彼女の名前はギジェット
テレビ・アイドル時代のサリー・フィールドに再注目!
昔からどうしても苦手なジャンルの女優さんというのがいる。いわゆる演技派と言われる部類の女優さんだ。この演技派というのを定義するならば、要するに容姿はちょっと難ありだが演技だけは誰にも負けない、といったとこだろうか。もともと、ハリウッドでは映画スターというのは容姿が美しいのが大前提。オードリーにしろ、バーグマンにしろ、ガルボにしろ、はたまたベティ・デイヴィスやジョーン・クロフォードにしろ、かつての大女優は美しさと演技力を兼ね備えていたからこそハリウッドのトップに君臨していた。それが、映画女優にも庶民性みたいなものが求められ始めた時代から、この演技派という言葉が使われ始めたように思う。
というわけで、個人的にはメリル・ストリープやグレン・クロース、シシー・スペイセク、シガニー・ウィーヴァー辺りの、私は演技で勝負!というスターには全く興味がなく、このサリー・フィールドもどちらかというとそっちの部類の女優さんだった。労働組合運動に目覚める南部の平凡な女性を演じてカンヌとアカデミーを制した「ノーマ・レイ」('79)、そして女手一つで農場と家族を守る南部の女性を演じて2度目のアカデミー賞を受賞した「プレイス・イン・ザ・ハート」('84)。どちらも、汗と土にまみれての大熱演で、その演技力は確かに凄いなとは思ったものの、女優としての魅力は何も感じなかった。
ところが、である。彼女には封印されていた(わけではないけど)アイドル時代があったのだ。というよりも、日本では殆ど知られていないというだけの話なのだが、60年代にテレビ・デビューした頃のサリー・フィールドは紛れもなくキュートで愛らしいアイドル・スターだった。その代表作が「ギジェットは15才」('65〜'66)と「いたずら天使」('67〜'70)だ。どちらも日本では不評だったらしく、彼女のフィルモグラフィーには載っていたものの、どんな作品だかは皆目見当がつかなかった。
インターネットの時代になって、ようやくその頃のスチール写真を目にするようになり、余りにも可愛いのでずっと気になっていたのだが、今年になって遂にアメリカで両作品ともDVD化された。期待に胸を膨らませながら初めて見たアイドル時代のサリー・フィールド。これがもうやばいくらいにカワイイ。最近の「キューティー・ブロンド/ハッピーMAX」('03)辺りではその片鱗をうかがい知る事が出来るが、それにしてもこんなにキュートで愛らしかったとは。この可愛らしさを封印しなくては女優として大成できなかったというのは、やはりアメリカン・ニュー・シネマ以降のハリウッドの大罪なのかもしれない。
「ギジェットは15才」
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撮影当時本当は18歳! |
この下膨れ具合がまたキュート |
まさにオール・アメリカン・ガール |
パパ役のドン・ポーター |
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姉アン役のベティ・コナー |
義兄ジョン役のピート・デュエル |
親友ラルー役のリネット・ウィンター |
部屋でもゴー・ゴー・ダンスのギジェット |
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学校帰りのカフェでもゴー・ゴー・ダンス |
電話は女の子の必需品 |
カフェがまたお洒落! |
ギジェットにはピンクが似合う |
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しょっちゅう片思いばかりのギジェット |
毎日がサーフィン三昧 |
この表情がまたキュート |
こんな顔で泣かれたらパパもイチコロ |
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勉強しながらゴー・ゴー・ダンス!? |
テラスで優雅に日向ぼっこ |
いつでも夢見心地なギジェット |
女の子の定番といえばパックですね |
さて、その「ギジェットは15才」。もともとは1950年代にサンドラ・ディー主演で作られた映画シリーズで、日本ではデボラ・ウォーリーがギジェット役を引き継いだ「ヤング・ハワイ」('61)が劇場公開されているだけ。この手の青春ものは当時の日本人には現実味がなさ過ぎたのか、ちょっと不遇の扱いだった。このサリー・フィールド版のテレビ・シリーズにしたって、日本で放送されたのは1970年代に入ってかららしく、ほとんど話題になることなく消えてしまったようだ。
主人公のギジェットは15才の女の子。幼い頃に母親を亡くし、今はカリフォルニアの高級住宅街に大学教授の父親と二人で住んでいる。年の離れた姉アンは結婚して都心部に住んでおり、夫のジョンと共にたびたびギジェットの様子を見に訪れる。思春期の大切な時期に母親のいない妹を心配するアンは、ギジェットのプライベートまで何かと口を挟んでしまう。そんな姉の存在がちょっと目の上のたんこぶなギジェットだが、理解ある心優しい父親に暖かく見守られながら、恋にサーフィンにお洒落にダンスにと青春を謳歌しまくっている。まさにアメリカの理想的な“隣の女の子”とも言えるギジェットの笑いあり涙ありの毎日を描くのが、この「ギジェットは15才」である。
まず目を引くのは、ギジェットを取り巻く生活環境の豊かさだろう。「奥様は魔女」や「アイ・ラブ・ルーシー」にも言えることだが、当時の日本人の生活とは雲泥の差とも言えるくらいにリッチで優雅なギジェットの日常は今見ても羨ましい限り。もちろん、当時のアメリカ人にとっても理想的な生活だったのだろうが、それにしてもこの人たちはいついったいどうやって仕事をしてお金を稼いでいるんだろうと思ってしまう。そこが夢物語であるテレビ・ドラマの大きな魅力ではあるのだけれど。
パパはいつも家にいるし、アンやジョンだってしょっちゅうやって来てはギジェットの一挙一動にハラハラしている。ギジェットだって学校の勉強なんかそっちのけで、サーフィンにダンス・パーティー、ビーチ・パーティと遊ぶ方で大忙しの毎日。“明日は大切な用事があるから今日は早く寝るわね”って、その大事な用事ってのは友達とのサーフィンの約束だったりする。
しかも、このギジェットの家の広いこと!キッチンだけでも余裕で生活できそうな広さ。テラスではバーベキュー・パーティーも出来るし、各部屋には一台ずつ電話機も備えられている。大きな冷蔵庫にはいつだってケーキやらサラダやらターキーやらが入っていて、ちょっとお腹が空いたら冷蔵庫を開けるだけでいいのだ。
また、ギジェットのお洒落なファッションも大きな魅力の一つ。朝・昼・晩と一日に最低でも3回は着替えているのだから、果たして彼女のクローゼットには何着服があるのやら。しかも、父娘二人だけの生活にも関わらず、家の中は常に整理整頓されている。その現実味のなさこそが、この時代のテレビ・ドラマのマジックだったとも言えるだろう。
そんなギジェットの最大の悩みは、童顔ゆえにみんなから子ども扱いばかりされること。憧れの男の子と映画を見に行っても、窓口で“大人一枚、子供一枚”と言われる始末。ちょっと変わり者の大親友ラルーと一緒に大人っぽいお洒落にチャレンジしてみても、慣れないもんだからやり過ぎちゃって大失敗。もう大人なんだから自立心を持たなくっちゃ、って一念発起して何をするのかと思えば、自分用の車を買うためにアルバイト。おいおい、それ前に免許取らなきゃいけないだろうと突っ込みたくなるようなおトボケさんぶりもまた、ギジェットらしさなのだが。
そんな底なしの楽天主義、古きよき時代の無邪気な他愛なさこそが「ギジェットは15才」の最大の魅力であり、愛さずにはいられない理由と言えるだろう。
そして、そのギジェットを演じるサリー・フィールドのお人形さんのような可愛らしさ。彼女にとっては、これがデビュー作。パラマウント所属のB級映画スターだった母親マーガレット・フィールドと軍人の父親リチャードとの間に生まれたサリーは、コロムビア映画の演技教室で演技を学び、オーディションを受けてギジェット役を勝ち取った。ちなみに、日本の資料では父親がターザン俳優のジャック・マホニーとされているが、マホニーは母親マーガレットの再婚相手であり、実の父親ではない。いずれにせよ、幼い頃からショー・ビジネスの世界に慣れ親しんで育っただけに、この作品で見せる演技もとてもデビュー作とは思えない堂に入ったもの。クルクルと表情を変える豊かな感情表現といい、早口でまくし立てる台詞回しの妙といい、まさにハリウッド・ティーンズ。人によって好き嫌いが分かれるところだとは思うが、その見事なコメディエンヌぶりはギジェットというドジでおませな女の子を演じるにはピッタリ。彼女なくしては、このドラマは成立しなかったと言えるだろう。
ちなみに、この作品の撮影に使われているのは“コロンビア・ランチ”と呼ばれる巨大セットで、一つの町が丸々撮影セットとなっている。ここで撮影された作品として一番有名なのが「奥様は魔女」。で、実はギジェットの住む家というのがサマンサの家のすぐ隣で、シーンによっては窓の向こうにサマンサの家が見たりするのだ。さらに言うと、この“コロンビア・ランチ”を使って撮影されている最新作が、今日本でも話題の「デスパレートな妻たち」。そう、スーザンやガブリエル、ブリー、リネットたちが住んでいるのは、かつてサマンサやギジェットが住んでいた町なのだ。
「いたずら天使」
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サリー演じるシスター・バートリル |
修道院長役のマデリーン・シャーウッド |
シスター・ジャクリーヌ役のマージ・レッドモンド |
カルロス役のアレハンドロ・レイ |
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「ウィル&グレース」でもお馴染みのシェリー・モリソン |
誰とでもすぐに打ち解けるシスター・バートリル |
そんな彼女の得意技は空を飛ぶこと!? |
彼女の行くところ歌と微笑みが溢れる |
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風光明媚で美しいサン・タンコ修道院 |
反発しあいながらも実は仲良しの二人 |
やっぱりドジだったシスター・バートリル |
カルロスは名うてのプレイボーイ |
そして、サリー・フィールドの人気を決定付けたのが「いたずら天使」だ。前作の「ギジェットは15才」が1シーズンで終了してしまったものの、この「いたずら天使」は3年間のロングランとなり、人形などの関連商品も発売され、現在でもファン・クラブが存在するほどアメリカでは根強い人気がある。しかし、日本では“尼僧”という設定に馴染みが薄かったのか殆ど話題にならず、シーズン1のみで放送が終了してしまったようだ。
「いたずら天使」の原題は“Flying
Nun”。つまり“空飛ぶ尼さん”である。ヒロインのシスター・バートリルはニューヨークからプエルトリコのサンタンコ修道院に派遣された若き尼僧。正義感が強くて理想家の彼女は、伝統を重んじる保守的な地元社会に次々と革命を起こしていく。そんな彼女の得意技は、文字通り“空を飛ぶ”こと。プエルトリコは気候的に風が強く、体重がたったの90ポンド(約40キロ)しかない彼女がシスター・ハットをかぶっていると宙に浮いてしまうのだ。そんなバカな、と言うなかれ。というか、それを言ってしまったらオシマイなのだが(笑)。
自分が正しいと思ったらとことんまで追求する、何があっても絶対にめげない、常に周囲に笑いと勇気を振りまく、まさに歩くポジティブ・シンキングと言えるシスター・バートリルが巻き起こす奇跡の象徴が“空を飛ぶ”という特技だと考えるべきなのかもしれない。
そんな彼女を取り巻くのは、その奇想天外な行動に戸惑いながらも彼女の成長を見守っていく善良な人々。進歩的な考えの持ち主で一番の理解者でもあるシスター・ジャクリーヌ、保守的で厳格ながらもバートリルの率直さに惹かれていく修道院長、彼女の起こすトラブルに巻き込まれて反発しながらも心を通わせていくハンサムで大金持ちのプレイボーイ、カルロス。素朴で美しいプエルトリコの風景とも相まって、心温まる微笑ましい物語が展開するカラフルでチャーミングなドラマだ。
その後、恋人のバート・レイノルズと共演した「トランザム7000」('77)でスッピンにジーンズの似合う逞しい現代女性としてイメージ・チェンジに成功したサリー・フィールドは、「ノーマ・レイ」をきっかけに演技派女優へと転進していく。テレビ・アイドル時代がすっかり無視されていた日本では、そうしたタフで地に足の着いた映画女優としてのイメージが強く、名前は知られていても決して一般的に人気が高い女優とは言えないだろう。「ギジェットは15才」や「いたずら天使」が再放送でもされれば、日本の映画ファンの見方も少しは変ってくるのではないかとも思うのだが。
いずれにせよ、「奥様は魔女」や「アイ・ラブ・ルーシー」、「人気家族パートリッジ」などの古典的なシットコムが大好きな海外ドラマ・ファンには是非とも見てもらいたいドラマ。NHKのBS2かSuper!
drama TV辺りでピック・アップしてくれないかなあ・・・と思う今日この頃なのだ。
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ギジェットは15才 |
いたずら天使 |
(P)2006 Sony Pictures (USA) | (P)2006 Sony Pictures (USA) |
画質★★★★★ 音質★★★★☆ | 画質★★★★☆ 音質★★★★☆ |
DVD仕様(北米盤4枚組) カラー/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/804分/製作:アメリカ 映像特典 サリー・フィールド インタビュー |
DVD仕様(北米盤4枚組) カラー/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:英語・スペイン語・ポルトガル語/字幕:スペイン語・ポルトガル語/地域コード:ALL/617分/製作:アメリカ 映像特典 サリー・フィールド インタビュー |
監督:ウィリアム・アッシャー 他 |
監督:ジョン・アンダーソン 他 製作:ハリー・アッカーマン 音楽:ドミニク・フロンティエール 他 出演:サリー・フィールド マデリーン・シャーウッド マージ・レッドモンド アレハンドロ・レイ シェリー・モリソン リンダ・ダングシル |
制作したのは「奥様は魔女」のスタッフ。中でも、多くのエピソードの監督を務めたウィリアム・アッシャーは、「奥様は魔女」のサマンサ役エリザベス・モンゴメリーのダンナさんとしても有名。セミ・レギュラーのゲストとして、まだ10代の頃のバーバラ・ハーシーが顔を出しているのにも注目。義兄役のピート・デュエルは西部劇ドラマ「西部二人組」の主演でも有名な俳優で、31歳の若さで拳銃自殺してしまった人。このDVDは画質すこぶる良好で、テクニカラーの魅力を最大限に楽しめます。 | こちらも非常に保存状態の良いマスターを使用したDVD。この番組、当時はかなりの大ヒットを記録したものの、エミー賞にはシスター・ジャクリーヌ役のマージ・レッドモンドが1度ノミネートされただけ。賞レースでもちょっと不遇な扱いだった様子。カルロス役のアレハンドロ・レイは映画では悪役で有名な人で、チャールズ・ブロンソンの「ブレイクアウト」や「マジェスティック」、ショーン・コネリーの「さらばキューバ」なんかに出ている人。こういうコミカルな2枚目役が映画では恵まれなかったのが残念。 |