ロサルバ・ネリ Rosalba Neri

 

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 イタリア産B級映画の悪女役スターといえばこの人。顔が似ているというわけではないが、エヴァ・ガードナーをちょっと蓮っ葉にしたような雰囲気があって、妖艶かつ濃厚なセックス・アピールを持つ女優。もともとはスペクタクル史劇で売り出されたが、やがてマカロニ・ウェスタンやホラー映画に欠かせない顔となった。
 約20年のキャリアで出演した作品はなんと100本近く。中には端役に近いような仕事も含まれているが、イタリアのみならずスペイン、ドイツ、フランス、アメリカと、その活躍の場は文字通りインターナショナルなものだった。
 しかも、普通の女優なら嫌がるような汚れ役も進んで引き受ける根性の持ち主。本人は“人前で裸になることは、あまり気が進まなかった。でも当時は収入が必要だったし、もっと良い役が来るんじゃないかと待ち続けるようなことはしたくなかった”と語っているが、その脱ぎっぷりの良さも見上げたものだったと言えよう。
 猟奇サスペンス“Alla ricerca del piacere”(72)では、当時まだタブーだった全裸の濃厚なレズ・シーンにも挑戦し、地元イタリアではセンセーションを巻き起こした。同作で共演した女優バーバラ・ブーシェによると、彼女は“とても陽気で大らかで楽しい女性”とのこと。インタビューでレズ・シーン撮影の思い出を聞かれて、“なかなか上手くいかなかったわ。だって、女性とそんなことする機会なんて当時はなかったもの”と笑い飛ばしてみせる姿は、天真爛漫で無邪気な少女のようだ。

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『アンジェリク2/ヴェルサイユへの道』より

 1939年6月19日、イタリアはエミリア・ロマーニャ州の古都フィオリ近郊に生まれたロサルバ。当時の故郷では映画が唯一の娯楽で、幼い頃から弟を連れてターザン映画や西部劇、ギャング映画などのハリウッド映画を夢中になって見たという。
 やがて成長するにつれ地元でも評判の美人となった彼女は、周囲から“そんなにキレイなんだから、将来は映画スターになるべきだ”と言われるようになる。それも一度や二度ではなかったものだから、本人はいつの間にかすっかりその気になってしまったのだそうだ。
 こうして女優を志すようになった彼女は、サンタルカンジェロ・ディ・ロマーニャの演劇学校で学ぶようになり、伝説的な大女優エレオノラ・ドゥーゼのライバルだった往年の舞台女優テレサ・フランキーニから演技の基礎を教わった。
 さらに、地元の美人コンテストで優勝し、ローマの名門・国立映画実験センターの演技コースに入る。ここではローマ演劇アカデミーの指導者でもあったオラツィオ・コスタから本格的な舞台演技を学び、その一方でフェリーニやアントニオーニの講義を受講して映画撮影についても勉強した。なので、一時は映画の道に進むべきか舞台の道に進むべきか悩んだこともあったという。
 もともと映画にはエキストラとして出演したこともあったが、本格的な映画デビューは国立映画実験センター在学中の58年に出演したルイジ・コメンチーニ監督のコメディ“Mogli pericolose”。その後、実力を評価されてニューヨークの名門アクターズ・スタジオに留学という話も持ち上がったが、なぜか断ってしまったという。
 そして、巨匠ロベルト・ロッセリーニ監督の『ローマで夜だった』(60)を経て、当時ブームだったスペクタクル史劇で本格的に売り出されることとなる。中でも、妖艶な悪の女王役を演じたジョルジョ・フェローニ監督の“Ercole contro Molock”(63)と“Leone di Tebe”(64)はこの時代の代表作だ。また、ラオール・ウォルシュ監督の『ペルシャ大王』(60)やアンソニー・マン監督の『エル・シド』(61)といったハリウッド産史劇大作にも端役で出演している。
 やがてマカロニ・ウェスタンのブームが訪れると、今度は西部劇の悪女役として引っ張りだこに。ジュリアーノ・ジェンマと共演した『南から来た用心棒』(66)やプリモ・ゼリオ監督の“Killer, adios”(68)など出演作は枚挙にいとまないが、中でもマーク・ダモンと共演した『皆殺し無頼』(67)が代表作として知られる。
 また、、ミシェル・メルシエ主演のフランス産歴史ロマン映画アンジェリク・シリーズ『アンジェリク/はだしの女侯爵』(64)と『アンジェリク2/ヴェルサイユへの道』(65)では、主人公アンジェリクに露骨な敵対心を見せる下町娘ラ・ポラク役で登場。そのほか、スパイ映画やアクション映画、戦争映画などでもミステリアスな悪女役として大活躍した。

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『マルキ・ド・サドのジュスティーヌ』より

 さらに、“99 Women”(69)、『マルキ・ド・サドのジュスティーヌ』(69)、『女奴隷の復讐』(69)とジェス・フランコ監督作品へ立て続けに出演した頃から、大胆なヌード・シーンも辞さないような役柄が徐々に増えていく。中でも特にセンセーショナルだったのが、先述した“Alla ricerca del piacere”とフェルナンド・ディ・レオ監督の異色ホラー『スローター・ホテル』(71)。前者ではバーバラ・ブーシェ相手に全裸の濃厚なレズ・セックス・シーンを披露し、後者ではヘア・ヌード姿で過激なオナニー・シーンを披露している。
 これまた先述したように、彼女自身は必ずしも進んでヌード・シーンを演じたわけではなかったが、その一方で恥ずかしいと思うようなこともあまりなかったという。これは脱ぎ役の仕事をした女優さんなら誰もが言うことだが、セックス・シーンとてあくまでも仕事。現場では恥ずかしいと思うような雰囲気は微塵もないのだ。それに、当時はヌード・シーンというものが、ある種のトレンドでもあった。娯楽映画にしろ芸術映画にしろ、なにかと裸はつきものだったのである。“出来の良いセクシー映画だってあったはずよ”とサラリといいのける彼女だが、唯一辛かったのは冬場のヌード撮影だったという。“現場にはドライヤーを用意していたの。吐く息が白くなるから、ドライヤーの熱で消すのよ(笑)”

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『スローター・ホテル』より


 また、当時の彼女は劇中で着用するエキゾチックで大胆なファッションも大きな特徴だったが、実はその殆んどが自前のものだったという。彼女自身、“私には独特のファッション・スタイルがあるの”と語っているように、ちょっと他の女優では真似のできないようなものが多い。
 特に地中海地方やアラブの民族衣装をアレンジしたようなゴージャスでエレガントで大胆なドレスは彼女の独壇場。エドウィージュ・フェネッシュと共演した“Top Sensation”(69)では、全裸の上からオリエンタルなアクセサリーを身にまとってインパクトを残したが、あれもまた彼女自身のコレクションだったのだそうだ。
 
71年にはジョセフ・コットンと共演したホラー映画『フランケンシュタイン・娘の復讐』(71)にサラ・ベイ名義で主演。彼女はタイトル・ロールであるフランケンシュタイン男爵の娘役を演じた。
 このサラ・ベイという名前は『デビルズ・ウェディング・ナイト』(73)やパム・グリア主演のアメリカ映画『エンジェル・グラディエーター』(74)でも使用している。また、アラン・ドロン主演のノワール・アクション『ビッグ・ガン』(72)にもワン・シーンだけ顔を出していた。

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『デビルズ・ウェディング・ナイト』より

“Top Sensation”より

 一時期は1年に10〜12本の映画に出演していたというロサルバ。あまりにも忙しすぎて、自分の出演した作品を見る時間すらなかったという。ある時は、スペインから飛行機でイタリアに戻り、空港で次の作品の契約書にサインしてチケットを受け取って、その数時間後にはロケ地のベイルートへ・・・なんてこともあったそうだ。なので、撮影現場以外の世界との接触が殆んどなく、自分が世間でどのように思われているのかも全く分からなかったらしい。
 それでも、彼女自身は自分のことを“セレブリティではない”と考えていたそうだ。セレブというのはバーバラ・ブーシェやエドウィージュ・フェネッシュのように、道を歩けばファンに囲まれてサインをねだられ、テレビの芸能ニュースで取り上げられるような人のこと。“私は業界では有名だったし、有望視もされていたと思う。でも、道でファンにサインをねだられるようなことなどなかったわ”という。
 そんな彼女が引退を決意したのには2つの理由があった。1つは、いつまで経っても同じような作品、同じような役しか回ってこないこと。“あるとき突然、自分の毎日が同じことの繰り返しであることに気付いたのよ”と彼女は振り返る。そもそも、彼女は自分の出演作があまり好きではなかった。自分の映画を殆んど見たことがないことの理由には多忙なスケジュールというものもあったが、同時に女優として誇れるような作品が少ないということも含まれていたようだ。
 そして、2つ目の理由は70年代半ばに現在の夫と知り合ったこと。彼女のプライベートは殆んど公にされていないので確かな情報ではないが、現在の夫というのは裕福な実業家の貴族だといわれる。家庭を優先させたいと考えていた彼女にとって、3ヶ月も4ヶ月も撮影の為に家を空けるような生活は無理だったのである。

 かくして、ジョーン・コリンズ主演のセックス・コメディ“Il pomicione”(76)を最後に突然芸能界を引退。その後、テレビ・シリーズ“Olga e i suoi figli”(85)に出演して一時期的なカムバックを果たすが、それっきり再びファンの前から姿を消してしまった。
 実は、かつてジュゼッペ・トルナトーレ監督の『マレーナ』への出演をオファーされたことがあったらしい。だが、様々な事情があって、残念ながらその話は流れてしまった。それでも彼女はこう語る。“実現はしなかったけど、私が幸せであることに変わりはない。素晴らしい人生を送ってきたと思っているわ”と。

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現在のロサルバ・ネリ

 

アリゾナ無宿・レッド・リバーの決闘
Arizona si scateno... e li fece fuori tutti ! (1970)

日本では劇場未公開・TV放送のみ
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2009 Mya Communication (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語・イタリア語/字幕:英語/地域コード:ALL/
90分/製作:イタリア・スペイン

映像特典
オリジナル劇場予告編
フォト・ギャラリー
監督:セルジョ・マルティーノ
製作:ヴィットリオ・ガリアーノ
脚本:ミケーレ・マッシモ・タランティーニ
   エルネスト・ガスタルディ
撮影:ミゲル・フェルナンデス・ミラ
音楽:ブルーノ・ニコライ
出演:アンソニー・ステファン
   ロベルト・カマルディエル
   マルチェラ・ミケランジェリ
   アルド・サンブレル
   ロサルバ・ネリ
   ラフ・バルダッサーレ
   エミリオ・デッレ・ピアーネ
   ギルド・ディ・マルコ
   ホセ・マヌエル・マルタン

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アリゾナ(A・ステファン)と相棒ダブル・ウィスキー(R・カルマディエル)

アリゾナには強盗殺人の濡れ衣が着せられていた

 ミケーレ・ルーポ監督、ジュリアーノ・ジェンマ主演のマカロニ・ウェスタン『南から来た用心棒』(65)の続編。こちらは、70年代イタリアを代表する娯楽職人セルジョ・マルティーノが監督を手掛け、マカロニ界のMr.オクレこと(笑)アンソニー・ステファンが主人公アリゾナ・コルト役を演じている。
 ご存知の通り、オリジナル版にも出演していたロサルバ。あちらでは悪党に殺される悲運の酒場女を演じていたが、こちらでは父親を裏切って悪党側に寝返るという悪女役。キャスト・クレジットの上ではマルチェラ・ミケランジェリがヒロインの扱いだが、その存在感や役割の大きさも含めて、実質的にはロサルバがヒロイン役と見てもいいだろう。
 主軸となるストーリーはシンプルなもの。強盗殺人の濡れ衣を着せられた無法者ガンマン、アリゾナ・コルトが、自分を陥れた悪党キーンの一味に復讐をするというもの。そこへ、当時マカロニのトレンドだったバディものの要素を取り入れ、さらには悪党キーンと対立関係にある有力者モレノという人物を絡ませることで、緊迫感のある三つ巴のアクションが繰り広げられていく。
 もともとホラーやサスペンス、ファンタジー・アクションなどの分野を得意とするマルティーノ監督。実は、マカロニ・ウェスタンの監督はこれと『ハチェット無頼』(77)の2本だけだ。当時は既にマカロニ・ブームも下火になっていた時期だが、どうしてもっと早くこのジャンルに手を付けなかったのかと不思議になるくらい、実に手堅い演出を見せてくれる。
 特に、シリアスなメイン・ストーリーとコミカルなサイド・ストーリーのバランスが絶妙で、これでもかと賑やかな見せ場を盛り込みつつも決して脱線することがないのは立派。当時は多くのウェスタンが明朗快活なコミカル路線へとシフト・チェンジしつつあったが、あくまでもマカロニ特有のペシミズムを貫いたのは偉かった。
 また、普段は貧相で存在感の薄いアンソニー・ステファンも、本作ではなかなかカッコいいところを見せてくれる。これもマルティーノ監督の演出の賜物だろう。その恋人シーナを演じるマルチェラ・ミケランジェリに華がないのはちょっと残念だが、そこはロサルバ・ネリの妖艶な悪女の魅力が補って余りある。
 彼女が演じるのは、かつて悪党キーンを有罪判決に追い込んだ元判事モレノの娘パロマ。強盗に入ったキーン一味によって金塊と一緒に誘拐されるのだが、実は彼女もグルだった。当初は残虐なキーンの暴力行為に対して懐疑的だったが、次第にサイディスティックな本能に目覚めていく。
 そうとは知らないアリゾナ・コルトは、金塊を奪い返した上でパロマを救出。だが、彼女の裏切りでキーン一味に捕らえられてしまう。アリゾナに金塊の隠し場所を吐かせるため、パロマが彼の目の前で恋人シーナを悪党一味に殺させるシーンはとても印象的。
 自分も一人の男を愛する女であり、アリゾナのために命を投げ打つシーナに共感しつつも、己の幸せの為に冷酷な決断を下すパロマ。罪悪感に一瞬うろたえ、表情が険しくなったものの、すぐに妖しげな微笑を浮かべてみせるロサルバの細やかな演技が光る。

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アリゾナの宿敵である悪党キーン(A・サンブレル)

酒場女シーナ(M・ミケランジェリ)がアリゾナの逮捕に加担

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目撃者を名乗り出たフィルシー・ボトル(G・ディ・マルコ)

かつてキーンに有罪判決を下した元判事モレノ(J・マヌエル・マルタン)

 気ままな放浪生活を送る無法者ガンマン、アリゾナ・コルト(アンソニー・ステファン)と相棒の呑み助ダブル・ウィスキー(ロベルト・カルマディエル)。あるとき、二人は賞金稼ぎの一団に命を狙われる。どうやら、アリゾナの首に懸賞金がかかっているようだ。
 事実を確かめるためにブラックストーンの町へ向かった二人は、アリゾナに強盗殺人の容疑がかけられていることを知る。もちろん濡れ衣だ。その頃、町にはお尋ね者の悪党キーン(アルド・サンブレル)とその一味がやって来ていた。彼はアリゾナの宿敵でもある。
 酒場で対面したアリゾナとキーン。カード・ゲームでアリゾナがキーンの詐欺を見破ったことがきっかけで、仲間を巻き込んだ大乱闘に発展してしまう。その際、喧嘩をやめさせようと思った女主人シーナ(マルチェラ・ミケランジェリ)に酒瓶で頭を殴られたアリゾナは気絶してしまい、駆けつけた保安官に逮捕されてしまう。
 正当な裁判もないまま、アリゾナは強盗殺人犯として絞首刑に処せられることが決まった。目撃者を名乗り出る男がいたからだ。その目撃者とは、小心者の飲んだくれフィルシー・ボトル(ギルド・ディ・マルコ)。だが実は、フィルシー・ボトルはキーンの手下。全てはアリゾナをなき者にしようとするキーンの罠だった。
 一方、キーンにはもう一人の敵がいた。かつて彼を有罪判決に追い込んだ元判事モレノ(ホセ・マヌエル・マルタン)である。モレノはキーンの殺害をアリゾナに依頼していたが断られていた。キーンはモレノの牧場を襲撃し、愛娘パロマ(ロサルバ・ネリ)と全財産の入った金庫を奪い去っていく。ところが、キーンを手引きして金庫の在りかを教えたのはパロマだった。彼女はさらに、父親が大切にしている金塊の隠し場所まで教えてしまう。
 翌日、町ではアリゾナの絞首刑が執行される。だが、相棒ウィスキー・ボトルの協力で縄に仕掛けを施したアリゾナは生き延び、野次馬がいなくなった隙を見計らって姿を消した。シーナの酒場へと向かった二人。自分のせいでアリゾナが死んだと自責の念にかられていたシーナは、二人の逃亡に力を貸すことに。また、彼女に一目ぼれしていたアリゾナは、強引に彼女を口説き落とす。
 そこへ、アリゾナの死刑執行を知らないモレノから現金が届く。キーンを殺して娘を奪い返して欲しいというのだ。このまま行方をくらまそうと考えていたアリゾナは引き受けるつもりなどない。そこで、ダブル・ウィスキーがモレノに現金を返すことにした。
 ところが、抜け目のないフィルシー・ボトルがアリゾナとダブル・ウィスキーの姿を目撃し、親分のキーンに報告していた。モレノの牧場から帰る途中だったダブル・ウィスキーは、キーン一味に捕まって拷問を受けてしまう。
 相棒が捕まったことを知ったアリゾナは、モレノの仕事を引き受けることに。一方、アリゾナに襲われたら勝ち目がないと考えたフィルシー・ボトルは、仲間のいない隙を狙ってダブル・ウィスキーを逃がす。川岸で瀕死のダブル・ウィスキーを発見したアリゾナは、自らの計画を実行に移すことにする。
 キーンの右腕スカーフェイス(ラフ・バルダッサーレ)は、大量の現金が川に流れているのを発見。親分とその愛人に儲けを独り占めされるのではないかと疑心暗鬼だった仲間たちは、われ先にと川へ集まる。もちろん、これはアリゾナの仕掛けた罠だった。
 慌てて子分たちを呼び戻しに行くキーン。その隙を狙って、アリゾナは金庫と金塊を馬の背中に乗せて秘密の隠し場所へ向かわせる。さらに、アジトにいたパロマを連れ出し、モレノのもとへ送り届けることにした。しかし、パロマの裏切りでキーン一味に捕まってしまった。
 金庫と金塊の隠し場所を吐かせるためにアリゾナを拷問するキーン一味。だが、アリゾナの口は堅かった。その様子を見たパロマは、彼にとって最も大切な人、つまりシーナを誘拐することを思いつく。

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モレノの愛娘パロマ(R・ネリ)はキーンの愛人だった

モレノの牧場を襲撃するキーン一味

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絞首刑に処せられたアリゾナだったが・・・

シーナはアリゾナの逃亡に協力する

 脚本を手掛けたのは『ソルジャー・ハンティング』(88)などB級アクションの監督としても知られるミケーレ・マッシモ・タランティーニと、マカロニ・ウェスタンからホラーまでありとあらゆるジャンルに長けたイタリア産娯楽映画界の名脚本家エルネスト・ガスタルディの二人。ガスタルディは『南から来た用心棒』の脚本も手掛けている。
 撮影監督は『荒野の群盗』(65)や『つむじ風のキッド』(67)、『エル・ゾンビU 死霊復活祭』(72)などを手掛けたスペインのカメラマン、ミゲル・フェルナンデス・ミラが担当。音楽はモリコーネの盟友としても知られる名作曲家ブルーノ・ニコライが手掛けている。
 ちなみに、このニコライの音楽にはいろいろと不思議な点がある。まず、そのコミカルでノンビリとしたメロディとサウンドは、本作のストーリーや演出スタイルに合っているとはあまり思えず、なんとなく違和感を感じてしまう。しかも、テーマ曲も含めて全く同じスコアがイグナチオ・イクイーノ監督の“Domani, Passo a Salutare la tua vedova...Parola di epidemia”(72)とアンソニー・アスコット監督の“Lo Chiamavano Tressette...Giocava sempre volla morte”(73)でも使用されているのだ。そもそも、本当にこの作品のために書かれたスコアだったのかどうか。いろいろと裏事情がありそうで興味をそそられる。

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キーン一味に捕らえられたダブル・ウィスキー

川を流れる現金に群がるキーンの子分たち

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パロマを救出するアリゾナだったが・・・

パロマの裏切りでキーンたちに捕らえられてしまう

 そして、ロサルバとアンソニー・ステファン以外のキャストについても触れておこう。まず、悪党キーン役を演じているのは、マカロニ・ウェスタンの悪役としてお馴染みの名優アルド・サンブレル。狂犬のような悪党を演じさせたら天下一品のクセモノ俳優だ。
 アリゾナと恋に落ちる酒場の女主人シーナ役には、リリアーナ・カヴァーニの『ミラレパ』(74)で知られる女優マルチェラ・ミケランジェリ。他にも、巨匠エットーレ・スコラの『醜い奴、汚い奴、悪い奴』(76)やエンツォ・G・カステラーリの『ビッグ・バイオレンス』(76)などにも出演しているが、あまり印象に残らないタイプの女優さんだ。
 さらに、アリゾナの相棒ダブル・ウィスキー役には、『夕陽のガンマン』(65)や『情無用のジャンゴ』(66)など数多くのマカロニ・ウェスタンでコミカルな演技を見せてきた髭モジャの脇役俳優ロベルト・カルマディエル。『南から来た用心棒』ではウィスキーという役名で登場していた。
 そのほか、スペクタクル史劇やマカロニの悪役として活躍した巨漢俳優ラフ・バルダッサーレ、同じくマカロニの悪役で顔なじみのエミリオ・デッレ・ピアーネなどが登場。また、アルジェントの『4匹の蝿』(71)で変わり者の郵便配達役を演じていたギルド・ディ・マルコが、小心者で抜け目のない小悪党フィルシー・ボトル役でいい味を出している。

 

危険な事情
L'amante del demonio (1972)

日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2009 Mya Communication (USA)
画質★☆☆☆☆ 音質★☆☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:イタリア語/字幕:英語/地域コード:ALL/77分/製作:イタリア

映像特典
なし
監督:パオロ・ロンバルド
製作:ディック・ランドール
脚本:パオロ・ロンバルド
撮影:アントニオ・モディカ
音楽:エルヴィオ・モンティ
出演:エドマンド・パードム
   ロサルバ・ネリ
   スパルタコ・コンヴェルシ
   ロバート・ウッズ
   フェルディナンド・ポッジ
   マリア・テレサ・ピンジトーレ
   フランチェスカ・リオンティ
   カルラ・マンシーニ

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友人と共に古城を訪れたヘルガ(R・ネリ)

城には悪魔が棲んでいるという噂があった

ヘルガは自分とそっくりの絵を見つけてパニックに

 70年代のロサルバは超多忙なスケジュールに追われていた。実際、72年には11本もの映画に出演しており、その多くが主演クラスの重要な役柄だ。ただ、大半が低予算のB級・C級映画であったことも事実。代表作と呼ばれる『フランケンシュタイン・娘の復讐』(71)も含め、当時の彼女の主演作はとにかくチープで出来の悪いものが多かった。その中でも特に酷い出来栄えだったのが、この『危険な事情』というホラー映画である。
 原題は“悪魔の恋人”という意味。悪魔の棲み家と噂される古城を訪れた女性ヘルガが前世にタイムスリップし、自らが悪魔の恋人であったことを知る・・・というだけの物語、いや物語にすらなっていないお話を延々見せられるのだから困ったもの。結局何を描きたいのかも全く分からないまま、突然ヒロインが現世に戻って終ってしまう。完全に意味不明。これを決してシュールとは呼ぶまい。
 さらに、アンディ・ミリガンも真っ青なパオロ・ロンバルド監督の演出力にも脱帽・・・というより脱力(笑)上記のアメリカ版DVDはトリミングされた古いビデオ素材を使っているので結論付けるべきではないのかもしれないが、その悪条件を差し引いても見るに耐えない代物と言えよう。これはもう素人以下の仕事だ。
 迷走する退屈なストーリーに下手っクソな演出。ロサルバ以下の出演者も全く演技に力が入っていない。サバトのレズ乱交やロサルバのヌード・シーンといった見せ場も一応用意はされているが、そこへたどり着くまでに眠たくなってしまうこと必至だろう。まあ、そういった意味では珍作と言えなくもないかもしれないが・・・。

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目覚めるとそこは数百年前の世界だった

恋人ハンス(F・ポッジ)との結婚を控えたヘルガ

マグダ(M・テレサ・ピンジトーレ)もハンスを愛していた

 17世紀に建てられた壮麗なホルンベルグ城。しかし、そこは悪魔が棲んでいると噂される場所でもあった。ヘルガ(ロサルバ・ネリ)は親友マグダ(マリア・テレサ・ピンジトーレ)らを連れて、城の見学にやって来た。
 あいにく休館日だったものの、管理人に無理を言って中へ入れてもらったヘルガたち。すっかり城の雰囲気に魅了されたヘルガは、なんと一晩泊めてもらうことにする。
 その晩、城の中を散策していたヘルガは壁にかけられた1枚の絵を見て驚く。それは、一人の女性が地獄の炎に焼かれる姿を描いたもので、その女性が自分自身に瓜二つだったからだ。パニックに陥って城を逃げまどった彼女は気を失ってしまう。
 ふと目覚めると、ヘルガは森の中に横たわっていた。それは数百年前の世界。ヘルガはハンス(フェルディナンド・ポッジ)という若者と結婚を控えていた。しかし、彼女は真面目で純朴なハンスに物足りなさを感じている。
 そんな彼女に激しい憎悪を向ける女性がいた。マグダである。ハンスを心から愛しているマグダは、二人の結婚をなんとか阻止したい。彼女は自分に横恋慕しているヘルムート(ロバート・ウッズ)を利用してヘルガを殺させようとするが、根が優しいヘルムートには無理だった。
 ある日、花嫁衣裳の準備をしていたヘルガは、赤い頭巾を被った不気味な男が窓から覗いているのに気付いて驚く。この地方の言い伝えでは、結婚式前に男性に花嫁衣裳を見られたら不幸になるとされている。呪いを恐れたヘルガは山に住む老婆に相談。すると、処女の友人を二人連れて丘の上の処刑場へ行き、そこで首吊り死体に祈りを捧げるよう助言された。
 老婆の助言どおり丘の上へ行ったヘルガと友人のウィルマ、エドナ。しかし、ウィルマたちは怖くなって逃げ出してしまった。道に迷った彼女たちの前に老婆が現れ、村へ戻る近道を案内してくれるという。しかし、それは罠だった。二人は悪魔崇拝者たちのサバトへ連れて行かれ、乱交パーティに参加させられた上に地を吸われて殺される。
 その頃、ヘルガはギュンター(エドマンド・パードム)という見知らぬ男と出会う。その正体は悪魔。赤い頭巾を被った謎の男の正体も彼だった。その妖しげな魅力にヘルガはたちまち惹かれる。一方、マグダは山の老婆に頼んでヘルガを殺してもらうことにするが、老婆はギュンターによって殺されてしまった。
 そして、いよいよ結婚式の当日。家族や隣人が賑やかに祝ってくれる中、ヘルガは終始心ここにあらずといった様子だった。やがて初夜の晩を迎える。ハンスを部屋の外に待たせて準備をするヘルガ。そこへギュンターが現われ、彼女にナイフを手渡すのだった・・・。

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村のあちこちに出没する赤頭巾の男

花嫁衣裳を見られてしまったヘルガ

サバトの乱交パーティ

 パオロ・ロンバルド監督はもともと脚本家だったらしく、監督作はこれを含めて合計で3本しかない。まあ、それも無理はなかろう。というより、よく3本も任せてもらえたものだと感心した方が良いのかもしれない。脚本もまるっきり学生映画レベル。本来なら30分もあれば済むような話を無理やり1時間半に収めようとしたため、とにかく脈絡のない無駄な展開が多すぎるのだ。
 撮影監督のアントニオ・モディナは当時B級〜C級クラスのマカロニ・ウェスタンやアクション映画を撮っていたカメラマン。また、『ゾンビ3』(79)や“Patrick vive ancora”(80)などのZ級スプラッター・ホラーを手掛けたジョヴァンニ・フラタロッキが美術デザイナーとして参加している。
 なお、エルヴィオ・モンティの書いたロマンティックでクラシカルな音楽スコアはなかなか悪くない。が、使い方をだいぶ間違えているという印象。無理にでも恐怖やサスペンスを盛り上げなくてはいけないシーンで、これでもかと甘いメロディをガンガンに流してしまうトンチンカンなセンスはちょっと頂けない。

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赤頭巾の男ギュンター(E・パードム)は悪魔だった

ヘルガ殺害をヘルムート(R・ウッズ)に頼むマグダだが・・・

結婚式の最中も心ここにあらずのヘルガ

 悪魔の化身であるギュンター役を演じているのは、50年代のハリウッド映画スター、エドマンド・パードム。本作の出演者の中では一番キャリアがあって知名度も高いということでトップ・ビリングされているのだろうが、実際には特別出演的な扱いだ。
 そして、なぜかオープニング・クレジットに名前が出てこないのが、ハンス役のフェルディナンド・ポッジ。全盛期のレイモンド・ラヴロックを彷彿とさせるかなりの美形俳優なのだが、どうやら本作が唯一の大役だったようだ。
 そのほか、C級マカロニ・ウェスタンのヒーローとして活躍したアメリカ人俳優ロバート・ウッズ、『地獄から来たプロガンマン』(66)や『殺しが静かにやって来る』(68)にも顔を出していた老優スパルタコ・コンヴェルシ、イタリア産B級映画の名物脇役として知られるカルラ・マンシーニらが脇を固めている。

 

 

Alla ricerca del piacere (1972)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P) Eurovista Digital Entertainment (USA)
画質★☆☆☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:
ALL/98分/製作:イタリア

映像特典
B・ブーシェ インタビュー
R・ネリ インタビュー
フォト・ギャラリー
タレント・バイオグラフィー
監督:シルヴィオ・アマディオ
製作:イタロ・ジンガレッリ
脚本:シルヴィオ・アマディオ
撮影:アルド・ジョルダーニ
音楽:テオ・ウスエッリ
出演:ファーリー・グレンジャー
   バーバラ・ブーシェ
   ロサルバ・ネリ
   ウンベルト・ラホー
   パトリツィア・ヴィオッティ
   ディノ・メーレ
   ペタル・マルティノヴィッチ
   ニノ・セグリーニ

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アメリカ人秘書グレタ(B・ブーシェ)

作家リチャード(F・グレンジャー)

ミステリアスな妻エレオノラ(R・ネリ)

 『勇者テシアス』(60)や『潜水艦浮上せず』(60)など、主にスペクタクル史劇や戦争アクション、マカロニ・ウェスタンで知られる職人監督シルヴィオ・アマディオによるジャッロ映画。残念ながら日本では劇場公開やテレビ放送はおろか、ビデオ発売すらされたことのない作品だが、欧米ではアマディオ監督の代表作として人気の高い映画だ。
 主人公は大手出版社の秘書を務めるアメリカ人女性グレタ。彼女はベネチアに住む有名な作家リチャード・スチュアートの自宅へタイピストとして派遣される。実は、彼女の親友で恋人でもあったリチャードの元秘書サリーが、数ヶ月前に謎の失踪を遂げたのだ。秘かにリチャードの周辺を探るグレタは、やがてスチュアート夫妻の退廃的でインモラルな日常の実態を目の当たりにしていく。
 なんといっても最大の売りはバーバラ・ブーシェとロサルバの濃厚な全裸ラブ・シーン。それ以外にも、ロサルバは数々のエロティックなシーンを体当たりで披露している。しかも、スローモーションを駆使したアマディオ監督の演出は非常にスタイリッシュ。テオ・ウスエッリのジャジーでサイケでムーディな音楽スコアと相まって、過激なセックスをエレガントな品の良さでまとめ上げているのが素晴らしい。
 一つの失踪事件をきっかけにブルジョワの堕落した秘密が暴かれていくというストーリー自体は珍しいものではないものの、常人には理解しがたい浮世離れした趣味人たちの心の闇を丁寧に描いていく脚本はなかなか良く出来ている。さらに、美しいベネチアの街並みや壮麗な美術セットを生かしたカメラワークが退廃的なムードを高めて秀逸。
 また、スチュアート夫婦と一緒に狩りへ出かけたグレタが、妻エレオノラにライフルで狙われるシーンの緊迫感溢れる演出も見どころ。次々とグレタに危険なゲームを仕掛けるスチュアート夫婦だが、それが本気なのか悪い悪戯なのか分からないという不安感もサスペンスを盛り上げる。
 惜しむらくは、現在手に入る唯一のDVDがトリミングされた古いVHSテープを素材として使っていること。せっかくのスタイリッシュで美しい映像が左右ぶつ切りにされてしまっており、非常に見苦しい。これが完全な状態であればさぞかし美しいのだろうと容易に想像できるだけに、とても残念でならないのである。いつの日か、この作品が完全な形で陽の目を見ることを願ってやまない。

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グレタは親友サリーの行方を捜していた

エレオノラの愛撫に身を任せるグレタ

リチャードは妻のインモラルな趣味を容認していた

 ベネチアからほど近い島にある作家リチャード・スチュアート(ファーリー・グレンジャー)の豪邸。そこへ、出版社から派遣された新しい秘書グレタ・フランクリン(バーバラ・ブーシェ)がやって来る。多忙を極めるリチャードのため、彼がテープに録音した文章をタイプ打ちするというのが彼女の仕事だ。
 リチャードにはサリー(パトリツィア・ヴィオレッティ)という前任の秘書がいた。だが、彼女は数ヶ月前に突如として姿を消してしまったのだ。地元の警察署長(ニノ・セグリーニ)が直々に捜査に当たっていたが、何ら手がかりを掴むことができないでいた。
 そんな署長とリチャードの会話に聞き耳を立てるグレタ。実は、グレタとサリーはアメリカ時代からの親友で、なおかつ恋人同士だった。お互い頻繁に手紙のやり取りをしていたが、スチュアート家の内情について不安を訴える手紙を最後に音信が途絶えてしまった。ベニスの町で偶然すれ違った署長に手紙を見せるグレタだったが、それだけでスチュアート夫妻に嫌疑をかけるのは難しかった。
 そのリチャードの妻エレオノラ(ロサルバ・ネリ)は、どこかつかみどころのないミステリアスな女性。ある晩、グレタは寝室の窓から中を覗く知恵遅れの猟師ロッコ(ペタル・マルティノヴィッチ)の姿に驚いて倒れてしまった。鎮静剤だといって彼女に薬を飲ませたエレオノラは、にわかにグレタの胸をまさぐり唇に唇を重ねる。意識がもうろうとする中、グレタはエレオノラの愛撫に身を任せる。
 仕事の合間を見ながらスチュアート夫妻の身辺を探るグレタ。二人は周囲に何かを隠している様子だった。その夜、スチュアート邸ではリッチな友人たちを招いたパーティが催される。場を仕切っているのはエレオノラで、パーティは非常に退廃的な雰囲気だ。リチャードはそんな妻のインモラルな趣味を引いた目で見ている様子。やがて、仲間内で撮影したポルノ映画の上映が始った。映画そのものは他愛のないものだったが、フィルムの最後に偶然収められていたシーンを見てグレタは驚く。“サリー!”と思わず呟いてしまうグレタ。リチャードはその言葉を聞き逃さなかった。
 ある日、夫妻が街へショッピングに出かけた隙に書斎で地下室の鍵を見つけたグレタは、執事(ウンベルト・ラホー)の目を盗んで地下へと降りていく。そこで、彼女は焼却されたサリーの私物の一部を発見した。だが、何も知らない執事に外側からカギをかけられてしまい、地下室に閉じ込められてしまう。スチュアート夫妻も外出から戻ってきてしまった。間一髪のところを通気口を破って外へ出ることに成功したグレタ。しかし、書斎の鍵が動かされていること、地下室の通気口が壊れていることをリチャードが気付いてしまう。
 グレタは警察署長に連絡を取ろうとするが、突然電話が通じなくなってしまった。さらに、仕事の続きに取り掛かろうとしたところ、リチャードの吹き込んだテープの内容が新しくなっている。それは、失踪した親友の行方を捜す女性を主人公にしたサスペンスの序章だった。リチャードに勘付かれてしまったのだ。
 だが、彼はサリーの件について直接話すことは一切なかった。それどころか、わざとしらばっくれているような様子だ。電話が復活して警察へ連絡したグレタだったが、あいにく署長は出張で不在だった。
 その晩、夫妻の留守中に新しいテープを聞くグレタ。そこには、サリーの死体を運河に沈める様子が事細かに説明されていた。やはり夫妻がサリーを殺したに違いないと確信するが、やはり証拠がない。テープの内容だってリチャードの創作と言われてしまったらそれっきりだ。
 やがて、夫妻がサンドロ(ディノ・メーレ)という金持ちのボンボンを連れて帰ってきた。サンドロはエレオノラお気に入りの若いツバメだ。グレタを交えて酒を飲み交わす中、突然エレオノラが痙攣を起こした。彼女には強い霊感があるのだという。いきなりサリーの名前を語りだしたエレオノラは、グレタがじきに死ぬ運命にあると不気味な声で告げるのだった。
 その翌日、グレタは夫妻に誘われて鴨狩りへ出かける。ライフルの扱い方も知らないグレタだったが、雰囲気的に断るわけにもいかなかった。リチャードの指導でライフルの使い方を覚えたグレタは、仮に適した場所を探すために川辺を歩き出す。すると、銃声と共に彼女の傍を銃弾がかすめる。エレオノラがグレタを狙って発砲し始めたのだ。
 わけも分からず逃げまどうグレタ。楽しそうに彼女を追うエレオノラ。その様子を黙って見つめるリチャード。沼地を駆け回ったグレタは、不運にも底なし沼にはまってしまう。そんな彼女を助けたのは警察署長。グレタからの伝言を聞いて心配になり駆けつけたのだった。
 グレタから事情を聞いた警察署長だが、リチャードらの話とは大きく食い違っているし、状況証拠だけで夫妻を疑うことはできない。逐一状況を報告するようグレタに言い残して、仕方なく署長はスチュアート邸を後にした。
 夫妻に対する不信感を露わにするグレタ。そんな彼女に、リチャードはサリーの身に降りかかった不幸な事故のことを語り始める。だが、果たしてそれは信用できる話なのか?サリーの失踪にまつわる真実とは・・・?やがて運河から女性の腐乱死体が発見され、事態は急展開する。

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実はグレタとサリー(P・ヴィオレッティ)は恋人だった

グレタが屋敷を探っていることに気付くリチャード

テープにはサリーの死体を隠す様子が語られていた

 ロサルバのインタビューによると、アマディオ監督は非常に気難しい完璧主義者だったという。時には役者に対してかなり荒っぽい態度で臨むこともあったそうだ。しかし、それも映画に対して真剣に取り組んでいたからだと彼女は語っている。
 撮影監督のアルド・ジョルダーニは『真昼の一匹狼』(66)や『必殺のプロガンマン』(67)などのマカロニ・ウェスタンで知られるカメラマン。アマディオ監督とは史劇『勇者テシアス』(60)でも組んでいる。
 また、美術監督にはマリオ・バーヴァのゴシック・ホラー『処刑男爵』(72)を手掛けていたエンツォ・ブルガレッリが参加。彼ももともとは『情無用のジャンゴ』(67)や『5人の軍隊』(69)などのマカロニ・ウェスタンで活躍した美術デザイナーである。
 そして、音楽をスコアを手掛けたのは巨匠マルコ・フェレーリの『女王蜂』(63)やエリプランド・ヴィスコンティの『栄光への戦い』(70)などで知られるテオ・ウスエッリ。もともと知る人ぞ知るという作曲家だったが、ここ数年で徐々に再評価されるようになった人だ。ここでは甘くムーディなラウンジ系スコアから、ファンキーでサイケデリックなジャズ・ファンクまで、実にカッコよいサウンドを聴かせてくれる。サントラもCD化されているので、イタリア映画音楽ファンは是非。
 ちなみに、スチュアート邸のロケ地として使用された豪邸は、イタリアの有名なファッション・デザイナー、ロベルタ・ディ・カメリーニの所有していた屋敷だという。

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狩りでグレタに銃口を向けるエレオノラ

グレタは底なし沼にはまってしまう

サリーの身に起きた事故を語り始めるリチャード

 作家リチャード・スチュアート役を演じているのは、ヒッチコックの『ロープ』(48)や『見知らぬ乗客』(51)で知られる往年の美形スター、ファーリー・グレンジャー。ヴィスコンティの傑作『夏の嵐』(54)をきっかけに、イタリア映画へも多数出演知るようになった人だ。自身がゲイであったことも関係しているのかもしれないが、どことなくニューロティックで退廃的なムードが持ち味。ロサルバ曰く、本人は寡黙であまり人と付き合うようなこともなかったらしく、そうしたある種の冷たさが役者としての個性、引いては本作のリチャード役のように謎めいた役柄に生かされていたのかもしれない。彼でなくては演じることの出来ない適役だ。
 一方、ヒロイン役を演じているバーバラ・ブーシェは、この頃が美しさの絶頂だったと言えるだろう。もともとはドイツの出身だが、女優としてはハリウッドでキャリアをスタートさせた人。『ギャング・オブ・ニューヨーク』(01)で久々に映画復帰したのは嬉しかった。本作での共演をきっかけにロサルバとは親友になったらしく、映画界引退後もご近所さんとして付き合いが続いているらしい。
 そのほか、『歓びの毒牙』(69)や『処刑男爵』などイタリアン・ホラー・ファンにはお馴染みの名脇役ウンベルト・ラホー、『デアボリカ』(74)で主人公夫妻の親友であるドクターを演じていたニノ・セグリーニ、セルジョ・レオーネの『ウエスタン』(68)でハーモニカ(チャールズ・ブロンソン)の少年時代を演じていたディノ・メーレなどが共演している。

 

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