Saturno contro (2007)

 

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(P)2008 Strand Releasing (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/ステレオ/音声:イタリア語/字幕:英語/地域コード:ALL/108分/製作:イタリア・フランス・トルコ

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:フェルザン・オズペテク
製作:ティルデ・コルシ
    ジャンニ・ロモーリ
脚本:ジャンニ・ロモーリ
    フェルザン・オズペテク
撮影:ジャンフィリッポ・コルティチェッリ
音楽:ジョバンニ・ペリーノ
出演:ステファーノ・アコルシ
    マルガリータ・ブイ
    ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ
    セラ・イルマズ
    エンニオ・ファンタスティキーニ
    アンブラ・アンジョリーニ
    ルカ・アルジェンテロ
    フィリッポ・ティミ
    ミケランジェロ・トマッソ
    ミレーナ・ヴコティッチ
    イザベラ・フェラーリ

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ストーリーの語り部でもある主人公ロレンツォ(L・アルジェンテロ)

いつものように夕食のテーブルを囲む仲間たち

 傑作『向かいの窓』(03)が、一昨年ようやく日本でもDVD発売されたイタリアの映画監督フェルザン・オズペテク。以前にこちらでも紹介したように、トルコ出身の彼は自らがゲイである事をカミング・アウトしており、同性愛と社会の関わりの中から普遍的な愛と友情の物語を描いていく。その端整な映像美と豊かな人間描写は、ヴィスコンティやデ・シーカなど往年のマエストロたちを彷彿とさせるものがあると言えよう。
 今やイタリア映画界を代表する名監督の一人となったオズペテクだが、残念ながら日本では毎年5月に開催される“イタリア映画際”くらいしか彼の作品を見るチャンスはない。そして、その“イタリア映画際”にて昨年上映されたのが、この“Saturno contro(対角の土星)”である。

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ロレンツォは童話作家ダヴィデ(P・ファヴィーノ)と愛し合っている

夫との倦怠期を迎えた女性弁護士アンジェリカ(M・ブイ)

 結論から言うと、素晴らしく感動的であると同時に恐ろしく退屈な映画だ。つまり、賛美すべき点と非難すべき点のギャップがあまりにも大きいのである。それはすなわち、オズペテク監督の長所と短所を如実に物語っているとも言えるかもしれない。
 主人公はゲイのカップル、ダヴィデとロレンツォを中心にしたアラフォー世代の友人グループだ。有名な童話作家のダヴィデとビジネスマンのロレンツォは理想的なパートナー。一方の銀行マンであるアントニオと弁護士の妻アンジェリカは倦怠期を迎えている。タバコやドラッグをやめる事ができない女性ロベルタ、姐御肌で口うるさいネヴァル、ダヴィデの元恋人で温厚なセルジョ、売れない作家のパオロなど、いずれも個性的な人物ばかり。頻繁に集まっては夕食を共にし、幸福で豊かな時間を過ごす仲間たち。家族も同然の絆で結ばれた彼らは、この幸せが永遠に続くことを願っている。
 しかし、ロレンツォの不治の病をきっかけに、彼らはそれぞれ人生の岐路に立たされていく。不倫の事実を妻に告白するアントニオ、それをどう受け止めてよいか分からずに困惑するアンジェリカ、タバコやドラッグの中毒と真剣に向き合うロベルタ、天涯孤独のわが身を振り返るセルジョ、そして最愛のパートナーに先立たれてしまうダヴィデ。人生に永遠はない。何事にも必ず終わりや変化がやって来る。これは人生における“喪失”と“再生”の苦しみや悲しみを描いた作品と言えるだろう。

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アンジェリカの夫アントニオ(S・アコルシ)

アントニオは未亡人ラウラ(I・フェラーリ)と不倫の関係にあった

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ある晩、ロレンツォが突然昏睡状態に陥ってしまう

アンジェリカに不倫を告白するアントニオ

 まずは、登場人物の人間描写とセリフがとても良く出来ている。特にアンジェリカが夫の不倫相手ラウラと遭遇してしまうシーンは印象的だ。どちらも洗練された大人の女性。お互いの立場を気遣い、だからこそ表面上は平静を装って挨拶を交わすが、内面の戸惑いがぎこちない態度に表れてしまう。その会話を耳にして、出ていこうにも出て行けなくなってしまったアントニオ。非現実的なドラマ性や過剰な演出を一切排し、丁寧な描写の積み重ねによってリアリズムを構築していくオズペテク監督の演出が冴え渡る。
 アントニオの不倫を知ったネヴァルがラウラの経営する花屋へ乗り込むシーンも良かった。誰の味方をするわけでもなく、彼女の人柄を確認した上で、“あんたのことは嫌いだけど、アントニオにはあんたが必要だから支えてやりなさい”と言い残していくネヴァル。監督の人間を見る目はなかなか鋭い。
 また、友人たちがロレンツォの遺体と対面するシーンも素晴らしかった。入院してからのロレンツォの姿は一切描写されず、遺体と対面する場面でもカメラは友人たちの姿を追っていく。火葬場の遺体安置所に入っていくアントニオやアンジェリカたち。その表情で彼らが何を目にしたのかが観客に伝わる。そこで初めてカメラは引きの画面に切り替わり、痛々しくも変わり果てたロレンツォの亡骸と対面する彼らの姿を映し出す。流れるように自然なカメラワークも素晴らしく、下手をすると陳腐なお涙頂戴になりかねないシーンを、実に美しく描いて感動的だ。

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薬物中毒と向き合うロベルタ(A・アンジョリーニ)

ラウラの務める花屋へ乗り込むネヴァル(S ・イルマズ)

 しかしその一方で、この映画はこれまでのオズペテク作品との共通点があまりにも多すぎる。家族以上の絆で結ばれた友人グループ、ゲイ・カップルの愛情と不安、倦怠期を迎えた夫婦の不倫と破滅。過去にオズペテク監督が描いてきたテーマの焼き直しばかりなのは非常に残念だ。その世界観の狭さが最大の欠点と言えるかもしれない。
 しかも、必要以上にいろいろなものを詰め込みすぎてしまったせいか、消化不良のままに終ってしまったエピソードも多い。特にロレンツォの両親とダヴィデの対面と和解のドラマは、もう少し深く掘り下げる
べきだったように思う。初めて息子のパートナーと向き合った初老の父親が、いかにして二人や仲間たちの関係を理解し、受け入れるに至ったのかが十分に伝わってこないのだ。それゆえに、はなはだ都合の良い展開に思えてしまうのは否めないところだろう。
 それ以外にも中途半端な印象を受ける場面は少なくなく、ストーリー全般がご都合主義に陥ってしまったように感じる。オズペテク監督の演出やジャンフィリッポ・コルティチェッリのカメラは素晴らしく完成度が高いものの、各エピソードの出来不出来にばらつきが激しく、全体的な統一感に欠けているのも大きな難点だ。ところどころで心を揺さぶられるような感動もあるだけに、とても残念で仕方がない。

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息子の生活を理解しようとするロレンツォの父(L・ディベルティ)

誰もがロレンツォの回復を願うのだが・・・

 脚本と製作に参加しているジャンニ・ロモーリは、『ラスト・ハーレム』(99)以来オズテペク作品には欠かせない人物。『向かいの窓』ではダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞やシルヴァー・リボン賞を受賞している。80年代から数多くの映画を手掛けてきた脚本家で、ジョバンニ・ロモーリの名前でダリオ・アルジェント監督の『トラウマ』(93)やミケーレ・ソアヴィ監督の『デモンズ'95』(94)などにも関わってきたベテランだ。
 一方、撮影監督を手掛けたジャンフィリッポ・コルティチェッリは、『向かいの窓』と“Cuore sacro(聖なる心)”(05)でもオズペテク監督と組んでいるカメラマン。南欧的な色彩感覚とスタイリッシュなカメラワークの特徴的な人で、日本ではペネロペ・クルズ主演の『赤いアモーレ』(04)が劇場公開されている。
 また、イタリアの元ラッパーでヒップホップ・アーティストとしても有名なネッファことジョヴァンニ・ペリーノが音楽を手掛けており、ラテンとオリエンタルを織り交ぜた叙情的で美しいスコアを聴かせてくれる。

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ロレンツォの死に言葉を失うダヴィデ

風変わりな看護士役を演じる名女優ミレーナ・ヴコティッチ

 映画の語り部でもある主人公ロレンツォを演じているのは、ここ数年イタリアで注目を集めている若手俳優ルカ・アルジェンテロL。端整な顔立ちと鍛え抜かれた肉体美の持ち主で、イタリアではヌード・カレンダーを発売したことでも話題になったようだ。
 そのパートナーである物静かな童話作家ダヴィデ役には、近年ハリウッド映画でも活躍している名優ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ。『ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛』(08)でカスピアン王子の暗殺を指揮するグロゼール卿役や、『ナイト・ミュージアム』(06)のコロンブス役などを演じていた人だ。『ダ・ヴィンチ・コード』の続編『天使と悪魔』(09)では、イタリア警察の刑事役を演じている。どちらかというとクセのある役や憎まれ役の似合う俳優だが、本作ではとても繊細で柔らかな演技を披露しており、これまでとは全く違った印象を持つはずだ。
 アントニオ役のステファーノ・アコルシとアンジェリカ役のマルゲリータ・ブイの二人は、オズペテク監督の“Le fate ignoranti”(01)で主役を務めたコンビ。どちらもイタリアを代表する人気スターであるため、キャスト・クレジット上は主演扱いだが、本編ではあくまでも脇役に徹している。
 その他、オズペテク監督作品の常連であるトルコ系女優セラ・イルマズが肝っ玉母さんキャラの女性ネヴァル役を、ジャンニ・アメリオ監督の名作『宣告』(90)で死刑囚役を演じて絶賛されたエンニオ・ファンタスティキーニがダヴィデの元恋人セルジョ役を、『オルセン姉妹のローマでお仕事』(02)でハンサムなイタリア人青年役を演じていたミケランジェロ・トマッソが売れない作家パオロ役を、『わが青春のフロレンス』(70)や『労働者階級は天国に入る』(71)のベテラン俳優ルイジ・ディベルティがロレンツォの父親役を演じている。
 また、イタリアの有名な歌手であるアンブラ・アンジョリーニがドラッグ中毒のロベルタ役を演じており、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の助演女優賞を受賞。アントニオの不倫相手である女性ラウラ役のイザベラ・フェラーリは80年代から活躍する美人女優で、ベネチア映画祭の女優賞を2度も受賞しているスターだ。
 さらに、病院でロレンツォを担当する風変わりな看護士役には、『魂のジュリエッタ』(65)や『自由の幻想』(74)、『ノスタルジア』(83)などの名作で知られる伝説的な個性派女優ミレーナ・ヴコティッチが登場。ウォーホル監修の『処女の生血』(74)で演じていた、美人三姉妹のサイコな長女役もかなり強烈だった。情緒不安定気味のニューロティックな女性を演じさせたら天下一品。どことなくヌメっとしたセックス・アピールがまた奇妙な存在感を発揮する。本作の撮影時で既に70歳近いはずだが、その独特の個性は立派なくらいに健在だ。

 

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