に低予算のB級西部劇やアクション映画の色添えとして活躍していた。
 鉄道会社L&Rの重役エドワーズを演じているのは、サイレント時代に巨匠D・W・グリフィス作品の常連として活躍した名優タリー・マーシャル。その右腕である弁護士スティーヴンスを演じているコンウェイ・タールも、主にサイレント映画で活躍したスターだった。
 その他、サイレント時代の人気スターで映画監督としても有名だったJ・ファレル・マクドナルド、20世紀初頭にシェイクスピア俳優として活躍した名優エドマンド・ブリースなどの大ベテランが脇を固めている。また、後にユニバーサル・ホラーの4代目フランケンシュタイン俳優として有名になるグレン・ストレンジが、レッカーの手下の一人として顔を出しているのにも注目したい。

 

 

Drums of Fu Manchu (1940)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 VCI Entertainment (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:
ALL/269分/製作:アメリカ

映像特典
専門家によるビデオ解説
フォト・ギャラリー
キャスト・バイオグラフィー
監督:ウィリアム・ウィットニー
   ジョン・イングリッシュ
製作:ハイラム・S・ブラウン・ジュニア
原作:サックス・ローマー
脚本:フランクリン・アドレオン
   モーガン・B・コックス
   ロナルド・デヴィッドソン
   ノーマン・S・ホール
   バーニー・A・サレッキー
   ソル・ショア
撮影:ウィリアム・ノーブルス
出演:ヘンリー・ブランドン
   ウィリアム・ロイル
   ロバート・ケラード
   グロリア・フランクリン
   オラフ・ハイッテン
   トム・チャタートン
   ルアナ・ウォルターズ
   ドワイト・フライ
第1話“Fu Manchu Strikes”
第2話“The Monster”
第3話“Ransom In The Sky”
第4話“The Pendulum Of Doom”
第5話“The House Of Terror”
第6話“Death Dials A Number”
第7話“Vengeance Of The Si Fan”
第8話“Danger Trail”
第9話“The Crystal Of Death”
第10話“Drums Of Doom”
第11話“The Tomb Of Genghis Khan”
第12話“Fire Of Vengeance”
第13話“The Devil's Tatoo”
第14話“Satan's Surgeon”
第15話“Revolt”

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中国人の悪党フー・マンチュー(H・ブランドン)

ネイランド・スミス捜査官(W・ロイル)

アメリカ人の若者アラン(R・ケラード)

 モノグラム映画を中心に、マスコット映画、チェスターフィールド映画、インビジブル映画という低予算専門のインディペンデント会社が合併して、1935年に設立されたリパブリック映画。『硫黄島の砂』(49)や『リオ・グランデの砦』(50)、『静かなる男』(52)といったジョン・ウェイン主演の名作を世に送り出し、オーソン・ウェルズの『マクベス』(48)やニコラス・レイの『大砂塵』(54)などのカルト映画を配給したハリウッド黄金期の中堅スタジオだ。
 その一方で、マスコット映画の製作部門を引き継いだことから連続活劇映画の分野でも数多くの秀作を残しており、特にその初期は連続活劇の第一人者的スタジオとして名を馳せた。
 リパブリック映画の連続活劇の特徴は、人気コミックやパルプ小説を原作としたインパクトの強いヒーロー・キャラクターと、卓越したスタントマンを総動員して撮影されたアクション・シーンの迫力にある。特に、ディック・トレイシーやキャプテン・マーベル、キャプテン・アメリカといった子供たちの大好きなキャラクターは、リパブリック映画の十八番だったと言えよう。
 そんなリパブリック映画の連続活劇の中でも、特に傑作として名高い作品がこの“Drums Of Fu Manchu”である。原作はイギリスの作家サックス・ローマーが39年に発表した同名小説。1912年から60年以上に渡って続いた人気パルプ小説“フー・マンチュー”シリーズの一つだ。
 主人公は中国人の悪党フー・マンチュー。西洋人を中心とした世界の支配体制を破壊し、東洋人による世界征服を目論む冷酷非道な人物だ。その背景には、当時急速に国際的な支配力を伸ばし、西洋人にとって大きな脅威となりつつあった日本人に対する危機感があったと言われる。
 このフー・マンチューと宿敵であるスコットランド・ヤード捜査官ネイランド・スミスの対決は欧米で大変な人気を呼び、コミックやラジオ・ドラマなどにもなった。もちろん、映画の世界でも引っ張りだことなり、イギリス映画『倫敦の秘密』(23)を筆頭に幾度となく映画化されている。日本でも、60年代にクリストファー・リーが主演したフー・マンチュー・シリーズが有名だ。
 ハリウッドでも20年代末からワーナー・オーランド主演で映画シリーズが製作されて人気を博し、アジア人の悪党が善良な白人に脅威をもたらすという“Yellow Peril(黄色い危機)”なる差別的なサブ・ジャンルまで生まれるに至った。
 当時、連続活劇の大成功で波に乗っていたリパブリック映画は、最新作“Drums Of Fu Manchu”の映画化権を高値で獲得。脚色に当たっては同社の売れっ子脚本家6人を総動員し、演出には看板ディレクターであるウィリアム・ウィットニーとジョン・イングリッシュを共同監督という形で起用した。撮影にも通常の連続活劇映画を遥かに上回る製作費を投入し、文字通りこの年の目玉映画として総力を結集させたのだった。
 おかげで、当時の一般的な連続活劇映画を遥かに凌ぐスケールの大きなアドベンチャー映画に仕上がっている。サスペンスとアクション満載のストーリーにも無駄がないし、荒唐無稽なガジェットの数々にもユニークなアイディアが詰まっている。実に良く出来た娯楽映画と言えるだろう。
 ただ、その一方でアジア人に対する偏見や差別も盛りだくさん。フー・マンチューの声が妙に甲高いのも、当時欧米では一般的だったアジア人に対する偏見だ。ただ、この頃のハリウッド映画(特に低予算のB級映画)では、この種の差別ネタはごくごく当たり前。アジア人や黒人、ドイツ人など、当時の時代背景や社会情勢を反映した差別や偏見が目白押しだった。
 『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(08)ではドイツ人に対する差別的な描写が一部の映画ファンの間で不評だったが、あれはこの時代の連続活劇映画の特徴をカリカチュアしただけと見ていいだろう。
 そうした中で本作の場合、ネイランド・スミスに協力するドクター・チャンなる中国系アメリカ人の学者も登場するので、一応は人種差別への配慮もあったのだろう。ただ、当時日本帝国への対抗という立場で協調関係にあった中国政府が“フー・マンチュー”物に対して強い不快感を示したことから、アメリカ政府の横槍で続編の製作は白紙撤回されてしまう。そのような時代背景を理解した上で見れば、より興味深く楽しめるに違いない。

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ファー・ロー・スーイ(L・ウォルターズ)率いる一味

教授たちを誘拐したフー・マンチューの目的とは?

ランドルフ教授の娘メアリー(G・フランクリン)

 アメリカにおけるモンゴル史研究の第一人者であるパーカー教授(ジョージ・クリーヴランド)が、悪党フー・マンチュー(ヘンリー・ブランドン)の手下によって誘拐された。フー・マンチューはジンギス・カンの墓に隠された王笏を狙っており、パーカー教授がその墓の場所を知っていると睨んだのだ。その笏さえあればヒマラヤ一帯を統治することが可能となり、フー・マンチューによるアジア支配がより一層強固なものとなる。
 フー・マンチュー一味の動向を探ってアメリカへやって来たネイランド・スミス(ウィリアム・ロイル)とペトリー博士(オラフ・ハイッテン)は、パーカー教授の息子アラン(ロバート・ケラード)のもとを訪ねた。
 ラジオのニュースで詳しい情報を掴もうとした彼らだったが、突然不気味なドラムの音が流れ、アナウンサーの声が途切れてしまう。急いでラジオ局へ向かうと、アナウンサーは既に死亡していた。死因はマイクに仕掛けられた毒矢。“フー・マンチューのドラム”と呼ばれる怪音の音波に反応し、予めマイクの中に仕掛けられた毒矢がアナウンサーの喉にめがけて発射されたのだ。
 パーカー教授の友人で研究仲間でもあるランドルフ教授(トム・チャタートン)が危ないと悟ったネイランドとアランたちは、すぐに教授の屋敷へ駆けつける。すると、フー・マンチューの娘ファー・ロー・スーイ(ルアナ・ウォルターズ)率いる一味が屋敷へ侵入して来た。ネイランドやアランは教授を守るべく果敢に立ち向かうが、その騒動の最中にランドルフ教授は連れ去られてしまう。
 パーカー教授とランドルフ教授を隠れ家に監禁したフー・マンチューは、拷問の末にジンギス・カンの墓の場所を探り出す鍵となる巻物を、ランドルフ教授の娘メアリー(グロリア・フランクリン)が持っていることを知る。
 そこへ、隠れ家の場所を突き止めたネイランドらが乱入するものの、肝心のフー・マンチューは既にその場を去っていた。しかも、手下たちとの乱闘の末に、パーカー教授がナイフで刺されて重傷を負ってしまう。
 一方、メアリーは列車で移動中だった。車内にはフー・マンチューの手下たちが忍び込んでいる。飛行機から列車へと飛び乗ったアランは、間一髪のところでメアリーを救出した。ところが、フー・マンチューの策略で列車は逆後方から突進してきた別車両と衝突。寸前に気付いたアランはメアリーと共に外へ飛び出し、九死に一生を得る。
 無事に巻物を持ち帰ったアランとメアリー。ただ、その内容を翻訳するのは至難の技で、ランドルフ教授はモンゴルの古い言語に詳しいハンフリー教授(ウィートン・チェンバース)に協力を依頼する。ところが、隠しカメラの映像で一部始終を見ていたフー・マンチューは、娘ファー・ロー・スーイーを使ってハンフリー教授に催眠ガスを嗅がせ、巻物を奪い取ることに成功した。
 手下たちの後を追ってフー・マンチューの屋敷へと潜入したアラン。ところが、再びフー・マンチューの罠にかかり、巨大な人喰いタコの棲む地下貯水タンクへと落とされてしまう。間一髪のところでネイランドが乱入し、ピストルで人喰いタコを射殺。巻物を取り戻すことには成功したが、またまたフー・マンチューには逃げられてしまった。
 しかし、今度はメアリーが誘拐されてしまい、ネイランドは仕方なく巻物との人質交換に応じる。交換に立ち会うべく向かったのはアラン。フー・マンチューの自家用機の中で無事に交換を済ませるが、機体が故障したことからフー・マンチューはアランとメアリーを残してパラシュートで脱出してしまった。アランの機転で何とか不時着することに成功した二人。
 一方、ネイランドとランドルフ教授は、密かに巻物を翻訳し終えていた。フー・マンチューに渡したのはコピーだったのだ。その文面によると、ジンギス・カンの墓の場所を特定する鍵は、クビライ・カンの巻物の中に記されているという。その巻物は、偶然にもアメリカの中国系学者チャン博士(フィリップ・アーン)の手元にあった。
 その頃、同じように巻物の翻訳を終えたフー・マンチュー一味は、チャン博士を脅迫してクビライの巻物を手に入れようとしていた。そこへネイランドとアランたちが乱入。なんとかチャン博士を助けることに成功するものの、アランがフー・マンチュー一味に拉致されてしまった・・・。

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飛行機から列車へと飛び乗ったアラン

フー・マンチューの策略で列車は正面衝突

フー・マンチュー親子の狙うはジンギス・カンの巻物だ

 本来、フー・マンチュー・シリーズのヒーローはネイランド・スミスだが、本作は映画化に当たって大胆な脚色を施し、アラン・パーカーという若いアメリカ人を実質的なヒーローとして設定。主な舞台もアメリカへと移してしまった。
 ブレスレット状の無線カメラや巨大な人喰いタコなど、バラエティ豊かで賑やかなガジェットも充実。後半に進むと中国本土やヒマラヤを舞台にしたスペクタクルが展開し、大作映画のようなスケール感を味わうことが出来る。古い映画ゆえに特撮の完成度はイマイチだが、ジェットコースター並みのスピード感とどんでん返しの連続はそれを補って余りあると言えよう。
 また、ゾンビのようなルックスをしたフー・マンチューの手下たちも不気味でユニーク。中には牙まで生えているヤツもいて、いまいちキャラクター・コンセプトがハッキリしないものの、インパクトだけは十分に強烈だ。
 監督を手掛けたウィリアム・ウィットニーとジョン・イングリッシュはリパブリックの看板監督で、他にも幾つかの作品でコンビを組んでいる。特にウィットニーはアクション・シーンのスペシャリストとして有名で、あのタランティーノも『キル・ビルVol.2』(04)のエンド・ロールでオマージュを捧げているほどの大ファンだという。
 脚本を手掛けたのは、当時リパブリック映画専属だった売れっ子脚本家たち。中でも、フランクリン・アドレオンはマスコット映画時代から数多くの連続活劇映画を手掛けてきた人物だ。
 ちなみに、先述したようにリパブリック映画は続編の製作を断念したものの、その人気にあやかるべく全15話を1本に編集した69分の短縮版を43年に公開。こちらも大変な評判となったようだ。

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フー・マンチューの隠れ家を見つけたアラン

地下の貯水タンクへ落とされてしまう

そこには巨大な人喰いタコが棲息していた

 フー・マンチュー役を演じているヘンリー・ブランドンはドイツ出身の俳優で、主にインディアンやアラブ人などの悪役として活躍した名優。ジョン・フォード監督の『捜索者』(56)でナタリー・ウッド扮するデビーと結婚するコマンチ族のインディアン役を演じた人だ。同じくフォード監督の『馬上の二人』(61)でのインディアンの酋長を演じていた。その他、『ボー・ジェスト』(39)や『ジャンヌ・ダーク』(48)、『ヴェラクルス』(54)など、その出演作は非常に多い。フー・マンチュー役はワーナー・オーランドからボリス・カーロフ、クリストファー・リー、ピーター・セラーズに至るまで様々な俳優が演じてきたが、妖怪的な気味の悪さでは本作のヘンリー・ブランドンがダントツにインパクト強烈であろう。
 その宿敵であるネイランド・スミス役を演じたウィリアム・ロイルは数多くの連続活劇やB級西部劇で保安官や司令官などの役柄を演じてきた老優。確かにネイランド・スミスというキャラクターは中年のベテラン捜査官という設定ではあるものの、本作のウィリアム・ロイルはちょっと年を取りすぎているという印象。ほとんどお爺ちゃんである。個人的には、60年代のフー・マンチュー・シリーズでネイランドを演じたナイジェル・グリーンやウィルバー・スミスといった、ダンディでクールな英国俳優の方がイメージに近いと思う。
 一方、そのお爺ちゃん版ネイランド・スミスに代わって大活躍する若者アラン・パーカー役のロバート・ケラードは、これが初の大役だった若手俳優。後にコロムビア映画でも連続活劇のヒーローとして活躍するが、一般映画ではあまり大成しなかったようだ。
 メアリー役のグロリア・フランクリンは、ロバート・テイラーとへディ・ラマー主演の“Lady of the Tropics”(39)で売り出された美人女優。確かに綺麗だけれど個性に乏しく、ほんの1〜2年で映画界から消えてしまった。
 それよりも、フー・マンチューの娘役を演じているルアナ・ウォルターズの方が、その美貌も存在感も含めてトップ・ビリングされるに相応しい女優かと思われる。彼女は、ハリウッドの帝王ダグラス・フェアバンクスに見出されて、ユナイテッド・アーティスツと専属契約を結んだ人。しかし、トップ・スターのひしめくUAではなかなか良い役柄に恵まれず、主にB級西部劇の色添えとして活躍。UAとの契約を解除された後は、弱小スタジオのB級映画に出演を続けた。エキゾチックな顔立ちが印象的なブルネット美女だ。ちなみに、ボリス・カーロフ版で娘役を演じていたマーナ・ロイも大変美しかった。

 

 

Batman (1943)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2005 Sony Pictures (USA)
画質★★☆☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/259分/製作:アメリカ

映像特典
なし
監督:ランバート・ヒルヤー
製作:ルドルフ・C・フロソー
原作:ボブ・ケーン
脚本:ヴィクター・マクロード
   レスリー・スワバッカー
   ハリー・フレイザー
撮影:ジェームズ・S・ブラウン・Jr
音楽:リー・ザーラー
出演:ルイス・ウィルソン
   ダグラス・クロフト
  J・キャロル・ナッシュ
   シャーリー・パターソン
   ウィリアム・オースティン
   ガス・グラスマイアー
   ロバート・フィスク
   チャールズ・ミドルトン
第1話“Electrical Brain”
第2話“The Bat's Cave”
第3話“The Mark of the Zombies”
第4話“Slave of the Rising Sun”
第5話“The Living Corpse”
第6話“Poison Peril”
第7話“The Phoney Doctor”
第8話“Lured By Radium”
第9話“The Sign of the Sphinx”
第10話“Flying Spies”
第11話“A Nipponese Trap”
第12話“Embers of Evil”
第13話“Eight Steps Down”
第14話“The Executioner Strikes”
第15話“The Doom of the Rising Sun”

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バットケーブを拠点とするバットマン(L・ウィルソン)

ブルース・ウェインと相棒ディック(D・クロフト)

ブルースの恋人リンダ(S・パターソン)

 映画やテレビ・ドラマ、アニメーション、ビデオゲームなど様々なメディアで映像化されてきたボブ・ケーンの人気コミック『バットマン』。その最初の映画化が、この戦時中に作られた連続活劇映画である。そして、本作は『バットマン』の最初の映画化という以外にも、興味深い点がいろいろとある作品だ。
 まず、戦前のハリウッドではアジア人を悪人に仕立てた“Yellow Peril”というサブ・ジャンルが存在したことは上記の“Drums of Fu Manchu”でも紹介したが、本作は太平洋戦争の真っ最中に作られたこともあって、チト・ダカ博士という名前の日本人が悪玉のボスとして登場する。
 このチト・ダカという人物は、大日本帝国を率いる悪の帝王ヒロヒトの命を受け、アメリカを植民地化するために送り込まれた冷酷なスパイという設定。金のために祖国を売った暗黒街のギャングを手下にしている他、善良なるアメリカ市民を催眠ガスと特殊な機械によってゾンビ化させ操っている。そのチト・ダカの陰謀を打ち砕くために、我らがバットマンとロビンが立ち上がるというわけだ。
 なので、全編を通じて日本人に対する差別ネタのオンパレード。ナレーションでは“政府の賢明な政策によってゴースト・タウンと化したリトル・トーキョー”と日系人の強制収容を全面的に肯定し、“Japanese Cave of Horrors(恐怖の日本人洞窟)”というお化け屋敷では日本人の残虐行為を再現した蝋人形がズラリと並んでいる。しかも、そのお化け屋敷がチト・ダカの隠れ家になっているのだから嫌味だ。
 当然のことながら戦意高揚のプロパガンダという名目が大前提としてあったわけだが、当時の一般的アメリカ人が日本をどのように見ていたのか、その断片をうかがい知ることが出来るだけでも興味深い。その内容はともかくとして、歴史資料的な価値は十分にあるだろう。
 また、純粋に“バットマン作品”として見た場合にも、本作は歴史的に重要な点が幾つかある。まず、バットマンの秘密基地であるバットケーブが最初に登場したのは、実はこの作品だった。それまで原作コミックにはそれらしき基地の存在が示唆されていたものの、具体的に登場したことはなかったのだ。本作の撮影現場を訪れたボブ・ケーンはそのアイディアにいたく感銘を受け、その後コミック版に登場することとなった。
 さらに、バットケーブへの秘密通路である大時計が初めて登場するのも、この作品。そして、バットマン・シリーズでお馴染みのキャラクター、執事アルフレッドのイメージを確立させたのも本作だった。もともとコミック版に登場したアルフレッドは、ズングリとした肥満体型の陽気なオジさん。しかし、本作に登場するアルフレッドは痩せて生真面目で、ちょっと抜けたところのある英国紳士だった。これがDCコミックの編集担当者から大変好評で、翌年のコミック版から映画と同じようなキャラクターに変更されたアルフレッドが登場することとなる。
 こうした理由からも、本作は『バットマン』を語る上では決して外すことのできない作品と言えるだろう。ただ、連続活劇映画としては、当時の他の作品と比べても出来栄えはどちらかというと平凡。低予算ゆえにスケール感には乏しいし、アクションやガジェットも賑やかな割に小ぢんまりとした印象だ。なによりも、ストーリー展開のテンポが悪く、演出にもメリハリがあまり感じられない。脚本も子供だましそのものといった按配だ。とりあえず、バットマン・ファンや映画史研究者であれば一度は見ておきたい作品だろう。

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バットマンに捕まった犯罪者たち

隔離政策でゴーストタウンと化したリトル・トーキョー

冷酷な日本人スパイ、チト・ダカ博士(J・C・ナッシュ)

 ゴッサム・シティの平和を守るバットマンとロビン。その正体はプレイボーイの大富豪ブルース・ウェイン(ルイス・ウィルソン)と相棒の少年ディック・グレイソン(ダグラス・クロフト)である。
 ある日、ブルースのガールフレンドである女医リンダ・ペイジ(シャーリー・パターソン)の叔父マーティン(ガス・グラスマイアー)が何者かに誘拐されてしまう。その犯人はチト・ダカ博士(J・キャロル・ナッシュ)なる不気味な日本人。彼は天皇ヒロヒトの命を受けて、アメリカを植民地にすべくやってきたスパイだった。リトル・トーキョーにあるダカの隠れ家には、金で買われた暗黒街のギャングたちが手下として集まり、誘拐してきた一般市民をゾンビ化して意のままに操っている。
 リンダの叔父マーティンを誘拐した理由は、ゴッサム・シティ基金の金庫の在り処を聞き出すためだ。催眠ガスで場所を聞き出したダカ博士は、新たに開発したラジウム銃を部下のフォスター(ロバート・フィスク)に持たせ、ゴッサム・シティ基金のビルを襲わせる。
 ゴッサム・シティ基金にはリンダも務めていた。突如として乱入した男たちを見て悲鳴を上げるリンダ。一味はラジウム銃の光線で金庫を破壊し、中の現金を奪って逃げようとする。そこへ現れたのがバットマンとロビン。二人は格闘の末に現金を取り戻し、一味のギャング一人を捕えた上にラジウム銃を奪い取った。
 捕えたギャングをバットケーブで尋問するバットマンとロビンだったが、相手は下っ端で詳しい事情は知らない。一方、ラジウム銃を奪い返したいダカ博士一味は、叔父マーティンを装ってリンダをおびき出して誘拐する。
 一味の隠れ家を突き止めたバットマンとロビンは、リンダの救出に無事成功した。敵がラジウム銃を狙っていると知ったバットマンは、新聞にラジウム銃の持ち主を探す広告を掲載した。案の定、一味から連絡があり、夜の10時にゴッサム・シティ基金の事務所で待ち合わせすることとなった。
 ダカ博士はこれが罠だと感じ、待ち合わせよりの1時間早い9時に事務所を襲うことを計画。一方、バットマンも相手の行動を先読みしており、執事アルフレッド(ウィリアム・オースティン)を基金の科学者に変装させ、9時前には現場で待機していた。格闘の末に一味を倒したバットマンとロビンだったが、再び相手には逃げられてしまう。
 その後、バットマンとロビンに列車の爆破を阻止され、日本からメッセージを携えてきた潜水艦までアメリカ軍に撃沈されてしまったダカ博士。使い物にならない部下フォスターをアリゲーターの餌食にし、今度はアメリカ空軍の最新基地を爆破しようとするが、これまたバットマンに阻止されてしまった。
 そんな折、リンダの自宅に盗聴器を仕掛けていたダカ博士は、ブルースとリンダの共通の友人であるコルトン氏(チャールズ・ミドルトン)が、ラジウム鉱山の発掘に成功したことを知る。この鉱山を奪えば、ラジウム銃を大量に生産できる。ところが、話の途中で盗聴に気付かれてしまったため、鉱山のある場所まで確認することは出来なかった。そこで、ダカ博士はコルトン氏の誘拐を企むのだったが・・・。

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ダカ博士はリンダの叔父(G・グラスマイアー)を誘拐

ラジウム銃を構える手下フォスター(R・フィスク)

一味のメンバーを捕えたバットマンとロビン

 ってな具合に、ヒーローも悪人もどこかトボケてノンビリしているのがご愛嬌。恋人リンダにしたって、いつまで経っても叔父の誘拐に気付かなかったり、誘拐されたと知ってもなぜか警察に通報すらしなかったり、叔父の身の安全をあまり心配している風もなかったり(笑)荒唐無稽やご都合主義は連続活劇のお約束とはいえ、あまりにも隙だらけの脚本はかなり失笑ものだ。
 ちなみに、本作ではブルース・ウェインは政府の秘密諜報員という設定になっており、実はワシントンの指示によって動いていたりする。これは個人が勝手に法を行使するという基本プロットが当時の検閲で問題になり、仕方なく加えられた設定だったらしい。また、予算が足りなかったせいでバットモービルも登場しない。黒塗りのキャデラックの中で、ブルースとディックがバットマンとロビンの衣装に着替える姿は、さすがにちょっと格好悪かった。
 監督のランバート・ヒルヤーは、サイレント時代から数多くの低予算映画を手掛けてきた大ベテラン。中でも、ユニバーサルで撮った『透明光線』(36)や『女ドラキュラ』(36)はホラー・クラシックの名作として名高い。彼自身はスタイリッシュなホラーやメロドラマの方が得意だったようだが、不幸にもB級西部劇や活劇の演出を任されることが多かった。職人監督ゆえに選択の余地などなかったのだろう。本作を見ていると、アクション・シーンやスペクタクル・シーンよりも、不気味でおどろおどろしいバットケーブの雰囲気や、棺桶の中から甦る日本兵などのホラー的な描写の方に力を注いでいるような印象を受ける。
 脚本にはジョン・ウェイン主演のB級西部劇などを数多く手掛けた映画監督ハリー・L・フレイザーや、同じくコロムビア映画でコミック・ヒーロー物の連続活劇“The Phantom”(43)の脚本を書いたヴィクター・マクロードとレスリー・スワバッカーが参加している。
 さらに、サイレント時代から数多くのB級サスペンスや西部劇などを手掛けたカメラマン、ジェームズ・S・ブラウン・ジュニアが撮影監督を担当。こちらもB級専門だったリー・ザーラーが音楽スコアを手掛けた。

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生真面目でとぼけた執事アルフレッド(W・オースティン)

ギャングたちを金で雇っているダカ博士

一般市民を誘拐してはゾンビ化させて操っている

 バットマン役を演じたルイス・ウィルソンは、これが映画デビュー作。しかし、その後は残念ながら大成せずに映画界を引退した。ちなみに、彼の妻だったダイアナは、後にイギリスの製作者アルバート・S・ブロッコリと再婚し、あの“007シリーズ”のプロデューサーとなった女性。また、二人の間に生まれた息子マイケル・G・ウィルソンも、『007/ムーンレイカー』(79)から現在に至るまで“007シリーズ”の製作総指揮及び製作を務めている。
 一方のロビン役を演じているダグラス・クロフトは、『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』(42)でジェームズ・キャグニーの少年時代を、『打撃王』(42)でゲイリー・クーパーの少年時代を演じたことで知られる少年俳優。なお、どうやらスタント・シーンは別の役者が演じていたらしく、派手なアクションになるとロビンのコスチュームからはみ出た腕や足がムキムキのマッチョになっている。
 特殊メイクで日本人チト・ダカ博士役を演じているのは、『サハラ戦車隊』(43)と『ベニイの勲章』(45)でアカデミー助演男優賞候補となった名優J・キャロル・ナッシュ。巨匠ジャン・ルノアールがアメリカで手掛けた『南部の人』(45)の偏屈な隣人デヴァースや、大ヒット・ミュージカル『アニーよ銃をとれ』(50)のユーモラスなインディアン酋長など、数多くの名作で印象深い演技を残している。その一方で、『フランケンシュタインの館』(44)や『ジャングルの妖女』(44)などのB級映画にも多数出演。生涯で200本以上もの映画に出演しており、来るものは拒まないタイプのプロフェッショナルだったようだ。
 リンダ役のシャーリー・パターソンは、当時コロムビア映画の専属だったB級女優。その他、クララ・ボウの代表作『あれ』(27)でヒロインの親友モンティ役を演じていたウィリアム・オースティンがアルフレッド役、B級西部劇の悪役として活躍したロバート・フィスクがダカ博士の手下フォスター役、連続活劇『フラッシュ・ゴードン』シリーズのミン皇帝役で有名なチャールズ・ミドルトンがコルトン氏役で脇を固めている。

 なお、その後続編“Batman and Robin”(49)が作られているものの、スタッフ・キャストは全て一新されている。

 

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