ロシア・アニメーション傑作選
PART 1

 

フィルム・フィルム・フィルム
Film, Film, Film (1968)
監督:フョードル・ヒトルーク
製作:ソユーズムリトフィルム

 

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 帝政時代からの伝統を誇るロシア・アニメーションは、スターリンによるソユーズムトフィルム(連邦動画スタジオ)の創設以来、長いことディズニー・アニメをお手本としてきた。そのことは映像表現の画一化や技術進歩の停滞という弊害を生んでしまったわけだが、フルシチョフによる雪解けの時代を経た60年代に入ると、アート志向の強い大人向けのアニメを作る新世代の作家が台頭してくる。その中心人物的な役割を担ったのが、フョードル・ヒトルークだった。
 そのヒトルークの代表作と言えるのが、この『フィルム・フィルム・フィルム』という短編アニメだ。タイトルからも連想できるように、この作品は“映画作り”そのものがテーマになっている。オープニングはバブルガム・ロック風のポップでお洒落な音楽に乗せて、チャップリンやバスター・キートン、モンローやソフィア・ローレンなどのスナップがカラフルにコラージュされていく。
 やがて場面は移り、タイプライターの前で悶々としている人物。映画の脚本家だ。どうやらシナリオの執筆が煮詰まっている様子。あれこれと悩んだ末に、ようやく芸術の女神が降臨。完成したシナリオを手にした監督と脚本家は、あちこちの部署で審査を受けて回る。その度に修正・削除が次々と指示され、さすがに頭に血が上ってくる監督。それでもようやく最終的な許可が下り、いよいよ撮影の準備に取り掛かる。スタジオ内を駆け巡る監督と、それについていくのがやっとの脚本家。スタッフが次々と決まり、いざロケ現場へ出発。しかし、大勢のエキストラに指示を出すのは至難の業だし、演技の出来ない子役には手を焼かされるしと、撮影の苦労は尽きない。それでもようやく作品は完成にこぎ着け、遂に公開初日を迎える。ロビーで客の反応をドキドキしながら待つスタッフやキャスト。プレッシャーに押しつぶされそうになった脚本家は思わず身投げしようとするが、そこへ聞こえてきたのは観客の賞賛の嵐。舞台挨拶に立った一行は肩を寄せ合って感激の涙を流し、ようやく彼らの苦労は報われる。

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 普遍的な映画製作の苦労を的確に描いた分かりやすさも去ることながら、随所に体制批判とも取れるような風刺ギャグを散りばめているのがヒトルーク作品の醍醐味だ。UPA作品を思わせるような、ミニマルなアート・デザインを駆使したリミテッド・アニメーションのセンスも抜群。とてもポップでお洒落な作品に仕上がっている。
 ヒトルークが作品のモデルにしたのは、巨匠エイゼンシュタインの傑作『イワン雷帝』(44年)。修道院を舞台にした葬儀シーンの幻想的な色彩とデザインは、特に際立って素晴らしい出来栄えだ。また、スタジオ内の雑然とした雰囲気を描き出した、前半のアバンギャルドな背景デザインも非常にスタイリッシュ。当時のロシアで、これだけモダンでハイセンスなアニメーションが作られていたということに驚かされるだろう。

 

 

スパイの情熱
Shpionskie strasi (1967)
監督:エフィム・ガムブルグ
製作:ソユーズムリトフィルム

 

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 ヒトルークと同じく60年代に頭角を現した新世代のアニメ作家エフィム・ガムブルグ。その代表作とされているのが、この『スパイの情熱』である。60年代のソビエトでは西側の007に対抗するかのごとく、KGBの諜報員が大活躍するスパイ映画が数多く作られた。中でも有名なのは60年代から80年代にかけて5本の作品が作られた“スパイ物語”シリーズだろう。本作は、そうしたスパイ映画のパロディとして作られたアニメーションである。
 ストーリーはいたって単純。ソビエトで開発された最新鋭のデンタル・アームチェアを盗もうと西側のスパイが暗躍し、それをKGBのスパイが阻止するというもの。スパイが公園の彫像の中から盗撮したり、水溜りに見せかけたカーペットの下に隠れてたりとナンセンスなパロディ・ギャグが満載。パンタロンに長髪でロックを聴く西側かぶれの不良少年が、いとも簡単にスパイ活動に利用されてしまうものの、役人に戒められて反省するなんて下りは、いかにもソビエトのプロパガンダらしい展開だ。そんな彼に色仕掛けで迫る女スパイが、西側のポルノ雑誌をエサに釣ろうとするなんてのもご愛嬌。ロックンロールとセックスは堕落した西側文化の象徴なのである。
 そうした冷戦時代のソビエト的価値観を知っていれば、より一層興味深く見ることの出来る作品だろう。もちろん、スラップスティックなギャグだけでも十分に楽しむことは出来る。ただ、この作品ばかりがガンブルグの代表作として持ち上げられることに、多少の違和感を感じるというのも正直なところ。後年の『青い人形』(76年)や『...式泥棒』(78年)の方が、アニメーションとしての完成度は高いと思う。

 

...式強盗
Ograblenie po... (1978)
監督:エフィム・ガムブルグ
製作:ソユーズムリトフィルム

 

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 エフィム・ガムブルグのフィルモグラフィーの中でも、特に抜きんでた傑作だと個人的に思っているのが、この『...式強盗』である。これは、アメリカ、フランス、イタリア、そしてソビエトの強盗事情をユーモラスなタッチで描いていく作品。アメリカはフィルム・ノワール、フランスはフレンチ・ノワール、イタリアはネオレアリスモといった具合に、それぞれのお国柄を象徴するような映画スタイルで作られている。作画スタイルは非常にスタイリッシュでアバンギャルド。今見ても全く古さを感じさせない、大人向けのハイセンスなアニメ作品に仕上がっている。
 まずはアメリカ篇。現金輸送車が襲われ、金の入ったカバンが次から次へと人の手に渡っていくのだが、カバンを手にした人間は片っ端から殺されていく。まさに犯罪大国アメリカといったイメージだ。シルエットを生かした切り絵風のアートワークもお洒落だし、モダン・ジャズ風のファンキーなBGMがまたカッコいい。マッチョな男性ストリッパーが登場するなんてのも、当時のソビエトのお国事情を考えればまことに大胆な演出と言えるだろう。
 次はフランス篇。ボサノバ風のセンチメンタルなBGMがいかにもおフレンチなムードをかもし出す。出所したばかりの初老のギャングが、若い男女のカップルと組んで銀行強盗を働くものの、一部始終を見ていたスリの老人にあっさりと金を持ち逃げされてしまうというお話。しょうがないな、と黙ってワイングラスを傾ける主人公たちの姿に哀愁が漂う、なかなか粋な物語だ。主人公たちがジャン・ギャバン、アラン・ドロン、ブリジット・バルドーをモデルにしているのも映画ファンには嬉しい。しかも、最後においしいところを持っていこうとするスリの老人はルイ・ド・フュネスだ。
 続いてイタリア篇。こちらは一転して、南国シチリアをイメージしたカラフルな色彩が眩しい。女房の尻に敷かれた貧乏人のぐうたら亭主マリオが、口八丁手八丁でマフィアに扮して銀行から金を奪うものの、全て借金の返済で持っていかれてしまう。隣人から警官、果ては銀行員までもがマリオの銀行強盗を応援するというのは、ロシア人から見たイタリア的大らかさなのだろうか?『昨日・今日・明日』や『イタリア式離婚狂想曲』など、往年のイタリア映画へのオマージュがそこかしこち散りばめられた愛すべき一篇だ。主人公夫婦にしても、明らかにマルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレンをイメージしている。
 そして、最後がソビエト篇。銀行の様子を覗き見している怪しげな二人の男。やがて建物の改装工事が始まり、誰もいない隙を見計らって中に入っていった2人だが、なんとそこは新しく警察署になったばかりだったという寸劇コントのようなストーリー。妙に微笑ましい展開なのは、やっぱりソビエトが一番安全だということなのだろうか(笑)。

 

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Film, Film, Film

(P)2006 Krupnui Plan (Russia)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(ロシアPAL盤)
カラー・モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:ロシア語/字幕:なし/地域コード:ALL/113分/製作:ロシア
収録作品
『フィルム・フィルム・フィルム』
『スパイの情熱』
『...式泥棒』
『キャプテン・プローニン』
『アメリカのキャプテン・プローニン』
『宇宙のキャプテン・プローニン』
『オペラのキャプテン・プローニン』
 ロシア盤なので日本語はおろか、英語の字幕すら入っていませんが、どの作品もストーリーはいたって単純なので、十分理解できるかと思います。それに、セリフも少ないしね。後半に収録されている“キャプテン・プローニン”シリーズですが、90年代半ばにロシアではちょっと人気があった作品らしいです。シュワちゃんをモデルにしたキャラクターがご愛嬌ですが、アニメとしての出来はあまり良くありません。中途半端なサイバー・パンク・テイストも安っぽく感じられるし。まるで小学生の落書きみたいな作画デザインはいかがなもんかと思いますね・・・。

 

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