ディスコ・アーティスト列伝 <20>
オーチ・ブラウン O'chi
Brown
プリンセスやジャッキー・グラハム、ヘイウッドらと並んで'、80年代UKソウル・シーンを語る上で欠かすことのできないディスコ・ディーヴァである。UKでのチャート・アクションこそ奮わなかったものの、アメリカでは少なくとも2曲がクラブ・シーンでブレイク。ここ日本でも六本木や新宿のディスコを中心にかなり話題を集め、マグネット・レコード時代のアルバムは2枚とも日本盤CDが発売されている。
もともとUKのレゲエ・シーンから現れた女性ボーカリストだったが、そんな彼女を一躍インターナショナルな存在に押し上げたのは、ストック/エイトキン/ウォーターマン率いる音楽工房PWL。当時プリンセスやスリー・ディグリーズのヒット曲を手掛け、キャッチーなハイエナジー・ディスコだけでなく洗練されたアーバンなソウル・ミュージックも十分にイケることを証明していたPWLだったが、その音楽的な中間地点に位置したのがオーチ・ブラウンだったと言えるかもしれない。その後のリック・アストリーやカイリー・ミノーグを彷彿とさせるユーロビート的なサウンド・アプローチを試みつつ、ソウルフルでお洒落なムードを兼ね備えているのが最大の魅力。当時UKチャートを通じてソウル・ミュージックに目覚めつつあった10代の僕にとって、忘れがたい印象を残したアーティストの1人でもある。
生年月日は不詳。ロンドン北部のトッテンハムに生まれ育ったオーチは、17歳の時に鼻歌を口ずさみながら街中を歩いていたところ、UKレゲエ界の重鎮であるシドニー・クルックスにスカウトされた。'82年に自ら共同プロデュースを手掛けたシングル“Can't
Say Goodbye To You”でレコード・デビュー。当時のUKレゲエはラヴァーズ・ロックの全盛期であり、本作も'60年代に全米ヒットしたカントリー・ソングをラヴァーズ・ロック風にカバーした作品。'83年にはインディーズ・レーベル、スカイからファースト・アルバム“Danger
Date”がリリースされ、プロコロ・ハルムの泣く子も黙る名曲をメロウなラヴァーズ・ロックとしてカバーした“A Whiter Shade of
Pale”をUKチャートへと送り込んだ(最高83位)。この曲は大手アリオラ・レーベルのディストリビュートでヨーロッパ各国でもリリースされ、オランダでは最高29位をマーク。彼女にとって初めてのシングル・ヒット作となったのである。
その後、“Auld
Lang Syne”('84年)と“Answer Me”('84年)の2枚のシングルが不発に終わり、'85年のセカンド・アルバム“Love For
You”もオランダではヒットしたものの、それ以外のマーケットでは殆んど見向きもされなかった。しかし、ラヴァーズ・ロックを離れてダンス・ポップ路線へとシフトしたシングル“Why
Can't We Be
Friends?”が、最高88位という低ランク・ゾーンではあれど2度目のUKチャート入りに成功。この楽曲のディストリビュートを手掛けたマグネット・レコードの社長マイケル・レヴィはオーチの才能を高く評価し、自らのレーベルと直接契約をして彼女をメジャー・デビューさせることにする。で、このマイケル・レヴィがPWLの社長ピート・ウォーターマンと親しい間柄だったことから、デッド・オア・アライブのプロデューサーとして飛ぶ鳥を落とす勢いで世界中の注目を集めつつあったストック/エイトキン/ウォーターマンのチームにオーチの楽曲製作を任せることにしたのだ。
先述したように、当時のPWLはプリンセスやスリー・ディグリーズの楽曲でソウル・ミュージックのジャンルでも成功を収めていた時期。レヴィがオーチを彼らに任せたのも、プリンセスの大ヒット・ナンバー“Say
I'm Your Number One”に強い感銘を受けたからだったという。そして、そのプリンセスのために用意されていた楽曲“When Somebody
Loves You”を大幅にリライトしたものが、オーチのメジャー・デビュー盤となったシングル“Whenever You Need
Somebody”だったのである。
しかし、'85年11月にリリースされた“Whenever You Need
Somebody”は、ちょうどクリスマス・シーズンに向けて強力なシングルが出揃った時期だったこともあり、全英チャートで最高97位という不本意な結果に終わってしまう。本来ならば、少なくともオーチとPWLの関係はこれ1曲で終わってしまうはずだった。ところが、翌'86年の初頭にアメリカで発売されるやいなや大反響を巻き起こし、ビルボードのダンス・チャートで見事に1位を獲得。全米でのディストリビュートを担当したマーキュリー・レコードはこの結果に大変満足し、すぐさま次のシングルとフル・アルバムの制作をオファーしてきたのである。
そこで、'86年の3月から4月にかけてPWLの面々とオーチは、セカンド・シングルを含めたアルバムのレコーディングを急ピッチで敢行。このレコーディングには当時ピート・ウォーターマンがスカウトしたばかりだった20歳の新人リック・アストリーも参加し、オーチとのデュエット曲“Learning
to Love (Without Your Love)”を吹き込んでいる。後にリックはオーチの“Whenever You Need
Somebody”をカバーしてヒットさせているが、この時の縁があっての選曲だったのかもしれない。
かくして、'86年7月に英米同時リリースされたセカンド・シングル“100%
Pure
Pain”は、ビルボードのダンス・チャートで最高23位というまずまずのヒットを記録。しかし、イギリスでは前作に引き続いて97位という低調ぶりだったことから、アメリカで先行発売されたアルバム“O'chi”のUKリリースが延期される事態となってしまった。
とりあえずアルバムのセールスに貢献できるようなヒットが欲しい。マグネット・レコードは“Two
Heart Beating As
One”をサード・シングルとして発売したものの、今度は全米でも全英でもチャートインすらされず。年末になってようやくイギリスでもアルバムが発売されたものの、やはりチャートインすることは叶わなかった。
ただ、アメリカや日本など国外でのセールスがワリと良かったこともあってか、マグネット・レコードはオーチのセカンド・アルバムの制作とリリースを決定する。ただし、今回はPWL抜きで。しかし、残念ながらアルバム“Light
the Night”はおろか先行シングル“Rock Your
Baby”(ジョージ・マクレーのハイエナジー風カバー)も全くの不発に終わってしまった。
で、当時リック・アストリーが“Never Gonna Give
You Up”で大ブレイクしたことから、マグネット・レコードは少しでもその恩恵に与ろうとオーチ&リックのデュエット曲“Learning to Love
(Without Your Love)”のリミックス盤を急遽シングル・カット。さらに、リックが“Whenever You Need
Somebody”のカバーを大ヒットさせると、本家のリミックス・バージョンを発表したのだが、残念ながらいずれも成功しなかった。
'88年にインディーズ・レーベル、ホット・エクステンションへと移籍したオーチは、キング・フロイドのヒット曲をカバーしたシングル“Groove
Me”をリリース。これまたほとんど見向きもされなかったことから、音楽業界を引退することとなったのである。
その後、結婚して2人の娘に恵まれたオーチ。現在は、ロンドンで子供向けのパーティ企画などを請け負う会社を経営しているという。今や音楽ファンの間でも知る人ぞ知る存在となってしまった感のある彼女だが、先ごろPWLと組んだアルバム“O'chi”が未発表バージョンなどを含む2枚組のデラックス・エディションとして再発売された。たとえリアルタイムで聴いたことがなくとも、80'sのダンス・ミュージックに興味のある音楽ファンなら絶対に買って損はないと思う。
シングル
A Whiter Shade of Pale
(1983) Whenever You Need Somebody
(1985) 100% Pure Pain
(1986)
(P)1983 Ariola Eurodisc
(W.Germany)
(P)1985 Magnet/Mercury
(USA)
(P)1986 Magnet Records
(UK)
side A
A Whiter Shade of Pale
6:05 ビデオ
side
B
When I'm Crying 3:52A side
1.Whenever You Need
Somebody
(Pull It Off Mix) 7:40 ビデオ
2. Whenever
You Need Somebody 3:26
B side
1.Whenever You Need Somebody
(Club Mix) 6:50
2.I Play Games 3:26
produced by Stock, Aitken
& WatermanA
100% Pure Pain
(Extended Version) 8:30
B
1.I Just Want To Be Loved
(Extended Version) 7:55
2.100% Pure Pain
(Seven Inch Version)
3:35 ビデオ
produced
by Stock/Aitken/Waterman
except B1by Tony Moore & Bob
Benham
ご存知プロコロ・ハルムのプログレ名曲をレゲエ・カバーしたラバーズ・ロック・ナンバー。なんといいますか、誰もが想像出来るような仕上がりです(笑)。ある意味では安心して聴ける一曲。原曲が好きな人はもちろん、ラバーズ・ロック・ファンにもお勧めできるナンバーです。
後にリック・アストリーもカバーしたPWLサウンドの隠れた名曲。こちらはオリジナルのエクステンデッドとリミックスを同時収録したお得仕様のUS盤です。よりジャジーなテイストを加えながらフロア向けに仕上げられたA1のリミックスがお薦め。
オーチの作品の中で個人的に一番好きなのがこれ。ちょっとオリエントな雰囲気が印象深いポップでキャッチーなダンス・ナンバーです。しかも、断然こちらのエクステンデッドがおススメ。PWLサウンドが最も充実していたのはこの頃まで…なんて言ったら怒られるかな(笑)。
100% Pure Pain - U.S. Extended Remix
(1986) Two Hearts Beating As One
(1986) Rock Your Baby
(1987)
(P)1986 Magnet Records
(UK)
(P)1986 Magnet Records
(Germany)
(P)1987 Magnet Records
(UK)
A side
100% Pure Pain
(U.S. Extended Remix) 7:32 ビデオ
B
side
1.100% Pure Pain
(U.S. Extended Dub Mix) 7:15
2.I
Just Wanted To Be Loved 4:35
produced by
Stock/Aitken/Waterman
except B2 by B. Benham & T. MooreA side
Two Hearts Beating As
One
(Extended Version) 5:55 ビデオ
B
side
1.Another Broken Heart 5:45
2.Two Hearts Beating As One
3:10
produced by Washbourn & Morrison
except B1 by Tony
Moore & Mel Simpsonside A
Rock Your Baby (Full
Version) 9:46 ビデオ
side
B
1.Rock Your Baby (Edit)3:59
2.Another Broken Heart
5:45
produced by Tony Moore & Mel Simpson
で、こちらがUSマーケット向けに制作されたリミックス・バージョン。ガラージ風のアンダーグランドなクラブサウンドを指向していることもあって、オリジナルのポップな魅力が失われてしまったのは惜しい。いっそのことメル&キムっぽくやってくれりゃ良かったのに。
不発に終わったPWLとのコラボ第3弾。2番手スタッフのウォッシュバーン&モリソンがプロデュースを手掛けています。プリンセス路線のソウルフルでアダルトなミディアム・チューン。方向性としては悪くないのですが、どうも楽曲のインパクトが弱かったように思います。
PWL陣営から離れて最初のシングル。かのジョージ・マクレエの名曲を大胆にハイエナジー・カバーしましたってところなんでしょうが、ん〜…って感じ(笑)。名曲をカバーすること自体はいいんですけどね。メロディがBPMのスピードに全く合っていない。完全な失敗作です。
アルバム
O'Chi
(1986)
(P)2011 Cherry Pop/Cherry Red
(UK)
CD 1
1.100% Pure Pain 3:40 ビデオ
2.Caught You
In A Lie 4:35 ビデオ
3.Lady
3:42
4.Whenever You Need Somebody 3:27
5.Two Hearts Beating As One
3:11
6.Learning To Love (Without Your Love)
duet with Rick
Astley 4:51
7.Fantasy 3:46
8.Call Me Up 3:18
9.Another Broken
Heart 5:45
bonus tracks
10.I Play Games 3:29
11.I Just Want To Be
Loved 4:40
12.Whenever You Need Somebody
(Extended Version)
6:49
13.100% Pure Pain
(Extended Version) 8:32
14.Two
Hearts Beating As One
(Extended Version) 5:59 ビデオ
15.Caught You
In A Lie
(Mega Dance Mix)5:31
16.Learning To Love (Without
Your Love)
(Midnight Lovers Mix) 7:16
duet with Rick
AstleyCD 2
1.100% Pure Pain (U.S. 7"
Remix) 3:59
2.Whenever You Need Somebody
(Pull It Off
Mix)7:48 ビデオ
3.Two Hearts
Beating As One
(New York Mix) 7:25
4.100% Pure Pain
(U.S. 12" Club Mix) 8:00 ビデオ
5.Another
Broken Heart (Remix)6:08
6.Whenever You Need Somebody
(Cool
& Deadly Mix)7:49
7.100% Pure Pain
(U.S. Album
Version)6:29
8.Two Hearts Beating As One
(U.S. Album
Version)6:25
9.I Just Wanted To Be Loved
(Extended
Version)7:56
10.Learning To Love (Without Your Love)
(Dub)
4:06
duet with Rick Astley
11.Whenever You Need
Somebody
(The Umbungo Mix) 6:39 ビデオ
12.100% Pure
Pain (Garage Mix)7:13
ボーナストラック大量収録の2枚組デラックス・エディションとしてめでたく再発されたサード・アルバム。シングル曲のクオリティに比べるとアルバムとしての完成度は及第点ですが、これだけおいしい音源が揃っていれば文句もないでしょう。このディスク1はシングル曲のオリジナル・エクステンデッドが一通り収録されているほか、Yo
Yoの手掛けた未発表ミックス#15も注目。もしかするとシングルで出す予定があったのかもしれませんね。
でもって、12インチ・リミックスやら未発表バージョンなどのレア音源をたっぷりと詰め込んだディスク2となります。意外にも良かったのは、ディスク1#16のB面用にリミックスされた#5。小粋なメロウ・ナンバーだったオリジナルを、アーバンなUKファンクへと巧いこと料理しています。フィル・ハーディングによる激レア・ミックス#6も、お馴染みの#2をベースにしながら、よりパーカッシブでクールに仕上げている。ファンなら大満足の1枚。
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