Mulberry Street (2006)

※『ネズミゾンビ』として2008年10月に日本盤DVD発売されました

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(P)2008 Lionsgate (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン(スクィーズ収録
)/5.1chサラウンド/音声:英語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/84分/
製作:アメリカ

映像特典
ストーリーボード集
未公開シーン集
NGシーン集
スケッチ集
ネズミ撮影風景
特殊メイク・テスト映像
視覚効果テスト映像
監督:ジム・ミックル
製作:リンダ・モラン
    アダム・フォーク
脚本:ニック・ダミチ
    ジム・ミックル
撮影:ライアン・サミュル
特殊メイク:アダム・モロー
音楽:アンドレアス・カプサリス
出演:ニック・ダミチ
    キム・ブレア
    ロン・ブライス
    ボー・コーア
    ティム・ハウス
    ラリー・フレイシュマン
    アントン・ペイガン

 ニューヨークのインディペンデント映画界で活躍し、ジェーン・カンピオンの『イン・ザ・カット』('03)やオリヴァー・ストーンの『ワールド・トレード・センター』('06)でも渋い存在感を光らせていた俳優ニック・ダミチが、自ら脚本・主演を兼ねた新感覚のゾンビ映画。
 前半ではマンハッタンの日常をスタイリッシュなドキュメンタリー・タッチで捉えながら、後半に行くに従って正統派のゾンビ映画へと変貌していく。まるでジム・ジャームッシュやガス・ヴァン・サントがホラー映画を撮ったようなノリと言えばいいだろうか。必要以上の残酷シーンもなければ、無駄なお色気シーンも一切なし。たったの5000ドルという超低予算で作られた映画だが、作り手側の生真面目なくらいに真剣な意気込みが感じられる。残念ながら傑作とは呼べないものの、非常に好感の持てる作品だと思う。

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マンハッタンの地下にうごめくネズミたち

元ボクサーの寡黙な男クラッチ(N・ダミチ)

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クラッチの愛娘でアフガン帰りのケイシー(K・ブレア)

クラッチに思いを寄せるケイ(ボー・コーア)

 真夏のニューヨーク。マンハッタンはうだるような暑さだ。元ボクサーの床屋クラッチ(ニック・ダミチ)は早朝のマラソンを終え、リトル・イタリー地区マルベリー通りのアパートに戻ってきた。この界隈はマンハッタンでも歴史が古く、近所の誰もが顔見知りという下町。しかし、最近では大手不動産業者による再開発が進んでおり、彼の住む古びたアパートも立て壊される予定だった。入り口には立ち退きの告知が貼り出されている。
 一人暮らしのクラッチにはケイシー(キム・ブレア)という娘がいるが、軍隊に入ってアフガンで負傷していた。彼に思いを寄せるゲイの黒人ココ(ロン・ブライス)が身の回りの世話をしている。また、ココの向かい部屋に住むシングル・マザー、ケイ(ボー・コーア)もクラッチに気があるようだった。その他、昼間からバーに入り浸っている隠居老人チャーリー(ラリー・フレイシュマン)、その親友で病気がちな退役軍人フランク(ラリー・メディチ)らがアパートの住人。
 朝のテレビは地下鉄で乗客がネズミに噛まれたというニュースを伝えている。地下室で水道管の修理をしていた管理人ロス(ティム・ハウス)がネズミの死骸を発見するが、片付けようとした瞬間にネズミが生き返り、ロスは腕を噛まれてしまった。一方、勤務先のカフェ・バーで開店の準備をしていたケイも、様子のおかしい通行人をチラホラと見かけて怪訝そうな顔をする。

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クラッチの身を案じるココ(ロン・ブライス)

悪友でもあるフランク(L・メディチ)とチャーリー(L・フレイシュマン)

 今日は娘のケイシーが久しぶりに帰ってくる日だということもあって、クラッチは朝からそわそわと忙しい。ココも気を利かせてケーキを焼いてきた。一方、列車でニューヨークに到着したケイシーは、手持ちの金が無くなってしまったために徒歩で父親の元へ向っていた。マンハッタンではネズミの襲撃事件が次第に増えており、救急車が街中を行き交っている。通りでは人々が不安そうにその様子を眺めていた。
 やがて陽も落ち、ケイの働くカフェ・バーも仕事帰りのニューヨーカーで溢れかえっている。一組のカップルがトイレへと消えた。しかし、その数分後、男のほうが血を流して悲鳴をあげながら出てきた。従業員がトイレに向うと、そこにはゾンビと化した女が。彼女はネズミに噛まれていた。パニックに陥った人々は我先にと店を飛び出すが、外にも無数のゾンビがうごめいていた。一人で店に残されたケイは、カウンターの下に息を潜めて隠れる。
 一方、テレビの報道で街の異変を知ったクランチやココが窓の外を見ると、人々はパニックに陥って逃げ回っていた。そこへ、ゾンビと化した管理人ロスが襲い掛かって来る。なんとかロスを撃退したクランチは、危険を顧みず外へと飛び出していく。ケイと娘ケイシーを救うために・・・。

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ネズミ騒動に見舞われたマンハッタン

カウンターの下に隠れるケイ

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クランチに襲い掛かるゾンビ

アパートの外には人の臭いを嗅ぎつけたゾンビ集団が・・・

 これほど人間ドラマに焦点を当てたゾンビ映画というのも珍しいかもしれない。登場するのはごく平凡で人間味溢れるニューヨーカーたち。それぞれに悩みや問題を抱えながらも、コツコツと地道に生きている人ばかりだ。後半は主人公たちがアパートに立て篭もってゾンビ軍団と戦うわけだが、最後の最後までお互いに信頼し、支え合い、いたわり合う姿がなかなか感動的に描かれる。ヒューマニズム溢れるゾンビ映画というわけだ。
 ホラー映画ファンには、ゾンビの特殊メイクも気になるところ。本作がユニークなのは、そのゾンビの造形がネズミに似ているという点かもしれない。つまり、ネズミに噛まれた人間が突然変異してしまうのは、ゾンビというよりもネズミ人間と言うべきだろう。なので、突然変異が進行してくると、次第に四足歩行になっていく。こいつらが集団になって暗闇の階段を駆け上がってくるシーンは、ビジュアル的にかなり強烈なインパクトを残している。
 監督のジム・ミックルは『トランスアメリカ』('05)や『ショートバス』('06)などの撮影助手を務めてきた人で、これが監督2作目に当たる。処女作はコメディ映画。本人は熱狂的なホラー映画ファンらしいが、いわゆるホラー・マニア的な映画製作にはあまり興味がないようだ。本作もスコセッシの『ミーン・ストリート』('73)や『タクシー・ドライバー』('76)の影響を受けた部分が強く、他のゾンビ映画を意識することは特になかったという。
 そのミックルと共に脚本を手がけたのが主演のニック・ダミチ。二人は無名時代からの親友だった。本作も、もともとはダミチが数年前に書いたゾンビ映画の脚本がベースになっているらしい。先述したように予算はたったの5000ドル。スタッフやキャストには友人、家族、親戚をかき集め、ほぼノー・ギャラで参加してもらったという。当然、路上のパニック・シーンも無許可で撮影。それだけに、ドキュメンタリー映画のような臨場感が上手く出ているように思う。
 ちなみに、主人公クラッチの娘ケイシー役を演じているキム・ブレアは、人気女優カーラ・グギーノと大女優エレン・バースティンが主演する最新作“Our Lady of Victory”('08)でも準主演クラスで出演している注目株だ。

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