Metropolitan Records
フリースタイル業界の崖っぷちレーベル
フリースタイルが斜陽になった90年代、ミック・マック・レコードと共に奮闘していたインディペンデント・レーベルが、このメトロポリタン・レコードである。所属していたアーティストで一番有名なのは、やはりリル・スージーだろう。その他にも、エイプリルやレイセズ・フェア、コラージュなどのアーティストが全米ポップ・チャートやダンス・チャートにヒット曲を送り込んでいた。
ただ、このレーベルの最大の問題は、その極端過ぎるくらいの低予算だった。そもそも、本社の所在地がニュージャージーというのも微妙なのだが(苦笑)、いくらインディペンデントでもちょっとこれは・・・と首を傾げてしまうくらいに安上がりな作品が非常に多かった。バックトラックがスカスカの打ち込みドラムに片手で演奏したキーボードだけ、なんて代物も決して珍しくはなかったくらいだ。所属するアーティストも、先述した人々は例外として、殆んどがろくに音程も取れないような連中ばかり。よくこれで10年も商売を続けることが出来たもんだと、違った意味で感心してしまうようなレコード会社だった。
それでも、レーベルの初期を支えた女性ボーカリスト、エイプリルや女性トリオ、レイセズ・フェアは優れた名曲を残しているし、リル・スージーやコラージュのヒット曲を世に送り出した功績も忘れてはならないだろう。ただ、メトロポリタンの作品だから・・・ということでレコードを手に取るようなタイプの会社では決してなかったのも事実だ。
メトロポリタン・レコードのはっきりとした設立時期は不明だが、作品カタログの中で最も古いものから察するに1988年頃と思われる。まさにフリースタイル全盛期の真っ只中に立ち上げられた会社だったわけだ。
レーベルとして最初のヒットは、90年にリリースされたエイプリルのシングル“Someone
To Hold”。これがビルボードのダンス・チャートで最高50位をマークした。さらに、エイプリルは次の“You're The One For
Me”でもビルボードのエアプレイ・チャートで55位を記録。ニュージャージーのインディペンデント・レーベルとしてはまずまずの成績だった。
そして、女性3人組グループ、レイセズ・フェアはさらに大きな成功を手にした。91年にリリースされたシングル“In
Paradise”が、なんと全米ポップ・チャートで最高64位をマークしてしまったのだ。しかも、トップ100内に17週もチャート・インを果たすというロング・セラーを記録。ダンス・チャートでも18位をマークした。エクスポゼやスウィート・センセーションの成功の余波を受けたのかもしれないが、楽曲そのものの出来が良かったことも確かだろう。
さらに、94年にはフィーバーから独立したリル・スージーのディストリビュート権を獲得し、全米62位を記録したシングル“Promise
Me”を皮切りに、次々とポップ・ヒットを放っていくことになる。また、93年にデビューしたコラージュも、翌年の“I'll Be Loving
You”が全米56位のヒットに。これは、メトロポリタンからリリースされたシングルで最大のヒットとなった。
その他、イントネーション・フューチャリング・ジョイーのシングル“Died
In Your Arms”が全米86位(95年)、フィラデルフィア出身の女性アーティスト、デニーヌのシングル“All Cried
Out”が全米72位(96年)のヒットとなっている。しかし、90年代末には全米規模のヒットも打ち止めとなってしまい、その後は2000年頃までフリースタイル・コミュニティー向けの作品を細々とリリースし続けていた。
また、メトロポリタンの大きな特徴は、タズマニア・レコードやヴァイパー7・レコード、カナダのティ・アモ・レコードなどの超マイナー・レーベルのディストリビュートを数多く手掛けていたことだろう。ただ、これらのレーベルはさらに弱小で、まるで素人が自宅でレコーディングしたかのような作品が多かった。
ちなみに、一時期のメトロポリタンの12インチ・シングルには、B面の最後にラジオ番組風のサンプル集が収録されていた。これは、ナビゲーターのDJが新曲の触りを流しながらタイトルやアーティスト名を紹介していくというもの。いわば、音のカタログである。広告費などを節約するのが目的だったのだろうが、ユニークな試みではあった。
いずれにせよ、90年代のフリースタイル業界において、実質的にはミック・マックの陰に隠れてしまっていたレコード会社であったことは確かだろう。一部のフリースタイル・マニアの間ではそれなりに支持されたレコード会社だったものの、“質よりも量”的な姿勢が結果的に己の首を絞めてしまったように思う。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
Right On Time
(1989) |
You're The One For Me
(1990) |
Magical
(1990) |
Hands Off (1992) |
(P)1989 Metropolitan (USA) | (P)1990 Metropolitan (USA) | (P)1990 Metropolitan (USA) | (P)1992 Metropolitan (USA) |
Dis Side |
Side A 1,Classic Freestyle 6:35 2,Radio Edit 3:56 3,Metro Message Side B 1,Ambient House Mix 6:29 * 2,Rude Boy Dub 6:51* 3,Aprilapella 1:51 produced by Joey Gold * remixed by Mark Mendoza |
1,Someone To Hold
4:22 2,Foreverlasting 3:59 3,Magical 3:38 4,Bring Back The Lover In Me 4:17 5,You're The One For Me 3:58 ビデオ 6,Losing My Heart Over You 3:37 7,No One Could Have Loved Me Better 5:04 8,Right On Time 3:36 9,Someone To Hold (Urban Mix) 6:35 10,You're The One For Me (Urban Mix) 6:29 11,Special Love 6:37 produced by Joey Gold |
1,To Be In Your Arms 2,Tuesdays Gone 3,You Hold The Key 4,After The Lovin' 5,In Paradise 6,Swept Away 7,Round & Round 8,With Every Heartbeat 9,Swept Away (Club Mix) 10,To Be In Your Arms (Club Mix) ビデオ 11,In Paradise (Club Mux) produced by Joey Gold, Mark Mendoza, Greg Hatten, Arnold Rodriguez. |
恐らく、これがエイプリルのファースト・シングルかと思われます。カバー・ガールズの“Because Of You”路線の超キャッチーなフリースタイル・ナンバー。エイプリルのボーカルも、そのルックスに似合わず(笑)ピュアなベビー・ボイス。とても上手い人です。B面のハウス・ミックスはとてもチープ。良く言えばシカゴ・ハウスなんですけど、当時としてもかなり安っぽい仕上がり。ジャングル・ミックスはまずまずです。 | これはなかなかの名曲。思わず両手を大きくウェーブさせたくなってしまう、壮大でドラマチックな哀愁系フリースタイルです。メロディの美しさは数あるフリースタイル・ナンバーの中でも屈指の出来映えです。ポップス・ファンにも幅広くオススメしたい1曲。ただし、B面のハウス・ミックスはイマイチ。リミックスはロージー・ゲインズのリミックスを幾つか手掛けていたマーク・メンドーザですが、中途半端な仕上がり。 | エイプリルにとって唯一のフル・アルバムがこれです。とりあえず、悪趣味過ぎるジャケットには目をつぶっておいて(笑)、内容的には全フリースタイル・ファンに自信を持ってオススメ出来る1枚。ポップスとしても完成度の高い作品です。シングル・カットされた#1や#5 、#6、#8はもちろんの事、ノセラの“Su mmertime, Summertime”を彷彿とさせるファンキーでキャッチーな#11もむちゃくちゃカッコいいです。 |
こちらも相当悪趣味なジャケットですが、中身は抜群に出来の良い作品。レイセズ・フェア唯一のアルバムです。#1と#2、#5、#6、#7がシングル・カットされています。半ばベスト盤的な内容ですね。全米ポップ・ヒットとなった#5はもとより、“あなたの腕にたどり着くためなら、どんな山も、どんな川も越えていく”って歌詞が印象的な#1のスケール感はクセになります。それにしても、スタイリストのセンスは悪すぎですね。 |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
Always Thinking Of You
(1995) |
I Never Needed (1996) |
Fascination
(1991) |
Without You (1991) |
(P)1996 Metropolitan (USA) | (P)1996 Interhit Records (USA) | (P)1991 Metropolitan (USA) | (P)1991 Metropolitan (USA) |
1,Always Thinking Of You 2,Stay With Me 3,Leave Me Tomorrow Love Me Tonight 4,I Need You 5,How Much I Want You 6,I Never Needed ビデオ 7,I Can't Survive 8,Night Stalker 9,Close Your Eyes (New Radio Edit) 10,All Broken Hearted ビデオ 11,Night Stalker (Extended Club) produced by Chris Phillips |
Side A 1,Original X-Tended 5:04 2,Eurosized Remix 5:11 ビデオ 3,Hester(s N-Tense Dub 5:53 Side B 1,House of Cox Mix 5:33 * 2,Hysteria Severe Dub 10:11 ** produced & mixed by Chris Phillips * remixed by Chris Cox ** remixed by Eric Kupper |
Passaic Side 1,Radio 4:15 2,Radio Edit 3:23 ビデオ 3,Karizapella 4:15 London Side 1,Passaic To London 4:15 2,On The House Tip 4:23 produced by Andy Pimen. |
Side A 1,Extended Club Mix 6:13 2,Instrumental 5:10 Side B 1,Power House Edit 4:27 ビデオ 2,Hot Radio Edit 4:30 3,Acapella 2:50 produced by Tom Salta |
カナダ出身の兄妹クリス・フィリップスとアレクシア・フィリップスのコラボ・アルバム。リリース当時でもかなり古臭いオールド・スクール系フリースタイルが中心ですが、#3や#6、#8ではリアル・マッコイ風のキャッチーなユーロ・ハウスを聴かせています。ちなみに、この二人はもともとアダム・マラノと一緒にマラノ/フィリップスというプロジェクトを組んでいました。まあ、悪くはないけど良くもない、そんな感じの1枚です。 |
左のアルバムからのシングル・カットですが、ダンス・コンピ・アルバム“DMA Dance Vol.1”にも収録されたこともあって、インターヒット・レーベルからリリースされることになった作品。当時流行っていたリアル・マッコイ路線のミーハー・ユーロ・ハウスです。注目はB面の#1。ハード・ハウスの大御所クリス・コックスのリミックスです。とはいえ、出来としては及第点。やっぱりオリジナルが一番聴きやすいですね。 |
リセット・メレンデスの“Together
For ever”路線のファンキーなフリースタイル・ナンバー。カリズマという女性アーティストは、これ1枚しかシングルを残していないので、恐らく全然売れなかったのでしょう。メトロポリタンのシングルとしては、決して出来の悪い作品ではないんですけどね。プロデューサーのアンディ・パイメンは、80年代半ばにベッティーナというフリースタイル系女性ボーカリストを手掛けています。 |
こちらのリンダ・ヴァレンティもセールス的に伸びなかったらしく、これ一枚で消え去ってしまった人です。パワフルでスピード感のあるキャッチーなフリースタイルで、リンダの歌声も伸びがあって好印象なんですけどね。プロデューサーのトム・サルタはハウス畑の人で、ジュニア・ヴァスケスの作品でプログラミングなどもやっていました。だからかもしれませんけど、B面のハウス・ミックスの方が凝ってますね。 |
![]() |
![]() |
Show Me How You Love Me
(1998) |
Mamboleo
(1999) |
(P) Metropolitan/Ti Amo (USA) | (P)2000 Ti Amo Records (USA) |
1,Original Radio 4:07 ビデオ 2,Radio Edit 3:39 3,Hi NRG Radio 4:10 4,Freestyle Club 5:04 5,Hi NRG Club 4:44 produced by Michael Rucska remixed by Foti |
Mamboleo 1,English Radio Mix 3:46 2,Latin/English Radio Mix 3:46 3,Latin Radio Mix 3:46 4,Radio Free. Remix 3:46 5,Extended English Mix 4:43 Back To Me 6,Dance Radio Mix 3:29 7,Free. Radio Mix 3:34 produced by Gary Canale |
カナダのフリースタイル系女性シンガー、エリッサのデビュー・シングル。キャッチーで妖しげな感じのフリースタイル・ナンバーで、楽曲的には決して悪い作品です。が、いかんせんサウンド・プロダクションがチープ。オールド・スクール・タイプのフリースタイル・ミックスも古臭いし、ハイ・エナジー・ミックスに至ってはZ級のユーロ・ハウスという感じ。カナダ産のフリースタイルって、とにかく当たり外れが激しいんですよね。 | エリッサの出世作で、カナダではヒット・チャートのトップ10にも入った大ヒット曲です。もともとは、ドイツの人気DJ、DJサミーのラテン・ハウス・プロジェクト、ルーナが放ったヒット・ナンバー。陽気でアッパーなラテン・ハウスで、非常にキャッチーな作品です。とはいえ、#4ではしっかりフリースタイル・ミックスも披露してますね。悪くはないです。カップリング曲“Back To Me”は全く印象に残らない凡作。 |