SEQUAL

 

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 フリースタイル全盛期の80年代末に大手老舗のキャピトル・レコードから売り出されたマイアミ系女性デュオSEQUAL。日本ではこまどり姉妹やザ・ピーナッツの昔から女性デュオの人気は高く、ピンク・レディーやらあみんやらパフィーやら数えきれないほどのグループが活躍してきた。ところが、アメリカでは女性グループと言えばトリオ編成が主流であり、デュオというのは実は圧倒的に少ない。パッと思い浮かぶところでも、せいぜいハートやジャッズ、ウェンディ&リサ、ウェザー・ガールズくらいのもの。フリースタイルの世界においても女性グループの基本はトリオであり、リオス・シスターズという超マイナーな双子デュオとアトランティック所属のジェニュイン・パーツを除けば、恐らくこのSEQUALが唯一まともにヒット曲を出した女性デュオだったと言えるかもしれない。
 SEQUALが結成されたのは1984年のこと。メンバーはブロンドのマリア・クリステンセンとブルネットのアンジー・ヴォラーロ。生みの親はエクスポゼの仕掛け人としても有名な音楽プロデューサー、ルイス・A・マーティニーである。グループ名の由来は“続編”を意味するSEQUEL。当時エクスポゼをデビューさせたばかりだったマーティニーは、その妹分的なグループとしてSEQUALを売り出したというわけだ。ちなみに、グループ名の発音は“シークォル”。カタカナで表記するとちょっと間が抜けて見えてしまうので(笑)、ここではSEQUALとアルファベット表記で統一させていただく。
 85年にマイアミのインディペンデント・レーベル、ジョーイ・ボーイ・レコードと契約した2人は、マーティニーのプロデュースによるシングル“It's Not Too Late”でレコード・デビュー。これはエクスポゼの“Point Of No Return”を彷彿とさせる正統派のマイアミ・サウンドに仕上がっており、地元のマイアミを中心にクラブ・チャートやフリースタイル・チャートで人気を博した。翌年に発売されたシングル“Stand By”と“She Don't Want You”も順調にクラブ・ヒットを飛ばし、折からのフリースタイル・ブームに乗り遅れていたキャピトル・レコードに拾われたというわけだ。
 SEQUALのファースト・アルバムを製作するに当たって、キャピトルは錚々たる顔ぶれのプロデューサー陣を用意した。ヒップホップ界の寵児として持てはやされていたマントロニック、当時ハウス・シーンで売れっ子だったジャスティン・ストラウス、そしてカイリー・ミノーグやバナナラマなどのヒット曲で世界中のチャートを席巻していたストック/エイトキン/ウォーターマン。もちろん、生みの親であるルイス・A・マーティニーも名を連ねている。文字通り、いずれ劣らぬヒット・メーカーたちが集められたというわけだ。
 移籍第一弾シングルとしてリリースされたのは、超キャッチーでポップなマイアミ・フリースタイル“I'm Over You”。ジョーイ・ボーイ時代のヒット曲“She Don't Want You”でも組んだマイケル・モレヨンがプロデュースを手掛けた。リミックスにはリトル・ルイ・ヴェガも参加しており、ビルボードのダンス・チャートで11位をマークするメジャー・ヒットとなった。
 続いて発売されたのは、マントロニックがプロデュースを手掛け、大御所デヴィッド・モラレスがリミックスを担当したシングル“Tell The Truth”。こちらも素晴らしくキャッチーなナンバーで、ビルボードのクラブ・チャートでも9位という前作を上回る大ヒットを記録した。
 しかし、ストック/エイトキン/ウォーターマンによる“Tell Him I Called”が残念ながらチャート・インせず。プリンセスやオチ・ブラウンなどの初期PWLサウンドを彷彿とさせるソウルフル路線が、もしかしたら仇になってしまったのかもしれない。さらに、“Brand New Love”と“Could've Had My Love”のカップリング・シングルも不発に終わり、アルバム自体もセールスを伸ばすことは出来なかった。
 今にして思えば、あれだけ豪華な製作陣が顔を揃えて、なおかつポップでクオリティの高い楽曲ばかり発表したにも関わらず、メジャー・シーンで今一つブレイクできずに終わってしまったのは、ひとえにキャピトル・レコードのプロモーション不足によるものと考えていいのではないだろうか。そもそも、当時のキャピトルは他のメジャー・レーベルに比べて、クラブ系のアーティストに力を入れているとは言い難かった。同時期にデビューしたジーナ・ゴーゴーなんかも不遇な扱いを受けたし、トレイシー・スペンサーにしたってセカンド・アルバムでようやくブレイクすることが出来たといった按配。当時はフリースタイル全盛期であったために、キャピトルも出せば売れるという程度にしか考えていなかったのかもしれない。このSEQUALにしても、もうちょっと真っ当なプロモーションさえ行われていれば、ポップ・チャートでのヒットも十分に狙えることが出来なのではないかと思う。
 その後、マリア・クリステンセンは93年にソロ・アーティストとしてデビュー。97年にはサード・パーティというクラブ系の女性トリオを結成し、2枚のシングルをマイナー・ヒットさせた。その傍らで、ソングライターとしてセリーヌ・ディオンやエターナルなどのトップ・アーティストに楽曲を数多く提供。ジェニファー・ロペスが大ヒットさせた“Waiting For Tonight”も、もともとはマリアがサード・パーティ時代に書いた楽曲のカバーだ。一方のアンジーも、セッション・シンガーとして地道に活動を続けていた。
 そして、フリースタイルがほぼ死滅したに等しい21世紀、SEQUALは突如として復活する。'07年にオリジナル・メンバーで再結成されたSEQUALは、シングル“My Love For You”をオンライン配信限定でリリース。フリースタイル系イベントでのライブを中心に、現在も細々と活動を行っているようだ。

 

12インチ・シングル

ITS_NOT_TOO_LATE.JPG STAND_BY.JPG IM_OVER_YOU.JPG TELL_THE_TRUTH.JPG

It's Not Too Late (1985)

Stand By (1986)

I'm Over You (1988)

Tell The Truth (1988)

(P)1985 Joey Boy Records (USA) (P)1986 Joey Boy Records (USA) (P)1988 Capitol Records (USA) (P)1988 Capitol Records (USA)
side A
It's Not Too Late 5:50 ビデオ
side B
Not Too Late To Dub 6:55 ビデオ

produced by Lewis A Martinee
mixed by Lewis A. Martinee, Mike Couzzi, and John Haag
side one
Stand By (Al Fuentes Mix) 6:50 ビデオ
side two
1.Stand By 5:10
2.Stand By (Radio Edit) 3:40

produced by Alain Salvati
A side
1,Maxi-Miamix-Mix 6:13
2,Dubbed Over You 5:38 ビデオ
3,Hot Edit 4:25
B side
1,New York Mix 7:15 *
2,Freestyle Suite 7:21*
3,Power Edit 4:56 *

produced by Michael Morejon
* remixed by Little Louie Vega
side 1
1,Rock The Truth 5:42
2,Groove The Truth 7:07 *
3,Bass The Truth 4:27
side 2
1,Shaft The Dub 5:17
2,Bomb The Dub 5:26 *
3,Free The Beats 4:37 *

produced by Mantronik
*remixed by David Morales
 こちらが記念すべきデビューシングル。マイアミでのローカルヒットだったこともあって、日本へはほとんど入って来ませんでした。これがまさにルイス・A・マーティニー!って感じの仕上がり。イントロからサビのメロディに至るまで、エクスポゼの“Exposed To Love”にソックリです。マイアミ系らしいトロピカル感を保ちつつ、程よく哀愁の漂っている雰囲気が良いですね。  第2弾はアラン・シルヴェストリなる人物がプロデュースした作品。この人、フランスの大物女性シンガーソングライター、ヴェロニク・サンソンを手掛けたプロデューサーと同じ名前なんだけど、果たして同一人物なのでしょうか…?楽曲そのものは、比較的NYサウンド寄りの硬質なフリースタイル・ナンバー。まあ、可もなく不可もなくでしょうか。リミックスも変わり映えなし。  アンジーとマリアのパワフルなボーカルを存分に生かした、キャッチーで勢いのあるフリースタイル・ナンバー。メジャー移籍第一弾に相応しい楽曲だと思います。ポップ・ハウス的な要素を盛り込んだリトル・ルイ・ヴェガのミックスの方がポップ・チャート向きかもしれませんが、個人的には若干泥臭いマイアミ・ミックスも捨てがたし。語り入りのダブも面白いです。  こちらはさらにキャッチーでノリノリ、マントロニックらしいファンキーなグルーヴ感を生かした極上のフリースタイル・ナンバーに仕上がっています。また、ハウス界の大御所デヴィッド・モラレスによるリミックスも最高。原曲のアレンジを最大限に生かしており、ハウスとフリースタイルの融合としては最良の出来かと。レアグルーヴ感溢れるB面#1のダブもカッコいいです。

TELL_HIM_I_CALLED.JPG TELL_HIM_I_CALLED-UK.JPG BRAND_NEW_LOVE.JPG

Tell Him I Called (1988)

Tell Him I Called (1988)

Brand New Love/Coul've Had My Love (1988)

(P)1988 Capitol Records (USA) (P)1989 Capitol Records (UK) (P)1989 Capitol Records (USA)
side A
1,Tell Him I Called
  (The Master Jam) 7:36 ビデオ
2,Tell Him I Called
  (An Edit Supreme) 7:40
3,Tell Him I Called (Instrumental)4:14
side B
1,I'm Over You
  (Sunshine House Mix)6:55
2,I'm Over You (Windowpane Dub)5:18
3,I'm Over You
  (Microdots & Bonus Beats)1:55

side A produced by Stock/Aitken/Water
man. mixed by Pete Hammond
* remixed by Disconet
side B produced by Michael Morejon. remi
xed by Rick Wake & Richie Jones.
side 1
1,12" Watermix 6:14
side 2
1,Dub 4:54 *
2,Oboe Mix 5:05

produced by Stock/Aitken/Waterman
remixed by Phil Harding & Ian Curnow
* mixed by Tony King
side 1
1,Brand New Love
  (Popstand Club/Dub) 9:36
2,Brand New Love (Florida Mix)5:00 *
3,Brand New Love
  (NYC Radio Mix) 5:07
side 2
1,Coul've Had My Love
  (Mantronik Mix) 5:03
2,Coul've Had My Love (Miami Mix)7:47 **
3,Coul've Had My Love (Dub)

side 1 produced by Justin Strauss & Murr
ay Elias. * remixed by Michael Morejon
side 2 produced by Mantronik. ** remixed by Danny Tenaglia & Michael Morejon
 まずはストック/エイトキン/ウォーターマンの手掛けたA面。まるで彼らのシュープリーム時代を彷彿とさせるような楽曲で、個人的にはとても好きです。当時のポップでキャッチーなPWLサウンドとはかけ離れていたために売れなかったのかもしれませんね。で、B面は前々作のハウス・ミックス。これまたD-モブ辺りを思わせる超ポップな仕上がりで、素晴らしくダンサンブル!  こちらはUK盤リミックス。オリジナル・バージョンとはだいぶ趣を変え、グランドビート風のアーバンなダンス・ナンバーに仕上がっています。ハーディング&カーナウにしては渋い出来栄えかと。トニー・キングの手掛けたB面#2はオーボエをフューチャーしたインスト・バージョンです。ん〜、個人的にはやっぱりUSのオリジナル・ミックスの方が好きかな。うん。  A面B面共に捨てがたいポップなフリースタイル・ナンバー。まずジャスティン・ストラウスの手掛けたA面ですが、個人的には派手さを抑えてタイトにまとめた#3のミックスが好き。B面はマントロニックらしいファンキーなグルーヴ感とキャッチーなメロディが魅力の作品で、オールドスクール系フリースタイルに仕上げた#2も悪くありません。ヒットしなかったのは残念。

 

アルバム

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Sequal (1988)

(P)1988 Capitol Records (USA)
1,Tell Him I Called 4:18 ビデオ
2,Tell The Truth 4:22
3,I'm Over You 4:44 ビデオ
4,Coul've Had My Love 4:21
5,Why Can't We Be Lovers 5:15
6,Let It Go 4:00
7,Took Another Chance 3:59
8,Brand New Love 4:03
9,Out Of Sight Out Of Mind 5:33
10,She Don't Want You 3:48 ビデオ
11,It's Not Too Late 5:13 ビデオ

#1 produced by Stock/Aitken/Waterman
#2,#4 & #7 produced by Mantronik.
#3&#6 produced by Michael Morejon
#5&#11 produced by Lewis A. Martinee.
#8&#9 produced by Justin Strauss & M
urray Elias
#10 produced by Mohamed Moreta & Mi
chael Morejon
 結果的にこれが最初で最後のアルバムとなってしまいましたが、とにかく楽曲のクオリティが高い。ホランド&ドジャーのカバー#5はイマイチですけど、あとはどれもシングルとして通用するような楽曲ばかり。中でも、カナダのポップ・バンド、ルーバのヒット曲をフリースタイル流にカバーした#6は、是非ともシングルカットして欲しかった名曲です。ナンシー・マルティネスをゲストに迎えた#7も大好き!

 

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