オールド・ダーク・ハウス〜呪われた屋敷の一夜

 ハリウッドでは古くから“オールド・ダーク・ハウスもの”と呼ばれるジャンルがある。分りやすく一言で言うと“お化け屋敷もの”ってとこですか。ただし、肝心のお化けは出てきません。基本的なルールとして、超常現象はナシ。古くて不気味な大邸宅を舞台に、何らかの理由で集まってきた人々が目に見えぬ殺人鬼の影に脅かされながら恐怖の一夜を過ごす、というのが共通したプロット。なので、ロバート・ワイズ監督の「たたり」('63)とかエディ・マーフィの「ホーンテッド・マンション」('03)なんかはジャンル的に当てはまらない事になる。ホラー的要素を強く打ち出したミステリー、というのが“オールド・ダーク・ハウスもの”の特徴と言える。
 このジャンルの醍醐味は超常現象ではなく、謎解きのミステリーと古い屋敷の醸し出す不気味なムード、そして個性的なキャラクターの登場人物たちが繰り広げる群集劇。必ずコミック・リリーフ的なキャラクターがいて、ここぞというショック・シーンで滑稽なリアクションを繰り広げて恐怖感を緩和する、というのも大きな特徴。その原点といえるのが、ローランド・ウェスト監督の「バット」('26)とパウル・レニ監督の「猫とカナリヤ」('27)。どちらもブロードウェイの舞台劇の映画化だった。


あのヒーローの原点は強盗殺人鬼だった!?
 元祖“オールド・ダーク・ハウスもの”と言えるのがサイレント映画「バット」('26)。ウェスト監督は、この前年に元祖マッド・サイエンティストものと言えるロン・チャニー主演「魔人」('25)を撮っており、「オペラの怪人」('25)のルパート・ジュリアン監督と並んで、サイレント期のハリウッドにおける怪奇映画のパイオニアとも言える存在。明らかにドイツ表現主義の影響を受けたシュールなセットやミニチュアを駆使した悪漢“バット”の飛行シーンなど、イマジネーション豊かなビジュアル表現が素晴らしい。近ごろ街を脅かす謎の強盗殺人鬼“バット”。時を同じくして銀行から20万ドルの大金が盗まれる。急逝した銀行の頭取フレミングが所有する古い豪邸には裕福な未亡人とその姪、そしておっちょこちょいな女中と不気味な執事が住んでいる。その屋敷に忍び込む謎の人影。盗まれた大金がフレミング邸のどこかに隠されているという噂を聞きつけて、刑事、探偵など次々と一癖ある人々が集まってくる。そして、屋敷の窓の外には中の様子をうかがう“バット”の影が・・・。
 よくよく考えると、“バット”が何故わざわざあんなコウモリのかぶりものをして飛び回っているのか(夜とはいえ異常に目立つ)理解に苦しむし、ご都合主義的な展開が非常に目立つものの、後に傑作SF「来るべき世界」('36)を監督する事になるウィリアム・キャメロン・メンジーズによる美術セットの素晴らしさ、字幕のセリフを漫画の吹き出しのように画面中に埋め込むことによってトーキー的な効果を生むことに成功したウェスト監督の実験性豊かな演出など見所が多い。
 ただ、非常に気になったのが当時ハリウッドで活躍していた日本人スター、上山草人演じる日本人執事の人種差別的な扱い。異常に出っ歯の醜悪な特殊メイクで、何を考えているのか分らない不気味な存在として描かれており、女中のリジーには“ジャップ”呼ばわりまでされる。当時のアメリカにおける日本人、ひいては東洋人への偏見を象徴するようなキャラクターで、見ていて少々いたたまれない気分になってしまう。ハリウッドで2枚目俳優としてアイドル的人気を得ていた早川雪洲でさえ、出世作「チート」('15)では白人女性に烙印を押す残虐極まりない日本人役を演じていた事を考えると、当時のハリウッドにおける東洋人俳優の苦労が偲ばれる。

 そして、ウェスト監督自身が5年後に手掛けたトーキー版リメイクが“The Bat Whispers”。ストーリーやキャラクター構成はサイレント版にほぼ忠実ながら、ミニチュアを駆使した実験的なカメラワークは格段にスケール・アップしている。特に、時計台のクロースアップからカメラが引いて、地上に向かって急降下していくオープニングのドリー・ショットが素晴らしい。また、空撮でカメラが屋敷に近づいていき、窓を通って中に入り込んでいくシーンも、屋敷のミニチュアを使った外観のドリー・ショットとステージ・セットのシーンが雷の閃光を効果的に使って巧みにつなげられており、その見事な編集テクニックに舌を巻く。
 また、サイレント版では荒唐無稽だった“バット”のいでたちも実用的に改良。あらゆる面で前作を凌ぐ傑作に仕上がっている。ちなみに、この作品を見たボブ・ケインが影響されて生まれたのがコミック「バットマン」だと言われているのだが、これには少々疑問が残る。というのも、「バットマン」にも使用されたコウモリのシルエット・マークが登場するのは“The Bat Whispers”ではなくて、オリジナルの「バット」の方だから。「バット」には、そのコウモリのシルエットが壁に投影される象徴的なシーンもあって、ボブ・ケインがそのままパクっていることが良く分る。恐らく、ボブ・ケインが見たのは「バット」の方なのではないかと思う。
 さて、ウェスト監督は翌年に手掛けた冒険アクション"Corsair"('31)の興行的な失敗が原因で第一線から退くこととなってしまう。彼はかなり気難しい人物だったらしく、撮影は夜にしかやらない、撮影中はプロデューサー以下映画会社の人間を現場に入れないなどの奇行から、スタジオ関係者からは快く思われていなかったらしい。恐らく、彼が業界から干された理由は“Corsair”の興行的失敗だけではなかろう。
 そして1935年、事件は起きてしまう。“Corsair”の出演女優で、ハリウッドでは“ホット・トッド”の呼び名で知られていたやり手女優セルマ・トッド殺害事件に巻き込まれてしまったのだ。ウェストとトッドは愛人関係にあり、なおかつ当時ハリウッド関係者の人気スポットとなっていたレストランの共同経営者だった。そのレストランの乗っ取りを目論むマフィアとのいざこざもあったらしく、結局事件の真相は闇に葬られてしまったのだが、トッドの遺体が発見される前夜に二人が言い争いをしていたという証言もあり、ウェストは重要容疑者としてリストアップされていた。結局、証拠不十分で逮捕には至らなかったものの、業界生命は永遠に絶たれてしまう。華やかなハリウッドの歴史の裏には、一方でこのような暗い事件も数多いのだけれども、特に20年代〜30年代のハリウッドには金と欲望に目のくらんだ陰惨な事件が目立つ。ハリウッドというのは世界中から豊かな才能が集まる創造的な場所である一方、その才能を呑み込んでしまう危険な場所でもあったと言えるだろう。


怪奇ミステリーの最高峰
 一方、サイレント版「バット」と並ぶ“オールド・ダーク・ハウス”ものの古典がサイレント版「猫とカナリヤ」('27)。ドイツ表現主義の傑作ホラー「裏町の怪老窟」('24)で世界的に注目を集めたパウル・レニ監督のハリウッド進出第一弾。腹をすかせた猫に狙われるカナリヤのごとく、強欲な親戚連中に追い詰められて狂死した大富豪サイラス・ウェスト。その死から20年後、彼の亡霊が徘徊すると噂される荒れ果てた屋敷に、遺言を聞き届けるため親戚一同が次々と集まってくる。そして真夜中の12時、封を切られた遺言状に書かれていた遺産相続者はサイラス・ウェストの遠縁に当たる若い娘アナベルだった。ただし、彼女が精神的に異常がないということを立証せねばならないという条件付きで。もし、彼女が精神的に問題があると医師に判定された場合には、別の遺言状に記された親戚が遺産相続権を得ることになる。そして、アナベルの目の前で弁護士が忽然と姿を消し、次々と奇怪な事件が彼女の身の回りで起こる。さらに、精神病院を抜け出した異常者が屋敷の敷地内に迷い込んだという報告が入り、人々はこの不気味な屋敷で一晩を明かさねばならなくなる・・・。
 美術監督出身のレニ監督、面目躍如の素晴らしい美術セットとシュールなカメラワークが見ものの傑作。シルエットや光、歪みの効果を多用した豊かなビジュアル・イメージ、アニメーションで動かすことによって恐怖や驚きの感情を表現する字幕、クロース・アップやカット・バックを効果的に用いることによって視覚化される音、どれもが緻密に計算し尽くされている。ハロルド・ロイド風の3枚目ヒーローに、臆病者でずる賢い親戚の老婆など、コミック・リリーフの扱いも絶妙。この翌年、レニは怪奇ロマンの傑作「笑ふ男」('28)を生み出す事になるが、こちらも後日是非とも紹介したい。
 センセーショナルなヒットとなった「猫とカナリヤ」は、3年後にルパート・ジュリアン監督によって“The Cat Creeps”としてトーキー・リメイクされる。残念ながら、このジュリアン版はプリントが紛失しており、今のところ幻の作品になっている。39年にはボブ・ホープとポーレット・ゴダード主演のコメディ映画として再びリメイクされるものの、こちらも本邦未公開。


 そして、パウル・レニ版から半世紀を経て4度目の映画化となったのが「遺言シネマ殺人事件」('79)。基本的なプロットはレニ版と同じながら、男性だったクロスビー弁護士が女性になってたり、遺言状が書面ではなくフィルムだったりと、若干の変更が随所になされている。70年代といえば、「オリエント急行殺人事件」('74)に始まるアガサ・クリスティーものがブームだった時代。本作も、英国演劇界の重鎮を中心としたオール・スター・キャストが集められ、“アガサ・クリスティー風”のシリアスでエレガントなミステリーに仕上げられている。ただ、ヒロインのアナベル役に当時既に落ち目だった60年代ハリウッドのティーン・スター、キャロル・リンレイをもってきたのは失敗。掃き溜めに花の清純なヒロインが若作りした年増女というのはどうにも説得力に欠ける。
 それよりも、本作で注目したいのは監督その人。ラドリー・メッツガーだ。当時ハード・コア・ポルノの監督として活躍していたメッツガーが、何故この作品の監督・脚本に起用されたのかは不明だが、ポルノ監督と侮るなかれ。もともとアメリカでヨーロッパ映画の配給をしていたメッツガーは、ヨーロッパ映画のエロティシズムに強い影響を受け、61年頃から監督も手掛けるようになった人。言わば、アメリカにおけるソフト・ポルノの草分け的存在だ。ソフト・ポルノの枠に収まりきらない詩情豊かな名作「女と女」('67)、フェリーニとロジェ・ヴァディムを足したようなモダンでスタイリッシュな“Camille 2000”(’69)など、ヨーロッパ各国で撮影された初期の作品は、エロティシズムとアートが実り豊かに融合した秀作揃い。ハード・コアに転向してからの作品も非常に評価が高い。この「遺言シネマ殺人事件」も、細部に至るまで描かれるディテールへのこだわりや、計算された流麗なカメラワークにメッツガーらしさが見て取れる。ちなみに、「ブギー・ナイツ」('97)でバート・レイノルズが演じたポルノ界のカリスマ監督はメッツガーがモデルだと言われている。

ユニバーサル・モンスターの影に隠れてしまった傑作
 さて、パウル・レニ版「猫とカナリヤ」を製作したユニバーサルは、30年代に入ると「魔人ドラキュラ」('30)の成功を足がかりに、“ユニバーサル・ホラー”と呼ばれる一連のホラー映画を製作するようになる。その流れで製作されたのが「魔の家」('32)。原題を“The Old Dark House”といい、このジャンルの名前の由来ともなった傑作だ。舞台はウェールズ地方の人里離れた古い屋敷。凄まじい嵐の中で行き場を失ってしまった人々が次々と屋敷に集まってくる。屋敷に住むのは狂信的な老女と神経質な弟、102歳になる二人の父親(演じるのは女性!)、そして不気味な風貌の使用人だ。しかし、この屋敷には封印された部屋に閉じ込められたもう一人の住人がいた・・・。
 個性豊かな登場人物たち、舞台セット風のゴシック美術デザイン、そして屋敷を徐々に蝕んでいく狂気。演出を手掛けるのはユニバーサル・ホラーの看板監督ジェームズ・ホエール。屋敷に集う都会の人々よりも、屈折したその住人たちへの愛情を隠さないホエールの演出そのものが狂気に満ちている。程よいユーモアを交えながら、人間の心の闇の恐ろしさを随所に織り込んだストーリー・テリングは見事。しかし、当時の観客はドラキュラやフランケンシュタインの怪物、狼男といったモンスターを求めており、サイコ・ホラーと言うべき「魔の家」は批評家受けは良かったものの興業的には惨敗してしまう。なお、後にウィリアム・キャッスル監督によって「戦慄の殺人屋敷」('63)としてリメイクされているが、こちらは完全なコメディだった。

 その後も、リッツ・ブラザーズによる「ゴリラの脅迫状」('39)、ローランド・ヤング主演の「トッパー帰る」('41・日本未公開)など、“オールド・ダーク・ハウスもの”が次々と作られるが、ワン・パターンに陥ってしまったことから急速に飽きられていき、戦後にはほぼ死滅してしまう。呪われた屋敷を舞台にした映画は現在でも数多く作られているが、そこに徘徊するのはもはや人を脅かすばかりの殺人鬼ではない。今や“オールド・ダーク・ハウスもの”は、失われた古き良き時代のノスタルジーなのだと言える。

 

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「バット」 The Bat (1926)

The Bat Whispers (1930)

「猫とカナリヤ」
The Cat and the Canary (1927)

(C)2004 Alpha Video (DVD) (C) Image Entertainment (DVD) (C)2005 Image Entertainment (DVD)

DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイ/88分     
サイレント/ステレオ

DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード&ワイド/85分
モノラル

DVD仕様(北米盤)
着色/スタンダード・サイズ/85分
サイレント/ステレオ
映像特典:短編「ロイドの化物屋敷」('20・ハロルド・ロイド主演)

監督:ローランド・ウェスト
脚本:ジュリアン・ジョセフソン
    ローランド・ウェスト
撮影:アーサー・エデソン
美術:ウィリアム・キャメロン・メンジーズ
出演:ジャック・ピックフォード
    ルイーズ・ファゼンダ
    エディー・グリボン
    エミリー・フィッツロイ
    ジュエル・カーメン
    上山草人
    トゥリオ・カルミナチ
監督:ローランド・ウェスト
脚本:ローランド・ウェスト
製作:ジョゼフ・M・シェンク
撮影:レイ・ジューン(35ミリ版)
    ロバート・H・プランク(65ミリ版)
音楽:ヒューゴ・リーセンフェルド
出演:チェスター・モリス
   
グスタフ・フォン・セイッファーティッツ
    ウナ・マーケル
    グレイス・ハンプトン
    モード・エバーン
監督:パウル・レニ
脚本:アルフレッド・A・コーン
    ロバート・F・ヒル
撮影:ギルバート・ウォレントン
編集:マーティン・G・コーン
美術:チャールズ・D・ホール
出演:ローラ・ラ・プラント
    アーサー・エドモンド・ケリー
    フォレスト・スタンレー
    トゥリー・マーシャル
    クレイトン・ヘイル
    ガートルード・アスター
 長い間紛失したと思われていた幻の作品。廉価版専門のAlpha Videoからのリリースだが、制作年代を考慮するとプリントの状態は非常に良好。主演のジャック・ピックフォードは、言わずと知れた“アメリカの恋人”メアリー・ピックフォードの実弟。余りにも偉大な姉の存在がプレッシャーになってか、後に麻薬で身を持ち崩す事になる。その恋人役のジュエル・カーメンは当時のウェスト監督夫人。また、おっちょこちょいの女中リジーを演じたL・ファゼンダはハル・ローチのキーストン社の作品に数多く出ていた人気コメディエンヌだった。後に名脇役としてハリウッドとイタリアの両方で活躍するイタリア人俳優T・カルミナチ(「ローマの休日」)が刑事役で顔を出しているのにも注目。  この作品、実は通常の35mmバージョンの他に、当時は画期的だった65mmのワイド・スクリーン・バージョンも製作されていた。ただ、ワイド・スクリーンに対応した映画館が当時はなく、また設備を整えるのにコストがかかった為に65mmバージョンは実際には殆ど使用されなかった。本DVDでは両方のバージョンを収録。驚くべきは、65mmをトリミングして35mmバージョンを作ったのではなく、両バージョンとも別々に撮影がされていること。刑事役のチェスター・モリスは40年代に数多くのB級映画で刑事役を演じた人気スター。ヒロイン役のウナ・マーケルは後にコメディエンヌとして数多くのハリウッド映画で活躍した名脇役だが、当時はシリアス女優としてD・W・グリフィス作品などで活躍していた。  この作品は過去に数社からビデオ・DVDがリリースされているが、このImage版がベスト。伴奏スコアが公開当時のものと、本DVD用のオリジナルとが選べる。アナベル役のローラ・ラ・プラントは当時ユニバーサルの看板スターだった美人コメディエンヌで、トーキー後も活躍した数少ないサイレント女優の一人。「ショウ・ボート」('29)のヒロイン役が有名。また、その従姉妹のシシリー役を演じたガートルード・アスターはユニバーサル契約第一号の女優として有名で、ローレル&ハーディのコメディに数多く出演した人。また、アナベルを助ける純情な青年ポール役のクレイトン・ヘイルは当時売り出し中の若手喜劇俳優だったが成功せず、その後100本近くの映画でチョイ役を演じ続けた。

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「遺言シネマ殺人事件」
The Cat and The Canary (1979)
「魔の家」
The Old Dark House (1932)
(P)1999 First Run Features (DVD) (P)1999 Kino International (DVD)
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイド・スクリーン/98分/モノラル
特典:予告編
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダード・サイズ/72分/モノラル
特典:
グロリア・スチュアート音声コメンタリー
評論家J・カーティス音声コメンタリー
カーティス・ハリントン監督インタビュー
スチル・ギャラリー
監督:ラドリー・メッツガー
製作:リチャード・ゴードン
脚本:ラドリー・メッツガー
撮影:アレックス・トムソン
音楽:スティーブン・ケイガン
出演:オナー・ブラックマン
    マイケル・カラン
    エドワード・フォックス
    ウェンディ・ヒラー
    オリヴィア・ハッセー
    キャロル・リンレイ
    ダニエル・マッセイ
    ピーター・マッケネリー
    ウィルフリッド・ハイド=ホワイト
監督:ジェームズ・ホエール
製作:カール・リームル・ジュニア
脚本:ベン・W・レヴィー
原作:J・B・プリーストリー
撮影:アーサー・エデソン
出演:ボリス・カーロフ
    メルヴィン・ダグラス
    グロリア・スチュアート
    チャールズ・ロートン
    リリアン・ボンド
    アーネスト・セシジャー
    エヴァ・ムーア
    レイモンド・マッセイ
 現在は廃盤になってしまっている旧バージョンDVD。最近ディレクターズ・カット版が再リリースされた。撮影監督のA・トムソンはジョン・ブアマンの「エクスカリバー」やリドリー・スコットの「レジェンド」、ケネス・ブラナーの「ハムレット」など錚々たる作品を手掛けた名カメラマン。
 ヒロインのアナベル役のキャロル・リンレイは60年代に小悪魔系美少女として人気を得たスターだったが、全盛期は短かった。クロスビー弁護士役のウェンディ・ヒラーは英国演劇史にその名を残す大女優。映画では「マイ・フェア・レディー」の原型である「ピグマリオン」('38)のイライザ役が有名。「オリエント急行殺人事件」の伯爵夫人役も強烈だった。サイラス・ウェスト役のW・ハイド=ホワイトは「マイ・フェア・レディ」のピッカリング大佐役でも有名なイギリスの名優。その他、「ジャッカルの日」のエドワード・フォックスや日本で絶大な人気を誇ったオリヴィア・ハッセー、「エデンの東」の父親役レイモンド・マッセイの息子であるダニエル・マッセイなど賑やかな顔ぶれ。
 日本盤DVDも出ていたが、この北米盤が決定版と言えるだろう。中でも主演女優グロリア・スチュアート本人のコメンタリーは、歴史の生き証人ならではの豊富なエピソードとウィットに富んだ語り口が魅力的で、その知的で洒脱な人柄がうかがえる。「タイタニック」の年老いたローズ役でカムバックしたスチュアートだが、当時はユニバーサルのトップ女優の一人だった。残念ながら人気は長続きしなかったが。一応主演はユニバーサルの誇る怪奇スター、ボリス・カーロフだが、実質的にはメルヴィン・ダグラスとスチュアートの二人が主演と言える。ダグラスは、グレタ・ガルボと共演した「ニノチカ」など、当時のハリウッドを代表するダンディな2枚目スター。80年代まで息長く活躍した名優だ。また、屋敷に住む狂信的な老女を演じたエヴァ・ムーアはビクトリア王朝時代の英国劇壇を代表する伝説的大女優。その弟役のA・セシジャーはホエール監督作品の常連として有名。また、後にアカデミー主演男優賞を受賞する大スター、チャールズ・ロートンと「エデンの東」の父親役で有名な名優レイモンド・マッセイが脇役で出ているのも注目。二人とも、当時はまだハリウッドに進出したばかりだった。

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