フライング・コップ 知能指数0分署
Police Squad ! (1982)

 

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 映画『裸の銃(ガン)を持つ男』シリーズの原点であり、いまだに熱狂的なファンを多く持つカルト・コメディ・シリーズ。レスリー・ニールセン扮する刑事フランク・ドレビンが様々な事件を捜査・解決していく様子を、独特の不条理かつナンセンスなビジュアル・ギャグで描いていくドラマだ。
 番組のクリエイターは、映画『ケンタッキー・フライド・ムービー』(77)の脚本や『フライング・ハイ』(80)の監督・脚本で知られるデヴィッド・ザッカー、ジェリー・ザッカー、ジム・エイブラハムズのお馴染みトリオ。監督には『ケンタッキー・フライド・ムービー』で彼らと組んだ名匠ジョン・ランディスも名を連ねている。
 その自由奔放で芸の細かいギャグ・センスは批評家から高い評価を受け、エミー賞のコメディ・シリーズ部門で最優秀主演男優賞(L・ニールセン)、最優秀脚本賞にもノミネート。ところが、たったの6話だけで放送が中止されてしまったという不幸な番組でもあった。

 具体的な放送中止の理由が正式に公表されたわけではないが、レスリー・ニールセンら関係者の証言によると、どうやらマニアックで細かすぎるビジュアル・ギャグの多用が放送局ABCテレビの幹部には不評だったらしい。
 というのも、このドラマはオープニングのタイトル・クレジットからエンディングのスタッフ・クレジットに至るまで、文字通り全てのシーンでひっきりなしにギャグが連発される。しかも、画面の中央だけでなく背景の隅々にまでネタが散りばめられており、映像と音のミスマッチから生まれるようなギャグや、言葉の意味を意図的に履き違えたギャグも少なくない。要は、視覚と聴覚の両方を駆使して笑いが展開されるため、視聴者は常に画面に注意を払っていなくてはならないのだ。
 これが例えば、劇場という非日常的空間の中でスクリーンに集中することのできる映画であれば話は別だが、日常の延長線上にあるテレビというメディアでは不利に働く可能性がある。つまり、食事や会話をしながらテレビを眺める一般的な視聴者にとって、このドラマの根幹であるビジュアル・ギャグは伝わりにくい、というのがABCテレビの見解だったというわけだ。
 当時はまだホーム・ビデオが普及し始めたばかりという時代。今のようにオタク的なテレビの見方をする視聴者も圧倒的に少なかったであろうことを考えると、恐らくABCテレビの見解は必ずしも間違ってはいなかったのかもしれない。要は、生まれる時代が早過ぎたドラマだったのである。
 なお、日本では20年ほど前に2巻シリーズのレンタル・ビデオとして発売されており、当時は結構話題になった。

 ということで、ここからはドラマ『フライング・コップ 知能指数0分署』の具体的な見どころについて詳しく検証してみよう。

 

<キャラクター>

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フランク・ドレビン
(レスリー・ニールセン)

エド・ホッケン
(アラン・ノース)

ノーバーグ
(ピーター・ラパス)

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テッド・オルセン
(エド・ウィリアムス)

タレコミ屋ジョニー
(ウィリアム・デュエル)

エイブラハム・リンカーン
(レックス・ハミルトン)

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アル
(タイニー・ロン・テイラー)

小人の警官
(ジミー・ブリスコー)

 まず、レスリー・ニールセン扮する主人公フランク・ドレビン。映画版と決定的に違うのは、彼自身があくまでもシリアスなキャラクターとして描かれているという点だろう。ロマンス・グレーの渋いベテラン刑事ドレビンが、極めて真面目な顔をしながらマヌケなボケをかます。その不条理こそが、このドラマにおける笑いの原点なのだと言える。だからこそ、ザッカー兄弟とエイブラハムスのトリオは、かつて60年代の刑事ドラマ“New Breed”で人気を博したニールセンのために、このドレビンというキャラクターを作ったのだろう。
 その他のキャラクターも、基本的にはシリアスなタッチで描かれている。ドレビンの相棒であるエド・ホッケンは、刑事ドラマの脇役には欠かせない人情肌のオヤジさん。鑑識官のテッド・オルセンもよくいる学者肌の変わり者だし、タレコミ屋ジョニーも刑事ドラマに必ず出てくるタイプのストリート・スマートだ。ただし、いずれの人物もどこかちょっとだけズレている。そのちょっとしたズレから、大きな笑いが生まれるのだ。
 そうした中で唯一、純粋にコミカルなおとぼけキャラとして描かれているのが、ドレビンの部下である刑事ノーバーグ。演じるピーター・ラパスは、往年の人気ドラマ『スパイ大作戦』のマッチョ・スパイ、ウィリー役でお馴染みとなったスターだ。
 さらに、番組の名物キャラとなったのが、いつも画面から頭が飛び出して顔が見えない巨体刑事アルと、逆に小さすぎて画面に姿の映らない小人警官の二人。アル役を演じているタイニー・ロン・テイラーは、実際に身長が2メートル13センチもある元バスケットボール選手だ。
 また、毎回レギュラーとしてオープニング・クレジットに登場するものの、結局ただの一度も本編には出てこないエイブラハム・リンカーンという無駄なキャラクターも存在する。実際は劇場で観劇中に暗殺されたリンカーンだが、ここでは暗殺者の銃弾に素早く応戦するというのがギャグ・ポイント。脚本家のパット・プロフトによれば、シーズン2が実現した場合にはリンカーンの代わりとしてガンジーを登場させるというアイディアもあったそうだ。
 なお、映画版ではエド・ホッケン役をジョージ・ケネディが、ノーバーグ改めノードバーグ役をO・J・シンプソンが演じている。また、オルセン役のエド・ウィリアムスとアル役のタイニー・ロン・テイラーの二人は、映画版でも同じ役柄で登場した。
 ちなみに、映画版では警部補だったドレビンだが、本作では登場するたびに役職がコロコロと変わる。

 

<お約束ギャグ・セレクション>

1、セレブ・ゲストの死

 毎回スペシャル・ゲストとして有名スターが登場するというのは、1話完結ものの連続ドラマによくあるパターン。このドラマでも同じように毎回有名ゲストを迎えるのだが、実際の本編には全く登場しない。なぜなら、オープニングのクレジット紹介で全員即死するからだ(笑)
 第1話では往年の西部劇ドラマ『ボナンザ』のローン・グリーンが、胸をナイフで刺された上に車から放り出されて悶絶死。第2話では『ルーツ』のクンタ・キンテ役で有名なジョージ・スタンフォード・ブラウンが、頭上から落ちてきた金庫に潰されて圧死。第3話ではブロードウェイの大物ミュージカル・スター、ロバート・グーレが銃殺され、第4話では『スター・トレック』のウィリアム・シャトナーが毒殺される。第5話では『ゆかいなブレディ家』の母親役で有名なフローレンス・ヘンダーソンがキッチンで蜂の巣にされ、最終回の第6話では『探偵キャノン』のウィリアム・コンラッドが第1話のローン・グリーンと同じ殺され方をする。
 有名スターなのに出番がたったのこれだけ!?という意外性も含めて、番組の名物となったお約束ギャグだ。なお、第3話のロバート・グーレは、その後映画版第2弾にも悪役としてゲスト出演している。

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ローン・グリーン

ジョージ・スタンフォード・ブラウン

ロバート・グーレ

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ウィリアム・シャトナー

フローレンス・ヘンダーソン

ウィリアム・コンラッド

 

2、偽エピソード・タイトル

 これはどういうことかというと、画面上に出てくるエピソード・タイトルとナレーターの語るエピソード・タイトルが全く違うのだ。もちろん、これは意図してのこと。どちらのタイトルも特にこれといった関連性はなく、単純なナンセンス・ギャグと見ていいだろう。
 ストーリーのおとぼけ具合とは裏腹に、やたらと大仰なタイトルが付けられているのが特徴。中には、第4話の画面上タイトル“The Butler Did It(執事がやった)”のように、最初から犯人をバラしてしまっているものまである。
 なお、番組タイトルで“IN COLOR”とカラー作品であることを強調しているのは、60年代テレビ・ドラマのパロディ。当時はまだカラー・テレビの普及率が低かったため、テレビ放送自体もカラーとモノクロが混在していた。なので、カラー放送のドラマでは必ず、この番組がカラーであるということを明記していたのだ。

3、擬似フリーズ・フレーム

 このドラマに出てくるビジュアル・ギャグの中で、最も有名になったネタがこれだろう。当時のドラマでは、最後のシーンが静止画(フリーズ・フレーム)で終了し、その画面の上をスタッフ・クレジットが流れるというのが一般的なスタイルだった。本作ではそれを逆手に取り、画面を静止させる代わりに出演者全員が同時に動きをストップ。その画面の上を、スタッフ・クレジットが流れるという手法を取ったのである。
 当然のことながら、カメラは回ったまま。なので、役者たちがだんだんとシビレを切らして苦悶の表情を浮かべたり、まだ終らないのかなと周囲をキョロキョロ見回したりと、様々な反応を見せることで笑いが生まれる。時には、捕まった犯人だけが動き出して逃げようとしたり、チンパンジーだけが縦横無尽に暴れまわったり、周囲のセットが次々と崩壊したり(笑)ある意味、ガマン比べ的なギャグと言えるだろう。

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こちらが典型的なパターン

みんなが静止している間に逃げ出す犯人

セットが崩壊してもガマンガマン

4、鑑識ラボ

 鑑識官テッド・オルセンのラボで繰り広げられるギャグも番組名物の一つ。ドレビンがラボを訪れると、なぜか毎回小学生くらいの小さな子供がオルセンの講義を受けている。優しい口調で科学の不思議を子供に教えるオルセンだが、やっていることは危険極まりない実験ばかりだ。電球を手に持った少女を電気椅子に座らせて灯りが点くか試したり、天井から人間とボーリングの球を同時に落として重力の実験をしたり。オルセンも子供もやたらとピュアな表情で実験に取り組んでいるのが、シュールな笑いを倍増させるポイントだろう。
 また、オルセンとドレビンが奥の実験室へ入っていくシーンもおかしい。そもそもこれはドラマなので、実験室も当然ながらスタジオに建てられたセット。カメラを移動させるために、部屋と部屋を区切る壁は途中までしか作られていない。ここではそれを逆手にとって、オルセンが普通にドアを開けて入っていくのに対し、ドレビンはセットの端を平然とした顔で通り抜けていくのだ。

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オルセンと少女の危ない電気実験!?

天井から人とボーリングを落として重力の実験を!?

セットの隅を通り抜けていくドレビン

5、タレコミ屋ジョニーの意外な顧客

 普段は街角の靴みがきとして生計を立てているジョニー。しかし、その素顔はあらゆる情報を持っている凄腕(?)のタレコミ屋。捜査に行き詰まったドレビンは毎回ジョニーのもとを訪れ、チップをはずんで情報を引き出す。・・・というより、ズバリ犯人を教えてもらう(笑)それまでの捜査は一体何だったんだ!?というのが、ここの重要な笑いのポイントだ。
 それに加えて、ドレビンが立ち去った後にやって来る顧客たちにも注目。手術のやり方を教えてもらうドクターや、消火方法を教えてもらう消防士など、あなたがそんなこと聞いちゃっていいの!?というプロフェッショナルたちが、ジョニーの適切すぎるアドバイスを受けるのだ。
 時には、有名人が実名で登場してジョニーに教えを請うことまである。ドジャースの監督だったトミー・ラソーダがピッチャーの人選でアドバイスを受けたり、有名な精神科医ジョイス・ブラザースがシンデレラ・シンドロームについて教えてもらったり、音楽番組司会者として有名なディック・クラークが最近流行のスカについて教えてもらったり。なお、ジョイス・ブラザースは映画版1作目にも本人役で顔を出している。

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ドジャーズ監督トミー・ラソーダ

女性精神科医ジョイス・ブラザース

音楽番組司会者ディック・クラーク

6、エピソード・ナンバーとゴミバケツの関係

 毎回いろんなものを車ではね飛ばすドレビン。中でも、道端に並べられているゴミバケツは定番中の定番なのだが、実はこのゴミバケツの数がエピソードのナンバーと一致している。つまり、第1話でぶつかるゴミバケツは1つ、第2話では2つ、第3話では3つといった具合に、エピソードを重ねるごとに車ではね飛ばされるゴミバケツの数が増えていくのだ。
 この手の“分かる人にしか分からない”マニアックな隠しネタというのは、最近だとJ・J・エイブラムスが『LOST』や『フリンジ』でよく使う手法。本作は、その先駆けだったと言えるかもしれない。恐らく(笑)

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第1話では1つ

第2話では2つ

第3話では3つ

7、ドライビング・ギャグ

 捜査で車をフル活用するドレビン。その運転シーンを応用したビジュアル・ギャグも少なくない。例えば、容疑者の妻に話を聞くため“リトル・イタリー”へ向かったドレビンとエドの二人。すると、なぜか車の背景がイタリアのローマに(笑)。このネタは映画版1作目でも流用された。
 また、一見するとドレビンが車を運転しているように見えるシーン。すると、ハンドルを持つ手がおもむろに無線電話を取って、後部座席のドレビンへと手渡す。運転していたのは小人の警官でした、というオチだ。
 他にも、“Back to the Office(オフィスへ戻る)”というセリフをそのまま生かして、文字通り車をバックさせながらオフィスに戻るなんて珍シーンも。こうしたダジャレ的なギャグは、このドラマの十八番と言ってもいいだろう。

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“リトル・イタリー”へ向かったドレビンとエド

ドレビンが車を運転しているように見えて実は・・・

文字通りバックしながらオフィスへ戻るドレビン

8、エレベーターの謎!?

 毎回、警察署内のエレベーターで事件捜査について立ち話をするドレビンとエド。そこへ、なぜだかいつも警察とは明らかに関係のなさそうな人々が乗り込んで来て、なおかつ意外過ぎるような場所で降りていく。
 例えば、オペラ歌手風のおばさんが乗り込んできたと思ったら、エレベーターの扉が開くとそこはステージの上。水着姿の女性の場合はプール、騎兵隊員の場合はインディアンとの戦場といった具合に、毎回あり得ないような場所にエレベーターがストップするのだ。

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エレベーターが開くとそこはプール!?

ある時は劇場のステージ

またある時はインディアンとの戦場

 そのほか、どのエピソードもナンセンスでバカバカしいビジュアル・ギャグのオンパレード。個人的に大好きなネタは、第3話に出てくるジャパニーズ・ガーデン(日本庭園)だろうか。“ジャパニーズ・ガーデンでお散歩を”と庭へ出た二人の男女。なんと、そこは日本人がズラッと鉢植えに植えられた“日本庭園”ならぬ“日本人庭園”なのでした(笑) たしかに、“日本式”も“日本人”も英語では単純にジャパニーズの一言で済んじゃうからなあ(^^;
 ほかにも、病院の受付係が窓を手に持ってたり、激しい銃撃戦が実は超至近距離だったり、ジムの縄跳びとおままごとの縄跳びが合体したり。目で見て初めて笑えるようなギャグが満載。ただ、刑務所の模範囚が写真でモデル風のポーズを取っている、つまり模範=Modelというダジャレを生かしたギャグのように、英語が分からないと笑えないギャグが多いのは、アメリカのドラマゆえ仕方ないところか。
 また、潜入捜査で様々な職業になりすましたドレビンが、やたらと達者な職人技を見せてしまうという展開もナンセンスで面白い。特に、スタンダップ芸人としてナイトクラブに潜入する第6話では、軽妙(?)なトークと見事(??)な歌声まで披露。レスリー・ニールセンの体当たりな大熱演が見ものだ。

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どこでも窓を持参する看護婦さん

なんだか迫力に欠ける超至近距離の銃撃戦

確かに縄跳びであることに違いはないのだけど・・・

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これぞまさしくジャパニーズ・ガーデン!?

模範囚=Model Prisoner・・・なるほど

エンターテイナーぶりを発揮するドレビン

 ちなみに、本作の第1話では無名時代の意外な有名人が顔を出している。大ヒット・ドラマ『フレンズ』のロス役で知られるデヴィッド・シュワイマーと、同じく人気ドラマ『ER緊急救命室』のグリーン先生役でお馴染みのアンソニー・エドワーズ。どちらも歯医者の患者役としてチラリと顔を出すのだが、とにかく二人とも若いのなんのって!

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デヴィッド・シュワイマー

アンソニー・エドワーズ

 

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(P)2006 CBS DVD/Paramount (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/5.1chサラウンド・モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/150分/製作:アメリカ

映像特典
L・ニールセン インタビュー
NGシーン集
未公開静止シーン
キャスティング・テスト映像集
撮影舞台裏ギャラリー
製作メモ・ハイライト

 

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