50年代カルトSF映画傑作選 Part 2
Target Earth
(1954)
日本では劇場未公開・テレビ未放送
VHS・ビデオも日本発売なし
DVD仕様(北米盤)
(P)2003 VCI Entertainment
(USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
モノクロ/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/75分/製作:アメリカ
映像特典
製作者ハーマン・コーエン トリビュート
ハーマン・コーエンによる音声解説
オリジナル劇場予告編
バイオグラフィー集
監督:シャーマン・A・ローズ
製作:ハーマン・コーエン
原作:ポール・W・フェアマン
脚本:ジェームズ・H・ニコルソン
ウィリアム・レイナー
ワイオット・オーダン
撮影:ガイ・ロー
音楽:ポール・ダンラップ
出演:リチャード・デニング
キャスリーン・クロウリー
ヴァージニア・グレイ
リチャード・リ−ヴス
ロバート・ローク
モート・マーシャル
アーサー・スペース
「黒死館の恐怖」('58)や「赤い野獣」('63)などのB級ホラーを数多く世に送り出し、AIP(アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ)の礎を築いた事でも知られる名プロデューサー、ハーマン・コーエン。その彼が初めて単独でプロデュースをした作品が、この“Target
Earth”である。
ある日、目覚めると大都市ロサンゼルスがゴーストタウンと化している。僅かに残された人々は戸惑いながらも、その謎の真相に迫っていく・・・というわけだ。折からのSFブームに便乗する形で作られたB級映画だが、極端な低予算を逆手に取った心理サスペンス的な趣きには、他のSF映画とは一味違ったユニークな魅力があった。
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無人化したロサンゼルスを彷徨うノーラ(K・クロウリー) |
ノーラはフランク(R・デニング)という男性と偶然出会う |
大都市ロサンゼルス、午後1時半。睡眠薬で熟睡していた若い女性ノーラ・キング(キャスリーン・クロウリー)は、目覚めてすぐに街の異様な静けさに気が付いた。しかも、水道の蛇口からは水が出ないし、部屋の電気もつかない。ラジオのスイッチをひねっても音が出ない。隣近所ももぬけの殻だ。不安になって外へ出た彼女は愕然とする。昼間だというのにもかかわらず、大通りには人影がまるでなかったのだ。
たちまち不安は恐怖へと変わった。誰かいないかと街中を駆けずり回ったノーラは、道端で女性の死体を発見する。思わず後ずさりした彼女の背後から男性が近づいてきた。とっさに逃げ出すノーラ。追って来た男性はフランク・ブルックス(リチャード・デニング)といい、仕事のためにデトロイトからロサンゼルスに来ていた。だが、前日の夜にバーで飲んでいたところ悪酔いしてしまい、帰り道に強盗に襲われて気絶してしまっていたという。
共に自分たちの置かれた状況が呑み込めないでいる二人は、やがてレストランから漏れてくるピアノの音に気付く。行ってみると、そこでは二人の男女がシャンパンを酌み交わしていた。男性はジム・ウィルソン(リチャード・リーヴス)、女性はヴィッキ・ハリス(ヴァージニア・グレイ)。共に昨晩は酔いつぶれて記憶がないという。
別の場所に移動しようと決めた4人は外へ出るが、そこでチャールズ(モート・マーシャル)という男性と出会う。街の北側から歩いてきたチャールズの話によると、どうも人々は郊外へと大移動しているらしい。しかも、その痕跡から察するに、彼らは何かから必死になって逃げているようだった。だが、チャールズ自身もその理由を知らなかった。
すると突然、ヴィッキが小さな悲鳴をあげる。ビルの上に映る異様な影に気付いたのだ。危険を察知した5人は建物の物陰に隠れ、その影が行過ぎるのを待った。自分たちが知らない間に、何か恐ろしいことが起きたことは間違いなかった。
近くのホテルに避難した彼らは、そこにあった新聞を見て愕然とする。その記事によると、未確認の巨大ロボット軍団がロサンゼルスを来襲したというのだ。どうやら先ほどの影はそのロボットのものだったようだ。
恐怖でパニックに陥ったチャールズは、フランクたちが制止するのもきかず、一人で逃げようと外へ飛び出す。すると、そこへ巨大ロボットが現れ、ビーム光線でチャールズを殺害した。残されたフランクたちは、自分たちが孤立無援の状態である事を知る。
その頃、ペンタゴンではロボット軍団に対抗するべく着々と準備が進められていた。やがて、ロサンゼルスへと向けて飛び立つ爆撃隊。しかし、驚異的な破壊能力を持つロボット軍団には全く歯が立たず、爆撃隊は次々と撃墜されていく。その様子を絶望しながら見つめるフランクたちだったが・・・。
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正体不明の巨大な影から身を隠す主人公たち |
遂に姿を現した巨大(?)ロボット |
当初から10万ドルという低予算でスタートした作品だったが、最終的にはそれを下回る8万5千ドルで作られたという。それだけに、戦闘シーンは記録映画からの頂きものだし、巨大ロボット軍団と言いながら肝心のロボットは1体しか出てこない。しかも、決して巨大とは呼べない2メートル・サイズくらいのやつが。
それだけに、ロボットが登場してからの展開は微妙に興ざめしてしまうものの、前半のサスペンスフルなノワール・タッチはなかなか秀逸。ある朝目覚めたら自分以外誰もいなくなっていた、という恐怖感が非常にリアルに描かれている。また、ロボットのシルエットを最初に登場させて緊迫感を煽るという演出も賢明だった。とはいえ、ようやく姿を見せたロボットのショボさに誰もが腰を抜かすこと必至なのだが・・・(笑)。
監督のシャーマン・A・ローズは戦前からB級西部劇を数多く手掛けており、戦後もテレビで「ライフルマン」や「バークレー牧場」などの西部劇ドラマの演出家として活躍した人物。本作が唯一のSF映画だったようだが、どちらかというミステリー・サスペンス的な要素に比重が置かれている。テレビ「ミステリー・ゾーン」の1エピソードみたいな雰囲気があり、そういった意味でも75分という上映時間は丁度良かったのかもしれない。
ちなみに、ゴースト・タウンと化したロサンゼルスのロケ・シーンは、毎週日曜日の早朝に撮影が行われたという。しかも、無許可で。コーエンの友人がロサンゼルス警察の警官で、勤務時間外を利用して交通規制までしてくれたという。もちろん、それも無許可で(笑)。とりあえず、バレなけりゃ何でもする、というのは低予算映画の鉄則だ。
脚本を担当したのは、「姿なき訪問者」('53)や「宇宙からの暗殺者」('54)といったB級SF映画を手掛けたウィリアム・レイナーと、Z級SF映画の迷作「ロボット・モンスター」のワイオット・オーダン。そして、AIPの社長として有名なジェームズ・H・ニコルソンが参加しているのにも注目しておきたい。
主役のフランクを演じるのは「大アマゾンの半魚人」('54)で有名な渋いタフ・ガイ俳優リチャード・デニング。もともとはフィルム・ノワールや戦争映画の二枚目スターだったが、いつの間にかSF映画のヒーロー役に落ち着いてしまった人だった。
ノーラ役のキャスリーン・クロウリーはミス・ニュージャージーから女優に転じた人だったが、B級ウェスタンの色添え的な役柄ばかりあてがわれ、60年代にはテレビへと移行して行った。鉄火肌のヴィッキ役を演じているヴァージニア・グレイは戦中から戦後にかけての人気スター女優で、「マルクス兄弟デパート騒動」('41)や「燃える密林」('46)でヒロイン役を演じていたが、当時は既に落ち目だった。ジム役のリチャード・リーヴスはテレビ草創期から数え切れないほどのドラマに出演した脇役俳優。このヴァージニア・グレイとリチャード・リーヴスの夫婦漫才みたいな掛け合いが絶妙で、上手いことストーリーのアクセントになっている。
ボディ・スナッチャー/恐怖の街
Invasion of the Body
Snatchers
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本発売済
(P)2002 Artisan/Republic
(USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン(レターボックス収録)/モノラル/音声:英語・スペイン語・イタリア語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/80分/製作:アメリカ
映像特典
ケヴィン・マッカーシー インタビュー
オリジナル劇場予告編
トリミング・バージョン
監督:ドン・シーゲル
製作:ウォルター・ウェインジャー
原作:ジャック・フィニー
脚本:ダニエル・メインウェアリング
サム・ペキンパー
撮影:エルスワース・フレデリックス
音楽:カーメン・ドラゴン
出演:ケヴィン・マッカーシー
ダナ・ウィンター
キャロリン・ジョーンズ
ラリー・ゲイツ
キング・ドノヴァン
ジーン・ウィリス
ラルフ・ダムケ
侵略型SFホラーの金字塔とも言うべき名作。カリフォルニアの小さな田舎町を舞台に、住人がいつの間にか無感情なエイリアンと入れ替わっていく。派手な特撮やアクションは全くないものの、いつもの見慣れた日常が知らぬ間に侵略されていくという恐怖感は格別。最後の最後まで観客を画面に釘付けにする緊張感にはただならぬ迫力があり、約42万ドルの製作費に対して興行収入120万ドルという大ヒットを記録した。「SF/ボディ・スナッチャー」('78)、「ボディ・スナッチャーズ」('93)、そして「インベージョン」('07)とリメイクされ続けているのはご存知の通り。
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平和な町の異変に気付くベネル医師(K・マッカーシー) |
ベネル医師の幼なじみ、ベッキー(D・ウィンター) |
カリフォルニアのとある警察で、半狂乱となった男が保護された。彼の名はマイルズ・ベネル医師(ケヴィン・マッカーシー)。事情を尋ねる警察官たちに、彼は地元の町で起きた恐るべき出来事を語り始める。
ベネル医師は、サンタ・ミラというカリフォルニアの小さな町の開業医だった。その日、遠くの街で学会に出席していた彼は、看護婦サリー(ジーン・ウィリス)からの連絡で急遽サンタ・ミラに戻らねばならなくなった。普段は患者もまばらな医院に、突然予約が殺到したのだという。しかし、ベネル医師が到着した頃には、何故か殆んどの予約がキャンセルされていた。
全ては、この不可解な一件が発端だった。僅かに残されていた患者の診察をしていた彼は、ある奇妙な事実に気付く。患者の誰もが同じ不安を口にしているのだ。家族や知人が別人になってしまったと。祖母に連れてこられた少年は、自分の母親が別人だと言って泣き叫ぶ。また、幼なじみのベッキー(ダナ・ウィンター)は、叔父が感情を持たない別人になってしまったと主張する従姉妹を診てくれないかと相談してくる。友人の精神科医カウフマン(ラリー・ゲイツ)によると、こうした現象は1週間ほど前から頻発しており、ある種の集団ヒステリーではないかという。
だが、ある晩、彼は友人のジャック(キング・ドノヴァン)とテディ(キャロリン・ジョーンズ)の夫妻に呼び出され、恐るべきものを目にする。それは、夫妻が裏庭で発見したという、人間のような“物体”だった。しかも、まだ人間になりかけの状態で、顔には何の特徴もなく、手には指紋もなかった。この不可解な“物体”を前にして、さすがのベネル医師も首を傾げざるを得なかった。
ベネル医師は朝まで“物体”に変化がなければ、警察に届けるようジャックらに言い残して帰宅する。やがて、うとうとと居眠りをしてしまうジャックとテディ。ふと目覚めたテディは、例の“物体”がジャックと瓜二つに変化しているのを発見して悲鳴を上げる。
その報告を受けたベネル医師は胸騒ぎを感じてベッキーの自宅へと向った。そこで彼は、ベッキーと瓜二つの“物体”を発見する。ベッキーを連れ出したベネル医師は、カウフマン医師を連れて捜索をするが、既にジャック宅の“物体”もベッキー宅の“物体”も忽然と姿を消してしまっていた。さらに不思議な事に、それまで不安を訴えていた患者たちが、翌朝になると突然何事もなかったかのように態度を豹変させる。
そして、その晩。ジャックとテディ、そしてベッキーと共にバーベキューを楽しんでいたベネル医師は、自宅の温室で4つの巨大で不気味な“莢(さや)”を発見する。それは見る見るうちに膨れ上がり、中から異様な物体が飛び出してきた。そして、その“物体”は徐々に人間のような形に変化していく。それは、彼ら自身に瓜二つの姿だった。ただちに警察に通報しようとした彼らは、既に町全体が何者かによって侵略されてしまっている事を知る・・・。
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不気味な莢(さや)の存在に気付く主人公たち |
莢(さや)から成長したベネル医師の複製人間 |
寝ている間に本人そっくりに成長して入れ替わってしまう複製人間たち。一人また一人と入れ替わっていき、平凡な町がいつの間にか侵略されてしまうという恐怖。過剰な演出を極力排除し、細やかなディテールの積み重ねによって日常から非日常への変化を巧みに描き出していく手法は見事と言うほかない。まるでドキュメンタリー映画のようなリアリズムだ。ベッキーとキスを交わしたベネル医師が、その感触から彼女が複製人間になってしまったことに気付くシーンも秀逸。
また、莢(さや)や複製人間の正体について多くが語られないというのも賢明だった。一応、莢の胞子が何年にも渡って宇宙から地球へと降り注いでいること、複製人間が感情を持たないエイリアンであることなどは示唆されるものの、具体的な事は一切触れられていない。何が起きているのかはっきりと分らない、という曖昧さが観客の不安感をより一層煽るわけだ。
監督は「殺人者たち」('64)や「マンハッタン無宿」('68)、「ダーティ・ハリー」('70)などの、ハードボイルドなアクション映画で絶大な人気を誇る巨匠ドン・シーゲル。アメリカ盤DVDの映像特典として収録されているケヴィン・マッカーシーのインタビューによると、シーゲル監督は特にマッカーシズムや社会主義といったものへの批判を意識はしていなかったというが、赤狩りに象徴される全体主義が社会に暗い影を投げかけていた時代の空気というものを如実に捉えた作品であることは間違いない。
ジャック・フィニーの古典的SF小説を脚色したのは、西部劇やハードボイルド物で知られるダニエル・メインウェアリング。バイオレンス映画の巨匠サム・ペキンパーがノー・クレジットで協力しているのにも注目したい。ペキンパーはガソリンスタンドの店員役として顔も出している。
そして、本作の製作を担当したのはウォルター・ウェインジャー。グレタ・ガルボの「クリスチナ女王」('33)やフランク・ボーゼージ監督の「歴史は夜作られる」('37)、ジョン・フォード監督の「駅馬車」('39)、ヒッチコック監督の「海外特派員」('40)など数多くの名作を世に送り出した大御所プロデューサーだ。
なお、本作は警察署に駆け込んだベネル医師のフラッシュ・バックとして語られていくが、当初はこのフレーム・ストーリーが存在しなかった。もともとは、トラックに積まれて各地に送られていく莢(さや)を目撃したベネル医師が、半狂乱になって叫びまくるというシーンで終わるはずだった。ところが、このクライマックスではあまりにも救いがないと判断したウェインジャーによって、追加撮影の指示が出されたのだという。前後に警察署のシーンが加えられたことで、ベネル医師の警告によって警察が動き出す可能性というものを示唆しているわけだ。
ベネル医師役のケヴィン・マッカーシーは「荒馬と女」('61)、「ビッグ・アメリカン」('76)、「ハウリング」('82)、「インナー・スペース」('87)などで知られる名脇役。ヘンリー・フォンダ、ジョアン・ウッドワードと共演した「テキサスの五人の仲間」('65)の軽妙洒脱な演技は素晴らしかった。本作は彼にとって数少ない主演作の一つで、まさに迫真の大熱演を繰り広げている。既に90歳を超えているが、今なお現役で活躍しているというのがとても嬉しい。
その相手役であるベッキーを演じているのは、50年代を代表する美人スター、ダナ・ウィンター。戦争映画の名作「あの日あのとき」('55)のしっとりとした美しさも忘れがたい女優だ。そして、テレビ「アダムスのお化け一家」のモーティシア役で有名なキャロリン・ジョーンズが、エイリアンの侵略にいち早く気付くテディ役を演じている。
なお、本作のDVDは過去に日本盤も発売されているが、何故か画面の両サイドをカットしたトリミング・バージョンで、しかもカラー着色されているという酷い代物。それ以前に発売されていた日本盤VHSも、残念ながらトリミング・バージョンだった。上記のアメリカ盤DVDは、リパブリック・ピクチャーズが保管していたオリジナル・ネガからテレシネ・リマスターされており、画質・音質共に大変良好。SFファンならば廃盤にならないうちに、是非とも入手しておきたい。
黒い蠍
The Black Scorpion
(1957)
日本では1958年劇場公開
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済
(P)2003 Warner Home Video
(Japan)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(日本盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル
/音声:英語/字幕:日本語・英語/地域コード:2/88分/製作:アメリカ
映像特典
ストップモーション・マスター
アニマル・ワールド
テスト映像
オリジナル劇場予告編
監督:エドワード・ルドウィグ
製作:フランク・メルフォード
ジャック・ディ−ツ
原案:ポール・イェーツ
脚本:デヴィッド・ダンカン
ロバート・ブリーズ
撮影:ライオネル・リンドン
特撮:ウィリス・H・オブライエン
音楽:ジャック・クッカリー
ポール・ソーテル
出演:リチャード・デニング
マラ・コーディ
カルロス・リヴァス
マリオ・ナヴァーロ
カルロス・ミュズキス
パスカル・ガルシア・ペーニャ
「放射能X」の大ヒットを受けて、ワーナーが製作したSF巨大モンスター映画の名作。本作で巨大化するのは蠍(さそり)だ。「放射能X」では等身大のハリボテ・モンスターが迫力あったものの、大きい分だけ自由に身動きが取れないというのが大きな欠点だった。そこで、今回はストップモーション・アニメで知られる特撮の巨匠ウィリス・H・オブライエンを起用。ミニチュア・モデルによるコマ撮りを駆使し、巨大蠍軍団が列車を襲撃したり、軍隊と激突したりと、なかなか迫力のある見せ場が用意されている。合成シーンでは微妙に粗が目立ったりするものの、古い特撮映画はそれすらも味わいに変えてしまう魅力があるから不思議だ。
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地質学者のスコット教授(R・デニング) |
牧場を経営する女性テレーザ(M・コーディ) |
メキシコで大地震が発生し、太古の火山が噴火した。現地を訪れた地質学者のハンク・スコット教授(リチャード・デニング)とアルトゥーロ・ラモス博士(カルロス・リヴァス)は、調査の途中で破壊された民家を発見する。その様子は、明らかに地震で壊されたものではなかった。しかも、民家の傍らには同じように破壊されたパトカーがあり、近くには警官の死体があった。さらに、二人は近辺で奇妙な音を耳にする。
近くのサン・ロレンゾという町へ到着した二人は、教会の神父から近隣の住民や家畜が巨大生物によって次々と殺されているという事実を聞く。住民たちは古代神話に出てくる魔物“悪魔の雄牛”の仕業として怖れていた。
翌朝、火口付近を調査していたスコット教授とラモス博士の二人は、近郊で牧場を経営する女性テレーザ・アルヴァレス(マラ・コーディ)と知り合う。テレーザの申し出で牧場に調査本部を置くことにした二人は、火口付近で発見した溶岩石の中に蠍が閉じ込められている事に気付く。溶岩石を割ってみたところ、何とその蠍は生きていた。
ちょうどその頃、地震で切断された電話線を工事していた作業員たちが巨大生物に襲われる。それは、高さ10メートルはあろうかという巨大な蠍だった。やがて、サン・ロレンゾの町にも蠍の大群が来襲して大パニックに陥り、テレーザの牧場も同じように襲われる。
翌日、メキシコ・シティから昆虫学の権威ヴェラスコ博士(カルロス・ミュスギス)が軍隊を引き連れてサン・ロレンゾに到着した。ヴェラスコ博士の話によると、巨大蠍は太古に絶滅したはずの種族で、恐らく火山噴火によって地上へ出てきたのだろう、ということだった。
そこで、巨大蠍の住処である火口付近の洞窟へ軍隊を送り込み、毒ガスを使って一網打尽にするという計画が立てられるのだったが・・・。
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火山の噴火で甦った古代の巨大蠍 |
列車を襲撃する蠍軍団 |
様々な巨大昆虫がうごめくクライマックスの洞窟シーンは結構な迫力で、巨匠ウィリス・H・オブライエンの腕の見せ所といった感じだ。ただ、製作途中で資金が底をついてしまったため、メキシコ・シティを蠍軍団が襲うシーンではモデル・アニメーションを使うことが出来ず、シルエットを使った光学合成処理で間に合わせなければならなかった。その他、製作費を節約するための応急処置が随所で施されており、結果的にオブライエンの仕事としては必ずしも納得のいくものには仕上がっていない。それでも、巨大昆虫同士の格闘シーンや、モデル・アニメーションを合成したパニック・シーンは十分に見応えがあり、古い特撮映画のファンならば十分に楽しめるはずだ。
ちなみに、洞窟シーンで登場する巨大蜘蛛は、オブライエンが「キング・コング」('33)の撮影のために作ったモデルを使用。また、随所で挿入される蠍の鳴き声は、「放射能X」で使用された蟻の鳴き声をそのまま流用している。
監督のエドワード・ルドウィグは、ジーン・アーサー主演のロマンティック・コメディ「マンハッタン夜話」('36)からジョン・ウェイン主演の西部劇「怒涛の果て」('49)まで、どんなジャンルでもそつなくこなす職人肌。ただ、本作の場合は目玉となる特撮シーンを全てオブライエンが演出しており、逆にルドウィグの手掛けたドラマ・シーンでの緊張感の無さが露呈してしまっている。
脚本も非常にシンプルで単純。それだけに、どんでん返しの連続だった「放射能X」に比べると安直な印象は否めない。担当したのは爬虫類パニック映画の怪作「吸血の群れ」('72)を手掛けたロバート・ブリーズと、「タイムマシン」('60)のデヴィッド・ダンカンの二人。
主人公スコット教授を演じるのは「大アマゾンの半魚人」、“Target
Earth”のリチャード・デニング。そして、ヒロインのテレーザ役を演じているのは、同じく巨大モンスター映画の名作「世紀の怪物/タランチュラの襲撃」('55)に主演したマラ・コーディ。彼女はクリント・イーストウッドと非常に親しいことで知られており、「ガントレット」('77)、「ダーティ・ハリー4」('83)、「ピンク・キャデラック」('89)、「ルーキー」('90)と、イーストウッド映画に数多くゲスト出演している。
また、ラモス博士役のカルロス・リヴァスは、名作「王様と私」('56)でタプティムと恋に落ちる男性ルン・タイ役を演じた事で知られるメキシコ系俳優。アリソン・アンダース監督の「ガス・フード・ロッジング」('92)にもチョイ役で顔を出していた。
宇宙船の襲来
I Married
A Monster From Outer Space
(1958)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売
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(P)2004 Paramount (USA) |
画質★★★★☆ 音質★★★★☆ |
DVD仕様(北米盤) モノクロ/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:英語/ 地域コード:1/77分/製作:アメリカ 映像特典 なし |
監督:ジーン・フォウラー・ジュニア 製作:ジーン・フォウラー・ジュニア 脚本:ルイス・ヴィッテス 撮影:ハスケル・B・ボッグス 特撮:ジョン・P・フルトン 出演:トム・トライオン グロリア・タルボット ピーター・ボールドウィン ロバート・アイヴァース チャック・ワッシル ヴァェリー・アレン タイ・ハンガーフォード |
どういうわけか日本語タイトルは「宇宙船の襲来」となっているが、べつに宇宙船が襲来したりするシーンなどはない。絶滅の危機に瀕したエイリアンが地球の女性を妊娠させるべく、次々と男性の身体を乗っ取っていくというのが大まかな粗筋で、“私は宇宙から来たモンスターと結婚した”というオリジナル・タイトルの方が内容的にしっくりと来るだろう。
小さな町がいつの間にかエイリアンだらけになってしまうという展開は「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」のバリエーションとも言えるが、冒頭でエイリアンの正体が明かされてしまうので大した緊迫感もない。とはいえ、エイリアンのグロテスクでユニークな造形はなかなか秀逸だし、単純で底の浅いプロットも子供向け科学空想小説みたいで面白い。ポップコーンを片手に、気楽に楽しみたいB級SFホラーの古典だ。
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夫ビル(T・トライオン)の変化に気付いていくマージ(G・タルボット) |
森の中に姿を隠しているエイリアン |
結婚式を翌日に控えた若者ビル・ファレル(トム・トライオン)は、仲間たちとの飲み会に参加した帰り道、恐ろしい姿をしたエイリアンに襲われてしまう。翌日、ビルは何事もなかったかのように結婚式場に現れるが、新妻マージ(グロリア・タルボット)に対する態度はどこかよそよそしかった。
最初は気にも留めなかったマージも、やがて彼の言動がおかしいことに気付いていく。以前は大好きだったアルコールを一切受け付けなくなり、その話し方にも喜怒哀楽が一切無くなってしまった。さらに、犬が大好きな彼のためにペットとして子犬を買ってきたマージだったが、子犬はビルの存在に怯えて威嚇する。そんな子犬を、ビルは何食わぬ顔で絞め殺すのだった。
結婚1周年を迎えたビルとマージだったが、二人の間には一向に子供の出来る気配がなかった。一方、街では住民が次々とエイリアンに襲われて体を乗っ取られていく。ある晩、ビルが家を抜け出すのを見かけたマージは、彼の後をこっそりと付いていった。すると、森の中でビルの身体からエイリアンが抜け出し、UFOの中へと入っていくのを目撃してしまう。
恐怖でパニックに陥ったマージは、街の人々に助けを求めるが誰も信用してくれない。さらに、警察へ駆け込んで署長に一部始終を説明したマージだったが、既に警察の人々はエイリアンによって身体を乗っ取られていた。電話・郵便・道路など、街の外へ繋がる連絡手段は全て遮断されていた。
意を決したマージは、“あなたの正体を知っている”とビルに告げる。すると、彼は淡々と事情を説明し始めるのだった。自分たちの惑星では女性が死滅してしまい、子孫を残すために地球へやってきたのだということを。そして、彼は“愛情”という地球人特有の感情を徐々に理解するようになった話す。
そのビルの告白を聞いたマージは、思いがけず彼に同情を感じるのだった。しかし、そうこうしているうちに地球がエイリアンによって侵略されてしまうかもしれない。彼女は普段から信頼しているウェイン医師(ケン・リンチ)に相談する。街の人々の異変に気付いていたウェイン医師はすぐに自警団を組織し、森の中に隠されたUFOを襲撃しようとするのだったが・・・。
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ビルの奇妙な行動に疑いを強めていくマージ |
ビルの正体は醜悪なエイリアンだった |
とりあえず、突っ込みどころを挙げたらきりがない。結婚して1年が経っても子供が出来ないことに悩むマージだが、するってーと一応やることはやってんだ!?とか、エイリアンも人間と同じようにセックスするんかい!?とか、子供が出来ないってことはそもそも彼らの種付け計画は失敗なんじゃ!?とか。
また、いつの間にか町の外部との連絡手段が断たれてしまっているわけだが、誰一人その事に気付いてないってのもおかしな話だ。町の住人が次々とエイリアンに身体を乗っ取られたとは言っても、せいぜい20人程度のこと。しかも、こんな小さな町だと逆に気付かれてしまうリスクの方が高いはず。なぜ大都市を狙わなかったのだろうか、というのも大きな疑問。
いずれにせよ、えてして昔のB級SF映画のエイリアンたちは、言うことはデカイがやることは小さかったりする場合が多い。この種馬エイリアンたちにしても、どうやら計画性よりも生殖本能の方が勝ってしまったようだ。
製作と監督を兼ねるのはジーン・フォウラー・ジュニア。50年代から60年代にかけて低予算の西部劇やギャング映画を数多く手掛けた人で、父親も有名な脚本家だった。ビジュアル的な面で非常にきめ細やかな演出をする人で、本作でも緻密に計算されたカット割りや画面構成を披露している。そういった意味では、B級映画らしくない風格を漂わせた作品だと言えなくもないだろう。エイリアンに身体を乗っ取られた人間が、稲妻の光に照らされると顔面に醜い素顔が浮かび上がるというアイディアも悪くない。
脚本のルイス・ヴィッテスも50年代にB級西部劇を多く手掛けた人。何とものんびりして緊張感のないストーリー展開だが、エイリアンたちが必ずしも地球を乗っ取ろうとしているわけではないこと、実は彼らの最大の弱点が酸素だということ、エイリアンとマージとの間にほのかな愛情が芽生えかけるなど、ちょっとひねったアイディアが詰め込まれている点は面白いと思う。
なお、撮影監督のハスケル・B・ボッグスは、ジェリー・ルイス主演の「底抜け」シリーズで知られる人物。また、特撮を担当したジョン・P・フルトンは、「魔人ドラキュラ」('31)や「フランケンシュタイン」('31)をはじめとする一連のユニバーサル・ホラーの特殊効果を手掛けた人物で、「十戒」('56)ではオスカーも受賞している大御所。ヒッチコックの「めまい」('58)でクラクラとする視覚効果を担当したのもフルトンだ。
ビル役のトム・トライオンは当時売り出し中の若手2枚目スターだったが、出演作の殆んどが低予算のB級映画で、俳優としてはあまり大成できなかった。だからというわけではないだろうが、後にベスト・セラー作家へと転身している。ハンサムというよりも、どこか不気味で暗い陰のある顔立ちが印象的な人なので、本作などはまさに適役だったと言えるだろう。
マージ役のグロリア・タルボットは、ハンフリー・ボガートと共演した「俺たちは天使じゃない」('55)で注目を集めた女優だったが、やはりその後はB級路線まっしぐらだった。
The Crawling Eye
(1958)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本発売なし
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(P)2001 Image/Corinth Films (USA) |
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆ |
DVD仕様(北米盤) |
監督:クェンティン・ローレンス 製作:モンティ・バーマン ロバート・S・ベイカー 原案:ピーター・ケイ 脚本:ジミー・サングスター 撮影:モンティ・バーマン 音楽:スタンリー・ブラック 出演:フォレスト・タッカー ジェニファー・ジェイン ローレンス・ペイン ジャネット・マンロー ウォーレン・ミッチェル アンドリュー・フォールズ スチュアート・サウンダース |
イギリスで製作されたSFホラーの隠れた名作。スイスの山岳地帯で発生する猟奇的な連続殺人、何者かのテレパシーによって導かれてきた美人姉妹、霧の中に姿を隠した謎のモンスター。全てはエイリアンによる地球侵略の予兆なのか・・・?ハリウッド製SF映画にはない独創性がとてもユニークだ。
緊迫感溢れるストーリー展開、当時としてはかなり過激な残酷描写、ゴシック・ムードたっぷりのダークな映像、そして悪趣味そのものの奇怪なモンスター・デザイン。さすがハマー・ホラーを生み出したお国柄だけあって、本気で怖いSFホラー作品に仕上がっている。
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スイスのトロレンベルグ村を訪れたブルックス(F・タッカー) |
超能力を持つ女性アン(J・マンロー)と姉サラ(J・ジェイン) |
舞台はスイスの山間にある小さな村トロレンベルグ。三人の男性が山を登っていた。先に上へ登った一人が突然、“霧が立ち込めてきた”と言い出す。しかし、辺りは雲ひとつない晴天。山の中腹に残された二人が怪訝そうな顔をしていると、上の男性が悲鳴を上げて落下してしまった。命綱を手繰り寄せて仲間を引き上げる二人。彼らが目にしたのは、首をもぎ取られた仲間の無残な死体だった。
その頃、国連の科学捜査官アラン・ブルックス(フォレスト・タッカー)は列車でトロレンベルグへと向っていた。旧友のクレヴェット博士(ウォーレン・ミッチェル)から呼び出しの連絡があったからだ。
いよいよ列車がトロレンベルグに近づいてくると、突然同乗していた若い女性が気を失って倒れてしまう。彼女の名前はアン・ピルグリム(ジャネット・マンロー)。姉のサラ(ジェニファー・ジェイン)と共にジュネーヴを目指して旅行中だったが、トロレンベルグの山を眺めているうちショック状態に陥ったらしい。
是が非でもトロレンベルグで下車すると言い張るアンに根負けしてしまうサラ。二人はブルックスと共に、トロレンベルグのホテルへと向う。その道すがら、アンは何かに取り憑かれたかのように、最近地元で多発している首なし殺人事件について喋り続けていた。
実は、アンにはテレパシー能力があった。もともと姉妹は透視芸を売り物にするマジシャン。当初は普通にトリックを使っていたものの、あるとき突然アンが本物の超能力に目覚めてしまったのだった。どうやら、彼女は山の上に潜む何者かのテレパシーを感知し、それに引き寄せられているらしい。
一方、ブルックスは山頂にあるクレヴェット博士の研究所へと向っていた。博士がブルックスを呼び出した理由もまた、例の首なし殺人事件だった。実は、近年ヨーロッパ各地で似たような出来事が多発しており、ブルックスと博士は国連の依頼で事件を追跡調査していたのだ。
いずれのケースも、事件が起きるのは決まって山岳地帯。現場には必ず霧状の雲が立ちこめる。どうやら、その雲の中に得体の知れない生物が潜んでいるようだった。博士はそれがエイリアンであると信じているが、確かな証拠は一切ない。
その晩、二人の登山者が山小屋で消息を絶ってしまった。いち早くアンがテレパシーで察知するものの、二人を助けることは出来なかった。翌朝、調査に出かけたブルックスたち一行は、山小屋で一人の首なし死体を発見する。しかし、もう一人は行方不明のままだった。
やがて、その行方不明だった一人が突然ホテルに戻ってくる。だが、どうも様子がおかしい。手足の感覚が完全に麻痺してしまっているのだ。そこへアンがやって来ると、男はいきなりナイフを取り出して彼女に襲い掛かろうとする。危機一髪のところで男を殴り倒すブルックス。よく調べてみると、男はホテルに戻ってきた時点で既に死んでいたことが分る。何者かが死体を操ってアンを殺そうとしていたのだ。
ブルックスとクレヴェット博士は、過去に同じような出来事があったことを思い出した。雲の中に隠れている何者かが、アンを亡き者にしようとしている。彼女の持つテレパシー能力が、彼らの計画の邪魔になるからだった。
翌朝、山頂の研究所から、霧状の雲がホテル近辺を覆い始めているという連絡が入る。村から脱出するための道路にも、既に霧が立ち込めていた。ホテルの宿泊客と従業員はゴンドラを使って研究所へ避難することにする。だが、そうこうしているうちにホテルにも霧が立ち込めてきた。やがて、その中から世にも恐ろしいモンスターが姿を現すのだった・・・。
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山小屋で発見された登山客の首なし死体 |
霧の中から姿を現した目玉エイリアン |
まず、巨大な目玉に触覚が生えたようなモンスターのクリチャー・デザインがインパクト強烈だ。このデザインにはファンの間でも賛否両論あるようだが、当時のSF映画に登場するモンスターとしては秀逸な出来映えではないかと思う。少なくとも、独創性という点ではピカ一。
監督のクェンティン・ローレンスはイギリスのテレビ界で活躍した人物で、本作が初の劇場用映画作品だった。他に手掛けた劇場用映画も、たった4本だけ。この作品を見る限りでは非常に優れたホラー・センスを持った演出家であり、映画界に腰を落ち着けることがなかったというのは実に残念。
実を言うと、本作はイギリスで放送されたテレビ・シリーズ“The
Trollenberg
Terror”の劇場版リメイクに当たる。そのテレビ版の演出を手掛けていたのが、ローレンス監督だったというわけだ。なお、イギリス及びヨーロッパ各国では、劇場版も“The
Trollenberg
Terror”のタイトルで上映されている。
そして、その劇場用として新たに脚本を仕上げたのがジミー・サングスター。「怪獣ウラン」('56)や「吸血鬼ドラキュラ」('57)、「フランケンシュタインの復讐」('57)など、一連のハマー作品を手掛けた名脚本家だ。シリアスで全く無駄のないストーリー展開はさすがの一言。セリフの一つ一つを取っても非常に説得力があり、荒唐無稽な題材に生々しいリアリズムを与えている。彼の代表作のひとつといっても過言ではないはずだ。
主演は「硫黄島の砂」('49)や「ミズーリ大平原」('53)などの戦争映画、西部劇、アクション映画で知られるアメリカの渋いタフガイ・スター、フォレスト・タッカー。普段はSF映画やホラー映画とは無縁な俳優なだけに、かえって存在感や演技に説得力が生まれている。これこそキャスティングの勝利。
超能力を持つ女性アン役を演じるジャネット・マンローは当時新進の若手スターとして注目されていた女優で、この翌年にウォルト・ディズニーと契約してハリウッドへ進出。「四つの願い」('59)や「南海漂流」('60)などでヒロインを演じ、ゴールデン・グローブ賞の新人賞も受賞した。しかし、私生活では病気や流産などの不幸が続き、38歳の若さで病死してしまった。本作では彼女の可憐な美しさも見どころのひとつだろう。
アンの姉サラ役を演じているジェニファー・ジェインは、フレディ・フランシス監督のSF映画「宇宙からの侵略者」('67)に主演していた人で、主にイギリスのB級映画で活躍した女優さん。その傍ら、ジェイ・フェアバンクのペン・ネームで「異界への扉」('72)などの脚本も手掛けていた。
また、事件を追うジャーナリスト、トラスコット役で登場するローレンス・ペインは、テレビ版でも同じ役を演じていた人物。日本ではハマーの異色ホラー・コメディ「吸血鬼サーカス団」('71)くらいでしか知られていない俳優だが、イギリスでは60年代から70年代にかけて大ヒットしたテレビ・シリーズ“Sexton
Blake”の主役で人気を博したスターだった。
なお、上記のアメリカ盤DVDに収録されているのはヨーロッパ公開版で、本編のタイトルは“The Trollenberg Terror”とクレジットされている。画質そのものは大変良好だが、フィルムの傷がそのまま残ってしまっているのはちょっと残念。