レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー
Reykjavik Whale Watching Massacre (2009)

 

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2011年6月4日よりロードショー

 

 日本やノルウェーと並ぶ捕鯨大国アイスランド。反捕鯨の国際世論に押される形で商業捕鯨は停止されているものの、調査捕鯨は依然として続けられており、グリーンピースやシーシェパードから槍玉に挙げられているという点で日本と相通ずるものがあるかもしれない。国民の総人口がたったの30万人ちょっとで、映画産業そのものが存在しないに等しい国。そんなアイスランドから捕鯨問題を題材にしたホラー映画がやって来る。
 舞台は大西洋に面したアイスランドの首都レイキャヴィク。かつては捕鯨で栄えた国も世界的なエコブームの流れに逆らえず、今ではホエールウォッチングを観光の大きな目玉にしている。今日も世界各国からクジラを一目見ようと観光客が集まって来た。ところが、酔っぱらった客の起こした事故で観光船の船長が死亡。無責任な乗組員も逃げ出してしまったことから、観光客たちは海のど真ん中に取り残されてしまう。
 そんな彼らのSOSをキャッチしたのは一隻の捕鯨船。だが、この捕鯨船に乗っていたのは反捕鯨の煽りを食って失業した一家だった。反捕鯨憎し!ホエールウォッチング憎し!復讐の鬼と化したならずもの一家は、親切そうに助けるふりをして観光客を捕鯨船へ乗せ、一人残らず血祭りにあげてやろうと大虐殺を開始する…。

 捕鯨船の殺人鬼一家がホエールウォッチングの観光客を皆殺しにする映画…なんて言ったら、それこそグリーンピースやシーシェパードお墨付きの反捕鯨プロパガンダ映画かと思われてしまうかもしれないが、内容の方向性としてはまるっきり真逆。かといって、捕鯨を必要以上に正当化したり推奨したりしてるわけでもない。クジラと同じく人間だって生き残る権利はある。いくら綺麗ごとを並べ立てみたところで、バカの一つ覚えのようにエコだ環境保護だと一方的に押し付ける奴らだって所詮はならず者。そんなにクジラが大切なんだったら、代わりにお前らを殺してやろうか?という発想が根底にあるのは間違いないだろう。
 なので、『悪魔のいけにえ』('74)をパクったタイトルとは裏腹に、出てくる殺人鬼一家は大して強くも怖くもない。言ってみれば、ひもじい思いをして恨みつらみのたまった貧乏一家が能天気な観光客にブチ切れちゃっただけ。計画性もほとんどないため、わりとあっさり反撃されてしまったりする。一応殺人シーンのスプラッタ
ー指数はまずまずなのだが、これをホラー映画と言いきっていいのかどうかは少々疑問かもしれない。
 一方、なんといっても面白いのはホエールウォッチングに参加した観光客の面々。いずれもパッと見は平凡で善良そうな市民なのだが、一皮むけばどいつもこいつもろくなもんじゃない。それぞれ日本やフランス、イギリス、ドイツ、アメリカなど各国から集まって来ているわけだが、そのキャラクター描写にはあえて人種差別的なステレオタイプを当てはめており、所詮人間なんてみんな同じ穴のムジナだという作り手の意図が感じられるはずだ。
 そんなわけだから、これがいざとなったらまあ大変。生き残るためにお互い協力し合うどころか、身勝手な足の引っ張り合いとなってしまうのだ。その中でも唯一まともかと思われたのは黒人男性レオンとアメリカ人女性アネットなのだが、レオンがゲイだと知った途端に口汚く罵りまくるアネット。死んだ夫との約束を果たすためにクジラと会いに来た、なんていうメロドラマチックな美談も一気に吹き飛んでしまう(笑)。
 しかし、なんといっても悲惨なのはバッグパック旅行者の若い女性マリー=アンであろう。お人良しで疑うことを知らない性格なため、とにかく最後の最後まで貧乏くじを引きまくる。特にクライマックス、“イルカは人間のお友達よ!”なんて戯言を信じ込んでいたおかげで、殺されるよりもむごい末路をたどる羽目になってしまう。大自然を前にしてみれば
、人間のちっぽけなモラルや善意など完全に無意味ってなわけだ。
 そんなエゴとバカむきだしの観光客たちの中で、ただ一人だけ驚くべきサバイバル本能を発揮するのが、日本人の女性秘書エンドウ。一見すると控え目で大人しい典型的な大和撫子なのだが、これが相当にシビアでシニカルで計算高い女だったりする。ならず者一家に襲われたって常に冷静沈着。倉庫の中で見つけた火薬を使って手製の爆弾を作り、上司の奥さんにそれを持たせて“トラ・トラ・トラ♪”と呟きながら特攻自爆させるシーンなんか、腹の皮がよじれるくらいに大爆笑すること必至だ。以降も、ありとあらゆる手段を使って自分だけサバイバル。その逞しさと狡賢さはまったくもって痛快であり、実は本作で最も共感できるキャラクターだったりする。演じるは、あの裕木奈江。文句なしの当たり役だ。

 監督を務めたのは、アイスランドを代表する映像作家の一人ユリウス・ケンプ。脚本には『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(00)のミュージカル歌詞でアカデミー賞候補となったシオン・シガードソンが携わっている。恐らく、彼らはタイトルの元ネタになった『悪魔のいけにえ』はおろか、ホラー映画そのものに対する思い入れはほとんどないのだろう。なんて言うと否定的な意見のように聞こえるかもしれないが、ホラー・マニアの作ったホラー映画というのはどうしても内輪受けしかしないような代物になってしまう傾向が強いし、本作の場合はそもそも本質的にホラー映画というよりも風刺コメディというべき内容のものだけに、かえってジャンルへのオマージュ精神などない方がいい。一応、観光船の船長役として『悪魔のいけにえ』のガンナー・ハンセンが登場するものの、あっという間に死んでしまうような小さい役柄であり、あくまでも客寄せパンダに過ぎなかったりする。『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』を彷彿とさせるような展開もあるにはあるのだが、あくまでも本作の場合ホラーというジャンルは風刺を効かせるための手段に過ぎないと見ていいだろう。
 なので、純粋にホラーやスプラッターを期待するとガッカリさせられるかもしれないが、辛口の風刺コメディとしては抜群に面白い作品。是非とも、先入観なしで楽しんで欲しい。

 

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