オルラン・ヂーヴォ Orlann Divo
1950年代半ばにブラジルで誕生し、その後世界中の音楽に多大な影響を与えたボサノヴァ。そのちょうど同じ時期に誕生したのが、サンバランソもしくはサンバ・ヂ・バランソと呼ばれるジャンルだ。これはサンバのリズムとアメリカン・ジャズを融合させた都会的なダンス・ミュージックのことで、エヂ・リンコルンやミルチーニョ、エルザ・ソアレスなどが代表的なアーティスト。そして、そのリンコルンやミルチーニョと共にサンバランソ誕生の立役者となったのが、シンガー・ソングライターのオルラン・ヂーヴォである。
1937年8月5日、リオデジャネイロに生まれた彼は、ブラジル有数のリゾート地コパカバーナの有名なナイト・クラブ、ドリンクのステージで歌手としてのキャリアをスタートさせた。このドリンクには当時まだ無名だったエヂ・リンコルンやミルチーニョなど多くの才能あるミュージシャンが在籍しており、そのミルチーニョからボーカル・スタイルを学んだという。
周囲の勧めで自ら作曲を始めた彼は、58年にロベルト・カレイラスのレコーディングに参加。さらに、60年にはリンコルンのアルバムでボーカルを担当し、ドリンクの常連客でもあったレコード会社Musidiscのスタッフにスカウトされて61年に4曲入りEPでレコード・デビューを果たす。
そして、このEPに収録されていたキャッチーなダンス・ナンバー“Samba
Toff”がまたたく間に大ヒットしたことから、ヂーヴォは一躍時の人となった。その勢いに乗って、彼はテレビの音楽番組の司会に抜擢される。
まだ当時はレコード業界にロイヤリティという概念がなかったものだから、テレビやライブへの出演はアーティストにとって重要な収入源だったのだそうだ。彼はこの音楽番組のゲストとして自分のミュージシャン仲間を次々と出演させ、サンバランソの普及に大きく貢献する。
ちなみに、往々にしてボサノヴァと混同されることの多いサンバランソ。ヂーヴォ自身もジョアン・ジルベルトやジョルジ・ベンらとボーカルや音楽のスタイルが似ていることから、ボサノヴァ系のアーティストと見なされがちだったりする。だが、彼によると両者は全く異質なものらしい。
もともとボサノヴァというのは、中流階級の裕福で教養のある若者たちの間から生まれたジャンル。演奏する側も聴く側も、椅子に腰掛けるなどして和やかなムードで耳を傾けるタイプの音楽だ。それとは逆に、サンバランソというのはナイトクラブのダンスフロアから生まれたジャンル。言うなれば、軽快なリズムに身を任せながら全身で感じるタイプの音楽なのである。
62年には4曲入りEPに新作8曲を加えたファースト・アルバム“A
chave do
sucesso”をリリース。これがまた大変な評判となり、ブラジルのみならずヨーロッパでも発売された。ポルトガルでは、地元のコーヒー・ブランドCafe
ToffのCMソングとして“Samba
Toff”が使用されて親しまれたらしい。
しかし、その人気も長くは続かず、64年に発売されたサード・アルバム“Samba em
paralelo”以降は、Orlan
DivoもしくはD'Orlanの名義でソングライターの仕事に専念するようになった。エルザ・ソアレスやジョルジ・ベン、ドリス・モンテイロ、トリオ・エスペランサなど、彼が楽曲を提供したアーティストは枚挙にいとまない。77年にはOrlandivo名義で13年ぶりのカムバック・アルバムもリリースしている。
その後、21世紀に入ってクラブDJを中心に再評価の気運が高まり、近年は日本やドイツで復刻版CDが次々と発売されるようになった。なお、ジョルジ・ベンが彼の熱狂的ファンだったことは有名な話で、実際に無名時代のベンがヂーヴォの門戸を叩いたこともあったらしい。
もともと作曲家志望だったベンは、大ファンであるヂーヴォのために書いた曲をアポなしで彼のもとへ持ち込んだ。だが、目の前で歌ってみせるベンの歌声を聴いたヂーヴォは、“君が自分で歌ったほうがいい”と助言。それからほどなくして、ジョルジ・ベンはフィリップス・レコードからデビューすることとなった。
ちなみに、その時ベンがヂーヴォの前で歌ってみせた曲というのが“マシュ・ケ・ナダ”。そう、今では誰もが知っているあの名曲は、もともとオルラン・ヂーヴォのために書かれた曲だったのだ。
A chave do sucesso
(1962) Orlann Divo
(1963) Samba em paralelo
(1964) そのタイトルからも日本をイメージした楽曲であることが分かる#1で幕を開けるセカンド・アルバム。ただし、完全に日本と中国を混同していますね。ドラの音はないだろって・・・(笑)まあ、そんなこと、どうでも良いでしょう。前作に引き続いてダンサンブルなトロピカル・サウンドを思う存分堪能させてくれる本作。中でも、ちょっとおセンチなメロディとモンドなサビ、そしてサイケなムーグとドライブ感のあるピアノがサンバのリズムに乗せて絶妙に絡み合う#5はマジで最高!
(P)2002 Whatmusic
(Germany)
(P)2002 Whatmusic
(Germany)
(P)2003 Whatmusic
(Germany)
1,Onde anda o meu amor ビデオ
2,Nao faz
isso nao
3,Jura-sinho
4,Samba Toff
5,Chavinha
6,Vem pro
Samba
7,Saudade doi demais
8,Sambadinho
9,E a Tristeza vai
sorrir
10,Amor vai e vem
11,Frajola e piu-piu
12,Dias de
verao
produced by Nilo Sergio
associate producer Ed
Lincoln1,Samba do
Japao
2,Zezinho
3,Vai devagarinho
4,Felicidade vira
5,Faz de
conta
6,Brincando de Samba
7,Amor quadradinho
8,Afim de
voce
9,Vira lata
10,Saudade, solidap pra mim
11,Somos
tres
12,Saudade em seu lugar1,Paralelo
2,Selecao de
Samba
3,Deixa o vento levar
4,Saudade de Maria
5,Pralem do
mar
6,Entrou no Samba
7,E Samba
8,Beleza nao vai embora ビデオ
9,Desfolhando
a Margarida
10,Escute menina
11,Deixa a nega gingar
12,Voce e
paz
13,Beleza nao vai embora
トロピカルでお洒落で洗練されたダンサンブルなサウンドの詰まった記念すべきデビュー・アルバム。なんというのでしょう、同時代のモンドなイタリア産ブラジル音楽、つまりトロヴァヨーリやピッチョーニなんかの音が好きな人ならガッツリとハマること請け合いの1枚。ヂーヴォの代表作である#4なんかも、ある意味で“マナ・マナ”に匹敵するようなポップでキッチュなセンスが魅力。ちょっとユルめなヂーヴォのボーカルがまたいい味出してるんですよね〜(笑)これはおススメ。
これが最後のアルバムとなったわけですが、これまで以上にファンキーでグルーヴィーなサウンドは素晴らしいの一言。前作までのトロピカルなモンド・ミュージック的世界を残しつつ、より即興性の高い緊張感のあるファンキー・ジャズ的な演奏を聴かせてくれます。まあ、いきなりレロレロ・チンチン♪とまくしたててくれる#1にはビックリしますけど(笑)カッコよすぎるサウンドと相まって、日本人には大受けでしょう。トライバルでドライブ感のある演奏が迫力満点の#7もグッド。