Se Infiel Y No Mires Con Quien (1985)

〜アルモドバル・ファン必見!ちょっとアブないセックス・コメディ〜

 

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(P)2005 Studio Latino (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/ワイドスクリーン/ステレオ/音声:スペイン語/字幕:英語/地域コード
:ALL/84分/製作:スペイン

映像特典
オリジナル劇場予告編
監督:フェルナンド・トルエバ
製作:アンドレ・ヴィセンテ・ゴメス
脚本:フェルナンド・トルエバ
撮影:フアン・アモロス
音楽:アンヘル・ムニョス・アロンソ
出演:アナ・ベレン
    カルメン・マウラ
    アントニオ・レシネス
    サンチャゴ・ラモス
    ヴェロニカ・フォルケ
    ギリエルモ・モンテニノス
    チュス・ラムプレアヴェ
特別出演:ビビ・アンデルセン

 「ベル・エポック」('92)の監督として日本でも知られるフェルナンド・トルエバ監督が、1985年に発表した抱腹絶倒のセックス・コメディ。オリジナル・タイトルを直訳するならば、“淫らになって恥知らずに歩け”といったところだろうか。正直者のカタブツ男が偶然見つけた手紙から妻の浮気を疑うようになる。それをきっかけに次々と誤解が誤解を生んでいき、とんでもない大騒動に発展していく。貞操観念を失った現代人の姿をスクリューボール・コメディのスタイルで描いた風刺劇なわけだが、そこはトルエバ監督のこと。主人公たちのモラルをとやかく言うこともなく、逆にタブーなき現代のセックス事情に翻弄される彼らの愚かで滑稽な姿を愛情たっぷりに描いている。
 また、日本の映画ファンにも興味深いのは、ペドロ・アルモドバル作品の常連俳優を揃えたキャストの顔ぶれだろう。30年代〜40年代のエルンスト・ルビッチ辺りを思わせる洒落た演出といい、お下品スレスレのギャグといい、いろいろな意味で「神経衰弱ぎりぎりの女たち」や「アタメ!」、「キカ」の頃のアルモドバルを思わせる作品だと思う。

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出版社を経営するフェルナンドとパコ

パコに振られた秘書シルヴィア(ヴェロニカ・フォルケ)

ローザ(アナ・ベレン)と親友カルメン(カルメン・マウラ)

 フェルナンド(アントニオ・レシネス)とパコ(サンチャゴ・ラモス)は、倒産寸前の児童書専門出版社を経営する親友コンビ。この危機を打開するため、2人はライバルである大手出版社と専属契約を結ぶ人気童話作家アデラ・モーラ女史(チュス・ラムプレアヴェ)の引き抜きを画策する。だが、ライバル会社が裏でポルノ雑誌を発行していることをネタに契約を取り付けようとするパコに、正直者のフェルナンドは強く反発。しかも、契約書を交わすための大切な接待を、浮気相手と会うために欠席するというパコに、フェルナンドは大激怒する。
 一方、フェルナンドの妻ローザ(アナ・ベレン)とパコの妻カルメン(カルメン・マウラ)はスポーツ・ジムでトレーニング中。マッチョなインストラクターに色目を使うカルメンに、ローザは半ば呆れ気味だ。友人の画家オスカル(ギリエルモ・モンテニノス)と合流した2人はショッピングに出かけるが、そこでカルメンはローザに今晩だけ自宅を貸してほしいと頼む。浮気相手の若い兵士とアバンチュールを楽しむためだ。フェルナンドとローザはモーラ女史との接待で留守にするわけだし、夫のパコも別件で出かけるという。自宅でコソコソ浮気するよりも、他人の家で思い切りパーッとセックスを楽しみたいというわけだ。
 ショッピングが終わってローザの自宅に戻った3人。買ったばかりの豪華なベッドの上で、浮気相手からの手紙をローザに見せるカルメン。生真面目なローザもさすがに根負けして、今夜だけ部屋を貸すことを約束する。出版社では相変わらずフェルナンドとパコが言い争い中。しかも、パコに振られたばかりの秘書シルヴィア(ヴェロニカ・フォルケ)は情緒不安定で泣いてばかり。苛立ったパコは事務所の本棚が実は秘密の扉になっていて、隣にあるフェルナンド&ローザ夫婦の自宅に繋がっていることを暴露してしまう。
 ローザたちが帰宅している事を知ったフェルナンドは自宅に戻るが、ベッドの上に置かれたカルメンの手紙を偶然見つけてしまう。事情を全く知らない彼は、ローザが浮気しているものと勘違いして大パニックに。そんなフェルナンドに同情したパコは、一緒になってローザの様子を探ろうとコソコソ。すると、それを見たオスカルは2人がデキてるものと勘違いしてしまう。

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ローザに浮気の相談をするカルメン

ローザの様子を伺うフェルナンドとパコ

2人の様子がおかしいことに気付くローザ

 夫たちの様子がおかしいことに気付いて文句を言うローザに、フェルナンドは遂にキレて彼女の浮気を糾弾。しかし、ローザはパコのいる前でカルメンの浮気を暴露するわけにもいかず慌てふためく。憤慨するあまり、契約書も持たずにモーラ女史のもとへ向ったフェルナンド。ローザとオスカルは急いで彼の後を追う。
 一方、オスカルからフェルナンドとパコがゲイだと聞かされたシルヴィアは、自分のお色気でパコを“正常”に戻そうと下着姿で誘惑するが、そんなところへモーラ女史がやってきてしまう。慌てたパコは秘密の扉を使ってモーラ女史を隣のフェルナンド宅へ誘導。しかし、こちらでは妻カルメンが浮気の真っ最中だった。
 物音に気付いたパコ。大慌てのカルメンは浮気相手の兵士を窓の外に追い出す。一方、事務所の方でも下着姿のシルヴィアが、モーラ女史に見つからないようにと窓の外へ。2人の姿を発見した通行人の通報で警察や救急車が駆けつけ、周辺はとんでもない大騒動となってしまう。
 一方、ホテルへ向ったフェルナンドは、モーラ女史が匿名で宿泊しているという部屋へ。すると、出てきたのは長身のセクシー美女。実はおっちょこちょいのシルヴィアの手違いで、彼が向ったのはパコの浮気相手である女性ラクエル(ビビ・アンデルセン)の部屋だった。お互いに相手が違う事に気付かないフェルナンドとラクエル。やる気満々のラクエルが服を脱いでフェルナンドに迫ったところで、彼の後を追ってきたローザとオスカルが到着して大乱闘に。警察に連行されたフェルナンドやローザたち。そこへパコやカルメンの一行も連れてこられ、警察署は上へ下への大騒ぎとなるのだった・・・。

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パコを誘惑しようとして大失敗のシルヴィア

パコの浮気相手ラクエル(ビビ・アンデルセン)

ちょっと場違いなモーラ女史(チュス・ラムプレアヴェ)

 1985年というと、ちょうどアルモドバルが「マタドール」('86)を発表する前の年。本作が彼の「ハイ・ヒール」('91)や「キカ」('93)を彷彿とさせる事を考えると、逆にトルエバ監督がアルモドバルに影響を与えた可能性も否定できないだろう。トルエバ作品は他に「ベル・エポック」しか見たことがないので何とも言えない部分ではあるが、いずれにせよ彼はアルモドバルと相通ずるユーモア・センスの持ち主だとは思う。

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浮気現場に夫が現れて大慌てのカルメン

警察署はドタバタの大騒ぎに

 先述したように、アルモドバル組を含めたキャストの顔ぶれは豪華で楽しい。まず、ローザ役を演じるアナ・ベレン。日本ではあまり知られていないが、スペインでは70年代から歌手兼女優として絶大な人気を誇るスーパー・スター。スペインのみならずメキシコや南米でも有名な大女優だ。当時はアイドルから本格的な女優へと成長しつつあった時期だが、ここでは比較的軽めな演技でキュートなコメディエンヌぶりを発揮している。
 そして、その親友であるカルメンを演じるのがカルメン・マウラ。初期アルモドバル作品のミューズであり、今やスペインを代表する名女優だ。どちらかというとアクの強い個性的なコメディエンヌというイメージが強いが、本作では全く違ったセクシーな一面を見せてくれる。何といっても、当時はまだ若い。思いがけずキュートで可愛らしいのが意外だった。本作ではサント・ジョルディ賞の最優秀女優賞を受賞している。
 アルモドバル組と言えば、一見堅物そうなオバサンであるモーラ女史を演じるチュス・ラムプレアヴェと巨大なセクシー美女ラクエルを演じるビビ・アンデルセン。特にビビ・アンデルセンのサイボーグのような美貌はここでも圧巻そのもの。本名をマヌエル・フェルナンデスというトランスジェンダーで、「欲望の法則」や「マタドール」、「ハイ・ヒール」、「キカ」と、本物の女性以上にゴージャスな美しさでアルモドバル映画の名物となった女優(?)だ。
 そして、忘れてはならないのが、おとぼけ秘書シルヴィアを演じるヴェロニカ・フォルケ。彼女も「グロリアの憂鬱」や「マタドール」、「キカ」などアルモドバル映画の常連。ちょっとオツムは弱いけど可愛くて憎めない女性というのは「キカ」と全く同じ路線だ。
 こうした女優陣に対して、ちょっと男優陣が地味目なのが気になるところではあるが、バカ正直で間抜けなフェルナンドを演じるアントニオ・レシネスの情けないダサ男ぶりはなかなかのはまり役。アレックス・デ・ラ・イグレシア監督の「ハイル・ミュタンテ!/電撃XX作戦」('93)では不細工テロリスト集団の親分を演じていた人だが、そういえばあれもアルモドバルがプロデュースした作品だった。
 何かとアルモドバルつながりの多い本作。アルモドバル・ファンなら是非とも一度はチェックしておきたい珍作である。

 ちなみに、アメリカ盤のDVDは“Move Over Mrs.Markham”というタイトルがついているのだが、これはジョン・ロイ・チャップマンとレイ・クーニーの書いた原作舞台劇のタイトルをそのまま使用したもの。まあ、分からないでもないのだが、本作では役名が変えられているのでマーカム夫人という人物は登場しないわけだし、もうちょっと頭を使った英語タイトルをつけて欲しかったかもしれない。

 

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