ミッキー・ルーニー Mickey Rooney
〜映画界の生きる世界遺産〜

 

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 2007年春に公開されて話題となった映画「ナイト・ミュージアム」('07)で、久々に日本のスクリーンに登場したミッキー・ルーニー。といっても、映画を見に行った観客の殆んどは、ミッキー・ルーニーって誰?くらいの感じだったに違いない。御年87歳。アメリカでは現在もコンスタントに映画出演を続ける現役バリバリの俳優だが、日本のスクリーンに登場するのは約9年ぶり。しかも、ここ40年ほどは脇役一筋の人だけに、今の日本の一般的な映画ファンには馴染みがなくても仕方ないだろう。
 かくいうボクも、最初にミッキー・ルーニーの存在を知ったのは、高校生の頃にテレビで見た「ティファニーで朝食を」('61)。オードリーが暮らすアパートメントの大家さんで、ユニオシなる奇妙な名前のけったいな日本人役を演じていた。なんともチビっこくて変なオジサンだな〜、小人俳優かな?くらいに思っていたのだが、彼がかつてアメリカの国民的アイドル・スターだった事を後に知ってビックリした。あ、あのオジサンが!?と。

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ジュディ・ガーランドとファンに挨拶

「青春一座」で共演のジュディ・ガーランドと

最初の妻エヴァ・ガードナーと

 そう、ミッキー・ルーニーは1930年代から40年代にかけて、アメリカで最も人気の高いスーパー・スターだった。その証拠に、1939年から41年までの3年連続でマネー・メイキング・スター第1位に選ばれている。つまり、ハリウッドで最もお金を稼げるスター、ハリウッドで最も観客を呼べるスターだったわけだ。クラーク・ゲイブルよりも、ゲイリー・クーパーよりも、ハンフリー・ボガードよりも、そしてジェームズ・キャグニーよりも、誰よりも人気の高いスターが、当時まだ20歳そこそこの若者ミッキー・ルーニーだったのである。
 “ハリウッドで最も才能のある俳優はミッキー・ルーニーだ”と語ったのはケイリー・グラントだったが、あの英国の名優ローレンス・オリヴィエも、“アメリカの生み出した最も優れた俳優はミッキー・ルーニーである”と述べている。1939年には18歳でアカデミー特別賞まで受賞。翌年には「青春一座」(’39)でアカデミー主演男優賞にノミネートされており、十代の少年がノミネートされるなんて前代未聞だと話題になった。その人気はちゃんと実力に裏打ちされたものだったと言って良いだろう。
 その他、ミッキー・ルーニー伝説は数多い。無名の新人ノーマ・ジーン・ベイカーにマリリン・モンローという芸名を与えたのも彼だし、サミー・デイヴィス・ジュニアを発掘したのも彼。ミッキー・マウスの名前も彼に由来するらしいと言われていたが、これはガセネタだった。これまでに8度の結婚を繰り返しており、しかも最初の奥さんはあのエヴァ・ガードナー。18歳の時には、当時38歳の大女優ノーマ・シアラーと逢い引きしていたが、これはスキャンダルを怖れた社長のルイス・B・メイヤーによって揉み消された。

 しかし、もっと凄いのは芸歴81年という驚異的なキャリアの長さである。デビューは1926年。当時はまだサイレント映画の時代だった。サイレント期から映画に出演している現役の俳優というのは、世界中を探してもミッキー・ルーニーただ一人。しかも、ただキャリアが長いだけじゃない。これまでに様々な偉業を成し遂げてきた、正真正銘のスターである。その存在そのものが、ほとんど奇蹟と言ってしまっても過言ではあるまい。

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幼い頃のミッキー

子役デビューしたばかりの頃

 もともと父親はアイルランド系のボードヴィル芸人で、彼自身も物心ついた頃から舞台に立っていた。6歳の時に映画デビュー。翌年主演した短編コメディ“Mickey's Circus”で演じた悪戯少年ミッキー・マグワイア役が評判となり、9年間で64本も作られる大ヒット・シリーズになった。
 さらに、“You're Only Young Once”('37)で演じた純粋な少年アンディ・ハーディ役がまたまた評判となり、これまた9年間で15本も作られる人気シリーズに。ちなみに、日本では4作目の「初恋合戦」('38)と14作目の「青春学園」('43)の2本しか劇場公開されていない。
 その他、ジュディ・ガーランドとの名コンビで主演したミュージカル「青春一座」('39)や「ブロードウェイ」('41)、スペンサー・トレイシー扮する牧師によって立ち直る不良少年を演じた「少年の町」('38)や「感激の町」('41)、子役時代のエリザベス・テイラーと共演した「緑園の天使」('45)など、次々とヒット作を世に放っていった。
 しかし、「サンマー・ホリデイ」('48)辺りを最後に、その人気には翳りが出て行く。背丈は160cmと女優よりも低く、なおかつ童顔のファニー・フェイス。とても大人向けの映画で主役を張れるようなルックスではなかった。しかも、ハリウッドでは“ミッキー・ルーニーは扱いづらい”という噂が広まってしまい、次第に低予算のB級映画ばかり回ってくるようになる。
 確かに、ミッキー・ルーニーは血の気が多い人物と言われている。スクリーンの上での演技も情熱的でパワフルだし、最近のインタビュー映像を見ても80代半ばを過ぎた老人とは思えないくらいに感情表現が激しい。とにかく、“熱い”人であるのは間違いないと思う。しかし、ミッキー自身の語るところによると、この噂にはある人物の悪意があったという。
 その人物というのが、映画“Killer McCoy”('47)で監督を務めたロイ・ローランド。演技に集中しようと粘る彼を“傲慢だ”と非難するローランド監督に、ついついミッキーもキレて怒鳴り散らしてしまった。後日、ミッキーが謝罪することで一件落着はしたものの、それ以来周囲から扱いづらい俳優と言われるようになってしまったという。本当にローランド監督が彼の悪評を広めて回ったのかどうか、今となっては定かではないものの、ミッキー自身はそう信じているらしい。

 そんな数々の伝説を持つハリウッド・スター、ミッキー・ルーニーだが、ボク自身は実は最近まで殆んど彼の主演作を見た事がなかった。まあ、日本ではあまりテレビなどで見る機会がないというのもあるのだが、どうもチビでミジェットみたいなお爺ちゃんという印象が強くて、若い頃の出演作とはいえ興味を引かれることがなかった。とはいえ、ハリウッドの歴史を語る上では絶対に欠かせないスターの一人。映画史の勉強のためにも、先入観を捨てて見なくちゃいかん、と思っていた矢先に、一連のジュディ・ガーランドとの共演作がアメリカでDVD-BOXとして発売されることを知り、早速注文してみることにしたのだった。
 収録作品は「青春一座」('39)に「ストライク・アップ・ザ・バンド」('40)、「ブロードウェイ」('41)、そして「ガール・クレイジー」('41)の4本。いずれも、ストーリーは他愛ないもので、ショービジネスの世界に生まれた少年・少女が舞台の成功を目指して奮闘するというもの。
 「ガール・クレイジー」だけはちょっとタイプが違って、ミッキー扮する金持ちのボンボンと、ジュディ扮する田舎町の鉄火肌娘の恋模様を描く。まあ、どちらにしても健全で単純明快なミュージカル映画ばかりだ。老若男女が楽しめる当たり障りのない作品ゆえに、さすがに今見ると古臭さは否めない。が、当時のアメリカが理想とする健全な青春像が描かれているとい点では非常に興味深い映画ばかりだ。
 そう、とにかく健全なのである。ストーリーも、キャラクターも、何もかも。そして、それを象徴するのが主演のミッキー・ルーニーとジュディ・ガーランドと言えるだろう。つまり、ミッキーは当時のアメリカ庶民の誰もが自分の息子に、自分の恋人に、そして自分の娘の恋人にしたいと思えるような、理想的な少年像を体現していたのだと思う。
 明るくて元気溌剌。何事にも情熱的で、将来の夢に対しても常に前向き。女の子にも興味はあるが、それよりも自分の好きな音楽や演劇に夢中。真面目で誠実で、誰に対しても親切な優しい少年。しかも、プレイボーイ・タイプの2枚目ではなく、愛嬌のある三枚目タイプなので、同性からも異性からも好感を持たれる。それが、ミッキー・ルーニーの魅力だ。
 そういえば、アメリカの歴代ティーン・アイドルには、いわゆる美少年というのは殆んどいない。だいたい、顔の作りはちょっとブサイクだが、愛嬌があって可愛らしいというのが定番。アメリカ人の美的感覚ってちょっとズレてるよな〜、などと常々思っていたのだが、ミッキーの作品を見て何となくその理由が分ったような気がした。誰もが好感を持てる少年アイドルの最大公約数を突き詰めると、顔の美しさではなく個性の親しみやすさに行き着くのだ。そう考えると、アメリカのティーン・アイドルの原点はミッキー・ルーニーにあると言ってもまんざら間違いではないだろう。

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「少年の町」のミッキー

ドラムはプライベートでも夢中になった

MGM社長ルイス・B・メイヤーのお気に入りだった

 しかし、そんな親しみやすさだけが売りのスターではなかったのが、ミッキーの偉大な点でもある。とにかく、演技のテンションが異常に高い。まさに若さと感情の爆発。喜び、悲しみ、怒りといったあらゆる感情を全身を使って、最高潮にまで高めて表現するのだ。そのパワーといったら並大抵のものではない。しかも、運動神経抜群。「青春一座」では仲間との舞台が決まって大喜びのミッキーが、勢い余って公園の柵を次々と飛び越えて走っていくというビックリするようなシーンまであった。
 その若いエネルギーはミュージカル・シーンでも思う存分発揮される。卓越した身体能力を最大限まで使ったパワフルでテンションの高い歌とダンスは、文字通り圧巻そのもの。まるで弾丸のようなスピードとパワーで踊りまくる。
 恐らく、情熱の塊のような人なのだろう。プライベートでも熱中していたというドラムを叩くシーンなんかは、現代のパンク・キッズと全く変わらない若さを感じさせる。ある意味では、その後のプレスリーやビートルズの原点と言ってもおかしくはないように思う。それぐらい、とにかく凄いのだ。マネー・メイキング・スター第1位というのも、思わず納得してしまうしかないだろう。
 こうして全盛期のミッキー・ルーニーの姿を見ていると、この人が21世紀の現在も現役で映画に出演し続けているという事実が、まさに奇蹟以外の何ものでもないということを強く実感させてくれる。選ばれた人間というのは、こういう人のことを言うのだろう。

 

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Mickey Rooney & Judy Garland Collection

(P)2007 Warner Home Video (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤5枚組ボックス)
モノクロ(一部特典はカラー)/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:英語/字幕:英語・フランス語・スペイン語/地域コード:1/製作:アメリカ

映像特典
ミッキー・ルーニーによるイントロダクション(全作品)
映画史研究家J・フリックスの音声解説
関連ラジオ番組(音声のみ)9本
オリジナル劇場予告編(全作品)
短編映画4本
クラシック・アニメーション4本
ミッキー・ルーニー インタビュー
ジュディ・ガーランド ミュージカル映像集(22本)
ミッキー&ジュディ出演作予告編集(10本) などなど

封入付録
特製ブックレット
特製フォト・カード(20枚)
収録作品
「青春一座」
「ストライク・アップ・・ザ・バンド」
「ブロードウェイ」
「ガール・クレイジー」

 

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