パトリック・ジューヴェ Patrick Juvet
甘く切ないラブ・ソングを歌うポップ・アイドルからインターナショナルなディスコ・キングへ。デヴィッド・ボウイに影響を受けたというグラム・ファッションやファルセットを駆使したソフトな歌声で、70年代当時のフランスでは圧倒的に女性ファンが多かったという。
ソングライターとしても類い稀なメロディ・センスの持ち主。初期のヒット曲“La
musica”や”Sonia”なんかは、まさしく乙女のハートをキュンとさせるような王道系ラブ・ソングだった。
しかし、フレンチ・テクノの鬼才ジャン=ミシェル・ジャールとコラボを組むようになった辺りから、徐々にグラム・ロック的なアプローチを見せるようになり、78年に発表した英語曲“Got
A Feeling”でディスコ・サウンドに挑戦。同年の“I Love
America”は世界15か国でヒット・チャート1位を獲得する大ヒットとなった。
個人的にはディスコ時代の作品よりも、初期のノスタルジックで甘酸っぱいポップ・ソングが好き。そういう時代だったといえばそうなのかもしれないが、70年代半ば以降のユニセックスなけばけばしさはちょっと苦手かもしれない。
フレンチ・ポップス界のスターであるパトリックだが、実はスイスの出身。1950年8月21日、ジャズ・フェスティバルでも有名なモントルーに生まれた。6歳でローザンヌの音楽院に入学してピアノを学び、その後装飾美術も学んだという。そして、17歳の時に西ドイツのモデル・エージェンシーからスカウトされてモデルとなった。
71年に友人のパスカル・マグナンに誘われてパリへ移り住んだパトリックは、彼の音楽的な才能を高く評価したプレス・エージェントのフローレンス・アボールカーから、大手レコード会社バークレイの社長エディー・バークレイを紹介される。
そのバークレイのプロデュースにより製作されたのが、71年暮れに発売されたデビュー曲“Romantiques
pas morts。翌72年5月に発表されたセカンド・シングル“La
musica”は売上100万枚を超える大ヒットとなり、パトリックは一躍トップ・スターの仲間入りを果たした。
73年にはシングル“Je vais me
marier,
Marie”を引っさげ、ユーロビジョン・ソングコンテストにスイス代表として出場。残念ながら13位に終わってしまったものの、その年の12月にはフランス音楽界の殿堂オランピア劇場でソロ・コンサートを行い、デヴィッド・ボウイばりの派手な衣装と演出が大評判となった。
また、74年には当時彼のバック・コーラス担当だった無名のシンガー・ソングライター、ダニエル・バラヴォワーヌと共作したシングル“Regarde”が大ヒット。後にフランスの国民的なスーパースターとなるバラヴォワーヌだが、彼はこの楽曲の成功を足掛かりにソロ・デビューすることとなる。
彼のグラム・ロック志向が強くなったのもこの頃から。そのきっかけとも言うべきシングル“Magic”でアレンジを手掛けたジャン=ミシェル・ジャールと意気投合し、以降2年間に渡って“Faut
pas rever”や“Megalomania”など21曲もの楽曲でコンビを組み、傑作と誉れ高いアルバム“Paris by
Night”も生まれた。
そのジャールと組んだシングル“Ou sont les
femmes?”で初めてディスコ・サウンドを取り入れたパトリック。ちょうどその頃ロサンゼルスに居を構えたことから想像するに、恐らく本格的なアメリカ進出を目論んでいたのだろう。ニューヨークの有名なディスコ、スタジオ54を訪れた彼は、当時ヴィレッジ・ピープルで大当たりをとっていたプロデューサー・コンビ、アンリ・ベローロとジャック・モラーリの二人と知り合い、彼らとコラボレーションを組むこととなる。
その結果生まれたのが、78年にリリースされたシングル“Got
A Feeling”。続く“I Love
America”がアメリカを含む世界各国で爆発的なヒットを飛ばしたことから、彼はディスコ・シンガーとして国際的な注目を浴びることとなった。79年の“Lady
Night”も大ヒットし、世界的な写真家デヴィッド・ハミルトンが監督した映画『愛と追憶のセレナーデ』(79)では自らピアノを奏でたテーマ曲を提供。その年の暮れには2度目となるオランピア劇場コンサートを成功させた。
だが、80年代に入るとディスコは急速に衰退。すっかりディスコ・アーティストというイメージが付いてしまったパトリックは、再び活動の拠点をフランスへ移すこととなる。そして、82年のシングル“Reves
immoraux”のヒットを最後に、パトリック・ジューヴェの名前はフランス音楽界の表舞台から徐々に消えていく。
その後もコンスタントに楽曲を発表するが、なかなかヒットに恵まれなかったパトリック。91年にはシングル“Solitudes”が久々にチャート・インし、アルバムもリリースされたものの、その人気も長くは続かず。それでも、70年代リバイバルの潮流に乗ってライブ活動やチャリティ・イベントへの参加などを積極的に行い、95年には“I
Love
America”のリミックス・バージョンも発表。02年には彼の大ファンだという女性人気歌手エレーヌ・セガーラへ楽曲も提供している。
ちなみに、数多くのヒット曲を自ら書いてきたパトリックだが、意外にも他人のために曲を書くことは稀だった。その数少ない例の一つが、フランスの国民的スーパースター、クロード・フランソワの大ヒット曲“La
lundi au soleil”。なるほど、そういえばパトリックの最初のヒット曲“La
musica”にメロディがソックリだ。
なお、私生活ではゲイであることを明かしている彼、94年には当時の恋人と共にジュリアンという男の子を養子として引き取り育てている。現在はスペインのバルセロナで暮らしながら、フランスのテレビやコンサートへの出演を続けているそうだ。
Master Serie Best of Patrick
Juvet もともと88年に発売されたベスト・アルバムのリマスター版がこちら。言うなれば定番的な一枚です。
(P)1998 Podis/Polygram
(France)
(P)1995 Barclay/Polygram
(France)
1.La musica ビデオ
2.Au jardin
d'alice
3.Megalomania
4.Je vais me marier, Marie ビデオ
5.Lady
Night
6.Unisex
7.Sonia ビデオ
8.Magic ビデオ
9,Ou sont les
femmes? ビデオ
10,Les bleus
au coeur
11.Jessica
12,Pas assez de toi
13.Rappelle-toi
minette ビデオ
14.Le fantome
d'Hollywood
15.Au meme endroit
a la meme heure ビデオ
16.J'ai peur
de la nuit1,La musica
2.Romantiques pas
morts
3,Au meme endroit a la meme heure
4,Ecoute-moi
5,Je vais
me marier, Marie
6,Sonia
7,Toujours du cinema ビデオ
8,Rappelle-toi
minette
9,Il est trop trad pour faire l'amour
10,Magic
11,Faut
pas rever ビデオ
12,Ou sont
les femmes?
13,Les bleus au coeur
14,I Love America
(Version
Originale) ビデオ
15,Reves
immoraux ビデオ
16,Lady
Night
17,I Love America (Remix 95)
とはいえ、肝心の“I Love
Americ
a”が選曲から外れているのはにわかに納得いたしかねるところ。ひとまず、ディスコ時代以前の名曲は一通り収録されていますし、なにより値段の安さも含めて入手しやすいので、初心者向けとしては良いかもしれません。 95年の“I Love
America”リミックス・バージョン発表に合わせて企画されたベスト盤。個人的にはこちらの方がおススメです。まあ、確かに“Megalomania”とか抜けている定番曲もありますが、とりあえず押さえておきたい作品は万遍なく揃っているかと。ちなみに、肝心の#17ですが、いかにも当時流行のユーロ・トランス仕様。可もなく不可もなくといったとこです。
Les 50 plus belles
chansons
(P)2008 Barclay/Universal Music
France (France)
CD 1
1,Tristesse de Laura ビデオ
2,La
musica ビデオ
3,Romantiques
pas morts ビデオ
4,Au meme
endroit a la meme heure
5,Ecoute-moi ビデオ
6,Je vais
marier Marie
7,Sonia
8,Toujours du cinema
9,Au jardin d'alice ビデオ
10,Rappelle-toi
minette ビデオ
11,Quand
vient la nuit
12,Il faut mourir d'amour on n'a pas le droit de mourir
d'autre chose
13,Regarde ビデオ
14,La chanson
des enfants
15,C'est beau la vie
16,Nama
17,Il est trop tard pour
faire l'amourビデオ
18,J'ai peur
de la nuit
19,MagicCD 2
1,Faut pas Rever ビデオ
2,Les
lunettes noires
3,Papa s'pioue et maman s'shoote
4,L'enfant aux
cheveux blancs ビデオ
5, Les idees
molles
6,Le chanteur du grand cafe
7,Ou sont les femmes ビデオ
8,Pas assez
de toi ビデオ
9,Jessica
10,Les
blues au coeur ビデオ
11,Le fantome
d'Hollywood
12,Megalomania
13,Got a Feeling ビデオ
14,Another
Lonely Man
15,I Love America
(Version Originale) ビデオCD3
1.Statue
2,Reves
immoraux
3,Cette fille
4,Du tac au tac
5,Pas folle de moi
6,On
with the Show
7,Sounds Like Rock'n Roll
8,Je tombe
amoureux
9,Initiales S.G.
10,Lady Night ビデオ
11,Swiss
Kiss ビデオ
12,Viva
California
13,The "Gay Paris"
14,French Pillow Talk
15,Ca c'est
Paris ビデオ
16,Et si on
recommencait
3枚組50曲入りという究極のベスト。このディスク1は、オープニングの#1以外71年〜75年までの楽曲をほぼ年代順に収録しています。その#1は映画『愛と追憶のセレナーデ』のテーマ曲でインスト物なのですが、フランシス・レイも真っ青の美しい作品。この時期のパトリックは本当に綺麗なメロディばかり書いていました。中でも個人的に大好きなのは#2と#7。もちろん、それ以外の楽曲も等しくおススメです。ディスコ時代の彼しか知らない方は是非聴いてください。メロメロになること請け合いです(笑)
グラム・ロック色の強まった76年からディスコ時代に突入した78年までのヒット曲を時系列で収録したディスク2。これはもう趣味の問題かと思いますが、ジャン=ミシェル・ジャールとのコラボ作品というのは、個人的にどうもイマイチな印象なんですよね。当時はカッコよかったのかもしれませんが。ここはやはり、ジャック・モラーリ組のメンツとがっつり組んだ#13〜#15が聴きものと言えるでしょう。#15は短くエディットされたシングル・バージョンですが、フル・バージョンは長すぎますからね…(笑)
80〜90年代のシングル及び、ディスク2に収まりきらなかった70年代のディスコ・ヒットで構成されたディスク3。ディスコ時代の作品の中で個人的に一番好きな#10はこちらに入ってます。ジョルジョ・モロダー風の煌びやかなサウンドとメロディがいいですね。ヴィレッジ・ピープルそのまんまじゃん!という感じの#12にはニンマリです。しかし、80年代に入るとディスコからのイメージ脱却に迷走したという感じで、プレスリー風のロックンロールからレゲエまで盛り沢山ながら、どれも中途半端な印象。
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