ロシア映画は本当に復活したのか?

 

 ロシア映画の復活を掲げる作品が、奇しくもほぼ同時に日本公開されている。「大統領のカウントダウン」('04)と「ナイトウォッチ」('04)である。確かに、どちらも今までのロシア映画(もしくはソヴィエト映画)のイメージ、特に日本におけるそのイメージとは全く異質のハリウッド的エンターテインメント作品に仕上がっている。興行的にもロシア国内はもとより、海外マーケットでも好調な成績をあげているようだ。しかし、それがすなわちロシア映画の復活と呼べるのかどうか。少なくとも、この2作品を見る限りでは大きな疑問が残る。

 チェチェン紛争を題材に、テロと戦うロシア軍特殊部隊の姿を描く「大統領のカウントダウン」。本物のロシア軍が全面協力をして撮影された作品で、ロシア版「ダイ・ハード」という声もあるが、レベル的にはその亜流であるジャン=クロード・ヴァンダムの「サドン・デス」辺りに近いかもしれない。軍が全面協力した作品と言えば、ソヴィエト時代に「ヨーロッパの解放」('70〜'72)、「レニングラード攻防戦」('74)という壮大な戦争映画があったが、あの凄まじいばかりの戦車・武器・戦闘機・エキストラの数を考えれば、こちらは余りにもお粗末な代物としか言いようがない。
 さらに言うならば、ロシア軍=善、チェチェン軍=悪という勧善懲悪の図式は確かに分りやすいのだが、ロシア映画特有の善と悪が混在する冷徹なリアリズムが全く失われてしまい、安手のハリウッド製B級アクションをなぞっただけでしかなくなっている。プーチン政権のプロパガンダは、もしかしたらソヴィエト時代のそれよりも悪質かもしれない。
 ロシアという国は、気候的にも歴史的にも過酷な運命を背負ってきている。モンゴルによる支配、皇帝(ツァー)による支配、そして共産党の一党独裁による支配。抑圧の歴史を逞しく生き抜いてきたロシア人は、善と悪が実は表裏一体であるという事をどこの民族よりもよく知っている。そして、必ずしも善が悪に勝るわけではないということも。そうした苦難の中から、ドストエフスキーやチェーホフの文学、チャイコフスキーやストラヴィンスキーの音楽、クラムスコイやレーピンの絵画といった素晴らしい芸術作品が生み出されてきた。その伝統を「大統領のカウントダウン」は意味もなく破壊し、すっかり台無しにしてしまっている。
 かつてロシア映画の中の敵役と言えば、ナチス、メンシェビキ、アメリカだったが、グレゴリー・チュフライやミハイル・ロンム、ニキータ・ミハルコフといった名匠たちは当局の厳しい検閲の目をごまかしながら、懸命になってイデオロギーを超越したところにあるヒューマニズムを謳いあげて来た。スターリンは粛清という恐怖政治によってロシアを支配しようとしたが、結局ロシア人の精神までは支配できなかった。ロシア人はしたたかで逞しい。ゆえに偉大なのだと思うのだが、「大統領のカウントダウン」には“商魂の逞しさ”しか感じられない。まあ、それもある意味ロシア人的と言えばそうかもしれないが・・・。

一方の「ナイトウォッチ」はどうかというと、こちらも「マトリックス」と「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズを足して「トレインスポッティング」風に味付けを施したような出来映えで、なおかつそのいずれの作品にも劣っている。が、随所に“ロシア的”なニオイがプンプンするという点では、「大統領のカウントダウン」よりも遥かに救いがあるかもしれない。
 例えば、相対する光と闇の勢力が決して“善”と“悪”を体現しているわけではないということ。それは、単純に“どちらを選択するか”だけの違いであり、両者はルーツを同じくする種族である。善か悪かは、お互いの立場によって全く異なってしまうのである。そうした善悪の価値観の混沌とする中で己の不確かな存在に揺れ動く主人公アントンは、ドストエフスキーの「罪と罰」のラスコリニコフを彷彿とさせる。ラスコリニコフが金貸しの老婆とその妹を殺めたように、アントンは呪術使いの老女の手助けで妻の胎内にいる実の子を抹殺しようとする。暗く薄汚れたアパートの階段・廊下がチェーホフの時代と全く変わっていないのが、非常にロシアらしくて面白い。
 また、呪術使いの老婆、カラスの大群、フクロウにされた女など、キリスト教(ロシア正教)伝播以前からの伝統的なロシアの民話・寓話の世界が息づいているのにも注目したい。ロシアでは魔女や妖精、妖怪の伝説が数多く語り伝えられており、ソヴィエト時代からアレクサンドル・プトゥシュコやアレクサンドル・ルーといった監督たちが数多くの素晴らしいファンタジー映画を世に送り出している。
 そう、冒頭で“日本におけるロシア映画のイメージ”ということに触れたが、長い間日本では非常に偏った側面からしかロシア映画は語られてこなかった。「戦艦ポチョムキン」('25)に代表されるエイゼンシュタインのモンタージュ理論、ジガ・ヴェルトフやレフ・クレショフらによるアヴァン・ギャルド運動、タルコフスキーの「惑星ソラリス」('72)や「ストーカー」('79)といった作家性の高いアート映画、7時間という気の遠くなるような長さの「戦争と平和」('67)に代表される重厚な文芸映画、そして社会主義の理想を謳いあげるプロパガンダ映画などなど・・・。
 しかし、ロシアの一般大衆の多くが楽しんでいたのはコメディやファンタジー、アクション、ラブ・ロマンス、歴史大作といった娯楽映画である。そもそもソヴィエトでは、スターリン時代以前にはハリウッド映画が絶大な人気を誇っていた。ダグラス・フェアバンクスやメアリー・ピックフォードがモスクワを訪れるなど、初期のソヴィエト政府もハリウッド映画に対しては比較的オープンであった。スターリン時代に状況は一変するが、それでも娯楽映画に対する一般大衆のニーズは根強く、フルシチョフによる雪解けの時代と共にロシアの大衆映画は花開くこととなる。
 ロシアにおけるファンタジー映画の父とも言えるアレクサンドル・プトゥシュコの「石の花」('46)や「虹の世界のサトコ」('52)、「イリヤ・ムウロメツ/巨竜と魔王征服」('56)といった民話ファンタジーは、イマジネーション豊かな特撮や豪華絢爛なセットを駆使した極上のエンターテインメントだった。パーヴェル・クルシャンツェフ監督の「火を噴く惑星」('61)では金星を舞台にロボットやドラゴンが登場。ブデミイル・メタルニコフ監督の「エバンス博士の沈黙」('73)はSFと叙情的なメロドラマを掛け合わせたロマンティックな佳作だった。
 その他にも、ロシアではソヴィエト時代にエンターテインメント映画の傑作・秀作が沢山作られている。しかし、その多くが日本には紹介されて来なかった。また、映画史の上でも芸術映画ばかりが取り上げられ、こうした大衆娯楽映画については殆ど言及されていない。それを今になって、ロシア映画のイメージを覆すとか、社会主義時代には考えられなかった作品などと言って「大統領のカウントダウン」や「ナイト・ウォッチ」といった二流映画を祭り上げるのは片腹痛いといったところ。ただ単に日本のマスコミやメディアの片手落ち、無知だったというだけの話である。
 確かに、その演出テクニックはハリウッド風だ。ハリウッド映画が世界のマーケットの大半を占める中で、ハリウッド的な要素というのが一つの価値基準となってしまうのは仕方がないのかもしれない。それによってロシアの映画業界が潤っていくことも、また喜ばしいことではある。が、一方でハリウッド映画の真似事をしなければ話題にもならないのであれば、まだまだロシア映画の真の意味での復活は先の話だろう。正確に言えば、ロシア映画はまだ復活への道を歩み始めたばかりなのだ。

 ここで、ロシア映画を見てみたいけど、どれが面白いのか分らないという人の為に、オススメの作品を幾つか挙げておきたい。日本に紹介されている作品ということを大前提に選んでみたので、ビデオ・レンタル、衛星放送、特集上映などチャンスがあれば是非ご覧下さいませ。また、下のDVD紹介コーナーも参考にして頂ければ。

「愛の奴隷」(1976) 日本盤DVD有
 日本でも人気の高いニキータ・ミハルコフ監督の長編2作目。革命の嵐吹き荒れる帝政末期を背景に、政治に無関心なサイレント映画女優と革命に賛同するカメラマンの悲恋を描くメロドラマの傑作。黒海沿岸の避暑地の美しい風景、叙情的で流麗なカメラワーク、そして悲劇へと突き進んでいく男女の破滅的なロマンス。衝撃的かつ余韻を残すクライマックスまで、ミハルコフの繊細なロマンティストぶりが存分に発揮されている。滅び行く階級を描く映画監督と言えばイタリアのルキノ・ヴィスコンティが有名だが、彼の作品ようなペシミスティックな雰囲気は全くなく、時代に翻弄されていく人々の姿を大らかなユーモアを交えつつ郷愁たっぷりに描いていく。筆者にとっても生涯のベスト3に入る思い入れ深い作品。

「アエリータ」(1924)
 ソヴィエト版「メトロポリス」とも言えるサイレントSF映画。火星を支配する女王アエリータと地球人のロケット設計技師のロマンスを軸に、抑圧された火星社会に起こる奴隷の反乱を描く。原作は文豪トルストイ。ロシアン・アヴァンギャルド全開の斬新かつシュールなセットや衣装も素晴らしいし、随所に織り込まれた社会風刺の精神も興味深い。

「石の花」(1946) 日本盤DVD有
 まるでロシアの民芸品の世界を再現したかのような、幻想的でメルヘンチックな御伽噺ファンタジーの名作。生きた“石の花”を作ろうとする若き石細工職人の青年が、銅山の女王に魅入られてしまうという物語。アレクサンドル・プトゥシュコの特撮演出は後の作品と比べるとまだまだ荒削りな印象は否めないものの、ドイツのアグファ・カラーを採用した色彩豊かなカラー映像の世界には目を見張る。

「エバンス博士の沈黙」(1973)
 SF映画でありながらも、叙情的なロマンスと痛烈な社会批判を盛り込んだ秀作。地球人と異星人のロマンスを描いたSF映画といえば「スターマン」があったが、あれの数十倍は面白い。医学界の権威エバンス博士の乗った旅客機が墜落をする。博士を含む8名が生き残り、異次元空間で異星人と遭遇する。しかし、気がつくと博士以外全員の記憶がない。事故から生還した博士のもとに訪れる異星人の女性。次第に惹かれあっていく2人を、何故かKGBが付け狙う。まるで恋愛映画のような美しい映像、そして摩訶不思議でシュールなストーリー展開。一度見たら忘れられない異色作。

「狩場の悲劇」(1978)
 その自由奔放さゆえに身の破滅を招く若い娘と、彼女を一途に愛しながらも報われなかった男の悲劇を描くサスペンス・タッチのメロドラマ。原作はチェーホフ。いわゆる「椿姫」的なヒロインを演じるガリーナ・ベリャーエワの美しさが際立っている。野を駆け巡る生命力に満ちた少女は、財産目当てに貴族の老執事と結婚して堕落していく。全く悪びれる様子もなく、主人公を翻弄したかと思えば伯爵との情事も楽しむヒロイン。しかし、それは男性優位の貴族社会で貧しい娘が生き抜いていくために学んだ術だった。そんな哀しくて残酷な物語を、美しいロシアの大自然、優雅な貴族の生活、ロマンティックな音楽を織り交ぜながら瑞々しく描いていく。エフゲニー・ドガによる甘く切ないメロディのテーマ曲“ワルツ”は、公開当時ロシアで大ヒットした。監督はエミーリ・ロチャヌー。

「貴族の巣」(1969)
 文豪ツルゲーネフの代表作を、名匠アンドレイ・コンチャロフスキーが映像化した作品。妻との愛のない生活、華やかなだけで空虚なパリの喧騒に嫌気がさしてロシアに帰国したラヴレツキーは、汚れを知らぬ若い娘リーザに恋をする。帝政ロシアの退廃した貴族社会に生きる男の孤独を、絵画のように繊細で美しい映像で描き出す。

「君たちのことは忘れない」(1978)
 ロシア映画史上最高のヒューマニスト、グレゴリー・チュフライ監督による問題作。軍の徴兵から息子を守ろうとする母親の深い愛情が招いた残酷な悲劇を描く。戦争、軍隊、そして国家の偽善を痛烈に批判する衝撃的な作品。吹雪の中をソリに乗って息子を駅まで送っていく母親が、息子の横顔を見ているうちに心を決める瞬間のスローモーションの美しさといったら。俳優の演技とカメラの動きが見事に溶け合った、まさに魔法のような映像。公開直後に上映禁止となり、ペレストロイカによって再び陽の目をあびた傑作。

「こねこ」(1997) 日本盤DVD有
 猫が大好きな人にはたまらない一本。誤って窓から外へ飛び出してしまった子猫チグラーシャが再び飼い主一家のもとへ帰るまでを物語の主軸にしつつも、その猫を狂言回しに現代のロシアに生きる市井の人々の悲哀を描き出していく秀作。“ククラチョフの猫劇場”として何度も来日公演を果たし、日本でも大人気の猫調教師アンドレイ・グズネツォフと彼の猫たちが総出演。微笑ましくもホロリと涙する優しい作品。

「シベリアの理髪師」(1999) 日本盤DVD有
 やはり、ニキータ・ミハルコフはこの手の時代ものメロドラマを撮らせたら天下一品。野心的なアメリカ女性と純朴なロシア人青年将校とのロマンスを、帝政ロシアの時代を背景にして描く。当然のごとく、2人のロマンスは破滅へと突き進んでいくのだが。広大なシベリアの大地を背景に、人間の尊厳や人生の重みをひしひしと感じさせてくれる感動的なラストに心打たれる。また、良いところも悪いところもひっくるめて、これぞロシア人気質と言うべき一筋縄ではいかない登場人物たちの細やかな性格描写が、実に生き生きとしていて素晴らしい。

「誓いの休暇」(1959) 日本盤DVD有
 今まで見た映画の中で生涯のベスト1を、ときかれたら迷わずこの作品を挙げる。偶然ドイツ軍の戦車を炎上させた心優しい少年兵アリョーシャは、そのご褒美に6日間の休暇をもらう。そこで、彼は故郷で一人待つ母親に一目会うため帰省することにする。その道中で様々な人々と出会い、世間知らずの少年は戦時下でも懸命に生きる庶民の人生模様を垣間見ていく。しかし、そうこうしているうちにどんどん時間は過ぎていってしまい、休暇は残り僅かとなってしまう。きれいごとばかりではない人間描写のリアリズム。そうした過酷な状況下でも素直に真っ直ぐ人々と接していくアリョーシャ。グレゴリー・チュフライの叙情的で瑞々しい演出が
素晴らしく、クライマックスの麦畑のシーンはもう涙なしでは見る事ができない。どんなに過激で生々しい戦争映画よりも遥かに強く胸に突き刺さる、反戦映画の不朽の名作。

 

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Mad Love

誓いの休暇
Ballad of a Soldier (1959)

子犬を連れた貴婦人
The Lady with the Little Dog (1960)

Two Comrades Were Serving (1968)

(P)2003 Milestone Film & Video(USA) (P)2000 アイ・ヴィー・シー(日本) (P)2004 Image Entertainment (USA) (P)2003 Image Entertainment (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★★★ 画質★★★★☆ 音質★★★★☆ 画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆ 画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ(一部着色カラー)/スタンダード・サイズ/ステレオ/音声:サイレント(音楽のみ)/英語字幕/地域コード1/計144分/製作:ロシア

収録内容
Twilight of a Woman's Soul(1913)
After Death (1915)
The Dying Swan (1916)

映像特典
エフゲニー・バウアー・ドキュメンタリー
スチール・ギャラリー
DVD-ROM(プレス資料)
DVD仕様(日本盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/5.1chサラウンド/音声:ロシア語・英語・フランス語/字幕:日本語・ロシア語・英語・フランス語・ドイツ語等13ヶ国語/地域コード:ALL/90分/製作:ロシア

映像特典
フィルモグラフィー
フォトアルバム
ソ連軍パレードの記録映画
チュフライ監督インタビュー
予告編集
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/5.1chサラウンド/音声:ロシア語・英語・フランス語/字幕:ロシア語・英語・フランス語・ドイツ語・オランダ語・スペイン語・イタリア語/地域コード:ALL/83分/製作:ロシア

映像特典
チェーホフ未亡人インタビュー
作家テレショフのインタビュー
チェーホフに関するドキュメンタリー
レンフィルムに関するドキュメンタリー
フィルモグラフィー
フォトアルバム
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン/モノラル・5.1chサラウンド/音声:ロシア語・英語・フランス語/字幕:ロシア語・英語・フランス語・スペイン語・イタリア語・ドイツ語/地域コード:ALL/99分/製作:ロシア語

映像特典
ニキータ・ヴィソツキー(ウラジミール・ヴィソツキーの息子)インタビュー
フィルモグラフィー
フォトアルバム
監督:エフゲニー・バウエル
出演:ヴェラ・カラリ
監督:グレゴリー・チュフライ
脚本:グレゴリー・チュフライ
    ワレンチン・エジョフ
撮影:ウラジミール・ニコラエフ
音楽:ミハイル・ジフ
出演:ウラジミール・イワショフ
    ジャンナ・プロホレンコ
    アントニーナ・マクシモワ
    ニコライ・クリュチコフ
    エフゲニー・ウルバンスキー
監督:イオシフ・ヘイフィッツ
脚本:イオシフ・ヘイフィッツ
原作:アントン・チェーホフ
撮影:アンドレイ・モスクヴィン
    ディミトリ・メスキエフ
音楽:ナデージャ・シモニヤン
出演:イヤ・サヴィーナ
    アレクセイ・バターロフ
    ニナ・アリソーヴァ
    パンテレイモン・クリュモフ
監督:エフゲニー・カレロフ
脚本:ユーリ・ドゥンスキー
    ヴァレリー・フリド
撮影:ミハイル・アルダヴェフスキー
音楽:エフゲニー・プティチキン
出演:オレグ・ヤンコフスキー
    ロラン・ブコフ
    ウラジミール・ヴィソツキー
    ピョートル・クリュロフ
    ニコライ・ブルリャーエフ
    イヤ・サヴィーナ
 日本では殆ど知られていないものの、帝政時代のロシアを代表する巨匠と言われる伝説的な映画監督エフゲニー・バウエル。その代表作3本を収録した作品集。ロシア文学を彷彿とさせる幻想的で暗いタッチのメロドラマを得意とした監督で、いずれの作品でも恋愛や悲劇的な運命に翻弄され狂気の世界を彷徨う人々の魂の救済が描かれる。非常に重苦しい内容だが、帝政ロシアの文化を理解する上で非常に貴重な資料。ちなみに、“The Dying Swan”では、アンナ・パブロワやニジンスキーの在籍したセルゲイ・ディアギレフのバレエ団“バレエ・リュス”のプリマドンナの一人、ヴェラ・カラリが十八番だった「瀕死の白鳥」を舞う。  これぞ不朽の名作。こんなに瑞々しくて爽やかで、そして切なくて哀しい映画は他にない。反戦映画としても、青春映画としても屈指の出来映え。決して声高に反戦を叫ぶことなく、戦時下の青春の1ページを母親の回想録として切り取って見せる。その優しさ、切なさが痛いくらいに胸に突き刺さるのだ。主演のウラジミール・イワショフの聡明な初々しさ、そして彼と出会い心を通わせる少女を演じるジャンナ・プロホレンコのいたいけな美しさ。全ての映画ファン必見の傑作です。本DVDにはチュフライ監督のインタビューが収録されており、当初は脚本が検閲で問題になったこと、師匠ミハイル・ロンム監督の擁護で映画化が実現したことなど貴重な秘話を語っている。  風光明媚で美しい避暑地ヤルタを舞台に、妻子ある男と子犬を連れた人妻のささやかな恋の物語を描くチェーホフの名作を、ほぼ忠実に映画化した作品。エキゾチックで洗練されたヤルタの街角、行き交うお洒落な人々、そして“不倫”と呼ぶにはあまりにも慎ましい大人の恋。帝政ロシアの古き良き華やかな時代の雰囲気を心地よく楽しむことの出来る、小粋な映画だ。貴婦人役のイヤ・サヴィーナは、コンチャロフスキー監督の「愛していたが結婚しなかったアーシャ」('66)で愛のない結婚生活よりも未婚の母となる事を選ぶ逞しい女性を演じていたが、ここでは道ならぬ恋に深い罪悪感を感じる繊細で上品な女性を演じて愛らしい魅力を放つ。  白軍を偵察して、その状況をカメラに収めるために雇われたカメラマンの青年アンドレイ。ところが、乗っていた偵察機が墜落し、フランス製のカメラを持っていたことから白軍のスパイと間違われて追われる身となってしまう。相棒のボリシェビキ、イワンは状況に応じてアンドレイを反革命分子呼ばわりするような保身に長けたお調子者。こうしたクレイジーな状況下で、アンドレイは徐々に革命の意義を理解していく。ただ革命を賞賛するのではなく、その背後にある同じ民族がイデオロギーの違いだけで殺しあう事の哀しさを、時に滑稽に時にシリアスに描く問題作。ロシアを代表する吟遊詩人で俳優のヴィソツキーが混沌とした社会で苦悩する白軍将校を、イヤ・サヴィーナが彼と心を通わせる思慮深い女医を演じる。ロシアの誇る名優ヤンコフスキーがまだ若くて初々しい!

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罪と罰
Crime and Punishment (1970)

貴族の巣
Nest of the Gentry (1969)

ワーテルロー
Waterloo (1969)

光と影のバラード
At Home Among Strangers (1974)

(P)2004 Image Entertainment (USA) (P)2003 Image Entertainment (USA) (P)2005 Columbia Tristar (UK) (P)2000 アイ・ヴィー・シー(日本)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆ 画質★★★★☆ 音質★★★★☆ 画質★★★★★ 音質★★★★☆ 画質★★★☆☆ 画質★★★★☆
DVD仕様(3枚組北米盤)
モノクロ/ワイドスクリーン/モノラル・5.1chサラウンド/音声:ロシア語・英語・フランス語/字幕:ロシア語・英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語・イタリア語/地域コード:ALL/221分/製作:ロシア

映像特典
監督未亡人インタビュー
助監督インタビュー
メイキング・ドキュメンタリー
ドストエフスキーに関するドキュメンタリー
フィルモグラフィー
フォトアルバム
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダード・サイズ/5.chサラウンド/音声:ロシア語・フランス語/字幕:ロシア語・英語・フランス語・ドイツ語・オランダ語・日本語・スペイン語等13ヶ国語/地域コード:ALL/111分/製作:ロシア

映像特典
監督コンチャロフスキーのインタビュー
脚本家エジョフのインタビュー
ツルゲーネフのバイオグラフィー
フィルモグラフィー
フォトアルバム
DVD仕様(イギリスPAL盤)
カラー/ワイドスクリーン/サラウンド/英語音声/字幕なし/地域コード:2/128分/製作:イタリア・ロシア

映像特典
予告編
フィルモグラフィー
DVD仕様(日本盤)
カラー(一部モノクロ)/スタンダード・サイズ/5.chサラウンド/音声:ロシア語・英語・フランス語/字幕:ロシア語・英語・日本語・フランス語・ドイツ語・オランダ語他13ヶ国語/地域コード:ALL/97分/製作:ロシア

映像特典
フィルモグラフィー
俳優セルゲイ・シャクロフのインタビュー
撮影監督レベシェフのインタビュー
フォトアルバム
監督:レフ・クリジャーノフ
原作:フョードル・ドストエフスキー
脚本:ニコライ・フィグロフスキー
    レフ・クリジャーノフ
撮影:ヴャチェスラフ・シュムスキー
音楽:ミハイル・ジフ
出演:ゲオルギー・タラトルキン
    イノケンティ・スモクトゥノフスキー
    タチアナ・ベドーヴァ
    エフゲニー・レベデフ
    ヴィクトリア・フョードロワ
監督:アンドレイ=ミハルコフ・コンチャロフスキー
原作:イワン・ツルゲーネフ
脚本:ワレンチン・エゾフ
    アンドレイ=ミハルコフ・コンチャロフスキー
撮影:ゲオルギー・レルベルグ
音楽:ヴャチェスラフ・オフチニコフ
出演:イリーナ・クプチェンコ
    レオニード・クラーギン
    ベアータ・ティシュキエヴィッチ
    タマーラ・チェルノワ
監督:セルゲイ・ボンダルチュク
製作:ディノ・デ・ラウレンティス
脚本:H.A.L.クレイグ
    セルゲイ・ボンダルチュク
    ヴィットリオ・ボニチェッリ
撮影:アルマンド・ナヌッツィ
音楽:ニノ・ロータ
出演:ロッド・スタイガー
    クリストファー・プラマー
    オーソン・ウェルズ
    ジャック・ホーキンス
    ヴァージニア・マッケンナ
    ダン・オハーリヒー
    ジャンニ・ガルコ
監督:ニキータ・ミハルコフ
脚本:エドゥアルド・ヴォダルスキー
    ニキータ・ミハルコフ
撮影:パーヴェル・レベシェフ
音楽:エドゥアルド・アルテミエフ
出演:ユーリ・ボガティリョフ
    アナトリー・ソロニーツィン
    セルゲイ・シャクロフ
    アレクサンドル・ポロホフシチコフ
    ニキータ・ミハルコフ
 実に3時間40分にも及ぶ長さの完全版。日本初公開版が2時間50分だったので、1時間近くも長い。また、日本盤DVDよりも10分以上長い(しかも日本盤はトリミングサイズ)。そう、とにかく長い!ラスコリニコフが金貸しの老女を殺害するまではいいのだが、その後は実に3時間以上も良心の呵責に苛まれる彼の苦悩と葛藤に付き合わされるので、非常に辛い。文芸映画としての完成度は高いのかもしれないが。それよりも、本DVDは監督未亡人のインタビューがとても興味深い。フランスからの資本提供を断ったとうような裏話から、当時の映画界・演劇界の実情など、非常に知的で教養のある女性であることが伺える。また、撮影風景を記録したドキュメンタリーも面白い。特に、トランス状態に陥るまで役柄に入り込んでしまう女優ベドーヴァの姿が印象深い。  ツルゲーネフの代表作を映画化した華麗で美しいメロドラマ。喜劇と悲劇が混在するロシア文学の世界を、優雅な貴族の生活を織り交ぜながら描いていく。花々の咲き乱れる絵画のように美しいロシアの大自然、豪奢な貴族の屋敷、華やかで洗練された衣装、全てがため息が出るほどに美しい。帝政時代のロシアの豊かな文化を存分に味わうことが出来る作品。空虚で退廃した貴族社会に空しさを感じる男の物語ではあるものの、同時にそうした古き良き時代への郷愁を描いた作品でもある。文芸映画的な重苦しさもなく、優雅でロマンティックな悲劇として楽しめる佳作。また、ヒロイン役のイリーナ・クプチェンコの輝かんばかりの美しさ、清らかさにも注目したい。  「戦争と平和」「人間の運命」で知られるロシアの巨匠セルゲイ・ボンダルチュクがイタリアの大プロデューサー、デ・ラウレンティスに招かれて撮影した超大作。ボンダルチュクはイタリア映画界との繋がりが強く、ロッセリーニ監督の「ローマで夜だった」にも出演している。ナポレオンが英国軍に敗退した運命の決戦、ワーテルローの戦いを描く作品だが、クライマックスの戦闘シーンの大スペクタクルはまさにボンダルチュクの独壇場。夥しい数のエキストラを統率するその演出力というか、豪腕ぶりには舌を巻く。何でもかんでもCGでやってしまう今の映画とは違って、全て本物だからなー。今では、これだけのスケールの現場を陣頭指揮取れる監督はいないだろう。4時間近くの完全版もあるそうだが、長けりゃいいってもんじゃない。あっという間の2時間、極上のエンターテインメントである。  まるでアメリカン・ニューシネマのような瑞々しさと躍動感に溢れた革命アクション。食糧難にあえぐ革命草創期のロシア。海外から食料を買うために、貴族から没収した貴金属を集めて運ぶボリシェビキ一行を、無政府主義者や白軍の残党、盗賊たちが狙う。ハリウッドの西部劇に影響を受けながらも、ミハルコフらしい叙情的な映像も随所に織り込まれており、男だらけのハードなドラマにも関わらず、爽やかな青春ドラマ的な要素も色濃い。モノクロやセピア・カラーを使い分けるなど、ミハルコフの若々しい感性が漲っている。ミハルコフ自身も盗賊の頭役で顔を出す。また、タルコフスキー作品で有名なエドゥアルド・アルテミエフによるメロディアスでロマンティックな音楽も素晴らしい。ただ、このDVDの仕様はちょっと不親切で、映像特典のインタビュー映像にたどり着くまでに時間がかかるのが難点。

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The Captivating Star of Happiness (1975)

愛の奴隷
Slave of Love (1975)

狩場の悲劇
A Hunting Drama (1978)

(P)2003 Image Entertainment (USA) (P)2003 Image Entertainment (USA) (P)2003 Image Entertainment (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆ 画質★★★★☆☆ 音質★★★★☆ 画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダード・サイズ/5.1chサラウンド/ロシア語音声/字幕:ロシア語・英語・フランス語・日本語・ドイツ語・オランダ語・スペイン語他13ヶ国語/地域コード:ALL/168分/製作:ロシア

映像特典
メキング・ドキュメンタリー
フィルモグラフィー
フォトアルバム
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダード・サイズ/5.1chサラウンド/ロシア語音声/字幕:ロシア語・英語・フランス語/地域コード:ALL/94分/製作:ロシア

映像特典
ミハルコフ監督インタビュー
作曲家アルテミエフのインタビュー
サイレント女優ヴェラ・コロードナヤに関するドキュメンタリー
フィルモグラフィー
フォトアルバム
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダード・サイズ/5.1chサラウンド/音声:ロシア語・英語・フランス語/字幕:ロシア語・英語・フランス語・ドイツ語・日本語・オランダ語等13ヶ国語/地域コード:ALL/109分/製作:ロシア

映像特典
チェーホフ夫人インタビュー
作家テレショフのインタビュー
チェーホフに関するドキュメンタリー
女優スヴェトラナ・トマのインタビュー
作曲家エフゲニー・ドガのインタビュー
フィルモグラフィー
フォトアルバム
監督:ウラジミール・モーティル
脚本:ウラジミール・モーティル
    オレグ・オセンチンスキー
    マルク・ザハロフ
撮影:ディミトリ・ケスキエフ
音楽:イサーク・シュワルツ
出演:イリーナ・クプチェンコ
    アレクセイ・バターロフ
    ナターリャ・ボンダルチュク
    オレグ・ストリゼノフ
    エヴァ・シクルスカ
    イノケンティ・スモクトゥノフスキー
    オレグ・ヤンコフスキー
監督:ニキータ・ミハルコフ
脚本:フリドリク・ゴレンシュテイン
    アン奴隷・ミハルコフ・コンチャロフスキー
撮影:パヴェル・レベシェフ
音楽:エドゥアルド・アルテミエフ
出演:エレーナ・ソロヴェイ
    ロジオン・ナハペトフ
    アレクサンドル・カリャーギン
    オレグ・バシラシヴィリ
    コンスタンチン・グリゴリエフ
    ニコライ・パストゥコフ
    ニキータ・ミハルコフ
監督:エミーリ・ロチャヌー
原作:アントン・チェーホフ
脚本:エミーリ・ロチャヌー
撮影:アナトリー・ペトリツキー
音楽:エフゲニー・ドガ
出演:ガリーナ・ベリャーエワ
    オレグ・ヤンコフスキー
    キリル・ラヴロフ
    レオニド・マルコフ
    スヴェトラナ・トマ
    グリゴリー・グリゴリウ
 皇帝暗殺計画に関わった将校たちの末路と、彼らを愛する妻、母たちの強い信念と深い愛情を描く豪華な歴史ドラマ。日本未公開が不思議なくらいに、壮大でドラマチックな力作。しかも、バターロフ、スモクトゥノフスキー、ヤンコフスキーという当時のロシア映画界を代表する世界的な名優の共演、ロシア映画界の名花クプチェンコの凛としたヒロイン、流麗で美しいカメラワーク、叙情的で華やかなな音楽、と見所いっぱいの素晴らしい名作。冒頭に“ロシアの女性に捧ぐ”とあるように、どのような逆境の中でも愛する人を信じ、運命に立ち向かった貴族女性たちの勇気を讃えた女性映画である。是非とも日本でも公開してほしい作品。  ミハルコフ作品の中でも最も好きな作品。帝政末期のロシア映画界を舞台に、政治に無関心な映画女優と革命派のカメラマンとの恋を描く。滅び行く上流階級、運命に引き裂かれる恋人たち、ミハルコフのロマンティストぶり極まる素晴らしいメロドラマに仕上がっている。アルテミエフによるロマンティックで叙情的な美しい音楽も最高。また、当時の映画館の様子なども再現されていて非常に興味深い。“ロシアのガルボ”と称されたエレーナ・ソロヴェイ演じるサイレント女優オルガは、帝政時代に実在した伝説的な映画女優ヴェラ・コロードナヤをモデルにしており、本DVDには彼女の生涯を追ったドキュメンタリーが収録されている。  文豪チェーホフ唯一の長編小説の映画化。エミーリ・ロチャヌーは「ジプシーは空にきえる」('76)や「アンナ・パブロワ」('83)が日本でも有名だが、個人的にはこの作品が一番好き。男性優位の貴族社会で生き残るために男たちの愛を利用する美しい娘と、彼女を本気で愛してしまった男の哀しい愛のドラマ。エレガントで叙情的で美しい、珠玉の名作である。ヒロインのオレンカを演じるのは元バレリーナのガリーナ・ベリャーエワ。「アンナ・パブロワ」でパブロワ役を演じた女優さんだが、野生児のような純粋で初々しい少女時代から、男たちを弄びつつも清らかさを失わない娘時代までを伸び伸びと演じて素晴らしい。また、当時ロシアでも大ヒットしたエフゲニー・ドガによる音楽も美しい。

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