50年代カルトSF映画傑作選 Part 1

 

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「遊星よりの物体X」より

「宇宙水爆戦」より

 

 ハリウッドの定番人気ジャンルとも言えるSF映画だが、そのルーツは1950年代にあると言っていいだろう。もちろん、それ以前からSF映画は作られてきた。その原点とも言えるのがジョルジュ・メリエス監督の「月世界旅行」('02)。ニコニコ顔の月面にロケットが突き刺さるシーンは、あまりにも有名だ。また、1920年代にはドイツのフリッツ・ラング監督が「メトロポリス」('26)という大傑作を世に送り出しているし、1930年代にはイギリスで「来るべき世界」('36)という名作が生まれている。特徴的なのは、未来の世界を描きながらも当時の世界情勢を色濃く繁栄させ、鋭い文明論を展開している点だろう。
 一方、ハリウッドではSF的要素を持ったフランク・キャプラ監督の名作「失われた地平線」('36)や、どちらかというとモンスター映画とも言うべき「キング・コング」('33)のような作品はあったものの、ストレートなSF映画はあまり主流ではなかったと言えるかもしれない。バスター・クラッブが主演した「フラッシュ・ゴードン」シリーズや「バック・ロジャース」シリーズなど、主に低予算の子供向け連続活劇として作られることが多かったことからも分るように、ハリウッドでは長いことSFが真っ当な映画ジャンルとして認知されていなかった。
 ヨーロッパの映画人がSFを一つの重要な芸術的表現手段として見出していたのに対し、なぜハリウッドでは軽んじられてきたのかというと、これは文化的レベルや土壌の違いとしか言わざるを得ないだろう。それはホラー映画やファンタジー映画がヨーロッパで先に発達してきたのと同様であり、ヨーロッパ人の方が豊かな想像力に恵まれていたと言っていいのかもしれない。そんなハリウッドでSF映画が市民権を得るようになったのが、1950年代なのである。

 それでは、なぜ1950年代だったのかというと、そこには東西の冷戦を背景にした宇宙開発の盛り上がりと、映画における急速な特撮技術の進歩が挙げられると思う。特にアメリカとソ連がしのぎを削った宇宙開発競争は、当時の米国市民に宇宙へ対する大きな興味を誘発した。もちろん、ハリウッドがこの社会現象を見逃すはずがあるまい。
 その先陣を切ったのが、ハリウッドにおける特撮映画の立役者でもあるジョージ・パルによる「月世界制服」('50)。今から見れば他愛ない宇宙探検映画だが、科学的考証をもとにした特撮の説得力と、リアルな月世界旅行の様子がセンセーションを巻き起こして大ヒットを記録。アカデミー特殊効果賞やベルリン映画祭冒険映画部門銀熊賞などを受賞するほど高い評価を得た。
 翌年には巨匠ハワード・ホークス監督が製作を手掛けた「遊星よりの物体X」('51)が登場。北極に不時着したUFOから現れたエイリアンが、吹雪に閉ざされた米軍基地の中を徘徊するというホラー・サスペンス仕立ての作品で、たちまち大評判となった。また、その後巨匠となるロバート・ワイズが手掛けた「地球の静止する日」('51)も話題となり、エイリアンによる地球侵略ものがSF映画の主流となっていく。
 そして、50年代のSF映画ブームを決定付けたのが、H・G・ウェルズの小説を映画化したジョージ・パル製作の「宇宙戦争」('53)。ある日、地球に落下した隕石から現れたエイリアンの戦闘機軍団が地球侵略を始めるというストーリーは、東西の冷戦による新たな侵略戦争への不安を大いに刺激した。エイリアンたちが大都市を破壊していくというスケールの大きな特撮も圧巻で、見事にアカデミー特殊効果賞を受賞している。
 この「宇宙戦争」の大成功で、ハリウッドのメジャー・スタジオが次々とSF映画大作を作るようになった。「宇宙戦争」はパラマウントだったが、翌年にはワーナーが核実験によって巨大化したアリが人々を襲うという「放射能X」('54)と、やはり核実験で甦った太古の恐竜がニューヨークを襲うという「原子怪獣現る」('54)を発表。ここにも、東西の冷戦による核戦争への危機感が投影されており、次々と類似作品を生み出すようになった。
 さらに、老舗ユニバーサルが「宇宙水爆戦」('55)を世に送り出す。カラフルでスケールの大きな特撮も見事だったが、中でも昆虫のような頭部を持ったエイリアンのインパクトは強烈だった。その後も、「惑星アドベンチャー」('53)、「金星人地球を征服」('56)など、醜悪な姿をしたエイリアンの登場する作品が続々と作られるようになる。
 また、MGMは小型ロボット、ロビーが大人気となったSF活劇「禁断の惑星」('55)を発表し、続編「宇宙への冒険」('56)が作られるほどの大ヒットとなった。

 こうした中、SF映画における芸術性・作家性という意味でエポック・メイキング的な作品が登場する。それがドン・シーゲル監督の傑作「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」('56)。アメリカの平凡な田舎町を舞台に、住民が次々とエイリアンに身体を乗っ取られていく。ある日突然、親しかった隣人が別人のように豹変し、さらには徒党を組んで“魔女狩り”を始めるという恐怖。その背景には、当時アメリカを吹き荒れていたマッカーシズムと赤狩りに対する痛烈な批判があった。
 しかし、その後はSF映画ブームも次第に沈静化していく。日本映画「怪獣王ゴジラ」('56)の大ヒットにより怪獣映画ブームが到来し、「地球へ2000万マイル」('57)や「怪獣ゴルゴ」('59)といった作品が続々と作られるようになった。さらに、メジャー・スタジオがSF映画の製作本数を減らしていったことから、中小のマイナー・スタジオが低予算のB級・C級SFホラーを大量生産するようになり、それが逆にブームの衰退に拍車をかけることになったように思う。もちろん、そうした中にも低予算を逆手に取ったユニークな作品はあったものの、SF映画=安手のゲテモノ映画というイメージが強くなっていってしまった。
 60年代以降も「ミクロの決死圏」('66)や「2001年宇宙の旅」('68)などの優れたSF映画が生み出されていったが、本格的なブームが訪れるのは「スター・ウォーズ」('77)を待たねばならなかった。また、50年代に幼少期を過ごしてSF映画を見て育った世代が、ハリウッドの第一線で活躍するようになったのも70年代。スピルバーグやジョー・ダンテ、ジョン・ランディスといった監督たちが往年のSF映画にオマージュを捧げるようになり、「SF/ボディ・スナッチャー」('78)を筆頭にリメイク作品も作られるようになった。
 最近でも、スピルバーグが「宇宙戦争」をリメイク('05)したり、「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」がニコール・キッドマン主演の「インベージョン」としてリメイクされたりと、50年代SF映画の伝統は脈々と受け継がれている。

ということで、50年代のSF映画作品の中から、一度は見ておきたい名作・珍作を独断と偏見でチョイスし、何回かに分けて紹介していきたいと思う。

 

宇宙戦争
The War Of The Worlds (1953)
日本では1953年劇場公開//日本盤VHS・DVD発売済

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(P)2005 Paramount (USA)
画質★★★★☆ 音声★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダード・サイズ/2.0chサラウンド・モノラル/音声:英語・フランス語
/字幕:英語/地域コード:1/85分/製作
:アメリカ

映像特典
主演スターによる音声解説
映画監督J・ダンテらによる音声解説
メイキング・ドキュメンタリー
H・G・ウェルズのドキュメンタリー
マーキュリー劇団のラジオ版(音声)
オリジナル劇場予告編
リメイク版予告編

監督:バイロン・ハスキン
製作:ジョージ・パル
脚本:バー・リンドン
原作:H・G・ウェルズ
撮影:ジョージ・バーンズ
音楽:リース・スティーヴンス
出演:ジーン・バリー
    アン・ロビンソン
    レス・トレメイン
    ロバート・コーンスウェイト
    サンドロ・ジリオ
    リュイス・マーティン
    ポール・フリース
ナレーター:セドリック・ハードウィック

 ハリウッドにおけるSF映画の父とも言えるジョージ・パルが、「月世界征服」('50)、「地球最後の日」('51)に続いて世に送り出したSF大作が、この「宇宙戦争」である。1953年に全米公開され、50年代SF映画ブームの決定打とも言える大ヒットとなった作品だ。
 H・G・ウェルズの原作小説の映画化権は、もともとパラマウントのジェシー・ラスキーが1924年に獲得していた。当初はセシル・B・デミルが監督する予定だったが流れてしまい、その後デ・ミルが製作してアルフレッド・ヒッチコックが監督するという話も浮上したが、これも頓挫してしまった。当時のハリウッドでは、SF映画はあまり重要視されていなかったのだ。
 一方、1940年代に祖国オランダから戦火を逃れてハリウッドにやって来たジョージ・パルは、若い頃からSFやファンタジーの世界に造詣が深かった。もともとパペット・アニメの出身であり、そうした空想の世界に深い愛着があったであろうことは想像に難くない。
 ウェルズの原作の映画化権をパラマウントが持っていると知ったパルは、バー・リンドンの書いた脚本をパラマウントの重役に手渡した。しかし、その重役はSF映画の脚本というだけで、中身を読みもせずにゴミ箱に捨ててしまった。そのことを知ったパルはもちろん大激怒し、その重役の胸ぐらを掴んで殴りかかろうとしたという。普段は陽気で温厚なパルが本気で怒ったということで周囲もビックリし、別の重役の仲裁でパラマウントの出資が決定したのだった。
 既に「月世界征服」でオスカーを受賞し、ちゃんとした実績を挙げていたジョージ・パルでさえ、このような仕打ちを受けてしまうほど、当時のハリウッドにおけるSF映画の商品価値というのは低かったのだろう。それは、劇場公開に先駆けたプレミア上映が小規模であったことでも窺い知ることが出来る。DVDの映像特典で主演のアン・ロビンソンが、本作のプレミア上映が行われなかったと語っているのだが、実際には1953年2月20日にハリウッドの劇場で行われている。ということは、彼女の記憶に残らないほど地味だったか、もしくは主演スターが招かれなかったかのどちらかであり、いずれにせよ極めて小規模なプレミア上映であったのだろう。
 しかし、蓋を開けてみれば、その年の劇場公開作の中でもトップ・クラスに入る大ヒットを記録し、50年代に公開されたSF映画の中では「原子怪獣現る」、「放射能X」に続く興行成績をあげたのだった。

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主演のアン・ロビンソンとジーン・・バリー

透明バリアーで攻撃をかわすエイリアンたち

 舞台はカリフォルニアの長閑な田舎町。ある晩、巨大な隕石が郊外の山腹に落下した。山火事を防ぐため、ただちに地元の消防団が消火活動に当たる。翌朝、たまたま近隣で釣りを楽しんでいた科学研究所のフォレスター博士(ジーン・バリー)が、調査のために現場を訪れる。有能な科学者として世間の注目を集めている博士の到着に、南カリフォルニア大学で教鞭をとる若い女性シルヴィア(アン・ロビンソン)は興奮を隠せない。
 一方、隕石の大きさの割に、落下地点の穴があまり大きくないことに疑問と不安を感じる博士。さらに、隕石から放射能が検出されたことから、警察は地元の人々が近づかないよう夜間の見張りを配置することする。
 その夜、町の人々がお祭り騒ぎを繰り広げる中、隕石の見張りをしていた人々は妙な異変に気付く。隕石の一部からヘビ型のカメラのようなものが現れたのだ。これはただの隕石ではない、もしかしたら今地球に接近していると言われる火星からやってきた宇宙人かもしれない。そう考えた彼らは、白旗を掲げてコミュニケーションを取ろうとカメラに近づくが、突如として発射されたビーム光線で殺されてしまう。
 その瞬間、町全体の電気が落ちてしまう。さらに、電話も通じず、時計の針も止まってしまった。金属が磁気の影響を受けているようだったが、原因は不明だった。さらに、隕石の落ちた山腹が赤々と燃え盛っている。現場に駆けつけた警官とフォレスター博士は、例のヘビ型カメラの攻撃を受け、火災の原因が何なのかを知る。
 翌日、地元警察の通報を受けた陸軍が、早朝から次々と現場に到着した。陣頭指揮を取るのはマン将軍(レス・トレメイン)。やがて、隕石の中から三機の未確認飛行物体が姿を現す。どうやらエイリアンの戦闘機のようだ。攻撃の準備を進める軍隊。しかし、シルヴィアの叔父であるコリンズ神父(リュイス・マーティン)は、戦いよりもまずはコミュニケーションを取る事が大切であると、聖書を片手にエイリアンの戦闘機に近づいていく。そんな神父を情け容赦なくレーザー光線で消し去るエイリアン。
 たちまち、カリフォルニアの静かな山は激しい戦場と化した。しかし、エイリアンの戦闘機は強力な透明バリアーに守られており、陸軍の兵器は全く役に立たない。次々と敵方のレーザー攻撃で破壊されていく米陸軍。一時退却の命が下り、フォレスター博士とシルヴィアの二人もプロペラ機に乗って辛くも脱出に成功した。
 しかし、二人の乗ったプロペラ機は流れ弾に当たり、森の中に不時着してしまう。近くに山小屋を見つけて隠れる博士とシルヴィア。一方で、夜空には無数の隕石が落下して来るのが見える。その中の一つが山小屋を直撃し、二人はエイリアンと遭遇する。敵方の偵察カメラを破壊して持ち出すことに成功した二人は、命からがらエイリアンの攻撃を逃れたのだった。
 さて、一方で世界中の都市がエイリアンの攻撃を受けていた。ニューヨークやシカゴも破壊され、ホワイトハウスは原爆の投下を決断する。世界中の期待を背負った原爆攻撃だったが、それすらもエイリアンの戦闘機には全くの無力だった。エイリアンの一団はロサンゼルスに向っており、大都市は未曾有の大パニックに陥る。
 一方、フォレスター博士とシルヴィアが持ち帰った機械から、エイリアンに対抗する新兵器を開発した科学研究所の面々だったが、混乱の中で離れ離れになってしまう。何とか機材をトラックに積んで逃げ出したフォレスター博士だったが、逃げ遅れて暴徒と化した民衆にトラックを奪われ、せっかくの機材も破壊されてしまった。
 やがてエイリアンの一団がロサンゼルスに到着し、街は火の海と化していく・・・。

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エイリアンの偵察マシンから身を隠す博士たち

ロサンゼルスを破壊するエイリアンの一団

 もともとウェルズの原作は19世紀末のイギリスを舞台にしていたが、映画化に際して50年代のアメリカに設定が変えられた。そして、ビクトリア調時代の古風な有機的デザインで描写されていたエイリアンの戦闘機も、モダンで幾何学的なUFO型にバージョン・アップされている。バー・リンドンの脚本は当時最先端の科学的知識や軍事知識を随所に散りばめており、エイリアンの地球侵略という突拍子もない物語に真実味を持たせることに成功している。
 ただ、敵方に原子爆弾を投下する下りは、まだ放射能の危険性が十分に認識されていなかった時代ということもあり、今見るとあまりにも無茶な戦略としか言いようがない。だいたい、主人公たちは平気で爆風を浴びてしまっているが、あれでは全くの自殺行為だ。とはいえ、時代が時代だったのだから仕方がない。クラシック映画を語る際には、そうした当時の時代背景も考慮しなくてはフェアとは言えないだろう。
 また、エイリアンがあまり姿を見せる事がないというのも非常に効果的。有無を言わさずに人類を攻撃して来る冷酷さとも相俟って、不気味なまでの恐怖感を醸し出している。人間がレーザー光線で灰になってしまうという設定も十分に怖い。変に無駄なコメディ・リリーフを入れたりしない、徹底されたシリアス路線はかなり骨太な印象だ。それはすなわち、製作者サイドが極めて真剣に取り組んでいるという事の証でもあり、作品全体に心地良い緊張感を与えている。

 そして、やはり一番見応えあるのが、壮大なスケールの特撮である。まだCGなど影も形もない時代。全てが手作りなわけだが、その生身の迫力とスケール感は、CGでは決して再現できない魅力がある。巨大なミニチュア・セットを使って撮影された戦闘シーンは、コンピューター上で描かれたリアルなVFXとは一味も二味も違った迫力があるのだ。
 確かに、戦闘機を吊っているワイヤーがチラリと見えてしまっているし、合成部分のつなぎ目がチカチカして気になる部分もある。でも、そこに費やされた職人たちの果てしない労力と漲る情熱が手に取るように伝わってくるのも事実で、そんな粗探しなど全くもってバカバカしく思えてくる。メカ・デザインの斬新さ、ミニチュア・セットの精巧さなどには目を見張るものがあり、まさに芸術作品を見ているような感動を味わうことが出来るのだ。それは、やはり手作りの特撮でしか味わえない無上の歓びだと言えるだろう。
 特撮の陣頭指揮を取ったのはゴードン・ジェニングス。サイレント時代から活躍するハリウッドの大御所特撮マンであり、長年の経験で培った特撮技術の粋が集められた見事な仕事ぶりを披露してくれている。
 また、ヒッチコックの「レベッカ」('42)でオスカーを受賞したジョージ・バーンズによるテクニカラー撮影も素晴らしい。特に赤とグリーンの鮮やかな色彩は見事なもので、テクニカラーの醍醐味を存分に味わうことが出来る。中でも、モノクロの戦争記録フィルムで始まり、真っ赤なタイトルがドーンと現れるオープニングは強烈なインパクトだ。当時は、映画本編の前にニュース映画が上映されるというのが一般的で、多くの観客はこのオープニングをニュース映画と勘違いしたため、いきなりカラーのタイトルが現れて度肝を抜かれたという。
 監督のバイロン・ハスキンはサイレント時代から活躍するベテランだったが、本作をきっかけに「黒い絨毯」('54)や「宇宙征服」('55)、そしてテレビの「アウター・リミッツ」シリーズなど数多くのSF作品を手掛けるようになった。

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現在のアン・ロビンソン

現在のジーン・バリー

 主演は人気テレビ「バット・マスターソン」や「バークにまかせろ!」で60年代に一世を風靡した俳優ジーン・バリーと、パラマウントのニュー・フェイスだった女優アン・ロビンソン。二人とも当時は殆んど無名の新人だった。ジョージ・パルはリアリズムを徹底させるため、観客に馴染みの薄い俳優をキャスティングするよう細心の注意を払ったという。本作の出演者で当時最も有名だったのはマン将軍を演じるレス・トレメインだが、彼にしてもラジオの司会者として一世を風靡した人物であり、顔そのものは一般にあまり知られていなかった。
 なお、ジーン・バリーとアン・ロビンソンの二人は、スピルバーグ版の「宇宙戦争」にもダコタ・ファニングの祖父母役で最後にチラリと出演している。また、アン・ロビンソンはテレビのミニ・シリーズとして作られた続編「新・宇宙戦争」('88)で再びシルヴィア役を演じている。

 なお、DVDは本編と予告編のみ収録の通常盤と映像特典満載のスペシャル・コレクターズ・エディションの2種類があり、日本盤・アメリカ盤共に内容は同じ。本編だけをとっても、画質・音質共にスペシャル・コレクターズ・エディションの方が遥かにクオリティが高い。

 

惑星アドベンチャー
Invaders From Mars (1953)
日本では1979年劇場公開/VHSのみ日本発売済

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(P)2002 Corinth/Image (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/
79分/製作:アメリカ

映像特典
イギリス公開バージョン
オリジナル劇場予告編
スチル・ギャラリー
監督:ウィリアム・キャメロン・メンジーズ
製作:エドワード・L・アルパーソン
脚本:リチャード・ブレイク
撮影:ジョン・F・セイツ
音楽:ラウル・クラウシャール
出演:ヘレナ・カーター
    アーサー・フランツ
    ジミー・ハント
    リーフ・エリクソン
    ヒラリー・ブルック
    モリス・アンクラム
    マックス・ワグナー
    ジャニーヌ・ペロー

 僕らの世代にはトビー・フーパー監督の快作(怪作?)「スペース・インベーダー」('86)のオリジナル作品としてもお馴染みの、50年代を代表する侵略型SF映画の古典的名作だ。ともすると、チープでキッチュな宇宙人の特殊メイク(?)ばかりが取り沙汰されがちな作品でもあるのだが、その一方で無垢で幼い少年を主人公にした児童向け空想冒険譚的な面白さが印象深い一本だとも言える。優しい両親が、親しい隣人が、次々とエイリアンに身体を乗っ取られていくという恐怖感に、思春期を迎えようとしている少年特有の揺れ動く心と、豊かな感受性を絡めていくという脚本の素朴な味わいがとても魅力的だ。
 もちろん、そのストーリーの背景には当時のマッカーシズムの影響が色濃く反映されているわけで、共産主義というアメリカ人にとっては未知の怪物に対する恐怖心が根底に流れている。エイリアンによってコントロールされ、人間性を失ってしまった人々というのは、いわば当時のアメリカ人が持つ東欧世界の人々に対する偏見の延長線上にあるわけだ。それを踏まえながら見ると、なにげないシーンでも様々な深読みが出来るかもしれない。
 いずれにせよ、良い部分も悪い部分も含め、50年代という無垢で無知な時代が生み出した、古き良きSF冒険活劇と言えるだろう。

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UFOを目撃したデヴィッド少年(J・ハント)

父親の豹変に戸惑うデヴィッドと母親


 主人公のデヴィッド(ジミー・ハント)は天文学に興味を抱く、ごく普通の12歳の少年だ。彼の父親ジョージ(リーフ・エリクソン)は原子力研究所で働く科学者。デヴィッドの好奇心は父親譲りのようだ。ある晩、デヴィッドは家の裏にある空き地にUFOが不時着するのを目撃する。騒ぐデヴィッドを寝かしつける両親だったが、父親は念のために空き地を偵察してくることにする。近くに原子力研究所があるわけだし、しかも極秘プロジェクトが進行中だ。用心するに越したことはない。
 そして翌朝。目を覚ました母親メアリー(ヒアリー・ブルック)は、夫がまだ戻っていないことに気付く。不安になって警官を呼び、裏の空き地をチェックしてもらうことにする。ところが、警官たちと入れ替わりに父親ジョージが戻ってきた。しかし、どうも様子がおかしい。いつもの優しい笑顔は消え去り、その態度は別人のように冷酷だった。デヴィッドは父親の首筋に傷があることに気付き、何者かに操られているのではないかと感じる。さらに、近所に住む少女キャシー(ジェニーヌ・ペロー)が空き地の砂場に吸い込まれてしまうのを目撃。UFOで飛来したエイリアンが何かを企んでいるに違いなかった。
 急いでキャシーの家に行き、彼女の母親に報告するデヴィッド。しかし、そこへ何事もなかったかのようにキャシーが戻ってくる。だが、その表情は氷のように冷たかった。近所の大人たちに事情を話して助けてもらおうとするデヴィッドだったが、誰も彼の言葉を信用してくれない。
 藁にもすがる思いで警察署に駆け込むデヴィッド。ところが、警察署長は既に彼らの一味となっており、デヴィッドは留置所に入れられてしまう。彼の様子が尋常ではないと感じた警官は、署長に内緒で精神科医パット(ヘレナ・カーター)を呼ぶ。パットはデヴィッドの話が荒唐無稽ではあるものの、ウソや誇大妄想ではないと判断。病院に入院させるという口実を作って、デヴィッドを外に連れ出すことに成功する。
 デヴィッドを連れたパットは、友人である天文学研究所のケルストン博士(アーサー・フランツ)のもとを訪れる。博士はデヴィッドとも親しく、彼の話を真剣に聞いてくれた。そして、博士の話によると、原子力研究所では秘密裏に火星探索ロケットの研究が進められているのだという。デヴィッドの父親はそのチームの一員であり、キャシーの父親もその同僚だった。恐らく、裏の空き地に不時着したUFOに乗っていたのは火星人で、探索ロケットの研究を阻止するのが目的なのだろう。とすれば、研究所が危ない。
 ケルストン博士の通報で、陸軍が動き出した。指揮を取るのはフィールディング大佐(モリス・アンクラム)。その頃、エイリアンに操られた警察署長らがロケットを爆破しようと原子力研究所に侵入。しかし、今一歩のところで阻止されてしまい、署長らは死んでしまう。死因は、首筋に埋め込まれた水晶チップ。これを使って、エイリアンたちは人間を操っていたのだ。さらに、デヴィッドの両親が原子力研究所を襲撃しようとして失敗し、軍隊に身柄を拘束された。首筋の水晶チップを摘出するために病院へと搬送されるデヴィッドの両親。
 一方、空き地では陸軍が攻撃準備を着々と進めていた。その時、パットとデヴィッドの二人が砂に足を取られ、地中へと吸い込まれてしまう。目が覚めた二人を待ち受けていたのは、世にも醜い姿をした火星人たちだった・・・。

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火星人の侵略に陸軍が出動する

タコみたいな火星人のボス

 監督とセット・デザインを担当したのは、「来るべき世界」('36)や「風と共に去りぬ」('39)の美術デザイナーとして有名な大御所ウィリアム・キャメロン・メンジーズ。地下に広がるUFO内のシュールなセット・デザインは見応えがあって面白い。しかし、どうも予算の大半をこのセットに費やしてしまったらしく、それ以外のセットや特殊効果などはかなり安上がりに仕上げられている。
 中でも火星人たちの特殊メイク(?)は極めつけで、その極端な安っぽさが逆に強烈なインパクトを残す。透明ボールに入った火星人のボスはまるでタコ親爺だし、その手下たちに至っては、ベロア地の全身タイツを着てピンポン玉で目を隠しただけの普通のオッサン集団。こいつらがUFO内をノソノソと歩き回る姿はなかなか衝撃的だ。
 ストーリーの原案を手掛けたのはリチャード・ウィドマーク主演の戦争映画「フロッグメン」('51)やレイ・ミランド監督・主演の「リスボン」('56)で知られる脚本家ジョン・タッカー・バトル。ハッピーエンドとはいえない皮肉なクライマックスが心憎い作品だが、それも彼の妻が見た夢から着想を得ているということで大いに納得。
 ただ、このシュールなエンディングは賛否両論だったらしく、イギリスの倫理審査では“重苦しすぎる”として却下されてしまった。そこで、イギリスの配給元は主演のヘレナ・カーター、アーサー・フランツ、そしてジミー・ハントの3人を呼んで新たなシーンを撮影し、ストーリーの一部を変えてしまった。
 ところが、ここで思わぬ事態が発生する。というのも、デヴィッド役の少年ジミー・ハントが成長してしまっていたのだ。なにしろ思春期の子供は成長が早い。明らかに背が伸びてしまっていて、顔つきも大人びてきているし、髪型も短くなってしまった。なので、イギリス公開版では、いきなりデヴィッドが大きくなったり小さくなったりするという摩訶不思議なシーンが存在する。

 ケルストン博士役のアーサー・フランツは主にB級映画で活躍した俳優。これといった代表作はないものの、息の長いキャリアを歩んだ人だった。一方、美人女医パット役のヘレナ・カーターはユニヴァーサルの専属女優として、「熱血児」('49)でダグラス・フェアバンクス・ジュニアの相手役を演じたりしたが伸びずに解雇され、これが最後の出演作となってしまった。デヴィッド役のジミー・ハントは当時売れっ子の子役だったが、主演クラスは本作のみ。86年版のリメイクにも警官役で顔を出している。現在はもう70歳を過ぎており、ひ孫までいるそうだ。
 その他、デヴィッドの父親役のリーフ・エリクソン、母親役のヒラリー・ブルック、フィールディング大佐役のモリス・アンクラムなど、40年代〜50年代の低予算映画には欠かせない名優が脇を固めている。

 なお、上記の50周年記念版DVDだが、テクニカラーの色彩は丁寧に再現されているものの、フィルムの傷などがそのまま残されてしまっているのは残念。ただ、映像特典として、問題のイギリス公開バージョンが収録されているので、SFファンなら是非手に入れておきたいところ。ちなみに、日本盤DVDは発売されておらず、過去にリリースされたVHSは日本語吹替え版での収録だった。

 

イット・ケイム・フロム・アウター・スペース
It Came From Outer Space (1953)
日本では劇場未公開・衛星テレビでの放送のみ
VHS・DVD共に日本では未発売

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(P)2002 Universal (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/3.0chステレオ/音声:英語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/81分/製作:アメリカ

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー
評論家による音声解説
スチル&ポスター・ギャラリー
オリジナル劇場予告編
プロダクション・ノート
キャスト・スタッフ紹介
監督:ジャック・アーノルド
製作:ウィリアム・アランド
原案:レイ・ブラッドベリ
脚本:ハリー・エセックス
撮影:クリフォード・スタイン
音楽:アーヴィング・ガーツ
    ヘンリー・マンシーニ
出演:リチャード・カールソン
    バーバラ・ラッシュ
    チャールズ・ドレイク
    ラッセル・ジョンソン
    キャサリン・ヒューズ
    ジョー・ソーヤー
    デイヴ・ウィルロック

 地上に墜落した謎の隕石、次々と豹変していく人々、そして醜悪な姿をしたエイリアン・・・と、まさに典型的な50年代SF映画のスタイルを踏襲しながら、マッカーシズムという病的な誇大妄想を皮肉った社会風刺映画に仕立ててしまったユニークな作品。さすがはSF小説の大家レイ・ブラッドベリのお仕事。一応、ハリー・エセックスが脚本を担当したことにはなっているものの、ブラッドベリの原案をほぼそのまま使用しているという。
 本作に登場するエイリアンは、偶然地球に不時着してしまっただけの来訪者。UFOを修理して故郷に戻りたいだけなのだが、人類は勝手に彼らを敵だと勘違いして攻撃を仕掛ける。未知のものに対して恐怖と敵対心しか抱かない人類を、エイリアンたちは愚かで未熟な種族だと考える。それはすなわち、社会主義に対する恐怖心に蝕まれた当時のアメリカ社会への痛烈な皮肉だ。さらに皮肉なのは、そのアメリカの“悪癖”が現在まで脈々と受け継がれている点だろう。イラク戦争などはまさにその象徴だ。そういった意味では、アメリカ社会の抱える普遍的な病理を浮き彫りにした作品だとも言えるだろう。

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隕石墜落を目撃するジョンとエレン

果たして本当に隕石なのか、それとも・・・

 荒野の広がるアリゾナ州の小さな町に住む作家ジョン・パットナム(リチャード・カールソン)は、恋人のエレン(バーバラ・ラッシュ)と望遠鏡で星空を眺めていた。ジョンはアマチュアの天文学者でもあり、エレンと星座の話題で盛り上がっていた。すると突然、夜空がまぶしく輝き、巨大な隕石が落下するのを目撃する。
 翌朝、ジョンとエレンは友人ピート(デイヴ・ウィルロック)の運転するヘリで隕石の墜落現場を訪れる。一人で隕石の近くに降り立ったジョンは、そこにUFOらしき物体を発見する。しかし、突如として地盤が崩れてしまい、物体は地中に埋もれてしまう。
 到着した保安官マット(チャールズ・ドレイク)らに自分の見たものを説明するジョンだったが、誰一人として彼の言葉を信用しようとしない。地元の新聞は彼の言葉を面白おかしく取り上げ、ジョンは町中の笑い者となってしまう。
 当初はエレンも彼を信じてよいものかどうか迷っていたが、エイリアンらしき物体を目撃したことから、ジョンの話を信じるようになる。やがて、電線技師のジョージ(ラッセル・ジョンソン)とフランク(ジョン・ソーヤー)が別人のようになってしまった事に気付くジョンとエレン。さらに、電気機材を積んだトラックが行方不明になり、炭鉱で働く人々も姿を消してしまう。
 遂にはエレンまでもが誘拐されてしまい、ジョンは何者かによって炭鉱へと呼び出される。そこにはエイリアンが彼を待ち受けていた。彼らは別の惑星に向っている途中でUFOが故障し、仕方なく地球に不時着したのだという。人々を誘拐していることについても、その姿形そっくりに変身してUFOを修理するための部品や道具を集めるのが目的であり、本人たちには一切危害を加えていないという。彼らの望みは地球を立ち去ること。それまで人々が炭鉱に近寄らないように協力して欲しい、というのがエイリアンからジョンへのメッセージだった。
 しかし、炭鉱に何か未知の生物がいると感づいた保安官マットは、自警団を組織して攻撃を仕掛けようとする。ジョンは平和的に事を解決しようと奔走するが、未知の生物への恐怖心と警戒心から、住民たちは次々と武装して炭鉱へと向うのだった・・・。

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エレンに姿を変えたエイリアン

その素顔を見せるエイリアン

 監督は「大アマゾンの半魚人」('54)で有名なジャック・アーノルド。エイリアンの姿を必要以上に見せたりせず、じわじわとサスペンスを盛り上げていく演出が非常に手堅い。肝心のクリチャー・デザインは今見ると決して上等とはいえないものの、まあ、当時の人々が思い描くエイリアンといえばこんなもの。本作は、あからさまにドーンとエイリアンを登場させず、暗闇やスモークで全体像をボヤかしながら見せることで、ミステリアスな雰囲気を上手く演出している。
 ただ、基本的に彼らは人類に攻撃をしかけて来ないので、「宇宙戦争」や「宇宙水爆戦」のようなスペクタクルやアクションは一切なし。どちらかというと、「ミステリーゾーン」や「アウタースペース」の中の1エピソード的な物語に仕上がっている。
 ちなみに、クリチャー・デザインを手掛けたミリセント・パトリックは「大アマゾンの半魚人」にも参加している人で、この職種としては珍しい女性デザイナー。しかも、デザインの仕事と並行して女優としても活躍していたという変り種だ。

 主演のリチャード・カールソンは「偽りの花園」('41)や「青いヴェール」('51)などに出演してきた脇役俳優で、本作に続いて「大アマゾンの半魚人」にも主演している。どちらかというと地味なタイプのバイプレイヤーだ。一方、相手役のバーバラ・ラッシュは、当時パラマウントが力を入れて売り出していたスター女優。決定的な代表作には恵まれなかったものの、マーロン・ブランドの相手役を演じた「若き獅子たち」('56)やポール・ニューマンの相手役を演じた「都会のジャングル」('59)なんかとても良かった。本作はユニヴァーサルに貸し出されての出演だったわけだが、その目の醒めるような美しさは必見だ。
 電線技師ジョージのガールフレンド、ジェーン役で顔を出しているキャサリン・ヒューズは、当時ユニバーサルのB級ホラーやB級西部劇に数多く出演していたセクシー女優。B級映画界のマリリン・モンロー的な存在で、舞台版「7年目の浮気」にも主演している。

 なお、本作はもともと3D映画として製作されており、スクリーンの向こうから客席に向って突進してくる隕石など、随所に3D効果を狙った演出が見受けられる。SF映画の古典的名作として知られている作品だが、なぜか日本では劇場公開されず、長いことテレビ放送やビデオ発売もされていなかった。98年にようやくWOWOWで放送されたものの、現在もソフト化は一切されていない。

 

放射能X
Them! (1954)
日本では1954年劇場公開
VHS・DVD共に日本発売済み

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(P)2006 Warner Home Video (Japan)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(日本盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル
/音声:英語/字幕:英語・日本語・フランス語・スペイン語・ポルトガル語/地域コード:2/92分/製作:アメリカ

特典映像
メイキング
オリジナル劇場予告編
スチル・ギャラリー
監督:ゴードン・ダグラス
製作:デヴィッド・ワイスバート
原案:ジョージ・ワーシング・イェーツ
脚本:テッド・シャードマン
    ラッセル・ヒューズ
撮影:シド・ヒコックス
音楽:ブロニスラウ・ケイパー
出演:ジェームズ・ホイットモア
    エドマンド・グウェン
    ジョーン・ウェルドン
    ジェームズ・アーネス
    オンスロウ・スティーブンス
    ショーン・マックローリー
    クリス・ドレイク

 原題は、何ものかに襲われてショック状態に陥っていた少女が、蟻酸の匂いを嗅いで突如狂ったように叫び出す“あれよ!あれよ!”というセリフに由来するもの。その“何ものか”の恐ろしさを如実に伝える、実にショッキングなシーンだった。
 原爆実験の放射能によって巨大化した蟻の大軍が人類を襲うというクリーチャー系SFパニック映画で、このジャンルの原点とも言える作品。もともとは3Dのカラー映画として製作されるはずだったが、この種の作品には実績がないことからワーナーの重役は及び腰となり、撮影開始の2日前になって突然予算が削られてしまったという。ところが、蓋を開けてみればその年のワーナー作品の中で最も興行収入を稼ぎ出すメガ・ヒットとなり、「水爆と深海の怪物」('55)や「黒い蠍」('57)、「吸血原子蜘蛛」('58)など、巨大化した昆虫や動物が人間を襲うという作品が次々と製作されるようになる。
 監督のゴードン・ダグラスはB級西部劇やギャング映画を数多く手掛けてきた職人監督だが、これが初のメジャー・ヒット作品となり、生涯に渡る代表作となった。ドキュメンタリー・タッチのシリアスな演出は骨太な魅力があり、荒唐無稽とも言えるストーリーにある種のリアリズムを与える事に成功している。
 まだまだ特殊効果技術が原始的だった時代ゆえに、実物大の巨大蟻は動きが鈍くて作り物っぽさが否めないし、ミニチュア合成を駆使したパニック・シーンも荒削りな印象。しかし、CGでは出せないスケール感は逆に生々しい恐怖感を盛り上げているし、スピーディーで緊張感のあるストーリー展開も秀逸。この種のジャンルのエポックメイキング的な作品として申し分のない出来映えだ。

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ニュー・メキシコの警察官ベン(J・ホイットモア)

恐ろしい記憶が甦って絶叫する少女

 舞台はニュー・メキシコの砂漠。パトロール中の警察官ベン(ジェームズ・ホイットモア)と相棒のエド(クリス・ドレイク)は、砂漠を放心状態で彷徨っている幼い少女を発見する。さらに、その近くで無残にも破壊されたトレーラーを発見し、彼女が家族と共に何ものかに襲われたことが分る。しかし、少女はショックのため心を閉ざしており、ベンたちの問いかけにも全く無反応だった。
 さらに、ベンとエドの二人は近くの雑貨店を訪れたところ、破壊された家屋と無残に殺された店主を発見する。奇妙な物音を聞いたエドが見せの裏側に回ったところ、何ものかに襲われて殺されてしまった。
 警察の捜査で、襲われたトレーラーの持ち主がFBIの捜査官で、家族旅行の最中に悲劇に見舞われたことが判明。さらに、死んだ雑貨店主の死体から大量の蟻酸が検出される。また、どちらの現場でも砂糖が奪われた形跡があり、奇妙な足跡らしきものが残されていた。
 事件を担当することになったベンは、FBIから送り込まれてきた捜査官グラハム(ジェームズ・アーネス)と組むことになる。奇妙な足跡のサンプルをFBI本部に送ったところ、昆虫学の権威メドフォード博士(エドマンド・グウェン)と、その娘で助手のパット(ジョーン・ウェルドン)が捜査協力のためにやって来る。なぜ昆虫学者が・・・!?と首を傾げるベンとグラハム。
 9年前に近辺の砂漠で原爆実験が行われていたことを知ったメドフォード博士は、もしかしたら・・・と言葉を詰まらせる。さらに、博士は確証を得るために例の少女と対面。周囲の言葉に全くの無反応だった少女だが、博士が蟻酸を彼女の鼻に近付けると、突然何かを思い出したかのように悲鳴を上げ、パニック状態に陥った。
 さらに、博士たち一行は現場となった砂漠へと出かける。そこで別の足跡を発見した博士は、核実験によって蟻が巨大化した可能性があるとの結論に至る。そこへ鳴り響くパットの悲鳴。2メートル以上もあろうかという巨大蟻が、今まさに彼女を襲おうとしていた。拳銃と機関銃で応戦するベンとグラハム。大量の銃弾を撃ち込まれた蟻は、さすがに力尽きて絶命する。博士の推論は真実だったのだ。
 翌日、軍のヘリで砂漠の偵察に出かけた一行は、巨大な蟻の巣を発見する。食料のない砂漠で巨大化した蟻たちは肉食化し、付近の住民を襲っては食い殺していたのだ。直ちに軍隊が招聘され、司令官オブライエン(オンスロウ・スティーブンス)が指揮に当たる事になる。博士の助言で、太陽の熱を避けて蟻たちが巣に戻ったところを、大量のシアンガスを撃ち込んで一網打尽にしようとする。さらに、巣の中に入り込んで卵などを焼き払う。ところが、2匹の女王蟻がよそに巣を作るために飛び去った後だったことが判明する。
 極秘捜査を始めた軍とFBIは、全米から寄せられた怪事件情報から、女王蟻がロサンゼルスに向っていることが判明する。彼らは下水道を拠点に繁殖し、人々を襲い始めていた。ホワイトハウスの命を受けた陸軍は、巨大蟻の大群を壊滅するための掃討作戦を実行に移すのだが・・・。

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FBI捜査官グラハム(J・アーネス)

下水道で繁殖を遂げた巨大蟻

 まずはハードボイルドな脚本の出来映えが素晴らしい。放射能汚染によって蟻が巨大化するという発想そのものは荒唐無稽かもしれないが、昆虫学に基づいた緻密な描写やリアルな人間ドラマを散りばめる事により、非常に説得力のあるストーリー展開を見せてくれる。余計なサブプロットなどを一切排除しているのも大正解で、とても緊張感のあるスリリングな作品に仕上がっている。
 また、ドキュメンタリー・タッチのスタイリッシュな映像をカメラに捉えたのはシドニー・ヒコックス。ハワード・ホークスの「脱出」('46)や「三つ数えろ」('46)、ラオール・ウォルシュの「白熱」('49)など、名だたる巨匠によるハードボイルド映画の傑作を手掛けた名撮影監督だ。
 さらに、演技力と存在感のある名優を配したキャスティングも素晴らしい。タフで熱血タイプの警察官ベンを演じるのは「戦場」('49)でオスカーにノミネートされたタフガイ俳優ジェームズ・ホイットモア。一方、クールなFBI捜査官グラハムを「ガンスモーク」で有名な巨漢俳優ジェームズ・アーネスが演じている。この強面の二大名優がタッグを組むというだけでも見応えがあるというもの。
 さらに、ちょっと変わり者の老学者メドフォード博士を、「三十四丁目の奇蹟」('47)でオスカーを受賞した名優エドマンド・グウェンが演じているというのも良かった。その絶妙な台詞回しと、随所に垣間見られる豊かな人間味が魅力的で、彼のようなベテラン名優をキャスティングするというのはこの種の作品では重要な鍵となる。作品全体の空気にリアルな説得力が生まれるのだ。その娘パット役を演じるジョーン・ウェルドンのクールな持ち味も良い。常に冷静沈着な才女で、有能な女性科学者という雰囲気を十二分に発揮している。男性キャラクターとの間の妙なロマンスみたいなものが全くないというのも賢明だった。
 また、古い低予算映画ファンには、ユニバーサルのB級映画で活躍した名優オンスロウ・スティーブンスが陸軍司令官役で顔を出しているのも嬉しい。

 

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