ムービー・テイルズ
キャノン・フィルムズのファンタジー映画シリーズ
キャノン・フィルムズと言っても、最近の若い映画ファンには馴染みがないかもしれない。1980〜90年代半ばにかけて、ハリウッドを席巻した独立系の映画会社だ。社長を務めたのはイスラエル出身のメナハム・ゴーランとヨーラム・グローバス。メナハム・ゴーランはもともと映画監督で、「特攻決戦隊」('70)や「サンダーボルト救出作戦」('77)など骨太なアクション映画を幾つも手掛け、“イスラエルの黒澤”とも呼ばれた人物だった。ヨーラム・グローバスはゴーランの従兄弟に当たり、プロデューサーとして活躍。日本でも大ヒットした性春コメディ「グローイング・アップ」シリーズをプロデュースしたのも、ゴーラン&グローバスのコンビだった。
「サンダーボルト救出作戦」がアカデミー最優秀外国語映画賞にノミネートされたことから、2人は授賞式に出席するためにロサンゼルスへ。そのままハリウッドに居を構え、弱小映画会社だったキャノン・フィルムズを買収したのが1979年の事だった。忍者映画ブームの火付け役となった「燃えよNINJA」('81)のヒットを足がかりに、チャールズ・ブロンソンの代表作「狼よさらば」('74)の続編に当たる「ロサンゼルス」('82)を製作。これが大当たりしたことから次々とブロンソン主演映画を放ち、キャノン・フィルムズは次第に軌道に乗っていくことになる。
キャノン・フィルムズの最大の特徴は、全くジャンルにこだわらない雑食的な制作体制にあった。メジャー・スタジオならいざ知らず、資本に限界のある独立系の映画会社は独自のカラーを打ち出すのが普通。しかし、ゴーラン&グローバスのコンビは、面白い企画であればバンバンとゴー・サインを出していった。
その結果、アンドレイ・コンチャロフスキー監督の「マリアの恋人」('84)やフランコ・ゼフィレッリ監督の「オテロ」('86)のような芸術映画から、シルヴィア・クリステル主演の「魔性の女スパイ」('85)やボー・デレク主演の「ボレロ愛欲の日々」('84)のようなソフト・ポルノまで様々なタイプの作品を生み出していった。
その他、スタローン主演の「コブラ」('86)や「オーバー・ザ・トップ」('87)があったかと思えば、チャック・ノリスの「地獄のヒーロー」('84)や「デルタ・フォース」('85)、さらにはゴダールの映画も作ったり、アガサ・クリスティ物を作ったり、「スーパーマン4」を作ったり、トビー・フーパーに「スペース・バンパイア」('85)や「悪魔のいけにえ2」('86)を撮らせるなど、本当に文字通り何でもアリの状態で次々と大量生産を繰り返した。最盛期には年間で40本以上の劇場用映画を発表していたという。
そのあまりの節操のなさから、次第にキャノン・フィルムズの作品というだけで批評家から酷評されるようになったものだったが、個人的には大好きな映画会社だった。トビー・フーパー監督が当時を振り返って、メナハム・ゴーランが熱狂的な映画ファンで、監督や俳優にきちんと敬意を払う理想的な経営者だった事を明かしていたが、実は僕自身がキャノン・フィルムズ作品に惹かれる大きな理由もそこにある。そう、ゴーラン&グローバスの制作体制には、コアな映画マニアの匂いがプンプンするのである。
確かに、まだ企画の段階で脚本も出来上がってないような作品をプロモーションして金を集めたり、本人たちの了解も得ないまま豪華スター共演の映画製作を公表したりと、かなり強引な経営スタイルには問題もあったと思う。しかし、80年代当時でイタリアの女流監督リリアーナ・カヴァーニに次々と映画を撮らせたり、クリストファー・リーとピーター・カッシング、ヴィンセント・プライスの共演作を70年代のカルト・ホラーの名匠ピート・ウォーカーに撮らせたりする英断は、映画への深い愛情と知識がなければ決して出来なかったはずだ。しかもアメリカの映画会社が、である。そのある種の盲目的な映画マニアぶりこそがキャノン・フィルムズの最大の魅力であり、同時に彼らを破産に追い込んだ大きな理由の一つだったように思う。
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“Rumpelstiltskin”より |
“The Emperor's New Clothes”より |
そんなキャノン・フィルムズが80年代半ばから後半にかけて製作したのが、“ムービー・テイルズ”シリーズである。これは、グリム童話など世界中で知られるお伽噺の数々を映画化したファンタジー映画シリーズで、低予算ながらもユニークな解釈と丁寧な作りで大変評判となった。残念ながら、日本では一本も劇場公開されず、テレビ放送やビデオ発売すらもされなかったが、アメリカでは未だに熱狂的なファンがいるくらい人気が高い。
約4年間の間に合計で9本が製作されたが、そのランナップは下記の通り。
1, The Frog Prince
(1986) カエルの王子さま
2, The Beauty and the Beast (1987) 美女と野獣
3, The Snow White
(1987) 白雪姫
4, Rumpelstiltskin (1987) ルンペルスティルツヒェン
5, The Emperor's New
Clothes (1987) 裸の王さま
6, Sleeping Beauty (1987) 眠れる森の美女
7, Puss in Boots
(1988) 長靴をはいた猫
8, Hansel and Gretel (1988) ヘンゼルとグレーテル
9, Red Riding Hood
(1989) 赤ずきん
アメリカでは“Rumpelstiltskin”が興行的に失敗したことから、以降の作品はビデオ・スルーとなってしまった。しかし、ちょうど当時はアメリカでもビデオ・レンタルが全盛期を迎えていた時代。ビデオのセールスやレンタルは大変好調で、アメリカでは子供時代にビデオで“ムービー・テイルズ”シリーズに親しんだという人が多い。ちなみに、ヨーロッパでの興行成績は良かったようで、殆どの作品が劇場公開されている。
ユニークなのは、いずれもミュージカル仕立てになっているところ。基本的にはオリジナル・ソングで構成されているが、「ヘンゼルとグレーテル」のみエンゲルベルト・フンパーディンクが制作したミュージカル劇をベースにしている。
音楽そのものはロジャース&ハマースタインやアンドリュー・ロイド・ウェッバーの足元にも及ばないくらいに平凡だが、カラフルで賑やかなダンス・シーンはシリーズの大きな魅力の一つになっている。また、製作費はあまりかかっていないものの、美しい美術セットや素朴な特殊効果が懐かしさを醸し出し、とてもドリーミーでファンタジックなお伽噺映画に仕上がっているのが嬉しい。そう、ちょうど劇団飛行船のミュージカルに似た魅力があるとと言えば分かりやすいかもしれない。あくまでも子供向けに作られてはいるものの、大人が見ても十分に楽しめる作品ばかりだ。できれば小学生くらいの頃に見たかったな、とも思う。
ちなみに、いずれの作品もイスラエルで撮影されていた。脇役やエキストラが明らかにユダヤ系の人ばかりなので、登場人物たちの顔つきに人種的な偏りが出てしまっているのが玉に瑕かもしれない。
現在、アメリカでは「カエルの王子様」と「眠れる森の美女」以外の7作品がDVD発売されており、その中からオススメの5作品を紹介しておこう。
Beauty
and the Beast (1987)
日本未公開
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(P)2005 MGM (USA) |
画質★★★★☆ 音質★★★★☆ |
DVD仕様(北米盤) カラー/スタンダード・サイズ/ステレオ・サラウンド/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/94分/制作:アメリカ・イスラエル 映像特典 オリジナル劇場予告編 |
監督:ユージン・マーナー 製作:メナハム・ゴーラン ヨーラム・グローバス 脚本:キャロル・ルシア・サトリーナ 撮影:アヴラハム・カルピック 音楽:ロリ・マッケルヴィー 出演:レベッカ・デ・モーネイ ジョン・サヴェージ ヨッシ・グレイバー マイケル・シュナイダー |
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妹に頼りきりの兄弟たち |
美女役のレベッカ・デ・モーネイ |
野獣を演じるのはジョン・サヴェージ |
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幻想的な野獣の城 |
夢の中に出てくる王子(J・サヴェージ) |
庭の彫像たちによる華麗な舞い |
ジャン・コクトー版の文学的な気品と絵画的な壮麗さには遠く及ばないものの、かなりコクトーの世界を意識している小品佳作。語り口的には子供向けではあるが、幻想的でダークな城内セットや彫像が踊りだしたりするファンタジックな演出のセンスは結構悪くない。SFXを殆ど使わず、舞台劇的な特殊効果で見せてくれるのが嬉しい。コクトー版が美術館に飾られている名画だとすれば、本作は少女向けの小粋でカラフルな絵本といった具合だろう。
舞台は裕福な商人の屋敷。末っ子の美女(レベッカ・デモーネイ)は亡き母に代わって家の全てを切り盛りしている。遊びや浪費に夢中の姉や兄たちは、彼女なしでは洋服の着替えすらできない。だが、港町に商品が届かなかった事から父親(ヨッシ・グレイバー)は破産し、一家は貧しい生活を送らねばならなくなる。もともと倹約家の美女は貧しさの中にも希望を見出して父親を支えるが、姉や兄は遊びや買い物の出来ない生活を嘆いて父親を激しく責める。そんな折、行方不明だった商品が港町に届いたとの連絡を受けた父親は、一家の期待を背負って旅に出ることになる。様々なお土産をせがむ姉や兄たちだったが、美女は一輪の薔薇の花だけを希望する。
意気揚々と港町に出かけた父親だったが、商品は船ごと転売されてしまった後だった。途方に暮れて帰路についた父親は、その途中で不思議な城を見つける。人影もなく静まり返った城だったが、中ではまるで彼を歓迎するかのようにテーブルの上に食事が用意されていた。再び帰路につこうとした時、父親は城の庭に咲いている薔薇を発見する。末っ子のお土産にと薔薇を一輪摘んだところ、城のテラスから恐ろしい姿をした野獣(ジョン・サヴェージ)が現れる。盗みを働いた罰として、末っ子の美女を野獣に差し出さねばならなくなった父親。それを聞いた美女は、父親のためにと自ら進んで野獣の城へと向うのだった・・・。
当時はまだ悪女的なイメージの強かったレベッカ・デ・モーネイが清純な美女役というのも意表を付くが、映画界きっての問題児だったジョン・サヴェージが野獣と王子の二役を演じているのも面白い。白タイツ姿のジョン・サヴェージなんて想像もしてなかったし。なかなかクセのあるキャスティングだと思う。レベッカの歌は決して上手いとは言えないが、逆にプロの歌手に吹替えさせたりしなかったのは賢明。女優は歌が上手くない方が、演技に説得力が出るものだ。
Snow White (1987)
日本未公開
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(P)2005 MGM (USA) |
画質★★★★☆ 音質★★★★☆ |
DVD仕様(北米盤) カラー/ワイドスクリーン/ステレオ・サラウンド/音声:英語・スペイン語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/83分/制作:アメリカ・イスラエル 映像特典 オリジナル劇場予告編 |
監督:マイケル・バーツ 製作:メナハム・ゴーラン ヨーラム・グローバス 脚本:マイケル・バーツ 撮影:アムノン・サロモン 音楽:アリク・ルディッチ 出演:ダイアナ・リッグ サラ・パターソン ニコラ・ステイプルトン ビリー・バーティ トニー・シェルドン |
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美しく幻想的な白雪姫のお城 |
魔法の鏡に向う王妃(ダイアナ・リッグ) |
幼い白雪姫(ニコラ・ステイプルトン) |
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白雪姫と7人の小人たち |
成長した白雪姫(サラ・パターソン) |
中国人に変装した王妃 |
“ムービー・テイルズ”シリーズの中でも、最も完成度が高いのがこの作品だろうと思う。まさに絵本の中から飛び出してきたかのようにカラフルでドリーミーな美術セットの美しさ、王妃を演じるダイアナ・リッグの大袈裟なくらいにビッチでクイアーな演技とケバケバしい衣装、そしてグリム兄弟の原作に極めて忠実で無駄なくまとめられた脚本。ディズニーのアニメとはまた違ったキッチュなテイストとファンシーな乙女チックが絶妙にブレンドされた、とてもユニークな「白雪姫」に仕上がっている。
雪の降りしきる森を探索する王子とその一行。彼らは、森の奥で棺を守る小人たちと遭遇する。事情を尋ねた王子に、小人の長老イディー(ビリー・バーティ)は白雪姫の話を語り始める。ある雪深い冬の日、お城で一人のお姫様が生まれる。その名は白雪姫(ニコラ・ステイプルトン)。王妃は出産の直後に亡くなってしまったが、父である国王(トニー・シェルドン)の愛情を一身に受けた姫はすくすくと育つ。だが、そんな姫を疎ましく感じているのが、新しい王妃(ダイアナ・リッグ)だった。秘かに魔法を使っている王妃は、“世界で一番美しいのは白雪姫”だという魔法の鏡の言葉に激怒し、姫を森に連れて行って殺すよう家来に命じる。しかし、姫を憐れに思った家来は、殺さずに城へと戻ってきた。深い森の中で道に迷った白雪姫は、やがて可愛らしい小屋を発見する。テーブルに残されていた料理を平らげた白雪姫は、歩き疲れたせいでいつの間にか眠ってしまう。そこへ帰ってきたのは、この小屋に住む7人の小人たちだった。姫の事情を察した小人たちは、彼女を一緒に住まわせることにする。
それから数年後、すっかり大きくなった白雪姫(サラ・パターソン)。しかし、城では娘が死んだと思い込んだ国王が悲しみのあまり戦争で命を落とし、残された王妃が我が世の春を謳歌していた。そんなある日、王妃は魔法の鏡に白雪姫がまだ生きている事を知らされる。怒り狂った彼女は、中国人の行商人や老婆などに化け、姫を亡き者にしようとあの手この手の策を練るのだが・・・。
王妃役のダイアナ・リッグは、「女王陛下の007」('69)の元ボンド・ガールで、60年代に世界中でヒットしたイギリスのTVドラマ「おしゃれ㊙探偵」のヒロイン、エマ・ピール役で絶大な人気を誇る人。その一方で、シェイクスピア女優としても数多くの演劇賞を受賞している大女優だ。本作ではゴージャスで悪趣味な衣装を身にまとい、ドラッグ・クイーンばりの怪演を見せてくれる。また、成長した白雪姫を演じるサラ・パターソンもはまり役。彼女、ニール・ジョーダン監督の名作「狼の血族」('84)では赤ずきんを演じていたが、お伽噺のヒロインがこれだけ似合う女優さんもそうそういないだろう。その少女時代を演じるニコラ・ステイプルトンも好演。その後、彼女はイギリスの長寿ドラマ“East Enders”に出演して人気を得ている。
Puss In Boots
(1988)
日本未公開
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(P)2005 MGM (USA) |
画質★★★☆☆ 音質★★★★☆ |
DVD仕様(北米盤) カラー/スタンダード・サイズ/ステレオ・サラウンド/音声:英語・スペイン語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/96分/製作:アメリカ・イスラエル 映像特典 オリジナル劇場予告編 |
監督:ユージン・マーナー 製作:メナハム・ゴーラン ヨーラム・グローバス 脚本:キャロル・ルシア・サトリーナ 撮影:アヴィ・カルピック 音楽:ラフィ・カディシュソン 出演:クリストファー・ウォーケン ジェイソン・コネリー カルメラ・マーナー ヨッシ・グレイバー |
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粉引き職人の末っ子(ジェイソン・コネリー) |
猫役のクリストファー・ウォーケン |
旅を続ける猫とご主人様 |
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カラバ侯爵を名乗って城へ招待される |
華やかな宮廷の舞踏会 |
何も知らないヴェラ姫(カルメラ・マーナー) |
シェルル・ペローの童話「長靴をはいた猫」をライブ・アクションで映画化した作品。着ぐるみや特殊メイクを一切使用せず、猫が人間に姿を変えるように設定したのは大正解だった。しかも演じるのは猫顔のクリストファー・ウォーケン。天下のクセモノ俳優ウォーケンが童話映画に主演するというのも驚きだが、これがまた絶妙なキャスティングになっている。中世のヨーロッパを見事に再現した豪華で美しい美術セット、原作の世界観を大切にした素朴で丁寧な演出など、“ムービー・テイルズ”シリーズ独特のほのぼのとしたタッチが安心できる良質のファンタジー映画だ。
小さな粉引き小屋の主人が亡くなった。3人の息子に僅かな遺産が分配されたが、末っ子(ジェイソン・コネリー)に残されたのは一匹の猫だけだった。独り立ちをすべく猫を連れて旅に出た末っ子だが、正直なところ行く当てもない。すると、突然猫が人間に姿を変えた。ビックリする主人に向って猫(クリストファー・ウォーケン)は“長靴を買ってくれ”と頼む。末っ子は言われるとおりに市場で長靴を買い求める。長靴をはいた猫は上機嫌。そこへ、人食い鬼に追われている男がやって来る。この辺りでは、様々な動物に姿を変えることが出来る人食い鬼が人々を悩ませていた。猫は持ち前の身軽さと知恵で人食い鬼を煙に巻く。
ご主人様を立身出世させようと考える猫は、カラバ侯爵の使いの者を名乗って城を訪れる。王様(ヨッシ・クレイバー)は猫が手にしているカラバ侯爵からの土産だという珍しい鳥に興味を持ち、もっと持ってくるようにと求めた。こうして、猫はすっかり王様のお気に入りとなる。次に、猫は主人を川で水浴びをさせる。そこへ王様とヴェラ姫(カルメラ・マーナー)を乗せた馬車が通りかかると、猫は“カラバ侯爵様が水浴び中に泥棒に持ち物を取られた”と訴える。カラバ侯爵として城に招かれた末っ子は、ヴェラ姫と相思相愛の仲になるのだが、王様と王妃の2人はカラバ侯爵の領土を一目みたいと言い出す。いよいよ正体がバレてしまうかと思いきや、猫にはある秘策があったのだった・・・。
人間に姿を変えた猫を嬉々として演じるクリストファー・ウォーケンの、コミカルでオフビートな演技が非常に珍しい。そのご主人様である粉引き職人の末っ子を演じるのはジェイソン・コネリー。そう、あのショーン・コネリーの息子だ。多くの二世俳優と同様に偉大すぎる父親の陰に隠れて大成できなかった人だが、この作品ではその育ちの良さが上手く生かされていて、とても素朴でチャーミングな魅力を見せてくれる。下手にタフなアクション俳優として売り出すよりも、父親とは全く違ったソフトな2枚目路線の方が合っていたのかもしれない。
ただ、お姫様役のカルメラ・マーナーはミス・キャスト。同じく“ムービー・テイルズ”シリーズの“Beauty
and the
Beast”で美女の姉役を演じていた人だが、お姫様を演じるには余りにも顔や仕草が下品すぎる。名前から察するにユージン・マーナー監督の身内に当たる人なのだろうが、どう考えてもお姫様に見えないのは痛かった。
Hansel and Gretel
(1988)
日本未公開
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(P)2005 MGM (USA) |
画質★★★★☆ 音質★★★★☆ |
DVD仕様(北米盤) カラー/スタンダード・サイズ/ステレオ・サラウンド/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/86分/製作:アメリカ・イスラエル 映像特典 オリジナル劇場予告編 |
監督:レン・タラン 製作:メナハム・ゴーラン ヨーラム・グローバス 脚本:ナンシー・ウィームス レン・タラン 撮影:イラン・ローゼンバーグ 音楽:エンゲルベルト・フンパーディンク 出演:デヴィッド・ワーナー クロリス・リーチマン ヒュー・ポラード ニコラ・ステイプルトン エミリー・リチャード |
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仲良しのヘンゼルとグレーテル |
心優しいパパ(D・ワーナー)とママ |
森の奥でお菓子の家を発見する |
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優しそうなお婆さん(クロリス・リーチマン) |
次々と出されるお菓子やケーキの数々 |
お婆さんの正体は恐ろしい魔女だった |
グリム兄弟の原作では、飢饉による口減らしのために森に捨てられてしまうヘンゼルとグレーテルだが、さすがにそんな残酷な話ではファンタジー映画にならないということで、大幅にストーリーが変えられている作品。とはいえ、世間に流布されている「ヘンゼルとグレーテル」の本にしても、原作をそのまま使用しているものは殆どなく、子供向けに改変されているものばかりなので大した問題ではなかろう。
ヘンゼルとグレーテルが森で迷うまでの前振りが長すぎるように感じるものの、絵本から抜け出てきたようなカラフルな楽しさは“ムービー・テイルズ”シリーズらしい魅力。特に、お菓子の家で次々と出されるケーキやスイーツの美味しそうなことといったら!
森の側に住む木こり(デヴィッド・ワーナー)の子供であるヘンゼル(ヒュー・ポラード)とグレーテル(ニコラ・パターソン)。両親の愛情に恵まれて育った二人だが、家は極端に貧しかった。町のパン屋に薪を売りに出かける父親だが、意地悪な主人に安く買い叩かれてしまう。賑やかな町の様子に胸を躍らせるヘンゼルとグレーテルの姿を見ながら、子供たちにお菓子の一つも買ってやれない不甲斐なさにうなだれる父親。ある日、ひもじい思いをしている幼い2人を不憫に思った隣人が、新鮮な牛乳を分けてくれた。これを使って子供たちのためにお菓子を作ろうと考えた母親は小麦粉を買うために出かけるが、その留守中にヘンゼルとグレーテルの不注意で牛乳が全部こぼれ落ちてしまう。嘆き悲しむ母親を見た2人は、森で甘い木の実を摘んで来ようと考える。しかし、森には魔女が住んでいると噂され、子供が入ることは禁じられていた。
道に迷わないようにと、ポケットの中に残された僅かなパンを道しるべとして落として行ったヘンゼルとグレーテルだったが、気がつくと森の小鳥たちに食べられてしまっていた。森の中を彷徨った挙句、一晩を過ごしたヘンゼルとグレーテル。目を覚ました2人は、目の前に不思議な家を発見する。近づいてみると、その家はお菓子で出来ていた。お腹がすいた2人は、家を飾っているチョコやキャンディを無我夢中で食べていた。そこへ、中から一人のお婆さん(クロリス・リーチマン)が出てくる。親切そうに二人を中へ招きいれたお婆さんは、次から次へと美味しそうなお菓子やケーキを作ってくれた。すっかりお腹がいっぱいになったヘンゼルとグレーテルは、この家に泊めてもらうことにする。しかし、夜中に目を覚ましたグレーテルは、お婆さんが恐ろしい魔女であることを知ってしまう・・・。
一応、キャスト・クレジット上は父親役のデヴィッド・ワーナーが主演ということになっているが、実質的には子役の2人と魔女役のクロリス・リーチマンが主役と言うべきだろう。クロリス・リーチマンは名作「ラスト・ショー」('70)でアカデミー助演女優賞を受賞した名女優。エキセントリックな顔立ちでメル・ブルックス作品などのコメディ映画でも活躍した個性派だが、もともとはミス・シカゴとしてミス・アメリカにも出場した事のある人で、デビュー当時はモンロー・タイプのブロンド美女として売り出された人だった。本作ではメル・ブルックスの「ヤング・フランケンシュタイン」('74)や「新サイコ」('77)を彷彿とさせるノリノリの怪演ぶりで、まさにお伽噺の魔女といった感じ。子役のヒュー・ポラードとニコラ・ステイプルトンの2人もイメージにピッタリだった。
Red Riding Hood
(1989)
日本未公開
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(P)2004 MGM (USA) |
画質★★★★☆ 音質★★★★☆ |
DVD仕様(北米盤) カラー/スタンダード・サイズ/ステレオ・サラウンド/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/81分 /製作:アメリカ・イスラエル 映像特典 オリジナル劇場予告編 |
監督:アダム・ブルックス 製作:メナハム・ゴーラン ヨーラム・グローバス 脚本:キャロル・ルシア・サトリーナ 撮影:ユーリ・ネイマン イェーヒ・シュネグール 音楽:スティーブン・ローレンス 出演:クレイグ・T・ネルソン イザベラ・ロッセリーニ アメリア・シャンクリー ロッコ・シスト ヘレン・グレイザリー |
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ヒロインのリネット(アメリカ・シャンクリー) |
母レディ・イj−ン(イザベラ・ロッセリーニ) |
人間に姿を変えた狼(ロッコ・シスト) |
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邪悪なゴッドフリー(クレイグ・T・ネルソン) |
近くを通りかかった漁師の正体は・・・ |
リネットを丸呑みしてしまった狼 |
「赤ずきん」の映画化と言えば、やはりニール・ジョーダン監督の傑作「狼の血族」('84)が一番有名だろう。ニール・ジョーダン監督は少女と狼の物語を思春期に特有の性への誘惑や怖れとしてホラー・タッチで描いていたが、本作はグリム兄弟の原作にシンデレラ・ストーリー的な要素を加味する事によって純粋なお伽噺として映像化している。
ちなみに、原作はグリム童話以前から存在するヨーロッパの古い民話で、シャルル・ペローの童話集にも登場している。やはり、当時の飢饉であったり、性の目覚めであったりという部分をモチーフにしており、もともとからかなり怪奇幻想色の強い作品だった。
そうした原作の背景をそっくり削除してしまったという点で、本作の評価も大きく分かれてしまうかもしれないが、これはあくまでも子供向けの作品。もともとの話にはない妖術などのファンタジックな味付けは決して悪くはなく、「赤ずきん」の数あるバリエーションの一つとして見るべきだろうと思う。ただ、赤ずきんを呑み込んだ狼が、半分人間の姿になってしまうシーンの特殊メイクが余りにもお粗末。せっかくの雰囲気を台無しにしなってしまったのが残念だった。その辺りは、低予算映画の限界なのかもしれない。
舞台はとある小さな村。少女リネット(アメリア・シャンクリー)は、美しく優しい母親レディ・ジーン(イザベラ・ロッセリーニ)と暮らしている。父親(クレイグ・T・ネルソン)は村の領主だが、戦争に行ったまま行方知れずになっており、その腹黒い弟ゴッドフリー(同じくクレイグ・T・ネルソン)が権力を奪ってしまっていた。ゴッドフリーは悪魔に魂を売ったことから妖術を使えるようになっており、狼を人間(ロッコ・シスト)に変身させてスパイとして使っていた。
レディ・ジーンを我が物にしたいゴッドフリーだが、娘のためにも夫の帰りを待ち続けるというレディ・ジーンに拒絶されてしまう。そこで、リネットを邪魔者と考えたゴッドフリーは、手下の狼に彼女を始末するように命じる。人間に姿を変えた狼は、赤いずきんをかぶったリネットが森に住む祖母(ヘレン・グレイザリー)のもとに出かけるという事を知って先回りをする。ちょうど祖母は留守にしており、狼は老婆の格好をしてベッドにもぐりこんでいた。何も知らずにやって来たリネットに、体調が悪くて寝込んでいると嘘をつく狼。祖母だと思って近づいたリネットは、狼に丸呑みされてしまう・・・。
シリーズ末期の作品という事もあって、全体的に低予算ぶりも顕著になっているが、そんな本作を救っているのがリネットを演じるアメリア・シャンクリーの美少女ぶりだろう。「ドリームチャイルド」('85)で「不思議の国のアリス」のモデルとなった美少女アリス役を演じていた子役だ。もちろん、母親レディ・ジーン役を演じるイザベラ・ロッセリーニの美しさも負けてはいない。彼女も、この頃が一番キレイだったように思う。ふとした時に見せる笑顔などは、母親イングリッド・バーグマンにソックリだ。
一方、リネットの父親とその弟の二役を演じるクレイグ・T・ネルソン。日本でも「ポルターガイスト」シリーズのお父さん役でお馴染みだが、コミカルな演技にはあまり向いていない様子で、本作の腹黒い弟ゴッドフリーの演技にはぎこちなさを感じる。また、狼役のロッコ・シストの存在感の薄さも本作の弱点で、悪役にもうちょっと魅力のある役者が必要だったかもしれない。
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Rumpelstiltskin (1987) |
The Emperor's New Clothes (1987) |
(P)2005 MGM (USA) | (P)2005 MGM (USA) |
画質★★★★☆ 音質★★★★☆ | 画質★★★★☆ 音質★★★★☆ |
DVD仕様(北米盤) カラー作品/スタンダード・サイズ/ステレオ・サラウンド/音声:英語・スペイン語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/84分/製作:アメリカ・イスラエル 映像特典 オリジナル劇場予告編 |
DVD仕様(北米盤) カラー作品/スタンダード・サイズ/ステレオ・サラウンド/音声:英語・スペイン語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/84分/製作:アメリカ・イスラエル 映像特典 オリジナル劇場予告編 |
監督:デヴィッド・アーヴィング 製作:メナハム・ゴーラン ヨーラム・グローバス 脚本:デヴィッド・アーヴィング 撮影:デヴィッド・ガーフィンケル 音楽:マックス・ロバート 出演:エイミー・アーヴィング クライヴ・レヴィル ビリー・バーティ プリシラ・ポインター |
監督:デヴィッド・アーヴィング 製作:メナハム・ゴーラン ヨーラム・グローバス 脚本:アンナ・マシアス レン・タラン デヴィッド・アーヴィング 撮影:デヴィッド・ガーフィンケル 音楽:デヴィッド・クリヴォシェイ 出演:シド・シーザー クライヴ・レイヴィル ロバート・モース リセット・アンソニー |
グリム童話「がたがたの竹馬こぞう」として知られる民話を映画化した作品。父親の嘘から、ワラを紡いで金に変えなくてはいけなくなった娘が、小人の魔法に助けられる。しかも、めでたく王子様と結婚することになるのだが、そのお礼として最初に生まれた子供を小人に差し出さなくてはいけなくなるという話。全体的にとても地味な印象の作品で、当時アメリカで大コケしたのも無理はないという感じ。「キャリー」でエイミー・アーヴィングの母親役を演じたプリシラ・ポインターが、彼女の秘密を疑う王妃役で出演しているのが興味深い。 | こちらはアンデルセンの名作「はだかの王様」の映画化。詐欺師コンビが仕立て屋を装って王宮に入り込み、贅沢好きの王様のために正直で心の美しい人にしか見えないという生地で服を作る・・・という話。そこに、王様の娘と若い詐欺師のロマンスを織り込んだりして、ドラマを膨らませようとしてはいるものの、全体的にどうもピンと来ない。王様役のシド・シーザーは伝説的なアメリカのコメディアンだが、どうも王様というイメージではないように思う。裸になるとやけに筋肉質のマッチョなので、贅沢三昧の王様には見えないのだ。 |