ピート・ウォーカー Pete Walker
〜UKホラーの異端児〜

 

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 ピート・ウォーカーといえば、70年代のUKホラーを語る上で欠かすことのできない映画監督。ハマーやアミカスといったホラー映画専門の映画会社が乱立する中で単独のインディペンデントを貫き通し、そのあまりにも特異な作風で異彩を放ち続けた究極の異端児である。
 まず彼の作品の何が変わっているかというと、観客を徹底的なまでに陰鬱な気分にさせる、サディスティックでペシミスティックで救いのないストーリーだ。彼の描く世界では無垢な魂・自由な魂の持ち主はひたすら虐げられ、いたぶられ、そして無残な最期を遂げる。逆に恐るべき狂人こそが支配者であり、強者であり、勝者となり得るのだ。これほどまでに、勧善懲悪のカタルシスを真っ向から否定するホラー映画作家もなかなかいないかもしれない。
 その作風が特に顕著なのが、いわゆる“ピート・ウォーカー三部作”と呼ばれる“House Of Whipcord”(74)、“Frightmare”(74)、『魔界神父』(75)の3本であろう。
 これらの作品では、それぞれ“裁判所”“家族”“教会”が恐怖の対象として描かれ、宗教や権威の名の下にモラルを振りかざす狂った老人たちが、自由と青春を謳歌する現代の若者たちを次々と嬲り殺していく。母親から娘へと引き継がれる殺人衝動を描いた“Frightmare”だけは若干毛色が違うように思えるが、家族の強い絆が結果的に母娘の狂気を膨張させ、血のつながらない他人を片っ端から殺していくという展開に共通するものがある。
 いずれにせよ、ピート・ウォーカー作品においては、誰もが心の拠りどころとする場所こそが実は最も邪悪で危険な場所であり、弱者は強者にひたすら虐げられ続けるしかないのだ。そんなわけだから、彼の作品に登場する殺人鬼というのは、自らが絶対的な正義だと信じ込んでいる狂人ゆえに、次に何をするのか全く分からない。この先が読めない、理屈が通用しないという恐怖ほど、見る側を不安にさせるものはないだろう。
 どんよりと暗い気分にさせられるクライマックスも含めて、そんじょそこらのスプラッター映画なんぞよりも遥かに強烈なトラウマを観客の胸に焼き付ける。それこそが、ピート・ウォーカー作品の真骨頂だ。

 1939年イギリスはサセックス州ブライトンに生まれたピート・ウォーカー。父親のシド・ウォーカーは有名なコメディアンで、母親はコーラス・ガールだった。60年代半ばからTVコマーシャルの世界に入り、やがて映画監督を志すようになる。しかし、映画界での実績がないことからなかなかチャンスにありつけず、それならばと自ら資金を集めてピート・ウォーカー・プロダクションを設立。当初は主に超低予算のソフト・ポルノを撮っていた。
 そんな彼がポルノからの転身を図った最初の作品が、当時人気だった女優スーザン・ジョージを主演に迎えたサスペンス・スリラー“Die Screaming Marianne”(71)。続いてスラッシャー映画の先駆け的なサスペンス・ホラー“The Flesh and Blood Show”(72)を手掛けるも興行成績芳しくなく、『グレタの性生活』(72)で一時的にポルノへと逆戻りした。
 この頃に出会ったのが、その後のウォーカー作品に欠かせない脚本家となるデヴィッド・マッギリヴレイ。お互いに驚くほど趣味志向の似ていた二人はたちまち意気投合した。マッギリヴレイによれば、ウォーカーが彼の脚本を手直しすることは殆んどなかったという。
 そして、このコンビによる最初の作品“House Of Whipcord”において、ウォーカーはさらにもう一人の重要な人物と出会うことになる。レズビアンの凶悪な女看守役を演じたベテラン女優シーラ・キースだ。彼女はもともと、イギリスのテレビ・ドラマで肝っ玉母さん役やお婆ちゃん役などで活躍していた人。いかにも庶民的な風貌の中年女優だったが、そんな彼女から恐るべき邪悪な顔を引き出したのがピート・ウォーカーだった。
 続く“Frightmare”では人肉食の連続殺人鬼というクレイジーな老婆を怪演。この人、本当に気が狂ってるんじゃないか?と思わせるくらいリアルな狂人演技は圧巻そのもので、彼女のサイコ女優としての才能に気付いたピート・ウォーカーの先見の明は高く評価されるべきだろう。最終的に合計5本のウォーカー作品出演を果たしたシーラ・キースだが、ウォーカー監督以外で彼女をホラー映画に起用する人物が現れなかったという事実は大変惜しまれる。

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役者としても顔を出している脚本家デヴィッド・マッギリヴレイ

“Frightmare”での怪演も強烈な女優シーラ・キース

 かくして、“House Of Whipcord”、“Frightmare”、『魔界神父』と立て続けに3本のホラー映画をヒットさせたウォーカー。しかし、“この3本でアイディアが出尽くした”と本人も語るように、その後の“Schizo”(76)や“The Comeback”(78)、“Home Before Midnight”(79)は期待したほどの興行成績を上げられなかった。
 一時期はセックス・ピストルズのライブ・ドキュメンタリー映画を撮るという企画もあったようだが、そちらはバンドの解散によってあえなく頓挫。しばらく鳴りをひそめていたウォーカーだったが、キャノン・フィルム製作のゴシック・ホラー『魔人館』(83)で久々に映画復帰を果たす。
 これは、それまで一貫してインディペンデントを貫いてきたウォーカーにとって初めての雇われ仕事。そもそも彼は別に好き好んで自主制作を続けてきたわけではなく、“なぜか仕事を依頼してくる映画会社がなかった”というだけのことだったらしい。
 それまでの自主制作とは違って予算も潤沢だったらしく、出演者もクリストファー・リーにピーター・カッシング、ヴィンセント・プライス、ジョン・キャラダイン、リチャード・トッドなど豪華絢爛。そんな中で、しっかりと常連組のシーラ・キースをキャスティングする辺りは、やはりウォーカーならではのこだわりだ。
 映画そのものは従来のウォーカー作品と全く違い、コミカルなユーモアを交えた古典スタイルのオールド・ダーク・ハウスもの。ファンにとっては賛否両論あるところだとは思うが、彼にもちゃんとメジャー映画を撮ることが出来るんだということを証明したという点で、大変意義のある作品だったと言えよう。

 しかし、この『魔人館』を最後にウォーカーは映画界を引退。どうやら、低予算映画製作のストレスと重労働に音を上げてしまったようだ。大手の映画会社と違って、低予算映画の世界は自転車操業が当たり前。数をこなさないと食っていけない。ゆえに、“当時の思い出などを訊かれても忙しすぎて何も思い出せない”という。そんな生活を続けるのが嫌になって、映画界から足を洗ったのだそうだ。ちなみに、その後は不動産投資や映画館チェーンの経営などで生計を立てているらしい。
 なお、日本では彼の代表作のほとんどが未公開のまま。劇場公開されたのはポルノ映画『グレタの性生活』一本だけで、後は初期の作品が何本かビデオ発売されているのみ。特にホラー作品はまったくと言っていいほど無視されており、わずかに『魔界神父』と『魔人館』がビデオで発売されているだけだ。

 

Die Screaming Marianne (1971)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Shriek Show (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/5.1chサラウンド・モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/97分/製作:イギリス

映像特典
オリジナル劇場予告編
ポスター&スチル・ギャラリー
監督と評論家による音声解説
フィルム・ノート
監督:ピート・ウォーカー
製作:ピート・ウォーカー
脚本:マレー・スミス
撮影:ノーマン・ラングレイ
音楽:シリル・オーナデル
出演:スーザン・ジョージ
   レオ・ゲン
   バリー・エヴァンス
   クリストファー・サンドフォード
   ジュディ・ハックステイブル
   ケネス・ヘンデル

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放浪の旅を続けるゴー・ゴー・ダンサー、マリアンヌ(S・ジョージ)

セバスチャン(C・サンドフォード)と結婚することに

 もともと金のためにソフト・ポルノを撮っていたピート・ウォーカーが、満を持して挑んだサスペンス・スリラー。これがまるでフランス映画のような雰囲気で、ジャック・ドレーの『太陽が知っている』(68)やジャン・ベッケルの『殺意の夏』(83)辺りを彷彿とさせるような仕上がりだ。ってことは、すなわち思わせぶりなだけでダラダラと退屈な作品ということでもあるわけだが(笑)
 主人公は放浪の旅を続けるゴー・ゴー・ダンサー、マリアンヌ。実は彼女は裕福な家庭の娘で、間もなく迎える21歳の誕生日に母親の莫大な遺産を相続する予定だった。しかし、これが彼女にとってはそもそもの不幸の始まり。
 骨肉の争いに嫌気がさして家出したマリアンヌだが、父親の差し向けた追っ手が恋人にまで及ぶと知り、家族のもとへ帰ることを決意する。そこは灼熱の太陽と青い海の広がるポルトガルの避暑地。マリアンヌの相続する遺産を巡って、汚職にまみれた権力者である父親、美しくも残酷な腹違いの姉、ハイエナのようにまとわりつくプレイボーイら、腹に一物を抱えた人々の陰謀が交錯する。
 真夏のポルトガルの美しい風景や女優陣のスタイリッシュなファッション、舞台となる豪邸のモダンなインテリア、お洒落でグルーヴィーなBGMなどなど、その手のものが好きな人にはたまらない要素がめいっぱい詰まった作品。それこそ、アラン・ドロンやロミー・シュナイダーが出てきてもおかしくないような雰囲気だ。
 ただ、メリハリのないストーリーは退屈そのもの。思わせぶりなだけのシーンや意味のないショット、余計なセリフがあまりにも多い。まあ、それもフランス映画っぽいといえば、その通りなのだが。唯一、登場人物の大半が死んでしまうクライマックスだけは、ピート・ウォーカーらしさを感じることができるかもしれない。
 アーリー'70sのトレンドが好きな人、スーザン・ジョージの熱狂的なファン、そしてピート・ウォーカー・マニアであれば、ひとまず見ておいても損はないだろうとは思う。

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誠実な若者イーライ(B・エヴァンス)に惹かれるマリアンヌ

セバスチャンには密かな企みがあった

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マリアンヌの父親(L・ゲン)は悪徳判事

腹違いの姉ヒルデガード(J・ハックステイブル)も策略家だ

 真夏の太陽が照りつけるポルトガルの田舎町。ゴー・ゴー・ダンサーのマリアンヌ(スーザン・ジョージ)は2人組の男に追われているところを、偶然スポーツカーで通りがかったセバスチャン(クリストファー・サンドフォード)という若者に拾われる。
 それから2週間後のロンドン。セバスチャンのアパートに居候していたマリアンヌは、彼からのプロポーズを受けて困惑する。その強引さに負けて結婚を承諾したものの、マリアンヌはセバスチャンのことを信用していなかった。というのも、彼が何者かと電話でコソコソ話をしているところを目撃したのだ。
 役所への届出にはセバスチャンの友人イーライ(バリー・エヴァンス)も同席した。そこで、彼女は担当者が勘違いしたことをいいことに、配偶者の欄にイーライの名前を記載する。それを知ったセバスチャンは激怒し、マリアンヌは彼のアパートから出て行った。
 マリアンヌの心配は当たっていた。セバスチャンはポルトガルへと向かい、とある豪邸へとたどり着いた。そこはマリアンヌの実家。彼女の父親(レオ・ゲン)は汚職まみれ悪徳判事で、腹違いの姉ヒルデガード(ジュディ・ハックステイブル)は野心的で冷酷な女性だ。
 父親はマリアンヌが21歳の誕生日を迎えるまでに、なんとしても彼女を実家に戻さねばならなかった。なぜなら、彼女は死んだ母親の莫大な遺産を相続することになるからだ。
 しかし、父親の目的は遺産ではなく、一緒に保管されている機密書類だった。それは彼の過去の悪事を証明するもので、すぐにでも処分しなくてはならない。その一方で、父親に溺愛されてきた妹を憎むヒルデガードは、彼女を亡きものにして遺産を横取りしようと狙っていた。予め事情を調べていたセバスチャンは、多額の報酬の見返りとしてマリアンヌを連れ戻すことを約束する。
 その頃、マリアンヌは実質的に夫となったイーライと同棲していた。彼女は何の見返りも求めない彼の素朴さに触れ、いつしか本気で愛するようになる。ところがある日、イーライは2人組の殺し屋に監禁され、間一髪のところを逃げ出す。それを知ったマリアンヌは、彼のもとを黙って去ることにした。
 彼女は、それが父親の差し向けた追っ手であると気付いていたのだ。父親に愛されて育ったマリアンヌだが、悪事を重ねる父親の素顔を知り、15歳の時に母親が亡くなったのを機に家を出た。それ以来、父親の差し向けた追っ手から逃げながら、各地を放浪して生きてきたのだ。
 イーライのもとを離れたものの、行く当てのないマリアンヌは、結局彼のアパートへと戻ってきた。すると、そこにはセバスチャンの姿が。全ての事情を知ったイーライの説得もあり、彼女は実家に戻って父親や姉と対峙することを決意する。
 表向きは喜んで娘とその夫を歓迎する父親。その一方でヒルデガードとセバスチャンは、マリアンヌとイーライの2人を抹殺する計画を立てていた。そのことに気付いた父親は、召使ロドリゲス(ケネス・ヘンデル)と共にヒルデガードらの動向を監視するのだったが・・・。

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2人組の男に拉致監禁されるイーライ

男たちはマリアンヌの父親が差し向けた追っ手だった

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黙って姿を消そうと決意するマリアンヌ

そこへセバスチャンが再び姿を現す

 監督のインタビューによれば、本作は共演している若手俳優の仲がとても悪く、しばしば撮影に支障をきたすほどだったらしい。ポルトガルでのロケ撮影もイギリスとは全く勝手が違ったため、監督自身はいろいろと悔いの残る作品だったようだ。
 脚本を書いたのは、ソフト・ポルノ“Cool It Carol!”(70)以来たびたびウォーカー作品を手掛けているマレー・スミス。作家としてサスペンス小説も発表している人で、テレビのミステリー・ドラマなども手掛けているようだが、本作を見る限りではあまりサスペンスの構築が上手いようにも思えない。
 撮影を担当したノーマン・ラングレイは、70年代イギリスの有名な刑事ドラマ“Sweeney”や、最近ではアメリカの裁判ドラマ『ザ・プラクティス/ボストン弁護士ファイル』など、主にテレビ・ドラマのカメラマンとして長いキャリアを誇る人物。
 また、音楽スコアを手掛けたシリル・オーナデルは、『マイ・フェア・レディ』などミュージカルの舞台で長年オーケストラ指揮を担当してきた人だったらしい。本作ではサイケでスウィンギンなラウンジ・ポップを聴かせており、スウィートでフォーキーなテーマ・ソングもなかなか印象的だ。

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実家へと戻ってきたマリアンヌ

父親と召使ロドリゲス(K・ヘンデル)は若者たちを監視する

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マリアンヌの殺害計画を立てるヒルデガードとセバスチャン

サウナに閉じ込められたマリアンヌ

 主人公マリアンヌを演じているのは、『おませなツインキー』(69)で一躍脚光を浴びたキュートなセックス・シンボル、スーザン・ジョージ。いかにも彼女らしい自由奔放さが魅力的なように感じるが、監督自身は“改めて見直すとミス・キャストだった”という。ちなみに、本作の撮影直後にウォーカーはサム・ペキンパー監督から連絡を受け、スーザン・ジョージの出演シーンだけを幾つか焼き増しして送ったらしい。それを見たペキンパー監督が、あの『わらの犬』にスーザンを起用したのだという。
 その他、マリアンヌの父親役には『クオ・ヴァディス』(51)でアカデミー助演男優賞にノミネートされたイギリスの名優レオ・ゲン、ひょんなことから結婚することになる若者イーライ役には当時イギリスの人気ドラマ“Doctor In The House”の主演で注目されていたバリー・エヴァンス、その悪友で策略家のセバスチャン役には『早春』(70)でジェーン・アッシャーの婚約者役を演じていたクリストファー・サンドフォード、不気味な召使ロドリゲス役にはウォーカー監督のソフト・ポルノ作品にたびたび顔を出していたケネス・ヘンデルが扮している。
 そして、マリアンヌの腹違いの姉である悪女ヒルデガードを演じているのが、ジュディ・ハックステイブル。ダイアナ・リッグを彷彿とさせるクール・ビューティーだ。AIP製作のホラー『バンパイア・キラーの謎』(70)にも出演していたが、イギリスの有名なコメディアン、ピーター・クックと結婚してさっさと映画界を引退してしまった。なかなか存在感のあるいい女優だけに、なんとも勿体ない。

 

The Flesh And Blood Show (1972)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Shriek Show (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/93分/製作:イギリス

映像特典
オリジナル劇場予告編
ウォーカー監督インタビュー
ポスター&スチル・ギャラリー
監督:ピート・ウォーカー
製作:ピート・ウォーカー
脚本:アルフレッド・ショーネッシー
撮影:ピーター・ジェソップ
音楽:シリル・オーナデル
出演:ジェニー・ハンレイ
   レイ・ブルックス
   パトリック・バー
   ルアン・ピータース
   ロビン・アスクウィズ
   ジュディ・マシソン
   キャンダンス・グレンデニング
   トリスタン・ロジャース
   ペニー・メレディス
   デヴィッド・ハウリー

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海の上に建てられた古い劇場

若い俳優たちが集まってくる

 新作舞台劇のリハーサルに集まった若い俳優たちが、一人また一人と残虐な方法で殺害されていくというサスペンス・ホラー。基本的にはアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』をモチーフにした作品だが、性的に自由奔放な若者たちがその罰として犠牲になること、犯人の殺意が舞台となる劇場の忌まわしい過去に由来していることなど、その後のスラッシャー映画を先駆けたような内容が興味をそそる作品だ。
 “The Flesh And The Blood Show”という新作舞台劇が上演されることとなり、8人の若手俳優と演出家がリハーサルにやって来る。場所は20年以上も前に閉鎖された古い劇場だ。しかし、到着したその日の夜に女優が姿を消し、一人また一人と殺されていく。やがて、彼らを雇った製作プロダクションが実在しないこと、劇場の忌まわしい過去などが判明する。果たして、この劇場で何があったのか?そして、一体誰が犯人なのか?
 登場人物のキャラクターはそれぞれ個性があってユニークだし、細部までしっかりと計算されたプロットも悪くないものの、いかんせんダラダラと長い!この種のスラッシャー映画に必要不可欠なリズム感やテンポというものが皆無な上に、余計なサブプロットやセリフがやたらと多いので、とにかく緊張感もサスペンスも全く感じられないのだ。結局殺されるのは4人だけ。古い映画なので仕方ないといえば仕方ないのだが、それにしても、もうちょっと何とかならなかったもんか。
 ひとまず、ホラー映画監督ピート・ウォーカーのルーツを知る上では興味深い作品。くれぐれも過度な期待はせぬように。

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アンジェラの姿が見えないことに気付く

地下通路を探す演出家マイク(R・ブルックス)

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アンジェラ(P・メレディス)の生首を発見する

怪しげな顔をのぞかせるジョン(D・ハウリー)

 冬のノーフォーク州。深い霧と海岸線の広がる小さな町に、20年以上も閉鎖されている大劇場がある。海の上に建てられたこの古い劇場に、ロンドンから次々と若者が集まってきた。
 自由奔放なキャロル(ルアン・ピータース)に親友ジェーン(ジュディ・マシソン)、皮肉屋でいたずら好きのジョン(デヴィッド・ハウリー)、ハンサムなトニー(トリスタン・ロジャース)、レズビアンのアンジェラ(ペニー・メレディス)に童顔のサイモン(ロビン・アスクウィズ)。彼らは新進の若手舞台俳優。エージェントからの指示で、“The Flesh And The Blood Show”という新作劇のリハーサルにやって来たのだ。
 彼らを出迎えたのは、やはり新進の若手演出家マイク(レイ・ブルックス)だった。初日のリハーサルを終え、劇場内で寝泊りすることになった若者たち。すっかりいい仲になったキャロルとトニーは2人で控え室を占拠するが、キャロルに横恋慕しているジョンは面白くない。
 そして、彼らがすっかり寝静まった頃、劇場内で立て続けに悲鳴が響き渡った。アンジェラの姿が見えないことに気付いたマイクとトニー、サイモンの3人は、手分けして探すことにする。懐中電灯を片手に地下通路へと入ったマイクは、マネキンと共に並べられたアンジェラの生首を発見する。さらに、大道具のギロチンの傍に彼女の胴体が横たわっていた。驚いて引き返そうとするマイクの前にジョンが現れる。マイクは警察を呼ぶために出て行ったが、ジョンは大袈裟だと笑い飛ばす。
 マイクの通報を受けてウォルシュ刑事(レイモンド・ヤング)ら警察が駆けつけるものの、そこには既に生首も胴体も残されていなかった。さらに、アンジェラからの書置きが見つかり、警察は悪質なジョークだろうと片付ける。
 その頃、劇場には主演のジュリア・ドーソン(ジェニー・ハンレイ)がようやく到着する。彼女は映画やテレビで売り出し中の新進スターで、舞台を勉強するためにというエージェントからの指示で出演することになったのだった。ジュリアをチヤホヤするトニーを見て嫉妬したキャロルは、頭にきて夜の桟橋へと出て行った。すると、物陰に隠れていた謎の人物がキャロルに襲いかかる。悲鳴を聞いたマイクとジュリアが駆けつけ、間一髪のところで謎の人物は逃げ去っていった。
 警察に通報すべきか迷うマイクだったが、例のいたずら事件があった直後なだけに気まずい。キャロルとトニーに嫉妬したジョンの悪質ないたずらとも考えられる。アンジェラの後釜であるサラ(キャンダンス・グレンディング)も到着し、リハーサルにも熱が入るようになった。
 ある日、地元の演劇好きな退役軍人ベル少佐(パトリック・バー)と知り合った若者たちは、同じく演劇好きのサウンダース夫人(エリザベス・ブラッドレー)の家に招かれた。久しぶりにシャワーを浴び、ティータイムのお菓子をご馳走になる一行。サウンダース夫人は劇場にまつわる話を語り始める。
 そもそも、あの劇場は地元出身の有名なシェイクスピア俳優アーノルド・ゲイツが建てたもので、戦前は大変な賑わいだったという。ところが、戦時中の空襲の際にゲイツとその妻、若い劇団員の3人が忽然と姿を消し、それ以来閉鎖されてしまったのだった。
 リハーサルの合間に劇場地下を散策していたキャロルとトニー。通路に迷い込んだキャロルは、奥の小さな部屋白骨化した二つの死体を発見する。悲鳴をあげたその瞬間、彼女は何者かによって襲われた。水際でキャロルの死体が発見され、警察が捜査にやって来る。ジョンの姿が見えないことに気付いた警察は、彼を容疑者としてその行方を捜すことにした。
 ウォルシュ刑事からロンドンに戻ったはずのアンジェラが行方不明だと聞かされたマイクは、公演を延期しようと考え、エージェントを通じて製作プロダクションに連絡を取る。ところが、エージェントによると相手方の電話は不通で、教えられた住所ももぬけの殻だという。
 さらにその頃、近くの海岸でジョンの他殺体が発見される。死亡推定時刻はキャロルが殺されるよりも前だった。果たして犯人は何者なのか?キャロルが地下室で見た白骨死体とは?劇場の過去とどのような関係があるのか?

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主演のスター女優ジュリア(J・ハンレイ)が合流する

ジュリアをチヤホヤするトニーを見て嫉妬するキャロル

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サウンダース夫人(E・ブラッドレー)が25年前の事件を語る

演劇好きの退役軍人ベル少佐(P・バー)

 クライマックスでは、25年前に劇場で起きた失踪事件の真相が描かれていく。このシーンは当時3Dで上映されているが、その後欧米で発売されたビデオやDVDはモノクロに修正されているようだ。
 脚本を手掛けたアルフレッド・ショーネッシーは70年代イギリスの人気テレビ・ドラマ“Upstairs, Downstairs”のメイン脚本家として有名な人物。50年代から活躍するベテランで、『キャットピープル』をパクッたゴシック・ホラー『闇に狂う女豹』(57)という監督作もある。ウォーカー監督とは次の『グレタの性生活』でもコンビを組んだ。
 撮影を手掛けたのは『ハーダー・ゼイ・カム』(73)や『アバ ザ・ムービー』(77)などの音楽映画で有名なカメラマン、ピーター・ジェソップ。仕事の速さには定評のある人物で、本作以降のウォーカー作品には欠かせないカメラマンとなった。
 また、音楽は前作に引き続いてシリル・オーナデルが担当。いかにもホラー映画らしい重厚なスコアから、サイケなロック・ナンバーまで、バラエティ豊かなサウンドを披露している。

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地下室に迷い込んだキャロル(L・ピータース)

そこには白骨化した死体が

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容疑者だったジョンの死体が発見される

リハーサルを続ける若者たちの前に現れた殺人鬼とは・・・?

 ヒロインのジュリア・ドーソン役を演じているジェニー・ハンレイは、ハマー・プロの『血のエクソシズム/ドラキュラの復活』(70)のヒロイン役で知られる美人女優。ウォーカー監督曰く“これまでに仕事をした女優の中で、最も人間的に素晴らしい人だった”とのこと。舞台の仕事を終えて明け方に撮影現場へ戻ってきた俳優パトリック・バーのために、ホテルのキッチンでサンドイッチを作って待っているような、とても気のつく優しい女性だったらしい。両親は有名な映画スターで、兄は外務大臣も勤めた政治家というお嬢様。とても綺麗な人だったが、育ちの良さが災いしたのか女優としては大成しなかった。
 演出家マイク役のレイ・ブルックスは、リチャード・レスター監督の『ナック』(65)でもてない学校教師トーレン役で有名な三枚目俳優。ウォーカー監督とは“House Of Whipcord”でも組んでいる。近年はテレビ俳優として忙しく活躍しているようだ。
 さらに、自由奔放なキャロルを演じているルアン・ピーターズは当時イギリスで有名だったセクシー・タレントで、その後ロック・バンド5000ボルツのリード・シンガーとしても活躍した人。映画ではハマー・プロの『ドラキュラ血のしたたり』(71)や『恐怖の吸血美女』(71)にも出ていた。
 また、『ドッキリ・ボーイ』シリーズなどのセックス・コメディで有名なソバカス顔の俳優ロビン・アスクウィズが顔を出しているのにも注目。彼はウォーカー監督のソフト・ポルノ作品にも何本か出演している。
 その他、ルアン・ピータースと共に『ドラキュラ血のしたたり』や『恐怖の吸血美女』に出ていたジュディ・マシソン、後にアメリカでテレビ俳優として成功したオーストラリア人トリスタン・ロジャース、などが共演。
 そして、イギリスのテレビ草創期に人気スターとして活躍したベテラン俳優パトリック・バーが、物語の鍵を握る演劇好きの退役軍人ベル少佐役で登場。これ以降、彼はウォーカー作品の常連俳優となった。

 

House Of Whipcord (1974)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Shriek Show (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/5.1chサラウンド・モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/102分/製作:イギリス

映像特典
オリジナル劇場予告編
ポスター&スチル・ギャラリー
監督と評論家による音声解説
監督:ピート・ウォーカー
製作:ピート・ウォーカー
脚本:デヴィッド・マッギリヴレイ
撮影:ピーター・ジェソップ
音楽:スタンリー・マイヤース
出演:バーバラ・マーカム
   パトリック・バー
   ペニー・アーヴィング
   レイ・ブルックス
   アン・ミシェル
   シーラ・キース
   ドロシー・ゴードン
   ロバート・タイマン

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フランス人のヌード・モデル、アン=マリー(P・アーヴィング)

危険な香りを漂わせる謎の男マーク(R・タイマン)

 聖書に書かれた教えを守らない連中はけしからん!とばかりに、若い女性を次々と誘拐してきては牢屋に監禁して嬲り殺す裁判官一家を描いた悪夢のようなバイオレンス・ホラー。“ピート・ウォーカー三部作”の記念すべき第一弾であり、70年代UKホラーを代表するカルト映画の一本である。
 ヒロインはフランス人のヌード・モデル、アン=マリー。ナンパされた男に連れて行かれた先が、彼の両親が支配する強制収容所だった。彼女の罪状は“モデル”。人前であられもない格好を見せるなどとは神をも恐れぬ所業。モラルの腐りきった社会に代わって、我々が成敗してくれる!ってな具合に、頭の狂った女所長と女看守たちによるサディスティックな拷問の数々が繰り広げられるというわけだ。
 恐ろしいのは、この裁判官夫婦が自分たちを絶対的な正義だと信じて疑っていないこと。おかしいのは不道徳な若い女と、彼女たちの存在を許している社会であり、自分たちは至極真っ当なことをしているだけだというわけだ。それゆえに、彼らの与える処罰は情け容赦ないことこの上ない。
 特に残酷なのは収容所の女所長を務める母親。裁判官のダンナは比較的善人で、一応若い女性たちが更正することを願っている。が、このオバサンが願っているのは、若くてピチピチした女に死の制裁を下すことのみ。ダンナの目が見えないことをいいことに、彼女は次々と女性たちに死刑宣告を下していく。息子に対する近親相姦的な欲望も描かれており、彼女を突き動かしているのが実は正義ではなく、もっと奥底にある若さや美しさへの嫉妬心にあることを伺わせる。女の嫉妬ほど怖いものはない、というわけか。
 さらに、彼女の下には2人の女看守がついている。特に強烈なのが、シーラ・キース演じる冷酷でコワモテのオバサン、ウォーカーだ。彼女も実はレズビアンで、若い女性に対する秘めた欲望を暴力という屈折した形で満足させている。
 つまり、偏屈なモラルによって己の欲望を抑圧しながら生きている屈折した狂人たちが、自分たち独自の“法律”と“正義”を振りかざして、自由を愛する罪なき女性たちを勝手に裁いていく・・・という物語なのだ。
 収容所内における出口の見えない閉塞感やサディスティックな恐怖感がジワジワと観客の不安を煽り、なんとも言えない暗〜い気分にさせてくれる。一応、最期には狂人たちも制裁を受けることになるのだが、なまじハッピー・エンドとはほど遠いような結末。この後味の悪さこそ、ピート・ウォーカー三部作の醍醐味だ。

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ルームメイトのジュリア(A・ミシェル)は心配する

マークの実家へと向うアン=マリー

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連れてこられたのは収容所のような場所

威圧的な女看守ウォーカー(S・キース)とベイツ(D・ゴードン)

 フランスからイギリスへとやって来たヌード・モデル、アン=マリー(ペニー・アーヴィング)は、とある社交パーティで見知らぬ男性に声をかけられる。彼の名前はマーク・E・ディセード(ロバート・タイマン)。その危険な魅力にすっかりマイってしまった彼女は、週末を彼の実家で過ごすことにした。
 だが、ルームメートのジュリア(アン・ミシェル)は猛反対。知り合ったばかりの男性と知らない場所へ行くのは危険すぎるというのだ。しかも、パーティに参加した友人は誰もマークの素性を知らない。ジュリアは悪い予感がして仕方なかったが、アン=マリーは聞く耳を持たなかった。
 マークの車で彼の実家へと向ったアン=マリー。そこは人気のない田舎に建てられた巨大な豪邸だった。マークは車をガレージへと運び、アン=マリーは玄関先で待っていた。すると、そこへ制服を着た中年女がやって来て、彼女を家の中へと連れて行く。
 アン=マリーが連れてこられたのは収容所みたいな場所だった。何かの間違いだと抗議する彼女を、ウォーカー(シーラ・キース)と名乗る中年の恐ろしげな女看守が威圧する。囚人服に着替えさせられたアン=マリーは、今度は裁判所へと連れて行かれた。
 そこで待っていたのは、ベイリー裁判官(パトリック・バー)と女所長マーガレット(バーバラ・マーカム)。マークの両親だった。ベイリー裁判官は、モデルという不道徳な職業について人前で肌をさらしているアン=マリーに有罪判決を下し、牢屋への収監を命じた。
 わけも分からないまま収容所へ入ることとなったアン=マリー。そこは地獄のような場所だった。所長マーガレットや看守ウォーカー、ベイツ(ドロシー・ゴーマン)の命令は絶対で、少しでも歯向かうと壮絶な拷問が待っている。しかも、懲罰が3度目に及ぶと、そのまま絞首刑の宣告がなされるという血も涙もないシステム。
 彼女が収容された直後にも、デニーズという若い女性が死刑宣告を受ける。なんとかせねばなるまいと考えたアン=マリー。同房になったカレン(カラン・デヴィッド)と共に、ウォーカーが町へ出かけた留守を狙い、力の弱いベイツを監禁して脱走を図る。
 デニーズを救おうとする二人だったが、マーガレットに気付かれて捕まってしまう。カレンは鞭打ち刑に処され、アン=マリーも激しい拷問を受けた。ボロボロの体になった彼女は、ネズミだらけの地下納屋へと監禁される。
 実は、ベイリー裁判官は囚人が処刑されていることを知らなかった。彼は女性たちの更正を願っているのだった。だが、マーガレットは夫の目が見えないことを利用し、釈放許可証だと偽って死刑宣告にサインをさせていたのだ。
 ある晩、アン=マリーのもとをマークが訪れた。彼は両親が女性たちを監禁していることを知らなかったといい、涙ながらに許してくれと懇願する。そして、真夜中にドアの鍵を開けておくから逃げてくれという。だが、これは罠だった。マークとマーガレットは近親相姦的な関係にあり、彼は母親の言いなり。マーガレットはわざとアン=マリーに規則違反をさせ、死刑宣告を与えようとしていたのだ。なぜなら、彼女は他の囚人よりも頭が良くて意思が強い。危険な存在だからだ。
 そうとは知らないアン=マリーはまんまと罠にかかり、今度は鞭打ちの刑に処された。血だらけになって横たわる彼女の裸体に、密かな欲望を感じるウォーカー。傷口に塗るクリームを取りにいくため、つい独房のドアを開け放しにしてしまった。その隙に外へと飛び出すアン=マリー。
 この予期せぬ脱走劇に、マーガレットや看守たちはパニックになった。収容所を飛び出し、森を駆け抜けて、道路に停泊しているトラックに救いを求めるアン=マリー。ところが、運転手が彼女の傷を処置しようと駆け込んだ先は、なんと収容所だった。マーガレットはここが医療機関であるとウソをいい、運転手を無理やり追い返す。こうして、アン=マリーは3度目の規則違反を犯した。つまり、絞首刑が宣告されるのだ。
 その頃、ジュリアは行方知れずになったアン=マリーのことを心配していた。だが、恋人のトニー(レイ・ブルックス)はお気楽そのもの。そのうちひょっこり帰ってくるに違いない、そんなこと今どき珍しくはないさと。
 一方、アン=マリーを送り届けた運転手は、翌朝の新聞を見て彼女がモデルであることに気付いた。あれだけ大きな怪我をしているのだから、当分は動けないに違いない。家族や友達が心配していることだろう。そう考えた彼は、新聞社に昨晩のことを連絡した。
 その知らせを受けたジュリアは、アン=マリーの様子を確認するために現地へ向うことにする。そんな彼女を、マーガレットが不敵な微笑を浮かべながら出迎えるのだった・・・。

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恐るべき女所長マーガレット(B・マーカム)

裁判官ベイリー(P・バー)は有罪判決を下す

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ベイツを監禁して脱走を試みるアン=マリーとカレン

鞭打ちの刑を受けるカレン

 当時のイギリスでは、映画やテレビ、雑誌などメディアのモラルを声高に糾弾する、過激な保守派の裁判官や女性モラリストが様々な波紋を呼んでいた。特に有名なのが、反同性愛・反ポルノ・反暴力を掲げた悪名高いモラル啓蒙家メアリー・ホワイトハウス。アニメ“トムとジェリー”までをも“暴力的で不謹慎だ”と非難していたという、まさにキチガイのような狂信的モラリストだ。本作の女所長は、彼女をモデルにしたとさえ言われている。それについて脚本家のマッギリヴレイ自身は否定しているものの、当時のそうした社会的な空気は少なからず物語に影響を与えているようだ。
 本作がウォーカー作品初参加のマッギリヴレイを筆頭に、撮影のピーター・ジェソップ、編集のジョン・ブラック、美術デザインのマイケル・ピックウォードなど、スタッフはいずれも常連組。
 音楽スコアのスタンリー・マイヤーズも、本作をきっかけに“The Comeback”までのウォーカー作品を全て手掛けている。ちなみに、マイヤーズは60年代から数多くの名作を手掛けてきたイギリスの作曲家で、『ディア・ハンター』(78)や『ドリーム・チャイルド』(85)などでも有名。『プリック・アップ』(87)ではカンヌ映画祭の芸術貢献賞も受賞している。

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拷問を受けてボロボロになったアン=マリー

意を決して脱走を試みる

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だが、結局は逆戻りしてしまう

アン=マリーを探しにきたジュリアだったが・・・

 ヒロインのアン=マリーを演じているペニー・アーヴィングは、“ページ3ガール”としても有名なイギリスの巨乳グラビア・モデル。13年間も続いた人気コメディ・ドラマ“Are You Being Served?”(72−85)のレギュラーとしても知られる。
 恐るべき女所長マーガレット役のバーバラ・マーカムはイギリスの舞台女優で、映画出演は極めて少なかったようだ。ちなみに、往年のトップ女優ペギー・カミングスも、このマーガレット役のオーディションを受けていたが、“美しすぎる”という理由で不合格となったとのこと。
 ジュリア役のアン・ミシェルは当時イギリスの低予算映画で活躍していた女優で、『サイコマニア』(73)や“The Haunted”(79)などのホラー映画にも出演している。マーク役のロバート・タイマンも、ハマーの『吸血サーカス団』(71)に顔を出していた。ちなみに、彼の役名マーク・E・ディセードはマルキ・ド・サドから取ったもの。
 その他、本作がウォーカー作品初出演となるシーラ・キースを筆頭に、“The Flesh And The Blood Show”にも出ていたパトリック・バー、レイ・ブルックスと、お馴染みの常連キャストが揃っている。

 

Frightmare (1974)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2006 Shriek Show (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー(一部モノクロ)/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/5.1
chサラウンド・モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/84分/製作:イギリス

映像特典
オリジナル劇場予告編
ポルター&スチル・ギャラリー
監督とカメラマンの音声解説
監督:ピート・ウォーカー
製作:ピート・ウォーカー
脚本:デヴィッド・マッギリヴレイ
原案:ピート・ウォーカー
撮影:ピーター・ジェソップ
音楽:スタンリー・メイヤーズ
出演:ルパート・デイヴィス
   シーラ・キース
   デボラ・フェアファックス
   ポール・グリーンウッド
   キム・ブッチャー
   フィオナ・カーゾン
   ジョン・ユーレ
特別出演:レオ・ゲン
     ジェラルド・フラッド

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犠牲者の脳みそが食われるという連続殺人事件が発生

犯人の夫婦は精神異常者と判断された

 精神異常の老婆が徐々に狂っていく過程を追いながら、その歪んだ家族の絆がもたらす血みどろの惨劇を徹底したバイオレンスと絶望的なペシミズムで描いたサイコ・ホラー。ピート・ウォーカー監督の代表作として名高い傑作だ。
 主人公は世間から身を隠して暮らす老夫婦ドロシーとエドモンド。2人は連続殺人と人肉食の罪で有罪判決を受け、精神病院で15年間の服役生活を終えてきたばかりだ。妻のドロシーは精神異常者で、彼女を愛するエドモンドはその共犯者だった。一方、エドモンドと前妻の間の娘ジャッキーは、ドロシーの生んだ娘デビーと一緒に暮らしている。デビーは両親が死んだものと教えられて育てられたが、近頃では反抗期が著しい。
 ジャッキーは秘かに両親と連絡を取り合っているものの、過去を忘れて普通の生活を送りたいと願っていた。しかし、徐々にドロシーの病気が再発し、周囲の知らないところで人殺しを始める。片や、ドロシーの血を受け継いだデビーも少しづつ凶暴性に目覚め、恐るべき本性を垣間見せ始めた。エドモンドとジャッキーは家族を守ろうと必死になって奔走するが、その愛情と絆の強さがかえってドロシーとデビーの狂気を増長させていくことになる。
 人殺しは血の繋がった家族の証とばかりに、ドロシーとデビーが共に手を合い取りながら目を血走らせて凶行に走る後半は圧巻そのもの。それまの作品では比較的地味めだった残酷描写もスプラッター度全開で、ウォーカー監督作品の中では最もパワフルで勢いのある映画だ。
 そればかりか、クライマックスの救いのなさも最高潮。見る者の神経をこれでもかと逆撫でさせ、気分をどん底へと叩きつけること必至だ。ショッキングなクライマックス、なんて生ぬるい言葉では片付けられない。ホラー映画でキャーキャー悲鳴をあげてスッキリ爽快!なんて甘いこと抜かしていると、とてつもなく嫌な思いをする羽目になるので要注意だ。

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非行に走る15歳の少女デビー(K・ブッチャー)

反抗期の妹を心配する姉ジャッキー(D・フェアファックス)

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秘かに身を隠している父エドモンド(R・デイヴィス)

そして精神の不安定な母親ドロシー(S・キース)

 ジャッキー(デボラ・フェアファックス)は映画のメイク係を務めている平凡な女性。彼女には15歳になるデビー(キム・ブッチャー)という腹違いの妹がいるのだが、近頃は不良グループとつるんで悪さばかりしている。
 2人には両親がおらず、ジャッキーは母親代わりとしてキムの面倒を見ていた。しかし、ジャッキーが社会人になるまで孤児院で育てられていたデビーはとても反抗的で、心配する姉の言葉にも耳を傾けようとはしない。
 だが実は、ジャッキーとデビーの両親は死んだわけではなかった。父親エドモンド(ルパート・デイヴィス)と再婚した妻ドロシー(シーラ・キース)は、名前を変えて人知れず暮らしていたのだ。というのも、夫婦には恐るべき過去があった。
 かつてカーニバルのタロット占い師をしていたドロシーは、精神異常の殺人鬼だった。人生相談に訪れる客を次々と殺してはその脳みそを食べ、妻を愛する夫がその死体を処理していた。しかし、やがてその凶行が明るみとなり、夫婦は有罪判決を受けて精神病院へと入れられたのだ。
 それから15年が経ち、ドロシーの精神状態が完治したと判断されたことから、夫婦は秘かに釈放された。エドモンドと死んだ前妻の間に生まれたジャッキーはその事実を知っていたが、逮捕直前に生まれた娘デビーは両親が死んだものと聞かされていた。
 そのため、ジャッキーは妹に気付かれないよう、隠れて両親と会っていた。気弱で心優しいエドモンドはジャッキーだけが頼りで、妻の病気が再発しないかと常に心配している。ジャッキーも同じように義母の精神状態を気遣っていた。
 とはいえ、彼女は家族の暗い過去を忘れて、自分の人生を歩みたいと考えている。仕事仲間のマール(フィオナ・カーソン)とロビン(ジョン・ユーレ)の夫婦は、いつまでも独身のジャッキーを心配し、グラハム(ポール・グリーンウッド)という若くてハンサムな精神科医を紹介してくれた。お互いに好感を持ったジャッキーとグラハムは、いつしかデートを重ねるようになる。
 だが、デビーが不良仲間と起こした暴行事件で警察から事情聴取を受け、父エドモンドは妻の様子がおかしいからと頻繁に相談をしてくる。ジャッキーは気持ちの休まる暇すらなかった。
 ある日、エドモンドは妻の持ち物の中からタロット・カードを発見して狼狽する。彼は無理を言ってジャッキーを呼び出し、真相を確かめてくれるよう懇願した。気弱な彼は妻に対して毅然とした態度をとることができないのだ。ジャッキーに詰め寄られたドロシーは気が動転する。それを見たエドモンドは、手のひらを返したように妻を擁護するのだった。
 それ以来、ドロシーの精神状態は急速に壊れていく。実は、彼女は秘かに偽名を使って新聞に占いの広告を出していた。そして、それを見てやって来た客を次々と殺害しては、ドリルで頭を開いて脳みそを食らっていた。
 一方、デビーの凶暴性も常軌を逸していく。気に食わないクラブのバーテンに暴行を加えた末、秘かに目玉をくり抜いて嬲り殺していたのだ。日増しに強くなる妹の反抗的な態度に悩むジャッキー。グラハムはその問題の原因が、両親のことについて何も話さないジャッキーの接し方にあるのではないかと助言する。
 ジャッキーが何か隠しているのではないかと察したグラハムは、独自に調査を進めた結果、彼女たちの両親が殺人鬼であったことを知る。さらに、恩師ライテル博士(レオ・ゲン)を通じて紹介してもらった精神病院の担当医に話を聞いて、彼らが形式通りの治療を行っただけで夫婦を退院させていたことを知る。
 そこで、彼は自らドロシーのもとへ出向き、彼女の精神状態を確認しようとする。だが、その頃ドロシーとエドモンドのもとへ、デビーが訪れていた。姉が秘かに両親と会っていることを彼女は勘付いていたのだ。ついに母娘の再会を果たした二人は、本能の赴くがままに狂気を暴走させていく・・・。

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気の弱いエドモンドは娘のジャッキーだけが頼り

精神科医グラハム(P・グリーンウッド)は姉妹を心配する

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不良グループとつるんでいるデビー

その凶暴な本性は歯止めがきかなくなっていた

 家族を愛するがゆえにその秘密を守ろうとしてきたジャッキーとエドモンドの努力が、結果的にドロシーとデビーの狂気を野放しにしてしまうという皮肉。それと同時に、本作は異常犯罪者に対する司法の無責任な対応についても鋭い疑問を投げかけている。
 本作は”House Of Whipcord”の撮影終了直後にウォーカー監督がアイディアを出し、マッギリヴレイがほぼ1週間で脚本を書き上げたという。監督はセリフの一字一句まで一切の修正・変更を加えなかったらしい。それほど完璧な脚本だったのだ。
 今回もスタッフの大半が常連組で固められている。唯一の例外が編集のロバート・C・ディアバーグ。彼は『ゾンビ特急地獄行』(72)や『ホラー・ホスピタル』(73)といったホラー映画を手掛けた人物で、『空飛ぶモンティ・パイソン』などテレビ番組も数多く担当した編集者だ。

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ドロシーは隠れてタロット占いを始めた

その狂気が再び目覚めていく

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次々と相談者を殺害していくドロシー

その事実を知ったエドモンドだったが・・・

 本作はなんと言ってもドロシー役を演じるシーラ・キースの独壇場。タロット占いをしながら、次第に狂気じみた表情を垣間見せていく演技は実に見事。大仰なサイコ演技でお茶を濁す凡百のホラー女優など足元にも及ばない、背筋の凍るようなリアリズムを披露してくれる。
 その気弱で優しい夫エドモンドを演じるルパート・デイヴィスの頼りなげな演技も抜群に巧い。デイヴィスはハマー・プロの『帰って来たドラキュラ』(68)で、ドラキュラと対峙する老司祭役を演じていた俳優。『寒い国から来たスパイ』(65)や『ワーテルロー』(69)、『ツェッペリン』(71)などイギリスの大作映画に欠かせない名脇役だった。
 その他、デボラ・フェアファックス、キム・ブッチャー、ポール・グリーンウッド、フィオナ・カーソンなど無名の若手俳優が共演。グリーンウッドはその後舞台で有名になったようだ。
 さらに、“Die Screaming Marianne”にも出ていた名優レオ・ゲンと、イギリスの有名なテレビ俳優ジェラルド・フラッドが特別ゲストとして顔を出している。

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現在のポール・グリーンウッド

 

魔界神父
House Of Mortal Sin (1975)

日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2006 Shriek Show (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/5.1chサラウンド・モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/100分/製作:イギリス

映像特典
メイキング・ドキュメンタリー
シーラ・キース ドキュメンタリー
オリジナル劇場予告編
ポスター&スチル・ギャラリー
監督と評論家による音声解説
監督:ピート・ウォーカー
製作:ピート・ウォーカー
脚本:デヴィッド・マッギリヴレイ
原案:ピート・ウォーカー
撮影:ピーター・ジェソップ
音楽:スタンリー・マイヤーズ
出演:アンソニー・シャープ
   スーザン・ペンハリゴン
   ステファニー・ビーチャム
   ノーマン・エシュリー
   シーラ・ケリー
   ヒルダ・バリー
   スチュワート・ビーヴァン
   ジョン・ユーレ
   マーヴィン・ジョンス
   キム・ブッチャー

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ジェニー(S・ペンハリゴン)は誰にも言えない秘密を抱えていた

懺悔をするために教会を訪れるジェニー

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神父の不可解な言動に戸惑いを覚えるジェニー

ジェニーにつきまとうメルドラム神父(A・シャープ)

 まるでオカルト映画のような邦題が付けられてしまったが、もちろんさにあらず。抑圧された性欲を抱えるカトリック神父が、懺悔に来た若い娘たちを次々と餌食にしていくというサイコ・ホラーである。
 主人公のメルドラム神父は信者からの信頼も厚い人物。しかし、厳格なモラリストの母親から厳しく育てられ、聖書の教えや教会の戒律にがんじがらめとなって生きてきた彼は、己の内なる肉欲を抑圧否定しながら日々を過ごしている。
 で、問題なのは彼が己の悶々とした欲求不満を善意へとすり替えてしまったこと。懺悔に来た若く美しい女性たちの秘密を知った彼は、それをネタに彼女たちに執拗なストーカー行為を繰り返す。だが、彼はそれを悪いとは思っていない。それどころか、自分こそが彼女たちを導くことが出来る、自分だけが彼女たちを救うことが出来る、そのためには何をしても神から許されると本気で信じ込んでしまっている。なので、彼は自分と彼女たちの間に入る邪魔者を、躊躇することなく次々と血祭りにあげていくのだ。
 このメルドラム神父の偽善的・独善的なサイコぶりも怖いが、何よりも恐ろしいのは神父という職業ゆえに誰も彼のことを疑わないということだ。神に仕える聖職者がサイコな犯罪者であるはずがないし、あってはならない。ゆえに、被害を受けた女性の訴えに誰も耳を貸さないばかりか、逆に彼女たちの方がおかしいのではないかと奇異の目で見られてしまうのである。
 しかし、現実社会でも聖職者による性犯罪や凶悪犯罪は実際に起きており、決して絵空事として片付けることは出来ないだろう。特に当時の保守的な権力や社会風潮に対して危機感を持っていた脚本家マッギリヴレイにとっては、教会や聖職者というのは偽善そのもの象徴するような存在だったのかもしれない。
 ゆえに、本作のクライマックスも“Frightmare”に負けず劣らずと言っていいほど救いがない。というか、ほぼ絶望的なエンディングだ。現実の世界だってそれがまかり通っているじゃないかと言わんばかりに、教会の偽善は暴かれることも罰せられることもなく、真実を知ってしまった人々は無残にも闇へと葬り去られていくのである。気分が落ち込んでいる時には絶対に見てはいけない映画かもしれない。

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留守番をしていた友人ロビン(J・ユーレ)が襲われる

恐る恐る扉を開けるジェニー

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暗闇の奥に光る十字架

メルドラム神父の召使ブラバゾン夫人(S・キース)

 ロンドンでブティックを経営する姉ヴァネッサ(ステファニー・ビーチャム)と暮らす若い女性ジェニー(スーザン・ペンハリゴン)は、恋人テリー(スチュワート・ビーヴァン)の暴力に独り悩んでいた。結局、テリーはジェニーの部屋を出て行くこととなり、2人の関係を心配していたヴァネッサもひと安心する。
 だが、ジェニーは姉や恋人にも打ち明けていない重大な秘密を抱えていた。彼女はテリーの子供を身ごもり、人知れず中絶していたのだ。そのことに深く負い目を感じていたジェニー。
 ある日、彼女は意を決して教会へと足を踏み入れた。告解室に入ったジェニーは、隣の神父に対して恋人の暴力や中絶のことを話し始める。しかし、その神父の様子が普通でないことに気付く。必要以上に彼女のことを尋ねるばかりか、その言葉遣いは不自然に高揚していた。不安を感じたジェニーは逃げるようにして教会を出て行く。だが、その際に家の鍵を落としてしまったことを彼女は気付かなかった。
 その晩、ジェニーのもとへ友人のロバート(ジョン・ユーレ)が訪れる。ところが、彼女が近所へ買い物に出かけた隙に、例の神父が家に忍び込んだ。そして、独りでジェニーの帰りを待っているロバートを襲う。帰宅したジェニーは血だらけになって倒れているロバートを発見。家の中に犯人がいるのではないかと、隣の部屋を恐る恐る覗くと、暗闇の奥に光る十字架が目に入った。驚いて逃げ出そうとしたところへ、姉ヴァネッサが幼馴染みのバーナード(ノーマン・エシュリー)を連れて帰宅する。
 ロバートは意識不明の重態だったが、辛うじて一命は取り留めていた。女性の二人暮らしに不安を感じたヴァネッサとジェニーは、今は聖職者となったバーナードに当面のあいだ同居してもらうことにする。
 翌日、メルドラム神父(アンソニー・シャープ)という人物から家の鍵を拾ったとの連絡が入り、ジェニーは神父の自宅へと向った。ところが、神父は彼女の私生活を根掘り葉掘り聞き出そうとする。昨日の教会で懺悔を聞いた神父が彼だと知ったジェニーは、言いようのない薄気味悪さを感じた。しかも、彼は懺悔の内容を勝手にテープレコーダーで録音していたのだ。
 迷える子羊を救うためなら何をしても許されると言い切るメルドラム神父は、ジェニーに必要なのは自分の導きであると口走り、家族に秘密を知られたくなければ自分を受け入れるのだと迫る。恐ろしくなったジェニーは自宅の鍵を奪い取り、足早に去っていった。その様子を、片目の召使ブラバゾン夫人(シーラ・キース)が冷ややかに眺めていた。
 ジェニーが帰宅すると、恋人のテリーが戻ってきていた。結局、ジェニーとテリーはお互いを必要としていたのだ。メルドラム神父の話を聞いたテリーは激怒し、話し合いをすべく教会を訪れた。ところが、神父は彼がジェニーの恋人だと知るやいなや表情を変える。彼はロビンのことを恋人だと勘違いして襲っていたのだ。今度こそは同じ間違いを犯すまいと、彼は振り香炉にくべられた火でテリーを焼き殺してしまう。
 その様子を物影から目撃してしまった女性がいた。デイヴィー夫人(ジュリア・マッカーシー)である。彼女の娘ヴァネッサ(キム・ブッチャー)はメルドラム神父によって精神的に追いつめられ自殺していた。それ以来、夫人は神父の本性を暴こうと彼の周辺を探っていたのだ。
 テリーが行方不明になったことに不安を募らせるジェニー。意識の戻ったロビンを見舞いに行った彼女の前にメルドラム神父が現れる。悲鳴をあげて救いを求めるジェニーだったが、逆に彼女の方が周囲から奇異な目で見られてしまった。なぜなら、神父を危険視するような者などいないからだ。
 その直後にロビンが急死。現場にメルドラム神父が居合わせたことから、誰もその死に疑問を持つ者などいなかった。だが、ジェニーは神父がロビンを殺害したものと確信する。姉ヴァネッサやバーナードに相談するジェニー。ヴァネッサは“そんなことがあるはずない”と笑って取り合ってくれなかったが、バーナードは以前からメルドラム神父の奇行に気付いていた・・・。

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ジェニーはメルドラム神父の執拗さを不気味に感じる

姉ヴァネッサ(S・ビーチャム)は考えすぎだと諭す

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メルドラム神父のもとを訪ねたテリー(S・ビーヴァン)

テリーこそジェニーの恋人と知った神父が襲いかかる

 メルドラム神父のキャラクターや母親との関係などは、多分にヒッチコックの『サイコ』を意識したものと見受けられる。また、不気味な召使ブラバゾン夫人と神父との屈折した関係や、それにまつわる2人の意外な過去などのサブプロットが物語に奥行きを与えており、あれこれと深読みが出来るのは面白い。
 本作は翌76年にアメリカで“The Confessional”というタイトルで劇場公開され、優秀なファンタジー映画に贈られるサターン賞の前身であるゴールデン・スクロール賞の77年度最優秀ホラー映画賞にノミネートされた。同年の受賞作はダン・カーティス監督の『家』(76)。他のノミネート作が『キャリー』(76)や『オーメン』(76)、『悪魔の沼』(77)であったことなどからも、アメリカでの評価がいかに高かったということが分かるだろう。

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神父のせいで娘を失ったデイヴィー夫人(J・マッカーシー)

幼馴染みバーナード(N・エシュリー)は神父の奇行に気付いていた

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ロビンの息の根を止めるメルドラン神父

ジェニーの言葉に耳を傾けてくれる者はいなかった

 メルドラム神父を演じているアンソニー・シャープは、政治家や貴族、聖職者といった権力者役を得意としたイギリスの脇役俳優で、キューブリックの『時計じかけのオレンジ』(71)や『バリー・リンドン』(75)などにも出ていた人。ウォーカー作品では、“Die Screaming Marianne”にもチラリと顔を出していた。いかにも権力を持つ偽善者という役柄が似合うような雰囲気の役者で、本作などもピッタリのはまり役だ。
 そのメルドラム神父に狙われる女性ジェニー役を演じているのは、ペルー山中に墜落した旅客機の唯一の生存者である女性を熱演した『奇蹟の詩』(75)で当時脚光を浴びていた女優。『地獄のキャッツアイ』(77)や『パトリック』(78)などのホラー映画で活躍したが、決定的な代表作には恵まれなかった。
 その姉ヴァネッサ役のステファニー・ビーチャムは、マーロン・ブランドと過激なセックス・シーンを演じた問題作『妖精たちの森』(71)で知られる性格女優。当時はもっぱらホラー映画への出演で伸び悩んでいたが、その後アメリカへ渡って大ヒット・ドラマ『ダイナスティ』の悪女セイブル役で大ブレイク。テレビ界の大物女優として現在も活躍中だ。
 また、ヒッチコックの『巌窟の野獣』(39)やベイジル・ディアデンの『捕らわれた心』(46)などで知られるイギリスの名脇役マーヴィン・ジョンスが老神父デュガン役としてチラリと登場。当時76歳だった彼は、結局これが最後の出演作となってしまった。
 そして、片目の召使ブラバゾン夫人役として登場するシーラ・キース。今回は役柄が小さいということもあってあまり出番が少ないものの、出てくるだけで異様な空気を漂わせる存在感はさすがだ。

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現在のスーザン・ペンハリゴン

 

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