ピノ・ドナッジョ Pino Donaggio
カンツォーネ歌手から世界のマエストロへ

 

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 イタリア出身ながら、ハリウッド中心に活躍する世界的な映画音楽家である。特にブライアン・デ・パルマ監督とのコラボレーションは有名で、「キャリー」('76)を皮切りに、「悪夢のファミリー」('79)、「殺しのドレス」('80)、「ミッドナイト・クロス」('81)、「ボディ・ダブル」('84)、そして「レイジング・ケイン」('92)と6本の作品を手掛けている。また、「マスターズ・オブ・ホラー/悪夢の狂宴」('90)をきっかけに、「トラウマ/鮮血の叫び」('92)や「ドゥー・ユー・ライク・ヒッチコック?」('05)とたびたびダリオ・アルジェント監督作品も手掛けており、ホラーやサスペンス・スリラーの分野で優れた作品を残している。
 ドナッジョのスコアの魅力は何といっても、そのクラシカルで耽美的なメロディにある。甘美なストリングスやメランコリックなピアノが奏でる美しいオーケストラ・スコアは、イタリア人らしいロマンティシズムの賜物と言える。デ・パルマの「殺しのドレス」や「ミッドナイト・クロス」などは、ドナッジョのスコアがなかったらただのB級映画だったであろう。ハリウッド映画においてヨーロッパ人らしい感性を最大限に発揮している数少ないコンポーザーである。そんな彼は、実はもともとカンツォーネ歌手だった。モリコーネやバカロフなど、イタリアにはカンツォーネ畑出身の作曲家は数多いが、歌い手だったという人物はドナッジョとフレッド・ボングスト、ジャンニ・フェリオくらいのものだろう。

 1941年11月24日、イタリアはブラーノに生まれたドナッジョは、10歳からヴァイオリンを習いはじめた。ヴェネチアのベネデット・マルチェッロ音楽院とミラノのジュゼッペ・ヴェルディ音楽院に学び、14歳の時にはクラウディオ・アバドに認められてソロ・リサイタルを開くほどの天才少年だった。しかし、18才の頃からロックン・ロールに夢中になり、ポップスを作曲するようになる。ポール・アンカがイタリアでレコーディングした際にバック・コーラスに参加したのをきっかけに、1961年に歌手デビュー。甘いルックスと親しみやすいメロディで人気アイドルとなり、1963年に発表したシングル「この胸のときめきを」がミリオン・セラーを記録。ダスティ・スプリングフィールドやエルヴィス・プレスリーがカバーして、たちまちドナッジョは国民的なスーパー・スターとなった。
 そんな彼が映画音楽を手掛けるようになったきっかけは1970年頃のこと。ヴェネチアを訪れていたイギリスの名匠ニコラス・ローグ監督に紹介されたドナッジョは、ローグがヴェネチアを舞台に撮影した異色サスペンス「赤い影」('73)のスコアを手掛けた。この作品が強烈に印象に残っていたブライアン・デ・パルマ監督は、「愛のメモリー」('75)を最後に亡くなってしまったバーナード・ハーマンの代役として「キャリー」('76)の音楽をドナッジョに任せる。ショッキングなホラー映画にドリーミーで美しいメロディを付けるドナッジョのアイディアを気に入ったデ・パルマは、以降たびたびドナッジョを起用することになる。
 こうして、ハリウッドとイタリアを股にかけて活躍するようになったドナッジョ。総じて低予算の娯楽映画を手掛けることが多いものの、「ハウリング」('81)や「悪霊墓地カタコーム」('88)、「ビースト・キッス」('90)など、B級映画といっても決して侮れない優れたスコアを世に送り出している。また、リリアーナ・カヴァーニ監督の「愛の謝肉祭」('82)やダニエル・シュミット監督の「デ・ジャ・ヴュ」('87)のような芸術性の高い作品のスコアも手掛けていて、その裾野は幅広い。来年には15年ぶりにブライアン・デ・パルマ監督と組んだ“Toyer”の公開も控えており、ファンとしては非常に待ち遠しい。

 

MADE_IN_ITALY.JPG DONT_LOOK_NOW.JPG NERO_VENEZIANO.JPG LOVE_AND_MENACE.JPG

Made In Italy

Don't Look Now (1973)
赤い影

Nero Veneziano (1978)

Love And Menace

(P)2004 EMI Music (Italy) (P)1989 Jay Productions (UK) (P) Vivi Musica (Italy) (P)1989 Milan (Italy)
1,Il Cane Di Stoffa
2,Io Che Non Vivo
3,Una Casa In Cima Al Mondo
4,Motivo D'amore
5,Cielo Muto
6,La Ragazza Col Maglione
7,Svengali Amore
8,Come Sinfonia
9,Il Domani E Nostro
10,Pera Matura
11,Io Per Amore
12,Giovane Giovane
1,John's Theme (children play)
2,Christine Is Dead
3,Candles for Christine
4,John's Theme (love scene)
5,Strange Happenings
6,John's Theme (Laura leaves Venice)
7,John's Vision (Laura's Theme)
8,Searching for Laura (Laura's Theme)
9,Through the Streets of Venice
10,Laura Comes Back
11,Dead End
12,Laura's Theme (The last farewell)
1,Ragazze Sole
2,Visione
3,Alba A Venezia
4,Pozzo Dei Miracoli
5,Un Momento D'amore
6,La Pensione
7,Maddalena
8,Partenza
9,Visione
10,Camminando Per Le Calli
11,Il Corridoio Della Paura
12,La Chiesa Della Giudecca
13,Nebbia Sul Pontile
14,Notte Di Paura
15,Un Giorno Triste
16,Qualcosa E Successo A Venezia
Carrie
1,Contest Winners
2,Bucket Of Blood
3,For The Last Time We'll Pay
Home Movies
4,Main Title Theme
Dressed To Kill
5,The Shower (theme from Dressed To Kill)
6,The Museum
7,Liz And Peter
8,The Transformation-The Storm-The Revelation
Blow Out
9,Prelude (End Title)
10,Blow Out
11,Fire Works
12,Sally's Death
Body Double
13,Claustrophoby
14,Love And Menace
15,Drill Of Death
16,Mental Chase
17,Brian Hunt
18,Body Double
 アイドル時代のヒット曲を集めたコンピレーション。全てドナッジョ自身が作曲を手掛けています。いかにも60年代のカンツォーネという感じで、ノスタルジックかつロマンチック。ドナッジョの甘く率直な歌声も魅力的で、当時のイタリアの女の子はイチコロだったはず。ただ、今聴くと古めかしく感じるのは否めませんね。基本的にポール・アンカやニール・セダカの影響が濃厚。とりあえず、代表作「この胸のときめきを」#2がベストの出来映え。  ドナッジョの記念すべき映画音楽デビュー作。バロック音楽の香りのする非常にクラシカルなスコアで、特に#7と#12はヴィヴァルディも顔負けなくらいに美しく切ないストリングスが見事。同じメロディが寂しげなクラシック・ギターとピアノ、フルートを織り交ぜて奏でられる#8の叙情的なムードや、リリカルで緊張感溢れるストリングスの演奏も見事な#9の荘厳な美しさも印象的。クラシックで鍛えられた才能が遺憾なく発揮されています。オススメ。  ウーゴ・リベラトーレ監督、レナート・チェストレ、オルガ・カルラトス主演によるジャッロ(猟奇ホラー)のサントラ。メロウで都会的なジャズ・フュージョン・ナンバー#1を筆頭に、全体的にポップなスコアが中心。#3なんかは、いかにもドナッジョらしい叙情的で突き抜けるように美しいストリングスが印象的。決してインパクトの強烈な作品ではないものの、とても良質な小品佳作と言えるでしょう。  デ・パルマ作品の為に書いたスコアの中から、代表的なものを集めて新たにレコーディングし直した企画盤。ニュー・レコーディングとはいえ、どれもオリジナル・サントラを忠実に再現していて、非常に好感の持てるアルバムに仕上がってます。こうやってまとめて聴くと、デ・パルマと組んだときのドナッジョって、フランシス・レイやミシェル・ルグランのようなヨーロッパ的エレガンスを醸しだしていて、イージー・リスニングとしても十分に楽しめる内容です。


BLOW_OUT.JPG QUALCUNO_IN_ASCOLTO.JPG MYSTERY_MOVIE_SCORES.JPG TCHIN_TCHIN.JPG

Blow Out (1981)
ミッドナイト・クロス

Qualcuno In Ascolto (1988)
デッド・チャンネル

Mystery Movie Scores

Tchin-Tchin (1991)
アフタヌーンティーはベッドで

(P)2002 Prometheus (Belgium) (P)1995 Point Records/EMI (Italy) (P)1990 Cannon/Edel (Germany) (P)1991 Milan (Italy)
1,Theme from "Blow Out"
2,Jack Saves Sally
3,Hospital To Motel
4,Jack On The Movie
5,Jack Cuts Pictures
6,Freddie And The Mobsters/Dead Freddie
7,Jack And Sally In Cafe #2/Burke Kills Redhead
8,Jack Discovers Gunshot
9,Jack Hides The Tape & Film
10,Burke At Phone Booth/Burke & Manners
11,Sally Slugs Karp
12,Evil Burke #2,Jack On Phone To Donahue
13,Burke To Phone Booth/Burke Kills Hooker
14,Sally To Station
15,Burke Meets Sally/The Station
16,Car Through Glass Window
17,Burke Kills Sally
18,Jack Kills Burke
19,Good Scream/End Credits
20,Jack And Sally In Cafe (Source Music)
21,Coed Frenzy Disco (Source Music)
1,Qualcuno In Ascolto
2,Dramma Ad Alta Quota
3,Le Grandi Montagne
4,Minaccia Tra I Ghiacci
5,Tema Dell'amicinzia
6,Circuito Spie
7,Combattimento E Fuga
8,Dove Osano Le Aquile
9,Gente Malvagia
10,Tra Cielo E Terra
11,Collegamento Radio
12,Agguato
13,Sulle Cime Nevose
14,Piani Misteriosi
15,In Ascolto...
16,Il Ritorno Dell'amico
Appointment With Death  by Pino Donaggio
1,Main Title
2,This Is An Outrage
3,The Chase
4,Let's Go To Qumran
5,Lady Westholme
6,Suicide Would Mean Another Investigation/End
Death On Safari  by George S. Clinton
7,Main Title
8,Diner For Ten
9,Too Old
10,Track Him
11,That Record
12,Dead Doc
13,Hanged Sparrow/End Credits
The Ambassador  by Dov Seltzer
14,Love Theme/Desert Exposition
15,Desert Massacre
16,Alex and Hashimi/The Meeting
17,Bloodbath/Aftermath
18,End Credits
1,This Love Of  Mine (sung by Scarlett)
2,Peculiar Operation
3,A Walk In Paris
4,Private Investigation
5,Portraits Of Lovers
6,Remembering  A Wife
7,Drunk On Music
8,Decision
9,Night Poetry
10,Health Care
11,Grown Up Love
12,Play Something
13,Loveless Night
14,Touring The Town
15,Love Hideaway
16,Cin Cin (sung by Scarlett)
 デ・パルマ&ドナッジョのコンビ作品で、個人的に一番お気に入りなのがこれ。まるで70年代のヨーロッパ産メロドラマです。クライマックスなんて、ドナッジョのセンチメンタルで甘美なメロディが余りにも美しすぎて、ボロボロ泣いてしまいましたよ。このCDは未発表曲も含めた完全版で、2500枚の限定プレス盤です。ちなみに、公開当時の日本盤サントラでは勝手にブラジル人女性歌手の曲が主題歌として収録されてました。名前も忘れてしまいましたが。  日本でも劇場公開されたものの、殆ど話題にならなかったヴィンセント・スパーノ主演によるイタリア産サスペンス・アクションのサントラ。映画の内容的にはデ・パルマの「ミッドナイト・クロス」に酷似しているものの、ドナッジョのスコアは逆にアメリカ映画っぽい雰囲気に仕上がっています。ドナッジョの作品の中では可もなく不可もなく。ショパンを思わせる流麗なピアノ・ソロから始まる#5はまずまずの出来映え。  こちらは80年代に一世を風靡したキャノン映画が製作したサスペンス映画のサントラを集めたコンピレーション。何といっても、ドナッジョの隠れた名作である「死海殺人事件」(アガサ・クリスティ原作)のサントラが収録されているのが嬉しいです。特に、往年のカンツォーネを思わせるロマンティックでジャジーなテーマ曲#1は大好き。ちなみに、カップリングは同じくクリスティもの「サファリ殺人事件」と、ロバート・ミッチャム主演の「ジェノサイド・ストーム」。  ジュリー・アンドリュースとマルチェロ・マストロヤンニが主演したロマンチック・コメディのサントラ盤。路線としては「死海殺人事件」の延長線上にあるような感じで、全編ポップでノスタルジックなスコアで彩られています。カンツォーネからシャンソン、ジャズ・スイングまで盛り込んだハートウォーミングなアレンジは、かつてのヒットメーカーであるドナッジョの真骨頂。小粋な小品佳作といった感じです。

UP_AT_THE_VILLA.JPG TRA_DUE_MONDI.JPG MUSIC_FROM_THE_CINEMA.JPG MERIDIAN.JPG

Up At The Villa (2000)
真夜中の銃声

Tra Due Mondi (2001)

Music From The Cinema

Meridian (1990)
ビースト・キッス

(P)2000 Varese Sarabande (USA) (P)2001 Vivi Musica (Italy) (P)1999 Pacific Time (USA) (P)1991 Moonstone Records (USA)
1,Up At The Villa
2,Chat With The Princess
3,A Pistol In Florence
4,Party At Peppinos
5,Olive Branch
6,The Kiss
7,Shortcut
8,Back To The Villa
9,The Facist Office
10,Tennis Plot-Flowers
11,Florence Two Step
12,Stay With Me
13,Telephone Call
14,Drive Away
15,Intriguing Picnic
16,Tete A Tete
17,Martini
18,Not Just A Pretty Face
19,The Princess Goodbye
20,Arrivederci
21,No Set Plans
1,Tra Due Mondi
2,Vorrei Essere Il Vostro Orlando
3,I Cavalieri Costeggiano Il Mare
4,Le Forche In Piazza
5,Matre Mia
6,Angelica
7,Cavalleggerl Fanti E Cannoni
8,Due Uomini A Cavalio
9,La Mano Sulla Spalla
10,Il Viaggio
11,Il Fuoco Arde Ancori
12,L'Amore Di Angelica
13,La Guerra Per La Liberta
14,Il Villaggio Fantasma
15,Alba Di Sangue
16,La Promessa
17,Il Sigillo Sulla Sabbia
Il Carniere
1,Il Carniere
2,La Radura Dei Palchi
3,Il Primo Spara
4,Fucilli Pronti
5,Alba Slavena
6,Fuga Dalla Guerra
7,Rada
Un Eroe Borghese
8,Intrighi in Banca
9,La Casa Al Lago
10,In Tram a Milano
11,Gli Ultimi Minuti
Giovanni Falcone
12,Giovanni Falcone
13,Senza Liberta
14,Omicidio Cassara
La Monaca di Monza
15,La Comunione
16,Il Turbamento
17,I Ricordi Di Suor Virginia
18,Diavoli A Monza
19,La Monaca Di Monza
Ul Delitto Poco Comune
20,Omicidio Al Parca
21,Un Delitto Poco Comune
22,La Confessione
Squillo
23,Poland's Fields
24,Following You At Midnight
25,Chanting
26,Love, Passion and Death
1,Meridian Overture
2,Unholy Sedcuction
3,You Are The One
4,Forbidden Love
5,Dangerous Dimensions
6,Blood Brothers
7,Confessional
8,Beast To The Rescue
9,Life Into Stone
10,Animal Passion
11,Catherine's Theme
12,Revelations
13,Circus From The Past
14,Trip To The Castle
15,It's Just A Dream
16,Kill This Beast
 ため息が出るほどにゴージャスなストリングスが美しいスコア#1で幕を開けるドナッジョの渾身の1作。サマセット・モームの「女ごころ」を、ショーン・ペン、クリスティン・スコット・トーマス、アン・バンクロフトという豪華な顔合わせで映画化した作品で、ドナッジョは壮麗な映像美に負けない風格のある仕事をしています。ただ、デ・パルマ作品のような甘いメロディを期待しないように。  ミケーレ・プラチド主演のテレビ映画のためのサントラ盤。20世紀初頭を舞台にしたスケールの大きな歴史劇のようで、ドナッジョのスコアもピリっと辛口で重厚感のある仕上がり。ただ、随所で往年のドナッジョ節といいますか、「赤い影」や「キャリー」で聴かせてくれたようなロマンチックなメロディを披露してくれます。ブルガリア交響楽団の演奏も見事。  80年代から90年代にかけてドナッジョが手掛けたサントラ・スコア6作品分を収録したコンピレーション。ミリアム・ルーセル主演の“La Monaca di Monza(肉体のバイブル・禁断の賛美歌)”以外は、全て日本未公開作品です。ベストは、その「肉体のバイブル」。賛美歌をモチーフにした華麗で美しいスコアは実に見事で、ズビグニエフ・プレイスネルの「ふたりのベロニカ」が好きな人にもオススメです。  アメリカの低予算映画専門のフル・ムーン・エンターテインメント製作によるゴシック・ホラー版“美女と野獣”とも言うべき作品のサントラ盤。予算のせいもあってか、半分くらいはシンセサイザーによるスコアなのですが、バロック調の華麗で美しいメロディとエレクトリックで幻想的なアレンジが絶妙で、なかなかの佳作に仕上がっています。映画本編よりもスコアの方が出来が良いというのも皮肉ですが・・・。

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