ナジワ・カラーム Najwa Karam

 

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 中近東の音楽大国レバノンが誇るスーパー・スター、ナジワ・カラーム。これまでに18枚のスタジオ・アルバムをリリースし、その大半がミリオン・セラーを記録しているという大物だ。しかも、アラブ語圏のみならずヨーロッパや北米、オセアニアでもその人気は高い。
 そもそも、レバノンからは他にもナワール・エル・ズグビーやエリッサ、ナンシー・アジュラムといった世界的なスターが生まれているが、全米8都市カナダ3都市を巡る大規模な北米ツアーを成功させることの出来たアーティストはやはりナジワくらいのものだろう。
 彼女の人気の秘密は、まずやはりその類稀な美貌にあると言えよう。誤解のないように付け足しておけば、歌い手としての才能も当然のことながらずば抜けている。しかし、アラブ歌謡の世界で歌が上手いというのは当たり前のこと。見た目の良さだけで歌手になることは出来ない、ということが大前提にあることを忘れてはならない。
 先述したようにレバノンは音楽大国として有名だが、同時に中近東でも随一の美人大国としても知られる。もともと、歴史を遡れば古代ローマ帝国の一部だったレバノン。かつて同国を統治していたフランスとは現在も密接な関係にあり、国民の40%がキリスト教徒という歴史的・文化的な背景から、他のアラブ語圏の国に比べると女性のファッションやライフスタイルに対する宗教的な制限や規制は表面上ないに等しい。
 そうしたこともあって、芸能界で活躍する女性たちも欧米並みにセクシーな美女ばかり。中でも、ナジワのエレガントで華やかな美貌には一際目を引くものがあると言えよう。そして、そのルックスを最大限に生かしたプロモーション・ビデオやジャケット写真、広告デザインなどが彼女の人気に拍車をかけていることは否定できまい。
 と同時に、他のアラブ系アーティストが欧米ポップスとの融合を積極的に進めている中、あくまでも伝統的なアラブ歌謡にこだわり続けている彼女の音楽的な姿勢も、多くの音楽ファンに支持されている大きな要因と言えよう。随所で欧米的なポピュラー・ミュージックのトレンドも取り入れてはいるが、やはりその基本は“ジャバリ”と呼ばれるレバノンの伝統音楽。近年は民族の様々な想いを歌ったメッセージ性の高い楽曲も発表しており、それが欧米に暮らすアラブ人たちの強い共感を呼んでいるようだ。

 1966年2月26日、レバノンの地方都市ザハレに生まれた彼女は、本名をナジワ・ニコラ・カラームという。ザハレは住民の殆んどがクリスチャンという町で、彼女の家系もマロン派のカトリック教徒。4人兄妹の末っ子として育った。
 幼い頃から歌が上手いと評判だった彼女だが、両親は娘が音楽の道へ進むことに反対。キリスト教系の大学を卒業して教師となったものの、歌手への夢を諦めきれず、テレビの人気オーディション番組“レバノンの夜”に出場した。ここで見事に優勝を勝ち取ったことから、父親の許しを得てレバノン音楽院へ入学。4年間に渡って音楽の基礎を学び、89年にプロの歌手としてデビューすることとなった。
 しかし、当時は地元の弱小レーベルに所属していたこともあって、初期のアルバムはセールス的にかなり伸び悩んだという。自らのキャリアのためには大手レコード会社のサポートが必要であることを痛感した彼女は、94年にアラブ語圏最大のレーベル、ロターナと契約。移籍第一弾となったアルバム“Naghmat Hob(愛のリズム)”が大ヒットととなり、ナジワはその年のレバノン放送協会が選ぶ最優秀アーティスト賞を獲得した。
 以降はヒットに次ぐヒットの連発。01年に発売されたアルバム“Nadmaneh(後悔)”は400万枚という驚異的なセールスを記録し、ナジワは所属レーベルのロターナから年間最優秀アルバム賞やベスト・セラー賞など数多くの賞を授与された。
 近年もアルバムを出すごとにヒット・チャートのナンバー・ワンを獲得しており、世界各国で数え切れないほどの音楽賞を受賞。また、国連の親善大使にも任命され、ボランティア活動やチャリティー・コンサートにも積極的に取り組んでいる。

 

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Greatest Hits (2004)

Saharni (2003)

Shu Mghaira..! (2004)

Kibir'el Hob (2005)

(P)2004 Rotana/EMI Music (UAE) (P)2003 Rotana/EMI Music (UAE) (P)2004 Stallions (USA) (P)2005 Rotana (UAE)
1,Saharni
2,Edhak Lil Dounya
3,Ewa Tekoun Zealt
4,Tahamouni ビデオ
5,Roba'l Wa Khomasi (Live)
6,Nadmaneh ビデオ
7,Ashqah ビデオ
8,Oyoun Albi
9,Ma Bessmahlak
10,Maghrouma ビデオ
11,Ana Meen ビデオ
12,Rouh Rouh
13,Atshana ビデオ
14,Khaleek Al Ardh
15,Majbourah
16,Neghmat Hob
17,Ya Habayeb
1,Saharni ビデオ
2,Lehbayeb
3,Edhak Lil Dounya
4,Chou El Maneh
5,Ma'houra Alayk
6,Hak El Layali
7,Ketr El Dalal
8,Saharni (Music)

produced by Rotana
1,Bahawak ビデオ
2,Shu Kent Teqele
3,Ya Donya
4,'Areft Akhtar
5,Shu Mghaira
6,Akher Dawa
7,Lailat Ma Kan Mashe
8,Liesh Magharab
1,Bkhaf Mnil'May
2,Ma Byinchibea
3,Kibir'el Hob
4,Baddak Terjaa
5,Hamseh Hamseh
6,Chou Hal Hala ビデオ
7,Talet Marra ビデオ
8,Bhebak Walaa ビデオ
 当時ロターナのディストリビューションを担っていたEMIアラビアがリリースしたベスト盤。それ以前にも欧米向けのコンピレーションが制作されていますが、オフィシャルなベスト盤はこれが初。94年以降のアルバムから選曲されており、彼女の主な代表作を聴くことができます。#3や#4ではヒップ・ホップの要素を取り入れ、ラップ風の語りも披露していますが、やはり全体的には伝統的アラブ歌謡の世界。最近のクラブ系ワールド・ミュージック人気でアラブ音楽に興味を持つようになったリスナーには、どうしても古臭く聴こえるかもしれません。  通算13枚目となるアルバム。当時は欧米のポップスやクラブ・ミュージックとの融合を図るアーティストが圧倒的多数で、ナジワ自身も欧米的なサウンドに傾倒しつつあった中、本作は伝統的なアラブ歌謡の世界へ回帰したことが高く評価され、アラブ語圏の年間セールスでトップを記録する大ヒットとなりました。#1と#3はシングルとしてもヒットしています。ただ、確かに楽曲そのものはアラブ歌謡の王道といった感じですが、随所に欧米ポップス的な音を隠し味として生かしており、全体的にとても聴きやすい作品に仕上がっていると思います。  前作からの伝統音楽的なカラーを踏襲しつつ、サウンド的にはより欧米ポップス的なアプローチを強めたハイブリッドな作品。ヒット・チャートでは6週に渡ってナンバー・ワンをキープしました。全体的にメロディアスな仕上がりで、かなり叙情的でセンチメンタルな印象の強いアルバムです。エレクトリックなアレンジを施したキャッチーでポップなアラブ歌謡ナンバー#1と#5がシングル・ヒットしていますが、個人的にはジャジーな風味を効かせたアダルトなラブ・ソング#2や、幻想的でもの悲しいバラード#6辺りがお気に入り。  レバノンの社会情勢を取り巻く様々な事情から発売が延期され、最終的に05年の11月にリリースされた通算15枚目のオリジナル・アルバム。ロターナの大々的な販促キャンペーンも功を奏し、クリスマス・シーズンから新年にかけてチャート1位を独占する爆発的な大ヒットとなりました。中でもタイトル曲#3は大変な人気となり、#8もシングル・ヒット。前作同様、欧米的なサウンド・テクノロジーを効果的に使用しているのが成功の秘訣かもしれません。ただ、全体的に似たような楽曲が多いのは玉に瑕。バラエティに乏しいという印象は拭えません。

HAYDA_HAKI.JPG AM_BEMZAH.JPG KHALLINI_SHOUFAK.JPG

Hayda Haki (2007)

Am Bimzah Ma'ak (2008)

Khallini Shoufak (2009)

(P)2007 Rotana (Kuwait) (P)2008 Rotana (Saudi Arabia) (P)2009 Rotana (Saudi Arabia)
1,Hayda Haki ビデオ
2,El Hanone
3,Hata Bi Ahlamak
4,Ana Rouh
5,Behkeek
6,Rajea' Tisa'al ビデオ
7,Law Ma Btekzob ビデオ
8,Nawer Eyami *

arranged by Tarek Akef
except * by Tony Enqa
1,Int'l Shams
2,Am Bimzah Ma'ak ビデオ
3,Katalna El Khawuf
4,Ament Kalbi ビデオ
5,El Hilm Labyad ビデオ
6,Kammil Aa Rouhi
7,Ta'a Khabyik ビデオ
8,Ma Bkhabbi Alik ビデオ
1,Allah Yeshghelo Balo
2,El Harami
3,Aboos 'Einak
4,Albi Masna' Baroud
5,Khallini Shoufak ビデオ
6,Wala'ha ビデオ
7,Eidak ビデオ
8,El Dini Em
 イスラエルとの紛争が勃発したことから、約1年半ぶりのリリースとなったアルバム。その間に民族の結束を訴え続けたナジワですが、この作品もメッセージ性の強い楽曲を中心に構成されています。しかも、サウンド面ではより一層のこと洗練されており、非常に聴き応えのある出来栄え。ナジワのボーカルにも、これまでにない力強さと情熱を感じることができます。中でも、タイトル・ナンバーとなった#1は名曲。気迫に満ちたコブシ回しを聴かせる#6も圧巻そのもの。大変な勢いとパワーを感じさせる名盤です。  これまた素晴らしい作品です。楽曲としては90年代のナジワを彷彿とさせるコアな民族音楽的要素が濃厚なのですが、そこへエレクトリックでトライバルなサウンドをめいっぱい盛り込んでおり、なんとも強烈なインパクトを残すアルバムに仕上がっています。いわゆるオリエンタル・ビート系のクラブ・サウンドが好きな人にも十分おススメできる1枚かもしれません。母国レバノンでは約1ヶ月に渡ってチャート1位を独占したそうですが、それも大いに納得の出来栄え。アラビアン・ポップス初心者にもおススメです。  一瞬別人かと思ってしまうくらい大胆なイメチェンをはかった最新作。既に#1と#3、#5、#7がシングルとして大ヒットしており、アラブ音楽界における今年最大の話題作と言われています。先日ロサンゼルスへ行った際にもCD店で強力プッシュされており、アメリカにおけるナジワの人気や知名度の高さを垣間見たような気がしました。ただ、内容的には革新的だった前作と打って変わり、5〜6年前のナジワに逆戻りしたような印象。昔からのファンは安心して聴けるのでしょうが、個人的には少々期待はずれでした。

 

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