<メキシカン・ホラー PART 2>
クラシック篇 第1章

 

El Vampiro (1957)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

VAMPIRE_COLLECTION.JPG
(P)2006 Panik House/Casa Negra (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
モノクロ/スタンダード・サイズ/モノラル/音声:スペイン語・英語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/95分/製作:メキシコ
※続編とカップリング収録

特典映像
オリジナル劇場予告編
フォト・エッセイ
A・サラザール死亡記事
キャスト・バイオグラフィー
スチル&ポスター・ギャラリー
研究者R・コッターによる音声解説
監督:フェルナンド・メンデス
製作:アベル・サラザール
脚本:ラモン・オボン
撮影:ロサリオ・ソラーノ
音楽:グスタヴォ・セザール・カリヨン
出演:アベル・サラザール
   アリアドナ・ウェルテル
   ゲルマン・ロブレス
   カルメン・モンテーホ
   ホセ・ルイス・ヒメネス
   メルセデス・ソレール
   アリシア・モントーヤ
   ホセ・チャヴェス

EL_VAMPIRO-1.JPG EL_VAMPIRO-2.JPG EL_VAMPIRO-3.JPG

故郷へ戻ってきた女性マルタ(A・ウェルテル)

その頃、実家では叔母の葬儀が行われていた

エンリケ(A・サラザール)と共に実家へ到着したマルタ

 その地理的な距離の近さもあって、古くよりハリウッド映画の影響をもろに受けてきたメキシコ映画界。メキシカン・ホラーのルーツは1930年代に遡ることが出来るわけだが、それも当時のユニバーサル・ホラー・ブームに触発されてのことだった。ただ、やはりメキシコ映画界の主流はあくまでもメロドラマや西部劇、もしくはルチャ・リブレ。なので、かつてはメキシカン・ホラーの存在そのものが非常にマイナーであった。
 しかし、1950年代半ばからチャノ・ウルエタやフェルナンド・メンデスといった鬼才が優れたホラー映画を次々と発表してヒットを飛ばし、さながらメキシカン・ホラーのニュー・ウェーブとも言うべき現象が起きる。その中でも特に評価の高い名作が、この“El Vampiro(吸血鬼)”というヴァンパイア映画だ。
 タイトルからも想像できるように、内容としてはズバリ“メキシコ版ドラキュラ”といったところだろうか。主人公は若く美しい娘マルタ。十数年ぶりに生まれ故郷へと戻った彼女を待っていたのは、恐るべき吸血鬼ラヴド伯爵の陰謀だった・・・というわけだ。
 監督は『獣人ゴリラ男』(56)のフェルナンド・メンデス。メロドラマからルチャ・リブレまで幅広いジャンルを手掛ける職人監督だったが、中でもホラー映画の分野で卓越したビジュアリストぶりを発揮した名匠だ。本作では古典的なハリウッド・ホラーのスタイルを踏襲しつつ、同時期のハマー・ホラーや後のイタリアン・ホラーを彷彿とさせるスタイリッシュなゴシック・ムードとケレン味あふれるショック演出に見事な手腕を発揮している。
 流麗なカメラワーク、重厚かつ荘厳なセットはもとより、光と影のコントラストや計算されたスモークの使い方など、なかなか優れたホラー・センスの持ち主だったと言えるだろう。しかも、そのヨーロピアンな怪奇幻想世界の中に、しっかりとメキシコ特有の文化や風土を溶け込ませているのが巧い。
 さらに、この翌年に公開される『吸血鬼ドラキュラ』(58)のクリストファー・リーを彷彿とさせる、ダンディでありながら野獣的でセクシャルな吸血鬼ラヴド伯爵の存在も特筆すべきであろう。ベラ・ルゴシに代表される当時のハリウッド的なヴァンパイア像と一線を画したそのキャラクターは、まさしく時代を先駆けたダーク・ヒーローだったのではないだろうか。
 説明不足によって分りづらくなってしまった部分も多少見受けられるし、ストーリーのテンポもちょっとノンビリしすぎている嫌いはあるものの、ゴシック・ムード溢れる華麗な映像美だけでも十分に一見の価値ある作品。ヴァンパイア映画の歴史を語る上でも外すことのできない名作と言えるだろう。

EL_VAMPIRO-4.JPG EL_VAMPIRO-5.JPG EL_VAMPIRO-6.JPG

実家はすっかり荒れ果ててしまっていた

若さを取り戻した叔母エロイーザ(C・モンテーホ)

もう一人の叔母マリア・テレーザの死に衝撃を受けるマルタ

 人気のない寂れた鉄道駅に降り立った若い女性マルタ(アリアドナ・ウェルテル)。彼女は故郷のシコモロスというアシエンダ(農園)へ十数年ぶりに戻るつもりだった。しかし、迎えに来ているはずの叔父ドン・エミリオ(ホセ・ルイス・ヒメネス)の姿が見当たらない。どうやらすれ違ってしまったようだ。
 ふと見ると、エンリケ(アベル・サラザール)という人の良さそうな男性も駅で足止めを食らっていた。そこへ、一台の怪しげな馬車がやって来る。列車で運ばれてきた巨大な荷物を受け取りにきたのだ。駅員によると、荷物の中身はハンガリーで採取された土なのだという。受取人はデュヴァル氏という人物。10年ほど前からこの地に住み始めたデュヴァル氏だが、地元では薄気味悪がられているようだ。
 この辺りでは日が暮れると誰も外へ出なくなるという。このままでは、駅で一夜を明かさねばならない。そこで、調子のいいエンリケは馬車の御者と直談判。とりあえず、シコモロスまで二人を送り届けてもらうことにした。
 その頃、シコモロスではマルタの叔母マリア・テレーザ(アリシア・モントーヤ)の葬儀が行われていた。納骨堂へ棺を納めた人々は、うなだれながら静かに墓地を去っていく。しかし、その場に残ったメイドのマリア(メルセデス・ソレール)は、マリア・テレーザの懐に隠されていたメモを読んで愕然とする。彼女はすぐに下男アンセルモ(ホセ・チャヴェス)に何かを指示した。
 馬車の荷台に乗って寂しい夜の田舎道を進むマルタとエンリケ。ところが、二人は分かれ道で無理やり馬車から下ろされてしまった。とりあえず、あと30分は歩くしかない。仕方なく荷物を持って歩き始めた二人だったが、その後を音もなく尾行する黒衣の女性の存在には気付かなかった。
 マルタは大好きな叔父ドン・エミリオと二人の叔母に会うことを楽しみにしていた。中でも、自分のことを我が子のように愛してくれた叔母マリア・テレーザとの再会は長年の願いだった。
 ようやくシコモロスへと到着したマルタとエンリケ。だが、その荒廃した様子を見てマルタは少なからずショックを受ける。ドン・エミリオもつい2ヶ月前にヨーロッパから戻ったばかりで、その間に何があったのか分らないようだ。さらに、マルタは叔母エロイーザ(カルメン・モンテーホ)が別人のように若返っていることにも驚く。自分の知っているエロイーザ叔母さんとは何かが違う・・・そう直感した彼女だが、自分たちを尾行していた黒衣の女が叔母だったとは知らない。
 そして、大好きな叔母マリア・テレーザの死を聞かされてさらに大きなショックを受けるマルタ。叔母エロイーザによると、マリア・テレーザは5年以上に渡って精神病を患っていたという。家の中にヴァンパイアが潜んでいて、自分の血を狙っていると信じていたのだそうだ。その結果、心臓発作で亡くなったのだ。
 ドン・エミリオの勧めでシコモロスに泊まることとなったエンリケ。だが、実は彼はドン・エミリオが秘かに呼び寄せた精神科医だった。マリア・テレーザの症状を診てもらうはずだったのだ。ドン・エミリオは妹のエロイーザを信用していなかった。
 一方、そのエロイーザはシコモロスを売却する計画を立てていた。所有権は彼女とドン・エミリオ、マリア・テレーザの3人にあるのだが、マリア・テレーザの死によってマルタがその権利を相続する。エロイーザはマルタに売却の同意を迫るが、想い出の詰まった場所なだけにマルタは躊躇する。
 シコモロスの所有権に興味を持っているのは、他でもないデュヴァル氏(ゲルマン・ロブレス)だ。実は、デュヴァル氏の正体はハンガリー出身の吸血鬼ラヴド伯爵で、100年ほど前にこの地で殺された兄の復活を目論んでいた。彼はエロイーザを毒牙にかけて自分の愛人とし、シコモロスを手に入れて近隣一体をヴァンパイアの土地にしようとしていたのである。さらに彼は、若く美しいマルタをもヴァンパイアにしてしまおうと考えていた。
 その晩、寝室で眠りについたマルタ。すると、秘密の扉が静かに開く。暗闇から出てきたのは、なんと死んだはずの叔母マリア・テレーザだった。彼女はマルタの枕元に十字架を置いて立ち去っていく。その直後、マルタの寝室にラヴド伯爵が現れる。枕もとの十字架を見て苦悶の表情を浮かべる伯爵。だが、マルタが寝返りをうったせいで十字架が床に落ちてしまい、あえなく伯爵の毒牙にかかってしまった。
 その翌日、マルタは開かずの間で死んだはずの叔母マリア・テレーザを目撃。さらに、エロイーザの姿が鏡に映らないと気付いてしまい、デュヴァル氏の素性にも疑念を抱く。ヴァンパイアの存在を頭ごなしに否定するエンリケはいまひとつ頼りにならない。
 そうこうしているうちに、ラヴド伯爵とエロイーザは、マルタが自分たちの正体に気付いてしまったと直感する。マルタに迫る絶体絶命の危機。再び伯爵に襲われたら一巻の終わりだ。なぜなら、2度目に血を吸われた人間はヴァンパイアになってしまうのだ・・・。

EL_VAMPIRO-7.JPG EL_VAMPIRO-8.JPG EL_VAMPIRO-9.JPG

暗闇の中から姿を現すデュヴァル氏

その正体は吸血鬼ラヴド伯爵(G・ロブレス)だ

叔母エロイーザもヴァンパイアだった

 本作の企画を立案したのは、主演と製作を兼ねている俳優アベル・サラザール。1940年代から俳優兼プロデューサーとして活躍していた彼は、当時自らのプロダクションABSAを設立したばかりだった。そして、折からのホラー人気に着目した彼は、ABSAの製作第一弾としてホラー映画を選んだというわけだ。
 脚本を担当したのは、本作をきっかけに数多くのメキシカン・ホラーを手掛けるようになったラモン・オボン。また、グレン・フォード主演の『恐怖の48時間』(66)やジャック・スターレット監督の『シンジケート・キラー』(73)などハリウッド映画も手掛けた名カメラマン、ロサリオ・ソラーノが撮影監督として参加。メキシコの巨匠アレハンドロ・ガリンドの常連スタッフで、メキシコ版オスカーことアリエル賞の特別賞も獲得した大御所グンター・ゲルゾが美術デザインを担当している。
 なお、本作はメキシコのみならずアメリカでも英語吹替え版が上映されてヒット。同年にスタートした“アズテック・マミー”シリーズと並んで、メキシカン・ホラーの存在を国際的に知らしめた最初の作品となった。また、ヴァンパイアに牙がついたのも本作が映画史上初だったと言われている。

EL_VAMPIRO-10.JPG EL_VAMPIRO-11.JPG EL_VAMPIRO-12.JPG

死んだはずの叔母マリア・テレーザ(A・モントーヤ)が・・・

ラヴド伯爵はマルタを毒牙にかけようと狙う

叔母エロイーザの正体に気付いたマルタだが・・・

 ヒロインのマルタ役を演じているアリアドナ・ウェルテルは、タイロン・パワーの奥さんだったハリウッド女優リンダ・クリスチャンの妹。巨匠ルイス・ブニュエル監督の『アルチバルド・デラクルスの犯罪的人生』(55)にも重要な役で出ており、庶民的で可憐な美貌が魅力の女優さんだ。
 一方、一応はヒーロー的な立場であるエンリケ役のアベル・サラザールだが、ここではどちらかというと3枚目的なコミック・リリーフに徹しているという印象。飄々とした演技と身のこなしの軽さで、若いウェルテルをさり気なく陰から支えている。
 だが、やはり本作で最も強いインパクトを残すのは、吸血鬼ラヴド伯爵役を演じるゲルマン・ロブレスであろう。ロブレスはスペイン出身の俳優で、当時はほとんど無名に近かったという。実は、プロデューサーのサラザールは当初、メキシコで悪役俳優として有名なカルロス・ロペス・モクテズマを伯爵役に起用するはずだった・・・というよりも、既にキャスティングをされていたらしい。
 だが、彼は撮影開始直前になって無名俳優の起用を思いつく。というのも、ユニバーサルの『魔人ドラキュラ』はベラ・ルゴシが無名だったからこそ成功したのだということに気付いたのだ。そこで、旧知の仲でもあったモクテズマには詫びを入れ、改めてオーディションを行ってキャスティングを変更。
 かくして、ハンサムでセクシーでデンジャラスな、それまでになかった全く新しいヴァンパイア像が生まれることになったのである。これが、いかにも悪人面をした中年ベテラン俳優モクテズマが演じていたならば、なんの新鮮味もない従来通りのベラ・ルゴシ的ヴァンパイアに終始していたはずだ。
 さらに、ヴァンパイアとなった叔母エロイーザ役を演じる大物女優カルメン・モンテーホの妖艶な美貌と演技も出色。やはり、ホラー映画は悪役に魅力がないと面白くない。また、もう一人の叔母マリア・テレーザ役を演じるアリシア・モントーヤの強烈な個性も印象的だった。

 

 

El ataúd del Vampiro (1958)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

VAMPIRE_COLLECTION.JPG
(P)2006 Panik House/Casa Negra (USA)
画質★★★★☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤2枚組)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:スペイン語・英語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/80分
/製作:メキシコ
※前作とのカップリング

特典映像
オリジナル・ラジオ・スポット
キャスト・バイオグラフィー
スチル&ポスター・ギャラリー

監督:フェルナンド・メンデス
製作:アベル・サラザール
脚本:ラウール・ゼンテノ
   ラモン・オボン
撮影:ヴィクトル・エレーラ
音楽:グスタヴォ・セザール・カリヨン
出演:アベル・サラザール
   アリアドナ・ウェルテル
   ゲルマン・ロブレス
   イェリエ・ベイルーテ
   アリシア・モントーヤ
   カルロス・アンシラ

ELATAUDDELVAMPIRO-1.JPG ELATAUDDELVAMPIRO-2.JPG ELATAUDDELVAMPIRO-3.JPG

墓地からラヴド伯爵の棺が盗まれる

エンリケ(A・サラザール)の同僚メンドーサが犯人だった

チンピラのバラーザ(Y・ベイルーテ)が伯爵を甦らせる

 第1作目の予想を上回る大ヒットを受けて、矢継ぎ早に製作された続編。タイトルは“ヴァンパイアの棺”という意味だ。前作ではメキシコの片田舎にあるアシエンダをヴァンパイアの巣窟にしようとしたラヴド伯爵。今回は一転して舞台を都会へと移し、文明社会を恐怖に陥れる伯爵の凶行を描いていく。
 前作から数ヶ月が経ち、都会へ戻ったエンリケとマルタは事件のショックからようやく立ち直りつつあった。ところが、ヴァンパイア騒動の顛末をエンリケから聞いた同僚の医師がラヴド伯爵の遺体を盗み、こともあろうか誤って伯爵を甦らせてしまう。
 怪しげな蝋人形館の地下室を根城に選んだラヴド伯爵。獲物に事欠かない都会で狩りを続けながら、伯爵は花形ダンサーとなったマルタをヴァンパイアにすべく付け狙う。いち早くその計画に気付いたエンリケだったが、周囲の人々はヴァンパイアの存在など信じてくれない。果たして、彼はラヴド伯爵の魔手からマルタを守ることが出来るのか・・・?
 設定が都市部へ移ったために前作のような正統派ゴシック・ムードは若干薄らいでしまった感があるものの、おどろおどろしい蝋人形館や人通りの少ない街角といったセッティングのおかげもあって、1作目とは一味違う猟奇的な雰囲気を醸し出すことに成功。中でも、夜の裏通りを一人歩く女性が伯爵に追いかけられるシーンは、大掛かりな照明によって極端にデフォルメされた人影の動きが効果を発揮し、まるでドイツ表現主義映画のような怪奇幻想ムードを高めている。
 その一方、ドクターとは思えないくらいにドジでそそっかしいエンリケの出番を増やしたことから、今回は必要以上にコミカルな要素が増えてしまった。そのおかげで全体的なテンポは良くなったのだが、同時にホラー・コメディ的な色合いが濃くなったのは賛否両論の分かれるところであろう。
 とはいえ、蝋人形館で繰り広げられる血みどろの惨劇や、後半の劇場で展開されるパニック・シーンなど見どころは盛りだくさん。前作ではかなり控えめだった残酷シーンやショック・シーンも今回は派手に見せてくれる。ホラー・エンターテイメントとしては十分に合格点の佳作だ。

ELATAUDDELVAMPIRO-4.JPG ELATAUDDELVAMPIRO-5.JPG ELATAUDDELVAMPIRO-6.JPG

再びマルタ(A・ウェルテル)を狙う伯爵(G・ロブレス)

蝋人形館を捜索するメンドーサだったが・・・

マリア・テレーザ(A・モントーヤ)も拷問具で殺される

 真夜中の墓地へ忍び込む2つの人影。彼らはラヴド伯爵(ゲルマン・ロブレス)の棺をこっそりと盗み出す。死体泥棒の正体は、エンリケ(アベル・サラザール)の同僚メンドーサ医師(カルロス・アンシラ)と、彼が雇ったチンピラのバラーザ(イェリエ・ベイルーテ)だった。
 ラヴド伯爵の棺を病院へと運びこんだメンドーサ医師は、すぐにエンリケを呼び出した。当然のことながら、事態を知ったエンリケは大慌て。そもそも、死体泥棒は犯罪だ。しかし、エンリケから数ヶ月前に起きたヴァンパイア騒動の話を聞いていたメンドーサは、是非とも科学的な見地からヴァンパイアを研究してみたいと考えていた。そもそもヴァンパイアなど存在しない、ラヴド伯爵は単なる精神異常者なのだと説得するエンリケだったが、もはや手遅れだ。
 すると、エンリケとメンドーサが席を外している間に、バラーザが研究室へと忍び込む。伯爵の遺体から宝飾品を盗むつもりだったのだ。ところが、事情を何も知らない彼は伯爵の胸に刺さった杭を邪魔だからと抜き取ってしまう。息を吹き返した伯爵は、バラーザに催眠術をかけて手下にするのだった。
 伯爵の遺体が忽然と姿を消して慌てるエンリケとメンドーサ。そこへ、マルタ(アリアドナ・ウェルテル)の叔母マリア・テレーザ(アリシア・モントーヤ)がやって来た。ラヴド伯爵の棺が盗まれたと知った彼女は、病院で看護婦の手伝いをしているマルタのことを心配したのだ。
 その時、病院内に悲鳴が響き渡る。入院していた少女がラヴド伯爵に襲われたのだ。急いで病室へと向うエンリケたち。その頃、控え室にいたマルタの前にラヴド伯爵が現れる。催眠術でマルタを抵抗できないようにする伯爵。そこへエンリケが駆けつけてマルタは助かったものの、既にラヴド伯爵は姿を消していた。催眠術にかかっていたマルタは記憶がない。エンリケは彼女の精神状態を心配し、ラヴド伯爵が甦ったことを秘密にした。
 もはや事態は自分の手に負えないと感じたエンリケは、院長に事情を説明しようとする。が、当然のことながらまるで相手にされない。その頃、ラヴド伯爵の行方を捜すメンドーサとマリア・テレーザは、下手人と思われるバラーザが身を寄せている蝋人形館へとやって来た。
 彼らの推測どおり、バラーザは蝋人形館の地下室にラヴド伯爵をかくまっていた。館内をくまなく探すメンドーサとマリア・テレーザ。しかし、メンドーサは伯爵に首を絞められて殺され、マリア・テレーザは展示物である拷問具の餌食となった。
 翌日、もともと花形ダンサーだったマルタは、舞台へ復帰するために病院を後にする。彼女の身に危険が迫っていることから、エンリケは片時も彼女から目を離さないようつとめた。もちろん、ラヴド伯爵も劇場の外で虎視眈々と機会を狙っている。
 すると、伯爵は劇場の向かいにあるカフェで一人コーヒーを飲んでいる若い女性に目をつけた。腹ごしらえにはちょうどいい獲物だ。そうとは知らない女性は、伯爵に色目を使いながら裏通りへと歩いていく。だが、その様子がおかしいことに女性もすぐ気付いた。恐ろしくなって小走りに逃げ出す女性。コウモリに姿を変えた伯爵は先回りし、女性の首筋に牙を向けるのだった。
 犠牲となった女性も劇団のダンサーだった。関係者に呼ばれて彼女を検死したエンリケは、それがラヴド伯爵の仕業だとすぐに気付く。伯爵が近くに潜んでいることは明らかだった。
 やがて舞台の幕が上がる。何事もなく順調にステージは進行しているように思えた。ところが、演目が終って舞台の天井へと吊り上げられたマルタを、物陰に潜んでいたバラーザが襲う。会場はたちまちパニックとなった。その最中にラヴド伯爵が姿を現し、マルタをさらって行く。後を追いかけるエンリケ、それを阻止しようとするバラーザ。果たして、エンリケはラヴド伯爵の毒牙からマルタを救うことが出来るのか・・・!?

ELATAUDDELVAMPIRO-7.JPG ELATAUDDELVAMPIRO-8.JPG ELATAUDDELVAMPIRO-9.JPG

街の裏通りで美女をつけ狙うラヴド伯爵

マルタを守るべく目を光らせるエンリケ

いよいよステージの幕が上がった

 監督は前作と同じフェルナンド・メンデス。1作目ではゴシック・スタイルの厳かな幻想美に重点を置いたメンデスだが、本作では恐怖あり笑いありアクションありの賑やかなエンターテインメント志向を明確にしている。そこはやはり職人監督ならではの柔軟性なのだろう。クライマックスではエンリケとラヴド伯爵のチャンバラに加え、コウモリに変身して攻撃してくる伯爵とその裏をかこうとするエンリケのスリリングな頭脳戦も披露。最後の最後まで観客を飽きさせない趣向が凝らされているのは立派だ。
 そして、前作のラモン・オボンに加えて、今回はテレビ・ドラマの脚本家でもあるラウル・ゼンテーノが脚本に参加。また、アベル・サラザールの実弟でルチャ・リブレ映画の脚本家としても知られるアルフレド・サラザールがノー・クレジットで協力したとも言われている。
 また、戦前から活躍するベテラン・カメラマンのヴィクトル・エレーラが撮影監督を担当。その他のスタッフは主に前作から引き続いての登板だ。中でも特筆すべきは、やはり美術デザインを担当したグンター・ゲルソの仕事であろう。目玉の潰れた生首などが転がる蝋人形館の不気味さはもちろんのこと、まるで中世ヨーロッパの地下修道院を思わせるような地下室セットのデザインはなかなか見応えがある。
 なお、本作は“Vampire's Coffin”のタイトルで全米公開もされて話題となった。

ELATAUDDELVAMPIRO-10.JPG ELATAUDDELVAMPIRO-11.JPG ELATAUDDELVAMPIRO-12.JPG

舞台の天井で伯爵に囚われたマルタ

行く手を阻むバラーザと死闘を繰り広げるエンリケ

マルタの首筋に噛みつこうとする伯爵だが・・・

 主要キャストは前作に引き続いての登場。圧倒的に出番の増えたアベル・サラザールは軽妙洒脱な演技を披露し、都会派スターとして鳴らした彼にとっては本領発揮といったところなのだろうが、その反面あまりにもドジでそそっかしいエンリケのおバカさ加減に少なからずイライラさせられるのも確か。ちょっとばかりやり過ぎだったのでは・・・とも思えるのだが、いかがなもんだろうか?
 その一方で、マルタ役のアリアドナ・ウェルテルは前作にも増して可憐な美しさを発揮。花形ダンサーというにはぎこちなさ過ぎるダンス・シーンが玉に瑕ではあるものの、その垢抜けなさを含めホラー・ヒロインとしては申し分のない女優と言えるだろう。
 もちろん、クールでダンディでセクシーで凶暴なラヴド伯爵役のゲルマン・ロブレスも健在。また、前作で一種異様な存在感を発揮していた叔母マリア・テレーザ役のアリシア・モントーヤが再登場するのも嬉しい。彼女が拷問具で殺されるシーンの悪夢的なイメージはなかなか鮮烈だ。

 

 

La maldición de la Llorona (1961)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

LAMALDICIONDELALLORONA-DVD.JPG
(P)2006 Panik House/Casa Negra (USA)
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆
DVD仕様(北米盤)
モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:スペイン語・英語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/80分
/製作スペイン

特典映像
監督バイオグラフィー
キャスト・バイオグラフィー
ポスター&スチル・ギャラリー
メキシコ映画専門家による音声解説
監督:ラファエル・バレドン
製作:アベル・サラザール
脚本:ラファエル・バレドン
   フェルナンド・ガリアナ
撮影:ホセ・アルティス・ラモス
音楽:グスタヴォ・セザール・カリヨン
出演:ロジータ・アレナス
   アベル・サラザール
   リタ・マセード
   カルロス・ロペス・モクテズマ
   エンリケ・ルセーロ
   マリオ・セヴィーラ
   フリッサ

LAMALDICIONDELALLORONA-1.JPG LAMALDICIONDELALLORONA-2.JPG LAMALDICIONDELALLORONA-3.JPG

夜道で人々を襲う不気味な魔女

その正体は未亡人セルマ(R・マセード)だった

セルマの姪アメリア(R・アレナス)が到着する

 “メキシカン・ホラーの最高傑作”と誉れ高い作品である。メキシコに古くから伝わる幽霊ラ・ヨローナ(泣き女)の伝説を題材に、呪われた家系に生まれた女性が直面する恐怖を描いた重厚なゴシック・ホラー。モノクロの美しさを最大限に生かしたそのダークでファンタジックな映像美は、それこそマリオ・バーヴァの『血ぬられた墓標』にも引けを取らないのではないだろうか。
 舞台となるのはメキシコの片田舎。この地方にはラ・ヨローナ(泣き女)と呼ばれる恐ろしい魔女の伝説が残されている。しかも、近頃は森で血生臭い殺人事件が相次いでおり、地元の人々は夜が更けると外へ一歩も出なくなってしまった。
 そんな忌まわしい土地へ、アメリアという若い女性が新婚の夫を伴なってやって来る。実家に住む叔母セルマから呼び出されたのだ。実は、そのセルマこそが連続殺人事件の犯人。アメリアの家系はラ・ヨローナの末裔で、その魔術を習得したセルマは人間の血を吸う魔女と化していたのである。
 もちろん、セルマがアメリアを呼び寄せたのには理由があった。今宵12時を過ぎると25歳の誕生日を迎えるアメリアもまた、同じように魔女へと変貌する運命にある。その一生に一度しかない瞬間こそ、実は偉大なる魔女ラ・ヨローナを復活させるチャンスなのだ。果たして、アメリアは本当に魔女となってしまうのか?そして、ラ・ヨローナの復活を阻止することは出来るのだろうか?
 タイトルの意味は“ラ・ヨローナ(泣き女)の呪い”。そのラ・ヨローナの伝説は、一説によるとアステカ文明時代の16世紀初頭にまで遡ると言われる。その正体については諸説あるものの、夫に捨てられた人妻の幽霊だとされるのが一般的だ。
 夫に捨てられたことで生活苦に陥った女性は、惨めな思いをさせるよりはマシと子供たちを次々と川へ沈めてしまう。すぐ正気に戻った彼女だったが、時すでに遅く子供たちは全員死んでしまった。そして、わが子を殺めた罪悪感とショックから狂死した彼女がラ・ヨローナと呼ばれる幽霊となり、己の罪を嘆き悲しみながら現世をさまよい続けているというのである。メキシコ社会における根深い女性蔑視や貧困の問題を浮き彫りにした伝説と言えるだろう。
 本作は、そのラ・ヨローナ伝説を中世ヨーロッパにおける魔女伝説と融合させ、メキシカン・ゴシックとも呼ぶべき一種独特の怪奇幻想的世界を作り上げている。さらに、屋敷の屋根裏部屋で家畜のように監禁された狂人、地下室で復活の時を待つ魔女のミイラなどのおどろおどろしい悪夢的イメージをふんだんに盛り込むことで、まさに身の毛もよだつような恐怖譚が完成したのである。
 監督のラファエル・バレドンは俳優の出身。メロドラマから西部劇まで様々なジャンルを手掛けた職人監督だが、その極めてシリアスな作風からメキシコでは高い評価を得た人物だった。本作の製作にあたってはバーヴァの『血ぬられた墓標』を参考にしたと言われているが、確かに似たようなシーンがあちこちで散見される。当時としてはかなり過激なショック演出の数々も、バーヴァ以降のイタリアン・ホラーを彷彿とさせて興味深い。
 唯一の難点は特殊メイクの稚拙さだが、その強烈なインパクトは技術的な問題を補って余りあると言えよう。全てのホラー映画ファンにおススメするのはもちろんのこと、中でもイタリアン・ホラーのファンには是非とも見ていただきたい傑作である。

LAMALDICIONDELALLORONA-4.JPG LAMALDICIONDELALLORONA-5.JPG LAMALDICIONDELALLORONA-6.JPG

鏡に映った魔女の姿を見て驚くアメリア

薄気味の悪い下男フアン(C・L・モクテズマ)

セルマは魔女マダム・マリアのミイラを復活させようとする

 一台の馬車が夜の田舎道を走っている。すると、その行く手に3匹の犬を連れた恐ろしい形相の女が立ち塞がる。驚いて足をすくませる馬たち。物陰から現れた醜い男が御者や旅客を次々と嬲り殺す。その場から逃げ出した男性もいたが、解き放たれた犬たちによって八つ裂きにされてしまった。
 この近辺では同じように血生臭い殺人事件が多発していた。警察署長(マリオ・セヴィーラ)は近隣に住む未亡人セルマ(リタ・マセード)に聞き込み調査をするものの、彼女は答えをはぐらかすばかりで仕事にならない。
 そもそも、セルマの豪邸は幽霊屋敷として地元では忌み嫌われていた。かつては有能な科学者の夫を支える良き妻だったセルマだが、その夫も数年前に他界。その直後に、彼女は使用人を全員解雇した。そして、どこからともなく現れた正体不明の醜い男フアン(カルロス・ロペス・モクテズマ)を唯一の下男として雇い、それ以来屋敷も彼女もすっかり変わってしまったのである。
 その頃、セルマの屋敷を目指して一台の馬車が走っていた。乗っているのはセルマの姪アメリア(ロジータ・アレナス)と夫のハイメ(アベル・サラザール)。アメリアが故郷へ戻るのは15年ぶりだった。これまでにも何度か帰りたいと思っていたが、そのたびに叔母から反対された。
 ところが、今回はその叔母が戻ってきて欲しいと懇願してきたのである。一体なぜなのかと疑問に思うアメリアだが、夫のハイメは明日に控えた25歳の誕生日を祝ってくれるのだろうと冗談交じりに笑ってみせるのだった。
 屋敷に到着した二人は、醜い下男フアンの顔を見てショックを隠しきれない。しかも、なぜか叔母は留守だった。怪訝に感じながらも客間でくつろぐアメリアとハイメ。しかし、どういうわけだか家中の鏡がシートで覆われていた。
 なにげなくそのシートを外したアメリアは、鏡に映った恐ろしい形相の女を見て悲鳴をあげる。さらに、屋敷のどこかからか女のすすり泣くような声が聞こえてきた。やはりここへ戻って来たのは間違いだったのか。二人は叔母への挨拶を済ませたらすぐに引き返そうと決める。
 一方、屋敷の地下室に不気味な妖怪が降り立った。人間に姿を変えたその妖怪は、他でもない叔母セルマだ。先だって旅行者たちを惨殺した女の正体も彼女だった。セルマは見るもおぞましいミイラを“暗闇の貴婦人”と呼び、今宵こそ自分に全能の力を授けて欲しいと願う。
 やがて屋敷内にオルガンの音色が響き渡った。叔母が戻ったことを知ったアメリアとハイメは、すぐに広間の脇にあるセルマの部屋へと向う。15年ぶりに再会する叔母はまるで若返ったかのようだった。姪と二人きりで話がしたいというセルマの要望もあり、ハイメは一人で客間へと戻る。
 そして、セルマはアメリアを呼び出した理由を語り始める。かつて、この村にはマダム・マリアという女性が住んでいた。彼女の正体は黒魔術を使う魔女で、村人たちからはラ・ヨローナと呼ばれて恐れられていた。
 人間を殺しては生血をすすっていたことから魔女裁判にかけられて処刑されたマダム・マリアだったが、実は彼女こそセルマやアメリアの祖先だったのだ。そのことを知ったセルマは文献を調べて黒魔術を学び、自らも強いパワーを持つ魔女へと生まれ変わった。そして、もとから愛情などない夫ダニエル(エンリケ・ルセーロ)は屋根裏へ監禁し、世間には死んだことにしてしまったのである。
 しかし、そんなセルマもマダム・マリアほどの魔力を得るには至っていない。真に強大なパワーを得るためには、マダム・マリアを甦らせて魔力を伝授してもらう必要がある。そして、その儀式を行うにはアメリアの存在が必要不可欠なのだ。
 アメリアは今宵12時を過ぎると25歳の誕生日を迎える。ラ・ヨローナの血を引く彼女もまた、本人の意思とは関係なく魔女の本能に目覚めるはずだ。まさにその瞬間、時を告げる鐘が鳴り響く間に、アメリアはマダム・マリアのミイラから杭を引き抜かねばならない。さすれば、マダム・マリアが再びこの世へ復活するのだ。
 当然のことながら、叔母の話をにわかに受け入れることなど出来ないアメリア。夫と一緒に屋敷を出ようと考えた彼女だったが、ハイメは事故で気を失ってしまった。屋根裏に監禁されている叔父ダニエルに襲われて転落したのだ。
 夫を病院へ運ばねば。アメリアは急いで外へ飛び出し、通りすがりの荷馬車を呼び止める。だが、御者は気味悪がって逃げようとした。怒りを抑えきれない彼女は、気がつくと狂ったように御者の首を締めている。我に返った彼女は叔母の言葉を思い出し、魔物へ変貌しつつある我が身を自覚して絶望するのだった。
 やがて真夜中の12時が近づく。意識を取り戻したハイメはセルマに捕らわれてしまった。もはや選択肢は残されていない。覚悟を決めたアメリアは、マダム・マリア復活の儀式へと臨むのだったが・・・。

LAMALDICIONDELALLORONA-7.JPG LAMALDICIONDELALLORONA-8.JPG LAMALDICIONDELALLORONA-9.JPG

セルマもまた魔女ゆえ鏡に姿が映らない

夫ハイメ(A・サラザール)が怪我を負ってしまう

気がつくと御者を殺そうとしていたアメリア

 いきなり冒頭から『血ぬられた墓標』クリソツのシーンが出てくるのはホラー・ファンなら嬉しいところ。よくよく考えると、魔女がラ・ヨローナである必要はさらさらないのだが、それくらいメキシコではお馴染みの幽霊なのだろう。ヒロインが次第に魔女化していく過程の焦燥感や悲壮感も上手いことサスペンスに生かされているし、ある意味でアバンギャルドなビジュアル・デザインや特殊メイク・デザインなども楽しく飽きさせない。
 ラファエル・バレドン監督は『ジキル博士とハイド氏』を下敷きにした“El hombre y el Monstro(人間と怪物)”(58)という猟奇ホラーも撮っているが、あちらもまたドイツ表現主義を思わせるシュールなセットやカメラワークが印象的な佳作だった。日本でももっと注目されて然るべき才能ではないかと思う。
 バレドン監督と共に脚本を書いたフェルナンド・ガリアーナは、40年のキャリアで170本近くの映画を手がけたという多作な脚本家。また、巨匠ルイス・ブニュエルの名作『スサーナ』(50)などを手掛けた有名なカメラマン、ホセ・アルティス・ラモスが撮影監督を担当している。
 ブニュエルといえば、特殊メイクを担当したアルフレド・メイエルも、『忘れられた人々』(50)や『乱暴者』(52)、『エル』(52)などメキシコ時代のブニュエル作品のほぼ全てを手掛けたメーキャップマン。特殊効果を担当したフアン・ムニョス・ラヴェロもブニュエルの『皆殺しの天使』(62)に参加しているし、どうもスタッフはブニュエル絡みの人が多いようだ。

LAMALDICIONDELALLORONA-10.JPG LAMALDICIONDELALLORONA-11.JPG LAMALDICIONDELALLORONA-12.JPG

アメリアが魔女の本能に目覚める時は刻一刻と迫っていた

屋根裏に監禁されている狂人は死んだはずの叔父だった

いよいよマダム・マリア復活の儀式が始まる・・・

 そして、主人公のアメリア役を演じているロジータ・アレナスもまた、ブニュエルの『乱暴者』(52)で有名になった女優。ホラー映画マニアには、あの“アズテック・マミー”シリーズのヒロインとしてもお馴染みかもしれない。清楚で庶民的な美貌が印象的な女優さんだ。夫役のアベル・サラザールとは他でも何度か共演しており、本作の翌年に結婚している。
 そのサラザールだが、今回はロジータの引き立て役に徹しており、いつもの軽妙洒脱な演技もかなり控えめ。“El Vampiro”シリーズと同じく本作も彼の会社ABSAが製作をしているのだが、どうやら彼自身この頃から裏方へのシフトを考えていたようだ。
 一方、アメリアの叔母セルマ役を演じているリタ・マセードだが、彼女もまたブニュエル作品に何度か出演したことのある女優。中でも、殺人を犯した娼婦アンダラ役を演じた『ナサリン』(58)は、彼女の代表作と言われている。恐らく、基本的にメロドラマの人なのだろう。本作でもホラー映画の魔女役としては過剰なくらいに情感溢れるドラマチックな演技を披露しており、それがかえってセルマという役柄にエキセントリックな魅力を与えている。
 また、セルマの下男フアン役には、メキシコ映画黄金期を代表する悪役スターとして知られるカルロス・ロペス・モクテズマ。“El Vampiro”のラヴド伯爵役を当初演じるはずだった俳優だ。本作での出番は少なめといった感じだが、その醜悪な特殊メイクで強いインパクトを残している。
 ちなみに、オープニングの駅馬車襲撃シーンで車輪の下敷きになって殺される美少女役を演じているフリッサという女の子は、当時メキシコで売り出し中だったアイドル歌手で、セルマ役を演じている女優リタ・マセードの実の娘でもある。とりあえず映画のワン・シーンとはいえ、母親が自分の娘を殺して高らかに笑い声をあげるのだから、よくよく考えてみれば大胆なキャスティングだ。

 

番外編

 

Las Lloronas (2004)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売

LAS_LLORONAS-DVD.JPG
(P)2005 Venevision International (USA)
画質★★★★★ 音質★★★★☆
DVD仕様(北米盤)
カラー/スタンダードサイズ/ステレオ/音声:スペイン語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/98分/製作:メキシコ

特典映像
オリジナル劇場予告編
メイキング・ドキュメンタリー
スタッフ&キャスト・フィルモグラフィー
監督:ロレーナ・ヴィヤレアル
製作:ロレーナ・ヴィヤレアル
   ヒメーナ・ロドリゲス
脚本:ロレーナ・ヴィヤレアル
   エンリケ・レンテリア
撮影:アレハンドロ・カントゥ
音楽:レオンチオ・ララ=ボン
主題歌:アナ・バルバラ
出演:ティナ・ロメロ
   ミゲル・ロダルテ
   ローザ・マリア・ビアンキ
   エリザベト・アヴィーラ
   フランシスコ・ガットルノ
   マグダ・ヴィスカイノ
   ホセ・セファーミ
   エリザベト・ヴァルデス
   ロドリゴ・メヒア

LAS_LLORONAS-1.JPG LAS_LLORONAS-2.JPG LAS_LLORONAS-3.JPG

再会を喜ぶエステル(T・ロメロ)と娘ルチア(E・アヴィーラ)

タロット占いに興じる3世代の女性たち

不吉な未来を予見する祖母アブエラ(M・ヴィスカイノ)

 これまでにメキシコでは幾度となくホラー映画の題材となってきたラ・ヨローナ伝説。特に、21世紀に入ってからはちょっとしたラ・ヨローナ映画ブームみたいな現象が起き、04年から07年にかけて6本もの関連作が発表されている。中には、森へハイキングに出かけた若者たちがラ・ヨローナの霊に次々と殺されていくというスラッシャー映画もどきの“The Wailer”(06)や、ラ・ヨローナが現代のニューヨークに現れるという“The Cry”(07)なんて作品も。まあ、どちらも出来は散々なものだったのだが・・・(笑)。そして、そんなにわかブームの先陣を切ったのが、この“Las Lloronas”というそのものズバリなタイトルの作品である。
 本作の主人公は親子3世代に渡る女系家族の女性たち。実は、彼女たちの一族にはラ・ヨローナの呪いがかけられており、男の赤ん坊は生まれてすぐに溺死してしまう。つまり、女の子孫しか残せない家系なのだ。
 しかし、若い世代のルチアはそんな呪いの伝説など信じていなかった。彼女は都会へ出て結婚し、男の子を出産する。その長男をお披露目するために家族揃って実家へ戻ったルチア。だが、やがて運命の糸は複雑にもつれ始め、一族の女性たちは恐るべきラ・ヨローナの呪いと直面しなくてはならなくなる・・・。
 ラ・ヨローナの伝説をモチーフにしつつ、そこから保守的な父権社会やカトリックの教義に虐げられてきたメキシコ女性の哀しみを浮き彫りにしていく・・・というのが、本作の見どころと言えるだろう。ゆえに、全体的にオカルトタッチのメロドラマといった印象が濃厚。純粋にホラー映画を期待すると肩透かしを食らうかもしれないが、フェミニズム映画としてはそれなりに見応えのある作品だ。
 ただ、これが処女作となったロレーナ・ヴィヤレアル監督の演出はあまりにも没個性。エキゾチックなメキシコの風景や宗教色の強い壮麗なインテリアなどをムードたっぷりに捉えた映像は確かにゴージャスで美しいのだが、その反面まるで観光映画を見せられているかのようでもある。
 また、随所に挿入される幻想的なイメージ・カットも80年代のミュージック・ビデオみたいでチープ。スタイリッシュでお洒落な映像を目指したであろうことはよく分るのだが、どうも上っ面だけに終始してしまっているようにしか思えないのは残念だった。とりあえず、意欲だけは買いたいところ。ラ・ヨローナ映画の変化球的作品として、記憶に留めておきたい一本ではある。

LAS_LLORONAS-4.JPG LAS_LLORONAS-5.JPG LAS_LLORONAS-6.JPG

ルチアと夫フェデリコ(F・ガットルノ)の間に溝が・・・

高校時代の恋人ルイス(R・メヒア)と急接近するルチア

ディアナ(E・ヴァルデス)が産気づく

 それはある晩のこと、妊娠中のエステル(ティナ・ロメロ)は母アブエラ(マグダ・ヴィスカイノ)からこう告げられる。生まれてくる男の子はほどなくして死んでしまうであろうと。だが、エステルのお腹にいるのは女の子だ。すると、母はこういう。今お腹の中にいる子ではなく、将来生まれてくる子のことだと。エステルの一族にはラ・ヨローナの呪いがかけられており、生まれてくる男子はすぐに死んでしまうのだ。しかし、エステルは母の言葉を信じようとはしなかった。
 それから20年後。成長した娘ルチア(エリザベト・アヴィーラ)が夫フェデリコ(フランシスコ・ガットルノ)と生まれたばかりの息子フェを連れて実家へ戻ってくる。久々の再会を喜ぶルチアと母エステル、そして祖母アブエラ。エステルの妹で叔母のフランシスカ(ローザ・マリア・ビアンキ)やその夫アルフォンソ(ホセ・セファーミ)、従姉妹のディアナ(エリザベト・ヴァルデス)、アルフォンソの連れ子で同じく従兄弟に当たるエルナン(ミゲル・ロダルテ)もルチアの家族を歓迎する。
 実は、ルチアには生後間もなくプールで溺死した弟ミゲルがいた。エステルは横暴な夫との間に諍いが絶えず、言い争いの最中に目を離したことから、ミゲルはベビーカーもろともプールへ転落してしまったのだ。それが原因で夫は去ってしまった。死んだ息子ミゲルのことを未だに忘れられないエステルは、その遺灰を寝室に隠して持っていたのである。
 ある晩、3世代の女性たちが集まってタロット占いに興じていた。ところが、エステルとフランシスカ、アブエラの3人はそれぞれ不吉な未来を垣間見てしまい、占いを途中でやめてしまう。この家族は女しか生き残ることが出来ない。アブエラは曾孫フェの将来を案じるが、エステルは信じたくなかった。
 ルチアの夫フェデリコは叔父アルフォンソの土地開発事業を助けることとなった。そのために仕事中心の生活となり、夫婦仲は次第に醒めていく。そればかりか、仕事のストレスからフェデリコは暴力的になっていった。ルチアは教会の牧師ハシント(ガストン・メロ)を頼ろうとするが、神父は邪まな民間伝承を信じているような家族に問題があると突き放す。
 そうしたこともあり、ルチアは街中で偶然再会した高校時代の恋人ルイス(ロドリゴ・メヒア)と急接近する。ルイスは大学を卒業して天文学者となり、近々起きる予定の日食を観測するために帰郷していた。楽しかった青春の想い出も重なって、ルチアはルイスへの愛情を改めて確信する。だが、そんな二人の様子をアルフォンソの秘書が目撃していた。
 そして、水源の汚染をフェデリコから指摘されたアルフォンソは、開発事業に遅れが出ては困るからと、彼の気を逸らすためにルチアの浮気を密告する。怒りのあまり酒を浴びるように飲んだフェデリコは、帰宅したルチアに殴る蹴るの暴行を加える。ところが、ルチアが逃げようとした弾みにフェデリコが転倒し、運悪く死んでしまった。そこへ、最近のルチアの様子を心配した母エステルがやって来る。二人は慌ててフェデリコの死体を山へ捨てに行った。
 一方、フランシスカの娘ディアナは妊娠していた。気付いていたのは祖母アブエラだけだったが、もはや隠し切れないくらいにお腹が大きくなっていた。そして、ある晩ついに破水してしまう。難産の末に生まれたのは男の子だった。
 赤ん坊を取り上げたフランシスカは悟る。この子の父親が夫アルフォンソであることを。彼は義理の娘を無理やりレイプしていたのだ。怒りに燃えるフランシスカだったが、それでも彼女は落ち着いてアルフォンソに告げる。あなたは重大な過ちを犯してしまったと。
 これであなたも私たちの家族と本当の意味で血縁になってしまった。それが何を意味するのか分っているのか?私たちの家族は女の子孫しか残すことが出来ない。つまり、あなたの連れ子のエルナンも、そして新しく生まれてきた男の子も、すぐ死んでしまうことになるのだと。
 だが、アルフォンソは気の狂ったフランシスカが赤ん坊を殺そうとしているものと考える。彼は息子エルナンに相談。赤ん坊の父親は誰なのかと息子に訊かれたアルフォンソは、ついついルイスだとウソをついてしまう。
 それまでルチアに横恋慕しながらも、彼女とルイスの関係を黙って見守っていたエルナンは激怒。すぐさまルイスの自宅へ押しかけて彼に拳銃を向ける。もちろん、ルイスは断固として否定。その言葉にウソがないと確信したエルナンは、父アルフォンソがディアナをレイプしたと悟る。ショックのあまり父親へ銃口を向けるエルナン。二人はもみ合いになり、拳銃が暴発する。命を落としたのはエルナンだった。
 その頃、アブエラに諭されて息子ミゲルの遺灰を解き放ったエステル。彼女は孫のフェを守るため、ラ・ヨローナの呪いを解くための唯一の方法を試すことにする。それは日食の最中に男の赤ん坊を川へ連れて行き、流れる水の中に一定時間沈めるというもの。一歩間違えれば命のリスクもあるが、他に選択肢はなかった。
 しかし、思いもよらない偶発的な出来事が次々と重なり、ヒロインたちは悲劇の渦中へと巻き込まれていく・・・。

LAS_LLORONAS-7.JPG LAS_LLORONAS-8.JPG LAS_LLORONAS-9.JPG

子供の父親はアルフォンソ(J・セファーミだった)

ルチアに暴行を加えるフェデリコ

母エステルはフェデリコの死体を始末する

 どことなく、南米版ソープドラマと言うべきテレノベラとも共通するものがある作品。いずれにせよ、ホラー映画と呼ぶにはやはり難があるだろう。監督のロレーナ・ヴィヤレアルはもともと女優だったらしく、映画『苺とチョコレート』にも出演していたようだが、詳しい経歴については全く分らない。そもそも、監督及びスタッフとしてクレジットされている作品は後にも先にもこれ一本きり。DVD特典のメイキング・ドキュメンタリーを見る限りでは、かなり若い女性のようだ。
 そのヴィヤレアル監督と共同で脚本を書いたエンリケ・レンテリアは、主にテレビ・ドラマを手掛けている脚本家。また、撮影監督のアレハンドロ・カントゥはドキュメンタリー映画出身のカメラマンだ。それ以外にも普段はアシスタント・クラスの仕事をしている人々が裏方を固めており、どうやら自主制作的なノリで作られた作品だったと思われる。

LAS_LLORONAS-10.JPG LAS_LLORONAS-11.JPG LAS_LLORONAS-12.JPG

ルイスに詰め寄るエルナン(M・ロダルテ)だったが・・・

亡き息子の遺灰を外へ撒くエステル

エステルはラ・ヨローナの呪いを解こうとする

 一方で、キャストはそれなりに名の通った役者が揃っている。一族の命運を握る母親エステル役を演じるティナ・ロメロは、70年代から活躍する個性的な中堅スター。ホラー映画ファンには、メキシコの鬼才フアン・ロペス・モクテズマのカルト映画『鮮血の女修道院/愛と情念の呪われた祭壇』(75)の悪魔っ娘アルカルダ役でお馴染みであろう。
 その娘ルチア役のエリザベト・アヴィーラは90年代に活躍したテレビ女優。ルチアの夫フェデリコ役のフランシスコ・ゴットルノは名作『苺とチョコレート』(94)のミゲル役で有名になり、最近ではテレビのトップ・スターとして活躍している人気俳優。
 また、エステルの妹フランシスカ役を演じているローザ・マリア・ビアンキは『アモーレス・ペロス』(99)にも出ていた脇役女優で、問題作『ナイン・シガレッツ』(03)でメキシコ版アカデミー賞であるアリエル賞の最優秀主演女優賞を獲得した実力派。その夫アルフォンソ役のホセ・セファーミもメキシコでは有名な脇役俳優だし、その息子エルナン役のミゲル・ロダルテはMTVアワードの“最もセクシーなシーン”賞を受賞したこともある人気スターだ。
 なお、一家の祖母アブエラ役のマグダ・ヴィスカイノは端役一筋の女優だったようだが、なかなか味わい深い存在感と演技を披露しており、本作の出演者の中でも一番印象に残る。

 

戻る