ノーマン・J・ウォーレン Norman J. Warren
〜UKホラー界のサイテー映画監督〜

 

NORMAN_J_WARREN.JPG

 

 ノーマン・J・ウォーレン。年季の入ったホラー映画マニアならば、その名前を聞くと妙に複雑な思いが胸をよぎることだろう。代表作とも言える「ザ・ショッカー/女子学生を襲った呪いの超常現象」('76)は、役者の顔ぶれにもロケ地のダークなゴシック・ムードにもすこぶる恵まれ、優れたオカルト映画となるポテンシャルを十二分に秘めた作品だった。しかし、まるでセンスに欠けた安っぽいショック演出と、リズム感に乏しいダラダラとした編集が、すっかり全てを台無しにしてしまった。しかも、これなど実はまだまだマシなほう。続く「人喰いエイリアン」('77)や「ギロチノイド」('78)、「悪魔の受胎」('81)、「タイム・ワープ・ゾーン」('87)など、いずれも貧相で悪趣味で不可解な代物ばかりを性懲りもなく作り続けたウォーレンは、かつてビデオレンタル全盛期にクズ映画監督の1人として悪名を馳せたものだった。ところが、時の流れとは不思議なもの。いつの間にやらその作品群は、一部の好事家からカルト映画として愛されるようになってしまったのだ。
 ん〜、カルト映画か。まさに、ものは言いようである。コアなマニアにどれだけ本当に愛されているのか定かではないが、少なくとも彼の映画を“面白い”と自信を持って言えるファンは結構な物好きかへそ曲がりだろう。タヌキ顔のエイリアンがレズビアン美女を食い殺す「人喰いエイリアン」、土偶みたいなエイリアンに孕ませられた女性宇宙飛行士が仲間を殺しまくる「悪魔の受胎」。ノーマン・J・ウォーレン監督の映画は、そのみすぼらしいビジュアルとえげつのない内容、限りなく下手っくそな演出で見る者の気分をドンヨリと落ち込ませる。そういった意味では、確かに異彩を放つ映像作家だったと言えるかもしれない。
 しかも、20年程のキャリアで残した作品の数は、短編を含めてもたったの12本程度。そのほとんどが、お世辞にも出来が良いとは言えないC級映画ばかりだ。にも関わらず、第一線を退いて25年になる現在もその名が脈々と語り継がれ、監督作品のほぼ全てがDVDやブルーレイで発売されているのだから、カルト映画の世界というのも実にけったいなもんである。

NORMAN_CUTTING_ROOM.JPG NORMAN_AND_DAVID.JPG

編集作業中のノーマン・J・ウォーレン

脚本家デヴィッド・マッギリヴレイ(右)とウォーレン

 1942年6月25日、ロンドンの生まれ。大の映画ファンだった母親の影響で、物心ついた頃から映画に魅せられていたというウォーレンは、12歳の誕生日に両親からプレゼントされた8ミリカメラで映画を撮るようになった。当然のことながら長じて映画界を志すようになるものの、映画作りの基礎を学んだわけでもなければ業界にコネがあるわけでもない彼にとって、イギリス映画界の門戸というのはなかなかに狭かったようだ。
 そんな折、映画製作者ディミトリ・ド・グランウォルドと知遇を得た彼は、いわゆる使い走りとして撮影スタジオで働くようになる。やがて助監督や編集助手の仕事も経験したわけだが、本人の希望とは裏腹に映画監督のチャンスはなかなか巡ってこなかった。そこで、彼は自らの腕前を証明するために“Fragment”という35ミリの短編映画を自主制作。これは若い女性の恋愛と別離、そして新たな出会いを一切のセリフなし、モダン・ジャズ・スタイルのBGMのみで描いた賞味10分程度のモノクロ映画で、クロード・ルルーシュやフランソワ・トリュフォーなどのフランス映画に影響されたことが伺えるような作品だった。
 早速、ウォーレンはこれを配給会社や映画館の関係者に見せて回ったところ、ロンドンで映画館を経営するリチャード・シュルマンという人物が興味を示し、独立系の小さな配給会社を経営する実業家バチュー・センを紹介。当時映画製作に乗り出すことを考えていたセンは、その第1回作品をウォーレンに任せることにしたのである。その作品がイギリスで最初のセックス映画と呼ばれる“Her Private Hell”('67)だ。
 華やかな成功を求めてロンドンへやって来たイタリア人モデルが、やがて男たちの欲望の餌食になっていくというありきたりな内容の映画だったが、当時としては大胆な性描写が話題を呼んで思わぬ大ヒットを記録した。さらに、2匹目のドジョウを狙った“Loving Feeling”('68)も成功し、ウォーレンは一躍ヒットメーカーとなったのである。
 しかし、そうはいっても所詮は低予算のセックス映画。作品のクオリティや監督としての技量が評価されたわけではない。しかも、儲かるのは映画会社だけで、ウォーレンが手にしたギャラは微々たるものだった。このままではセックス映画の監督というレッテルを貼られてしまうと危惧した彼は、バチュー・センからオファーされた3作目を断り、新たな方向性を模索することにした。
 とはいえ、アイディアはあっても製作費が集まらない。興味を示すプロデューサーや出資者は幾度となく現れたが、その度に契約は立ち消えとなった。結局、自らの企画が実現するまでにかかった歳月は8年。完成した作品が「ザ・ショッカー/女子学生を襲った呪いの超常現象」('76)だった。魔女伝説の残る屋敷で若い女性が経験する摩訶不思議な現象と恐怖を描いたオカルト映画。決して出来の良い作品ではなかったものの、主演マイケル・ガフのネームバリューやゴシックな雰囲気を醸し出すビジュアルのおかげもあって、興行的にはまずまずの成功を収めた。
 その翌年には「人喰いエイリアン」('77)を発表。若い男性の肉体に乗り移ったエイリアンが、レズビアン・カップルの暮らす屋敷に身を寄せ、最後は彼女たちを食い殺してしまうという怪作だ。まさにエロ・グロ・ナンセンスの三拍子揃ったSF(?)ホラー。露骨なセックス描写と悪趣味な残酷シーンが満載。しかし、なによりも正体を現したエイリアンのお粗末な特殊メイクが恐ろしくけったいで、女性の内臓を貪り食うえげつないシーンも含め、いろんな意味で後味の悪い映画だった。
 続く「ギロチノイド」('78)では再びオカルトのジャンルに挑戦。当時話題を呼んでいたダリオ・アルジェント監督の傑作「サスペリア」('77)を筆頭に、様々なイタリアン・ホラーの要素をパクってみたのはいいのだが、それがかえって彼のビジュアルセンスや演出力の乏しさを露呈する結果となってしまった。しかしながら、意外なのはこの作品が当時イギリスの興行収入ランキングで1位を獲得したこと。たまたま公開のタイミングが良かったのか、それともアルジェントをパクったのが正解だったのか、詳しい事情は定かではないものの、この極めて稚拙でいい加減なオカルト映画がメインストリームで通用してしまったことに驚きを禁じえない。
 ただ、この「ギロチノイド」の成功をもってしてもウォーレンの株は全く上がらなかった模様で、次の“Spaced Out”('79)は超のつく低予算のSFセックス・コメディ。「スター・ウォーズ」や「未知との遭遇」など当時のSF映画ブームに便乗しつつ、特殊効果にかける予算がないのでお色気で勝負しましたという感じだろうか。宇宙船の故障でロンドンへ不時着した3人のエイリアン美女を主人公に、生まれて初めて男という生き物に接した彼女たちが、興味津々で様々な実験を繰り広げるというお話。もちろん、アチラの実験も含まれるわけで、下らないといえば下らないものの、おおらかで他愛のないセックスと英国流ブラックジョークが微笑ましい作品だ。

INSEMINOID.JPG

「悪魔の受胎」より

 かくして、立て続けに4本の低予算映画をヒットさせたウォーレンは、次に”Gargoyles”というモンスター映画の準備に取り掛かるものの、これが脚本の段階で頓挫してしまった。そんな折、ウォーレン作品にも関わったことのある特殊効果マンのニック・メイリーとその妻グロリアから、とあるSFホラー映画の企画を持ちかけられた。それが、「エイリアン」の悪趣味なパクリ映画として日本でもちょっと話題になった「悪魔の受胎」('81)である。
 惑星探査に出かけた宇宙船の女性乗組員がエイリアンにレイプされ妊娠、胎内の子供に脳を支配されて凶暴化し、次々と仲間の乗組員たちを血祭りにあげていく。ウォーレン作品としては最も製作費のかかった映画らしいが、その見てくれはチープなことこの上なし。とりあえず埴輪みたいな姿をしたエイリアンのクリーチャー・デザインは面白いが、逆に言うと見どころはそれだけ。かつてのアイドル女優ジュディ・ギーソンの怪演も痛々しく、見なくていいものを見てしまったという嫌な気分に襲われる映画だった。
 とりあえず、当時の興行成績で最高5位をマークし、それなりの成功を収めた本作だったが、これ以降ウォーレンのキャリアは一気に下り坂となっていく。当時のイギリスではビデオレンタルが急速に普及し始め、インディペンデント系の娯楽映画はたちまち市場を失ってしまったのだ。テレビCMやミュージックビデオの仕事で食いつないだウォーレンは、007をパクったB級スパイ映画「ガンパウダー」('85)で久々にカムバック。しかし、超のつく低予算では派手なアクション・シーンを撮るのもままならず、ウォーレンも現場では半ばサジを投げてしまうような状況だったらしい。とてもじゃないが劇場公開など無茶だろう、ということで、本作はビデオスルーとなってしまった。
 さらに、次の「タイム・ワープ・ゾーン」('87)がまた、さらに輪をかけて酷い出来栄えだった。とある島を訪れた若者たちが時空の狭間に囚われてしまい、20年以上前の大晦日に事故死した人々の悪霊によって次々と殺されていく。アイディアそのものは決して悪くなかったのだが、製作会社の横槍で次々と改悪が重ねられた結果、全くつじつまの合わない理解不能なZ級SFホラーとなってしまった。そして、すっかり商業映画に嫌気がさしてしまったウォーレンは、これを最後に映画界の第一線から退いてしまう。
 その後、監督及び編集者として教育映画や産業映画、テレビCM、音楽ビデオなどに携わってきたウォーレン。自分の作品が今もなお忘れられることなく、しかもカルト映画として愛されていることに対して、まるで想像すらしなかったことだと語っている。まったくもって同感だ(笑)。

NORMAN_NOW.JPG

現在のノーマン・J・ウォーレン監督

 

 

ザ・ショッカー/女子学生を襲った呪いの超常現象
Satan's Slave (1976)
日本では劇場未公開・テレビ放送あり
VHS・DVD共に日本未発売

SATANS_SLAVE-DVD.JPG
(P)2012 Scorpion Releasing (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録)/画面比:2.35:1/モノラル
/音声:英語/字幕:なし/地域コード:A
LL/89分/製作:イギリス

<特典映像>
・制作当時のドキュメンタリー”All You Need Is Blood”
・最新ドキュメンタリー(出演:ウォーレン監督、デヴィッド・マッギルヴレイ、レス・ヤング、マーティン・ポッター、マイケル・クレイズなど)
・カトリーナ・リー・ウォーターズによる解説
・作曲家ジョン・スコットのインタビュー
・未公開シーン集
・オリジナル劇場予告編
・ウォーレン監督の短編Fragments
監督:ノーマン・J・ウォーレン
製作;レス・ヤング
   リチャード・クラフター
脚本:デヴィッド・マッギリヴレイ
撮影:デニス・バルキン
音楽:ジョン・スコット
出演:マイケル・ガフ
   マーティン・ポッター
   キャンデイス・グレンデニング
   バーバラ・ケラーマン
   マイケル・クレイズ
   グロリア・ウォーカー
   ジャームズ・ブリー
   セリア・ヒューイット

SATANS_SLAVE-1.JPG SATANS_SLAVE-2.JPG

謎のカルト教団による生贄の儀式

若い女性を暴行した末に殺害する美青年ステファン(M・ポッター)

SATANS_SLAVE-3.JPG SATANS_SLAVE-4.JPG

20歳の誕生日を控えたキャサリン(C・グレンデニング)と恋人ジョン(M・クレイズ)

キャサリンは両親と共に伯父の家へと向かうのだが…

<Review>
 ノーマン・J・ウォーレン監督にとって初めてのホラー映画。古い魔女伝説の残る豪邸にやって来た若い女性の経験する悪夢を描いていく。当時は「エクソシスト」('73)や「オーメン」('76)の大ヒットによるオカルト映画ブームの真っ只中だったわけだが、ウォーレン監督はあえてそうしたハリウッド映画の二番煎じを避け、ブリティッシュ・ホラーの伝統とも言うべきハマー・ホラーのスタイルを丁寧に踏襲している。中でも「影なき裁き」('66)や「悪魔の花嫁」('68)、”Straight on Till Morning”('72)といったサイコロジカル・サスペンスやオカルト・ホラーからの影響が濃厚。演出そのものは決して上手いとは言えないものの、雰囲気だけは十分にハマーっぽさを醸し出していると言えよう。
 主人公は20歳の誕生日を目前に控えた女子大生キャサリン。両親とともに伯父の家へ招かれた彼女だったが、突然の交通事故で両親が亡くなってしまう。ショックで打ちひしがれた彼女は、そのまま伯父の家に身を寄せることに。伯父は優しく見守ってくれるし、幼くして母親を失った従兄弟のステファンは彼女の悲しみを理解してくれる。しかし、この屋敷に恐ろしい秘密が隠されていることを彼女は知る由もなかった。
 というのも、実はキャサリンの家系は伝説的な魔女カミーラ・ヨークの子孫で、悪魔崇拝者である伯父アレクサンダーとステファンは強大な魔力を持つカミーラの復活を願っていた。そのためには直系の子孫、それも20歳になったばかりの女性の生贄が必要だったのだ。その事実に気付いたキャサリンは屋敷からの脱走を図るのだが…。
 とにかく、まずはロケーションが素晴らしい。ビクトリア調スタイルのゴシックな豪邸、整然とした中にどこか寂しさを感じさせる荘厳な英国式庭園、そして怪しげに広がる暗く奥深い森。邪教の聖地と言われてもおかしくないような、美しくも禍々しいムードを漂わせたその光景は実に魅力的だ。それだけで映画の格もだいぶ上がろうというものである。しかも、主演はブリティッシュ・ホラーの重鎮マイケル・ガフに、フェリーニの「サテリコン」('69)で知られる耽美系二枚目俳優マーティン・ポッターという魅力的な布陣。キャサリン役のキャンデイス・グレンデニングも、ピート・ウォーカー作品などに出演経験がある。少なくとも、舞台と役者はほぼ完璧に揃ったと言えるだろう。
 ただ、やはりウォーレン監督の技量不足はいかんともし難かった。なんというか、どうにもセンスが
垢抜けないのである。カメラの構図も動きもどこかぎこちなく、語り口のテンポもモッサリとしており、見ていてなんとも歯がゆい。ピート・ウォーカー作品で有名なデヴィッド・マッギリヴレイの書いた脚本も、今回はちょっと中だるみしている印象だ。国外マーケット向けに追加撮影されたゴア・シーンやエロ・シーンも、結果的に作品全体の流れを乱してしまったように感じられる。名作となり得るポテンシャルが高い作品なだけに、その出来栄えがなんとも惜しかった。
 なお、イギリスで公開されたオリジナル・バージョンは残酷描写の大半が検閲でカットされてしまい、それらを残したインターナショナル・バージョンのマスターは長いこと失われたままだった。2004年になってようやく完全版がイギリスの検閲をパスしたものの、これまでソフト化は実現せず。今年に入ってアメリカでリリースされた上記のDVDが、世界初の完全版ソフト化に当たる。

SATANS_SLAVE-5.JPG SATANS_SLAVE-6.JPG

両親を乗せた車がキャサリンの目の前で爆発する

優しく介抱してくれる伯父アレクサンダー(M・ガフ)

SATANS_SLAVE-7.JPG SATANS_SLAVE-8.JPG

従兄弟ステファンの次第に心を通わせていくキャサリン

キャサリンは屋敷周辺の禍々しい雰囲気を敏感に感じ取る


<Story>
 20歳の誕生日を間近に控えた女性キャサリン(キャンディス・グレンデニング)は、恋人ジョン(マイケル・クレイズ)としばしの別れを惜しみつつ、両親(ジェームズ・ブリー、セシリア・ヒューイット)と共に父方の伯父の家へと向かう。叔父のアレクサンダー(マイケル・ガフ)と会うのはこれが初めてだった。しかし、父親の運転する車が伯父の家の傍で事故を起こしてしまい、キャサリンが助けを呼ぶために外へ出たその直後、車は両親を乗せたまま爆発してしまった。
 ショックのあまり寝込んでしまったキャサリンを、伯父は優しく介抱する。だが、伯父アレクサンダーはどこか謎めいたところのある人物だった。その豪華な邸宅には、彼の息子でキャサリンの従兄弟に当たるステファン(マーティン・ポッター)と秘書フランシス(バーバラ・ケラーマン)が同居していた。
 ステファンは氷のように冷たい美貌を持つ若者で、その態度にもよそよそしさが感じられたものの、それでもなにかとキャサリンに気を使ってくれた。彼もまた幼い頃に母親を失っていたことから、2人はやがて少しづつ心を通わせていく。そんな彼らの姿を複雑な眼差しで見つめるフランシス。実は、彼女はステファンと秘かに肉体関係を持っていたのだ。だが、キャサリンがあずかり知らない事実はそれだけではなかった。というのも、ステファンは女性を虐待することで性的快感を得るサディストで、過去に恋人を殺してしまったこともあったのだ。
 ほどなくして、キャサリンは夜な夜な悪夢に悩まされるようになる。しかも、勝手に両親の葬儀の準備を進める伯父の態度も引っかかった。両親を埋葬したことで改めて悲しみに暮れるキャサリン。だが、屋敷の傍に広がる森の中にただならぬ気配を感じる。すぐに叔父の家を出て恋人ジョンのもとへ行こうと考えたキャサリンだったが、彼の自宅へ電話したところ見知らぬ女性から留守にしていることを伝えられて戸惑う。しかし、その頃ジョンは目に見えぬ邪悪な力によって操られ、自宅アパートの屋上から身を投げて死亡していた。
 悲しみと寂しさを紛らわすように、ステファンと結ばれるキャサリン。だが、伯父アレクサンダーは息子の軽率な行動を強く戒める。我々にはもっと重大な目的があるではないかと。そんなステファンとキャサリンの仲を嫉妬するフランシス。彼女は真夜中にこっそりとキャサリンを屋敷から連れ出し、その身に危険が迫っていることを告げるのだった。
 フランシスは茂みに隠された古い墓をキャサリンに見せる。それは、キャサリンの先祖に当たる魔女カミーラ・ヨークのものだった。実は伯父アレクサンダーは悪魔を崇拝するカルト教団のリーダーで、息子ステファンもその一員だった。彼らは強大な魔力を持つカミーラを復活させるため、キャサリンを生贄にしようと考えていたのだ。かつて彼らはステファンの母親を生贄にしたものの失敗。カミーラを蘇らせるためには、直系の子孫である成人女性の命が必要だったのである。
 生贄の儀式が行われるのはキャサリンの誕生日。つまり明日だった。すぐに屋敷から逃げるようキャサリンに促すフランシス。しかし、彼女はその裏切り行為に気づいたステファンによって殺され、キャサリンもまた囚われの身となってしまう…。

SATANS_SLAVE-9.JPG SATANS_SLAVE-10.JPG

目に見えない力によって恋人ジョンが殺されてしまう

募る不安や寂しさもあってステファンと肌を重ねるキャサリン

SATANS_SLAVE-11.JPG SATANS_SLAVE-12.JPG

叔父の秘書フランシス(B・ケラーマン)が一族の恐ろしい秘密を告げる

キャサリンの先祖カミーラは強大な力を持つ魔女だったのだ

<Information>
 後味の悪いストーリー展開は、脚本家デヴィッド・マッギリヴレイならではの持ち味と言えるだろう。もともと映画評論家からキャリアをスタートさせた彼は、イギリスの生んだカルト映画の鬼才ピート・ウォーカーのコラボレーターとしても有名。とはいえ、「拷問の魔人館」('74)や“Frightmare”('74)などのウォーカー作品における尋常ではないトラウマ指数の高さは、残念ながら本作では望むべくもない。これはウォーレン監督のパンチに欠ける演出力もさることながら、不快指数をかなりトーンダウンさせたマッギリヴレイの脚本にも起因するように思う。
 撮影を担当したのはドキュメンタリー出身のカメラマン、レス・ヤングを筆頭に、「エクストロ」('83)や「ロウヘッド・レックス」('86)などの低予算ホラーで知られるジョン・メトカーフ、主にテレビで活躍するジョン・シモンズ、テレビ・ドキュメンタリーが専門のスティーヴ・ハスケット、そして初期デレク・ジャーマン作品の撮影スタッフだったデニス・バルキンの5人。ヤングは本作のプロデューサーも兼ねている。
 さらに、美術監督には本作以降のウォーレン作品全てを手がけたヘイデン・ピアース、音楽スコアを「おませなツインキー」('69)や「ファイナル・カウントダウン」('80)、「ライオンハート」('90)などで有名な作曲家ジョン・スコットが担当。予算の都合上、スコットはスコア録音のために演奏家をたったの7人しか雇うことができなかったそうだ。

SATANS_SLAVE-13.JPG SATANS_SLAVE-14.JPG

裏切り行為のバレたフランシスはステファンに殺されてしまう

生贄の儀式へと連れて行かれるキャサリン

SATANS_SLAVE-15.JPG SATANS_SLAVE-16.JPG

キャサリンはステファンの眼球にペンを突き刺して逃げる

逃げるキャサリンの前に現れたのは死んだはずの父親だった…!?

 ヒロインのキャサリン役を演じているキャンディス・グレンデニングは、「愛欲の魔神島・謎の全裸美女惨殺体」('72)やピート・ウォーカーの“The Flesh and Blood Show”('72)などのホラー映画で脇役を務めていた当時の若手女優。いわゆる隣の女の子的な親しみやすさと爽やかさを兼ね備えており、美人ではないものの強く印象に残る女優と言えるだろう。恐らく、作品や役柄にもっと恵まれていれば、それなりのキャリアを築くことができたに違いない。本作でもクレジットこそ3番手ではあるものの、ヒロイン役としてしっかりと作品を引っ張っていて好印象だ。
 そのクレジットでトップ・ビリングを飾っているのは、伯父アレクサンダー役を演じているマイケル・ガフ。クリストファー・リーやピーター・カッシングほどのビッグネームではないものの、'50年代から数々のUKホラー作品に出演してきた名優だ。代表作はなんといってもカルト・ホラーとして熱狂的ファンの多い「黒死館の恐怖」('59)。そのほか、「赤い野獣」('63)や「呪われた血族」('70)などのマイナー作品に主演しつつ、その一方でアーサー役を演じた「吸血鬼ドラキュラ」('58)やダーシー卿を演じた「オペラの怪人」('62)といったハマー作品の脇役としても強い印象を残した。彼の大ファンだったティム・バートン監督作品の常連でもあり、中でも「バットマン」('89)シリーズの執事アルフレッド役はお馴染みであろう。本作では製作側の予算が少ないことに理解を示し、自ら率先して交通費や宿泊代を節約するために撮影現場近くに住む友人宅で寝泊まりし、衣装も全て自前のものを用意したのだそうだ。
 一方、美しい容姿と歪んだ内面を併せ持つ美青年ステファン役を演じているのは、巨匠フェリーニの大作「サテリコン」('69)で主人公エンコルピオを演じたマーティン・ポッター。見るからに暗くて繊細で神経質そうな美形俳優なのだが、そのせいでサイコな役柄ばかり充てがわれて大成はしなかった。これもその中の一つと言えるだろう。
 そのほか、「シーウルフ」('80)でロジャー・ムーアの相手役である美しき女スパイを演じたバーバラ・ケラーマン、イギリスの国民的テレビドラマ「ドクター・フー」のベン・ジャクソン役で有名になったマイケル・クレイズ、「女王陛下の007」('69)で悪役ガンボルドを演じていたジェームズ・ブリーなどが出演。また、脚本のデヴィッド・マッギリヴレイがフラッシュバック・シーンで、魔女カミーラ・ヨークを殺害するウィッチハンター役で顔を出している。
 なお、冒頭のカルト教団儀式で生贄にされる全裸美女(伯父アレキサンダーの妻)を演じているのは、本作のアソシエイト・プロデューサーであるモイラ・ヤング。もともとはプロの女優が演じるはずだったものの、直前になってヌードに怖気づいてしまったのか、撮影現場に現れなかったのだそうだ。そのため、本作のプロデューサーにして撮影監督でもあるレス・ヤングの妻モイラが、夫からの半ば強制的な命令で代役を務めることになったのだとか。本人も人前で裸になることに抵抗はなかったらしい。

 

ギロチノイド
Terror (1978)

日本では劇場未公開・テレビ放送あり
VHSは日本発売済・DVDは日本未発売

TERROR-DVD.JPG
(P)2004 Rhino Home Video (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米RHINO盤2枚組BOXセット)
カラー/スタンダードサイズ(オープンマット)/モノラル/画面比:1.33 : 1/音声:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/84分/製作:イギリス
※配給会社クラウン・インターナショナルが著作権を持つホラー映画全8本を収録

特典映像
なし
監督:ノーマン・J・ウォーレン
製作:リチャード・クラフター
   レス・ヤング
原案:レス・ヤング
   モイラ・ヤング
脚本:デヴィッド・マッギリヴレイ
撮影:レス・ヤング
音楽:アイヴァー・スラニー
出演:ジョン・ノーラン
   キャロリン・カレッジ
   ジェームズ・オーブリー
   サラ・ケラー
   トリシア・ウォルシュ
   グリニス・バーバー
   マイケル・クレイズ

TERROR-1.JPG TERROR-2.JPG TERROR-3.JPG TERROR-4.JPG

今から300年前、火あぶりの刑に処せられた魔女

ギャリック家の子孫を根絶やしにするとの呪いをかける

映画製作者ジェームズ(J・ノーラン)はギャリック家の子孫だった

ジェームズの妹アン(C・カレッジ)が催眠術にかけられる

<Review>
 ウォーレン監督曰く、アルジェントの「サスペリア」('77)に影響を受けた作品なのだそうだ。確かに、部分的には理解できないでもない。特に赤と青の照明を使った終盤のオカルト・シーンは、「サスペリア」のクライマックスをパクっているであろうこと一目瞭然だ。しかし、その完成度はアルジェントの前で土下座して謝って欲しいくらいのレベル。ビジュアルセンスのカケラもないのはどうしたもんか。
 そもそも、本作はイタリアン・ホラーにインスパイアされたと思しき設定やシーンが随所に見受けられる。数百年前に殺された魔女が復讐のために蘇るというストーリーはまんま「血ぬられた墓標」('60)だし、他にも「モデル連続殺人」や「サスペリアPART 2」などを彷彿とさせるシーンがそこかしこに。ただ、いかんせん演出もカメラワークもドン臭くて垢抜けない。まるで高校生の自主制作映画だ。
 主人公は映画製作者のジェームズ・ギャリック。新作映画の完成披露パーティの余興で友人が彼の妹アンに催眠術をかけたところ、それ以来ジェームズの周囲では関係者が次々と謎の死を遂げていく。実は彼の先祖は魔女ハンナを処刑した際に呪いをかけられており、この催眠術によってギャリック家への復讐に燃える魔女の幽霊がアンに乗り移ってしまったのだ。
 …とまあ、よくよく考えたらそれってジェームズとアンの2人を殺してしまいえば、さっさと片付く話だよね!?と突っ込みたくなるところ。なぜ魔女の霊がわざわざアンに乗り移って殺戮を繰り広げるのか一切の説明がないというのは、潔いと言うべきかご都合主義と言うべきか。「ザ・ショッカー女子学生を襲った呪いの超常現象」に続いてウォーレンと組んだデヴィッド・マッギリヴレイの脚本は、いつになく凡庸で歯切れが悪い。ストーリー展開も行き当たりばったりで脈絡ほとんどナシ。クライマックスも唐突であっけない。ピート・ウォーカー監督の怪作群を手がけた鬼才シナリオライターとはとても思えないような代物だ。
 ただ、中身の全部が全部ひどいというわけでもない。アンの友人スージーが真夜中に豪雨の田舎道で立ち往生してしまうなんかシーンは、アルジェントやセルジョ・マルティーノの優れたジャーロ作品を彷彿とさせる邪悪なムードと緊張感が感じられて良かった。それでもまあ、トータルで見れば安っぽいC級オカルト映画であることに変わりはないのだけど。

TERROR-5.JPG TERROR-6.JPG TERROR-7.JPG TERROR-8.JPG

人気女優キャロル(G・バーバー)が殺されてしまう

妹が犯人ではないかと疑うジェームズ

売れない女優のアンはナイトクラブで働いていた

アンに絡んだ酔っぱらいの客が惨殺される

<Story>
 映画製作者ジェームズ・ギャリック(ジョン・ノーラン)の新作が完成した。それはギャリック家にまつわる魔女伝説をベースにしたホラー映画。300年前、ジェームズの祖先であるギャリック卿は魔女ハンナを火あぶりの刑に処したのだが、その際に彼女はギャリック家の子孫を根絶やしにするという呪いをかけて息絶えたのだった。
 試写会が終わると、ギャリック家の豪邸で完成記念パーティが行われた。その席で、ジェームズの友人ゲイリー(マイケル・クレイズ)が人気女優キャロル(グリニス・バーバー)を相手に催眠術の余興を披露してみせる。しかし、いかにも芝居がかっていることをパーティ客に揶揄されたため、ゲイリーはジェームズの妹アン(キャロリン・カレッジ)にも催眠術をかけてみせた。もちろん冗談のつもりだったのだが、意外にもアンは本当にトランス状態に陥ってしまう。しかも、ゲイリーの制止も一切効果がなく、何かに取り疲れたような様子で一族に代々伝わるサーベルを手にし、あろうことか兄ジェームズを切りつけたのだった。
 騒然とするパーティ会場を抜け出したキャロルは、森の中で何者かに襲われてメッタ刺しにされてしまう。キャロルの行方を探したゲイリーは、木の幹に串刺しにされた彼女の遺体を発見する。事件はたちまち大スキャンダルとなった。ジェームズは妹のアンが事件に関与しているのではないかとの疑念を払拭できなかった。彼の募る不安と苛立ちは周囲にも少なからず影響を及ぼし、共同経営者フィリップ(ジェームズ・オーブリー)との関係も険悪になってしまう。
 一方、売れない女優のアンは仲間たちと共同生活を送っていたが、中でも親友のスージー(サラ・ケラー)は彼女の不安定な精神状態を心配していた。そんな折、スージーは実家の両親に会うため車を走らせていたのだが、全くの原因不明でエンコしてしまう。天候は荒れ模様で、しかも真夜中の田舎道。なんとか民家を発見して助けを呼ぶことができたのだが、車の故障原因は分からなかった。
 やがて、ウェイトレスとしてアルバイトをするアンにセクハラをした客が惨殺され、さらにはジェームズのスタジオで働くポルノ映画監督が照明の下敷きになって圧死。相次ぐ不審死に人々は震え上がり、その疑惑の目がアンに向けられるようになる。彼女自身もまた、近頃の自分の言動がおかしいことに気づいていた。
 そうこうしているうちに、今度はアンの女優仲間ヴィヴ(トリシア・ウォルシュ)がアパートの階段でメッタ刺しにされ、フィリップまでもが勝手に飛び交う撮影機材やフィルムに襲われた挙句、割れたガラスで首を切られて死亡する。警察はアンを容疑者としてマークした。自分が疑われていると気づいたアンは刑事たちの追跡を振り切って逃げようとするのだったが…。

TERROR-9.JPG TERROR-10.JPG TERROR-11.JPG TERROR-12.JPG

アンに疑いの目を向ける友人ヴィヴ(T・ウォルシュ)

そのヴィヴも何者かにメッタ刺しにされて息絶える

ジェームズの友人フィリップ(J・オーブリー)までもが犠牲に

果たして魔女の霊がアンに乗り移ったのか…?

<Information>
 主要スタッフは「ザ・ショッカー/女子学生を襲った呪いの超常現象」とほぼ同じ顔ぶれ。ただ、今回は製作と撮影監督を兼ねるレス・ヤングとその妻モイラがストーリーの原案を考え、それを基にデヴィッド・マッギリヴレイが脚本を書き上げた。また、音楽スコアはハマー・プロの初期作品を手がけていたアイヴァー・スラニーが担当。不気味なムードの中に叙情感を盛り込んだそのサウンドは、やはりイタリアン・ホラーをどことなく彷彿とさせるものがある。
 主人公ジェームズを演じているジョン・ノーランは、主にイギリスのテレビや舞台で活躍していた俳優で、なんとあのクリストファー・ノーランおよびジョナサン・ノーランの兄弟の叔父さんに当たる人物。「バットマン・ビギンズ」('05)と「ダーク・ナイト」('12)ではウェイン・エンタープライズの重役として顔を出していた。ただ、本作ではウォーレン監督の演技指導なのか、それとも出来の悪い脚本のせいでやる気が起きなかったのか分からないが、常に心ここにあらずといった感じの大根演技に終始している。
 その妹アンを演じているキャロリン・カレッジもイギリスのテレビ女優だったらしく、劇場用映画への出演は本作のみだった様子。詳しいキャリアなどは不明だが、本作のキャスト陣の中では最も体力を必要とするシーンの数々を果敢に演じている。決して上手いとは言えないものの、その熱演ぶりはなかなかのものだ。
 さらに、ピーター・ブルック監督の“Lor of the Flies”('63)の主演で知られる舞台俳優ジェームズ・オーブリー、本作が映画デビュー作だったサラ・ケラー、舞台の脚本家および女優として知られるトリシア・ウォルシュ、後に英国テレビ界の人気女優となるグリニス・バーバー、「ザ・ショッカー/女子学生を襲った呪いの超常現象」にも出ていたマイケル・クレイズなどが出演。ちなみに、トリシア・ウォルシュはブロードウェイの大物興行主フィリップ・J・スミスの元夫人としても有名で、欧米ではたびたびゴシップネタにも取り上げられるセレブだった。
 なお、上記の米Rhino盤DVDはオープン・マットのフル・フレームで収録されているが、実はこれが本作のオリジナル・フォーマット。劇場公開当時は画面の上下にマスキングをした上で、ビスタサイズとして上映されていた。恐らくフィルム代を安く済ませるためなのだろう。なので、他にもワイドスクリーン・エディションと銘打ったDVDも発売されているものの、ただ単に上下をカットしただけの擬似ワイドスクリーンなのでご注意を。

 

タイム・ワープ・ゾーン
Bloody New Year (1987)
日本では劇場未公開・ビデオ発売のみ
VHSは発売済・DVDは日本未発売

BLOODY_NEW_YEAR-DVD.JPG
(P)2003 Salvation Films/Image (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/モノラル/画面比:1.33 : 1/音声:英語・フランス語/字幕:なし/地域コード:1/
90分/製作:イギリス

特典映像
なし
監督:ノーマン・J・ウォーレン
製作:ハイデン・ピアース
脚本:フレイジャー・ピアース
撮影:ジョン・シャン
音楽:ニック・マグナス
出演:スージー・アッチソン
   ニッキ・ブルックス
   コリン・ヘイウッド
   マーク・パウリー
   キャサリン・ロマン
   ジュリアン・ロニー
   スティーヴ・エマーソン

BLOODY_NEW_YEAR-1.JPG BLOODY_NEW_YEAR-2.JPG BLOODY_NEW_YEAR-3.JPG BLOODY_NEW_YEAR-4.JPG

1959年の大晦日にとあるホテルで惨劇が…

遊園地で休日を楽しむ若者たち

悪ふざけが過ぎたせいで従業員に追いかけられてしまう

車に乗って逃げ出した若者たち

<Review>
 これが、ノーマン・J・ウォーレンにとって今のところ最後の長編映画となる。そして、おそらく彼のフィルモグラフィーの中でも特に理解不能でチープなこと極まりない怪作だ。怪作と一口に言っても良い意味から悪い意味までいろいろあると思うが、こちらは残念ながら悪い意味の方。本国のイギリスですら劇場公開されることなく、ビデオストレート扱いとなったのも無理はなかろう出来栄えだ。
 遊園地で遊んでいた若者たちは悪ふざけが過ぎてしまい、従業員から追いかけられてしまう。そこで彼らはボートに乗って海へ逃げるのだが、正体不明の島へと漂着。そこで彼らは古いホテルを発見するのだが、辺りには人っ子一人いない。実は、このホテルは1959年の大晦日に起きた飛行機墜落事故で大勢の死者を出し、そのまま時間が止まってしまっていたのだ。若者たちの前に姿を現す死者の霊、超人的なパワーで追いかけてくる遊園地の従業員たち、そしてゾンビと化していく仲間たち。果たして、彼らはこの島から生きて出られるのだろうか…?
 いや、なんで遊園地の従業員たちがわざわざここまで追いかけてくるのよ?しかもなんでスーパーマンみたいな怪力になっているのよ?そもそも、なぜ車で遊園地から逃亡した若者たちが、次の瞬間にはボートで海をさまよっているのよ?といた具合で、全くわけのわからないストーリー展開に頭を抱えてしまう作品。シュールというよりも無茶苦茶だ。登場する若者たちにも全く個性が与えられていないため、誰が誰なのだかさっぱり分からない。
 ただ、これについてはウォーレン監督にも言い分はあるだろう。どうやら、撮影の最中から製作会社の強引な横やりに振り回されてしまい、その都度ストーリーを修正していったところ収拾がつかなくなってしまったようなのだ。加えて、編集に関しても監督には発言権が与えられず、製作会社が勝手に指示を出してしまったらしい。なので、ウォーレン監督はこれを自分の作品とは認めていないようだ。
 その一方で、少ない予算の中で想像力を働かせたゴア・シーンの原始的な特殊メイクやSFXは、本来の意味とは違った方向性において楽しい。テーブルクロスのモンスターなんて、よく分からないけど妙な微笑ましさがある。また、切断された腕の根っこに隠された役者本人の肩が丸見えだったり、命を吹き込まれて襲いかかるパペットの丈が短すぎてスタッフの手がチラチラと見えてしまったり。まさにツッコミどころ満載だ。

BLOODY_NEW_YEAR-5.JPG BLOODY_NEW_YEAR-6.JPG BLOODY_NEW_YEAR-7.JPG BLOODY_NEW_YEAR-8.JPG

若者たちの乗ったボートが沈没してしまう

たどり着いた島で一軒のホテルを発見

宿泊客はおろかスタッフも見当たらなかった

鏡に映る不気味な女性の姿

<Story>
 1959年の大晦日。とあるホテルでは賑やかにパーティが行われている。やがて人々はどこかへと去っていき、一人残された女性もまた会場を後にしようとしたその時、彼女は衝撃的なものを目の当たりにした。それから数十年後の現代。遊園地で休日を楽しむ若者たちの姿があった。しかし、調子に乗って悪ふざけした彼らは従業員に追いかけられてしまい、お化け屋敷をめちゃくちゃにした挙句、車に乗って命からがら逃げ出す。
 若者たちはボートに乗って海へと漕ぎ出した。さすがに追手もここまでは来ないだろう。ホッとしたのも束の間、ボートの底に穴があいてしまい、慌てた若者たちはすぐ近くの島へと泳ぎ着いた。助けを求めて森の中を歩いていくと、彼らの目の前に一軒のホテルが。しかし、宿泊客はおろかスタッフも見当たらない。一瞬だけメイドが姿を現したものの、すぐにどこかへと消えてしまった。
 冒険感覚で無人ホテルを散策して回る若者たち。ところが、パーティ会場ではどこからともなく現れたオールディーズ風の男性デュオが歌を披露し、客室では若い女性の不気味な姿が鏡に浮かび上がる。なにかがおかしい…と若者たちが感じ始めた矢先、仲間たちが次々と怪現象に襲われる。しかも、遊園地の従業員たちがここまで追いかけてきた。すると、ゾンビと化した少女がその遊園地従業員たちを次々と殺害。しかし、仲間も一人また一人とゾンビ化していき、残されたレスリー(スージー・アッチソン)とリック(マーク・パウリー)は島からの脱出を試みるのだったが…。

BLOODY_NEW_YEAR-9.JPG BLOODY_NEW_YEAR-10.JPG BLOODY_NEW_YEAR-11.JPG BLOODY_NEW_YEAR-12.JPG

スクリーンから飛び出して若者を殺すアラブのシーク

漁船の網が人間に襲いかかる

これが問題(?)のテーブルクロス・モンスター!

廃墟の鏡に映るパイロットは何を訴えたいのか…?

<Information>
 脚本を手がけたフレイジャー・ピアースは、ウェールズ地方を拠点にテレビやインディペンデント映画のセットおよび小道具の作製に携わっている人物。製作者のハイデン・ピアースとは血縁関係にあると思われる。本作にはセット装飾係としても携わっているが、脚本を書いたのは後にも先にもこれだけだったようだ。ただ、先述したように本作の脚本は撮影現場で次々と書き換えられていったらしいので、実際に彼のアイディアが完成版にどれだけ残されているのかは定かでない。
 撮影監督のジョン・シャンはテレビのドキュメンタリー番組を幾つか手がけたことのあるカメラマン。編集を担当したカール・トムソンもドキュメンタリー出身だったようだ。また、チープな特殊効果を担当したデヴィッド・ウィリアムスはこれが初仕事だったらしく、後に「プライベート・ライアン」('98)や「グラディエーター」('00)、「バットマン・ビギンズ」('05)、「ダークナイト」('12)などの特殊効果スタッフに参加している。
 さらに、オールディーズ・ポップス風の挿入歌はクライ・ノー・モアというロックバンドが担当しており、劇中にもメンバーが登場して歌声を聞かせている。音楽スコアを手がけたニック・マグナスなる人物もこのバンドの一員。彼らは当時イギリスのEMIからメジャー・デビューしており、アルバムを2枚、シングルを7枚残しているものの、大して成功はしなかった様子。それでも、マグナスはキーボード奏者として元ジェネシスのギタリスト、スティーヴ・ハケットのソロアルバムやライブに長年関わっており、その筋では結構知られた存在のようだ。
 なお、本作は南ウェールズのリゾート地として有名なバリー・アイランドで撮影されている。冒頭に登場する遊園地は、同地の人気観光名所して今も健在のプレジャー・パーク。100年以上の歴史を誇る遊園地なのだそうだ。

BLOODY_NEW_YEAR-13.JPG BLOODY_NEW_YEAR-14.JPG BLOODY_NEW_YEAR-15.JPG BLOODY_NEW_YEAR-16.JPG

ホテルの中で吹雪に襲われる女の子

階段の手すりに置かれた鳥の彫刻が襲いかかる

よーく見ると、あれ…?腕が隠れていますよ(笑)

エレベーターに逃げ込んだ女の子の背後から…

 一応、主演格の活躍をする女の子レスリー役を演じているスージー・ハッチソンは、BBCの大人気コメディ「アブソリュートリー・ファビュラス」でエディナの母親役を演じ続けているベテラン女優ジューン・ホイットフィールドの娘。本人もテレビのコメディエンヌとして現在も活躍中だ。
 リック役を演じている2枚目俳優マーク・パウリーも、テレビを中心にバイプレイヤーとして今も現役。それ以外は無名の若手俳優ばかりがキャスティングされている。また、途中から超人的なパワーを発揮する遊園地従業員のオジサンを演じているスティーヴ・エマーソンという人は、どうやらスタントマンが本業だったらしい。古くは「007 ドクター・ノオ」や「007は2度死ぬ」、最近では「ウルフマン」('10)や「ヒューゴの不思議な発明」('11)のスタントに携わっていたようだ。

 

戻る