パム・ルッソ Pam Russo

 

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 80年代後半のフリースタイル全盛期には、数え切れないほどのジャンル系女性ボーカリストが登場。その中でも知る人ぞ知る存在と言えるのが、このパム・ルッソである。実は彼女、あのカバー・ガールズの大ヒット曲“Show Me”のバック・コーラスをメンバーのキャロラインやサンシャインに代わって担当したボーカリストであり、しかもオリジナル・デモ・バージョンのリード・ボーカルを務めた女性だったのだ。
 ただ、彼女自身の経歴に関しては、殆んど詳しいことが分かっていない。当時のフリースタイル系アーティストは横の関係で繋がっていることが多く、レーベル名やスタッフの顔ぶれでだいたいの素性は想像がつくのだが、彼女の場合はちょっと変わっている。というよりも、フリースタイルとはおよそ縁のなさそうなバックグランドの持ち主と言えるかもしれない。
 パムの作品をプロデュースしたガイ・ヴォーンとシェドリック・ガイの二人は、80年代中頃からThe Fly Guysのユニット名で主にヒップ・ホップやシカゴ・ハウスのジャンルで活躍したコンビ。特に片割れのガイ・ヴォーンは、あのヒップ・ホップの王者Grandmaster Flash & Furious Fiveのヒット曲“Magic Carpet Ride”やシカゴ・ハウスの雄Ten Cityの名盤“Foundation”にも共同プロデューサーとして参加していることで知られる人物である。
 さらに、彼女が在籍した4th & B'wayはイギリスのアイランド・レコード傘下のインディペンデント・レーベルで、ニューヨークを基盤にEric B. & RakimやStereo MCsなど数多くのヒップ・ホップ系アーティストを擁した会社。フリースタイルのジャンルに属するアーティストは“Silent Morning”のヒットで知られる男性歌手ノエルとこのパム・ルッソくらいのもの。つまり、彼女の周辺からはフリースタイル業界との繋がりが殆んど見えてこないのだ。
 そうした中で唯一のパイプと言えるのが、冒頭にも述べたカバー・ガールズとの関わり。ただ、当時既に彼女は4th & B'wayとアーティスト契約を済ませており、どのような流れで“Show Me”のレコーディングに関わったのかは不明だ。
 正式デビューはカバー・ガールズと同期の87年。ファースト・シングル“You Can Take My Love”が全くの不発だったものの、翌年に発売されたセカンド・シングル“It Works For Me”が辛うじてクラブ・チャートへランク・イン。さらにミディアム・バラード“Love Is The Way To My Heart”が全米トップ100に入るマイナー・ヒットとなった。だが、残念ながらその後が続かず、アルバム“A Girl Like Me”もさっぱり売れず。
 なにしろ、当時はサファイアやインディア、シンシア、デニース・ロペス、コリーナ、ノセラなどのライバルが乱立するフリースタイル戦国時代。中でも、リサ・リサにルックスも声もソックリだった彼女は、同じようにリサ・リサ路線で売り出したデニース・ロペスやクリッシー・アイシーなどの陰に埋もれてしまった感がある。ボーカリストとしての実力は十分だし、ヒット・ポテンシャルの高い楽曲もあったのだが、アーティストとしての個性に著しく乏しかったのは残念だった。

 

IT_WORKS_FOR_ME.JPG LOVE_IS_THE_WAY.JPG HOLD_TIGHT.JPG GIRL_LIKE_ME.JPG

It Works For Me (1988)

Love Is The Way To My Heart (1989)

Hold Tight (1989)

A Girl Like Me (1989)

(P)1988 4th & B'way/Island (USA) (P)1989 4th & B'Way/Island (USA) (P)1989 4th & B'way/Island (USA) (P)1989 4th & B'way/Island (USA)
side A
1,Club Mix 7:35 ビデオ
2,Drumapella 5:08 ビデオ
side B
1,Dub Version 6:55
2,Heartthrob Beats 2:38

produced by Shedrick Guy&Guy Vaughn
remixed by Little Louie Vega
side A
1,Long Love Version 5:38
2,Instrumental Love 5:45
side B
1,7" Version 4:35
2,Love Dub 6:48
3,Alternative Love Mix 5:28 *

produced by Guy Vaughn&Shedrick Guy
*remixed by Shedrick Guy, Guy Vaughn & Frantz Verner
side A
1,Club Mix 6:48 ビデオ
2,House Mix 7:24
3,Percapella 4:23
side B
1,Radio Edit 3:40 ビデオ
2,House Edit 3:40
3,Club Dub 6:47
4,House Dub 6:09

produced by Guy Vaughn&Shedrick Guy
remixed by Aldo Marin
1,Love Is The Way To My Heart 5:38
2,I Want You For My Own 5:00
3,Hold Tight 4:56 ビデオ
4,I'll Be There 4:08
5,All For You 4:21
6,It Works For Me 4:07
7,Might As Weel Forget 5:07
8,Two Lovers 5:15
9,I Can't Let You Go
10,A Girl Like Me 5:18

produced by Guy Vaughn&Shedrick Guy
 一応、彼女の出世作ということになるのでしょうか。初期リサ・リサ&カルト・ジャムを彷彿とさせる王道系フリースタイル。リトル・ルイ・ヴェガがリミックスを担当しており、非常にミニマムでシンプルなニューヨーク系サウンドに仕上がってます。まあ、楽曲としてもシンプルであまり印象に残らないタイプの作品。悪くはないんですけどね。クラブ・チャートのマイナー・ヒットで終ったのも無理はないかもです。  当時アルバムとの同時発売でそれなりに強力プッシュされ、そのおかげでトップ100にギリギリ入ったミディアム・バラード。フリースタイル系のバラードって駄作が多いんですけど、これはなかなか悪くありません。さりげなくリズム&ブルースのテイストを盛り込んだソウルフルでエレガントなナンバー。コブシをきかせまくったパムの卓越したボーカルも聴き応え十分です。小品佳作といったところでしょうかね。  これはもうバリバリにキャッチーでダンサンブル!ちょうどメジャー
・デビュー当時のエクスポゼを彷彿とさせるようなマイアミ風フリースタイルの佳作です。スピード感のあるシンセ・リフもむちゃくちゃ好みだし、これがどうして売れなかったの!?という感じですが、まあ、確かに似たような曲は沢山ありましたからね(笑)。ベースラインの重量感を強調したアンダーグランドなハウス・ミックスもまずまずです。
 最初にして最後となってしまったパムのフル・アルバム。抜きん出た傑作こそないものの、それぞれにポップで良く出来たフリースタイル・ナンバーが揃った佳作です。1年遅れでデビューしたポーラ・アブダルと比較する向きも一部にはあるようですが、これは似て非なるもの。まあ、世の中にはフリースタイルとユーロビートを混同する人もいるくらいですから、意外と分かりにくいのかもしれませんけどね(^^;

 

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