ポール・ナッシーの世界 PART 2
THE WORLD OF PAUL NASCHY PART 2

 

 

ザ・ゾンビ 黒騎士のえじき
El espanto surge de la tumba (1973)
日本では劇場未公開
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済
※日本盤DVDと北米盤DVDは別仕様

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(P)2004 Crash Cinema Media(USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
カラー/ワイドスクリーン(レターボックス仕様)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/81分/製作:スペイン

特典映像
インターナショナル・バージョン(スタンダードサイズ/89分)
アメリカ公開バージョン(スタンダードサイズ/80分)
オリジナル劇場予告編
ポスター&スチル・ギャラリー
C・アウレド監督インタビュー(テキスト)
P・ナッチー バイオグラフィー
監督:カルロス・アウレド
製作:モデスト・ペレス・ロドンド
脚本:ハシント・モリーナ
撮影:マヌエル・メリーノ
音楽:カルメロ・A・ベルナオーラ
出演:ポール・ナッシー
   エマ・コーエン
   ヴィック・ウィナー
   ヘルガ・リーネ
   クリスチナ・スリアーニ
   ベトサベ・ルイス
   ルイス・シヘス
   フリオ・ペーニャ
   マリア・ホセ・カントゥード
   フアン・ガザリラ
   エルサ・ザバーラ

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悪魔を崇拝する黒衣の騎士アラリク(P・ナッシー)

愛人アビール(H・リーネ)は復讐を誓う

 ナッシー主演作の中でも、欧米では特に人気の高い作品がこれ。悪魔崇拝の罪で処刑された中世の騎士とその愛人が現代に甦り、自分たちを殺した相手の子孫へ復讐をするということで、基本的にはマリオ・バーヴァの『血ぬられた墓標』(60)をパクッたような映画である。
 オープニングは中世のフランス。黒衣の騎士アラリク・デ・マルナックと愛人のアビール・デ・ランクレが、悪魔崇拝の罪で処刑される。その際、二人はいつの日かこの世に甦り、自分たちを処刑した者たちの子孫に復讐することを誓うのだった。
 舞台は移って現代。独身貴族のユーゴと親友モーリスの二人は、それぞれの恋人と共に遊び半分で交霊会に参加する。そこで、自分たちの先祖に処刑されたという伝説の騎士アラリクの霊を呼び出してもらい、頭と胴を別々にして埋められたという彼の死体の在り処を聞きだす。
 はなから幽霊の存在など信じていないユーゴたちだったが、興味本位でその場所を掘り返してみたところ、アラリクとアビールの死体が甦ってしまった。次々と血祭りに挙げられる近隣の住民たち。しかも、彼らはソンビとなってユーゴたちに襲い掛かってくる。果たして、アラリクとアビールを滅ぼすことは出きるのか?
 という結構ありがちな内容の作品なのだが、なんといってもナッシー演じる黒衣の騎士アラリクのすこぶるカッコ良さが人気の秘密であろう。もともと役者としては大根だし、ホラー俳優としての魅力にもいまひとつ欠けるナッシーなのだが、ここでは濃厚なヘアメイクや黒光りする重厚な甲冑の魅力に助けられてなのか、まるで別人のようなカリスマ性を存分に発揮している。今回はユーゴ役も兼任しているのだが、とても同一人物とは思えない・・・と言っても大袈裟ではないだろう。
 さらに、そのユーゴを含めた主要キャラクターが容赦なく全員殺されてしまうという、後半の大胆なストーリー展開も意外性があって面白い。もったいぶったようなサイド・ストーリーなど一切なし。余計なトラブルを巻き起こしてくれそうなリンチ集団なんかも出てくるのだが、こいつらもあっという間にアラリクとアビールの餌食になってしまう。その潔いことといったら(笑)!
 もちろん、過激なエログロ描写だって満載だ。とにかく女優陣が無意味なくらいに脱ぎまくる。オバサン以外は全員おっぱいポロリが当たり前だ。中でもアビール役のセクシー系カルト女優ヘルガ・リーネはヘア全開のフル稼働といった感じで、若い男との全裸セックスからレズビアン・シーンまで頑張りまくっている。しかも、男の胸を引き裂いて心臓をえぐり出すという力技まで披露。制作年代を考えればスプラッター度の高さも上々だ。
 演出を手がけたのはナッシーご贔屓のレオン・クリモフスキー監督の助手だったカルロス・アウレド。これが初監督作ということで、まだまだ画面の構図や編集のカットに未熟さが感じられるものの、旺盛なサービス精神と勢いの良さは買っていいだろう。ユーロ・トラッシュ・ファンなら十分に満足できる娯楽作である。
 なお、本作は少なくとも3つのバージョンが存在する。まずはエログロ全開のインターナショナル・バージョン。これは主にヨーロッパで劇場公開されたバージョンで、ヌード・シーンやセックス・シーン、スプラッター・シーンがてんこ盛りだ。
 次がスペイン国内で上映された着衣バージョン。その名の通り、ヌード・シーンが全て着衣バージョンに差し替えられており、セックス・シーンは全てカットされている。残酷シーンなども一部削除されており、インターナショナル・バージョンよりも8分ほど短い。
 そして、最後がアメリカ公開バージョン。これは着衣バージョンからさらに残酷シーンを全て削除しており、ほとんど残骸といった感じだ。ただ、どうでもいいようなシーンだけは復活していて、トータルだと着衣バージョンよりも僅かに1分だけ短くなっている。アメリカの廉価版VHSやDVDで使用されているのはこのバージョンなので、くれぐれもご注意を。なお、上記の2枚組DVDでは全てのバージョンを見ることが出きるのだが、なぜか着衣バージョン以外は画質の悪いトリミング版を収録している。ちょっと残念。

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ユーゴ(P・ナッシー)と親友モーリス(V・ウィナー)

久々に集まった恋人たち

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友人に誘われて交霊会に参加する

アラリクの霊を呼び出す霊媒師マダム・イリーナ(E・ザバーラ)


 15世紀半ばのフランス。人の生血を吸い、その肉を食らい、黒ミサで数多くの女子供を殺した悪魔崇拝者アラリク・デ・マルナック(ポール・ナッシー)とその愛人アビール・デ・ランクレ(ヘルガ・リーネ)が捕えられ、処刑されることとなった。
 彼らを裁くのは実の兄弟アルマン(ポール・ナッシー)とその親友アンドレ・ローラン(ヴィック・ウィナー)。アラリクとアビールは、いつの日か復活してアルマンとアンドレの子孫に復讐を果たすことを誓う。そして、アラリクは斬首され、アビールは拷問の末に悶絶死。死者の復活を封印するため、アラリクの頭と胴体は秘かに別々の場所へと埋葬された。
 現代のフランスはパリ。ユーゴ・デ・マルナック(ポール・ナッシー)と親友モーリス・ローラン(ヴィック・ウィナー)は、それぞれの恋人シルヴィア(ベトサベ・ルイス)とポーラ(クリスチナ・スリアーニ)を伴なって、友人の勧める霊媒師マダム・イリーナ(エルサ・ザバーラ)のもとを訪れた。
 霊の存在など全く信じていないユーゴは、冗談半分で先祖代々伝え聞いているアラリク・デ・マルナックの霊を呼び出してもらうことにする。別々に埋められた頭と胴体の在り処を聞いてみようというのだ。
 交霊会が始まった。マダム・イリーナの体にアラリクの霊が降りてくる。そして、自分の頭と胴体の埋められた場所を特定した。頭は女子修道院の庭、胴体は修道院の地下墓地。どちらもレシャという小さな村にある。それはユーゴが先祖代々受け継いできた土地だった。
 シルヴィアはポーラは交霊会に強い感銘を受けた様子だが、ユーゴは信じる気などさらさらなかった。だが、伝説の人物の死体探しというのは、なんだか宝探しみたいで面白い。たとえ死体など見つからなくても、もしかしたらお宝の一つや二つは出てくるかもしれない。そこで、彼は久々の休暇を利用して、モーリス、シルヴィア、ポーラと共にレシャの別荘へと向うことにした。だが、ただ一人モーリスだけは気が進まない。近頃奇妙な幻覚を見るからだ。
 車に乗って山道を走るユーゴたち。すると、道路の真ん中に人が倒れている。車を止めて様子を見に行ったところ、それは2人組の強盗が仕掛けた罠だった。激しい格闘の末に強盗たちを追い払ったユーゴとモーリス。だが、肝心の車が大破してしまった。
 そこへ、強盗を取り押えた男たちがやって来る。2人組の強盗は近隣に住む一家を皆殺しにしたのだという。見せしめのために彼らをリンチして殺害する男たち。車が壊れて困っているユーゴたちを見たリーダーは、オンボロの中古車を高値で売りつけてきた。他に選択肢はないし、なによりもこのリンチ集団から一刻も早く離れたいと思ったユーゴは、言われるがままの金額を支払った。その懐にしまった残りの札束を見て、リーダーの目が妖しく光る。
 ようやく別荘へと到着した一行。ユーゴは女子修道院の庭を掘り起こすための人手を集めるよう管理人ガストン(フアン・カザリラ)に頼む。だが、それを聞いたガストンは震え上がった。現在は廃墟となっている女子修道院。そこに宝物が眠っているという噂が広まって幾人もの男たちが宝探しに向ったが、帰ってきた者は一人もいないのだという。だが、ユーゴは笑って相手にしなかった。
 翌日、ユーゴたちは村の男らを連れて女子修道院の庭を掘り始めた。すると、モーリスがある場所に強く引きつけられる。そこを掘り起こしてみたところ、地中から古い木製の道具箱が出てきた。すぐに開けようとしたものの、鍵がかかっていて開かない。一行は仕方なく道具箱を別荘へ持ち帰ることにした。
 その晩、別荘へ忍び込む2つの人影が。昼間の作業を手伝った村人だ。こっそりと箱を開けて、中のお宝を手に入れようというのである。しかし、その現場をガストンに発見されてしまう。すると、自然に箱のフタが開き、村人の一人アラン(ルイス・シヘス)が何かに取り憑かれてしまう。ガストンと仲間の村人を鎌で惨殺したアランは、箱を修道院の地下墓地へと運ぶのだった。

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女子修道院の庭から古い木製の箱が発見される

管理人の娘シャンテル(M・J・カントゥード)が惨殺された

 ガストンの無残な死体を発見したのは、彼の娘エルヴィラ(エマ・コーエン)とシャンテル(マリア・ホセ・カントゥード)の二人だった。助けを求める彼女たちの声で目を覚ましたユーゴとモーリスは、箱が持ち去られていることに気付いた。
 その翌朝、村の周辺は深い霧に包まれ、ユーゴたちは身動きが取れなくなってしまう。しかも、電話や電気まで通じなくなってしまっていた。女子修道院の庭を掘り起こしたことから悪魔が解き放たれてしまったと、村人たちは怒っているらしい。
 何者かに操られているアランが別荘へ侵入する。彼はまず食事の用意をしているシャンテルを殺して、その心臓をえぐり取った。さらに、物音に気付いて階段を下りてきたポーラを誘拐していく。
 シャンテルの惨殺死体を発見したのはエルヴィラだった。度重なるショックで寝込んでしまった彼女を、ユーゴは優しくいたわる。幼い頃からお互いを知る二人は。いつしか愛し合うようになっていた。その頃、ポーラの姿が見えないことに気付いたモーリスは、彼女の行方を捜して外へ出た。すると、遠くからポーラの呼び声がする。霧の湖畔にたたずむ彼女は、妖しげな眼差しをしながらモーリスを抱擁した。
 シルヴィアがキッチンで料理をしていると、そこへモーリスが戻ってくる。だが、その様子がおかしいことにシルヴィアはすぐ気付いた。何者かに操られているのだ。モーリスはシルヴィアを殴り倒し、気絶した彼女を抱きかかえて連れ去って行った。
 ポーラとモーリスはシルヴィアを修道院の地下墓地へと運んで来る。二人を操っていたのは、なんと道具箱の中に収められていたアラリクの生首だった。モーリスとアランはアラリクの胴体を発掘し、そこへ頭をつなげて彼を復活させる。
 さらに、アラリクは気絶したシルヴィアをアビールの白骨体の上に横たえ、彼女の腹部を切り裂いて黒いシーツを被せる。すると、アビールが復活した。いよいよ復讐の時がやって来たのである。二人はモーリスにアランを殺すよう命じ、その心臓を食するのだった。
 一方、モーリスたちがいなくなったことに気付いたユーゴとエルヴィラ。彼らは、何か理屈では説明できないような恐ろしいことが起きていると感じていた。エルヴィラは父親が大切にしていたお守りのことを思い出す。それは、デ・マルナック家に古くから伝わるものだった。井戸の中からそのお守りを発見したユーゴは、万が一の時のためにと、それをエルヴィラの首にかけさせる。
 村では若い男女が次々と殺されていた。アラリクとアビールが若者たちを催眠状態に陥らせ、その肉体を弄んだ挙句に命を奪っていたのだ。エルヴィラの枕元にもアラリクが現れた。しかし、彼女の胸元に輝くお守りを見た途端、アラリクは苦悶の表情を浮かべて消え去った。
 その晩、別荘の外からガストンの声が聞こえる。父親が生きていたと勘違いしたエルヴィラが扉を開けると、ゾンビと化した死者たちがなだれ込んでくる。必死になって逃げ惑うユーゴとエルヴィラ。ゾンビが火に弱いと気付いたユーゴは、松明で彼らを外へ追い出した。
 翌朝、別荘にモーリスが戻ってきた。ポーラを探しているうちに、霧で道に迷ってしまったのだという。ユーゴとモーリスは湖に隠れているゾンビたちを昼間のうちに引き上げ、火で燃やしてしまうことにする。ところが湖畔に着いた途端、モーリスはユーゴをライフル銃で射殺してしまった。
 次にエルヴィラを殺害すべく襲いかかるモーリス。だが、お守りに手を触れた彼はショック状態に陥り、やがて我に返った。自分たちの置かれた状況を把握したモーリスとエルヴィラは、アラリクとアビールを倒す方法を模索するのだったが・・・。

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物音に気付いたポーラ(C・スリアーニ)が誘拐される

地下墓地へとシルヴィアを運んでくるポーラとモーリス

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二人を操っていたのはアラリクの生首だった

復活を遂げたアラリクとアビール

 ナッシーはこの作品の脚本をたった一日で書き終えた、とファンの間ではまことしやかに噂されているが、実際には2日間で書き上げたのだという。どちらにしてもえらい早業である。依頼人は本作の製作総指揮を務めたホセ・アントニオ・ペレス・ギネール。当時映画会社プロフィルムスを設立したばかりだったギネールは、確実に儲かるような映画を即行で製作する必要に迫られていた。そこで、友人でもあり当時人気絶頂だったナッシーに協力を願い出たというわけだ。
 アラリク・デ・マルナックのモデルになったのは、かの悪名高きフランス貴族ジル・ド・レー。ナッシーは盟友レオン・クリモフスキーに監督を任せるつもりだったが、たまたま他の作品に取り掛かっていて手が空かなかったため、その助監督だったカルロス・アウレドを起用することにしたのである。
 ちなみに、舞台はフランスに設定されているものの、撮影が行われたのはマドリード近郊だ。アラリクとアビールが身を隠している修道院は、マドリード北西の町ラスカフリアの観光名所として知られるエル・パウラール修道院。また、オープニングでアラリクとアビールが処刑されるシーンはロソヤで撮影されており、アビールが逆さ吊りにされる大木も観光スポットとして有名だったが、残念ながら現在は焼失してしまったという。
 撮影監督を担当したマヌエル・メリーノは、ジェス・フランコ監督の『悪徳の快楽』(69)や『ヴァンピロス・レスボス』(70)、『吸血のデアボリカ』(70)などを手掛けたカメラマン。強めのライティングやクロース・アップを多用した構図がそれらしい雰囲気だ。
 また、特殊メイクにはナッシーやホセ・ルイス・メリーノなど多くの関係者が“スペインで最高のメイクアップ・アーティスト”と賞賛したフリアン・ルイスが参加。ホラー映画のみならず、カルロス・サウラやルイス・ブニュエルなど巨匠の名作にも携わった人物だ。中でも、切断されたアラリクの生首は非常にリアルな出来栄えで、ナッシーは『悪魔の死体蘇生人』(73)でも流用している。

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ユーゴは管理人の娘エルヴィラ(E・コーエン)に惹かれる

別荘へとなだれ込んできたゾンビたち

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何食わぬ顔をして戻ってきたモーリスだったが・・・

ユーゴがモーリスに射殺されてしまう・・・

 アラリクとその兄弟アルマン、そして子孫のユーゴと一人三役を演じているナッシー。冒頭で述べたように、中でも黒衣の騎士アラリクは狼男ワルデマール・ダニンスキー以上の当たり役ではないかと思われる。なにしろ、あのナッシーがすこぶるカッコ良いのだから(笑)。片目を失ったその兄弟アルマンも、一瞬だけしか出てこないものの結構印象的。アラリクに負けず劣らずの悪人顔だ。やはり、ナッシーはロマンティックなヒーローよりも悪役の方が向いているのかもしれない。
 ユーゴの親友モーリスとその祖先アンドレを演じるヴィック・ウィナーは、本名をヴィクトル・アルカザールというスペイン人俳優。ナッシーとは個人的にも親しかったらしく、『ゾンビの怒り』(73)などでも共演している。
 一方、ヒロインであるエルヴィラ役を演じるエマ・コーエンは、当時のスペイン映画界で脚光を浴びていた人気女優。『ミツバチのささやき』(73)や『ベルエポック』(92)で知られる25歳年上の名優フェルナンド・フェルナン・ゴメスの奥さんだったことでも知られる。
 そして、血に飢えた妖艶な悪女アビール役で場をさらうのは、スペインの誇る稀代のカルト女優ヘルガ・リーネ。アラリク役のナッシーと並んだ姿は、まさしく最強の極悪コンビといった感じ。ヘアヌードも辞さない大胆演技で強烈な存在感を放つ。
 また、ポーラ役を演じているクリスチナ・スリアーニも、どことなくエヴァ・オーリンを彷彿とさせるようなお人形さん系美女といった感じで印象的。さらに、ナッシー映画の脇役として欠かせない馬面の老女優エルサ・ザバーラが、霊媒師マダム・イリーナ役で顔を出しているのにも注目したい。

 

 

El retorno de Walpurgis (1973)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

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(P)2002 Anchor Bay (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/84分/製作:スペイン・メキシコ

特典映像
ポール・ナッシー インタビュー
オリジナル劇場予告編
ポスター・ギャラリー
ポール・ナッシー バイオ
監督:カルロス・アウレド
製作:ルイス・ゴメス
   ラミロ・メレンデス
脚本:ハシント・モリーナ
撮影:フランシスコ・サンチェス
音楽:アントン・ガルシア・アブリル
出演:ポール・ナッシー
   フェイ・ファルコン
   ヴィダル・モリーナ
   マリッツァ・オリヴァレス
   マリア・シルヴァ
   エルサ・ザバーラ
   エドゥアルド・カルボ
   アナ・ファーラ
   イネス・モラレス

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魔女たちによる黒ミサが行われようとしていた

そこへイリネウス(P・ナッシー)率いる軍隊が乱入する

 『吸血鬼ドラキュラ対狼男』(67)に始まる狼男ワルデマール・ダニンスキー・シリーズの4作目にして、『ワルプルギスの夜/ウルフVSヴァンパイア』(70)の間接的な続編に当たる作品。“ワルプルギスの夜”が重要なキーワードとなる以外にストーリー的な関連性は全くないものの、呪いによって狼男となってしまった孤独な貴族ダニンスキーが最愛の恋人の手にによって魂を救われるという基本的なプロットはほぼ同じ。血塗られた運命に翻弄される男の悲劇を描いたゴシック・ホラーだ。
 舞台は19世紀末ごろの東ヨーロッパ。狩りをしていた領主ダニンスキーは、誤ってジプシーを射殺してしまう。それは数世紀前に預言された悪夢の始まりだった。魔女エリザベス・バートリーが祖先イリネウスにかけた呪い。それは、子孫であるダニンスキーを狼男へと変えてしまったのである。
 己の知らぬ間に夜な夜な狼男へと変身し、村人たちを虐殺していくダニンスキー。その毒牙は恋人キンガの周辺へと及んでいく。やがて真実を悟るに至った恋人たち。この呪いを解くための手段は一つ。最愛の女性キンガが、銀の短刀でダニンスキーの心臓を一突きにする以外に道はなかった・・・。
 ナッシー主演作の中でも、これは特にゴシック・ロマンの要素が濃厚な作品だ。メロドラマ仕立てのストーリーは哀切に満ちており、登場人物の心理描写も驚くほど丁寧。ダニンスキーを息子のように想う乳母マリツァの哀れな心情や、迷信深い村人と対峙しなくてはならない勇敢な警察官ロウルカの葛藤などもしっかりと描かれている。加えて、屋外セットやインテリア、衣装、小道具などにも細心の注意が払われており、低予算映画らしからぬ格調高いムードを醸し出した佳作と言えよう。
 その代わり、血生臭い残酷描写は全体的に抑え気味。大胆なヘアヌード・シーンは幾つか用意されているものの、それほど過激な印象の内容ではない。狼男の登場シーンなども必要最小限といった感じ。その分、象徴派絵画を思わせるような幻想的かつ宗教的なビジュアル・イメージをふんだんに盛り込み、文学的な香りすら漂う壮麗なゴシック・ホラー映画として楽しませてくれる。
 監督は『ザ・ゾンビ 黒騎士のえじき』に続き、これがナッシーとのコンビ2作目となるカルロス・アウレド。前作ではエログロ全開のパワフルなホラー・エンターテインメントを目指したアウレドだが、うって変わって本作ではシリアスかつストレートな古典的怪奇ロマンの世界に挑戦している。同じ年に撮られた作品とは思えないくらい、演出が格段に上達しているのは驚きだ。既にベテランの風格すら漂わせている。これはなかなかの名作だと思う。

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次々と絞首刑にされる魔女たち

魔女エリザベス(M・シルヴァ)が呪いの言葉を放った

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狩りで狼を仕留めたワルデマール・ダニンスキー(P・ナッシー)

だがそれはジプシーの男性だった

 時は中世の暗黒時代。トランシルヴァニア地方の領主イリネウス・ダニンスキー(ポール・ナッシー)は、悪魔崇拝者のリーダーである貴族バートリー卿を決闘で打ち負かした。その妻である魔女エリザベス(マリア・シルヴァ)は黒魔術で復讐をしようとするが、あえなく捕えられてしまう。
 手下の魔女たちは次々と絞首刑にされ、首謀者であるエリザベスも火あぶりの刑に処せられた。だがその死の直前、エリザベスはイリネウスに呪いの言葉を投げる。いつの日かダニンスキー家の子孫が、誤ってバートリー家の子孫を殺してしまうだろう。それが恐るべき呪いの封印を破ることとなり、バートリー家の人々は末代まで地獄の苦しみを味わうことになる・・・というのだ。
 それから数世紀が経った。領土内の森で狩りを楽しんでいたワルデマール・ダニンスキー(ポール・ナッシー)は、草むらへ逃げ込んだ一匹の狼へライフルを発砲する。ところが、近寄ってみるとそれは全裸の男性だった。
 誤って人を殺してしまったことに強い自責の念を感じるダニンスキー。死んだ男はジプシーだった。遺体を引き取りに来た仲間の一団に見舞金を渡そうとするが、彼らはそれを床に投げ捨てて山へと帰っていった。
 自分たちの住処へと戻ったジプシーたち。復讐に燃えるリーダー格の老婆(エルサ・ザバーラ)は、黒魔術によって悪魔を呼び出す。一族の若い娘たちと次々に交わる悪魔。やがて、悪魔はイロナ(イネス・モラレス)という若い娘を選ぶ。彼女がダニンスキーへの復讐を果たすのだ。
 ある晩、ビストリッツへ向うために馬車でボルゴ峠へとさしかかったダニンスキーは、道端で倒れている若い娘を発見する。イロナだった。この近辺には脱走した殺人鬼ヤノスが潜伏しているという。恐らくヤノスに襲われたのだろう。これが罠とは知らないダニンスキーは、すぐさま彼女を城へ連れ帰って看病する。それまで女性との交際を避けていたダニンスキーだったが、たちまちイロナの虜になる。乳母マリツァ(アナ・ファーラ)は彼女が魔女ではないかと疑った。
 次日は“ワルプルギスの夜”だった。夜空に怪しく光る満月を見上げたマリツァは不安を抑えられない。その頃、イロナは隠し持っていた狼の頭蓋骨を手に、ダニンスキーの枕元に立っていた。己の手首を切って狼の頭蓋骨へ血を注ぎ、その牙でダニンスキーの左胸をえぐるイロナ。
 眠っていたダニンスキーは激痛で目を覚まし、床をのた打ち回った。叫び声に気付いたマリツァと下男が飛び起きる。イロナは急いで城を抜け出して森の中へと逃げるが、茂みの中に潜んでいた殺人鬼ヤノスに惨殺されてしまった。
 命に関わるほどの怪我ではなかったものの、愛するイロナに裏切られたことで心に深い傷を負ったダニンスキー。ある日、森を散歩していた彼はキンガ(フェイ・ファルコン)という美しい女性と出会う。彼女は最近ブダペストから引っ越してきた科学者ラズロ(エドゥアルド・カルボ)の長女だった。キンガとその家族の優しさに触れたダニンスキーは次第に元気を取り戻し、やがて彼女と深く愛し合うようになる。
 ところが、その頃から村の周辺で血生臭い殺人事件が起きるようになった。ダニンスキーの友人でもある警察官ロウルカ(ヴィダル・モリーナ)は殺人鬼ヤノスの犯行と考え、懸命になってその行方を追う。しかし、この山奥の僻地に勤務する警官は彼一人だけ。村人に協力してもらっても人員が足りず、捜索は難航していた。

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仲間の遺体を引き取って帰っていくジプシーたち

若い娘イロナ(I・モラレス)が復讐を果たすことになる

 ある日、ダニンスキーはキンガから手紙を受け取る。すぐにでも会いたいから、水車小屋近くの別荘まで来てくれないかというのだ。ダニンスキーが別荘へ到着すると、殺人鬼ヤノスが若い女性を襲っていた。激しい格闘の末、深い傷を負ったヤノスは逃亡する。
 ダニンスキーを呼び出したのはキンガではなく妹のマリア(マリッツァ・オリヴァレス)だった。周囲から子ども扱いばかりされているマリアだが、彼女もまたダニンスキーへ秘かな想いを寄せていたのだ。その強い求愛に心を動かされたダニンスキーは、マリアと激しく愛し合う。
 ところが、その最中に突然ダニンスキーが苦しみ始めた。そして、みるみるうちに狼男へと変身してしまう。獰猛な獣と化した彼は、恐怖に凍りつくマリアを惨殺し、夜の闇へと消えて行った。その一部始終を物陰から見ていた乳母マリツァは、ショックで震えながらもマリアの死体を森に遺棄する。
 マリアの死を知らされたキンガと両親は深い悲しみに打ちひしがれた。他にも、猟奇的な殺人事件が次々と起きている。この地方出身である盲目の母(ピラール・ヴェラ)は、それが狼男の仕業ではないかと直感した。迷信深い村人たちも同じことを考え、悪魔祓いの儀式を始める。秩序の乱れを危惧したロウルカが平常心を保つよう説得するものの、村人たちの不安と怒りは限界に達しようとしていた。
 一方、キンガはダニンスキーの子供を身ごもった。いまだ自分が狼男であることを知らない彼は、キンガの身の安全を心配する。しかし、その晩再び狼男となったダニンスキーはキンガの父ラズロを殺してしまった。泣き崩れるキンガを見て姿を消す狼男。
 翌朝、人間に戻ったダニンスキーはついに己の凶行を悟った。彼を息子同然に愛してきた乳母マリツァは、これまでひた隠しにしてきた呪いの伝説を語り始める。そして、この呪いを解く唯一の方法についても。それは銀の短刀で胸を一突きにすること。つまり、死ななくては呪いが解けないのだ。しかも、愛する人の手によって殺されなければ、再び狼男として甦ってしまう。
 マリツァから全てを知らされたキンガは、父や妹を殺したダニンスキーのことを許した。彼の責任ではない。どうしようもないことなのだ。二人はじっくりと話し合い、そして決心する。今夜は最後の満月。呪いを解くのは今夜しかない。たとえ永遠の別れになろうとも、ダニンスキーの魂はこれで救われるのだ。
 その頃、殺人鬼ヤノスの腐乱死体が発見された。ついに村人たちは一連の猟奇殺人が狼男によるものと気付き、その正体がダニンスキーであるとの結論に達する。ロウルカの制止を振りきって暴徒と化した村人たちが城へと迫った。再び狼男へと変身したダニンスキー。その後を、マリツァから渡された銀の短刀を握りしめたキンガが追う・・・。

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隠し持っていた狼の頭蓋骨を取り出すイロナ

狼の頭蓋骨で左胸を傷つけられたダニンスキー

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美しい女性キンガ(F・ファルコン)と知り合う

狼男に姿を変えたダニンスキー

 本名のハシント・モリーナ名義で脚本を書いたナッシー。『吸血鬼ドラキュラ対狼男』では狼男伝説にヴァンパイア伝説を絡めたわけだが、今回は女ドラキュラとして名高い血塗られた貴婦人バートリ・エリジェベト(英語ではエリザベス・バートリー)の伝説を盛り込んでいるのが興味深い。
 もちろん、実在のバートリ・エリジェベトは魔女でも悪魔崇拝者でもなかったものの、舞台となるトランシルヴァニア地方にまつわる伝承を絡めることによって、歴史ロマン的な効果と味付けを施しているのはセンスの良いアイディアだ。
 ストーリーの流れも巧みに計算されているし、確かに題材は超自然的で非科学的ではあるものの、脚本の構成は極めてロジカルだと言えよう。セリフも多少大仰に感じる部分があるとはいえ文学的な品格がある。間違いなく、ナッシーの書いた脚本の中ではベストの出来栄えだ。
 撮影を手掛けたフランシスコ・サンチェスは『女王陛下の大作戦』(67)や『無頼漢戦隊』(68)などの娯楽映画で知られるカメラマン。ナッシー&レオン・クリモフスキーのコンビによる『ゾンビの怒り』(73)やアマンド・デ・オッソリオの『呪われた死霊海岸』(75)といったホラー映画も少なからず手掛けているが、その中でも本作は最良の仕事と言って間違いないだろう。「ドン・キホーテ」の舞台としても有名なカスティーリャ・ラ・マンチャ州の地形や風土を存分に生かし、めくるめく幻想的なゴシック・ロマンの世界を再現することに成功している。
 そのほか、音楽には『エルゾンビ』(71)をはじめとする一連のアマンド・デ・オッソリオ作品で有名なアントン・ガルシア・アブリル、特殊メイクには『ゾンビ特急地獄行』(72)や『ザ・チャイルド』(76)を手掛けたフェルナンド・フロリドが参加している。
 ちなみに、本作はアメリカ公開される際に当時のオカルト映画ブームに便乗し、“Curse of the Devil(悪魔の呪い)”という英語タイトルが付けられた。宣伝用のポスターにも、巨大な十字架を手にしたブロンド美女が裸で横たわるという本編とは全く関係のない写真が使用されている。

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キンガの母(ピラール・ヴェラ)は狼男の仕業を疑う

迷信深い村人たちを説得する警察官ロウルカ(V・モリーナ)

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乳母マリツァ(A・ファーラ)がダニンスキーに真実を告げる

銀の短刀を手にダニンスキーを追うキンガ

 役柄の当たり外れが激しいナッシーではあるが、今回はトレードマークのワルデマール・ダニンスキー役。ナルシスティックな孤高のヒーローぶりも含めて、違和感なく物語の世界に溶け込んでいる。ちなみに、“今では世界中の誰もがダニンスキーを知っている”と生前のインタビューで豪語していたナッシー。個人的な思い入れの強いであろう役柄とはいえ、愛情が妄想の域にまで達してしまうというのも彼らしいといえば彼らしい・・・のだろうか(笑)?
 その相手役キンガを演じている女優フェイ・ファルコンは、本名をファビオラ・ファルソンというメキシコ人。確かに美人ではあるのだが全く表情に変化を見せない究極の大根女優で、そういった意味では異彩を放っていると言えるかもしれない。案の定、女優としては長続きせず、その後はプロデューサーへ転向したようだ。
 また、警察官ロウルカ役のヴィダル・モリーナは60年代からスペインで活躍していたアルゼンチン出身の俳優で、『五匹の用心棒』(66)や『ガンマン牧師』(71)など数多くのマカロニ・ウェスタンに出演していた人。中盤以降の物語を引っ張っていく存在で、なかなかクールで渋い魅力を発揮している。
 さらに、冒頭にエリザベス・バートリー役で登場するマリア・シルヴァも印象的な顔をしている。彼女は60年代にB級スパイ映画やマカロニ・ウェスタンの色添えとして活躍した女優さんだ。そのほか、ナッシーの“El gran amor del conde Dracula”(72)にも出ていたアクの強い俳優ホセ・マヌエル・マルティン、ナッシー作品の脇役として欠かせない老女優エルサ・ザバーラが共演している。

 

 

ゾンビの怒り
La rebelion de las muertas (1973)
日本では劇場未公開
VHSは日本未発売・DVDは日本発売済
※日本盤DVDと北米盤DVDは別仕様

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(P)2007 BCI Eclipse (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/5.1chサラウンド・モノラル/音声:スペイン語・英語/字幕:英語/地域コード:ALL
/90分/製作:スペイン

特典映像
ポール・ナッシーによるビデオ解説
アメリカ版オリジナル劇場予告編
スペイン版クレジット・シーン
スペイン国内向け着衣シーン集
ポスター&スチル・ギャラリー
監督:レオン・クリモフスキー
脚本・ハシント・モリーナ
撮影:フランシスコ・サンチェス
音楽:フアン・カルロス・カルデロン
出演:ポール・ナッシー
   ロミー
   ミルタ・ミラー
   ヴィック・ウィナー
   マリア・コスティ
   アウローラ・デ・アルバ
   ルイス・シヘス
   ピエール・ベサーリ
   アントニオ・ピカ
   エルサ・ザバーラ
   モンセラート・フリオ

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ヒンドゥー教のグール、クリシュナ(P・ナッシー)

エルヴァイラ(ロミー)はクリシュナに心酔している

死んだはずの従姉妹グロリアに襲われるエルヴァイラ

 70年代スパニッシュ・ホラーの立役者であるレオン・クリモフスキー監督とナッシーによる3本目のコンビ作。インド人のグールに魅せられた美しいイギリス女性が、ヴードゥー教の呪いとゾンビの恐怖に巻き込まれていくというお話。インドとヴードゥーって全く関係ないじゃん!?などと突っ込むなかれ。ナッシー自身が“この脚本を書いたときの私はハシシュでも吸ってラリってたのかもしれない”と証言しているくらい、いろんな意味でシュールな珍作だ。
 主人公は裕福なイギリス人女性エルヴァイラ。彼女はクリシュナというヒンドゥー教のグールに心酔していて、彼のヒーリング・セミナーに足繁く通っている。ある晩、彼女は死んだ従姉妹のゾンビに襲われ、最愛の父を殺されてしまった。失意のどん底に落とされたエルヴァイラはクリシュナの愛に安らぎを求めるが、そんな彼女の周辺で次々と血生臭い殺人が起きる。その背景には、かつて英国領時代のインドに暮らしていた彼女の一族にまつわる忌まわしい過去が深く関わっていた・・・。
 ということで、なんといっても最大の見物(?)は、メーキャップを駆使してインド人のグール、クリシュナとその醜い弟カンタカ、そしてヒロインの夢に出てくる悪魔の三役を演じ分けたポール・ナッシーの大熱演(?)であろう。悪魔役はなかなかサマになっているものの、どう見たってインド人というには無理がある。しかし、どうやらナッシーにとって、傍目から見て似合うか似合わないかというのはあまり関係がないらしい(笑)。
 重量挙げで鍛えたマッチョな肉体を全編にさらし、思い入れ・・・というより思い込みたっぷりに大仰な演技を繰り広げる姿はまさにナルシズムの極み。なにしろ、自ら“ロン・チェイニーやベラ・ルゴシ、ボリス・カーロフ、クリストファー・リーらと並び称されるのはスペイン人として大変な光栄だ”などと、妄想としか思えないような自画自賛を出来てしまうアイ・ラブ・ミーな人物だ。いやあ、こういう思い込み先行型のなりきり演技を今日から“ナッシーする”と呼びたいもんである。
 さらに、ヒンドゥー教とヴードゥー教をごっちゃ混ぜにしたデタラメな脚本、時間軸や距離を大幅に無視した大雑把なディテール、ダークでゴシックなホラー・シーンにファンキーでポップなイージー・リスニングをガンガン流すという妙な音楽センスなど、全編に渡って感覚が思いきりズレまくっている。全裸の上にシースルーのケープを羽織っただけという無駄にセクシーな女ゾンビ軍団なんか、ほとんど『死霊の盆踊り』状態。アメリカ盤DVDのイントロ解説ではナッシー自身が“私の出演作の中で最も身の毛のよだつ怖い映画”と真剣な顔をして紹介しているが、多分別の映画と勘違いをしているのだろう。いや、そうであって欲しい(笑)。
 しかしながら当時既に60代後半だったクリモフスキー監督、実のところホラー映画はあまり好みではなかったらしい。しかも、残酷描写や性描写は大の苦手で、そうしたシーンの撮影は助監督に丸投げだったそうだ。そんな監督の後ろ向きな姿勢と低予算映画ならではの時間&予算の制約が奇跡的な融合を遂げ、ある意味で非常に独創的な怪作が出来上がってしまった・・・と言えなくはないのかもしれない。
 一方で、クリモフスキー作品にしては過激度の強めなスプラッター・シーンや、顔面の焼けただれたカンタカの特殊メイクなどはなかなか秀逸な仕上がり。お世辞にも良く出来た映画とは呼べないものの、最後まで退屈することなく楽しめる娯楽作品であることは確かだろう。

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クリシュナのもとへ身を寄せることにしたエルヴァイラ

夢の中に出てくる悪魔(P・ナッシー)

エルヴァイラはクリシュナの言葉に心癒される

 名門アーヴィング家の女性グロリアが殺害された。強欲な墓守夫婦は、グロリアの遺体から宝飾品を盗み出そうとする。ところが、覆面をした謎の人物が墓地でヴードゥーのまじないをしたところ、棺から甦ったグロリアの遺体が墓守夫婦を血祭りにあげた。
 場所は移って大都会ロンドン。グロリアの従姉妹エルヴァイラ(ロミー)とその恋人ローレンス(ヴィック・ウィナー)は、親しかったグロリアの死に少なからずショックを受けていた。そんなエルヴァイラは、近頃ヒンドゥー教のセミナーにたびたび通っている。インド人のグール、クリシュナ(ポール・ナッシー)の施すヒーリング効果にすっかりハマってしまっているのだ。だが、精神医学の教授であるローレンスは、非科学的なスピリチュアリズムの世界に懐疑的だ。
 ある晩、寝室で眠っていたエルヴァイラが何者かに襲われる。それは、死んだはずのグロリアだった。辛うじて逃げおおせたエルヴァイラだったが、最愛の父親が自室で無残にも殺されてしまった。悲嘆に暮れるエルヴァイラは、ラグウェルという田舎町で修行に励むクリシュナの元へしばらく身を寄せることにする。
 深夜にラグウェルの駅へ到着したエルヴァイラ。だが、迎えに来ると約束したクリシュナの姿が見えない。外で待つのは寒いだろうからと、駅長のマクマード(ルイス・シヘス)が駅長室へ招き入れてくれた。マクマードの話によると、クリシュナが購入した家は地元で“悪魔の家”と呼ばれる呪われた屋敷なのだという。もともとの持ち主であるワトリーズ家の人々は悪魔崇拝者で、屋敷の中で黒ミサを行っては罪なき女子供を生贄にしていたらしい。
 そこへ、クリシュナの使用人だという不気味な黒人ティ・ザカリー(ピエール・ベサーリ)が迎えにやって来た。クリシュナは体調を崩してしまったのだという。不安な面持ちで車に乗り込んだエルヴァイラだったが、屋敷で待つクリシュナの顔を見たとたんに安堵の表情を浮かべた。
 その晩、エルヴァイラは恐ろしい悪夢にうなされた。それは屋敷の中で悪魔(ポール・ナッシー)が彼女を捕え、黒ミサの生贄にするというもの。翌朝クリシュナと散歩に出かけたエルヴァイラは駅長から聞いた話を打ち明けるが、クリシュナは笑って否定した。この屋敷が呪われているなんてあり得ない話しだと。クリシュナの優しい言葉に心癒され、特別な感情を抱くようになるエルヴァイラ。そんな二人の様子を、クリシュナの助手カーラ(ミルタ・ミラー)が複雑な表情で見つめていた。
 とある精肉会社の事務所。社長のアブサロン(アルフォンソ・デ・ラ・ヴェガ)が深夜まで仕事をしていると、愛人のオリヴィア(アウローラ・デ・アルバ)が突然オフィスへやって来る。ソファに横たわって激しく愛を交わす二人。そこへ覆面をした謎の人物が忍び寄り、ナイフで二人を刺し殺した。無数の豚肉と並んで逆さ吊りにされたアブサロンの喉元を掻っ切って、溢れ出る血をグラスに注ぎ込む覆面の人物。さらに、オリヴィアの死体の傍でヴードゥーの呪術を行おうとするが、異変に気付いて駆けつけた警備員に邪魔をされてしまい、やむなく夜の闇へと逃げ去っていく。

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エルヴァイラに嫉妬心を燃やすカーラ(M・ミラー)

オリヴィア(A・デ・アルバ)という女性が殺害される

貯蔵庫で豚と一緒に吊るされる犠牲者

 その翌日、死体安置所の警備員がサンドイッチを食べていると、背後に横たわる死体の一つがむっくりと起き上がった。それはグロリアのゾンビだ。警備員は殺害され、覆面の男は再び呪術を行ってオリヴィアをゾンビとして甦らせる。
 この不可解な連続殺人事件に頭を抱えたスコットランドヤードの刑事ホーキンス(アントニオ・ピカ)は、オカルト関係の著書を出版しているローレンスにアドバイスを求める。ホーキンスはエルヴァイラの父親が殺害された事件を担当した人物だ。死んだはずのグロリアに襲われたというエルヴァイラの証言は、パニック状態で見た彼女の錯覚だろうと思っていた彼だったが、もしかしたら狂信的なオカルト信者が事件に関わっているかもしれないと考えるようになっていた。
 ローレンスによるとゾンビとはヴードゥーの呪術によって操られた死体のことで、呪いをかけた人間の命令に従って行動するのだという。最大の弱点は火で、呪術を行った人物が死ぬと同時にゾンビの呪いも解ける。そして、ヴードゥーの黒ミサは呪われた場所で行われるのが通例らしい。
 一方、ホーキンス刑事は犠牲者たちの意外な共通点を突き止めていた。彼らの一族はかつて英国統治下のインドでワーナラーシーに住んでいたことがあるのだ。しかし、現地人との間になにかしらの不幸な出来事があり、追われるようにして祖国へ戻ってきたのだという。その話を聞いたローレンスには思い当たる節があった。というのも、ワーナラーシーはクリシュナの出身地だったからだ。
 その頃、ラグウェルにいるエルヴァイラにも危険が迫っていた。町の周辺では例の覆面の男が暗躍。エルヴァイラに何かを伝えようとした駅長マクマードが、ヴードゥーの呪術で殺されてしまう。さらに、やはり彼女に秘密を打ち明けようとしたメイドのスーザン(エルサ・ザバーラ)が首を切断されてしまった。
 スーザンの死体を発見したエルヴァイラに、使用人のティ・ザカリーが襲いかかる。彼はスパイだったのだ。そればかりか、実はカーラも裏切り者だった。クリシュナのことを愛していたカーラは、恋敵であるエルヴァイラを亡き者にしたいがため、秘かに寝返っていたのである。
 覆面の男の正体は、クリシュナの実の弟カンタカ(ポール・ナッシー)であった。20年前にアーヴィング家の娘を誤って殺してしまった彼は、その報復としてエルヴァイラの父親とその友人たちによって火だるまにされてしまったのだ。それが原因で現地人の反感を買ったアーヴィング家の人々らは祖国へ帰り、クリシュナを含む周囲の家族もカンタカが死んだものと思っていた。しかし、彼は秘かに生き延びており、ヴードゥーの呪術を学んで復讐の計画を練っていたのである。
 その事実を知ったクリシュナはエルヴァイラを守ろうとしていたのだが、弟カンタカの魔力は強大なものだった。しかも、彼はエルヴァイラを黒ミサの生贄にすることによって、悪魔を復活させるつもりだった。そのために、ヴードゥーの信者であるティ・ザカリーがスパイとして協力していたのだ。
 ところが、カンタカが黒ミサに個人的な復讐を持ち込もうとしていることを知ったヴードゥー組織は、秘かに暗殺者を送り込んでいた。果たして、その暗殺者とは誰なのか?カンタカの凶行を止めることは出きるのか?そして、エルヴァイラとクリシュナの運命は・・・?

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メイドのスーザン(E・ザバーラ)は秘密を知っていた

首を切断されて殺されるスーザン

クリシュナは忌まわしい真実を語り始める

 今回もハシント・モリーナ名義で脚本を手掛けたナッシー。どうやら、かなり本格的にヴードゥーや黒魔術の研究をしたらしく、本作を見て感銘を受けたオカルト集団のメンバーが実際に彼の自宅を訪れ、彼らのリーダーになるよう何時間も説得していったそうだ。
 撮影を手掛けたのは“El retorno de Walpurgis”と同じくフランシスコ・サンチェス。今回は予算や撮影期間の制約がより厳しかったせいもあってか映像的な完成度は平均レベルといった印象だが、スローモーションと魚眼レンズを駆使した幻想的な恐怖シーンはなかなか迫力があって良かった。
 焼けただれたカンタカの顔面や悪魔の特殊メイクを担当したのは、巨匠ヴィセンテ・アランダ作品の常連であり、同監督の『女王フアナ』(01)でスペインのオスカーことゴヤ賞を獲得した大物メーキャップ・アーティスト、ミゲール・セセ。
 さらに、リッキー・マーティンやミゲール・ボセ、ミリアム・エルナンデス、セルジョ・メンデスなどのヒット曲を書いたスペインを代表する大物作曲家フアン・カルロス・カルデロンが音楽スコアを担当。彼はジャズ・バンドのリーダーやイージー・リスニング・オーケストラの指揮者としても有名で、本作でもそのスインギーなポップ・センスが遺憾なく発揮されている。ただし、その使われ方には大きな疑問が残るのだけれども・・・(^^;
 ちなみに、当時は検閲をパスするために外国を舞台に設定していたスペイン産エログロ・ホラー。あくまでも物語上の設定だけで、実際はスペイン国内で撮影されることが殆んどだったわけだが、本作は一部ではあるものの実際にロンドンにてロケ撮影が行われている。

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ゾンビと化した犠牲者たち

犯人はクリシュナの弟カンタカ(P・ナッシー)だった

囚われたエルヴァイラたちを救えるのか・・・?

 本作でナッシーの相手役グロリアを演じている女優ロミーは本名をカルメン・ロメロというスペイン人で、もともとはイヴ・サン=ローランやクリスチャン・ディオールの広告にも出たことのあるトップ・モデル。これが唯一のホラー映画への出演だったらしく、その数年後に芸能界を引退してモデル事務所の経営者となった。
 一方、そんなグロリアを敵対視するクリシュナの助手カーラ役を演じているのは、70年代スパニッシュ・ホラーの名物的なセクシー女優ミルタ・ミラー。彼女は本名をミルタ・ブグイ・シャタールといい、クリモフスキーと同じくアルゼンチンからスペインへと移り住んだ人だった。ナッシーとの共演作も多い。
 その他、『ザ・ゾンビ 黒騎士のえじき』などでもナッシーと共演したヴィック・ウィナーことヴィクトル・アルカザール、アマンド・デ・オッソリオ監督作品の常連女優マリア・コスティ、『吸血鬼ドラキュラ対狼男』で女吸血鬼ワンデッサ役を演じたアウローラ・デ・アルバ、『ザ・ゾンビ 黒騎士のえじき』で別荘の管理人を演じていたルイス・シヘス、ナッシー映画の隠れた顔である馬面の老女優エルサ・ザバーラなど、スパニッシュ・ホラー及びポール・ナッシー作品のファンにはお馴染みの役者が揃っている。
 なお、ナッシーの作品にはエルヴァイラ(もしくはエルヴィラ)という名前のヒロインがたびたび登場するのだが、これは彼の奥さんの名前から取られている。

 

 

悪魔の死体蘇生人
La orgia de los muertos (1973)
日本では劇場未公開
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

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(P)2009 Troma Entertainment (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:
ALL/95分/製作:スペイン・イタリア

※“Sweet Sound of Death”とのカップリング収録

特典映像
P・ナッシー インタビュー
J・L・メリーノ監督 インタビュー
J・L・メリーノ監督の音声解説
P・ナッシー ドキュメンタリー
オリジナル劇場予告編
フォト・ギャラリー
監督:ホセ・ルイス・メリーノ
製作:ラモーナ・プラーナ
原案:エンリコ・コロンボ
脚本:ホセ・ルイス・メリーノ
撮影:モデスト・リッツォーロ
音楽:フランチェスコ・デ・マージ
出演:スタン・クーパー
   マリア・ピア・コンテ
   ディアニク・ズラコフスカ
   ポール・ナッシー
   パスカーレ・バシーレ
   ジェラルド・ティシー
   カルロス・クイニー
   アウローラ・デ・アルバ
   エレオノーラ・ヴァルガス
   カルラ・マンシーニ

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荒涼とした村へやって来たチェコフ(S・クーパー)

従姉妹マリア(A・デ・アルバ)の首吊り死体を発見する

マリアの死因は他殺だった

 当時人気絶頂だったナッシーが、珍しく脇役出演だけに徹した作品。東ヨーロッパの荒んだ閉鎖的な村を舞台に、一人のロシア人旅行者が体験する悪夢のような恐怖譚が描かれる。オカルトやネクロフィリア、そしてゾンビの要素をミックスし、幻想的で退廃的でダークなビジュアルで統一された異色のゴシック・ホラーだ。
 19世紀の東欧。叔父に当たるミハリー伯爵の葬儀に訪れたロシア人貴族チェコフは、通りかかった墓地で従姉妹マリアの首吊り死体を発見する。自殺のように見せかけられていたが、何者かに殺されたことは明らかだった。やがて、伯爵の遺言によりチェコフがマリアに代わって巨額の遺産を相続することが判明し、おのずと警察は彼に疑いの目を向ける。しかし、理屈から考えるとそれは不可能だ。
 村にはイーゴルという名の墓掘り人がいた。彼はネクロフィリアで、その自宅から無数の死体写真が発見されたことから、警察はイーゴルを怪しいと睨む。さらに、ミハリー伯爵の未亡人ナディアが交霊会で殺害されてしまう。犯人は死んだはずの伯爵自身だった。
 やがて、生前の伯爵がハウス・ドクターのドロイラ教授と組んで死体蘇生術の研究をしていたこと、しかも自分の死を予感していたことなどが明らかとなる。教授の娘ドリスと共に謎を究明すべく、迷路のような地下墓地へと足を踏み入れたチェコフ。そこで彼は世にも恐ろしい光景を目の当たりにする・・・。
 まずは舞台となる村の荒涼としたロケーションが実に素晴らしい。何世紀にも渡って風雪にさらされ、朽ち果てかけてしまった石造りの家々。緑のほとんど見えない荒れ果てた土地、雨の降り続く陰鬱な天候、人気の全くない寂しい泥道。まるで魂の抜け殻のような村だ。色落ちしたようなグレー・トーンのカラーがまた寒々としたムードを醸し出し、ベルイマン映画のごとき世界を再現している。
 さらに、後半で登場するゾンビの特殊メイクがまた見事な出来栄えだ。砂埃の舞う地下墓地や遺跡の生々しいゴシック感も幻想的だし、そこをゾンビたちが歩く姿の悪夢的なイメージといったら!それこそ、鳥肌が立つくらいに魅惑的だ。
 ストーリーはあまりロジカルとは言えないし、唐突な展開も少なからず気になるものの、様々な要素を盛り込みながら趣向を凝らしている点は良いと思う。豚の死体などを駆使した残酷描写もなかなか良く出来ているし、死姦行為を含めた性描写も控えめながらインモラルな雰囲気がたっぷりだ。
 監督は主に戦争アクションやマカロニ・ウェスタンで知られる男性映画の名手ホセ・ルイス・メリーノ。ホラー映画はほんの僅かしか手掛けていないが、なかなか優れたセンスの持ち主とお見受けした。ナッシーとはターザン映画でコンビを組んだことがあり、個人的にも親しかったことから、是非ともまた一緒に仕事がしたいということで声をかけたのだそうだ。
 ただ、当時のナッシーは多忙を極めており、本作の相談を持ちかけられたときも他の作品の準備に追われていたという。それでも、あくまでも出番の少ない脇役であること、役者の仕事だけしか関わる必要がないことから、出演を快諾したのだそうだ。
 しかし、そこはやはり人一倍自己顕示欲が強い・・・いえ、仕事熱心な(笑)ナッシーのこと、当初の脚本に描かれていたイーゴルの人物像がいまひとつ気に入らず、自らキャラクター設定を練り直したのだという。彼がネクロフィリアであることや、その死の直前に残したダイング・メッセージ、結局はゾンビとして甦るといったアイディアは彼の発案によるものだったらしい。要は、おいしい見せ場を増やしたわけだ。さすがはナッシー、己が人気スターであることをわきまえていらっしゃる。
 さらに、ゾンビと化したイーゴルの頭部が切断されるシーンでは、ナッシー自身いたくお気に入りだったという『ザ・ゾンビ 黒騎士のえじき』で使用したアラリクの生首を再利用することに。そのため、イーゴルの風貌がアラリクそっくりとなった。これは結果として正解だったといえよう。やはりナッシーはロマンチック系の二枚目役よりも、獣のような悪役の方が向いているし、なによりも違和感がないのだ。
 ということで、これは70年代スパニッシュ・ホラーを代表する作品の一つといっても過言ではないように思う。なんだかんだ言って、ナッシーの貢献度もやはり無視はできない。ゴシック・ホラー・ファンなら必見の名作だ。

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黒魔術をする伯爵未亡人ナディア(M・ピア・コンテ)

薄気味の悪い墓掘り人イーゴル(P・ナッシー)

イーゴルは死体に欲情するネクロフィリアだった

 19世紀末の東ヨーロッパ。人気もまばらな高地の小さな村で、ミハリー伯爵の葬儀が厳かに執り行われている。人々が帰路へついた頃、一人の女性が墓地へと足を踏み入れた。伯爵の一人娘マリア(アウローラ・デ・アルバ)だ。父親の遺体の懐から一通の書類を見つけるマリア。その背後から、怪しい人影が近づいた・・・。
 村の駅に一人の青年が降り立つ。ロシア人貴族セルゲイ・チェコフ(スタン・クーパー)である。叔父であるミハリー伯爵の葬儀に出席する予定だったのだが、汽車が遅れて間に合わなかった。駅には出迎えも来ていない。こんな呪われた村に一人で来るなんて、と訝しげな表情で見る駅員を尻目に、チェコフは村へと歩き出した。
 しばらくして墓地の前を通りかかったチェコフ。なにやら怪しげな物音を耳にしたことから、墓地の中へと入っていった。だが、辺りはしんと静まり返っている。なにかの聞き間違えかと思って墓地の門を出た彼は、木の上からぶら下がっている女性の首吊り死体を発見した。
 驚いたチェコフは、大声で助けを求めながら周辺の民家を回るが、誰一人として外へ出てくる者はいない。そればかりか、チェコフの声を聞いて家の明かりを消す者も少なくなかった。誰もが何かに怯えている様子だ。
 とある豪邸の門を叩いてみると、中から使用人らしき男が出てきた。女性の死体を発見したことを伝え、警察を呼ぶように求めるが、男は余計なトラブルに巻き込まれたくないからとドアを閉めようとする。頭にきたチェコフは男につかみかかった。すると、目の前には死んだ女性の肖像画が。そこへ現れた女性に尋ねると、それは彼女の義理の娘だという。彼女の死体を発見したことを伝えると、女性は驚きのあまり気を失った。
 そこはミハリー伯爵の邸宅だった。先ほどの女性は伯爵の若き後妻にして未亡人のナディア(マリア・ピア・コンテ)、男性は執事(カルロス・クイニー)である。地元警察の刑事(パスカーレ・バシーレ)はよそ者のチェコフを怪しんだ。というのも、状況から鑑みてマリアの遺体は他殺の線が濃厚だったからだ。
 すると、伯爵家の顧問弁護士が亡き伯爵の遺言を公表する。チェコフの登場で遺族が全員集まったからだ。遺産の相続人は本来マリアだったが、彼女が死んでしまったためにチェコフが全てを相続することになるのだという。刑事は一層のことチェコフに疑惑の目を向けるが、チェコフは叔父に一度も会ったことがなかったし、マリアとモ当然のことながら面識はない。弁護士もそのことは認めた。彼が犯人だというのは理屈として考えておかしい。
 会ったこともない若い男に遺産が全て持っていかれることに納得がいかないナディア。実は、彼女は秘かに黒魔術を実践していた。ただ、その効果のほどは定かではない。人形の心臓に針を刺してチェコフを呪い殺そうとするのだが、残念ながら何の変化も見られなかった。
 また、伯爵家にはイーゴル(ポール・ナッシー)という不気味な墓掘り人が人知れず出入りしていた。全裸の上から白装束に身を包んでイーゴルを誘惑しようとするナディアだったが、彼女が動いたり声をあげたりするとイーゴルは去っていった。彼は死体にしか性欲を感じないネクロフィリアだったのだ。秘かに気に行った死体を盗み出しては、廃墟となった地下墓地の中にコレクションしていたのである。
 伯爵邸を後にした刑事と村長(イサルコ・ラヴァイオーリ)は、変わり者のイーゴルが怪しいのではないかと考え、彼の自宅を捜索することにする。そこには、何に使うのか分らないような実験道具らしきものが転がっていた。さらに、二人は引き出しの中から大量の死体写真を発見。より強く疑いを深めるのだった。
 再び伯爵邸を訪れた刑事は、イーゴルに注意するよう警告する。彼が犯人であるという具体的な証拠はないものの、死体写真を隠し持っているというのは普通ではない。その時、ハウス・ドクターの娘ドリス(ディアニク・ズラコフスカ)が窓から中を覗き見るイーゴルを発見して悲鳴をあげる。逃げ去るイーゴル。その後を追うチェコフ、刑事、執事の3人。しかし、イーゴルの逃げ足は速く、墓地の中で行方を見失ってしまった。
 一方、黒魔術が効かないと諦めたナディアは、その色香でチェコフを誘惑しようとする。あまりにもその態度が露骨なので、チェコフは滑稽に思えて吹き出してしまう。だが、執事はそんなチェコフに激しい嫉妬の眼差しを向ける。彼はナディアの愛人だったのだ。そのぶしつけな態度に腹を立てたチェコフは、殴りかかってきた彼を逆にコテンパンにしてしまう。執事は恨み言を叫びながら屋敷を出て行った。
 さらに、チェコフの部屋にイーゴルが現れ、自分の無実を訴える。驚いたチェコフは転倒して頭を打ってしまった。物音に気付いてナディアが駆け込んでくる。必死になって心配するふりをしてみせる彼女を微笑ましく感じたチェコフは、彼女の誘惑に乗ってみることにした。
 翌朝、ナディアのベッドでチェコフを発見して、ドリスは心中穏やかではなかった。秘かに彼のことを気にしていたのだ。そのことをナディアに揶揄され、プライドを傷つけられたドリス。こんな家にはいたくない。そう父親のドロイラ教授(ゲラルド・ティシー)に訴えるが、親子には伯爵邸を去ることの出来ない理由があった。
 というのも、教授は屋敷内のラボで行っている研究を放り出すわけにいかなかったのだ。彼は伯爵と共にラボで研究を行っていた。それは生命の秘密を突き止めること。死んだ人間を甦らせ、永遠の命を与えることだ。教授はチェコフにその事実を伝え、今まで通り研究を続けさせて欲しいと願い出る。チェコフは承知した。
 そのことを知ったドリスは、チェコフに心を開くようになる。彼女はマリアが日記をつけていたことを思い出した。その日記を見つけたチェコフは、そこに伯爵自身が伝言を残していることに気付く。どうやら、伯爵は恐ろしい秘密を知ってしまい、そのことで誰かに殺されることを予感していたらしい。
 叔父の遺体をもう一度検証して欲しいと村長に訴えるチェコフだったが、あえなく却下されてしまった。しかも、墓地から伯爵の遺体が消えていることに気付いて困惑する。すると、ナディアが交霊会をしようと言い出した。マリアの霊を呼び出して、彼女が誰に殺されたのかを聞いたほうが手っ取り早いというのだ。
 ところが、交霊会に現れたのは伯爵だった。しかも、それは幽霊ではなく実体があった。愕然とするチェコフとドリスの目の前で、伯爵はナディアを絞殺する。さらに、墓地ではイーゴルの死体が発見され、彼が自分の血で書いた“No37”というダイングメッセージが残されていた。
 その晩、屋敷の中を歩く人影を発見したチェコフとドリスは、地下墓地へと続く秘密の通路を発見する。謎の人影を追って地下墓地を駆け抜ける二人。すると、村の外れにある廃墟となった遺跡へと抜け出た。
 人影の正体はゾンビと化したナディアだった。チェコフの背後からは、同じくゾンビとなった執事が近づいてくる。一体、この村では何が起きているのか?そして、一連の事件の背後に関わっているのは何者なのか・・・?

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村の中を逃げ回るイーゴル

執事(C・クイニー)はナディアの愛人だった

チェコフに横恋慕するドリス(D・ズラコフスカ)

 メリーノ監督自身は、本作をホラー映画とは考えていないとインタビューで語っている。先述したように、戦争アクションやマカロニ・ウェスタン、アドベンチャーなどの娯楽映画を得意としたメリーノ監督。アクションあり、ロマンスあり、恐怖あり、お色気ありの本作は、彼にとってみれば立派な冒険映画だったというわけだ。ホラーというのは『エクソシスト』(73)のように身の毛もよだつもの。この映画は怪奇的な味付けを施したアドベンチャーなのだそうだ。
 脚本を手掛けたのはメリーノ監督。原案としてエンリコ・コロンボという人物がクレジットされているものの、これは製作上の都合によって仕方なく表記されたものだったという。というのも、本作はイタリアとの合作。当局へ報告する双方の予算負担率とのバランスを取るため、どうしても主要スタッフにイタリア人の名前がもう一人必要だった。そのため、イタリア側の出資者であるエンリコ・コロンボを原案執筆者に仕立てたのだそうだ。
 撮影を担当したモデスト・リッツォーロはイタリア人のカメラマンだが、手掛けた作品の数はほんの僅かで詳細が分からない。特殊メイクを手掛けたのは、『ザ・ゾンビ 黒騎士のえじき』でナッシーの見事なダミーヘッドを製作したフリアン・ルイス。今回はとにかくゾンビの特殊メイク・デザインが秀逸で、思わず身震いするほどカッコいい。司法解剖した後の、つぎはぎだらけの死体も異様にリアルだ。
 また、音楽スコアにはイタリアのマエストロ、フランチェスコ・デ・マージが参加。本作では賛美歌を思わせる本格的なゴシック・スタイルの音楽スコアを聴かせてくれており、デ・マージの意外な一面を垣間見ることが出来るだろう。
 なお、本作のロケ地となったのは、カタルーニャ州はピレネー山中に位置するアラン渓谷のビエーハという、当時の人口2000人ちょっとの小さなムニシピオ(基礎自治体)なのだそうだ。

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ドロイラ教授(G・ティシー)は死体蘇生の研究をしていた

交霊会でナディアが呼び出した霊の正体とは・・・

ゾンビと化したナディアに驚愕するチェコフ

 今回の主人公チェコフ役を演じているのは、『ヘル・コマンドー7』(69)などの戦争映画でメリーノ監督と幾度も仕事をしている俳優スタン・クーパー。本名をステルヴィオ・ロージという生粋のイタリア人だ。なんとなくマウリツィオ・メルリと似たタイプの人で、あまり印象に残らない地味なタイプの役者と言えるだろう。ちなみに、共演者とは仲良くなることの多いナッシーだが、このスタン・クーパーだけは馴染めなかったそうだ。
 前半のストーリーをリードする悪女ナディア役のマリア・ピア・コンテは、クロード・ルルーシュ監督の『あの愛をふたたび』(69)や『マイ・ラブ』(74)に出演していたイタリア人女優。スペクタクル史劇やマカロニ・ウェスタンの妖艶な美女役としても人気の高かった人だ。
 そして、ストーリーの後半でヒロインを役割を果たすドリスには、『吸血鬼ドラキュラと狼男』でナッシーの相手役を演じたディアニク・ズラコフスカ。こちらは一転して清純派タイプの女優さんだが、本作ではワン・シーンだけセミ・ヌードも披露している。
 また、ちょっとトボけた刑事役を演じているパスカーレ・バシーレは、本業はフェンシング・マスターだったらしい。主に冒険活劇や海賊映画のチャンバラ・シーンを指導していたのだが、本人は演技を勉強したこともないのに俳優を志望していたという。映画関係者には片っ端から売り込みをしていたらしく、マリーノ監督も仕事をくれとせっつかれていたそうだ。なので、彼が地のままで演じることができそうな役柄は極力回すようにしていたとのこと。本作もその一つだったわけだ。
 ちなみに、村長役のイサルコ・ラヴァイオーリも実は大変な資産家で、金持ちの道楽として俳優業をしていたらしい。羨ましいというかなんというか・・・(笑)。その他、ナッシーがスペイン映画界で最も素晴らしい俳優の一人だったと語るジェラルド・ティシー、ナッシーとの共演は『吸血鬼ドラキュラ対狼男』『ゾンビの怒り』に続いてこれが3作目となる女優アウローラ・デ・アルバ、イタリアン・ホラーの名物女優カルラ・マンシーニらが登場。
 また、執事役を演じている男前俳優カルロス・クイニーはメリーノ監督の一番のお気に入りスターで、彼の撮ったマカロニ・ウェスタンや活劇映画で数多く主演を務めている。

 

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