要注目!ペルシャン・ポップの時代がやって来る!

 

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Arash

Nima

 

 ここ数年、ペルシャン・ポップが熱い。どこで・・・って、俺の中でね(笑)。というのは冗談として、事実ここ数年ヨーロッパや南米を中心に、ペルシャ系アーティストが徐々にヒット・チャートを席巻しつつある。その代表格と言えるのは、やはりArashだろう。日本では殆ど知られていないが、スウェーデンやドイツ、ロシア、ギリシャからアラブ首長国連邦、カザフスタン、イラクと、ヨーロッパから中近東にかけて各国のヒット・チャートを賑わしているスーパー・スターだ。
 このArashを筆頭に、新世代のペルシャ系ポップ・スターたちは、伝統的なペルシャ音楽をベースにしながら、ヒップ・ホップやユーロ・ハウス、トランスなどの西洋音楽を積極的に取り入れたサウンドを創り出している。そのビジュアル・イメージも含めて、非常にインターナショナルな感性を身に付けていると言えるだろう。それもそのはず、彼ら20代〜30代のペルシャ系ポップ・スターたちは、79年のイラン革命後にヨーロッパや北米に渡ったイラン人たちの子供の世代に当たるのだ。
 第2次大戦後、アメリカからの支援を受けて近代化、欧米化政策を取ってきたイランは、その一方で欧米化を好まない厳格なイスラム教徒や近代化によって土地を奪われたかつての富裕層の不満が鬱積し、79年のホメイニ師によるイラン革命が勃発することとなった。この革命により、それまでの近代化・欧米化とは真逆とも言える、イスラムの戒律の厳守や国家による言論・思想の監視が行われるようになった。そのため、多くのイラン国民が自由を求めて北米やヨーロッパへと渡ることになったのだ。
 音楽界でも多くの女性歌手が宗教的理由から活動を制限されるようになり、“イランの娘”と呼ばれた国民的女性歌手Googooshまでもがカナダに移住をしている。そうした状況の中で、欧米文化を吸収して育った革命前後生まれの世代が、ここ数年台頭しつつあるのだ。

 まず、先述したようにヨーロッパや中近東で既にスターとしての地位を確立しつつあるのがArash。テヘランに生まれ育った彼は、10歳のときに家族と共にスウェーデンに移住。地方都市マルモで教育を受け、大学時代から音楽活動をスタートしたという。2004年にリリースしたデビュー曲“Boro Boro”がスウェーデンのヒット・チャートで1位に輝き、一躍注目されることになる。この曲はノルウェーでも1位、ドイツで11位を記録している。さらに続くシングル“Tike Tike Kardi”と“Temptation”もスウェーデン・チャートで連続で2位を記録し、ロシアや中近東のラジオ・チャートでも1位にランクされている。ペルシャ語の歌がこれだけ幅広く受け入れられるというのも画期的な事だろう。
 彼の音楽の特徴は、伝統的なペルシャ音楽に加えインドやアラブのリズム、楽器を貪欲に取り込みながら、非常にキャッチーで誰もが口ずさめるようなダンス・ポップに仕上げている点だろう。“Boro Boro”なんて言葉の意味が分からなくても思わず一緒になってサビを歌えてしまう分かりやすさが魅力で、一歩間違えると“マカレナ”のような一過性のキワモノになってしまいかねないのだが、そのギリギリ手前のところで本格的なワールド・ビートとしてきっちりとまとまっているのが非常に面白い。自らのルーツに対する愛情やリスペクトが根底に流れているのだろう。ポップでありながら、非常にインテリジェントな音楽なのである。

 一方、アメリカにもイラクを逃れたペルシャ人のコミュニティがあり、イラク革命から2年後の1981年にはそうした人々向けのテレビ局Jaam e Jam Internationalが開局している。当然のように、音楽の分野でもペルシャ人コミュニティ向けのマーケットが存在しており、そうした中で絶大な人気を得ているのがNimaである。
 Nimaはイラクのシラズに生まれ、音楽活動をするために90年代初めにヨーロッパへ渡って、最終的にアメリカに流れ着いたという人物。ここ最近はペルシャ歌謡にハウスやトランスを融合したクラブ色の強い楽曲を発表しており、9歳の頃からイラクで音楽を勉強してきたというだけあって、かなり本格的なコブシ回しを聴かせてくれる。まさに21世紀型のペルシャ歌謡といった感じだ。使用されている楽器こそ西欧的なテクノロジーの賜物だが、本質的にはペルシャ音楽の伝統をきっちりと継承した音楽性の持ち主といえるだろう。
 彼の所属するAvang Musicというレコード会社はペルシャ人マーケット専門のレーベルであり、数多くのペルシャ人アーティストが所属している。その中でも、特に個人的に注目しているのが、2004年にデビューした男性アーティスト、Idinである。
 彼は生まれも育ちもアメリカという、祖国イラクを全く知らない世代に当たる。しかし、幼い頃から伝統音楽に触れて育ち、ペルシャ音楽特有のメロディをしっかりと歌いこなしている。サウンド的にはNimaよりもさらにトライバル色の強いワールド・ビート的なアプローチが強く、ソフトで美しい歌声も含めて非常にエキゾチックで幻想的な音楽世界を作り上げているのが魅力だ。
 もう一人、個人的にとても注目しているのがAfshin。彼もアメリカ育ちのイラク人らしいが、ヒップ・ホップをベースにペルシャ音楽からラテン音楽まで、中近東〜地中海〜イベリア半島辺りの伝統を継承した骨のある素晴らしいサウンドを聴かせてくれる。しかも、ダンサンブルで非常にポップ。99年のデビュー以来、既に4枚のアルバムをリリースしているが、新作が待ち遠しい要注目のアーティストである。

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Afshin

Cameron Cartio

 そして、昨年ヨーロッパや南米で話題になったのがCameron Cartio。デビュー曲“Roma”がスウェーデン・チャートで1位になり、6週もの間トップ10圏内にランクされて一躍時の人となった。彼もArashと同じようにテヘランに生まれ、8歳の時に家族と共にスウェーデンのマルモに移り住んでいる。
 Arashよりも伝統音楽的な要素が強く、非常にトライバル感の強いヒップ・ホップ・タッチの楽曲が特徴。その一方で、南米のラテン・マーケット向けにレコーディングされたシングル“Henna”などは、ペルシャ音楽とフラメンコが絶妙に融合された作品で、非常にポップで分かりやすい。まだ20歳という若さだが、Arashと並んでこれからのペルシャン・ポップを引っ張っていく存在になるかもしれない。
 ここ数年、欧米ではトルコのタルカンやセルタブ、ギリシャのエレナ・パパリツォウやアンナ・ヴィッシなど南欧・中近東系のエキゾチックでダンサンブルなポップ・ミュージックが注目を集めている。また、祖国を逃れてヨーロッパや北米に渡ったイラン人は400万人もいるとも言われており、新世代のペルシャン・ポップ系アーティストの活躍の場はこれからどんどん増えていくだろう。
 とりあえず、堅苦しいことは抜きにして、ユニークでカッコいい音を探している人には是非ともオススメしておきたい。

 

ARASH_ALBUM.JPG BORO_BORO.JPG CROSSFADE.JPG BORDERLESS.JPG

Arash (2005)
Arash

Boro Boro (2004)
Arash

Crossfade (2006)
Arash

Borderless (2005)
Cameron Cartio

(P)2005 Warner Music(Sweden) (P)2004 Warner Music (Sweden) (P)2006 Amodei OU (Russia) (P)2005 Sony/BMG (Sweden)
1,Boro Boro
2,Yalla
3,Tike Tike Kardi
4,Baskon (Feat. Timbuktu)
5,Arash (feat.Helena)
6,Temptation (feat. Rebecca)
7,Bombay Dreams (feat. Aneela & Rebecca)
8,Behnaz
9,Man o To
10,Salamati
11,Ey Yar Begoo feat. Ebi)
12,Tike Tike Kardi (Payami Lounge)
13,Temptation (CMN Remix)
14,Boro Boro (Bollywood Cafe Mix)

produced by Arash & Robert Uhlmann.
1,Radio Edit 3:13
2,Extended 5:14
3,Go Go Remix 3:57
4,Funky Sunday 4:17
5,Bollywood Cafe 3:19
6,Smooth Summer 3:08

produced by Arash & Robert Uhlmann

#3,4 remixed by Ali Payami
#5 remixed by Arash & Robert Uhlmann
#6 remixed by Johan Bejerholm
1,Iran Iran
2,Baskon (Arash vs Krestnaya Semuya)
3,Arash (Mintman Remix)
4,Tike Tike Kardi (DJ Alligator Remix)
5,Temptation (CMN Remix)
6,Man O To (Feat Lucia)
7,Boro Boro (Funky Sunday Remix)
8,Bostochaya Skazka (Arash vs Blestyashie)
9,Arash (English Version)
10,Tike Tike Kardi (Balkan Fanatics Remix)
11,Baskon (100% Farsi Version)
12,Bego E Yar Bego (New Version)
13,Boro Boro (Saba Rock Remix)
14,Arash (Payami Vocal Club)
15,Tike Tike Kardi (Sodaclub Remix)
16,Temptation (Payami Club)
17,Boro Boro (Indian Version)
1,Ni Na Nay
2,Henna (feat. Cheb Khaled)
3,Sandy
4,Leyli
5,Roma
6,Ironiam
7,Madaram
8,Barone
9,Toyi Azizam
10,Roma (Remix)

produced by Alex Papaconstantinou.
#9 produced by Ari Lehtonen.
#10 produced by Cameron Cartio
 中近東系音楽のファンだけでなく、ボリウッド系の音が好きな人にもオススメしたいArashのファースト・アルバム。どの作品も、ヒップ・ホップの打ち込みをベースにしながら、伝統的なペルシャ音楽やインド音楽の楽器を巧みに取り入れた、ポップでキャッチーでオリエンタルなサウンドを思う存分楽しむ事が出来ます。全曲ペルシャ語で歌われていますが、そんな事が全く気にならないくらいにダンサンブルでむちゃくちゃカッコいい曲ばかり。このポップ・センスは尋常じゃあないです。一刻も早いセカンド・アルバムのリリースを望みます。  ボリウッド風のトライバルでグルーヴィーなオリエンタル・ビートに、ウルトラ・キャッチーなサビが強烈な印象を残すArashの記念すべきデビュー曲。初めて聴いたときには、あまりのカッコよさに卒倒しました。ヘヴィーな打ち込みと様々な伝統楽器を駆使した分厚いサウンドもゴージャス。特に#2のエクステンデッドは聴き応え十分です。#3はユーロ・トランス、#4はフィルター・ハウスとしてリミックスされていますが、どちらも???な感じ。さらに#5はトライバル色を強くしたダブ・ミックス、#6はアコースティック色を強くしたフラメンコ風ミックスですが、どちらも及第点ですかね・・・。
PVは ココ で見れます!
 今やロシアでも爆発的な人気を誇るArashが、ロシア向けにリリースした新曲入りリミックス・アルバム。ペルシャ民謡風の哀愁感溢れるオリエンタル・トライバル・ハウス#1が新曲。どこかロシア民謡にも通じるメランコリーがあって、ロシア人が好きそうな出来栄えです。リミックスの出来栄えは本当にまちまちですが、全体的には非常にクオリティの高い仕上がり。遊び心溢れるオリエンタル風レゲトン#5、叙情的なフラメンコ・バラードに仕上げた#9、ロマ風のクレイジーなジプシー・ディスコ#10など、結構楽しめます。その他、ロシア人アーティストと共演した作品も収録。  Arashの大成功のおかげもあって、昨年スウェーデンでデビューを果たしたCameron Cartioのファースト・アルバム。Arashよりもかなり硬派なオリエンタル・ビートが特徴ですが、それでも十分にキャッチーです。大半の曲をギリシャ系のアレックス・パパコンスタンティノウがプロデュースしていることもあり、ブズーキのようなギリシャの伝統楽器も使用していて、非常に汎地中海的アプローチの強いダンサンブルな仕上がり。Arashのような強烈なインパクトのある楽曲には乏しいものの、全般的に非常に骨のある素晴らしいサウンドが堪能できます。
PVは ココ と ココ で見れます!

SECRET_KISS.JPG SAAYEH.JPG MARYAME_PAAEEZI.JPG THE_VOICE.JPG

Secret Kiss (2001)
Nima

Saayeh (2003)
Nima

Maryame Paaeezi (2005)
Nima

The Voice (2004)
Idin

(P)2001 Avang Music (USA) (P)2003 Avang Music (USA) (P)2005 Avang Music (USA) (P)2004 Avang Music (USA)
1,Poolake Rangi
2,Naaz Pari
3,Khaab
4,Shabe Peyvand
5,Booseye Penhoon
6,Dige Bas Kon
7,Midoonam Ammma
8,Khaab (Club Mix)

produced by Schubert Avakian
1,Saayeh
2,Dooset Daaram Divooneh
3,Bahaareh
4,Aroos
5,Mosaafer
6,Sheytoonakam
7,Delam Baraat Tang Shodeh Bood
8,Aroos (Club Mix)

produced by Schubert Avakian
CD
1,Maryame Paaeezi
2,Mitarsam
3,Boro Digeh
4,Kolbeh - Haaye To Khaali
5,Eshghe Internety
6,Yek Kalameh
7,Che Khoobe
8,Club Mix

produced by Nima
DVD
1,Maryame Paaeezi
2,Behind the Scene of Maryame Paaeezi
3,Eshghe Internaty
4,Behind the Scene of Eshghe Internaty
5,Boro Diegh
6,Poolake Rangi
1,Dooset Daram
2,Seda
3,Ballare
4,Setarch
5,Toh Bekhand
6,Cheshmaut
7,Why Am I So Sad?
8,Zoragh
9,Unsure
10,Ballare (Remix)

produced by Shourangiz & Siavash Shafi-Nia
 アメリカのペルシャ系コミュニティで活躍するNimaのファースト・アルバム。全体的にまだアコースティック色が強く、セカンド以降のクラブ・サウンド的アプローチは薄いです。#3なんてビックリするくらいに美しく叙情的なフォーク・バラードで、彼の西欧音楽への傾倒ぶりがよく分かりますね。そうかと思えば、#2や#4なんかは濃厚なペルシャ歌謡で、そのギャップがユニークだったりします。まだまだ、これからという印象ですね。  冒頭から哀愁感炸裂のオリエンタル・ユーロ・ハウスで幕を開ける会心のセカンド・アルバム。楽曲のクオリティやサウンド・プロダクションなど、まだまだ発展途上にあるという印象は拭えないものの、前作から比べると驚くほどの成長ぶりです。傾向的には、アメリカよりもヨーロッパのマーケットで勝負できそうな仕上がり。西欧的テクノロジーと伝統楽器とのバランスも良く、安心して聴くことができます。特に#4と#8の土着的なトライバル感、お祭り的な賑々しさはなかなか秀逸。  プロモ・クリップを収録したDVDがオマケに付いた最新アルバム。より一層クラブ色を強めた作品で、ハウスやトランスを思う存分取り入れた仕上がり。Nima自身が初めてプロデュースも手掛けており、恐らくこれこそが本人の目指していたサウンドなのかもしれません。インディペンデント・レーベルなだけに、音の厚み的にはまだ弱さが残るものの、#4なんかはペルシャ歌謡のエッセンスを絶妙に盛り込んだ良質のユーロ・ハウス・アンセムに仕上がっています。次のアルバムが楽しみ。
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 エレクトロニックでトライバルなクラブ・サウンドと、伝統的なペルシャ歌謡を融合したIdinのファースト・アルバム。非常にソフトで美しい声を持った人で、そのスムースなコブシ回しは実に見事。パーカッションからストリングスまで駆使したゴージャスで幻想的なサウンド・プロダクションも聴き応え十分で、エニグマ辺りのファンにも十分アピールする魅力があると思います。Arashなんかとは、いい意味で対極にある素晴らしいペルシャン・ポップス。じっくりと耳を傾けたい1枚です。
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MAACH.JPG

Maach (2005)
Afshin

(P)2005 Taraneh Enterprise (USA)
1,Badjoori Ashghet Shodam
2,Man
3,Dige Azat Badam Miad
4,Asali
5,Sheytoonak
6,Fekresho Kon
7,Maach
8,Az Inja Boro
9,Bikhal
10,Ashkamo Pak Konam

produced by Afshin.

 ゴリゴリにファンキーなオリエンタル・ヒップ・ホップ#1でぶっ飛びました。凄いです。ほのかにラテン・テイストも加味され、何度聞いてもシビれまくるカッコよさ。その他の楽曲も負けず劣らず強力で、アルバム1枚まるごと惚れまくりです。もう天才としか思えないセンス。ヒップ・ホップやファンクとペルシャの伝統楽器がこれだけ相性がいいとは思いませんでした。自ら作詞・作曲・プロデュースまで手掛ける才能、しかもルックスも見ての通りのイケメンということで、プロモーション次第で大化けする逸材です。猛烈にオススメ!
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