スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団
Scott Pilgrim vs. The World (2010)

 

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2011年4月29日より全国ロードショー
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2010年 サテライト・アワード ミュージカルorコメディ部門 最優秀作品賞 最優秀主演男優賞(マイケル・セラ) 受賞
2010年 サンディエゴ批評家協会賞 最優秀編集賞 受賞

 

 全米はもとより世界各国のサブカルチャー及びポップ・カルチャーの通たちから熱狂的に受け入れられ、カルトな人気を集めている超新感覚なバトル系ファンタジック・コメディ『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』がいよいよ日本でもロードショー公開されることとなった。コミックやゲーム、アニメ、カルト映画、インディーズ・ロック、テクノなど、いわゆるオタク系文化が世界の共通言語として市民権を得るようになって久しい昨今だが、本作などはそうしたカウンターカルチャーの面白さを存分に詰め込んだ究極のオタク・エンターテインメントと言ってもいいかもしれない。
 主人公は22歳のギークな若者スコット・ピルグリム。売れないアマチュア・ロックバンドのベーシストをやっている彼は、お金も仕事もないけどとりあえず気楽で楽しい毎日を送っている。ところが、理想の女性ラモーナに一目惚れしてしまったことから、彼は人生最大の試練に立ち向かわねばならなくなってしまった。というのも、ラモーナのハートを射止めるためには、彼女の7人の邪悪な元カレ軍団を倒さなくてはいけないのだ。愛するラモーナのために壮絶なバトルを繰り広げるスコット。果たして、彼は戦いに勝ち残ってラモーナとめでたく結ばれることが出来るのだろうか…!?

 原作はカナダの若手コミック作家ブライアン・リー・オマリーの書いた全6巻に及ぶ大作コミック「スコット・ピルグリム」シリーズ。その映画化を実現したのは『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)や『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン』(07)で世界中の映画マニアを熱狂させたエドガー・ライト監督。ゲーム世代の申し子とも言うべきハイパーリアルなコミックの世界を、カウンターカルチャーの申し子とも言うべき映画作家が自由自在に映像化した、という事実が本作の最も重要なポイントかもしれない。若者文化をよく知らない大人たちが金儲け目当てで作ったインチキなポップ・ムーヴィーとは明らかに一線を画しているのだ。
 まず印象的なのは、日常とファンタジーの境界線が完全に取り払われているということ。7人の元カレ軍団と対決するスコットの物語というのは、言うなれば憧れの女性ラモーナの愛を得るために彼が克服すべき課題の象徴のようなもの。つまり、過去の恋愛を引きずっている彼女を振り向かせるために、スコットが取り払っていかねばならない障壁を比喩したものであり、その過程において子供じみた負け犬少年だった彼が自信と責任感を持った大人の男へと成長していくというわけだ。そんな非常にシンプルなストーリーが、ゲームとコミックとロックにどっぷり浸かったオタッキーな若者スコットの目を通すことで、文字通りロールプレイングゲームやヒーロー・コミック、ミュージック・クリップなどの世界をごっちゃ混ぜにした、超非日常的なバトル・アクションへと昇華していく。
 しかも、その日常と非日常が完全に同化しているばかりか、彼の周囲の友人たちまでもがその世界観を共有しているのだ。これは夢見がちな若者のオタク的妄想思考回路であったり、任天堂のゲームやジャパニメーション、アメコミを浴びるようにして育った彼らの世代に特有の共通言語を、作り手側が感覚的に理解していることの証であり、そこに共感できる観客ならば体感的にすんなりと物語の中へ入っていくことが出来るだろう。ただ、逆に言うとそうしたカウンターカルチャーに全く馴染みのない“旧世代”の観客が置いてきぼりにされてしまうこともまた事実であり、それは本作がアメリカで劇場公開よりもDVDやブルーレイで成功したことの大きな理由と言えるかもしれない。

 お馴染みのユニバーサル・ピクチャーズのロゴと音楽が8ビットゲーム化したオープニングからオタク・ワールド全開。あらゆる映像表現を自由自在かつごった煮的に駆使した演出は凄まじいスピード感で、とにかく編集のテンポもリズムも超速に早い。任天堂のゲームやジャパニメーション、アメコミなどを引用した小ネタが満載なのはもちろんのこと、『ストリートファイター』も真っ青なバトル・シーンのダイナミックなワイヤー・カンフー・アクションにはジャパニメーション的誇張表現がふんだんに盛り込まれており、従来のハリウッド産CGアクションとは比べ物にならないほど斬新だ。生活音や楽器など様々な音が擬音文字で飛び出したり、バトルに勝利するとボーナス・ポイントが加算されたりといった視覚的な仕掛けも含めて、アニメやコミック、ゲームの世界をそのまま実写にしてしまったような作品と言えるだろう。
 さらに、インディーズ・ロックやクラブ・カルチャーからの影響も見逃せない。スコットの在籍するバンド、セックス・ボブオムの楽曲をベックが描き下ろし、彼らが日本人の双子ポップ・スター、カタヤナギ・ツインズとバンド・バトルを繰り広げるシーンではコーネリアス(小山田圭吾)の楽曲も使用されている。インディーズ音楽業界の裏側やグルーピーも含めた周辺関係者のライフスタイルを皮肉ったネタも満載だ。
 また、根は小心者でコンプレックスの塊なクセにプライドの高さだけは一人前という主人公スコットの、ちょっと情けないけど憎めないキャラクターも秀逸。いかにもギークな感じのマイケル・セラ(『JUNO/ジュノ』)は見事なハマリ役だ。そのほか、ラモーナ役には『ファイナル・デッドコースター』や『デス・プルーフinグラインドハウス』などカルト映画ファンにはお馴染みのメアリー・エリザベス・ウィンステッド、スコットのルームメイトで皮肉屋のゲイ青年ウォレスにはキーラン・カルキン、スコットのお節介焼きな妹ステイシーには『トワイライト』シリーズのアナ・ケンドリックなどなど、映画マニアなら納得の若手クセモノ俳優が勢ぞろい。しかも、いわゆるハリウッド的美男美女が一切登場せず、いかにも今時の若者らしい顔で固められているのがポイント高い。スコットにけなげな想いを捧げる中国系女子高生ナイブスを演じているエレン・ウォンのジャパニメーション的可愛らしさなんか、日本人の観客にはむちゃくちゃツボなはずだ。
 とりあえず、百聞は一見にしかず。見る人によって好き嫌いは分かれるかもしれないが、現代のリアルな若者文化をこれほど遊び心たっぷりに表現したエンターテインメント作品はなかなかお目にかかれないことだろう。ちなみに、ゲーム世代と旧世代のギリギリ中間地点で育った筆者のようなアラフォー世代にも、どことなく甘酸っぱい懐かしさと新鮮なカルチャー・ショックの両方を楽しめるという意味でおススメしておきたい。

 

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