HARD TO FIND FILMS
ハリウッド・クラシック篇2

 

悪に咲く華
Born Reckless (1930)
日本では1931年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

DOUBLE_FEATURE.JPG
(P)2007 20th Century Fox (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★☆☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル
/音声:英語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/77分/製作:アメリカ
※『戦争と母性』とカップリング

映像特典
なし
監督:ジョン・フォード
製作:ジョン・フォード
原作:ドナルド・ヘンダーソン・クラーク
脚本:ダドリー・ニコルス
撮影:ジョージ・シュナイダーマン
出演:エドマンド・ロウ
    キャサリン・デイル・オーウェン
    フランク・アルバートソン
    マーギュリート・チャーチル
    ウィリアム・ハリガン
    リー・トレイシー
    ウォーレン・ハイマー

BORNRECKLESS-1.JPG BORNRECKLESS-2.JPG BORNRECKLESS-3.JPG

イタリア系移民の息子ベレッティ(E・ロウ)

仲間と共に宝石店へ強盗に入ったベレッティ

両親は息子の犯罪を知らない

 ハリウッドの誇る巨匠ジョン・フォード監督が手掛けたギャング映画。第一次世界大戦に従軍したイタリア系マフィアの男が英雄となって戻り、過去と決別して気質の商売を始めるものの、周囲の環境がそれを許さない。結局、貧しい人間は犯罪の世界から足を洗うことが出来ないのか?という古典的なお話だ。
 フォードによるギャング映画というだけでも珍しいとは思うのだが、さらに戦争映画や下町人情ドラマの要素も盛り込み、全体的に焦点の定まらない作品になってしまったという印象は拭えない。『アイアン・ホース』(24年)や『四人の息子』(28年)、『血涙の志士』(28年)といったサイレント末期〜トーキー初期における代表作と比べてしまうと、どうしても見劣りがしてしまう作品だろう。
 その一方で、当時のジョン・フォード作品には多かれ少なかれ共通することだが、我々が良く知っているジョン・フォードとは一味違った側面を見ることが出来るという点で興味深い映画でもある。冒頭やクライマックスにおける照明の使い方は明らかにドイツ表現主義の影響を受けており、後のフィルム・ノワールを彷彿とさせるものがあると言えるだろう。
 また、主人公の徹底した反逆児ぶりであったり、彼を政治的野心に利用しようとする地方検事の偽善、戦線における兵士たちの逞しさと上官たちの無能さなど、随所に反権力・反体制の姿勢が貫かれているというのも面白い。社会の底辺で暮らす貧しい人々への暖かい眼差しも印象的だ。
 どうしても右寄りの保守派というイメージの付きまとうジョン・フォードだが、実際には民主党を支持するバリバリのリベラルだったと言われる。そんな彼の素顔というか、人となりの片鱗がうかがえるような作品なのではないかと思う。

BORNRECKLESS-4.JPG BORNRECKLESS-5.JPG BORNRECKLESS-6.JPG

妹ローサ(M・チャーチル)は結婚適齢期なのだが・・・

ヨーロッパ戦線に送られることとなったベレッティ

人望の厚いベレッティは戦地でも人気者だった

 主人公は貧民街で育ったイタリア系移民の息子ルイス・ベレッティ(エドマンド・ロウ)。両親(ポール・ポルカーシ&フェリケ・ボロス)は長男の彼を溺愛しているが、しっかり者の妹ローサ(マーギュリート・チャーチル)は自分の結婚相手のことにまで口を出す兄に対して少なからず反感を持っている。
 ベレッティは幼馴染のビッグ・ショット(ウォーレン・ハイマー)らと共に犯罪グループを組織していた。真夜中に宝石店を襲撃した彼らだったが、あと一歩のところで夜警に気付かれてしまう。間一髪のところで逃れたベレッティは両親の家に逃げ込み、アリバイを作ろうとした。しかし、私立探偵ブロフィー(ウィリアム・ハリガン)に見破られて、逮捕されてしまう。
 地方検事カーディガン(ロイ・スチュワート)はベレッティをヨーロッパ戦線へ送ることを決定する。近く行われる選挙での再選を狙っている彼は、悪名高いギャングをお国に奉仕させるという決断が自分の良い宣伝になると考えたのだ。出征を控えたベレッティは、訓練所を視察しに来た資産家の令嬢ジョーン(キャサリン・デイル・オーウェン)に惹かれる。彼女もベレッティに好意を寄せている様子だ。さらに、彼はジョーンの兄フランク(フランク・アルバートソン)と同じ部隊になり、たちまち意気投合して大親友となった。
 やがてヨーロッパ戦線へと送り込まれたベレッティ。兵士たちの多くは貧しい労働者階級の出身で、人望の厚いベレッティは仲間からも地元の人々からも慕われる存在となる。前線でも次々と武勲を立てる彼だったが、戦闘中に親友フランクを失ってしまう。死の直前、フランクはベレッティに妹ジョーンの将来を託した。
 かくして戦争は終わり、ベレッティは英雄として故郷に凱旋する。最愛の両親は彼の帰国を涙ながらに喜び、地方検事カーディガンや私立探偵ブロフィー、オブライエン(リー・トレイシー)らも手のひらを返したようにベレッティを迎え入れる。フランクとの約束を果たすべくジョーンにプロポーズしようとしたベレッティだったが、既に彼女には金持ちのフィアンセがいた。身分の違いは歴然としている。彼は何も言わずに、その場を立ち去った。
 その後、高級ナイトクラブを経営するようになり、犯罪の世界からは足を洗ったベレッティ。昔の仲間から強盗計画に加わるよう誘われるが、にべもなく断った。しかし、その結果ビッグ・ショットが逮捕されたと聞き、少なからず罪悪感を感じる。
 それから数年が経ち、両親と共にビッグ・ショットの出所を祝うベレッティ。しかし、金に困ったビッグ・ショットは、ベレッティと親しくしているというジョーンの子供を身代金目的で誘拐してしまう。幼馴染であるビッグ・ショットとの友情、亡くなったフランクとの約束、そしてジョーンへの愛情との三つ巴に悩んだ末、ベレッティは子供の救出に向うことにする。だが、それは決して後戻りの出来ない重大な決断だった。

BORNRECKLESS-7.JPG BORNRECKLESS-8.JPG BORNRECKLESS-9.JPG

地方検事や探偵オーウェン(L・トレイシー)らに迎えられる

最愛の息子の帰還を喜ぶ両親

ジョーン(C ・デイル・オーウェン)にプロポーズしようとするが

 先述したように、全体的に見ると焦点の定まらない作品だが、男の哀愁が漂うスタイリッシュなクライマックスはなかなか秀逸。後のフレンチ・ノワールを思わせるようなニヒリズムだ。脚本家として知られるアンドリュー・ベニソンがノー・クレジットで演出に協力しているらしいが、どのような役割を担っていたのか興味を惹かれるところ。
 原作はドナルド・ヘンダーソン・クラークの小説“Louis Beretti”。『赤ちゃん教育』(38年)や『誰が為に鐘は鳴る』(43年)、『聖メリーの鐘』(45年)などの名作を手掛け、『男の敵』(35年)や『駅馬車』(39年)などでもフォード監督と組んだ名脚本家ダドリー・ニコルズが脚色を担当した。また、撮影には『アイアン・ホース』や『四人の息子』など、当時のジョン・フォード作品には欠かせないカメラマン、ジョージ・シュナイダーマンが参加している。

BORNRECKLESS-10.JPG BORNRECKLESS-11.JPG BORNRECKLESS-12.JPG

高級ナイトクラブのオーナーとなったベレッティ

幼馴染ビッグ・ショット(W・ハイマー)から犯罪に誘われる

ジョーンの子供がビッグ・ショットに誘拐されてしまった

 主人公ベレッティ役は、ラオール・ウォルシュの戦争映画『栄光』(26年)で有名になった俳優エドマンド・ロウ。ジーン・ハーロウやジョン・バリモアと共演した『晩餐八時』(34年)でもダンディで渋い演技を披露していたが、どちらかというと脇でいい味を出すタイプの役者で、本作の場合はちょっと役不足だったように思う。スターとしてのカリスマ性に欠けるのだ。やはり、この役はヴィクター・マクラグレンに任せるべきだっただろう。
 その他のキャストも比較的地味な顔ぶれ。探偵ビル・オーウェン役で顔を出しているリー・トレイシーは、『ドクターX』(32年)の新聞記者役が印象的だった小柄なバイプレイヤー。エドマンド・ロウとは『晩餐八時』でも共演している。犯罪に手を染める兄に反抗する妹ローサを演じたマーギュリート・チャーチルは、ラオール・ウォルシュの『ビッグ・トレイル』(30年)でジョン・ウェインの相手役を演じた女優。フランク役のフランク・アルバートソンンは、『乙女よ嘆くな』(35年)でキャサリン・ヘプバーンの兄を演じていた俳優。また、ジョーン役のキャサリン・デイル・オーウェンは当時売り出し中の女優だったみたいだが、あっという間に結婚・引退してしまったようだ。

 

戦争と母性
Pilgrimage (1933)

日本での劇場公開年不詳
VHS・DVD共に日本未発売

DOUBLE_FEATURE.JPG
(P)2007 20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル
/音声:英語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/99分/制作:アメリカ

映像特典
フィルム修復前・修復後の比較
評論家J・マクブライドの音声解説
監督:ジョン・フォード
原作:I・A・R・ワイリー
脚本:フィリップ・クレイン
    バリー・コナーズ
台詞:ダドリー・ニコルス
撮影:ジョージ・シュナイダーマン
出演:ヘンリエッタ・クロスマン
    ヘザー・エンジェル
    ノーマン・フォスター
    マリアン・ニクソン
    ルシール・ラ・ヴァーン
    モーリス・マーフィ
    ジェイ・ワード
    ヘッダ・ホッパー

PILGRIMAGE-1.JPG PILGRIMAGE-2.JPG PILGRIMAGE-3.JPG

気が強くて頑固者の未亡人ハンナ(H・クロスマン)

ハンナは息子ジミー(N・フォスター)と仲睦まじく暮らしている

ジミーは隣家の娘メアリー(M・ニクソン)を愛していた

 こちらもジョン・フォードらしからぬ1本。主要キャストのほとんどが女性、という時点でジョン・フォード映画としてはかなり異例だと言えるかもしれない。邦題が『戦争と母性』ということで戦争映画を連想させるが、実際はさにあらず。己のプライドと傲慢さゆえに息子を戦死に追いやり、その家族を不幸にしてしまった母親が贖罪に至るまでの道のりを描いた人間ドラマ。原題の“Pilgrimage”とは“巡礼”という意味だが、こっちの方が内容的にしっくりとくるだろう。
 主人公はアメリカの片田舎に住む頑固一徹な初老の未亡人。女手ひとつで育てた息子のことが可愛くて可愛くて、そんな彼に恋人が出来たことが我慢ならない。あれこれと理由を見つけては2人の仲に猛反対し、息子が折れないことを知ると、勝手に書類を出して息子を従軍させてしまう。その結果、息子は戦死。それでも、彼女は自分に歯向かった息子が悪いと己に言いきかせ、自分の非を認めようとはしない。それどころか、息子の恋人が生んだ子供、すなわち自分の孫のことも目の仇にしている。息子を思い出させるからだ。そんな彼女が終戦10周年を記念してフランスへ招待され、ある若いカップルと親しくなる。身分の違いから結婚を反対されている2人。それを知った彼女は、初めて自分がいかに愚かで身勝手だったかということに気付かされるというわけだ。
 随所にアメリカ人の愛国主義・自国第一主義の微笑ましさと愚かさの両方を、絶妙なユーモアで盛り込んでいる辺りなどは、リベラリストたるジョン・フォードの面目躍如。今となっては古式ゆかしいメロドラマなのだろうとは思うが、ストーリーの分かりやすさとメッセージの明確さには時代を超えた普遍性を感じることが出来る。映画ファンであれば一度は見ておいて損のない作品だと思う。

PILGRIMAGE-4.JPG PILGRIMAGE-5.JPG PILGRIMAGE-6.JPG

嫉妬に狂ったハンナは息子の従軍届を出してしまう

ハンナのもとにジミーの戦死が報告された

メアリーは幼い息子ジミーを懸命に育てている

 舞台はアーカンソー州の小さな農村。初老の未亡人ハンナ・ジェソップ(ヘンリエッタ・クロスマン)は、女手ひとつで息子ジミー(ノーマン・フォスター)を育て、農作業を切り盛りしてきた。気が強くて頑固者と評判の彼女だが、息子のことは人一倍可愛がっている。ところが、最近どうもジミーの様子がおかしい。ハンナの顔に不安がよぎる。
 そう、ジミーは恋をしていた。相手は隣家に住む若い娘メアリー(マリアン・ニクソン)。メアリーの父親サウンダース(チャーリー・グレープウィン)は飲んだくれの貧乏百姓で、メアリーはそんな父親の世話をしながら一所懸命働いている健気な女性だった。
 だが、息子を他人に取られてしまうと思ったハンナは、2人の仲がどうしても気に食わない。父親が甲斐性なしならば娘だってどうせロクなもんじゃない、と是が非でも2人の仲を引き裂こうとする。ところが、メアリーを真剣に愛しているジミーは、母親との縁を切ってでも彼女と結婚すると言い張った。その言葉を聞いたハンナは深く傷つき、息子に裏切られたという気持ちが激しい憎しみへと変わった。
 折りしも時代は第一次世界大戦の真っ只中。その翌日、ハンナは息子ジミーの従軍届けを勝手に提出。かくして、ジミーは戦争へ行くことになった。見送りに行ったメアリーは、お腹の中に赤ちゃんがいることをジミーに告げる。
 それから数ヵ月後、ハンナのもとにジミーの訃報が届けられた。フランス戦線で名誉の戦死を遂げたというのだ。人々の前では気丈に振舞ったハンナだったが、自室に閉じこもるとひたすら泣き続けるのだった。
 やがて10年の歳月が経った。息子が死んでからというものの、がむしゃらに働き続けたハンナは、村で最も豊かな農場主となった。一方のメアリーは頑なに独身を貫き、幼い息子ジミー(ジェイ・ワード)を苦労しながら育てている。ハンナは息子にそっくりなジミーをあからさまに目の仇にし、貧しさに苦しむメアリーのことも見てみぬふりを決め込んでいた。ジミーは私生児ということを理由に学校でもイジメの対象となっている。
 そんなある日、第一次世界大戦の終結10周年を記念して、政府が戦死者の母親たちをフランスで行われる慰霊祭へ招待することになった。最初は躊躇したハンナだったが、周囲の人々の熱心な勧めでフランス行きを決めた。彼女が村を立つその日、メアリーとジミーの2人が墓石へたむける花束をハンナに手渡そうとする。2人の顔を見たハンナは邪険にすることも出来ず、黙って花束を受け取るのだった。
 フランス行きの客船に乗り込んだハンナ。しかし、息子に裏切られたという気持ちが強い彼女は、他の母親たちと同じように慰霊祭への参加を素直に喜ぶことは出来なかった。やがてフランスへと着いた一行。慰霊祭は厳かに、しかし盛大に行われた。だが、やはりハンナは違和感を禁じえない。彼女は息子の墓を訪れることもなく、パリの街を彷徨うのだった。
 すると、彼女はセーヌ川の橋の上で泥酔しているアメリカ人の若者ゲイリー(モーリス・マーフィ)を見かける。彼はひどく荒れている様子だった。放っておくことが出来ないと感じたハンナは、タクシーに乗って彼を自宅アパートへと送り届ける。翌朝、ゲイリーが目覚めると、ハンナが朝食の用意をしてくれていた。そこへ、ゲイリーの恋人であるフランス娘シュザンヌ(ヘザー・エンジェル)がやって来る。美しくて心優しいシュザンヌのことを、ハンナは一目で気に入るのだった。
 ハンナのことを母親のように慕うようになったゲイリーとシュザンヌは、近隣の村で行われている感謝祭の見学に彼女を誘う。そこで、ハンナはゲイリーとシュザンヌが悩んでいる理由を初めて知った。ゲイリーはニューヨークに住む大富豪の一人息子で、シュザンヌとの結婚を母親から猛反対されているのだ。しかも、シュザンヌのお腹には赤ちゃんがいる。ハンナは自分が息子ジミーとメアリーにした仕打ちを思い返し、その罪深さに改めて気付かされる。私はなんという事をしてしまったのだろう、と。
 ゲイリーの母親ワース夫人(ヘッダ・ホッパー)がパリにやって来ると知ったハンナは、2人のために一肌脱ぐことにする。それは、彼女にとっての贖罪でもあったのだ。

PILGRIMAGE-7.JPG PILGRIMAGE-8.JPG PILGRIMAGE-9.JPG

フランスへ行くことになったハンナ

慰霊祭は盛大かつ厳かに行われた

ハンナはパリで若者ゲイリー(M・マーフィ)と知り合う

 個人的にはフランスに到着してからのサイド・ストーリーが非常に興味深かった。参加した母親たちは、いずれも生まれて初めて故郷を遠く離れるという田舎者ばかり。それだけに、歴史あるパリの街並みや文化がもの珍しくて仕方ない。そもそも都会へ出ること自体が初めての彼女たちは、行く先々で珍道中を繰り広げてしまう。異文化に対して全く無知なアメリカ人の愚かしさをチクリチクリと皮肉りつつ、一方でそんな母親たちの純朴さを大らかな笑いで包んでいる優しさも素敵だ。
 また、ハンナがゲイリーを介抱して、彼の住む下町のアパートメントへやって来るシーンも面白い。近隣の住民たちがぞろぞろと出てきて、パリの下町の様々な人間模様が繰り広げられるのだが、その生き生きとした描写はまるでルネ・クレールの映画みたい。アメリカ的なピューリタニズムとは対極にあるフランス庶民の大らかさと逞しさ。その自由な空気こそが、頑なだったハンナの心を徐々に解きほぐしていくというわけだ。
 原作はI・A・R・ワイリーが1932年に雑誌“アメリカン・マガジン”で発表した短編小説。ワイリーはオーストラリア出身の女流作家で、その作品はサイレント時代から数多く映画化されている。脚本を手掛けたのはフィリップ・クレインとバリー・コナーズ。クレインはジョン・フォード監督ともたびたび組んでいる脚本家で、『四人の息子』(28年)はワイリーの原作をクレインが脚色し、ジョン・フォードが監督を手掛けていた。一方のコナーズは、クレインとのコンビで『渓谷の狼児』(31年)や『チャンドウ』(32年)などの活劇を手掛けた脚本家。
 その他、台詞のダドリー・ニコルスや撮影のジョージ・シュナイダーマンなど、ジョン・フォード作品お馴染みのスタッフが揃っている。

PILGRIMAGE-10.JPG PILGRIMAGE-12.JPG PILGRIMAGE-11.JPG

母親のようにゲイリーを解放するハンナ

ゲイリーとシュザンヌ(H・エンジェル)は結婚を反対されていた

2人の姿を見て己の犯した罪の重大さを悟るハンナ

 主人公ハンナ役を演じているヘンリエッタ・クロスマンは、20世紀初頭のブロードウェイを代表する大女優。映画にもサイレント期から進出していたが、1914年の映画デビュー時点で40代半ばを過ぎていたこともあり、ハリウッドではあまり大成できなかった人だ。多少の演技過多は気になるものの、アメリカの片田舎に住む頑固婆さんという雰囲気も非常に良く出ており、そのなりきりぶりは舞台の名声の片鱗をうかがわせるに十分と言えるだろう。
 その息子ジミーを演じているノーマン・フォスターは主にB級映画で活躍した俳優で、後に映画監督として『恐怖への旅』(42年)や『君知るや南の国』(53年)などの名作を生み出している。クローデット・コルベール及びその姉サリー・ブレーンのダンナだったことでも知られる人物だ。
 メアリー役のマリアン・ニクソンは当時人気の清純派女優で、メアリー・ピックフォードの代表作をリメイクした『農園のレベッカ』(32年)などに主演していたが、若くして結婚・引退をしている。
 そして、純情可憐なフランス娘シュザンヌ役で登場するのがイギリス女優ヘザー・エンジェル。出番が少ないにも関わらず2番目にキャスト・クレジットされていることからも分かるように、当時ハリウッドでも大注目の人気スターだった。ジョン・フォードとは名作『男の敵』(35年)でも組んでいる。文字通り“天使”のように美しく清楚な女優で、『風と共に去りぬ』のメラニー役候補にも挙がっていた。ただ、人気はあまり長続きせず、戦後は主にテレビの脇役として活躍。ロジャー・コーマンの怪奇映画『姦婦の生き埋葬』(62年)ではレイ・ミランドの姉役を演じていた。
 また、後にハリウッド随一のゴシップ・ライターとして悪名を馳せるヘッダ・ホッパーが、ゲイリーの母親役として顔を出しているのにも注目したい。

 

 

虎鮫島脱獄
The Prisoner of Shark Island (1936)

日本では1936年劇場公開
VHS・DVD共に日本未発売

THEPRISONOFSHARKISLAND-DVD.JPG
(P)2007 20th Century Fox (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル
/音声:英語/字幕:英語・スペイン語・フランス語/地域コード:1/96分/製作:アメリカ

映像特典
スチル・ギャラリー
広告ギャラリー
プレスブック・ギャラリー
フィルム修復前後の比較
評論家A・スライドの音声解説
監督:ジョン・フォード
製作:ダリル・F・ザナック
脚本:ナナリー・ジョンソン
撮影:バート・グレノン
出演:ワーナー・バクスター
    グロリア・スチュアート
    クロード・ギリングウォーター
    アーサー・バイロン
    O・P・ヘギー
    ハリー・ケリー
    フランシス・フォード
    ジョン・マグワイア
    フランシス・マクドナルド
    ジョン・キャラダイン

THEPRISONOFSHARKISLAND-1.JPG THEPRISONOFSHARKISLAND-2.JPG THEPRISONOFSHARKISLAND-3.JPG

仲睦まじいマッド医師(W・バクスター)と妻ペギー

リンカーン大統領が暗殺される

暗殺犯ブース(F・マクドナルド)を治療したマッド医師

 ジョン・フォード監督の隠れた傑作。リンカーン暗殺事件に加担した罪で逮捕され、証拠不十分のまま過酷な幽閉生活を余儀なくされた医師サミュエル・マッドを描いた、実話に基づく作品である。
 無実の罪で終身刑を言い渡されたマッド医師は、孤島の監獄要塞へと投獄される。次々と理不尽な目に遭いながらも、生きて自由の身になるという希望を失わないマッド医師。やがて彼は島を襲った黄熱病の治療に尽力し、その勇気と功績が高く評価されて恩赦を与えられることになる。
 実際のサミュエル・マッドは必ずしも100%潔白だったとは言い切れないらしいが、本作ではどんな苦境にも誇りと希望を失うことのない彼の姿を通じて、人間の魂の尊厳と自由を高らかに謳い上げている。
 さらに、正義よりも政治的な利益を重んじる司法の偽善や監獄における看守たちの横暴を描くことにより、反権力の姿勢を明確にしているのも大きな特徴と言えるだろう。無駄のないリズミカルなストーリー展開と手に汗を握るサスペンス、随所に挿入される人情味豊かなユーモアなど、娯楽映画としての完成度も極めて高い。日本では未だソフト化が実現されておらず、ジョン・フォード映画の中でも決して知名度が高いとは言えないが、是非一人でも多くの映画ファンに見て欲しい作品だと思う。

THEPRISONOFSHARKISLAND-4.JPG THEPRISONOFSHARKISLAND-5.JPG THEPRISONOFSHARKISLAND-6.JPG

リンカーン暗殺事件の共犯者としてマッド医師が逮捕される

夫の無実を信じる妻ペギー(G・スチュアート)

マッド医師は孤島の監獄要塞に収監された

 南北戦争の終結直後、ワシントンのフォード劇場で観劇中だったリンカーン大統領が南部の刺客ジョン・ウィルクス・ブース(フランシス・マクドナルド)によって狙撃された。劇場を脱出する際に負傷したブースと仲間のデヴィッド・ハロルド(ポール・フィックス)は、逃亡途中に立ち寄った村で医者を探した。
 村人に教えられたのは医師サミュエル・マッド(ワーナー・バクスター)。深夜に突然訪れたよそ者であるにも関わらず、マッド医師はブースの怪我を親切に治療する。謝礼として50ドルという大金を受け取り、世の中にはこんな幸運もあるものだと、妻ペギー(グロリア・スチュアート)と共に喜ぶマッド医師。
 その翌日、ブースの行方を追ってマッド医師宅にたどり着いた兵士たちは、家の外で一足のブーツを発見する。それは逃亡を急いだブースが置き忘れていったもので、靴の内側には名前が彫りこまれていた。これが動かぬ証拠となり、マッド医師はリンカーン大統領暗殺の共犯者として、その場で逮捕されてしまう。
 裁判は大変ズサンなものだった。マッド医師以外にも7人が共犯容疑で逮捕されていたが、世論の反発を恐れた裁判所は最初から有罪ありきで裁判を進める。その結果、マッド医師には終身刑が下され、それ以外の容疑者は即刻縛り首となった。
 マッド医師が移送されたのは、メキシコ湾に浮かぶ孤島ドライ・トルチュガスに立てられた監獄。ここは別名“シャーク・アイランド”と呼ばれ、近海には無数の鮫が生息していた。たとえ脱獄を図ったとしても、鮫の餌食になるのが関の山。ここから生きて出ることは不可能だと言われている。
 リンカーン大統領暗殺に加担したということで理不尽な扱いを受けるマッド医師だったが、中でも看守ランキン(ジョン・キャラダイン)は彼を目の仇にする。その一方で、残された妻ペギーとその父親ダイヤー大佐(クロード・ギリングウォーター)はマッド医師の脱獄作戦を計画し、彼を慕う黒人の小作人バッド(アーネスト・ホイットマン)を連絡役として島に送り込んだ。やがて脱獄計画が実行されるものの、あと一歩のところで阻止されてしまった。
 バッドが協力者であったこともばれてしまい、マッド医師とバッドの2人は地下牢に隔離されてしまう。その頃、島では黄熱病が蔓延し、囚人や看守だけではなく、彼らを治療する医師までもが倒れてしまった。本土からの連絡船も感染を恐れて島へ近寄らなくなり、食料や薬品などにも事欠くという有様。途方に暮れた司令官(ハリー・ケリー)は、医師の資格を持つマッドに助けを求めるのだった。

THEPRISONOFSHARKISLAND-7.JPG THEPRISONOFSHARKISLAND-8.JPG THEPRISONOFSHARKISLAND-9.JPG

劣悪な環境で過酷な毎日を送るマッド医師

決死の脱獄計画も失敗に終わる

地下牢に繋がれたマッド医師

 妻ペギーと父親が脱獄作戦を計画するという下りは全くのフィクションだし、マッド医師自身が本当にリンカーン暗殺計画と無関係だったのかは未だに分かっていないが、それ以外は基本的に事実が基になっている。
 本作で最も印象に残るエピソードのひとつとして、マッド医師と黒人の小作人バッドとの人種を超えた友情ドラマが挙げられるだろう。そもそも、この作品は人種差別問題をかなり冷静な目で捉えており、奴隷解放が決して北部の専売特許ではないとの姿勢を貫いている。かといって、どちらかの肩を持っているわけではないというのが重要な点で、日和見主義的な奴隷解放論者をマッド医師が揶揄する下りなどはなかなか面白い描写だった。
 要は人種差別というのは南部・北部に関係なく存在した問題であり、あくまでも北軍はそれを政治的に利用しただけのこと。当然のことながら、心ある人は南部にだっていたはずなのである。
 脚本を手掛けたのは『怒りの葡萄』(40年)や『タバコ・ロード』(41年)でもジョン・フォードと組んだ名脚本家ナナリー・ジョンソン。撮影監督のバート・グレノンもオスカーにノミネートされた『駅馬車』(39年)や『リオ・グランデの砦』(50年)、『バファロー大隊』(60年)などでフォードと組んでいる。

THEPRISONOFSHARKISLAND-10.JPG THEPRISONOFSHARKISLAND-11.JPG THEPRISONOFSHARKISLAND-12.JPG

マッド医師は黄熱病の治療に奔走する

気丈な妻ペギーを演じるグロリア・スチュアート

看守ランキン役のジョン・キャラダイン

 主人公サミュエル・マッドを演じているのは『懐しのアリゾナ』(29年)でアカデミー主演男優賞を受賞した名優ワーナー・バクスター。個人的には傑作ミュージカル『四十二番街』(33年)で演じたダンディな熱血演出家役の印象が強い俳優だ。本作では文字通り迫真の大熱演で、改めて上手い役者だなと感心させられる。
 一方、その妻ペギーを演じているのは、『タイタニック』(97年)で晩年のローズを演じて再注目された女優グロリア・スチュアート。そのキレイなこと!美の基準というのは時代によって若干のズレが生じて当たり前で、昔の美人スターでも今見るとイマイチということは少なくないが、彼女の場合は全くの例外。今見ても十分、キレイ過ぎるくらいにキレイな女優さんだ。
 その他、フランシス・フォードやハリー・ケリー、ジョン・キャラダインなどジョン・フォード映画ではお馴染みのバイプレイヤーたちが顔を揃えているが、中でもジョン・キャラダインの怪演が一番印象的。時々ちょっとやり過ぎなんじゃ?と思わされることもあるが、マッド医師を徹底的に苛める看守ランキン役をネチネチとしたいやらしさで演じて出色だ。

 

 

マリー・アントワネットの生涯
Marie Antoinette (1938)
日本では1966年劇場公開
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済(アメリカ盤と別仕様)

MARIE_ANTOINETTE-DVD.JPG
(P)2006 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/サラウンド・ステレオ/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語・ポルトガル語/地域コード:1/製作:アメリカ

映像特典
オリジナル劇場予告編
ヴィンテージ短編(2本)
監督:W・S・ヴァン・ダイク2世
製作:ハント・ストロムバーグ
脚本:クローディン・ウェスト
    ドナルド・オグデン・スチュワート
    アーネスト・ヴァイダ
撮影:ウィリアム・H・ダニエルズ
音楽:ハーバート・ストサート
出演:ノーマ・シアラー
    タイロン・パワー
    ジョン・バリモア
    ロバート・モーレイ
    アニタ・ルイーズ
    ジョセフ・シルドクラウト
    グラディス・ジョージ
    ヘンリー・スティーブンソン
    コーラ・ウィザースプーン
    ヘンリー・ダニエル
    アルバート・デッカー

MARIE_ANTOINETTE-1.JPG MARIE_ANTOINETTE-2.JPG MARIE_ANTOINETTE-3.JPG

オーストリアの皇女マリー・アントワネット(N・シアラー)

フランス王子との婚約に胸をときめかせるマリー・アントワネット

ヴェルサイユ宮殿に到着したマリー・アントワネットの一行

 戦前のハリウッドを代表する大女優ノーマ・シアラーがフランスの王妃マリー・アントワネットの生涯を演じた豪華絢爛たる歴史絵巻。ソフィア・コッポラ監督、キルスティン・ダンスト主演の『マリー・アントワネット』(06年)が昨年日本でも劇場公開されて話題になったが、あんなものを歴史ドラマだと思ってもらっちゃ困る。06年版はマリー・アントワネットをネタにしたお手軽なプロモーション・ビデオのようなもの。ドラマとしての完成度、時代考証の綿密さ、役者の演技と存在感、セットや衣装の豪奢さなど、この38年版と比べれてしまえば月とスッポン。ハリウッド黄金期における最大の映画スタジオMGMが文字通り総力を結集させて作った、ハリウッド映画史上稀に見る規模の超大作である。
 まず何が素晴らしいって、マリー・アントワネット役を演じるノーマ・シアラーの圧倒的な演技力、圧倒的な存在感、そして圧倒的なスター・パワーである。これぞ、まさしくハリウッド女優。申し訳ないが、キルスティン・ダンストごときの小娘とは格があまりにも違いすぎる。
 もともと、本作はMGMのプロデューサーとしてハリウッド最大の権力者だったアーヴィング・タルバーグが、妻であるノーマのために企画した作品だった。彼女自身もこの企画に思い入れが強かったらしく、36年にサルバーグが死去してからも製作を後押しし、2年がかりで完成に漕ぎ着けている。
 撮影が行われたのは主にハリウッドのMGMスタジオだが、宮廷のロケ・シーンは全てヴェルサイユ宮殿で行われた。映画撮影のためにヴェルサイユが開放されたのは、これが初めてのこと。ちなみに、舞踏会シーンに登場する広間はほぼ忠実に再現されたセットなのだが、大きさは実物の2倍以上あったと言われる。
 そして、煌びやかな衣装の数々をデザインしたのは、グレタ・ガルボやジョーン・クロフォードなどの衣装デザイナーとして有名なエイドリアン。彼は衣装製作のためにわざわざフランスまで出向き、当時の貴族の肖像画などをつぶさに調べ、使われている生地や毛皮、宝石などの種類まで特定し、細部まで忠実に16世紀の宮廷ファッションを再現した。マリー・アントワネットのエレガントなケープには狐の毛皮が使われているのだが、演じるノーマの瞳の色に合わせるため、ニューヨークの専門職人のもとへ送られてブルーに染め上げられている。こうした文字通り贅の限りを尽くしたコスチュームの数々には、誰もが目を奪われること必至だろう。
 ハリウッド黄金期のパワーをまざまざと見せつけてくれる、豪華にして華麗、重厚にして壮大な歴史ドラマ大作。その眩いばかりの輝きを、画面の隅から隅まで思う存分に堪能し尽くしたい。

MARIE_ANTOINETTE-4.JPG MARIE_ANTOINETTE-5.JPG MARIE_ANTOINETTE-6.JPG

期待を胸に王宮へ足を踏み入れたマリー・アントワネット

ルイ・オーギュスト(R・モーレイ)とルイ15世(J・バリモア)

2人の婚礼は盛大にとり行われた

MARIE_ANTOINETTE-7.JPG MARIE_ANTOINETTE-8.JPG MARIE_ANTOINETTE-9.JPG

フランスの宮廷生活に馴染もうとするマリー・アントワネットだが

宮廷で絶大な権力を奮うデュバリー夫人(G・ジョージ)

夜ごと華やかなパーティが繰り広げられる

 時は1770年。オーストリアはハプスブルグ家の皇女マリー・アントワネット(ノーマ・シアラー)は、恋を夢見るロマンチストで天真爛漫な少女だった。フランス王子と政略結婚することになった彼女は、幸せな家庭と華やかな宮廷生活に思いを馳せる。しかし、ヴェルサイユ宮殿で彼女を待っていた王子ルイ・オーギュスト(ロバート・モーリー)は、彼女の思い描いていた王子様とは程遠いような冴えない青年。しかも、精神年齢がまだ幼く、鍵作りや時計の修理が大好きで女性にはまるで興味がない。それどころか、性的不能者だった。
 ルイ・オーギュストの祖父であるルイ15世(ジョン・バリモア)は野心的かつ独裁的な人物で、その寵愛を一身に受けているデュバリー夫人(グラディス・ジョージ)が宮廷内で圧倒的な権力と発言力を持っていた。デュバリー夫人は己の力を誇示するため、ことあるごとにマリー・アントワネットへの嫌がらせを繰り返す。まだ初心なマリー・アントワネットはその嫌がらせにひどく傷つき、さらには夫の無関心と退屈な宮廷生活にほとほと嫌気が差してしまう。
 そんな彼女に接近してきたのが、野心家でプレイボーイのオルレアン公(ジョセフ・シルドクラウト)だった。彼はデュバリー夫人と犬猿の仲で、宮廷内で彼女に対抗出来る相手としてマリー・アントワネットに目をつけたのだ。
 オルレアン公の口車に乗せられたマリー・アントワネットは、毎日のように派手な舞踏会や遊びごとに興じるようになり、次第にデュバリー夫人とも対立するほどの権力を持つようになる。
 ある日、とある貴族の館で賭け事に興じていたマリー・アントワネットは、近くを通りかかったスウェーデン貴族フェルセン侯爵(タイロン・パワー)と知り合う。ハンサムで真面目、堅実かつ誠実な彼に、彼女は強く惹かれる。
 しかし、そんな彼女の放蕩三昧やオルレアン公との関係、さらにはデュバリー夫人に対する報復などを見るに見かねたルイ15世は、マリー・アントワネットにルイ・オーギュストとの離婚を突きつけた。ルイ・オーギュストはルイ15世に対して猛烈に反発するも、説得するには至らなかった。その晩、マリー・アントワネットはフェルセン侯爵と再会し、一夜を共に過ごして愛を交わす。ところが、その翌日ルイ15世は天然痘に倒れてしまい、やがて息を引き取ってしまった。
 そして、ルイ・オーギュストがフランス国王ルイ16世として即位する。王妃の重責に苦しさを感じたマリー・アントワーネットはフェルセン侯爵のもとへ向うが、侯爵は王妃としての立場をわきまえなくてはいけないと諭し、新大陸アメリカへと去っていく。
 それから数年が経ち、マリー・アントワネットとルイ16世の間には王子と王女が生まれた。国王に即位してからのルイ16世は統治者としての責任感が生まれ、夫としてマリー・アントワネットを支えるようになった。二人の間には友情にも似た信頼関係が生まれていたのだ。
 しかし、フランス国内は荒れており、庶民は貧困に苦しんでいた。王室は倹約を心がけるようになり、マリー・アントワネットもかつてのように散財をすることもなくなった。ところが、彼女の名前で高価なダイヤモンドの首飾りが購入される。これは革命派を支持するオルレアン公の策略だった。煽動された民衆はマリー・アントワネットの散財こそが貧困の原因と怒り狂い、それはやがてフランス革命へと発展していく。
 ヴェルサイユ宮殿は革命軍によって荒らされ、国王一家は囚われの身となった。アメリカからフランスへ戻ったフェルセン侯爵は一家の救出を謀るが、あと一歩のところで失敗に終わってしまう。監獄へと移送された一家。マリー・アントワネットの目前で、愛する王女がギロチンの露と消える。やがてルイ16世も処刑台へと消え、幼い王子までもが無残に殺される。最愛の家族を次々と失い、気も狂わんばかりのマリー・アントワネット。そして、いよいよ彼女自身がギロチンにかけられる日がやって来る。

MARIE_ANTOINETTE-10.JPG MARIE_ANTOINETTE-11.JPG MARIE_ANTOINETTE-12.JPG

放蕩三昧に明け暮れるようになったマリー・アントワネット

スウェーデン貴族フェルセン侯爵(T・パワー)と知り合う

オルレアン公(J・シルドクラウト)と愛人関係に

MARIE_ANTOINETTE-13.JPG MARIE_ANTOINETTE-14.JPG MARIE_ANTOINETTE-15.JPG

マリー・アントワネットの主催で開かれた舞踏会

デュバリー夫人の存在が舞踏会に水を差すかと思われたが・・・

フェルセン侯爵と一夜を共にしたマリー・アントワネット

 マリー・アントワネットの処刑へ至るまでのラスト30分は、あまりにも悲惨なドラマが展開するので胸が痛くて仕方がない。娘の処刑を目撃してしまったマリー・アントワネットの、あの表情、あの息遣い、そしてあの声にならぬ悲鳴。処刑の様子は画面に一切映されないが、彼女の表情と声だけで何が起きているのかが一目瞭然で分かってしまう。まさにノーマ・シアラーの悲劇女優としての真骨頂。あれほど迫真の演技は滅多に見れるものではないだろう。
 さすがに、15歳のマリー・アントワネットを演じるってのには無理があるものの、デュバリー夫人への対抗意識を燃やす辺りからの目覚しい成長ぶりには説得力がある。己の精神力の強さに自分自身が戸惑いながらも、次第に大人の女性としての威厳と風格を備えていくという細やかな演技は舌を巻くような巧さ。夫のおかげで大女優になれたと陰口を叩かれたノーマだが、そんな自身の境遇をマリー・アントワネットの人生に重ね合わせていたのかもしれない。
 監督のW・S・ヴァン・ダイク2世はジャネット・マクドナルド&ネルソン・エディのミュージカル映画やウィリアム・パウエル&マーナ・ロイの『影なき男』シリーズで知られる名職人。低予算で優れた作品を撮ると評判だった彼にとって、本作は大地震のパニック・シーンが有名な『桑港(サンフランシスコ)』(36年)と並ぶ大作と言えるだろう。
 脚本を手掛けたのは『ミニヴァー夫人』(39年)でアカデミー賞を受賞した女流脚本家クローディン・ウェスト、『フィラデルフィア物語』(40年)でアカデミー賞を受賞したドナルド・オグデン・スチュワート、そして『ラヴ・パレイド』(29年)や『陽気な中尉さん』(30年)、『メリィ・ウィドウ』(34年)など巨匠エルンスト・ルビッチの作品で知られるアーネスト・ヴァイダ。いずれ劣らぬ名脚本家ばかりだ。
 さらに、撮影監督のウィリアム・H・ダニエルズは一連のグレタ・ガルボ主演作や『グレン・ミラー物語』(54年)、『熱いトタン屋根の猫』(58年)などの名作を手掛け、『裸の町』(48年)でアカデミー賞を受賞した大御所カメラマン。音楽のハーバート・ストサートも、『オズの魔法使』(39年)や『キスメット』(44年)などでアカデミー賞にノミネートされたMGMの名作曲家だ。
 その他にも、『巴里のアメリカ人』(51年)などで合計11回のアカデミー受賞経験のある美術監督セドリック・ギボンズ、助監督には『キャット・ピープル』(42年)などの名匠ジャック・ターナー、美術助手には『恋の手ほどき』(58年)や『ベン・ハー』(60年)でアカデミー賞を受賞したウィリアム・A・ホーニングと『ガス燈』(44年)などでアカデミー賞を受賞したエドウィン・B・ウィリス、男性キャストの衣装デザインは『サムソンとデリラ』(49年)などでアカデミー賞を受賞したジャイル・スティール、『オズの魔法使』(39年)の特殊メイクで有名なメーキャップ・アーティストのジャック・ドーンなど、文字通り超一流のスタッフが集結している。

MARIE_ANTOINETTE-16.JPG MARIE_ANTOINETTE-17.JPG MARIE_ANTOINETTE-18.JPG

ルイ15世の崩御によりマリー・アントワネットは王妃となる

フェルセン侯爵はマリー・アントワネットに別れを告げる

首飾り事件がきっかけでフランスは革命へと突入

 マリー・アントワネットと恋に落ちるフェルセン侯爵を演じているのは、当時まだ25歳のタイロン・パワー。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで、スターへの階段を駆け上がっていた頃。まだ顔のラインもすっきりとしていて、今でも十分に通用するような美形ぶり。全体的に出番が少ないのは残念だが、大女優ノーマ・シアラーの相手役としての存在感は十分に発揮している。その辺は、やはりスターのオーラのなせる業だろう。
 また、ルイ16世を演じるロバート・モーレイの絶妙な演技力も光っている。『アフリカの女王』(51年)や『トプカピ』(64年)、『料理長殿、ご用心』(78年)などで有名な巨体の名脇役で、ちょっと変わり者のオジサンという印象が強いイギリス人俳優だが、当時はまだ30歳。これが映画デビュー作で、アカデミー助演男優賞にノミネートされている。
 そして、ルイ15世を演じているのはハリウッドの伝説的大スター、ジョン・バリモア。彼も出番は少ないのだが、独特のエキセントリックな演技で強烈な印象を残している。また、デュバリー夫人を演じている『マルタの鷹』(41年)の名女優グラディス・ジョージも大変に巧い。
 その他、マリー・アントワネットと親しくなるマリー・テレーズ役には当時ワーナーから売り出し中だったアニタ・ルイーズ、策略家のオルレアン公にはアカデミー賞助演男優賞に輝いた『ゾラの生涯』(37年)やアンネ・フランクの父オットーを演じた『アンネの日記』(59年)で有名なジョセフ・シルドクラウト、マリー・アントワネットの相談役となるオーストリア大使役に『海賊ブラッド』(35年)や『放浪の王子』(37年)などワーナー専属の名脇役だったヘンリー・スティーブンソンなどが出演している。

 

戻る